(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本願の開示するレーダ装置および物標検出方法の実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。なお、以下では、レーダ装置1がFM−CW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式である場合を例に挙げて説明するが、レーダ装置1は、例えばFCM(Fast-Chirp Modulation)方式といった他の方式であってもよい。
【0013】
まず、
図1Aおよび
図1Bを用いて実施形態に係る物標検出方法の概要について説明する。
図1Aおよび
図1Bは、実施形態に係る物標検出方法の概要を示す図である。
図1Aに示すように、レーダ装置1は、例えば車両MCのフロントグリル内等に搭載され、車両MCの進行方向に存在する物標(例えば、先行車LC等)を検出する。なお、レーダ装置1の搭載箇所は、例えばフロントガラスやリアグリル、左右の側部(例えば、左右のドアミラー)等他の箇所に搭載されてもよい。
【0014】
図1Aに示すように、実施形態に係るレーダ装置1は、まず、物標に対応する観測値を検出する。観測値とは、周波数変調された送信波と物標による送信波の反射波とに基づいて検出される反射点の状態ベクトルを示す値である。かかる状態ベクトルには、反射点までの距離や相対速度といった値が含まれる。なお、観測値は、瞬時値等と呼ばれることもある。
【0015】
つづいて、
図1Aに示すように、実施形態に係るレーダ装置1は、検出した観測値に対してフィルタ処理を施すことによって、観測値に対応するフィルタ値である物標データを生成する。
図1Aに示すように、フィルタ処理には、例えばパーティクルフィルタが用いられる。
【0016】
パーティクルフィルタとは、所定数の粒子データと観測値とを所定の状態空間にプロットするとともに、かかる状態空間における位置関係を解析することによって、物標データを推定するものである。
図1Aに示すように、パーティクルフィルタでは、「予測」、「割り当て」、「重み付け」、「リサンプリング」および「データ生成」の処理が行われることで、観測値から物標データが生成される。
【0017】
ここで、パーティクルフィルタの各処理について簡単に説明する。「予測」は、最新の周期で用いる粒子データの状態空間での分布状態を予測する処理である。具体的には、「予測」は、1つ前の周期である前回の粒子データにおける分布状態から最新の周期である今回の粒子データにおける分布状態を予測する予測処理である。
【0018】
「割り当て」は、最新の周期である今回の観測値を予測した今回の粒子データへ割り当てる処理である。「割り当て」では、例えば、前回の物標データから所定の割り当て範囲に存在する観測値を今回の粒子データへ割り当てる。
【0019】
「重み付け」は、割り当てられた今回の観測値に基づいて今回の粒子データそれぞれに対して重み付けする処理である。「リサンプリング」は、「重み付け」による今回の粒子データそれぞれ重みに基づいて今回の粒子データそれぞれを再配置(リサンプリング)する処理である。「データ生成」は、リサンプリングされた今回の粒子データに基づいて今回の観測値から今回の物標データを生成する処理である。なお、パーティクルフィルタの各処理の詳細については後述する。
【0020】
ここで、従来の物標検出方法について説明する。従来の物標検出方法では、パーティクルフィルタにおける「予測」を、運動モデルに従って行っていた。具体的には、「予測」は、前回の物標データに含まれる位置や速度等の情報に基づいて前回の粒子データをある地点から別の地点に移動させて今回の粒子データを生成していた。つまり、1つ前の周期と最新の周期とで物標が概ね同じように移動すると仮定して今回の粒子データを予測していた。
【0021】
しかしながら、例えば1つ前の周期と最新の周期とで物標の速度や移動方向等の状態が大きく変化した場合(例えば、急加減速や、急旋回等)、従来のように運動モデルに従って「予測」を行うと、今回の粒子データにおける予測誤差が比較的大きくなるおそれがあった。
【0022】
そこで、実施形態に係る物標検出方法では、「予測」の処理において、カルマンフィルタを適用して前回の粒子データから今回の粒子データの予測を行うこととした。カルマンフィルタは、例えば無香カルマンフィルタを用いることができるが、これに限定されず、例えば、拡張カルマンフィルタ等でもよく、非線型カルマンフィルタであればよい。以下では、実施形態に係る物標検出方法において、無香カルマンフィルタを適用した場合について説明する。
