(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
マグネシウム又はマグネシウム合金からなるマグネシウム含有金属材の表面に水酸化マグネシウムを含む第1の皮膜と、前記第1の皮膜上にヒドロキシアパタイト及び/又は炭酸ヒドロキシアパタイトを含む第3の皮膜と、を有し、前記第1の皮膜と前記第3の皮膜との間に、第二リン酸カルシウムを含む第2の皮膜を有することを特徴とする、皮膜付きマグネシウム含有金属材。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態である皮膜付きマグネシウム含有金属材とその製造方法について詳細に説明する。
【0010】
<皮膜付きマグネシウム含有金属材>
本発明の実施形態に係る皮膜付きマグネシウム含有金属材は、マグネシウム含有金属材の表面に水酸化マグネシウムを含む第1の皮膜を有し、前記第1の皮膜上にヒドロキシアパタイト及び/又は炭酸ヒドロキシアパタイトを含む第2の皮膜を有し、前記第1の皮膜と前記第2の皮膜との間に、第二リン酸カルシウムを含む第3の皮膜を有する。この皮膜付きマグネシウム含有金属材は優れた耐食性を有する。
【0011】
(マグネシウム含有金属材)
前記皮膜の処理対象であるマグネシウム含有金属材は、マグネシウム材、マグネシウム合金材等の、マグネシウムを主成分とする金属材である。マグネシウム合金材が2つの金属成分からなる場合には、マグネシウムを50重量%以上含有するものであればよく、80重量%以上含有するものが好ましい。また、マグネシウム合金材が3つ以上の金属成分からなる場合には、マグネシウムを1番多く含有するものであればよい。マグネシウム合金材の種類としては、例えば、AZ91、AM60、ZK51、ZK61、AZ31、AZ61、ZK60などが挙げられる。
【0012】
(水酸化マグネシウムを含む皮膜)
本実施形態に係る第1の皮膜は、水酸化マグネシウムを含むものであれば特に制限されるものではなく、さらに、アルミニウム、亜鉛、ジルコニウム等の金属成分が含まれていてもよい。水酸化マグネシウムとしては、結晶性水酸化マグネシウム及び/又はアモルファス水酸化マグネシウムであってもよいが、結晶性水酸化マグネシウムを含むものが好ましい。また、双方を含んでいる場合においてその含有比率は特に限定されるものではない。なお、該皮膜中にこれらの成分が存在しているかどうかは、X線回折(XRD)により確認することができる。
【0013】
第1の皮膜の膜厚は特に限定されない。通常0.1μm以上であり、1μm以上であってよく、また通常100μm以下であり、30μm以下であってもよく、20μm以下であってよい。膜厚は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて皮膜の断面形状を観察することによって求めることができる。
【0014】
(第二リン酸カルシウムを含む皮膜)
本実施形態に係る第2の皮膜は、第二リン酸カルシウムを含むものであれば特に制限されるものではない。該皮膜に含まれる第二リン酸カルシウム結晶は、モネタイト及び/又はブルシャイトであってもよい。なお、該皮膜は、ブルシャイトを含むことが好ましい。また、双方を含んでいる場合においてその含有比率は特に限定されるものではない。なお、該皮膜中に第二リン酸カルシウム結晶が存在しているかどうかは、X線回折(XRD)により確認することができる。
【0015】
第2の皮膜中の第二リン酸カルシウムの結晶性粒子の平均一次粒子径は特に限定されないが、通常0.7μm以上であり、3μm以上であってよく、また100μm以下であり、30μm以下であってもよく、10μm以下であってよい。平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡による観察によって求めることができる。具体的には、無作為に選択した100個の結晶性第二リン酸カルシウム粒子の最大径と最小径をそれぞれ測定し、得られた200のデータから粒子径の平均値を算出し、平均一次粒子径とする。
【0016】
第2の皮膜の膜厚は特に限定されない。通常は0.01μm以上であり、1μm以上で
