(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873125
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】X線発生装置及びそれを備える分析装置
(51)【国際特許分類】
H05G 1/34 20060101AFI20210510BHJP
【FI】
H05G1/34 Z
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-524590(P2018-524590)
(86)(22)【出願日】2016年6月27日
(86)【国際出願番号】JP2016068945
(87)【国際公開番号】WO2018002977
(87)【国際公開日】20180104
【審査請求日】2018年8月1日
【審判番号】不服2020-3901(P2020-3901/J1)
【審判請求日】2020年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100102037
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100098671
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 俊文
(74)【代理人】
【識別番号】100149962
【弁理士】
【氏名又は名称】阿久津 好二
(74)【代理人】
【識別番号】100170988
【弁理士】
【氏名又は名称】妹尾 明展
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 佑多
【合議体】
【審判長】
森 竜介
【審判官】
信田 昌男
【審判官】
伊藤 幸仙
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−197205(JP,A)
【文献】
特開2012−109106(JP,A)
【文献】
特開2010−49974(JP,A)
【文献】
特開2006−75359(JP,A)
【文献】
特開平10−189286(JP,A)
【文献】
特開2006−75359(JP,A)
【文献】
特開2005−110973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05G1/00-2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、前記筐体の内部に配置された陽極であるターゲットと、前記筐体の内部に配置された陰極であるフィラメントとを有し、前記フィラメントから放射される熱電子を前記ターゲットで受容して、前記ターゲットで発生したX線を出射するX線管と、
前記ターゲットに高電圧を印加するための高電圧電源と、
前記フィラメントに低電圧を印加するための低電圧電源と、
前記高電圧電源を制御する高電圧電源制御回路と、
X線発生装置を停止するためのOFF信号の入力操作が可能な入力装置と、
前記X線管に流れる管電流値と選択された管電流値の間に乖離が無いように前記低電圧電源をフィードバック制御し、前記X線発生装置を停止するためのOFF信号が入力される低電圧電源制御回路とを備えるX線発生装置であって、
前記OFF信号が入力されたときに、前記高電圧電源制御回路が前記ターゲットに高電圧を印加することを停止した後、前記低電圧電源制御回路が前記フィードバック制御を停止して前記フィラメントに所定時間、所定値の低電圧を印加することを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
前記所定時間は、前記ターゲットの電位が低下するための時間であることを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項3】
前記所定値の低電圧は、0.3A以上5.0A以下のフィラメント電流を前記フィラメントに流すためのものであることを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項4】
請求項1に記載のX線発生装置と、検出器とを備えた分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特性X線を出射するX線発生装置に関し、特にX線発生装置を備える分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼品種(例えば、低合金鋼や炭素鋼やステンレス鋼や低合鋳鉄等)や非鉄金属品種の多様化や高品質化や製鋼加工技術の発展に伴い、母材(例えば、Fe、Cu、Al等)中に含有される微量成分、特にC、Si、S、P、Mn、Ni等の元素の量を厳密にコントロールすることが要求されてきており、鉄鋼材や非鉄金属材等の生産工場等での製鋼・精練工程において、母材中に含有される微量成分を定量することが重要となってきている。
