(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6872977
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】樹脂発泡成形用成形型および該成形型を使用する車両用シートパッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/16 20060101AFI20210510BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20210510BHJP
B29C 39/24 20060101ALI20210510BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20210510BHJP
B68G 15/00 20060101ALI20210510BHJP
A47C 27/14 20060101ALI20210510BHJP
B29K 75/00 20060101ALN20210510BHJP
B29K 105/04 20060101ALN20210510BHJP
B29L 31/58 20060101ALN20210510BHJP
【FI】
B29C33/16
B29C39/10
B29C39/24
B29C44/00 A
B68G15/00
A47C27/14 A
B29K75:00
B29K105:04
B29L31:58
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-108316(P2017-108316)
(22)【出願日】2017年5月31日
(65)【公開番号】特開2018-202672(P2018-202672A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】亀田 和政
(72)【発明者】
【氏名】三浦 暁央
(72)【発明者】
【氏名】市川 琢也
【審査官】
▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−252930(JP,A)
【文献】
特開2002−103348(JP,A)
【文献】
特開平11−254464(JP,A)
【文献】
特開2014−239870(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3128142(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00 − 33/76
B29C 39/00 − 39/44
A47C 27/00 − 27/22
B29C 44/00
B68G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサート部材が一体に成形された樹脂発泡成形体の製造工程で使用される樹脂発泡成形用成形型であって、
成形型のキャビティの面にインサート部材が有する磁性部を吸着するための複数の永久磁石が付設され、
該複数の永久磁石は、そのS極の端面をキャビティ側に向けた第1磁石とそのN極の端面をキャビティ側に向けた第2磁石とからなり、
複数の永久磁石の総数が4個以上であり、隣接する第1磁石と第2磁石は互いの側面同士が接触して、交互に繰り返し配置されていることを特徴とする樹脂発泡成形用成形型。
【請求項2】
複数の永久磁石のそれぞれがネオジウム磁石である、請求項1記載の成形型。
【請求項3】
複数の永久磁石が成形型の上型のキャビティの面に付設されている、請求項1または2記載の成形型。
【請求項4】
インサート部材が、布帛、ウレタンスラブシート、ウレタンチップ、プラスチックフィルム、ウッドストック材料の成形体、及びウッドプラスチック材料の成形体からなる群から選択されるいずれか1種か、或いは、2種以上の複合体である、請求項1〜3のいずれか1項記載の成形型。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の成形型のキャビティに磁性部を有するインサート部材をセットし、複数の永久磁石の磁気効果により該インサート部材の磁性部が吸着されて該インサート部材が固定される工程、
前記成形型のキャビティにウレタン発泡樹脂を注入して発泡させ、前記インサート部材と一体に成形されたポリウレタン発泡成形体を得る工程、及び
