特許第6873108号(P6873108)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873108
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】ポリエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/672 20060101AFI20210510BHJP
   C08G 63/80 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   C08G63/672
   C08G63/80
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-513500(P2018-513500)
(86)(22)【出願日】2016年9月14日
(65)【公表番号】特表2018-526521(P2018-526521A)
(43)【公表日】2018年9月13日
(86)【国際出願番号】NL2016050632
(87)【国際公開番号】WO2017048119
(87)【国際公開日】20170323
【審査請求日】2019年8月21日
(31)【優先権主張番号】2015433
(32)【優先日】2015年9月14日
(33)【優先権主張国】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】515337626
【氏名又は名称】フラニックス・テクノロジーズ・ベーフェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ラースロー・シポス
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−530948(JP,A)
【文献】 特開2010−241974(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/137806(WO,A1)
【文献】 特開昭56−002321(JP,A)
【文献】 米国特許第00423859(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0336349(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0024793(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0124763(US,A1)
【文献】 国際公開第2014/204296(WO,A1)
【文献】 特開2014−019827(JP,A)
【文献】 特開2007−146153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン2,5−フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルの製造方法であって、
エステル化工程において、2,5−フランジカルボン酸、2,5−フランジカルボン酸のジアルキルエステル、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される出発物質をエチレングリコールと反応させて、2−ヒドロキシエチル及び2,5−フランジカルボキシレート部分をもつ成分を含むエステル組成物を形成し
うして得られたエステル組成物を、重縮合触媒の存在下、25〜700ミリバールの圧力において行う予備重縮合工程と、0.05〜5ミリバールの低下された圧力において行う重縮合工程にかけて重縮合物を得て;かつ
前記重縮合工程のあいだに、重縮合工程において前記の減圧が達成された後5〜90分で、2,5−フランジカルボン酸を前記エステル組成物に添加する、製造方法。
【請求項2】
前記重縮合工程が、スズ、亜鉛、チタン、アンチモン、及びそれらの組み合わせから選択される1種以上の元素を含む触媒から選択される重縮合触媒の存在下で行われる、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
前記重縮合反応が、205〜280℃の温度で行われる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記エステル組成物に添加される2,5−フランジカルボン酸の量が、エステル化工程において供給される出発物質のモル量を基準にして0.1〜10モル%の範囲である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
結晶化工程において、重縮合物を90〜200℃の温度で2〜48時間結晶化させて半結晶性ポリエステルを得て、半結晶性ポリエステルを180〜220℃の温度において2〜60時間固相重合に付して、固相重合されたポリエステルを得る、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルの製造方法に関する。 特に、本発明は、優れた色を有するポリ(エチレン-2,5-フランジカルボキシレート)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第2551731号明細書には、ジカルボン酸のうち少なくとも1つが複素環を含むジカルボン酸類(例えば2,5-フランジカルボン酸(2,5-FDCA))とグリコールを反応させることによるポリエステルおよびポリエステルアミドの製造が記載されている。 溶融重合条件下で、触媒としてナトリウムメトキシドおよびマグネシウムメトキシドを用いて、2,5-FDCA及び2.5当量のエチレングリコール、あるいは2,5-FDCAジメチルエステル及び1.6当量のエチレングリコールを、160〜220℃の間で常圧にて、それぞれエステル化工程又はエステル交換工程において反応させ、その後190〜220℃の間で、数mmHgの圧力下で重縮合が行われた。重縮合工程は、約5〜7時間以上を要した。 生成物は、報告されている205〜210℃の融点を有し、その溶融物からフィラメントを容易に生成した。
【0003】
米国特許出願公開第2009/0124763号明細書には、ポリマー骨格内に2,5-フランジカルボキシレート部分を有し、185以上600以下の重合度を有するポリエステルが記載されている。 これらのポリマーは、2,5-FDCAのエステル化、またはそのジエステルとジオールとのエステル交換、及び重縮合を含む第2の段階、それに続く第3段階としての固相重合が行われることを含む3段階法で製造される。
【0004】
第1段階は常圧で150〜180℃の範囲内の温度で実施されるが、重縮合段階は180〜230℃の範囲の温度において減圧下で実施される。 次いで、生成物をヘキサフルオロイソプロパノールに溶かし、再沈殿させ、乾燥することにより生成物を精製し、続いて第3工程である、140〜180℃の範囲の温度での固相重合を行う。ポリ(エチレンフランジカルボキシレート)の製造のために、最初の2工程は11時間を超える時間を要した。
