【実施例】
【0054】
[ポリスルフィド溶液の調製]
以下の実施例で使用したポリスルフィド溶液は、硫化ナトリウム溶液中に硫黄の華(flower)を溶解することによって製造した。
硫化ナトリウム溶液は、工業用品質のフレーク状の硫化ナトリウムから調製した。この化合物は60%のNa
2Sを含有する。
使用した種々のポリスルフィド溶液の正確な組成を以下の表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
ポリスルフィド溶液の調製の過程で、使用した硫化ナトリウムの一部は、二次的不均化反応において、添加された硫黄の一部と反応してチオ硫酸塩を形成する。ゼロ酸化状態の残りの硫黄は、活性硫黄である。本発明の枠組みにおいて、ポリスルフィド溶液中の活性硫黄のモル数は、使用した硫黄のモル数から、溶液中に添加される硫化物のモル当量を差し引いた量に等しいと考えられる。
【0057】
[実施例1]:古典的な機械的撹拌
2.07gの工業用Na
2S(即ち、1.24gの純Na
2S)、1.57gの硫黄、及び68.6gの水を、250mlのビーカー内で混合した。得られたポリスルフィド溶液のS/Na
2Sモル比は3であり、活性硫黄の含有量は0.46モル/kgであった。
5mgの金属水銀を、硫黄の溶解後に添加した。
混合物を、300rpmの速度で回転する磁化棒によって攪拌した。硫化水銀の黒色堆積物の形成が迅速に観察された。4時間30分反応させた後、目視検査では金属水銀の形成をそれ以上見分けることができなかった。変換率は90%以上である。次いで、1/17 gの硫黄を添加した。
反応速度は経時的に低下する。したがって、24時間の撹拌後、化学量論量の2.6倍に等しい過剰の硫黄を用いても、変換率は99.5%を超えない。この比較的低い効率は、硫化水銀マイクロスフェア中に水銀が封入されることによるようである。このような水銀は、従来の攪拌条件下では利用(access)が困難になる。
【0058】
[実施例2]:超音波発生器プローブの使用(S
活性/Hgの質量比2.6)
この例では、周波数が20kHzのNexTgen超音波発生器からなるSinaptec製の超音波発生器プローブ(L250mm - 20kHz - 300W)を使用し、その全ての高さにわたって超音波を均一に拡散させるラジアル効果プローブを使用した。
0.61モル/kgに等しい活性硫黄含有量および3.3に等しいS/Na
2Sモル比を有するポリスルフィド溶液を、36.8gの工業用Na
2S(すなわち、22.1gの純Na
2S)および29.9gの硫黄を1リットルの脱塩水に添加することによって調製した。
17.5gの金属水銀を、350mLのこのポリスルフィド溶液(S
活性/Hgモル比は2.6に等しい)に入れて混合した。この混合物を、400mlのエルレンマイヤーフラスコに入れた。プローブをブラケットによって適所に保持し、溶液に浸した。反応は周囲温度で開始した。試験中に温度が上昇して80℃に達した。蒸発を補償し、温度を安定させるために、水を定期的に添加した。
最初の処理サイクル後に9回のリサイクルのサイクルを行った。すべてのリサイクルのサイクルで添加した水銀の量は、最初のサイクルで添加した量(サイクルn-1の濾液350mLに対して17.5gのHg)と同一であった。
【0059】
これらの結果を、以下の表2にまとめる。
【表2】
【0060】
これらの試験は、超音波による水銀の分散が、金属水銀の硫化水銀への変換率をかなり増加させることができることを示している。リサイクルの過程で、硫化物の補充により変換率が改善される。最後のサイクル(サイクルNo.10)は、それ以前のサイクルよりも少ない硫黄(理論値の80%)で行った。この試験により、水銀に対して過剰の硫黄を低減すると、反応が赤色α−HgS形態に向かう一方で、過剰量が黒色β−HgSの形成を助長することが示された。
【0061】
[実施例3]:超音波発生器プローブの使用(S
活性/Hgの質量比1.3)
実施例2の試験を、1リットルの脱塩水中で73.7gの工業用Na
2S(すなわち44.2gの純Na
2S)及び59.8gの硫黄を混合することによって得られたポリスルフィド溶液を用いて繰り返した。活性硫黄含有量は1.15モル/kgであり、S/Na
2Sモル比は3.3であった。化学量論量を超える硫黄の過剰は1.3に固定した。組み入れた水銀の量は、ポリスルフィド溶液350mL当たり70.2gであった。
最初の処理サイクル後に4回のリサイクルサイクルを行った。全てのリサイクルサイクルで添加した水銀の量は、第1のサイクルで添加した量(サイクルn-1の濾液350mLに対して70.2gのHg)と同一であった。
【0062】
これらの結果を、以下の表3にまとめる。
【表3】
【0063】
結果は実施例2の結果と同等である。赤色α−HgS形態の生成は、S
活性/Hg比= 1.3について確認される。リサイクルサイクル中に補償的な硫黄を添加すると変換率が向上する。 硫黄の添加にもかかわらずサイクル番号5の変換率が低下したことは、この補償的な硫黄の添加によって誘導される硫黄の不均化(チオ硫酸塩の形成を引き起こす二次反応)に起因する。利用可能な活性硫黄の量を低減するこの現象は、添加された硫黄の量を増加させることによって打ち消され得る。
【0064】
別の試験(実施例3’)を、113.3gの工業用Na
2S(すなわち、68gの純粋なNa2S)、92.1gの硫黄、および1リットルの脱塩水を用いて調製したポリスルフィド溶液を用いて、実施した。 活性硫黄含有量は1.66Mであり、S/Na
2Sのモル比は3.3であった。S