あってよく、2μm以上でもあってよく、また通常100μm以下であり、25μm以下であってよく、20μm以下であってもよい。膜厚は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて皮膜の断面形状を観察することによって求めることができる。
【0017】
(ヒドロキシアパタイト及び/又は炭酸ヒドロキシアパタイトを含む皮膜)
本実施形態に係る第3の皮膜は、ヒドロキシアパタイト及び/又は炭酸ヒドロキシアパタイトを含むものであれば特に制限されるものではない。また、ヒドロキシアパタイトと炭酸ヒドロキシアパタイトを双方含んでいる場合において、その含有比率は特に限定されるものではない。なお、該皮膜中にヒドロキシアパタイト及び/又は炭酸ヒドロキシアパタイトを含んでいるかどうかは、X線回折(XRD)により確認することができる。
【0018】
<皮膜付きマグネシウム含有金属材の製造方法>
本実施形態に係る皮膜付きマグネシウム含有金属材は、例えば、マグネシウム含有金属材の表面に第1の皮膜を形成させる第1工程と、第1の皮膜上に第2の皮膜を形成させる第2工程と、第2の皮膜の表面における、一部ないし全ての第二リン酸カルシウム結晶をヒドロキシアパタイト及び/又は炭酸ヒドロキシアパタイトに変換して第3の皮膜を形成させる第3工程とを含む方法により製造することができる。なお、本実施形態に係る皮膜付きマグネシウム含有金属材は、上記第2工程後に、第2の皮膜上に第3の皮膜を形成させる工程を含む方法によっても製造することができる。
【0019】
(第1工程)
マグネシウム含有金属材の表面に第1の皮膜を形成させる方法としては、例えば、水蒸気処理方法(「水熱処理」、「水酸化マグネシウム皮膜形成処理」等とも称されている。)等の公知の方法を挙げることができるが、この方法に限定されるものではない。なお、水蒸気処理方法で第1工程を実施する場合、水蒸気で処理する時間は、通常1分間以上でよく、30分間以上でよく、60分間以上でよい。また通常は1440分間以下でよく、600分間以下でよく、300分間以下でよい。
【0020】
(第2工程)
第1の皮膜上に第2の皮膜を形成させる方法としては、例えば、リン酸イオンとカルシウムイオンを含む水溶液(化成処理剤)を、第1の皮膜を有するマグネシウム含有金属材の表面上に接触させる化成処理方法等を挙げることができるが、この方法に限定されるものではない。リン酸イオンの供給源としては、例えば、リン酸又は水溶性リン酸塩等が挙げられる。また、カルシウムイオンの供給源としては、例えば、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウムなどが挙げられる。
【0021】
化成処理剤のカルシウムイオン濃度及びリン酸イオン濃度は、マグネシウム含有金属材に、第二リン酸カルシウムの結晶を有する化成皮膜を形成できれば特段限定されない。リン酸イオン濃度は、通常500ppm以上であり、1000ppm以上であってよく、また通常20000ppm以下であり、10000ppm以下であってよい。カルシウムイオン濃度は、通常100ppm以上であり、500ppm以上であってよく、また通常10000ppm以下であり、5000ppm以下であってよい。
化成処理剤のpHは、通常2.0以上であり、3.0以上であってよく、4.0以上であってよく、また通常5.0以下であり、4.5以下であってよい。化成処理剤のpHを調整するためのpH調整剤は特に限定されず、硝酸、リン酸、硫酸などの酸成分、又は水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア水、炭酸水素アンモニウムなどのアルカリ成分を用いることができる。
【0022】
化成処理剤の接触方法は特に制限されるものではなく、例えば、スプレー処理法、浸漬処理法、電解処理法、流しかけ処理法などの方法が挙げられる。化成処理剤の接触温度は
、特に限定されるものではなく、通常10℃以上であり、40℃以上であってよく、70℃以上であってよく、また通常100℃以下であり、90℃以下であってよい。