【0005】
国際公開第2013/120989号には、ポリ(エチレンフランジカルボキシレート)の連続的な製造法が記載されており、その方法では、2,5-FDCAまたはそのジエステルを昇温した温度でエチレングリコールと混合してペーストまたは均質な溶液を得て、そのペースト又は溶液が2,5-FDCAとエチレングリコールのエステル化生成物に変換され、そのエステル化生成物が減圧下で重縮合され、重縮合は2段階で行われる。一例によれば、2,5-FDCAのジメチルエステルをエチレングリコールと1:1.7のモル比で反応させている。この例では、エステル化生成物の生成後の段階は5時間を要した。重縮合生成物は、必要に応じて固相重合に付すことができる。
【0006】
これらの特許文献は、得られるポリエステルの着色について言及していない。しかしながら、2,5-フランジカルボキシレート含有ポリエステルは着色を受けることが知られている。それらは黄色から茶色になる傾向がある。そのような着色は、例えばP.M. Heertjesら, Delft Progr. Rep., シリーズA:1(1974)59-63及びY.Hachihamaら, Technol. Repts. 大阪大学 1958年, 8巻, 475-480頁において述べられている。
【0007】
国際公開第2010/077133号にはフランジカルボキシレート含有ポリエステルの製造方法が記載されており、その方法では、2,5-FDCAのジエステルをジオールとエステル交換させ、このようにして得られたエステル組成物をさまざまなスズ触媒の存在下での重縮合にかける。重縮合は最長5時間まで行われる。次いで、重縮合物を固相重合に付すことができる。一例では、固相重合は60時間行われた。得られたポリエステルは良好な透明性を有していたが、そのプロセスは非常に長くかかる。改良が国際公開第2013/062408号に記載されており、その改良では2,5-FDCAのジメチルエステルがエチレングリコールを用いてエステル交換されるか、ビス(2-ヒドロキシエチル)-2,5-フランジカルボキシレートが出発物質として使用されている。次いで、エステル交換生成物またはこの出発物質が重縮合に付され、乾燥/結晶化工程の後に、重縮合物が固相重合にかけられる。重縮合は3時間かかることが示された。一例では、固相重合には2日間かかる。国際公開第2012/062408号の方法の目的は、変色することなく高分子量を有するポリエステルを製造することであったが、色に関するいかなる情報も明細書中に提供されていない。
【0008】
韓国特許出願公開第20140003167号には、許容できる透明性を有するポリエステルポリマーが記載されており、それはバイオマス由来の2,5-フランジカルボン酸エステル化合物をエチレングリコールと組み合わせて用いることによって製造されている。比較例においても2,5-フランジカルボン酸が使用されている。 2,5-フランジカルボン酸エステルとエチレングリコールのモル比は、1:1.1〜1:4であることができる。2,5-フランジカルボン酸とエチレングリコールの比は、1:1.2〜1:2の間で変わる。 固相重合は記載されていない。
【0009】
国際公開第2014/204296号には、ジカルボン酸部分(moiety)とジオール部分を含むポリエステルが記載されており、そのジカルボン酸は2,4-フランジカルボン酸を含む。これらのポリエステルは、驚くほど無色またはわずかに黄色であることが記載されている。比較試験において、ポリ-エチレン-2,5-ジカルボキシレートの製造が示されており、その製造では2,4-フランジカルボン酸ジメチルエステルが、エチレングリコールと同義の1,2-エタンジオールと1:2のモル比で反応させられる。溶媒としてHFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した約19,000の数平均分子量が報告されている。このポリエステルの末端基または色に関するいかなる情報も提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第2551731号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0124763号明細書
【特許文献3】国際公開第2013/120989号
【特許文献4】国際公開第2010/077133号
【特許文献5】国際公開第2013/062408号
【特許文献6】韓国特許出願公開第20140003167号
【特許文献7】国際公開第2014/204296号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】P.M. Heertjesら, Delft Progr. Rep., シリーズA:1(1974)59-63
【非特許文献2】Y.Hachihamaら, Technol. Repts. 大阪大学 1958年, 8巻, 475-480頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の文献は、2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルの着色が再発生する問題であることを示している。この問題を緩和する措置があれば歓迎されるだろう。さらに、多くの公知方法の固相重合は非常に長い時間がかかる。したがって、固相重合速度を高めることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、2,5-フランジカルボキシレート化合物およびエチレングリコールの重合を実施する特定の方法が、得られるポリエステルの色および/またはポリエステルが固相重合工程で重合される速度に有益な効果を有することが発見されている。その特徴は、重合プロセス中の特定の時点で、ある量の2,5-フランジカルボン酸が反応混合物に添加されることを伴う。
【0014】
従って、本発明は、エチレン2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルの製造方法を提供し、その方法では、
エステル化工程において、2,5-フランジカルボキシレート化合物をエチレングリコールと反応させて、2-ヒドロキシエチルおよび2,5-フランジカルボキシレート部分を有する成分を含むエステル組成物を形成し;
重縮合工程において、そのようにして得られたエステル組成物を、重縮合触媒の存在下で減圧下において重縮合させて重縮合物を得; そして
その重縮合工程の間に、2,5-フランジカルボン酸をそのエステル組成物に添加する。
【0015】