前記インサート部材と一体に成形されたポリウレタン発泡成形体を前記成形型から脱型する工程、を含むことを特徴とする、車両用シートパッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインサート部材が一体に成形された樹脂発泡成形体の製造工程で使用される成形型に関し、特に、キャビティの面に付設される永久磁石による、キャビティ内にセットされる磁性部を有するインサート部材の固定力が向上し得た成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両用シート等のクッション材として用いられるポリウレタン発泡成形体には、金属バネとの接触による異音防止、ウレタン樹脂の浸出防止、あるいは発泡成形体の補強等を図るために、成形型内に織布や不織布等の布帛からなるインサート部材を配置後、液状ウレタン樹脂を注入して発泡成形して、インサート部材とポリウレタン発泡成形体とを一体に成形する(すなわち、インサート部材が一体に成形されたポリウレタン発泡成形体を得る)ことが行われている。このようなインサート部材が一体に成形された樹脂発泡成形体の製造では、成形型のキャビティ内にセットしたインサート部材が樹脂の発泡成形の過程で移動することなくキャビティ内に固定されている必要がある。このため、通常、成形型のキャビティの面に永久磁石を付設する一方、インサート部材には磁性部を設けておき、キャビティにインサート部材をセットしたときに、永久磁石の磁気効果によってインサート部材の磁性部を吸着して、インサート部材が固定されるようにする方法が採られている。インサート部材に磁性部を設ける方法としては、例えば、インサート部材の所望箇所に板状の磁性体片を両面粘着テープで貼付する方法がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−252930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、キャビティの面に付設する複数の永久磁石によるインサート部材の磁性部に作用する磁気効果(吸着力)が従来よりも大きく向上し得る樹脂発泡成形用成形型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、キャビティの面に付設する複数の永久磁石を、そのS極の端面をキャビティ側に向けた第1磁石とそのN極の端面をキャビティ側に向けた第2磁石とで構成し、特に、第1磁石と第2磁石とを交互に繰り返して配置すると、複数の永久磁石によるインサート部材の磁性部に作用する磁気効果(吸着力)が大きく向上することを見出した。本発明はかかる知見に基づくものであり、その特徴は以下の通りである。
【0006】
[1] インサート部材が一体に成形された樹脂発泡成形体の製造工程で使用される樹脂発泡成形用成形型であって、
成形型のキャビティの面にインサート部材が有する磁性部を吸着するための複数の永久磁石が付設され、
該複数の永久磁石は、そのS極の端面をキャビティ側に向けた第1磁石とそのN極の端面をキャビティ側に向けた第2磁石とからなることを特徴とする樹脂発泡成形用成形型。
[2] 第1磁石と第2磁石が交互に繰り返し配置されている、上記[1]記載の成形型。
[3] 隣接する第1磁石と第2磁石が離間している、上記[2]記載の成形型。
[4] 隣接する第1磁石と第2磁石は互いの側面同士が接触している、上記[2]記載の成形型。
[5] 複数の永久磁石の総数が4個以上である、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の成形型。
[6] 複数の永久磁石のそれぞれがネオジウム磁石である、上記[1]〜[5]のいずれか1つに記載の成形型。
[7] 複数の永久磁石が成形型の上型のキャビティの内面に付設されている、上記[1]〜[6]のいずれか1つに記載の成形型。
[8] インサート部材が、布帛、ウレタンスラブシート、ウレタンチップ、プラスチックフィルム、ウッドストック材料の成形体、及びウッドプラスチック材料の成形体からなる群から選択されるいずれか1種か、或いは、2種以上の複合体である、上記[1]〜[7]のいずれか1つに記載の成形型。
[9] 上記[1]〜[8]のいずれか1つに記載の成形型のキャビティに磁性部を有するインサート部材をセットし、複数の永久磁石の磁気効果により該インサート部材の磁性部が吸着されて該インサート部材が固定される工程、
