特許第6873057号(P6873057)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873057
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】複合磁性体および製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20210510BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20210510BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20210510BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20210510BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20210510BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20210510BHJP
   H01F 1/28 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   H01F1/24
   B22F1/00 W
   B22F1/02 E
   B22F3/00 A
   B82Y30/00
   B82Y40/00
   H01F1/28
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-566495(P2017-566495)
(86)(22)【出願日】2016年4月28日
(86)【国際出願番号】JP2016063345
(87)【国際公開番号】WO2017138158
(87)【国際公開日】20170817
【審査請求日】2018年8月6日
【審判番号】不服2019-15683(P2019-15683/J1)
【審判請求日】2019年11月22日
(31)【優先権主張番号】特願2016-23273(P2016-23273)
(32)【優先日】2016年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、総務省委託研究[電波資源拡大のための研究開発のうち「不要電波の広帯域化に対応した電波環境改善技術の研究開発」]成果に係る特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100180817
【弁理士】
【氏名又は名称】平瀬 実
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 利行
【合議体】
【審判長】 山田 正文
【審判官】 五十嵐 努
【審判官】 井上 信一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−92621(JP,A)
【文献】 特開2006−49729(JP,A)
【文献】 特開2010−80508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F1/12-1/38
B22F1/00-8/00
B82Y5/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平状の軟磁性金属粉末と、前記軟磁性金属粉末の平均厚さよりも小さく、前記軟磁性金属粉末の表面に、水性溶媒を乾燥させて配した絶縁粒子と、前記軟磁性金属粉末および前記絶縁粒子を分散保持する有機結合材を含む複合磁性体であって、
前記軟磁性金属粉末の厚さ方向の断面における前記軟磁性金属粉末の表面の長さ0.2μmあたり前記絶縁粒子を1個以上配し、
前記軟磁性金属粉末の比表面積をSp、前記絶縁粒子の比表面積をSz、前記絶縁粒子の積層数をnとすると、(Sz/2)/Sp=n(nは1)を満たすことを特徴とする複合磁性体。
【請求項2】
前記軟磁性金属粉末の体積粒度分布の積算10%粒子径D10が2μm以上6μm以下、かつ積算90%粒子径D90が8μm以上27μm以下である、請求項1に記載の複合磁性体。