本発明の方法は、様々な出発物質を用いて実施することができる。上述の特許文献に示されているように、エチレングリコールと反応させるべきフランジカルボキシレート化合物は、酸、ジアルキルエステル、塩化ジアシルおよびそれらの組み合わせから選択することができる。より適切な出発物質は、2,5-フランジカルボン酸および2,5-フランジカルボン酸のジアルキルエステルから選択される。最も好ましい出発物質は、2,5-フランジカルボン酸のジアルキルエステルである。このようなジエステル中のジアルキル基は、好ましくは低級アルキル基、すなわち1〜4個の炭素原子を有するアルキル基である。最も好ましくは、2,5-フランジカルボキシレート化合物は、ジメチル-2,5-フランジカルボキシレート、ジエチル-2,5-フランジカルボキシレート、またはその混合物である。2,5-フランジカルボン酸の添加の効果は、ジメチル-2,5-フランジカルボキシレートなどのジエステルをエステル化工程において反応原料として用いる場合に非常に顕著であることが発見されている。
【0016】
エステル化工程において、反応原料、すなわち2,5-フランジカルボキシレート化合物およびエチレングリコールは、当業者に知られている量で存在し得る。 多くの先行技術文献では、過剰のエチレングリコールを用いることが記載されている。そのような過剰量は、4倍以上の範囲内であり得る。本発明の方法において、2,5-フランジカルボキシレート化合物とエチレングリコールのモル比は、1:1〜1:4、好適には1:1.01〜1:1.4の範囲である。特に、2,5-フランジカルボキシレート化合物が2,5-フランジカルボン酸である場合、2,5-フランジカルボン酸とエチレングリコールのモル比は、好適には1:1.01〜1:2、好ましくは1:1.01〜1:1.5の範囲、好ましくは1:1.01〜1:1.15である。2,5-フランジカルボキシレート化合物が2,5-フランジカルボン酸のジアルキルエステルである場合、2,5-フランジカルボキシレート化合物とエチレングリコールのモル比は、好適には1:1.5〜1:4、好ましくは1:1.6〜1:3.0である。
【0017】
エステル組成物は、2-ヒドロキシエチルおよび2,5-フランジカルボキシレート部分を有する成分を含む。大過剰のエチレングリコールが使用される場合、エステル組成物は、主成分としてビス(2-ヒドロキシエチル)-2,5-フランジカルボキシレートを適切に含みうる。過剰量が少ない場合には、エチレングリコールと2,5-フランジカルボン酸のモノエステルなどの化合物が、エステル組成物、あるいは1,2-ビス(2,5-フランジカルボキシル)-エタン、すなわち1つのエチレングリコール分子が2つの2,5-フランジカルボン酸分子と反応した化合物に含まれることができる。適切には、フランジカルボキシレート化合物が2,5-フランジカルボン酸のジアルキルエステルである場合、過剰のエチレングリコールが使用され、エステル組成物はビス(2-ヒドロキシエチル)-2,5-フランジカルボキシレートを含む。
【0018】
エステル化段階において、2,5-フランジカルボキシレート化合物とエチレングリコールの反応は当該分野で公知である。したがって、2,5-フランジカルボン酸が出発物質として使用される場合、エステル化触媒を使用する必要はないが、そのような触媒の使用を検討してもよいことを、当業者は理解するだろう。エステル化触媒は有利には酸性であり、反応原料の1つは酸であるので、エステル化触媒を使用する必要性はほとんどない。しかしながら、2,5-フランジカルボン酸のジアルキルエステルを出発物質として使用する場合、ビス(2-ヒドロキシエチル)-2,5-フランジカルボキシレートへのジアルキルエステルのエステル交換反応を触媒するエステル化触媒が典型的には使用される。したがって、そのような実施形態では、2,5-フランジカルボキシレート化合物およびエチレングリコールは、エステル化触媒の存在下で適切に反応される。そのような触媒を使用する場合、触媒はブレンステッド酸またはルイス酸であってよい。ブレンステッド酸は、硫酸、硝酸、又は塩酸などの強い無機酸であってよい。適切なルイス酸には、亜鉛、チタン、スズ、カルシウムおよびそれらの混合物からなる群から選択される金属の、塩化物、臭化物、トシレート、アルコキシド、およびトリフラートなどの金属の化合物が含まれる。金属酸の有機エステル、例えば、チタン酸、スズ酸などのアルキルエステルを使用することも可能である。したがって、エステル化触媒は、好ましくは、亜鉛、チタン、スズ、カルシウム、およびアンチモンからなる群から選択される1種以上の金属を含む触媒から選択される。チタン含有触媒または亜鉛含有触媒の使用が特に好ましい。触媒は、それが使用される場合、エステル化反応の開始時から添加されてもよい。
【0019】
エステル化反応においては、揮発性化合物が形成される。 このような揮発性化合物は、例えば、2,5-フランジカルボン酸のジアルキルエステルが出発物質として使用される場合は、放出されたアルコールであり、2,5-フランジカルボン酸が出発物質として使用される場合は水である。エステル化反応時に形成される揮発性化合物を除去することが有利であることが判明している。このように、平衡反応であるエステル化反応を完了させることができる。エステル化混合物からの揮発性化合物の除去は、任意の公知の方法で行うことができる。揮発性化合物を含む蒸気相を凝縮器に通し、液化した揮発性化合物を含む凝縮液を除去することが適している。蒸気相は、典型的にはエチレングリコールも含んでいる。したがって、蒸気相は有利には蒸留システムを通されて、そこで揮発性化合物とエチレングリコールが分離される。エチレングリコールは、適切には、少なくとも部分的に、しかし好ましくは実質的には完全にエステル化混合物へとリサイクルされる。そうして分離された揮発性化合物は排出される。したがって、本発明の方法は、好ましくは、エステル化工程において、エチレングリコール及び2,5-フランジカルボン酸エステル化合物とエチレングリコールとの間の反応時に形成される揮発性化合物が蒸留系で除去されるように実施され、揮発性化合物とともに除去されたエチレングリコールはそこから分離されて、少なくとも部分的にリサイクルされる。
【0020】
形成される揮発性化合物の蒸気相中にエチレングリコールが同伴される程度が、エステル化が実施される温度および他の条件に左右されることが明らかになろう。従来技術で使用される条件には、約180〜280℃の範囲の温度およびほぼ常圧が含まれる。従来技術のプロセスでは、これらの条件が約4時間維持された。本発明の方法においては、2,5-フランジカルボキシレート化合物とエチレングリコールの間のエステル化反応は、160〜240℃の温度で行うことが好ましい。圧力は、好適には0.9〜5バールの範囲であり、反応は有利には0.5〜5時間、好適には1〜4時間継続される。この反応は、不活性雰囲気、例えば窒素、ネオン、ヘリウム、またはアルゴン下で都合よく実施される。特定の実施形態では、出発混合物は希釈剤、例えば水を含んでもよく、それは反応中に適切に排出される。
【0021】