そこで、近年、試料に特性X線を照射し、特性X線により励起されて放出される蛍光X線の強度を検出することによって、その試料に含まれる元素の定性や定量分析を行う蛍光X線分析装置が生産工場等で広く利用されるようになってきている。
【0003】
図4は、蛍光X線分析装置の構成を示す図であり、
図5は、
図4に示すX線発生装置101の回路図である。蛍光X線分析装置160は、X線発生装置101と、試料Sが配置される試料台61と、蛍光X線のエネルギと強度とを検出する検出器62と、入力装置71やCPU 172等を有するコンピュータ170とを備える。
【0004】
X線発生装置101は、特性X線を出射するX線管球10と、高電圧V
highを印加するための高電圧生成DC電源(高電圧電源)20と、低電圧V
lowを印加するためのフィラメント用電源(低電圧電源)30と、高電圧生成DC電源20を制御する管電圧制御回路(高圧電源制御回路)140と、フィラメント用電源30を制御するフィラメント電流制御回路(低圧電源制御回路)150とを備える(例えば特許文献1参照)。
【0005】
図6は、
図4に示すX線管球10の断面図である。X線管球10は、陽極であるターゲット11と、陰極であるフィラメント12と、ターゲット11とフィラメント12とを内部に有する略円筒形状の筐体13とを備える。
【0006】
筐体13の側壁には、円形状の出射窓13aが形成されており、出射窓13aと対向する位置にターゲット11の端面11aが配置されるとともに、ターゲット11の端面11aと対向する位置にフィラメント12が配置されている。そして、フィラメント用電源30及びフィラメント電流制御回路150が、低電圧用ケーブル16を介してフィラメント12と接続されている。また、高電圧生成DC電源20及び管電圧制御回路140が、高電圧用ケーブル15を介してターゲット11と接続されている。さらに、高電圧生成DC電源20の負極は、フィラメント12の一端と接続されている。
【0007】
管電圧制御回路140は、入力装置71からの入力信号に基づいて、ターゲット11に高電圧V
highを印加するようになっている。例えば、分析者が入力装置71を用いて電圧値1kV〜50kV程度の内から管電圧値V
highを選択すると、管電圧制御回路140はその選択された管電圧値V
highをターゲット11に印加することにより、ターゲット11の電位を管電圧値V
highとする。このとき、管電圧制御回路140は、ターゲット11の電位が管電圧値V
highと乖離がないようにフィードバック制御を行う。
【0008】
フィラメント電流制御回路150は、入力装置71からの入力信号に基づいて、フィラメント12に低電圧V
lowを印加するようになっている。例えば、分析者が入力装置71を用いて電流値5mA〜100mA程度の内から管電流値Iを選択すると、フィラメント電流制御回路150はその選択された管電流値Iと乖離がないように、フィラメント12にフィラメント電流を流すフィードバック制御を行う。
【0009】
このようなX線発生装置101によれば、分析を行うための入力信号が入力されると、
図5(a)に示すように、ターゲット11に高電圧V
highを印加してターゲット11の電位を管電圧値V
highとするとともに、フィラメント12に低電圧V
lowを印加してフィラメント電流を流すことにより、フィラメント12から放射された熱電子eを加速して、ターゲット11の端面11aに衝突させることで、ターゲット11の端面11aで発生した特性X線を出射窓13aから出射している。なお、この特性X線の強度やエネルギは、管電圧値V
highと管電流値Iとを変えることで制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−165081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、分析が終了してX線発生装置101を停止するためには、フィラメント12に低電圧V
lowを印加することを停止した後、ターゲット11に高電圧V
highを印加することを停止して、ターゲット11の電位を管電圧値V
highから0Vに低下させる必要があるが、ターゲット11の電位が0Vに低下する待ち時間が長かった(例えば管電圧値V
highの低下速度1.8kV/s)。
【0012】
なお、フィラメント電流制御回路150は、管電流値Iと乖離がないようにフィードバック制御を行っているので、管電流が流れなくなると、フィラメント電流が最大値となり、フィラメント12の温度が最高温度となる。フィラメント12の温度が高くなるほど、フィラメント12が消耗するので、フィラメント12の寿命が短くなる。そのため、X線発生装置101を停止するための入力信号「OFF」が入力されると、フィラメント電流制御回路150が、フィラメント12に低電圧V