【0023】
一般的に、カルマンフィルタとは、誤差を含む最新の観測値と、誤差を含む前回の状態データとに基づいて双方の誤差が最小となる最適カルマンゲインを算出し、かかる最適カルマンゲインを用いて前回の状態データから最新の状態データを予測するものである。
【0024】
つまり、実施形態に係るカルマンフィルタKFは、得られた最新の観測値および前回の粒子データ双方に誤差が含まれると仮定して、前回の粒子データを運動モデルに従って移動させた場合に、かかる誤差が最小となる最適カルマンゲインを算出する。そして、カルマンフィルタKFは、運動モデルと最適カルマンゲインを用いて、前回の粒子データPaから今回の粒子データPbを生成する。
【0025】
具体的には、
図1Bに示すように、実施形態に係るレーダ装置1は、前回の粒子データPa1〜Pa8(前回の粒子データPaと記載する場合がある)それぞれに対してカルマンフィルタKFを適用する。
【0026】
例えば、カルマンフィルタKFは、前回の粒子データPa1と今回の観測値とに基づいて最適カルマンゲインを算出し、今回の粒子データPb1を予測する。つまり、カルマンフィルタKFは、前回の粒子データPa1〜Pa8毎に最適カルマンゲインを算出し、今回の粒子データPb1〜Pb8を予測する。具体的には、算出した最適カルマンゲインを用いて、前回の粒子データPa1〜Pa8から今回の粒子データPb1〜Pb8を生成することで、予測した今回の粒子データPb1〜Pb8と真値との差(すなわち、誤差)を小さくすることができる。なお、
図1Bでは、8個の前回の粒子データPa1〜Pa8および今回の粒子データPb1〜Pb8を示しているが、8個に限定されず、任意の個数を設定可能である。
【0027】
これにより、カルマンフィルタKFの出力結果である今回の粒子データPb1〜Pb8は、誤差が最小となる。すなわち、実施形態に係る物標検出方法によれば、パーティクルフィルタにおける粒子データPb1〜Pb8の予測精度を向上させることができる。
【0028】
なお、実施形態に係るレーダ装置1は、前回の粒子データPa1〜Pa8すべてにカルマンフィルタKFを適用する必要はなく、例えば、前回の粒子データPa1〜Pa8の平均に相当する1つの代表粒子データに対してカルマンフィルタKFを適用してもよい。かかる点の詳細については後述する。
【0029】
また、実施形態に係るレーダ装置1は、今回の観測値に加えて前回の観測値をさらにカルマンフィルタKFに入力することで、予測精度をさらに向上させることができるが、かかる点の詳細についても後述する。
【0030】
次に、
図2を参照して、実施形態に係るレーダ装置1の構成について詳細に説明する。
図2は、実施形態に係るレーダ装置1の構成を示すブロック図である。なお、
図2では、本実施形態の特徴を説明するために必要な構成要素のみを機能ブロックで表しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0031】
換言すれば、
図2に図示される各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。例えば、各機能ブロックの分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することが可能である。
【0032】
図2に示すように、レーダ装置1は、送信部10と、受信部20と、処理部30とを備える。レーダ装置1は、車両MCの挙動を制御する車両制御装置2と接続される。
【0033】
かかる車両制御装置2は、レーダ装置1による物標の検出結果に基づいて、PCS(Pre-crash Safety System)やAEB(Advanced Emergency Braking System)などの車両制御を行う。
【0034】
送信部10は、信号生成部11と、発振器12と、送信アンテナ13とを備える。信号生成部11は、後述する送受信制御部31の制御により、三角波で周波数変調されたミリ波を送信するための変調信号を生成する。発振器12は、かかる信号生成部11によって生成された変調信号に基づいて送信信号を生成し、送信アンテナ13へ出力する。なお、
図2に示すように、発振器12によって生成された送信信号は、後述するミキサ22に対しても分配される。
【0035】
送信アンテナ13は、発振器12からの送信信号を送信波へ変換し、かかる送信波を車両MCの外部へ出力する。送信アンテナ13が出力する送信波は、三角波で周波数変調された連続波である。送信アンテナ13から車両MCの外部、たとえば前方へ送信された送信波は、先行車LCなどの物標で反射されて反射波となる。