出願人は、2,5-フランジカルボン酸とエチレングリコールのエステル化反応中にジエチレングリコール(DEG)が容易に形成されることを発見している。コリン、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAOH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、カルボン酸の塩類、例えば酢酸カルシウムまたは酢酸ナトリウム、無機酸の塩基塩、例えばNa2SO4およびNa2HPO4、アルカリ金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、あるいは例えば2,4-ナフタレンジカルボキシレート化合物中の残留カルシウムまたはナトリウムは、DEGの生成速度を抑制することができる。好適な用量は、0.01〜1ミリモル/モル2,5-フランジカルボキシレート化合物(1モルの2,5-フランジカルボキシレート化合物当たり0.01〜1ミリモル)、好ましくは0.02〜0.5ミリモル/モル2,5-フランジカルボキシレート化合物(1モルの2,5-フランジカルボキシレート化合物当たり0.02〜0.5ミリモル)、より好ましくは、2,5-フランジカルボキシレート化合物1モル当たり0.04〜0.30ミリモルである。水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、およびNa2HPO4が特に有効であることが判明している。
【0022】
エステル化がバッチ法で行われる場合は、生成される水またはアルカノールの量を測定し、これを100%エステル化における化学量論的に決定された理論水またはアルカノールと比較することによって、反応の進行をモニターすることが可能である。理論量の水またはアルカノールの少なくとも70%が除去されたら、エステル化を停止し、圧力を低下させて重縮合段階を開始する。減圧時、未反応のエチレングリコールは、反応混合物から、気化によって除去される。エステル化の終了の正確なタイミングは試験によって決定され、その後の圧力低下速度および水除去効率に左右されるが、典型的にはバッチ法においては、水またはアルカノール除去の程度は少なくとも70%が適当であり、実質的に100%まで高くなりうる。好ましくは、水またはアルカノールの除去の程度は、70〜100%の範囲である。2,5-フランジカルボン酸が出発物質として使用される場合、エステル化工程は好ましくは96%の点を超えて継続されるべきではない。2,5-フランジカルボン酸のジアルキルエステルを出発物質として使用する場合、アルカノールの化学量論量の少なくとも95%、最も好ましくは約100%が除去されるまで、(トランス)エステル化が最も好ましくは続けられる。
【0023】
この方法が連続的なやり方で実施される場合、エステル化反応の進行は、温度、エチレングリコール供給比、および平均滞留時間の使用によって制御される。系から除去される水またはアルコールの量は、ここでもエステル化反応の程度の指標を与える。連続法においても、除去される水またはアルカノールの量は制御され、エステル化反応は、2,5-フランジカルボキシレート化合物供給原料の100%エステル化に基づいて化学量論量の水またはアルカノールの少なくとも70%が除去されるまで引き伸ばされる。J. Scheirs及びT.E. Long(編集)によるModern Polyesters: Chemistry and Technology of Polyesters and Copolesters, Wiley, 2003年に記載されているような、ポリ(エチレンテレフタレート)の製造のための反応器、装置および制御装置も、本発明によるポリ(エチレン2,5-フランジカルボキシレート)の製造のために有利に使用することができる。
【0024】
エステル化工程の終わりに、エステル組成物を重縮合工程にかける。それに加えて、圧力を低下させ、任意選択により場合によっては重縮合触媒を添加する。圧力を低下させることにより、過剰量のエチレングリコールが除去される。圧力の低下は、重縮合工程における圧力が高くても700ミリバールであるのが適切である。重縮合工程における圧力は、0.05ミリバール程度の低さであってもよい。バッチ法では、エステル化段階で用いられる圧力と比較して圧力が低下される。実際には、圧力の低下には時間がかかりうる。圧力を低下させるプロセスは、0.1〜1.8時間かかりうる。比較的低分子量のエステルが真空系へ持ち込まれるのを防ぐために、圧力をゆっくりと低下させることが有利である。したがって、エステル組成物は、圧力が25〜700ミリバールの範囲にある段階を通過する。この圧力で予備重縮合が起こる。最終的な重縮合は、0.05〜20ミリバールの範囲内の減圧下で起こる。したがって重縮合工程は、25〜700ミリバールの圧力で行われる予備重縮合反応と0.05〜20ミリバールの圧力で行う重縮合反応を好ましくは含む。予備重縮合反応の温度は180〜260℃の範囲であり、重縮合反応は205〜280℃の範囲の温度で行われる。
【0025】
連続法においても、重縮合工程は、そのような予備重縮合反応および重縮合反応を好適には含む。連続法の場合、エステル組成物の温度は、エステル化の開始温度と比較して適切に上昇され、さらに加熱されたエステル組成物は圧力の低下をうける。この圧力の低下により、組成物からエチレングリコールが激減する。圧力の低下後、生成物を減圧に保ち、任意選択で場合によってはさらに加熱して、予備重縮合工程をさらなるエチレングリコールの蒸発下で行い、エチレンフランジカルボキシレートのオリゴマーを得る。この予備重縮合は、連続撹拌槽式反応器または有孔回転ディスクで作動する水平反応器で行うことができる。この予備重縮合反応における圧力は、25〜700ミリバールであることができる。予備重縮合の温度は、好適には180〜260℃である。更なる圧力低下のために、予備重縮合生成物を更なる反応器へと送り、その反応器でさらなる重縮合に導くことができる。そのような重縮合反応のために、ディスク型またはケージ型の反応器を使用することができる。重縮合反応における圧力は、適切には0.05〜20、好適には0.05〜5ミリバールである。予備重縮合の持続時間は、好適には0.5〜2時間の範囲である。
【0026】
予備重縮合工程は、過度の発泡または真空ラインへ持ち込まれることを回避しながら、過剰または未反応のエチレングリコールを除去し、圧力を低下させてその他の揮発性物質の大部分を除去するために使用される。温度を上昇させ、重縮合反応が起こり始め、それに予備重縮合反応によって生成されたエチレングリコールの遊離および除去が伴う。非常に小さなバッチ装置では、同じ反応器を反応の全段階に使用することができる。反応が、大規模なバッチ装置で行われる場合、この工程はエステル化反応と同じ装置で完了することができ、この段階の後、反応混合物は、重縮合反応を促進するための良好な物質移動のために特に設計された容器に移されることができる。あるいは、反応原料混合物は、圧力低下を開始する前に別の容器に移してもよく、その後、予備重縮合および重縮合を単一の容器内で行う。重縮合触媒の添加は、エステル化反応の開始時にすでに行われていてもよく、エステル組成物への触媒のさらなる添加はこの時点では望ましくない。