【請求項3】
前記絶縁粒子が、アルミナ、シリカ、マグネシア、チタニア、ジルコニアの少なくとも1種を含む、請求項1または請求項2に記載の複合磁性体。
【請求項4】
前記絶縁粒子の体積抵抗率が1×1013Ω・cm以上である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の複合磁性体。
【請求項5】
前記絶縁粒子の体積粒度分布のメジアン径D50が10nm以上70nm以下である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の複合磁性体。
【請求項6】
扁平状の軟磁性金属粉末を、前記軟磁性金属粉末の平均厚さよりも小さい絶縁粒子を水性溶媒に分散させたpH>7.0のゾルに浸漬した後、前記水性溶媒を乾燥させて前記軟磁性金属粉末の表面に前記絶縁粒子を被覆し、前記軟磁性金属粉末を有機結合材と混練、分散して、前記軟磁性金属粉末の厚さ方向の断面における前記軟磁性金属粉末の表面の長さ0.2μmあたり前記絶縁粒子を1個以上配したシート状に成形することを含み、
前記軟磁性金属粉末の比表面積をSp、前記絶縁粒子の比表面積をSz、前記絶縁粒子の積層数をnとすると、(Sz/2)/Sp=n(nは1)を満たすように、前記軟磁性金属粉末と前記絶縁粒子の配合比を調整することを特徴とする複合磁性体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁ノイズの抑制に用いる複合磁性体に関し、詳しくは扁平状の軟磁性金属粉末の表面に絶縁粒子を配した複合磁性粉を、有機結合材中に分散させて成形した複合磁性体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、高速化に伴って、高周波回路から発生する電磁ノイズが電子機器の誤動作や干渉等の電磁障害の原因となる問題がある。近年はそれらの電磁障害を防止する目的で、磁性体の磁気損失を利用した電磁干渉抑制体、すなわち非磁性結合材中に軟磁性粉末を分散させて薄いシート状に成形した複合磁性体が用いられている。
【0003】
特許文献1には、実質的に扁平状の軟磁性粉末と有機結合剤とからなる複合磁性体において、扁平状の軟磁性粉末は、表面改質用微粉末によってコーティング処理されている複合磁性体が記載されている。
【0004】
また、複合磁性体に用いる磁性粉末の一例として、特許文献2には金属粉に高誘電率微粒子とバインダー樹脂とを被覆するノイズ抑制用複合磁性粉が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−92621号公報
【特許文献2】特開2014−199862号公報
【特許文献3】特開平10−335128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複合磁性体の導電率を低減することは、電子機器への実装に際し、小型化で近接配置された電子部品との絶縁処理を不要とすることもできるため、電子機器の製造コストの抑制に寄与する。
【0007】
また、電磁障害の防止の観点からも、複合磁性体の導電率低減は望ましい。複合磁性体の導電率が高くなると、複合磁性体内部に導通経路が発生して誘電率の誘電成分ε’が発散し、導電成分ε’’の値も上昇することで、複合磁性体としての高周波における導電率σ(=ε’’・2πf。fは周波数)も高くなる。したがって、不要電磁波の反射が増加するとともに、誘電成分ε’によるLC共振が低周波側へシフトすることにより、ノイズ源との減結合(デカップリング)の高周波特性が劣化する。このようなデカップリングを改善するには、透磁率と導電率について適切な設定をすべきであることを本発明者は見出した。
【0008】
通常、デカップリングの改善には、透磁率の向上が必要と考えられる。複合磁性体を軟磁性金属粉末と有機結合材のみで形成した場合、導電率を低減するためには、個々の軟磁性金属粉末を被覆するに足りる十分な有機結合材を配合する必要があり、複合磁性体における軟磁性金属粉末の充填密度を高めることが困難となる。したがって、複合磁性体として機能するためには相当の厚みが必要となり、軟磁性金属粉末間の距離が大きくなって磁気的な結合が低下し、複合磁性体の透磁率が低下する。