化成処理剤の接触時間は、特に限定されるものではなく、通常1分以上であり、3分以上であってよく、5分以上であってよく、また通常60分以下であり、30分以下であってよく、15分以下であってよい。
【0023】
<第3工程>
第2の皮膜の表面における、一部ないし全ての第二リン酸カルシウム結晶をヒドロキシアパタイト及び/又は炭酸ヒドロキシアパタイトに変換して第3の皮膜を形成させる方法としては、例えば、第2の皮膜の表面にアルカリ水溶液を接触させる方法等を挙げることができるが、この方法に限定されるものではない。アルカリ水溶液に含まれるアルカリ成分は特に限定されず、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウムカリウム、炭酸カルシウムなどを挙げることができる。これらのアルカリ成分は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、アルカリ水溶液として、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等を含む水溶液に炭酸ガスを溶解させたものを用いてもよい。
【0024】
アルカリ水溶液におけるアルカリ成分の濃度は特に限定されないが、通常は0.01g/L以上であり、1g/L以上であってよく、また通常は2000g/L以下であり、500g/L以下であってよい。また、アルカリ水溶液のpHは、通常は7.5以上であり、8.0以上であってよい。
【0025】
アルカリ水溶液の接触方法は特に制限されるものではなく、例えば、塗布処理法、スプレー処理法、浸漬処理法、流しかけ処理法などの方法が挙げられる。なお、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等を含むアルカリ水溶液に、第1及び第2の皮膜を有するマグネシウム含有金属材を浸漬する場合、アルカリ水溶液に炭酸ガスを吹き込みながら浸漬処理を行なってもよい。
アルカリ水溶液の接触温度は特に限定されるものではなく、通常は10℃以上であり、30℃以上であってよく、また通常は140℃以下であり、100℃以下であってよい。アルカリ水溶液の接触時間は、特に限定されるものではなく、通常は1秒以上であり、1分以上であってよく、また通常は360分以下であり、30分以下であってよい。
【0026】
なお、本実施形態に係る皮膜付きマグネシウム含有金属材の製造方法において、上記第3工程の代わりに、上記第2工程後に、第2の皮膜上に第3の皮膜を形成させる工程を行なってもよい。第3の皮膜を形成させる方法としては、公知の方法であれば特に制限されるものではなく、例えば、リン酸カルシウム溶液中で電気的に加熱する方法、超微粒子ビームを用いてヒドロキシアパタイト粉末を照射する方法等を挙げることができる。
【0027】
また、上記皮膜付きマグネシウム含有金属材の製造方法において、上記第1工程前に、マグネシウム含有金属材の表面に対して、溶剤洗浄、アルカリ洗浄、脱脂、酸洗、エッチング、スマット除去、ペーパー研磨、ラップ研磨などの前処理工程を行ってもよいし、2以上の前処理工程を順次行なってもよい。これらの前処理工程により、マグネシウム含有金属材が有する酸化膜、マグネシウム含有金属材に付着している油分や汚れ等を除去し、表面を清浄化することができる。
【0028】
さらに、上記皮膜付きマグネシウム含有金属材の製造方法において、上記第1工程後かつ上記第2工程前に、第2の皮膜を効率よく形成させるために、表面調整剤を用いて表面調整工程を行なってもよい。
【0029】
表面調整工程は、表面調整剤を第1の皮膜を有するマグネシウム含有金属材に接触させる工程である。表面調整剤の接触方法としては、例えば、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、スピンコート法、又はこれらを適宜組み合せた方法などが挙げられる。
【0030】
表面調整剤の接触温度は、表面調整剤の温度、あるいは、第1の皮膜を有するマグネシウム含有金属材の温度であり、通常0℃以上であり、10℃以上であってよく、また通常40℃以下であり、30℃以下であってよい。