【0027】
より連続的な操作では、予備重縮合反応は専用の容器中で行われ、典型的には、それとともにオーバーヘッド蒸気がエステル化段階中に生成された蒸気とは別に回収される。このプロセス段階の間、圧力は、典型的には、エステル化時に使用される約1バール以上から約25〜700ミリバール、より好ましくは約20〜100ミリバールへと低下される。
【0028】
その他の化合物、例えば安定化剤も、エステル組成物生成物に添加することができる。安定化剤は酸化防止剤を含むことができる。安定化剤は変色も低減させることが判明している。好ましい安定化剤には、立体障害フェノール化合物、ホスファイト、およびそれらの組み合わせが含まれる。適切な安定化剤は、ホスファイト含有化合物、ホスフェート化合物、ホスホネート化合物、ホスホナイト化合物、およびヒンダードフェノール化合物である。酸化防止剤には、トリアルキルホスファイト、混合アルキル/アリールホスファイト、アルキル化アリールホスファイト、立体障害アリールホスファイト、脂肪族スピロ環式ホスファイト、立体障害フェニルスピロ環化合物、立体障害ビスホスホナイト、アルキルホスフェート、アリールホスフェート、混合アルキル/アリールホスフェート、アルキルホスホノアセテート、ヒドロキシフェニルプロピオネート、ヒドロキシベンジル、アルキルフェノール、芳香族アミン、ヒンダードアミン、ヒドロキノン、およびこれらの混合物などの化合物が含まれる。好ましい安定化剤には、ペンタエリスリトール - ホスファイトの群およびアルキルホスホノアセテートが含まれる。このようなその他の化合物は、バッチまたは他の任意のタイプの操作において添加することもできる。従って、本発明に従って製造されたポリエステルを含有する組成物は、そのような化合物を含んでいてもよい。
【0029】
ポリ(エチレン2,5-フランジカルボキシレート)は静止条件下でゆっくり結晶化するポリエステルである。 核形成剤をポリエステルに添加して核形成密度を増大させ、それにより静止条件下での全体としての結晶化速度を増大させることができる。
【0030】
予備重縮合の後、エステル組成物をさらに重縮合させる。先行技術により知られているように、この段階での圧力はさらに低下される。約5ミリバール未満、好ましくは約3ミリバール未満の圧力を適用してもよい。良好な物質移動、および重縮合反応およびエステル化反応においてそれぞれ遊離されるエチレングリコールおよび水の除去のために、より低い圧力が好ましい。先行技術による重縮合温度には約180〜280℃が含まれる。本発明による重縮合は、好ましくは245〜275℃の温度で、適切には0.05〜5ミリバールの圧力で行われる。これらの条件下で、エステル組成物および形成された重縮合物が溶融段階にあることが確実にされる。重縮合は、1時間〜3時間のあいだ、適切に継続される。好ましくは、予備重縮合工程および重縮合工程を合わせた時間は、1〜5時間、好ましくは1.5〜4時間の範囲である。
【0031】
上で示したように、重縮合は、重縮合触媒の存在下で行われる。多くの重縮合触媒を使用することができる。そのような触媒には、スズ、チタン、亜鉛、アンチモン、カルシウム、マンガン、コバルト、ハフニウム、鉛、マグネシウム、アルミニウム、セリウム、ジルコニウムおよびこれらの混合物から選択される1種以上の元素を含む触媒が含まれる。これらの化合物は、これらの金属の酢酸塩または炭酸塩であってもよい。あるいは、金属アルコキシド、アルキル金属化合物、または他の有機金属化合物も可能である。他の好適な触媒には、挙げた元素の酸化物およびハロゲン化物が含まれる。好ましい触媒には、チタンアルコキシド、酢酸アンチモン、酸化アンチモン、およびアンチモングリコレート(antimony glycolate)、すなわち酸化アンチモンとエチレングリコールとの反応生成物が含まれる。重縮合触媒の量は、出発混合物中の2,5-フランジカルボキシレート化合物のモル数に基づいて、典型的には0.005モル%〜0.2モル%の範囲、好ましくは0.01〜0.10モル%の範囲である。
【0032】
重縮合触媒は、エステル組成物が形成されたときにエステル組成物に添加してもよい。重縮合触媒を2,5-フランジカルボキシレート化合物とエチレングリコールの出発混合物に添加することもでき、それは任意選択により場合によってはエステル化触媒の存在下で添加してもよい。エステル化触媒は、それが存在する場合には、2,5-フランジカルボン酸のモル数に基づいて0.005モル%〜0.2モル%の量で存在するのが適切である。重縮合触媒を、出発混合物中にまたはエステル化プロセスの中間点で添加する場合、形成されたエステル組成物は適切には単離されない。バッチ法では、エステル組成物を形成した後、得られた生成物を好ましくはエステル化が行われる反応ゾーンに保ち、生成物を呼び重縮合工程において減圧下におく。連続法においては、エステル組成物を形成した後、得られた生成物を次の反応容器に移送し、圧力を低下させて、予備重縮合工程を開始するには過剰なエチレングリコールの蒸発を達成する。
【0033】
重縮合工程中に、2,5-フランジカルボン酸をエステル組成物に添加する。エステル組成物が重縮合工程において圧力が20ミリバール以下の圧力に曝されるようになって初めて2,5-フランジカルボン酸がエステル組成物に添加されるのが好ましい。所望する場合、圧力を解放して、2,5-フランジカルボン酸の添加を容易にしてもよい。重縮合工程の前、または圧力が依然として20ミリバールより高い間に2,5-フランジカルボン酸を添加すると、本発明の利点は、添加が後で行われる場合ほど顕著ではないことを発見している。予備重縮合が実施される場合、これは、好ましくは、2,5-フランジカルボン酸の添加は予備重縮合後に行われることを意味する。一方で、添加された2,5-フランジカルボン酸を、形成される重縮合物と反応させるために、添加は、適切には重縮合工程の終了の約0.5時間前よりも後にならないように行う。好適には、2,5-フランジカルボン酸は、重縮合工程における減圧が達成された後5〜90分の時間内にエステル組成物に添加される。
【0034】
添加すべき2,5-フランジカルボン酸の量は変えることができる。いかなる理論にも束縛されることを望まないが、2,5-フランジカルボン酸の添加により、重縮合物のポリマー鎖中の酸末端基の含量が増加すると考えられる。
【0035】