【0009】
また、デカップリングの改善には、導電性の低下が必要と考えられる。複合磁性体における軟磁性金属粉末の配合率を増やして充填密度を高めると、複合磁性体の透磁率の低下は防ぐことができるが、相対的に有機結合材の比率が低下して導電性が高くなり、高周波領域でのノイズ抑制効果が低下するという課題がある。これらのデカップリングに関するトレードオフの条件を解決するためには、特許文献1のように軟磁性金属粉末自体に絶縁処理を施す構成が有効であり、金属粉末に対する絶縁処理の一例として特許文献2および特許文献3に示すような方法が提案されている。
【0010】
軟磁性粉末に表面改質用微粉末を形成する手段として、特許文献1に記載された熱プラズマ法による微粒子コーティング等を用いる場合、特殊な製造設備や作業工程が必要となるため、製造コストが高くなるという課題がある。また、熱プラズマ法による微粒子コーティングでは、軟磁性粉末の表面に表面改質用微粉末を均一に形成することは困難であり、絶縁性が不十分になるという課題もある。具体的には、特許文献1における熱プラズマ法によるコーティングを粒子の集合体である粉末へ被覆する場合、粉末表面に存在する粒子の一方の表面には表面改質用微粉末が被覆されるものの、他方の裏面には被覆されず、さらに、粉末内部の粒子への被覆まではされないという課題がある。
【0011】
また、特許文献2に記載された技術では、軟磁性粉末と高誘電率微粒子とバインダー樹脂をミル装置で攪拌することにより微粒子コーティングが可能となり、特許文献1の方法よりも簡便で製造コストが低くなる一方、軟磁性粉末にバインダー樹脂を均一にコーティングする構成は、前記のように軟磁性粉末間の距離が大きくなって複合磁性体の透磁率が低下するという課題がある他、バインダー樹脂が既に粉末表面で硬化された粉末をシート状等の複合磁性体として形成する手段が開示されておらず、このような有形の複合磁性体の作製が不可能又は困難であるという課題がある。
【0012】
また、特許文献3に記載された技術では、強磁性金属粉末と酸化チタンゾルまたは酸化ジルコニウムゾルを混合することにより強磁性金属粉末にコーティングしており、特許文献1の方法よりも簡便で製造コストが低くなる。しかしながら、段落[0020]にもあるように、特許文献3に記載された技術では、耐熱性樹脂を添加しなければ、強磁性金属粉末の表面を均一に覆うように酸化粒子を付着させることは容易ではなく、絶縁性が不十分になるという課題がある。また、耐熱性樹脂を添加する構成では、強磁性金属粉末と酸化粒子の間に少なからず耐熱性樹脂が介在するため、強磁性金属粉末の表面に酸化粒子が密着することは困難となり、絶縁性の低下を招くという課題がある。
【0013】
本発明は前記従来技術の課題を解決するためになされたものであり、低い導電率と高い透磁率を両立しつつ、適切に設定するとともに、減結合(デカップリング)の生じる周波数帯がより高周波に及ぶ複合磁性体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、扁平状の軟磁性金属粉末と、前記軟磁性金属粉末の平均厚さよりも小さく、前記軟磁性金属粉末の表面に配する絶縁粒子と、前記軟磁性金属粉末および前記絶縁粒子を分散保持する有機結合材を含む複合磁性体であって、前記軟磁性金属粉末の厚さ方向の断面における前記軟磁性金属粉末表面の長さ0.2μmあたり前記絶縁粒子を1個以上配することを特徴とする複合磁性体により前記課題を解決する。
【0015】
また、本発明の複合磁性体は、前記軟磁性金属粉末の体積粒度分布の積算10%粒子径D10が2μm以上6μm以下、かつ積算90%粒子径D90が8μm以上27μm以下とすることが好ましい。
【0016】
また、本発明の複合磁性体は、前記絶縁粒子が、アルミナ、シリカ、マグネシア、チタニア、ジルコニアの少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0017】