表面調整剤の接触時間は、通常1秒以上であり、5秒以上であってよく、10秒以上であってもよく、また、通常10分以下であり、5分以下であってよく、3分以下であってよく、1分以下であってよい。
【0031】
なお、前処理工程、第1工程、表面調整工程、第2工程、第3工程等の後に、水洗による洗浄工程を行なってもよい。必要に応じて、各洗浄工程後に乾燥工程を適宜行なってもよい。
【0032】
<表面調整剤>
上記表面調整剤は、特定の粒子径を有する第二リン酸カルシウム粒子を含有する。
本実施形態に係る表面調整剤は、本発明の効果を奏する限り、溶媒及び第二リン酸カルシウム粒子以外の成分を含んでいてもよいが、溶媒及び第二リン酸カルシウム粒子のみからなるものであってもよい。
【0033】
(第二リン酸カルシウム粒子)
第二リン酸カルシウムは、リン酸一水素カルシウムとも呼ばれる。第二リン酸カルシウムには、無水和物(CaHPO
4)と二水和物(CaHPO
4・2H
2O)が存在し、無水和物はモネタイト、二水和物はブルシャイトとそれぞれ呼ばれている。
本実施形態に係る表面調整剤は、モネタイト又はブルシャイトの少なくとも一方を含んでいればよく、双方を含んでいてもよい。また、双方を含む場合において、その含有比率は特に限定されるものではない。
【0034】
第二リン酸カルシウムは、結晶性第二リン酸カルシウムであってもよく、アモルファス状の第二リン酸カルシウムであってもよいが、通常結晶性第二リン酸カルシウムが用いられる。
また、第二リン酸カルシウムは市販のものを用いてもよく、リン酸原料とカルシウム原料から製造してもよい。第二リン酸カルシウムの製造方法は、例えば、リン酸水溶液に炭酸カルシウムや水酸化カルシウムなどのカルシウム原料を反応させ、pHを4〜5に調整することで得ることができる。この際、反応温度を少なくとも80℃以上とすることでモネタイトが得られ、反応温度を少なくとも60℃以下とすることでブルシャイトが得られる。なお、80℃未満であってもモネタイトが得られることがあり、60℃より高くてもブルシャイトが得られることがある。
【0035】
第二リン酸カルシウム粒子は、そのD
50が通常0.1μm以上であり、0.2μm以上であってもよく、0.3μm以上であってもよい。また上限は通常0.8μm以下であり、0.6μm以下であってもよく、0.5μm以下であってもよい。
また、第二リン酸カルシウム粒子は、そのD
90が通常0.15μm以上であり、0.2μm以上であってもよく、0.3μm以上であってもよい。また上限は通常1.5μm以下であり、1.2μm以下であってもよく、1.0μm以下であってもよい。
【0036】
D
50及びD
90は、表面調整剤における第二リン酸カルシウム粒子の全体積を100
%として粒子の累積カーブを求めた際の、50体積%及び90体積%に位置する粒子径をそれぞれ表す。表面調整剤における第二リン酸カルシウム粒子の粒度分布は、例えば、レーザー光が照射された粒子から散乱した光の強度や、その光をレンズで集めることによって焦点面上に生じた回折像を、解析することで求めることが可能である。また、得られた粒度分布から、50体積%及び90体積%に位置する粒子径を求めることができる。
【0037】
第二リン酸カルシウム粒子の径は、例えば、湿式粉砕法等の常法により調整することができる。より具体的には、水と分散剤と第二リン酸カルシウム粒子との混合物をビーズミルで粉砕することにより調整することができる。なお、混合物における第二リン酸カルシウム粒子の質量濃度は、特に制限されるものではないが、5〜50wt%であることが好ましい。
【0038】
(分散剤)
分散剤としては、例えば、単糖類若しくは多糖類又はそれらの誘導体;正リン酸、ポリリン酸若しくはその塩、又は有機ホスホン酸化合物若しくはその塩;酢酸ビニルの重合体若しくはその誘導体又は酢酸ビニルと共重合可能な単量体と酢酸ビニルとの共重合体からなる水溶性高分子化合物;式:H
2C=C(R
1)−COOR
2(式中R
1はHまたはCH
3、R
2はH、Cが1〜5のアルキル基またはCが1〜5のヒドロキシアルキル基)に示される単量体もしくはα,β不飽和カルボン酸単量体の中から選ばれる少なくとも1種以上と、該単量体と共重合可能な単量体50重量%以下とを重合して得られる重合体又は共重合体;等を挙げることができる。