重縮合時、カルボン酸末端基およびヒドロキシル末端基を主に含む、末端基を有するポリマー鎖が形成される。重合がジアルキルエステル、例えば2,5-フランジカルボン酸のジメチルエステルを用いて開始される場合、末端基はいくらかアルキル末端基を含みうる。さらに、可能な脱カルボキシル化反応によって、重縮合物中の末端基はいくらかの脱カルボキシル化末端基あるいはフランカルボン酸末端基を含みうる。ポリエステルが固相重合に供される場合、ポリエステルは、カルボン酸末端基のモル量をヒドロキシル末端基及びカルボン酸末端基のモル量の合計で割り算した分率として表して0.10〜0.7の範囲のカルボン酸末端基の相対含有量を好ましくは有することが有利であることを発見している。そのようなカルボン酸末端基含有量を有するポリエステルの固体粒子を固体重合に付す場合、固体重合の持続時間をかなり短くなりうることを発見している。15〜122ミリ当量/kgのカルボン酸末端基の絶対量が好適であることができ、好ましくは20〜100ミリ当量/kg、より好ましくは37〜90ミリ当量/kg、最も好ましくは40〜75ミリ当量/kgである。
【0036】
一般に、ポリエステル中の末端基を決定する多くの方法がある。そのような方法には、滴定、赤外線および核磁気共鳴(NMR)法が含まれる。4つの主要な末端基である、カルボン酸末端基、ヒドロキシル末端基、アルキルエステル基、例えばメチルエステル末端基(ジカルボン酸のジアルキルエステルからのポリエステルのため)、及び脱カルボキシル化後に得られる末端基を定量するためには、しばしば別個の方法が使用される。A.T JacksonとD.F. Robertsonは、B.Barcelo(編)による「総合分析化学(Comprehensive Analytical Chemistry)」の第53巻「ポリマーの分子キャラクタリゼーションおよび分析」(J.M. Chalmers及びR.J. Meier編)(2008年) Elsevier社の第171〜203ページに、末端基決定のための1H-NMR法を発表している。この方法では、ヒドロキシル末端基は、ポリエチレンテレフタレート(PET)において、3-クロロフェノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、トリクロロ酢酸、またはトリフルオロ酢酸などの過酷な溶媒選択を用いることによって測定される。ポリエステルの誘導体化をすることなしに、溶媒として重水素化1,1,2,2-テトラクロロエタン(TCE-d2)を使用することが好ましい。同様の方法を、フランジカルボキシレート部分及びエチレングリコール部分を含むポリエステルのために実施することができる。後者のポリエステルのための末端基の測定は、溶液からのポリエステルの沈殿の過度の危険なしに室温で行うことができる。TCE-d2を用いるこの1H-NMR法は、ヒドロキシル末端基(HEG)、脱カルボキシル化、およびジエチレングリコール(DEG)基の含有量を決定するのに非常に適している。ピークの帰属は、6.04ppmの化学シフトのTCEピークを用いて決められる。7.28ppmの化学シフトにあるフランピークが積分され、その積分値は、フラン環上の2つのプロトンに対する2.000に設定される。HEGは、4.0ppmのヒドロキシル末端基の2つのメチレンプロトンから決定される。DEGの含有量は、4つのプロトンを表す3.82ppmから3.92ppmの化学シフトの積分値から決定される。脱カルボキシル化された末端基は、7.64〜7.67ppmの化学シフトに見出され、1つのプロトンを表す。ポリエステルがメチルエステル末端基も含む場合、そのメチルシグナルは3.97ppmに生じ、3個のプロトンを表す。
【0037】
カルボン酸末端基は、ポリ(エチレン2,5-フランジカルボキシレート)に適合したASTM D7409に準拠した滴定法を用いて測定される。このように改変されたその方法は、オルト-クレゾール中のポリ(エチレン2,5-フランジカルボキシレート)の4%w/w溶液を、滴定液としてエタノール中の0.01M KOHでその当量点まで滴定することを含み、0.1mlのエタノール中の0.5mgのブロモクレゾールグリーン(2,6-ジブロモ-4-[7-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシ-2-メチル-フェニル)-9,9-ジオキソ-8-オキサ-9λ6-チアビシクロ[4.3.0]ノナ-1,3,5-トリエン-7-イル]-3-メチル-フェノール)の溶液を指示薬として用いる。
【0038】
本出願の目的のために、HEGおよび脱カルボキシル化された末端基の値は、TCE-d2を用いる1H-NMRによって得られ、CEGの値は、上記の滴定法によって決定される。
【0039】
エステル組成物に添加される2,5-フランジカルボン酸の量は、カルボン酸末端基の所望の量に応じて変えることができる。重合が2,5-フランジカルボン酸のジアルキルエステルから開始する場合、または2,5-フランジカルボン酸化合物に対するエチレングリコールのモル比が比較的高い場合、カルボン酸末端基の数は比較的少ない。したがって、2,5-フランジカルボン酸の添加は、これらの場合に特に有用である。エステル組成物に添加される2,5-フランジカルボン酸の量は、エステル化工程において供される2,5-フランジカルボキシレート化合物のモル量に基づいて0.1〜10モル%の範囲内であることが好ましいことが判明している。
【0040】
本発明に従って製造された重縮合物の分子量は固有粘度として表すことができる。固有粘度を決定するために、最初に、30℃および0.4g / dLの濃度(c)において、フェノールとテトラクロロエタンの60/40w/w混合物中における相対粘度(ηrel)を測定する。 この手順は、ポリ(エチレンテレフタレート)の固有粘度を測定するためのASTM D4603規格に類似している。次いで、固有粘度を下のBillmyer式を用いて計算する。
固有粘度(IV)= {ηrel-1+3*ln(ηrel)}/(4*c)
【0041】
固有粘度は、好適には0.45 dL/gより大きく、より好ましくは0.45〜1.0 dL/gの範囲である。固有粘度は、重量平均分子量Mwに密接に関連する特徴である。重量平均分子量および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することもできる。GPC測定は25℃で行うのが適切である。計算のためには、ポリスチレン標準品が使用される。溶離液として、適切には、クロロホルム:2-クロロフェノール 6:4(vol/vol)の溶媒混合物を使用することができる。試験の部では、2つのPLgel 5μm MIXED-C(300×7.5mm)カラムを備えたMerck-Hitachi LaChrom HPLCシステムで、これらの条件下でGPC測定を行った。分子量の計算は、Cirrus(商標)PL DataStreamソフトウェアによって行った。本発明にしたがって製造されたポリエステルについて重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnが測定された場合、多分散指数(Mw/Mn)は適切には1.9〜2.6の範囲である。
【0042】