【0036】
受信部20は、アレーアンテナを形成する複数の受信アンテナ21と、複数のミキサ22と、複数のA/D変換部23とを備える。ミキサ22およびA/D変換部23は、受信アンテナ21ごとに設けられる。
【0037】
各受信アンテナ21は、物標からの反射波を受信波として受信し、かかる受信波を受信信号へ変換してミキサ22へ出力する。なお、
図2に示す受信アンテナ21の数は4つであるが、3つ以下または5つ以上であってもよい。
【0038】
受信アンテナ21から出力された受信信号は、図示略の増幅器(たとえば、ローノイズアンプ)で増幅された後にミキサ22へ入力される。ミキサ22は、分配された送信信号と、受信アンテナ21から入力される受信信号との一部をミキシングし不要な信号成分を除去してビート信号を生成し、A/D変換部23へ出力する。
【0039】
ビート信号は、送信波と反射波との差分波であって、送信信号の周波数(以下、「送信周波数」と記載する)と受信信号の周波数(以下、「受信周波数」と記載する)との差となるビート周波数を有する。ミキサ22で生成されたビート信号は、A/D変換部23でデジタル信号に変換された後に、処理部30へ出力される。
【0040】
処理部30は、送受信制御部31と、信号処理部32と、記憶部33とを備える。信号処理部32は、検出部32aと、フィルタ処理部32bとを備える。
【0041】
記憶部33は、履歴データ33aを記憶する。履歴データ33aは、信号処理部32が実行する一連の信号処理における物標データの履歴を含む情報である。
【0042】
処理部30は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、記憶部33に対応するROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、レジスタ、その他の入出力ポートなどを含むマイクロコンピュータであり、レーダ装置1全体を制御する。
【0043】
かかるマイクロコンピュータのCPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することによって、送受信制御部31および信号処理部32として機能する。なお、送受信制御部31および信号処理部32は全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェアで構成することもできる。
【0044】
送受信制御部31は、信号生成部11を含む送信部10、および、受信部20を制御する。信号処理部32は、一連の信号処理を周期的に実行する。つづいて信号処理部32の各構成要素について説明する。
【0045】
検出部32aは、周波数解析部321aと、ピーク抽出部322aと、観測値生成部323aとを備え、周波数変調された送信波と物標による送信波の反射波とに基づいて物標に対応する観測値を検出する。
【0046】
周波数解析部321aは、各A/D変換部23から入力されるビート信号に対して高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理(以下、「FFT処理」と記載する)を行い、結果をピーク抽出部322aへ出力する。かかるFFT処理の結果は、ビート信号の周波数スペクトルであり、ビート信号の周波数ごと(周波数分解能に応じた周波数間隔で設定された周波数ビンごと)のパワー値(信号レベル)である。
【0047】
ピーク抽出部322aは、周波数解析部321aによるFFT処理の結果においてピークとなるピーク周波数を抽出して、抽出結果を観測値生成部323aへ出力する。なお、ピーク抽出部322aは、後述するビート信号の「UP区間」および「DN区間」のそれぞれについてピーク周波数を抽出する。
【0048】
観測値生成部323aは、ピーク抽出部322aにおいて抽出されたピーク周波数のそれぞれに対応する反射波の到来角度とそのパワー値を算出する角度推定処理を実行する。なお、角度推定処理の実行時点で、到来角度は、物標が存在すると推定される角度であることから、以下では「推定角度」と記載する場合がある。
【0049】
また、観測値生成部323aは、算出した推定角度とパワー値との算出結果に基づいて「UP区間」および「DN区間」それぞれのピーク周波数の正しい組み合わせを判定するペアリング処理を実行する。
【0050】