また、本発明の複合磁性体は、前記絶縁粒子の体積抵抗率が1×1013Ω・cm以上とすることが好ましい。
【0018】
また、本発明の複合磁性体は、前記絶縁粒子の体積粒度分布のメジアン径D50が10nm以上70nm以下とすることが好ましい。
【0019】
また、本発明の複合磁性体の製造方法は、前記絶縁粒子を水性溶媒に分散させたpH>7.0のゾルに、前記軟磁性金属粉末を浸漬した後、前記水性溶媒を乾燥させて前記軟磁性金属粉末の表面に前記絶縁粒子を被覆し、前記軟磁性金属粉末を前記有機結合材と混練、分散して、前記軟磁性金属粉末の厚さ方向の断面における前記軟磁性金属粉末の表面の長さ0.2μmあたり前記絶縁粒子を1個以上配したシート状に成形することを特徴とする。
【0020】
ノイズ抑制に用いる複合磁性体においては、扁平状の軟磁性金属粉末の間隔、特に粉末の厚み方向の距離を短縮するほど磁気的な結合が強くなって透磁率が高くなり、透磁率が高くなるほど電磁ノイズの抑制に必要な損失成分μ’’が向上する。
【0021】
一方、軟磁性金属粉末間の導電率が低いほど、誘電率が低下して減結合の高周波領域における周波数特性は向上する。従って、軟磁性金属粉末の表面にごく薄い絶縁被覆を施して導電率を低下させることは、複合磁性体の特性として好ましい。
【0022】
しかしながら、複合磁性体においては、有機結合剤の配合率を増やしたり、軟磁性金属粉末にバインダー樹脂の被覆による絶縁コーティングを施したりすることは、個々の軟磁性金属粉末の距離が大きくなって複合磁性体の透磁率が低下するため好ましくない。
【0023】
また、熱プラズマ法等による軟磁性金属粉末の絶縁コーティングは、製造コストの低減が困難なため、安価な電子機器用途の複合磁性体には適用が難しい。
【0024】
本発明の複合磁性体は、扁平状の軟磁性金属粉末の表面に軟磁性金属粉末の平均厚さよりも小さい絶縁粒子を配し、個々の軟磁性金属粉末を有機結合材によって分散保持するものであり、軟磁性金属粉末の厚さ方向の断面における軟磁性金属粉末表面の長さ0.2μmあたり絶縁粒子を1個以上、すなわち軟磁性金属粉末を構成する全ての軟磁性金属粒子の表面に絶縁粒子を均一に配することで、個々の軟磁性金属粉末は絶縁粒子により隔てられて高い絶縁性を有するとともに、有機結合材は軟磁性金属粉末の分散保持に必要なだけにとどめることが可能となるため、個々の軟磁性金属粉末の距離も小さくすることができる。なお、本発明では上記軟磁性金属粉末に、一部絶縁粒子で被覆されていない別の軟磁性金属粉末を混合し、作製した複合磁性体を排除してはいない。
【0025】
また、軟磁性金属粉末の表面に絶縁粒子を形成するためには、小さい粒子サイズに適しており、軟磁性金属粉末表面の均一な被覆が可能で製造コストも低いことから、絶縁粒子を水性溶媒に分散させたゾルに軟磁性金属粉末を浸漬し、乾燥させる方法が好適である。ゾルは、軟磁性金属粉末を腐食させないよう、pH>7.0のアルカリ性であれば良い。ゾルのpHが弱アルカリ性であると、軟磁性金属粉末の表面はカチオンであるため、ゾルと軟磁性金属粉末を混合するだけで電気的な力により絶縁粒子が軟磁性金属粉末表面と結合する。なお、絶縁粒子のゾル中での分散性と金属粉末表面への付着性や、有機結合材との密着性が低下する場合は、pHを弱アルカリ性の7.0を超過し、8.2以下の範囲にとどめることもできる。
【0026】
絶縁粒子を被覆した軟磁性金属粉末を、有機結合材と混練、分散してシート状に成形することで、本発明の複合磁性体を得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、低い導電率と高い透磁率を両立するとともに、減結合の生じる周波数帯がより高周波に及ぶ複合磁性体の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明による複合磁性体の断面構造を示す模式図である。
図2】本発明による複合磁性体における、絶縁粒子で覆われた軟磁性金属粉末のSEM観察写真である。(a)はD50=70nmのジルコニア粒子により被覆された軟磁性金属粉末を示し、(b)は(a)の表面を拡大した写真である。(c)はD50=12nmのジルコニア粒子により被覆された軟磁性金属粉末を示し、(d)は(c)の表面を拡大した写真である。