【0039】
上記単糖類若しくは多糖類又はそれらの誘導体の基本構成糖類としては、例えば、フルクトース、タガトース、プシコース、スルボース、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース等を挙げることができる。
【0040】
単糖類を用いる場合は、前記基本構成糖類そのものを、多糖類を用いる場合は、前記基本構成糖類のホモ多糖もしくはヘテロ多糖を、また、それらの誘導体としては、基本構成糖類の水酸基をNO
2,CH
3,C
2H
4OH,CH
2CH(OH)CH
3,CH
2COOH等の置換基でエーテル化して得られる単糖類や、前記置換基で置換された単糖類を構造に含むホモ多糖やヘテロ多糖を使用することもできる。また、数種類の単糖類、多糖類、及びその誘導体を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
糖類の分類を行う際に、加水分解の度合いによって単糖類、小糖類、及び多糖類と分類される場合があるが、本発明では加水分解により2個以上の単糖類を生ずるものを多糖類、それ自身が、それ以上加水分解されない糖類を単糖類とした。
【0042】
本発明の実施形態において、単糖類並びに小糖類及び多糖類を構成する単糖類の立体配置(D体、L体)や施光性(+、−)は特に制限されるものではなく、小糖類及び多糖類を構成する各単糖類の立体配置や施光性は全て又は一部が同一であっても、全てが異なっていてもよい。また、単糖類、多糖類、及びその誘導体の水溶性を高めるために前記単糖類、多糖類、及びその誘導体のナトリウム塩またはアンモニウム塩を使用してもよい。更に前記構造で水溶化が困難な場合は予め水と相溶性を有する有機溶剤に溶解した後に使用してもよい。
【0043】
正リン酸はオルソリン酸である。ポリリン酸としては、例えば、ピロリン酸、トリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸もしくはそのナトリウム塩、アンモニウム塩等を使用することができる。また、有機ホスホン酸化合物としては、例えば、アミノトリメチレンホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸
、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸もしくはそのナトリウム塩等を使用することができる。なお、正リン酸、ポリリン酸及び有機ホスホン酸化合物の中から1種類を使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
酢酸ビニルの重合体またはその誘導体としては、例えば、酢酸ビニル重合体のケン化物であるポリビニルアルコール、更にポリビニルアルコールをアクリロニトリルでシアノエチル化したシアノエチル化ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールをホルマリンでアセタール化したホルマール化ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールを尿素でウレタン化したウレタン化ポリビニルアルコール、及びポリビニルアルコールにカルボキシル基、スルホン基、アミド基等を導入した水溶性高分子化合物を使用することができる。ここで水溶性とは、25℃の水100gに対して0.1g以上の物質が溶解する性質、あるいは、該物質と水の混合物が透明である性質を意味する(本明細書において、以下同じ)。また、本発明における酢酸ビニルと共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸、クロトン酸、無水マレイン酸等を使用することができる。
【0045】
前記酢酸ビニルの重合体若しくはその誘導体又は酢酸ビニルと共重合可能な単量体と酢酸ビニルとの共重合体は、水溶性でさえあればよい。従って、その重合度及び官能基の導入率に効果が左右されることはない。なお、酢酸ビニルの重合体又はその誘導体及び共重合体の中から1種類を使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