重縮合物が重縮合工程から固体材料として回収される場合、その重縮合物はむしろ非晶質である。しかし、さらなる加工のためには、ポリエステルは好ましくは半結晶である。ポリマーの結晶化度はその物理的性質、たとえばその密度および溶融温度に影響を及ぼす傾向がある。ポリマーの結晶化度は、そのポリマーの溶融に伴う熱を定量することによって、示差走査熱量測定法(DSC)を用いて測定することができる。結晶化度は、しばしば、ジュール/グラム数(この値はDSC法から導かれる)によって、融解の正味のエンタルピーとして表される。本発明に従って製造されたポリエステルは、好ましくはDSCによって測定して少なくとも25 J/gの結晶化度を有する。等温プロセスによる高度に結晶化されたポリ(エチレン2,5-フランジカルボキシレート)のグラム当たりのジュール数に関する最大エンタルピーは、典型的には90 J/gである。ある程度の結晶化度を有する本発明のポリエステルは、融点も有する。ポリマーの融点はDSCによって容易に決定され、吸熱ピークの頂点で測定される。 ISO11357-3規格は、そのような溶融判定を記載している。この測定によれば、本発明によるポリエステルは、適切には少なくとも215℃の融点を有する。高度に結晶性のポリエステルでは、融点は230℃を超えることがあり、さらには245℃にまで高くなり得る。
【0043】
重縮合物をより結晶性の材料にするために、重縮合物は、好ましくは90〜200℃の範囲の温度で結晶化される。それに加えて、重縮合物は、結晶化工程において90〜200℃の範囲の温度で2〜48時間の間好ましくは結晶化されて、半結晶性ポリエステルを生じる。特定の設定では、加熱工程は、最終ペレット温度が、結晶化が生じる範囲内にあるように、ペレット化時にペレットの温度を調節することを伴ってもよい。追加の加熱の任意の工程の前に、ペレット化工程からの付着水は除去される。この手順は、重縮合物の温度を90〜200℃の範囲内の所望の温度にすることによって適切に実施される。ポリ(エチレン2,5-フランジカルボキシレート)については、最も急速な結晶化は約160〜170℃で起こることが判明している。粒子が90〜120℃で約1時間保持される場合、その後の160〜170℃での結晶化はより速いことも判明している。加熱工程は、大気圧または真空下で行うことが適切でありうる。熱は、水浴によって適切に提供することができる。最適な温度プログラムは、結晶化のために使用される特定の設定に左右される。典型的には、重縮合物は、90〜140℃の範囲の温度に0.2〜2.5時間保持され、それに120〜200℃の範囲の温度での1〜48時間の結晶化工程が続く。重縮合物中のポリエステル鎖はこれらの条件下で結晶化し、半結晶性ポリエステルを生成することが判明している。このようにして得られたポリエステルは、適切には、DSCにより測定して少なくとも25 J/gの結晶化度を有する。それは適切には少なくとも215℃の融点を有する。
【0044】
本発明に従って調製されたポリエステルの結晶化のために、結晶化は溶融物から(インサイチュ結晶化を伴う水中ペレタイザーにおいて行われ得るように)またはガラス状態(ポリマー顆粒の冷却後に)から行われ得る。この目的のために、重縮合後に、典型的にはなお溶融相にあるポリエステルに、核形成剤を添加することが望ましい場合がある。典型的な添加量は、全ポリエステルを基準にして0.05〜2重量%、より好ましくは0.1〜1重量%である。無機鉱物は、所望する場合には、5または10重量%までのより高いレベルで添加することができる。
【0045】
核形成剤は、無機鉱物、有機塩、高融点ワックス、または他のポリマーを含み得る。無機鉱物の例には、タルク、二酸化チタン、溶融シリカ、窒化ホウ素、雲母、および炭酸カルシウムが含まれる。有機塩のいくつかの例は、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、他のステアリン酸塩、他の脂肪酸の塩、FDCA二ナトリウム塩、サッカリンのナトリウム塩、安息香酸の塩、芳香族ホスホン酸塩、イソフタル酸のスルホン酸エステル塩、および市販の材料、例えば、Milliken Chemicals社からMillad(登録商標)NX88として入手可能なビス(4-プロピルベンジリデン)プロピルソルビトール、Millad(登録商標)3988として入手可能な3,4-ジメチルベンジリデンソルビトール、及びNA-11として入手可能なリン酸塩及びエステル類、メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェートナトリウム塩、あるいはNA-21、アルミニウム-ヒドロキシ-ビス[2,2”-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチル-フェニル)-ホスフェートである。高融点ワックスには、ステアラミドおよびエルカミド、またはビスアミドなどの物質が含まれる。ポリマーは、イオノマー、例えば、デュポン社のサーリンイオノマー、ロームアンドハース社のAculynアイオノマー、PEG2000(ポリエチレングリコール)、PET、PBT、あるいはその他のものなどの材料を含むことができる。核形成剤はまた、様々な状況においてポリマーの結晶化において使用され得る。ポリマーの結晶化は、いくつかの理由のため行うことができ、その各々は様々な条件下で行われる。例えば、射出成形機中で半結晶部分を作り出すためには、溶融物からの冷却時にポリマーの急速な結晶化があることが必要とされる。一方、再生スクラップを乾燥させる前に材料を結晶化させるためには、ポリマーをガラス状態から、または温度を上げて、急速に結晶化させることが望まれるであろう。
【0046】
重縮合工程の後に調製された重縮合物は、次の固相化工程にかけられてもよい。このような工程は、適切には180℃〜220℃の範囲の温度で行われるが、すべての場合において重縮合物の融点よりも低い温度で行われる。圧力は上昇させてもよいが、適切には、不活性ガス流を用いての周囲温度であるか、または大気圧未満、例えば100ミリバール未満であり得る。固相化工程は、固体状態の重合ポリエステルを得るために、120時間まで、好適には2〜60時間の範囲で実施することができる。固体状態の重合ポリエステルは、望ましくは高分子量を有する。
【0047】
特に特定のヒドロキシル末端基含量を有するポリエステルは、より高い固体状態重合速度を示し、及び/又は着色改善として最高の性能を示すことを発見している。そのようなポリエステルは、本発明によって提供される。従って、本発明はまた、エチレン2,5-フランジカルボキシレート単位を含むポリエステルも提供し、そのポリエステルは、標準品としてポリスチレンを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された数平均分子量(Mn)が少なくとも10,000であり、かつそのポリエステルは65〜120、好ましくは70〜115 meq/kgのヒドロキシル末端基含有量を有する。Mnは、好ましくは10,000〜25,000である。このような有利なポリエステルのカルボン酸末端基含量は、好適には35〜70の範囲である。