また、観測値生成部323aは、判定した組み合わせ結果から各物標の車両MCに対する距離および相対速度を算出する。また、観測値生成部323aは、算出した各物標の推定角度、距離および相対速度を、最新周期(最新スキャン)分の観測値としてフィルタ処理部32bへ出力する。
【0051】
説明を分かりやすくするために、信号処理部32の前段処理から信号処理部32におけるここまでの処理の流れを
図3〜
図4Cに示す。
図3は、信号処理部32の前段処理から信号処理部32におけるピーク抽出処理までの処理説明図である。
【0052】
また、
図4Aは、角度推定処理の処理説明図である。また、
図4Bおよび
図4Cは、ペアリング処理の処理説明図(その1)および(その2)である。なお、
図3は、2つの太い下向きの白色矢印で3つの領域に区切られている。以下では、かかる各領域を順に、上段、中段、下段と記載する。
【0053】
図3の上段に示すように、送信信号fs(t)は、送信アンテナ13から送信波として送出された後、物標において反射されて反射波として到来し、受信アンテナ21において受信信号fr(t)として受信される。
【0054】
このとき、
図3の上段に示すように、受信信号fr(t)は、車両MCと物標との距離に応じて、送信信号fs(t)に対して時間差Tだけ遅延している。この時間差Tと、車両MCおよび物標の相対速度に基づくドップラー効果とにより、ビート信号は、周波数が上昇する「UP区間」の周波数fupと、周波数が下降する「DN区間」の周波数fdnとが繰り返される信号として得られる(
図3の中段参照)。
【0055】
図3の下段には、かかるビート信号を周波数解析部321aにおいてFFT処理した結果を、「UP区間」側および「DN区間」側のそれぞれについて模式的に示している。
【0056】
図3の下段に示すように、FFT処理後には、「UP区間」側および「DN区間」側のそれぞれの周波数領域における波形が得られる。ピーク抽出部322aは、かかる波形においてピークとなるピーク周波数を抽出する。
【0057】
たとえば、
図3の下段に示した例の場合、ピーク抽出閾値が用いられ、「UP区間」側においては、ピークPu1〜Pu3がそれぞれピークとして判定され、ピーク周波数fu1〜fu3がそれぞれ抽出される。
【0058】
また、「DN区間」側においては、同じくピーク抽出閾値により、ピークPd1〜Pd3がそれぞれピークとして判定され、ピーク周波数fd1〜fd3がそれぞれ抽出される。
【0059】
ここで、ピーク抽出部322aが抽出した各ピーク周波数の周波数成分には、複数の物標からの反射波が混成している場合がある。そこで、観測値生成部323aは、各ピーク周波数のそれぞれについて方位演算する角度推定処理を行い、ピーク周波数ごとに対応する物標の存在を解析する。
【0060】
なお、観測値生成部323aにおける方位演算は、たとえばESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)などの公知の到来方向推定手法を用いて行うことができる。
【0061】
図4Aは、観測値生成部323aの方位演算結果を模式的に示すものである。観測値生成部323aは、かかる方位演算結果の各ピークPu1〜Pu3から、これらピークPu1〜Pu3にそれぞれ対応する各物標(各反射点)の推定角度を算出する。また、各ピークPu1〜Pu3の大きさがパワー値となる。観測値生成部323aは、
図4Bに示すように、かかる角度推定処理を「UP区間」側および「DN区間」側のそれぞれについて行う。
【0062】
そして、観測値生成部323aは、方位演算結果において、推定角度およびパワー値の近い各ピークを組み合わせるペアリング処理を行う。また、その組み合わせ結果から、観測値生成部323aは、各ピークの組み合わせに対応する各物標(各反射点)の距離および相対速度を算出する。
【0063】
距離は、「距離∝(fup+fdn)」の関係に基づいて算出することができる。相対速度は、「速度∝(fup−fdn)」の関係に基づいて算出することができる。その結果、
図4Cに示すように、車両MCに対する、各反射点RPの推定角度、距離および相対速度の瞬時値を示すペアリング処理結果が得られる。
【0064】
図2に戻って、フィルタ処理部32bについて説明する。
図2に示すように、フィルタ処理部32bは、予測部321bと、割り当て部322bと、重み付け部323bと、リサンプリング部324bと、データ生成部325bとを備える。
【0065】
フィルタ処理部32bは、検出部32aによって検出された観測値に対して所定数の粒子データPbを対応付けるパーティクルフィルタを施すことによって、観測値に対応する物標データを生成する。