図3】複合磁性体の誘電率の周波数特性を示す図であり、(a)は実施例1による誘電率の周波数特性を示す図であり、(b)は比較例1による複合磁性体の誘電率の周波数特性を示す図である。
図4】本発明による複合磁性体のRdaの周波数特性を示す図である。
図5】実施例1と比較例1の複合磁性体の適用例を示す模式図であり、(a)は通信機器100の内部構造の断面を示す模式図であり、(b)は通信機器100をモデル化した評価系200を示す模式図である。
図6】実施例1と比較例1の減結合の周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0030】
(実施の形態)
図1は本発明による複合磁性体の断面構造を示す模式図である。図1に示すように、本実施の形態に係る複合磁性体の構成は、扁平状の軟磁性金属粉末1と、軟磁性金属粉末の平均厚さよりも小さく、磁性金属粉末の表面に配する絶縁粒子2と、軟磁性金属粉末1および絶縁粒子2を分散保持する有機結合材3からなる。
【0031】
複合磁性体の導電率を低下させるため、軟磁性金属粉末1の層間に、軟磁性金属粉末1の厚さ方向の断面における軟磁性金属粉末1の表面の長さ0.2μmあたり絶縁粒子2を1個以上配することで、所望の特性を得るものである。図2(a)〜(d)は、本発明の軟磁性金属粉末のSEM観察写真である。軟磁性金属粉末1の表面が絶縁粒子2でほぼ完全に覆われている。
【0032】
軟磁性金属粉末として、例えば1GHz以上の周波数帯で大きな磁気損失μ’’を得るためには、磁気共鳴周波数を伸ばすとともに大きなμが必要である。更に、扁平状の粉末に加工可能な延性を有することも必要となるため、飽和磁束密度Bsが1T以上の軟磁性金属材料としてFeおよびその合金、具体的にはFe、Fe−Si、Fe−Al、Fe−Cr、Fe−Si−Al等を用いることが好ましい。
【0033】
なお、軟磁性金属粉末は要求される磁気特性や対象とする周波数帯により、適宜その材料を選定、組み合わせても良い。例えば、Fe系合金よりも飽和磁束密度が低いNi系合金、例えばNi−Fe等を用いることもできる。
【0034】
軟磁性金属粉末の粒径としては、複合磁性体中における軟磁性金属粉末の密度を低下させずに必要な磁気特性を得るため、体積粒度分布の積算10%粒子径D10が2μm以上6μm以下、かつ積算90%粒子径D90が8μm以上27μm以下とすることが好ましい。
【0035】
絶縁粒子としては、体積抵抗率が高く、かつ成形時の加圧によっても変形せずに軟磁性金属粉末の粒子間隔を保持することが必要であり、酸化物系絶縁材料が適している。特に、本発明の複合磁性体に好適なものは、アルミナ、シリカ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、またはそれらの少なくとも1種を含む材料であって、体積抵抗率が1×1013Ω・cm以上、体積粒度分布のメジアン径D50が10nm以上70nm以下であればなお良い。D50が10nm未満だと軟磁性金属粉末間の絶縁性が不十分となり複合磁性体の導電率が高くなる。また、D50が70nmを越えると軟磁性金属粉末間の距離が140nm以上と大きくなり磁気的な結合が低下し、複合磁性体の透磁率が低下する。
【0036】
軟磁性金属粉末の表面に絶縁粒子を形成する方法としては、前記の絶縁粒子を水性溶媒に分散させた、pH>7.0、より好ましくは弱アルカリ性となるpH7.0を超過し、8.2以下としたゾルに、軟磁性金属粉末を浸漬し、加熱乾燥することが好ましい。金属軟磁性扁平粉の比表面積(Sp)と絶縁粒子の比表面積(Sz)より、絶縁粒子の積層数をnとすると、(Sz/2)/Sp=nとなるように、各配合比を調整する。軟磁性金属粉末表面に均一に絶縁粒子を形成するため、nは1以上とすることが好ましい。また、絶縁粒子の積層数が多すぎると軟磁性金属粉末間の距離が広がり、磁気的な結合が低下して複合磁性体の透磁率が低下するため、nは2以下とすることが好ましい。
【0037】