前記成形型のキャビティにウレタン発泡樹脂を注入して発泡させ、前記インサート部材と一体に成形されたポリウレタン発泡成形体を得る工程、及び
前記インサート部材と一体に成形されたポリウレタン発泡成形体を前記成形型から脱型する工程、を含むことを特徴とする、車両用シートパッドの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂発泡成形用成形型によれば、キャビティの面に付設する複数の永久磁石によるインサート部材の磁性部に作用する磁気効果(吸着力)が従来よりも大きく向上する。このため、樹脂発泡成形過程でのインサート部材の移動を防止するために必要なインサート部材に設ける磁性部の数(例えば、インサート部材に貼付する磁性体片の数)を従来よりも減らすことができ、インサート部材が一体に成形された樹脂発泡成形体の製造コストを削減することができる。
【0008】
また、従来は、磁性部に加え、キャビティの面に立設したピンが係止される穴部を形成して、固定することが必要であったインサート部材に対して、ピンと穴部の係止構造を必ずしも必要とせず、インサート部材に形成した磁性部に作用する吸着力のみで、インサート部材を固定することが可能となる。このため、製造現場での作業者のインサート部材のキャビティ内への配置作業が容易になり、インサート部材が一体に成形された樹脂発泡成形体の製造効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の樹脂発泡成形用成形型の第1例の模式断面図である。
【
図2】本発明の樹脂発泡成形用成形型の第2例の上型の模式断面図である。
【
図3】本発明の樹脂発泡成形用成形型の第3例の上型の模式断面図であり、インサート部材の磁性部がキャビティの面に付設された永久磁石に吸着された状態を示している。
【
図4】従来の樹脂発泡成形用成形型の上型の模式断面図である。
【
図5】ウレタンチップに磁性部を形成したインサート部材の模式斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその好適な実施形態に即してより詳しく説明する。
図1は本発明の第1例の樹脂発泡成形用成形型(以下、単に「成形型」とも略称する)の断面を模式的に示した図であり、図において、1A−1は上型、1Bは下型、2は永久磁石、3はキャビティ、10は成形型を示す。なお、
図1は成形型における発泡樹脂の流路であるスプール、ランナー及びゲートのうち、キャビティ3の直前のゲートのみを示し、スプール、ランナー等は省略している。
【0011】
図2は本発明の第2例の成形型の上型の断面を模式的に示した図であり、図において、
図1と同一符号は同一また相当する部分を示す。該第2例の成形型11の下型は第1例のそれと同じであるので、図示を省略し、上型1A−2のみを示している。
【0012】
本発明の樹脂発泡成形用の成形型は、インサート部材と一体に成形された樹脂発泡成形体を製造する際に使用する成形型であり、第1例及び第2例の成形型10、11に示されるように、キャビティ3の面(すなわち、キャビティを区画している壁面)に付設される複数の永久磁石2が、そのS極の端面をキャビティ3側に向けた第1磁石2AとそのN極の端面をキャビティ3側に向けた第2磁石2Bとから構成されていることが特徴である。
【0013】
通常、複数の永久磁石2は、
図1、2に示されるように、第1磁石2Aと第2磁石2Bが交互に繰り返された配置とする。すなわち、異極並列(N極-S極)の繰り返しの構成とする。
【0014】
図4は従来の成形型の上型の断面を模式的に示した図であり、
図1と同一符号は同一また相当する部分を示す。かかる従来の成形型20の下型は本発明の第1例の成形型10(
図1)のそれと同じであるので、図示を省略し、上型21のみを示している。上型21には
図1の成形型10の上型1A−1と同数の永久磁石2がキャビティ3の面に付設されているが、全ての永久磁石2がS極の端面をキャビティ3側に向けて付設されている(すなわち、複数の永久磁石2は同極並列(S極−S極)で配置されている)。なお、複数の永久磁石2が同極並列で配置される場合、キャビティ3側に向ける磁石の端面がN極であってS極であっても、インサート部材の磁性部に作用する吸着力は同じである。
【0015】