【0066】
予測部321bは、パーティクルフィルタにおける前回の粒子データPaから今回の粒子データPbを予測する予測処理を行う。具体的には、予測部321bは、最新の周期を時間tとし、時間tにおける各粒子データの分布状態X
tとした場合、前回の周期の時間t−1の分布状態X
t−1に基づく確率密度関数に基づいてN個の粒子データを配置(サンプリング)する。
【0067】
この時、予測部321bは、カルマンフィルタKFの出力に基づいて誤差が最小となるように今回の粒子データの分布状態X
tを予測する。なお、予測部321bの詳細な処理内容については、
図5〜
図8で後述する。
【0068】
割り当て部322bは、最新の周期における観測値を、予測部321bの予測結果である今回の粒子データPbへ割り当てる処理を行う。具体的には、割り当て部322bは、前回の物標データから今回の物標データを予測し、その予測結果に基づいて所定の割り当て範囲内に存在する観測値を割り当てる。
【0069】
なお、割り当て部322bは、いずれの物標データの割り当て範囲内にも存在しない観測値があった場合には、かかる観測値を新規物標の候補として扱う。かかる場合には、新規物標に相当する観測値に対して初期状態の粒子データが割り当てられる。初期状態とは、例えば新規物標に対して複数の粒子データを予め定められた位置関係で配置された状態をいう。
【0070】
重み付け部323bは、割り当てられた今回の観測値に基づいて今回の粒子データPbそれぞれに重みを付ける。具体的には、重み付け部323bは、今回の粒子データPbのうち、今回の観測値に近い粒子の重みが大きくなり、今回の観測値から遠い粒子の重みを小さくする。なお、ここでいう「近い」および「遠い」は、マハラノビス距離が「近い」および「遠い」ことを指す。マハラノビス距離は、物標データの複数のパラメータを用いて表される距離であり、前回と今回の物標に関する相関性を考慮した多次元の距離である。
【0071】
リサンプリング部324bは、今回の粒子データPbそれぞれの重みに基づいて粒子データを再配置(リサンプリング)する。具体的には、リサンプリング部324bは、重みが小さい粒子データを観測値の近くへ移動させる。
【0072】
データ生成部325bは、リサンプリング部324bによって再配置された今回の粒子データPbに基づいて確率密度関数を再計算し、再計算された確率密度関数の重心に基づいて物標データを生成する。なお、データ生成部325bは、確率密度関数の重心に基づいて物標データを生成したが、例えば、確率密度関数の平均に基づいて物標データを生成してもよい。
【0073】
次に、
図5〜
図8を用いて、予測部321bの具体的な処理内容について説明する。
図5〜
図8は、予測部321bの処理内容を示す図である。
図5に示すように、予測部321bは、前回の粒子データPa1〜Pa8に対応する1つの代表粒子データPAに対してカルマンフィルタKFを適用する。
【0074】
具体的には、予測部321bは、前回の粒子データPa1〜Pa8の平均に相当する代表粒子データPAを生成する。例えば、予測部321bは、前回の粒子データPa1〜Pa8の状態空間における平均値を算出することで代表粒子データPAを生成する。
【0075】
そして、予測部321bは、代表粒子データPAをカルマンフィルタKFに入力する。つまり、予測部321bは、前回の粒子データPa1〜Pa8すべてをカルマンフィルタKFに入力するのではなく、代表粒子データPAのみをカルマンフィルタKFに入力する。これにより、カルマンフィルタKFにおいて、代表粒子データPAに対応する最適カルマンゲインを算出すればよいため、処理負荷を低減することができる。
【0076】
さらに、予測部321bは、前回の粒子データPa1〜Pa8の平均に相当する代表粒子データPAを生成することで、カルマンフィルタKFの出力結果、つまり、今回の粒子データPbの予測精度が低下することを防止できる。
【0077】
なお、予測部321bは、単純な平均値を代表粒子データPAとして生成することに限定されず、前回の粒子データPa1〜Pa8それぞれに所定の重みを付与した加重平均を算出することで代表粒子データPAを生成してもよい。
【0078】
あるいは、予測部321bは、前回の粒子データPa1〜Pa8の分布状態が比較的狭い範囲にある場合には、前回の粒子データPa1〜Pa8のうち、いずれか1つを代表粒子データPAとして選択してもよい。
【0079】
また、