有機結合材としては、絶縁粒子を表面に配した軟磁性金属粉末の分散および保持と、成形の容易さを備えるものであれば、材質に特段の制限はない。例えば、アクリルゴム、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。また、軟磁性金属粉末と有機結合材の結合性向上や難燃性の付与が必要な場合は、公知のカップリング剤や難燃剤を添加しても良い。
【0038】
表面に絶縁粒子を形成した軟磁性金属粉末を、前記の有機結合材と混練、分散してシート状に成形することにより、本発明の複合磁性体を得る。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0040】
(実施例1)
軟磁性金属粉末としてカルボニル鉄粉、絶縁粒子としてジルコニア粒子を用いて実施の形態に示す複合磁性体を作製した。
【0041】
市販のカルボニル鉄粉末を、湿式アトライターにて粉砕処理を行い、粉砕後のスラリーを真空乾燥機にて乾燥させた後メッシュで分級し、比表面積Sp=2.2 m/gの扁平状の軟磁性金属粉末を得た。
【0042】
絶縁粒子として粒子径D50=12nmで比表面積Sz=41.7 m/g のジルコニア粒子を、固形分10wt%となるように分散剤、水とともに混合し、超音波分散機にて分散処理を行い、pH7.4のジルコニアゾルを得た。
【0043】
扁平状軟磁性金属粉末の1粒子表面に1層のジルコニアナノ粒子が付くよう、すなわち(Sz/2)/Sp=1となるようにジルコニアゾルの添加量を決定し、決定した量のジルコニアゾルと金属軟磁性粉末を混合し、その後大気中オーブンで乾燥させ、表面がジルコニア粒子で被覆された軟磁性金属粉末を得た。図2(c)、図2(d)に示すように、得られた複合磁性体の走査型電子顕微鏡(SEM)像から、軟磁性金属粉末の表面にジルコニア粒子がほぼ均一に固着していることが確認できた。
【0044】
前記のジルコニアナノ粒子で被覆された扁平状カルボニル鉄粉を50vol%、アクリルゴムを40vol%、シランカップリング剤を10vol%で配合し、自転・公転ミキサーAR−100(株式会社シンキー製)を用いて12分間混合し、塗液を作製した。
【0045】
前記の塗液を、ベーカーアプリケーターを用いてポリエステルシート上に塗工成膜を行い、乾燥させてグリーンシートを作製した。次に、成膜したグリーンシートを積層して熱圧着を行い、厚み100μmのシート状の複合磁性体を得た。得られた複合磁性体を切断した走査型電子顕微鏡(SEM)像から、軟磁性金属粉末の厚さ方向の断面における軟磁性金属粉末の表面の長さ0.2μmあたりに絶縁粒子であるジルコニア粒子が1個以上配されていることを確認した。シート状複合磁性体の表面抵抗は1.5×10Ω、シート密度は3.8g/ccであった。
【0046】
(比較例1)
扁平状の軟磁性金属粉末に絶縁粒子を被覆させない事以外、実施例1と同様にして、厚み100μmのシート状の複合磁性体を得た。シート状複合磁性体の表面抵抗は2.5×10Ω、シート密度は4.3g/ccであった。
【0047】
実施例1および比較例1のシート状複合磁性体を外径7.9mm、内径3.05mm、厚さ100μmのトロイダル形状に打ち抜き、インピーダンスマテリアルアナライザE4991A(Agilent technology)と磁性体測定治具16454A(Agilent technology)で面内の透磁率を測定した。周波数に対しフラットなμ’の値は、実施例1は18で、比較例1は24であった。比較例1の軟磁性金属粉末間の距離が実施例1の距離よりも小さい構成であったため、磁気的な結合が強まり、比較例1の透磁率が高い値となったが、表面抵抗が2.5×10Ωと非常に低く、絶縁性が不十分であった。一方、実施例1の表面抵抗は1.5×10Ωと高く、かつ透磁率の低下は18程度に抑制できている。
【0048】
実施例1および比較例1のシート状複合磁性体を外径7.00mm、内径3.05mm、厚さ100μmのトロイダル形状に打ち抜き、ネットワークアナライザENA E5080A(KEYSIGHT technology)と伝送線路法同軸型サンプルホルダーCSH2−APC7(株式会社関東電子応用開発)で面内の誘電率を測定した結果を図3に示す。実施例1の0.1GHzにおけるε’10の値は137であり、ε’’11の値は17で、比較例1の0.1GHzにおけるε’12の値は320であり、ε’’13の値は116であった。ε’およびε’’ともに実施例1は比較例1より低減していることを確認した。