上式に示される単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル、アクリル酸ヒドロキシメチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチル、アクリル酸ヒドロキシペンチル、メタクリル酸ヒドロキシメチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシペンチル等を使用することができる。
【0047】
またα,β不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸等を使用することができる。前記単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、酢酸ビニル、スチレン、塩化ビニル、ビニルスルホン酸等を使用することができる。また、前記単量体のうち1種類の単量体を重合して得られた重合体を使用してもよい。また、前記単量体の何種類かを組み合わせて重合して得られた共重合体を使用してもよい。
【0048】
(溶媒)
溶媒としては、第二リン酸カルシウムを好適に分散できる限り特に限定されないが、通常水が用いられる。水に対し有機溶媒を加えてもよいが、その場合、溶媒全量に対する有機溶媒の含有量は通常10重量%以下であり、5重量%以下であってもよく、3重量%以下であってもよい。
有機溶媒の種類は特に限定されず、アルコール系の有機溶媒、炭化水素系の有機溶媒、ケトン系の有機溶媒、アミド系の有機溶媒などが挙げられる。
【0049】
表面調整剤における第二リン酸カルシウム粒子の含有量は、固形分濃度として通常0.05g/L以上であり、0.1g/L以上であってもよい。また上限は通常20g/L以下であり、10g/L以下であってもよく、5g/L以下であってもよい。当該範囲内であれば、表面調整剤における第二リン酸カルシウム粒子の分散性が良好である。
【0050】
(その他の成分)
表面調整剤は、必要に応じて増粘剤、分散安定性向上剤、pH調整剤などを含んでいて
もよい。
増粘剤は、表面調整剤における第二リン酸カルシウム粒子の分散性を確保し、第二リン酸カルシウム粒子の沈降によるケーキングを防止することができる。増粘剤の種類は特に制限されるものではなく、例えば、タンパク質類、天然ゴム類、糖類(糖誘導体を含む)、アルギン酸類、セルロース類などの天然高分子;アミン系樹脂、カルボン酸系樹脂、オレフィン系樹脂、エステル系樹脂、ウレタン系樹脂、PVA、アクリル(メタクリル)系樹脂等、又はこれらの樹脂のうち2種以上を組み合わせて共重合させた共重合体等の合成高分子;ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤などの各種界面活性剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤などの各種カップリング剤;などが例示される。
【0051】
表面調整剤における増粘剤の含有量は、良好な分散性を維持する観点から、通常0.1重量%以上であり、0.5重量%以上であってもよい。また上限は、通常20重量%以下であり、10重量%以下であってもよい。
【0052】
分散安定性向上剤は、表面調整剤における第二リン酸カルシウム粒子の分散安定性を向上する薬剤である。分散安定性向上剤としては、例えば、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム等の縮合リン酸アルカリ塩等を挙げることができる。
【0053】
pH調整剤は、表面調整剤のpHを所定の範囲内に調整するための薬剤である。pH調整剤の種類は特に制限されるものではなく、例えば、第二リン酸ナトリウム水和物、第二リン酸カリウム、第二リン酸マグネシウム水和物、第二リン酸アンモニウム等のリン酸系のアルカリ添加剤;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、塩基性炭酸マグネシウム水和物、炭酸水素アンモニウム、炭酸カルシウム等の炭酸系のアルカリ添加剤;等が例示される。