図5では、1つの代表粒子データPAを生成したが、1つに限定されるものではなく、前回の粒子データPa1〜Pa8よりも少ない個数であればよい。かかる場合、前回の粒子データPa1〜Pa8を所定数毎のグループに区分けして、各グループから代表粒子データPAを生成してもよい。つまり、複数の代表粒子データPAを用いることで今回の粒子データPbにおける予測精度の低下を抑えることができる。
【0080】
次に、
図6および
図7を用いて、カルマンフィルタKFの処理を具体的に説明する。
図6に示すように、カルマンフィルタKFには、前回の粒子データPaに相当する代表粒子データPAと、今回の観測値と、前回の観測値とが入力される。また、カルマンフィルタKFは、変換部KF1と、算出部KF2と、更新部KF3とを備え、前回の代表粒子データPAから今回の代表粒子データPAa(
図8参照)を予測する。
【0081】
変換部KF1は、前回の代表粒子データPAに基づくシグマポイントをアンセンテッド変換(以下、U変換と記載)する。シグマポイントとは、物標の非線形運動モデル(急加減速・急旋回の運動モデル)に応じて増減するサンプルポイントであり、観測値や粒子データの平均値の周りに設定されるポイントである。具体的には、シグマポイントは、平均値から算出される共分散行列の楕円に沿って設けられる点である。算出部KF2は、変換部KF1によって変換されたシグマポイントの平均値および共分散行列を算出し、かかる共分散行列に基づいて予測処理に対する今回の代表粒子データPAaの誤差を算出する。更新部KF3は、算出部KF2によって算出された誤差に基づいて最適カルマンゲインを算出し、前回の代表粒子データPAを更新する。具体的には、更新部KF3は、算出部KF2によって算出される誤差が最小となる重み付け値を最適カルマンゲインとして算出し、かかる最適カルマンゲインを適用して前回の代表粒子データPAから今回の代表粒子データを生成する。ここで、カルマンフィルタKFの各部の処理内容について
図7を用いて説明する。
【0082】
図7は、カルマンフィルタKFの処理内容を示す図である。
図7の上段には、今回の観測値OV1と、前回の観測値OV2と、代表粒子データPAとを所定の状態空間にプロットした場合を示している。変換部KF1は、まず、前回の観測値OV2と、代表粒子データPAとの平均値を示す点POを算出する。
【0083】
つづいて、変換部KF1は、算出した点POと、今回の観測値OV1との平均値を示す点Aを算出する。つづいて、変換部KF1は、点Aに基づいて共分散行列Cを算出する。具体的には、変換部KF1は、点POおよび今回の観測値OV1が点Aからどの程度離れているかを示す分散度合を共分散行列Cとして算出する。そして、変換部KF1は、共分散行列Cに基づいてシグマポイントsgを複数個生成する。具体的には、シグマポイントsgは、共分散行列Cに相当する楕円周辺に位置する点である。
【0084】
つづいて、
図7の中段に示すように、変換部KF1は、生成したシグマポイントsgをアンセンテッド変換(U変換)することでUTシグマポイントusgを生成する。具体的には、変換部KF1は、シグマポイントsgが1つ前の周期の状態データであると仮定し、非線形関数によって、シグマポイントsgを最新の周期の状態データに時間遷移させることで、UTシグマポイントusgを生成する。
【0085】
非線形関数は、例えば、前回の粒子データPaから今回の粒子データPbを予測する運動モデルに相当する関数を用いる。つまり、UTシグマポイントusgは、シグマポイントsgを運動モデルに従って移動させた点であるといえる。
【0086】
つづいて、
図7の下段に示すように、算出部KF2は、変換部KF1によって変換されたUTシグマポイントusg毎に所定の重み付けをした平均値(加重平均)を算出して点uAを生成する。
【0087】
つづいて、算出部KF2は、算出した平均値を示す点uAに基づいて共分散行列uCを算出する。かかる共分散行列uCが、シグマポイントsgからUTシグマポイントusgに変換した際の誤差を示す。換言すると、算出部KF2は、共分散行列uCを今回の代表粒子データPAa(
図8参照)の誤差として算出する。つまり、かかる誤差とは、カルマンフィルタKFを介して前回の代表粒子データPAを遷移させた今回の代表粒子データPAaと、カルマンフィルタKFを介さずに前回の代表粒子データPAを遷移させた今回の代表粒子データPAaとの真値の差を指す。
【0088】
つづいて、更新部KF3は、かかる共分散行列uCに基づいて今回の代表粒子データPAa(