【0049】
実施例1および比較例1のシート状複合磁性体を縦40mm、横40mm、厚さ100μmのシートを切り出し、国際規格IEC62333-2に規定される方法で測定した結果を図4に示す。実施例1のRda(Intra−decoupling ratio)は1.1GHzまでRda>0であり、比較例1のRdaは0.7GHzまでRda>0であった。実施例1に示す複合磁性体は比較例1に示す複合磁性体よりも減結合している周波数が伸びていることを確認した。
【0050】
次に、実施例1および比較例1のシート状複合磁性体の特性について詳細に説明する。
【0051】
図5(a)は、実施例1および比較例1のシート状複合磁性体を適用する携帯電話等の通信機器100の内部構造の断面を示す模式図である。図5(a)に示すように、通信機器100は、電子部品21と、アンテナ22と、金属筐体23とを含んでいる。
【0052】
ここで、通信機器100において、電子部品21はノイズを発生するノイズ源である。この場合、電子部品21から発生するノイズは、反射領域110において金属筐体23を介してアンテナ22に干渉する。このようなノイズを抑制する方法として、通信機器100の内部において金属筐体23に磁性シートを貼付してノイズを抑制する方法が知られている。
【0053】
図5(b)は、図5(a)に示す通信機器100の内部構造を模した評価系200を示す模式図である。評価系200は、ノイズ源Txと、アンテナRxと、金属板24と、磁性シート25とを含んでいる。ここで、ノイズ源Txは、図5(a)における電子部品21に対応する。アンテナRxは図5(a)におけるアンテナ22に対応する。金属板24は、図5(a)における金属筐体23に対応する。
【0054】
磁性シート25は、金属板24の表面に貼り付けられている。この場合、ノイズ源Txが発するノイズは金属板24に貼付されている磁性シート25を介してアンテナRxに干渉する。
【0055】
評価系200において、上述の実施例1、および比較例1のシート状複合磁性体を磁性シート25として用いた場合の減結合の周波数特性を比較した。具体的には、周波数が0〜9GHzの領域における、ノイズ源TxとアンテナRxとの間で生じる結合の減衰量を確認した。
【0056】
図6は、評価系200における、実施例1および比較例1の減結合の周波数特性を示すグラフである。具体的には、図6の横軸は周波数(GHz)を示し、縦軸はノイズ源TxとアンテナRxとのカップリング(dB)を示している。図6において、第1周波数特性31は実施例1の周波数特性であり、第2周波数特性32は比較例1の周波数特性である。
【0057】
図6を参照すると、第1周波数特性31に示されるように、実施例1は周波数が0〜9GHzの全体域において減結合していることが示されている。一方、第2周波数特性32に示されるように、比較例1は周波数が3.6〜6.2GHzの領域でノイズの結合が生じている。
【0058】
具体的には、評価系200における実施例1のカップリングは計測を行った9GHzまでの範囲でカップリング<0であったが、評価系200における比較例1のカップリングは3.5GHzまでカップリング<0であった。すなわち、評価系200における実施例1の複合磁性体は比較例1の複合磁性体よりも、減結合の生じる周波数帯が高周波に及んでいる。
【0059】
したがって、図6に示されるように、実施例1に示す複合磁性体は、比較例1に示す複合磁性体と比較して、良好に減結合させることができることを確認した。
【符号の説明】
【0060】
1 軟磁性金属粉末
2 絶縁粒子
3 有機結合剤
10、12 ε’
11、13 ε’’
21 電子部品
22 アンテナ
23 金属筐体
24 金属板
25 磁性シート
31 第1周波数特性
32 第2周波数特性
100 通信機器
110 反射領域
200 評価系
図1
図2
図3
図4
図5
図6