後述の評価試験から明らかなように、
図1及び
図2に示される本発明の成形型10、11では、キャビティ3の面に付設される複数の永久磁石2(2A、2B)が異極並列(N極-S極)の繰り返しの構成であることから、
図4の成形型20のようなキャビティ3の面に付設される複数の永久磁石2が同極並列(S極−S極)で配置された成形型に比べて、複数の永久磁石2によるインサート部材の磁性部に作用する磁気効果(吸着力)が増大する。この磁気効果(吸着力)が増大する理由は明らかではないが、2つの永久磁石が異極並列すると、並列するN極からS極へ向う高密度の磁束分布が得られ、異極並列(N極-S極)の繰り返しによって高密度の磁束分布が連なった状態になり、この状態がインサート部材の磁性部に対する吸着力の向上に関与すると推察される。
【0016】
本発明の成形型において、キャビティ3の面に付設される複数の永久磁石2(2A、2B)の総数は、高い磁気効果(吸着力)を得るためには、通常、4個以上である。一方、永久磁石2(2A、2B)の総数の上限は特に限定されず、キャビティの大きさ、キャビティにセットされるインサート部材の大きさ、インサート部材の重量等を考慮して適宜決定され、特に限定はされないが、通常、20個程度である。
【0017】
永久磁石2(第1磁石2A及び第2磁石2B)の種類は特に限定されず、例えば、ネオジ
ウム磁石、サマリウムコバルト磁石、フェライト磁
石等が利用可能であるが、最も磁力が大きく高磁場を発生することができるネオジ
ウム磁石が好ましい。また、永久磁石2(2A、2B)の形状は特に限定されないが、通常は、角柱、円柱、楕円柱等の柱状物であり、柱状物の高さと断面の長さ(断面径)との関係も特に限定されず、高さが断面の長さ(断面径)より大きいものであっても、小さいものであっても良いが、付設のしやすさ等の観点から、高さが断面の長さ(断面径)より大きいものが好ましい。
【0018】
なお、
図1、
図2の成形型10、11では、永久磁石2(第1磁石2A)のS極の端面及び永久磁石2(第2磁石2B)のN極の端面がキャビティ3の面と同一平面内に位置するように、永久磁石2を上型1−Aに埋設しているが、第1磁石2AのS極の端面と第2磁石2BのN極の端面が同一平面内に位置するのであれば、第1磁石2AのS極の端面と第2磁石2BのN極の端面がキャビティ3の面よりも突出していてもよい。
【0019】
また、
図1の成形型10では、異極並列の隣接する第1磁石2Aと第2磁石2Bが離間しているが、
図2の成形型11に示されるように、異極並列の隣接する第1磁石2Aと第2磁石2Bは互いの側面同士が接触した状態であってもよい。なお、一個の永久磁石2の幅(異極並列の隣接する第1磁石2Aと第2磁石2Bのそれぞれの幅)は特に限定はされないが、例えば、永久磁石が柱状物である場合、その幅(断面の長さ(断面径))は、付設する磁石の安定性の観点から8〜20mm程度が好ましい。また、異極並列の隣接する第1磁石2Aと第2磁石2Bが離間している場合、その離間距離は20mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、5mm以下が特に好ましい。離間距離が20mmを超えると、異極並列(N極-S極)及び異極並列の繰り返しによる、インサート部材の磁性部に作用する磁気効果(吸着力)の増大効果が得られにくくなる。
【0020】
図3は本発明の第3例の成形型の上型の断面を模式的に示した図であり、磁性部が永久磁石に吸着されたインサート部材も図示している。図において、
図1と同一符号は同一また相当する部分を示し、5はインサート部材、5Aは不織布、5Bはウレタンチップ、6は磁性部(インサート部材に貼付された磁性体片)、12は成形型を示す。該第3例の成形型12の下型は第1例のそれと同じであるので、図示を省略し、上型1A−3のみを示している。
【0021】
該第3例の成形型12は、第1磁石2Aと第2磁石2Bが互いの側面同士が接触した状態で交互に繰り返し配置された磁石配列2−1を、キャビティの面の2箇所に付設している。すなわち、本発明の成形型において、第1磁石2Aと第2磁石2Bが互いの側面同士が接触した状態で交互に繰り返し配置された磁石配列2−1はキャビティの面の複数箇所に設けることができる。
【0022】