表面調整剤のpHは通常6以上、11以下に調整される。下限は7以上であってもよく、上限は10以下であってもよく、9以下であってもよい。ここで、本明細書におけるpHは、25℃の表面調整剤を市販のpHメーターにて測定した値を示す。
【0054】
なお、本実施形態における表面調整工程は、上記表面調整剤の代わりに、例えばチタン−リン酸塩のコロイド水溶液や、リン酸亜鉛皮膜処理に用いられるリン酸イオン及び亜鉛イオンを含有する水溶液など、公知の表面調整剤を用いることもできる。
【0055】
<表面調整剤の製造方法>
本実施形態に係る表面調整剤は、例えば、溶媒に第二リン酸カルシウム粒子と、必要に応じて分散剤とを混合した混合物のpHをpH調整剤で所定のpHに調整し、続いて、pH調整した混合物を湿式粉砕した後、撹拌して第二リン酸カルシウム粒子を分散させることで製造することができる。その他、溶媒に、所定粒径に予め調整された第二リン酸カルシウム粒子と、必要に応じて分散剤とを混合した混合物のpHを、pH調整剤で所定のpHに調整することで製造することができる。なお、上述においては、湿式粉砕する前に分散剤とpH調整剤を予め第二リン酸カルシウム粒子と混合しているが、いずれか一方を湿式粉砕する前に第二リン酸カルシウム粒子と混合し、湿式粉砕した後に他方を第二リン酸カルシウム粒子と混合してもよい。また、湿式粉砕した後に分散剤とpH調整剤を第二リン酸カルシウム粒子と混合してもよい。
溶媒への原料の添加の順序は特段限定されるものではなく、第二リン酸カルシウム、分散剤及びpH調整剤を一度に添加してもよく、分散剤のみ添加した溶媒に第二リン酸カルシウムを添加し、必要に応じてpH調整剤を添加してもよい。
【0056】
粒子径を調整するための湿式粉砕は、例えばビーズミルを用いて行うことができるがこれらに限定されるものではない。粉砕時間は特段限定されるものではなく、所望の粒子径
になるまで行えばよい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
<マグネシウム材>
本実施例では、純度99.9%以上の純マグネシウム板材を用いた。
<皮膜付きマグネシウム材の製造>
(前処理)
上記純マグネシウム板材の表面に、アルカリ脱脂剤[ファインクリーナーMG110E(日本パーカライジング株式会社製)を30g/Lとなるように水に混合した水溶液]を65℃で120秒間スプレーすることにより脱脂処理を行なった後、水洗した。続いて、脱脂処理した純マグネシウム板材の表面に脱イオン水をかけながらサンドペーパーにて物理研磨した後、脱イオン水で水洗し、熱風乾燥した。
【0058】
前処理を行なった純マグネシウム板材に対して、以下の、水蒸気処理、表面調整処理、化成処理及びアパタイト変換処理を順次行い、実施例1〜5の試験片を製造した。
【0059】
(水蒸気処理)
オートクレーブを用いて、前処理を行なった純マグネシウム板材を表1に示す温度及び時間で水蒸気処理した。続いて水蒸気処理した純マグネシウム板材を取り出し、脱イオン水で水洗して熱風乾燥することにより、水酸化マグネシウムを含む皮膜を有する純マグネシウム板材を作製した。
【0060】
【表1】
【0061】
<表面調整処理>
水酸化マグネシウムを含む皮膜を有する純マグネシウム板材を表面調整剤に25℃で30秒間浸漬し、表面調整処理を行った。なお、表面調整剤は、以下のように調製した。
脱イオン水55重量部にカルボキシメチルセルロース1重量部を溶解させた。その溶解物に、モネタイトまたはブルシャイト24重量部を添加した混合物を撹拌した後、ダイノーミル粉砕機(φ1mmアルカリガラスビーズ)を用いて湿式粉砕した。粉砕した混合物(固形分濃度30%の懸濁液)における固形分の粒度分布を、日機装株式会社製マイクロトラック計UPA−EX150で測定し、D
50及びD
90を求めた。その結果、D
50が0.45μm、D
90が0.9μmであった。
上記懸濁液に、最終濃度で250ppm及び200ppmとなるように、ピロリン酸ナトリウム及びリン酸三ナトリウムをそれぞれ添加して表面調整剤を調製した。