【0048】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるであろう。
【実施例】
【0049】
以下の実施例において、分子量測定は、2つのPLgel 5 μm MIXED-C(300×7.5 mm)カラムを備えたMerck-Hitachi HPLCシステムで行った。クロロホルム/2-クロロフェノール 6:4 vol/vol溶媒混合物を溶離剤として使用した。分子量測定は、ポリスチレン標準品に基づいており、Cirrus(商標)PL DataStreamソフトウェアによって実施した。
【0050】
色の測定は、ジクロロメタン:ヘキサフルオロイソプロパノール 8:2 vol/vol溶媒混合物を用いて、30 mg/mLポリマー溶液で行った。波長400 nmでの吸光度をHeliosα(ThermoSpectronic)分光光度計で記録し、吸収された光の割合として表した。
【0051】
カルボン酸末端基含量(CEG)を滴定によって測定し、meq/kgで表した。ヒドロキシル末端基含量(HEG)は、重水素化1,1,2,2-テトラクロロエタン中で1H-NMRによって測定し、meq/kgで表した。
【0052】
例1
試験番号1〜4(Exp. No.)において、4つの重縮合物を調製した。試験番号2〜4における調製物のあいだの唯一の違いは、2,5-フランジカルボン酸(FDCA)の添加のタイミングであった。試験番号1では、FDCAを全く添加しなかった。その点ではWO2014/204296の比較試験に類似している。調製は以下のように行った。
【0053】
窒素導入口、機械式撹拌機、およびコンデンサーを備えた100mLの三つ口フラスコに、13.8 g(75ミリモル)のジメチル-2,5-フランジカルボキシレート(DMF)、11.1 g(179ミリモル)のエチレングリコール(EG)、180μLの酢酸Zn(II)(120ppmのZn)溶液(5mLのEG中127.5mg)、および315μLのSb(267 ppmのSb)溶液(150 mLのEG中の2.086 gのSb2O3)を添加した。次いで、フラスコを215℃の油浴に浸漬した。メタノールは1分以内に蒸留が始まった。エステル交換を4時間続けた。次いで、トリエチルホスホノアセテート(亜鉛と等モル量)を、EG中のトリエチルホスホノアセテートの溶液として添加した。
【0054】
5分間攪拌した後、ゆっくり真空を適用し、温度を240℃(油浴)に上昇させた。撹拌機の速度は150 rpmに設定した。
【0055】
約10分間で、約1ミリバールの真空に達した。
【0056】
さまざまな重縮合時間の後、減圧を解除し、106.5 mg(0.68 mmol = DMFに基づいて0.91 mol%)のFDCAを反応混合物に添加した。次いで、1ミリバール未満の圧力で減圧を再び適用した。予備重縮合および重縮合の重縮合工程は、合計2.5時間後に終了した。
【0057】
試験番号5では、試験番号3のものと同じ手順に従ったが、唯一の違いは、106.5 mgのFDCAの代わりに213 mgのFDCAを添加したことである。
【0058】
得られた重縮合物の特性およびFDCA添加のタイミングを表1に示す。表は、試験番号(Exp. No.)、FDCAを添加した重縮合工程開始後の時間(t, 分単位で表す)、標準品としてポリスチレンを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定したFDCA添加時の数平均分子量(Mnadd)、重縮合物の数平均分子量(Mnpolyc)、重量平均分子量(Mwpolyc)、重縮合物の吸光度(A)、カルボン酸末端基量(CEG)、及びヒドロキシル末端基量(HEG)を示している。
【0059】
【表1】
【0060】
重縮合物を以下の手順を用いて固相重合に付した。重縮合物を粉砕し、篩い分けして、0.6〜1.4mm範囲の粒径を有する粒子を有する画分を得た。粒子は、それを110℃に一晩、続いて165℃に2時間保つことによって、結晶化させた。結晶化後、一端がガラスフリット(P1)で閉じられた小さなガラス管(高さ17 cm、内径8 mm)に100mgのポリマーを量り取った。ポリマーサンプルを次に200℃の温度で、4.0 mL /分の窒素流にて、固相重合に付した。
【0061】
固相重合の結果を表2に示す。表2は、試験を行った重縮合物(PEF)、固相重合の時間、およびその時のMnを示す。
【0062】
【表2】
【0063】
結果は、分子量が増大する速度は、FDCAが添加されていない重縮合物、すなわち、試験番号6の重縮合物よりも試験番号7〜9の重縮合物の方が大きいことを示している。
【0064】
例2
他の触媒は異なるポリエステルをもたらすが、これらのポリエステルの製造においても本発明は優れた利点をもたらすことを示すために、以下の試験を行った。
【0065】
例1における手順と同様にして、13.8 g(75ミリモル)のジメチル-2,5-フランジカルボキシレート(DMF)、9.3g(150ミリモル)のエチレングリコール(EG)、及びトルエン中のチタン(IV)ブトキシド溶液として104 ppmwのTiを、窒素導入口、機械式撹拌機、およびコンデンサーを備えた100 mLの三つ口フラスコに導入した。次いで、フラスコを215℃の油浴に浸した。メタノールが、1分以内に留出し始めた。エステル交換を4時間続けた。
【0066】
真空をゆっくりと適用し、温度を215または245℃(油浴)に設定した。
【0067】
様々な重縮合時間の後、585mg(3.75 mmol = DMFを基準に5.0 mol%)または351 mg(2.25 = 3 mol%)のFDCAを反応混合物に添加した。 次いで、減圧を1 mbar未満の圧力で再び適用した。合計3時間後に重縮合工程を終了した。
【0068】
得られた重縮合物の特性、FDCA添加のタイミングを表3に示す。その表は、試験番号(Exp. No.)、FDCAを添加したときの重縮合工程の開始後の時間(t、分)、添加したFDCAの量、重縮合温度(T)、重縮合物の数平均分子量(Mn)、重縮合物の吸光度(A)、カルボン酸末端基含量(CEG)、およびヒドロキシル末端基含量(HEG)を示している。
【0069】
【表3】
【0070】
試験番号10及び11の結果は、FDCAを添加しない場合は変色が最も大きく、重縮合工程の前にFDCAを添加するとCEG含量が増加しないことを示しており、このことは、固相重合速度も大きくならないことを示している。本発明に従って製造された重縮合物の吸光度挙動、すなわち試験番号12〜14の吸光度挙動は優れている。
【0071】
重縮合物のいくつかは、試験例1と同じ手順を用いる固相重合にかけた。
【0072】
固相重合の結果を表4に示す。表4は、試験を行った重縮合物、固相重合時間、およびその時のMnを示している。
【0073】
【表4】
【0074】
この結果は、固体状態の重合速度も、本発明に従って製造された重縮合物について改善を示すことを示している。