本発明の成形型において、通常、複数の永久磁石2は成形型の上型のキャビティの面に付設される。これは、通常、上型のキャビティ(キャビティにおける上型の空間)にインサート部材をセットし、下型のキャビティ(キャビティにおける下型の空間)に樹脂発泡成形体を得るための発泡樹脂を流入して、発泡成形を行うためである。なお、「上型」及び「下型」は、鉛直方向の上方側に位置させる型が「上型」、下方側に位置させる型が「下型」である。
【0023】
成形型(上型及び下型)の材質に特に制限はなく、一般的な樹脂発泡成形用の成形型と同様のアルミニウムや鋳物製の型でよい。
【0024】
本発明の成形型のキャビティに磁性部を有するインサート部材をセットすると、複数の永久磁石により、インサート部材の磁性部へ強力な吸着力が作用し、インサート部材が成形型内に強固に固定される。そして、このインサート部材が強固に固定された状態で、キャビティ内に、例えば、ウレタン発泡樹脂を注入して発泡させ、インサート部材と一体に成形されたポリウレタン発泡成形体を得、このインサート部材と一体に成形されたポリウレタン発泡成形体を成形型から脱型することで、車両用シートパッドが製造される。
【0025】
本発明の成形型にて、樹脂発泡成形体と一体成形されるインサート部材としては、例えば、車両用シートのクッション材であるポリウレタン発泡成形体と一体に成形されて、ポリウレタン発泡成形体の裏面に接合される、不織布、織布等の布帛(繊維系素材)が挙げられる。また、かかるポリウレタン発泡成形体の非意匠面に接合される、ポリウレタン、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のプラスチックからなる直方体、立方体等の多面体等の立体形状に成形された中実成形体;ウレタンチップ;ウッドストック材料やウッドプラスチック材料からなる直方体、立方体等の多面体等の立体形状に成形された中実成形体;多孔性または非多孔性のプラスチックフィルム(例えば、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリスチレンフィルム、ウレタンスラブシート等)等が挙げられる。また、以上例示したものから選択される2種以上の複合体が挙げられる。なお、上記「ウレタンチップ」とはポリウレタン発泡体(発泡ポリウレタン)の廃材を押し固めたものを指し、「ウレタンスラブシート」とは、ポリウレタン発泡体をフィルム(シート)にスライスしたものを指す。
【0026】
インサート部材への磁性部の形成は従来公知の方法で行えばよい。例えば、(a)磁性体片を両面粘着テープで貼付する方法、(b)熱可塑性樹脂及び磁性体を含む熱可塑性樹脂磁性物や硬化性バインダに磁性体粉末を分散させた磁性材料を含浸・固化(硬化)させる方法等が挙げられる。また、エアー式スプレーガン等の液状物を霧状にして噴射する手段を使用して、市販の磁性塗料をインサート部材の表面に霧状にして吹付けて自然乾燥させて、磁性塗料の付着固化物からなる磁性部を形成する方法が挙げられる。この方法であれば、特に非多孔性の部材や比較的空隙が少ない(密度が大きい)多孔性部材の表面に簡単に磁性部を形成することができる。
【0027】
本発明の成形型を使用すれば、キャビティの面に付設する複数の永久磁石によるインサート部材の磁性部に作用する磁気効果(吸着力)が従来よりも大きく向上する。このため、例えば、樹脂発泡成形過程でのインサート部材の移動を防止するために必要なインサート部材に設ける磁性部の数(例えば、インサート部材に貼付する磁性体片の数)を従来よりも減らすことができ、インサート部材が一体に成形された樹脂発泡成形体の製造コストを削減することができる。
【0028】
また、従来は、磁性部に加え、キャビティの面に立設したピンが係止される穴部を形成して、固定することが必要であった、ウレタンチップやウッドストックの成形体のような高重量の部材であっても、インサート部材に形成した磁性部に作用する吸着力のみで、インサート部材を型内に固定することができる。よって、製造現場の作業者が、インサート部材を型内に配置する際に、型の内面に立設されたピンをインサート部材に形成した穴部に挿入する作業が不要になり、作業者のインサート部材の型内への配置作業が容易かつ短時間で行える。
【0029】
また、ピンと穴部の係止構造を必ずしも必要とせず、インサート部材に形成した磁性部に作用する吸着力のみで、インサート部材を固定することが可能となる。このため、製造現場での作業者のインサート部材の成形型キャビティ内への配置作業が容易になり、インサート部材が一体に成形された樹脂発泡成形体の製造効率が向上する。