【0062】
<化成処理>
表面調整処理を行なった、水酸化マグネシウムを含む皮膜を有する純マグネシウム板材を化成処理剤に50℃で5分間浸漬し、化成処理を行った。続いて、当該純マグネシウム板材を脱イオン水で水洗して熱風乾燥することにより、水酸化マグネシウムを含む皮膜上
に第二リン酸カルシウムを含む皮膜を形成した純マグネシウム板材を作製した。なお、上記化成処理剤は、以下のように調製した。
最終濃度で7g/L及び12g/Lとなるように、75%リン酸及び硝酸カルシウム4水和物をそれぞれ脱イオン水に溶解させた後、水酸化ナトリウムでpHを3.5に調整することにより、化成処理剤を調製した。
【0063】
<アパタイト変換処理>
水酸化マグネシウムを含む皮膜及び第二リン酸カルシウムを含む皮膜を有する純マグネシウム板材を、表2に示すように、所定の処理温度及び処理時間で各アルカリ水溶液に浸漬し、アルカリ処理を行った。続いて、当該純マグネシウム板材を脱イオン水で水洗して熱風乾燥することにより、第二リン酸カルシウムを含む皮膜の表面における、一部ないし全ての第二リン酸カルシウムをヒドロキシアパタイト及び/又は炭酸ヒドロキシアパタイトに置換した皮膜付き純マグネシウム板材(水酸化マグネシウムを含む皮膜、第二リン酸カルシウム、並びにヒドロキシアパタイト及び/又は炭酸ヒドロキシアパタイトを含む皮膜を有する純マグネシウム板材;実施例1〜5の試験片)を作製した。
【0064】
【表2】
【0065】
なお、比較例として、前処理のみを行なった純マグネシウム板材(比較例1の試験片)を準備した。また、50mMのCa−EDTAと50mMのKH
2PO
4を含む水溶液に、1/40の1N−NaOH水溶液を添加してpHを6.4に調整した混合液に、前処理を行なった純マグネシウム板材を95℃で8時間浸漬し、化成処理を行った純マグネシウム板材(比較例2の試験片)も準備した。さらに、50mMのCa−EDTAと50mMのKH
2PO
4水溶液に、1/20の1N−NaOH水溶液を添加してpHを7.3に調整した混合液に、前処理を行なった純マグネシウム板材を95℃で8時間浸漬し、化成処理を行った純マグネシウム板材(比較例3の試験片)も準備した。
【0066】
<皮膜結晶系の同定>
実施例1〜5及び比較例1〜3の試験片の表面上に形成した皮膜をX線回折法により測定し、その結晶系を同定した。その結果、実施例1〜5の試験片から結晶性水酸化マグネシウムおよび第二リン酸カルシウム結晶が検出された。実施例1及び5の試験片からヒドロキシアパタイト結晶が検出され、実施例2及び4の試験片から炭酸ヒドロキシアパタイトの結晶が検出された。実施例3の試験片からヒドロキシアパタイト結晶及び炭酸ヒドロキシアパタイト結晶が検出された。実施例1〜5の試験片は、水酸化マグネシウムを含む皮膜上に第二リン酸カルシウムを含む皮膜が形成され、第二リン酸カルシウムを含む皮膜上にヒドロキシアパタイト及び/又は炭酸ヒドロキシアパタイトを皮膜が形成されていることが確認できた。一方、比較例1の試験片からいずれの結晶も検出できなかったが、比較例2及び3の試験片から結晶性水酸化マグネシウム及びヒドロキシアパタイト結晶が検出された。
【0067】
<耐食性評価>
実施例1〜5及び比較例1〜3の試験片を、表3に示す各イオンを所定の濃度で含む水
溶液に38℃で24時間浸漬した。続いて、脱イオン水による水洗及び熱風乾燥を行った後、各試験片に光を照射して投影面積を測定した。測定後、水溶液の浸漬処理前後を比較して消失した面積を求め、下記の評価基準に基づいて耐食性を評価した。その結果、表4に示す。
【0068】
【表3】
(評価基準)
5点:消失面積が0であった。
4点:消失面積が5%未満であった。
3点:消失面積が5%以上50%未満であった。
2点:消失面積が50%以上90%未満であった。
1点:消失面積が90%以上であった。
【0069】
【表4】
【0070】
なお、本発明については、具体的な実施例を参照して詳細に説明されるが、本発明の趣旨及び範囲から離れることなく、種々の変更、改変を施すことができることは当業者には明らかである。