図8参照)の誤差が最小となる最適カルマンゲインを算出する。つづいて、更新部KF3は、運動モデルと最適カルマンゲインに基づいて前回の代表粒子データPAから今回の代表粒子データPAaを予測し、更新する。これにより、最新の周期における代表粒子データPAaの誤差が最小となるように更新できる。
【0089】
つまり、カルマンフィルタKFでは、前回の粒子データPaを仮想点であるシグマポイントsgとして扱い、シグマポイントsgをアンセンテッド変換により時間遷移させることで生じる誤差を共分散行列uCによって推定する。そして、推定された誤差が最小となるように、今回の代表粒子データPAaを更新する。
【0090】
すなわち、誤差を示す共分散行列uCは、カルマンフィルタKFを介して前回の代表粒子データPAを遷移させた今回の代表粒子データPAaと、カルマンフィルタKFを介さずに前回の代表粒子データPAを遷移させた今回の代表粒子データPAaとの真値の差を指す。
【0091】
さらに、上記したように、カルマンフィルタKFに前回の観測値が入力される、換言すれば、更新された今回の代表粒子データPAaは、前回の観測値も加味されるため、予測精度を向上させることができる。また、予測精度の向上に伴って、後段の重み付け部323b以降の処理において、今回の粒子データPb1〜Pb8の数を前回の粒子データPa1〜Pa8の数よりも減らすことができるため、レーダ装置1の処理負荷を低減することができる。なお、カルマンフィルタKFに前回の観測値を入力することとしたが、これに限らず、前回のフィルタ値である物標データを入力してもよい。
【0092】
次に、
図8を用いて、今回の粒子データPbに対するカルマンフィルタKFの出力結果の反映方法について説明する。
図8には、カルマンフィルタKF適用前である前回の代表粒子データPAと、カルマンフィルタKF適用後である今回の代表粒子データPAaとを示している。なお、代表粒子データPAを生成せずに、前回の粒子データPaすべてにカルマンフィルタKFを適用する場合、
図8に示す反映方法は省略される。
【0093】
また、
図8に示すように、予測部321bは、カルマンフィルタKFの処理とは別に、前回の粒子データPa1〜Pa8から今回の粒子データPb1〜Pb8を運動モデルに従って予測する処理を行う。
【0094】
そして、予測部321bは、カルマンフィルタKFにおける更新部KF3によって更新された今回の代表粒子データPAaに基づいて今回の粒子データPb1〜Pb8それぞれから誤差を除去することで、最終的な今回の粒子データPb1〜Pb8を予測する。
【0095】
具体的には、
図8に示すように、予測部321bは、カルマンフィルタKFとは別に生成した今回の粒子データPb1〜Pb8の平均に相当する代表粒子データPBを生成する。換言すれば、今回の代表粒子データPBは、カルマンフィルタKFを通していない予測粒子データであり、今回の代表粒子データPAaは、カルマンフィルタKFを通した予測粒子データである。すなわち、今回の代表粒子データPAaは、真値との誤差が最小となる予測粒子データであり、今回の代表粒子データPBは、真値との誤差が比較的大きい予測粒子データである。
【0096】
そして、予測部321bは、代表粒子データPBと代表粒子データPAaとを比較する。具体的には、予測部321bは、代表粒子データPBと代表粒子データPAaとの差分を算出する。かかる差分が代表粒子データPBに含まれる誤差となる。
【0097】
そして、予測部321bは、算出した誤差を今回の粒子データPb1〜Pb8すべてに反映する。つまり、予測部321bは、今回の粒子データPb1〜Pb8すべてに同じ誤差が含まれていると仮定し、かかる今回の粒子データPb1〜Pb8それぞれから誤差を除去する。換言すれば、予測部321bは、今回の粒子データPb1〜Pb8それぞれに誤差を反映することで、真値との差が最小となる今回の粒子データPb1〜Pb8を予測する。
【0098】
このように、代表粒子データPBおよび代表粒子データPAaを比較して全ての粒子データPb1〜Pb8に反映することで、カルマンフィルタKFの処理負荷を抑えつつ予測精度を向上させることができる。
【0099】
次に、
図9〜
図10を用いて、実施形態に係るレーダ装置1が実行する処理の処理手順について説明する。
図9は、実施形態に係るレーダ装置1が実行する処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0100】
図9に示すように、まず、検出部32aは、周波数変調された送信波と物標による送信波の反射波とに基づいて物標に対応する観測値を検出する(ステップS101)。
【0101】