【0030】
本発明の成形型は、特に、車両用シートパッドの製造に好適に使用することができる。
すなわち、本発明は、上述の成形型のキャビティに磁性部を有するインサート部材をセットし、複数の永久磁石の磁気効果により該インサート部材の磁性部が吸着されて該インサート部材が固定される工程、
成形型のキャビティにウレタン発泡樹脂を注入して発泡させ、インサート部材と一体に成形されたポリウレタン発泡成形体を得る工程、及び
インサート部材と一体に成形されたポリウレタン発泡成形体を成形型から脱型する工程、を含む、車両用シートパッドの製造方法も提供する。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を示して、本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0032】
[実施例1]
プラスチック製の平面形状が長方形の板材(短辺200mm、長辺350mm、厚さ8mm)1枚と、断面の直径が8mm、高さが10mmの円柱状のネオジウム磁石5個を用意し、板材の片面の短手方向の中間位置に、長辺と平行方向に5個の円柱状のネオジウム磁石を、N極を上に向けた磁石と、S極を上に向けた磁石とが交互になり、かつ、隣接する磁石の側面同士が接触する状態に一例に並べて載置し、
図2の成形型11の上型1A−2のモデルである上型モデルAを組み立てた。
【0033】
[比較例1]
上記と同様の板材及び5個の円柱状のネオジウム磁石を使用し、板材の片面の短手方向の中間位置に、長辺と平行方向に5個の円柱状のネオジウム磁石を全てN極を上に向けて、8mm間隔で一例に並べて載置し、
図4の成形型20の上型21のモデルである上型モデルBを組み立てた。
【0034】
[参考例1]
上記と同様の板材及び5個の円柱状のネオジウム磁石を使用し、板材の片面の短手方向の中間位置に、長辺と平行方向に5個の円柱状のネオジウム磁石をN極を上に向けた磁石と、S極を上に向けた磁石とが交互になり、かつ、隣接する磁石が30mm離間する状態に一例に並べて載置し、上型モデルCを組み立てた。
【0035】
[評価試験]
(磁性部付きインサート部材の作製)
インサート部材として、
図5に示す、直方体(W×H×D=150mm×10mm×45mm)形状のウレタンチップ(密度:118.5kg/m
3)50を用意し、磁性塗料を霧状に噴射する手段としてエアー式スプレーガンを使用し、ウレタンチップの主面(W×D=150mm×45 mm)に、エアー式スプレーガンを移動させながら磁性塗料(「マグネットペイント」(ターナー色彩株式会社製))を吹き付けて乾燥させ、磁性塗料(固化物)の付着物からなる、線幅が約39mm、線の全長が150mmの線パターンの磁性部(磁性塗料の固化物の総付着量:1650mg、単位面積(1mm
2)当たりの磁性塗料の固化物の付着量:0.314mg/mm
2)51を形成して、磁性部付きインサート部材52を作製した。
【0036】
(吸着性評価)
実施例1の上型モデルA、比較例1の上型モデルB及び参考例1の上型モデルCのそれぞれについて、ネオジウム磁石の配列に上記作製した磁性部付きインサート部材の線パターンの磁性部を接触させて、磁性部付きインサート部材の吸着性を評価したところ、上型モデルA〜Cのいずれも、磁性部付きインサート部材を吸着し、その吸着状態が維持された。
【0037】
磁性部付きインサート部材が吸着状態の上型モデルA〜Cについて、それぞれ、上型モデルを作業台上に起立状態(板材の長軸が作業台表面に垂直な状態)に保持した後、自然転倒させる衝撃負荷試験を行ったところ、上型モデルAには磁性部付きインサート部材が吸着した状態のままであったが、上型モデルB及び上型モデルCからは磁性部付きインサート部材が離脱した。
【0038】
この結果から、成形型のキャビティの面に付設する複数の永久磁石が、異極並列の繰り返しの配置であって、異極並列する2つの磁石が一方の磁石のN極から他方の磁石のS極へ向かう磁束分布が形成される近接状態にあることにより、インサート部材の磁性部に作用する磁気効果(吸着力)が増大することが明らかである。
【符号の説明】
【0039】
1A−1、1A−2、1A−3 上型
1B 下型
2 永久磁石
2A 第1磁石
2B 第2磁石
3 キャビティ
5 インサート部材
6 磁性部
10、11、12、20 成形型