(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873075
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】金属部品の接合構造
(51)【国際特許分類】
B23K 9/23 20060101AFI20210510BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20210510BHJP
A61M 25/09 20060101ALI20210510BHJP
B23K 9/235 20060101ALI20210510BHJP
B23K 26/323 20140101ALI20210510BHJP
B23K 1/19 20060101ALI20210510BHJP
B23K 1/20 20060101ALI20210510BHJP
B23K 103/18 20060101ALN20210510BHJP
【FI】
B23K9/23 H
A61M25/00 500
A61M25/09 500
B23K9/235 Z
B23K26/323
B23K1/19 Z
B23K1/20 Z
B23K103:18
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-46070(P2018-46070)
(22)【出願日】2018年3月13日
(65)【公開番号】特開2019-155431(P2019-155431A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2021年3月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518087465
【氏名又は名称】株式会社ウチダ
(74)【代理人】
【識別番号】100080654
【弁理士】
【氏名又は名称】土橋 博司
(72)【発明者】
【氏名】内田 和章
(72)【発明者】
【氏名】花形 保
【審査官】
黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−92778(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0188261(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0235336(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第103534599(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 − 9/32
B23K 26/00 − 26/70
B23K 1/00 − 3/08
A61M 25/00
A61M 25/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni−Ti製金属部品とステンレス製金属部品との接合構造であって、接合部位の各金属部品上に設けた第1のCoメッキ層と、前記第1のCoメッキ層上に設けた銀、金、白金、ロジュウム、ニッケル、コバルト、銅のいずれかを含む金属被膜と、前記金属被膜上に設けた第2のCoメッキ層とを備え、該メッキ層を介してNi−Ti製金属部品とステンレス製金属部品の両者を溶接してなることを特徴とする金属部品の接合構造。
【請求項2】
Ni−Ti製金属部品とステンレス製金属部品との接合構造であって、接合部位の各金属部品上に設けた第1のCoメッキ層と、前記第1のCoメッキ層上に設けた銀、金、白金、ロジュウム、ニッケル、コバルト、銅のいずれかを含む金属被膜と、前記金属被膜上に設けた第2のCoメッキ層とを備え、該メッキ層を介してNi−Ti製金属部品とステンレス製金属部品の両者をロー付けしてなることを特徴とする金属部品の接合構造。
【請求項3】
前記第1のCoメッキ層、または前記第2のCoメッキ層は、スピネル構造の四酸化三コバルト(Co3O4)を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の金属部品の接合構造。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の金属部品の接合構造におけるメッキ層が、800℃〜960℃の高温処理を施して、前記第1のCoメッキ層、または前記第2のCoメッキ層の一部を、スピネル構造の四酸化三コバルト(Co3O4)に変えることを特徴とする金属部品の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、医療現場等で使用することのできる形状回復性を備えた金属部品の接合構造に係り、種々の医療現場で治療用ワイヤ等として使用するのに有効な金属部品の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場等で治療用ワイヤ等として使用する金属部品としては耐腐食性等の観点からステンレス鋼が用いられているが、例えばステンレス製からなる医療用ワイヤの先端にNi−Ti合金製のワイヤを取り付けてその形状回復機能を利用できるようにした種々の治療用ワイヤのニーズが生じてきている。
【0003】
しかし、金属製ワイヤからなる医療用ワイヤの先端に形状記憶合金であるNi−Ti(ニッケル−チタン)合金ワイヤを接合しようとすると両者の相性が非常に悪く、ロー付けや溶接するのが困難であった。
また、金属製ワイヤからなる医療用ワイヤの先端にNi−Ti合金ワイヤを接合する際の接触面積が非常に小さいため、2つの金属部品の表面を接触させて接合する場合に接合強度が充分に得られないという問題があった。
【0004】
他方、特開2014−51685号公報(特許文献1参照)において、ステンレス鋼の母材と、前記ステンレス鋼の上に設けた第1のCoメッキ層と、前記第1のCoメッキ層の上に設けた銀被膜と、前記銀被膜の上に第2のCoメッキ層とを設けた金属部品が提案されており、この金属備品は高温雰囲気下で使用することのできる高温電気伝導性を備え、特に燃料電池の電流取り出し端子や高温用の電気伝導ワイヤとして使用するのに有効であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−51685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記特開2014−51685号公報(特許文献1参照)の発明は、あくまで高温雰囲気下で使用することのできる高温電気伝導性を備えた金属部品に係り、特に燃料電池の電流取り出し端子や高温用の電気伝導ワイヤとして使用することを目的とするものであって、何ら金属製ワイヤからなる医療用ワイヤの先端にNi−Ti合金ワイヤを接合するための技術を開示しているものではなかった。