活性/Hg質量比は、ポリスルフィド溶液350mLに対して1.3、すなわち105gの水銀に固定した。したがって、処理された水銀の量は、ポリスルフィド溶液の質量の約30%であった。超音波プローブで2時間処理した後、得られた生成物は赤色であり、変換率は99.999%である。
【0065】
[実施例4]:分散機の使用(1Mの活性硫黄含量、S
活性/Hgの質量比1.2)
この例では、19G(直径19mm)の道具(tool)を備えたIKA製のUltra-Turrax T18実験用分散機を使用した。回転速度は3000〜25000rpmの間で調整可能である。摩擦により、約17000rpmより高い高速では、媒体の温度が上昇することに留意されたい。
溶液のリサイクルを伴う一連の20回の試験を以下の条件下で行った:
ポリスルフィド溶液を、74gの工業用Na
2S(44.4gの純Na
2S)、54.6gの硫黄、および1リットルの脱塩水を用いて調製した。
ポリスルフィド溶液の活性硫黄含有量は1.01モル/kgであり、S/ Na
2Sモル比は3であった。
処理した水銀の量は1サイクル当たり190gであり、S
活性/Hg質量比= 1.2であった。
攪拌速度15000〜18000rpm
反応時間:1時間50分
開始温度:80℃
1リットルのポリスルフィド溶液を三角フラスコに入れた。分散機をブラケットで保持し、混合物に浸漬した。指定された反応時間の最後に、混合物をブフナーフィルターを用いて濾過した。ケークを濾過により回収し、その後の分析のために乾燥せずに保管した。
【0066】
これらの結果を、以下の表4にまとめる。
【表4】
【0067】
すべての試験が同じ条件で行われたわけではない。サイクル1〜6を四角い金属浴内で行い、他の試験を1リットルのエルレンマイヤーフラスコ内で行った。サイクル1〜12では、硫黄の添加および硫黄の不均化に対する補償を系統的には行わなかった。溶液を最初に80℃に加熱したが、温度は反応中一定に保たれなかった。撹拌速度は18000rpmで一定であった。
【0068】
サイクル13からは、手順はより系統的であり、初期量の5%に相当する硫黄の一定量を添加し、硫黄の不均化に対する補償を系統的に行った。分散機の速度を、最初の15分間は18000rpmに、次に1500rpmに設定した。50分の反応時間後に、メタシナバー形態からシナバー形態への変換が観察された。こうして得られた硫化水銀は、99.9999%を超える変換率で品質が一定である。
【0069】
この同じ平均サンプルを用いて、標準NF EN 12457-2に準拠した浸出試験を行ったところ、1.1mg/kgに等しい浸出可能な水銀の値が得られた。浸出液を、(標準法による0.45μmではなく)0.2μmの閾値でろ過すると、その値は0.1mg/kgとなる これは、測定された水銀が可溶性水銀ではなく、微細なHgS粒子で構成されていることを示している。
【0070】
[実施例5]:分散機の使用(3Mの活性硫黄含量、S/Na
2Sのモル比=3.01、S
活性/Hgの質量比1.2)
ポリスルフィド溶液を、88.8gの工業用Na
2S(すなわち53.3gの純Na
2S)、65.6gの硫黄、および300mlの脱塩水を用いて製造した。228.4gの金属水銀を添加した。
試験は、1リットルの代わりに500ミリリットルのフラスコ容積とすることを除いて、実施例4と同じプロトコルを用いて行った。初期の温度は50〜60℃であった。なぜなら、この反応は、1Mに等しい活性硫黄含有量を含むポリスルフィド溶液よりもかなり発熱的であったからである。温度は約10分の反応後に80〜90℃に達した。
揮発性水銀の分析を行った。Mercury Instrument社製のMercury Tracker 3000をこの試験に使用し、「洗浄フラスコ試験」を実施した。この試験のために、得られた固体の100gの試料を、密閉した1リットルの洗浄フラスコ中に24時間置く。次いで、出口管をガス分析器に接続し、数分間安定させた後に値を記録する。
反応溶液をリサイクルしながら、3回の連続したサイクルを行った。
【0071】
これらの結果を、以下の表5にまとめる。
【表5】
【0072】
メタシナバー形態からシナバー形態への変化は、1Mの活性硫黄含有量を有するポリスルフィド溶液の場合の50分ではなく、10分から20分後に起こる。サイクル3では、HgSケーキを濾過の際にすすぎ洗いしなかった。これにより製品の品質が低下しないことに留意されたい。逆に、浸出試験後には、濾過の際に非常に微細な粒子が存在しないことが観察された。得られた製品の品質は、以前に得られたものと同等またはそれ以上であり、99.9999%以上の効率、0.07〜0.7mg/kgの水銀の浸出、および1〜8μg/m
3に等しい揮発性水銀の濃度を有している。
【0073】
[実施例6]:米国特許第3,061,412号の実施例1に従うHgからHgSへの変換
米国特許第3,061,412号の実施例1を、同一の初期生成物量および同一の混合時間で、特許で使用されているWaring(登録商標)製のブレンダーに相当するKenwood(登録商標)製のブレンダーを用いて繰り返した。発熱反応が観察され、非常に厚い黒色スラッジ(sludge)が回収される。このスラッジをろ過し、水ですすいだ。
【0074】
変換率は94.45%である。100gの残留物が入った1リットルフラスコのガスブランケット内の揮発性水銀の濃度は、プローブをフラスコの上に設置することによってMercury Tracker 3000分析器で測定して、800μgである。この測定方法は、実施例5で使用した洗浄フラスコ試験よりも低い値を与える。