つづいて、フィルタ処理部32bの予測部321bは、パーティクルフィルタにおける粒子データであるパーティクル値計算を行う(ステップS102)。具体的には、予測部321bは、前回(1つ前の周期)用いられた粒子データPaを取得する。
【0102】
つづいて、予測部321bは、パーティクルフィルタにおける前回の粒子データPaから今回の粒子データPbへの予測処理において、カルマンフィルタKFによる処理を行う(ステップS103)。
【0103】
つづいて、予測部321bは、カルマンフィルタKFによって更新された今回の代表粒子データPAaに基づいて今回の粒子データPbを予測する(ステップS104)。つづいて、割り当て部322bは、今回の粒子データPbに今回の観測値を割り当てる(ステップS105)。
【0104】
つづいて、重み付け部323bは、今回の観測値に基づいて今回の粒子データPbそれぞれに重み付けを行う(ステップS106)。つづいて、リサンプリング部324bは、重み付け部323bによる重み付けに基づいて今回の粒子データPbのリサンプリングを行う(ステップS107)。
【0105】
つづいて、データ生成部325bは、リサンプリングされた今回の粒子データPbの確率密度関数を更新し、かかる確率密度関数に基づいて物標データを生成し(ステップS108)、処理を終了する。
【0106】
次に、
図10を用いて、実施形態に係るカルマンフィルタKFが実行する処理の処理手順について説明する。
図10は、実施形態に係るカルマンフィルタKFが実行する処理の処理手順を示すフローチャートである。また、
図10では、
図9のステップS103である「カルマンフィルタによる処理」およびステップS104である「今回の粒子データを予測」する処理の具体的な処理手順を示している。
【0107】
図10に示すように、変換部KF1は、まず、前回の状態データを取得する(ステップS201)。具体的には、変換部KF1は、前回の粒子データPaと、前回の観測値とを取得する。なお、この時、今回の観測値も取得する。
【0108】
つづいて、変換部KF1は、前回の粒子データPaと、前回の観測値と、今回の観測値とに基づいてシグマポイント計算を行うことでシグマポイントsgを生成する(ステップS202)。
【0109】
つづいて、変換部KF1は、アンセンテッド変換(U変換)を行うことで、UTシグマポイントusgを生成する(ステップS203)。つづいて、変換部KF1は、UTシグマポイントusgの平均値uAおよび共分散行列uCを算出する(ステップS204)。
【0110】
つづいて、更新部KF3は、共分散行列uCに基づいて今回の粒子データPbを含む状態データを更新し(ステップS205)、処理を終了する。つまり、ステップS201〜S204がステップS103に対応し、ステップS205がステップS104に対応する。
【0111】
上述してきたように、実施形態に係るレーダ装置1は、検出部32aと、フィルタ処理部32bとを備える。検出部32aは、周波数変調された送信波と物標による送信波の反射波とに基づいて物標に対応する観測値を検出する。フィルタ処理部32bは、検出部32aによって検出された観測値に対して所定数の粒子データPbを対応付けるパーティクルフィルタを施すことによって、観測値に対応する物標データを生成する。また、フィルタ処理部32bは、パーティクルフィルタにおける前回の粒子データPaから今回の粒子データPbへの予測処理において、カルマンフィルタKFを適用して今回の粒子データPbの予測を行う予測部321bを備える。また、予測部321bは、前回の粒子データPaに対応し、前回の粒子データPaよりも少ない個数の代表粒子データPAに対してカルマンフィルタKFを適用する。これにより、パーティクルフィルタにおける粒子データPbの予測精度を向上させることができる。
【0112】
上述した実施形態では、レーダ装置1は車両MCに設けられることとしたが、無論、車両以外の移動体、たとえば船舶や航空機などに設けられてもよい。
【0113】
また、上述した各実施形態では、レーダ装置1の用いる到来方向推定手法の例にESPRITを挙げたが、これに限られるものではない。たとえばDBF(Digital Beam Forming)や、PRISM(Propagator method based on an Improved Spatial-smoothing Matrix)、MUSIC(Multiple Signal Classification)などを用いてもよい。
【0114】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。