【0007】
本発明者らが金属製ワイヤからなる医療用ワイヤの先端にNi−Ti合金ワイヤを接合するための技術について鋭意研究してきた結果、前記特開2014−51685号公報(特許文献1参照)の発明を活用することにより、金属製ワイヤからなる医療用ワイヤの先端にNi−Ti合金ワイヤを高い強度で接合することができることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわちこの発明の金属部品の接合構造は、Ni−Ti製金属部品とステンレス製金属部品との接合構造であって、接合部位の各金属部品上に設けた第1のCoメッキ層と、前記第1のCoメッキ層上に設けた銀、金、白金、ロジュウム、ニッケル、コバルト、銅のいずれかを含む金属被膜と、前記金属被膜上に設けた第2のCoメッキ層とを備え、該メッキ層を介してNi−Ti製金属部品とステンレス製金属部品の両者を溶接してなることを特徴とするものである。
【0009】
またこの発明の金属部品の接合構造は、Ni−Ti製金属部品とステンレス製金属部品との接合構造であって、接合部位の各金属部品上に設けた第1のCoメッキ層と、前記第1のCoメッキ層上に設けた銀、金、白金、ロジュウム、ニッケル、コバルト、銅のいずれかを含む金属被膜と、前記金属被膜上に設けた第2のCoメッキ層とを備え、該メッキ層を介してNi−Ti製金属部品とステンレス製金属部品の両者をロー付けしてなることをも特徴とするものである。
【0010】
この発明の金属部品の接合構造において、前記第1のCoメッキ層、または前記第2のCoメッキ層は、スピネル構造の四酸化コバルト(Co
3O
4)を含むことをも特徴とするものである。
【0011】
この発明の金属部品の接合方法は、前記金属部品の接合構造におけるメッキ層が、800℃〜960℃の高温処理を施して、前記第1のCoメッキ層、または前記第2のCoメッキ層の一部を、スピネル構造の四酸化三コバルト(Co
3O
4)に変えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明の金属部品の接合構造は、金属製ワイヤからなる医療用ワイヤの先端にNi−Ti合金ワイヤを高い強度で接合することができる。したがって、接合部位のワイヤをあまり太くすることなく前記両者を接合することができ、非常に付加価値の高いカテーテル等の治療用ワイヤを提供することができる。
【0013】
また、メッキ層の形成工程と、溶接やロー付けという接合工程という非常に簡易な工程で高い強度の金属部品の接合構造を提供することが可能となり、低コストで付加価値の高いカテーテル等の治療用ワイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)〜(c)はこの発明の金属部品の接合構造の1実施例を示す概略断面図である。
【
図2】(a)〜(c)は他の実施例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態を図面に基いて説明する。
図1に示すように、本実施形態の金属部品の接合構造11は、まず
図1(a)のようにFe(鉄)基合金、Ni(ニッケル)基合金、Co(コバルト)基合金等の高融点の第1の金属部品(例えばステンレス鋼等)12と、Ni−Ti製の形状記憶合金からなる第2の金属部品13を用意する。
そして前記金属部品12,13どうしを先端で突き合わせ、その表面に
図1(b)のように銀メッキにより銀被膜15を形成してなるものである。この場合、銀メッキを施す前に予めCoメッキを施してCoメッキ層14を下地層として形成しておき、その上で銀メッキを施すことにより銀被膜15が形成されている。
その上で、
図1(c)のように銀被膜15を形成した状態で前記金属部品12,13をロー付けするのである。図において16はロー付け層である。
【0016】
このように本実施形態の金属部品12,13は、その表面が銀被膜15で覆われているため、両者をロー付けしても接合部位が非常に高い強度を備えており、使用中に各金属部品12,13間が剥がれてしまうことがない。
【0017】
図2は、この金属部品の接合構造の他の実施例を示している。
図2に示すように、本実施形態の金属部品の接合構造21は、まず
図2(a)のようにFe(鉄)基合金、Ni(ニッケル)基合金、Co(コバルト)基合金等の高融点の第1の金属部品(例えばステンレス鋼等)22と、Ni−Ti製の形状記憶合金からなる第2の金属部品23を用意する。
各金属部品22,23の表面には予めCoメッキを施してCoメッキ層24を下地層として形成しておき、その上で銀メッキを施すことにより
図2(b)のように銀被膜25を形成した上、さらにCoメッキを施して第2のCoメッキ層26が施してある。この銀被膜25上の第2のCoメッキ層26は、高温酸化雰囲気中で四酸化三コバルト(Co
3O
4)を形成し、スピネル型構造となる。
したがって、金属部品22の下地母材からのクロム汚染の拡散防止バリヤー層として機能する。
その上で、
図2(b)のように前記金属部品22,23先端を側面で重ね合わせ、
図2(c)のように銀被膜25を形成した状態で前記金属部品22,23をロー付けするのである。図において27はロー付け層である。
【0018】
もちろん、前記実施形態の金属部品12,13ないし金属部品22,23の接合に際しては、前述したようなロー付けのみならず、溶接棒による溶接やレーザ溶接等の溶接手段を用いてもよい。
また前記銀被膜15,25に代えて、金、白金、ロジュウム、ニッケル、コバルト、銅を含む金属被膜を採用することもできる。
【実施例1】
【0019】
次に、この発明の実施例を説明する。表1は、この発明の
図1の実施例と、比較例について強度等の実験を行った結果を示している。
【0020】
実施例としてステンレス鋼(例としてSUS304)と、Ni−Ti製の形状記憶合金とからなる金属部品の接合部位を突き合わせた場合において、接合部位にCoメッキ層を下地層として形成しておき、その上で銀メッキ(第2Coメッキ層の有無)を施したとき、およびCoメッキ層を下地層として形成しない比較例の接合強度について実験を行った。その結果を表1に示す。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0021】
この発明の金属部品の接合構造は以上のように構成したので、種々の医療用ワイヤの用途、例えばカテーテルやステント、検査用ガイドワイヤのみならず、板状やブロック状の金属部品の接合構造としても適用することができる。
【符号の説明】
【0022】
11 金属部品の接合構造
12 第1の金属部品
13 第2の金属部品
14 Coメッキ層
15 銀被膜
16 ロー付け層
21 金属部品の接合構造
22 第1の金属部品
23 第2の金属部品
24 Coメッキ層
25 銀被膜
26 第2のCoメッキ層
27 ロー付け層