lowを印加することを停止した後、管電圧制御回路140が、ターゲット11に高電圧V
highを印加することを停止している。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本出願人は、ターゲット11の電位を短時間で低下させる方法について検討した。フィラメント12に低電圧V
lowを印加することを停止した後、ターゲット11に高電圧V
highを印加することを停止することにより、
図5(b)に示すように、筐体13や高電圧用ケーブル15の絶縁体の抵抗に流れる極わずかな電流iによって管電圧値V
highを逃がしている。
【0014】
そこで、
図7に示すように高耐圧抵抗とスイッチとを設け、入力信号「OFF」が入力されると、フィラメント12に低電圧V
lowを印加することを停止した後、ターゲット11に高電圧V
highを印加することを停止するとともに、スイッチで高耐圧抵抗とターゲット11とを接続することにより、管電圧値V
highを逃がすことが考えられる。しかし、高耐圧抵抗やスイッチ等の部品を設ける必要がある。
【0015】
よって、X線発生装置101を停止する際に、まず管電流値Iを0Aとするのではなく、適切な所定値(0.3A以上5.0A以下)のフィラメント電流をフィラメント12に流すことにより熱電子e’をターゲット11に照射することで、管電圧値V
highを管電流I’として逃がすことを見出した(
図2(b)参照)。その結果、管電圧値V
highの低下速度が3.0kV/sとなり、早くなった。
【0016】
すなわち、本発明のX線発生装置は、筐体と、前記筐体の内部に配置された陽極であるターゲットと、前記筐体の内部に配置された陰極であるフィラメントとを有し、前記フィラメントから放射される熱電子を前記ターゲットで受容して、前記ターゲットで発生したX線を出射するX線管と、前記ターゲットに高電圧を印加するための高電圧電源と、前記フィラメントに低電圧を印加するための低電圧電源と、前記高電圧電源を制御する高電圧電源制御回路と、
X線発生装置を停止するためのOFF信号の入力操作が可能な入力装置と、前記低電圧電源を制御
し、前記X線発生装置を停止するためのOFF信号が入力される低電圧電源制御回路とを備えるX線発生装置であって、
前記OFF信号が入力されたときに、前記高電圧電源制御回路が前記ターゲットに高電圧を印加することを停止した後、前記低電圧電源制御回路が前記フィラメントに所定時間、所定値の低電圧を印加するようにしている。
【発明の効果】
【0017】
本発明のX線発生装置によれば、ターゲットの電位の管電圧値V
highを低下させるために、ターゲットの電位の管電圧値V
highを管電流I’として逃がすため、管電圧値V
highを逃がす待ち時間を短くすることができる。また、回路を切替える機構や部品(高耐圧抵抗やスイッチ)を必要としない。
【0018】
(他の課題を解決するための手段および効果)
また、上記の発明において、前記所定時間は、前記ターゲットの電位が低下するための時間であるようにしてもよい。
【0019】
また、上記の発明において、前記所定値の低電圧は、0.3A以上5.0A以下のフィラメント電流を前記フィラメントに流すためのものであるようにしてもよい。
なお、0.3A以上5.0A以下のフィラメント電流は、フィラメントの温度が適切な温度となり、フィラメントが消耗することを防止するものとなっている。
【0020】
そして、本発明の分析装置は、上述したようなX線発生装置と、検出器
とを備える分析装置にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態に係る蛍光X線分析装置の構成を示す図。
【
図3】停止方法について説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0023】
図1は、実施形態に係る蛍光X線分析装置の構成を示す図であり、
図2は、
図1に示すX線発生装置の回路図である。なお、蛍光X線分析装置160と同様のものについては、同じ符号を付している。
蛍光X線分析装置60は、X線発生装置1と、試料Sが配置される試料台61と、蛍光X線のエネルギと強度とを検出する検出器62と、入力装置71やCPU 72等を有するコンピュータ70とを備える。
【0024】
X線発生装置1は、特性X線を出射するX線管球10と、高電圧V
highを印加するための高電圧生成DC電源(高電圧電源)20と、低電圧V
lowを印加するためのフィラメント用電源(低電圧電源)30と、高電圧生成DC電源20を制御する管電圧制御回路(高圧電源制御回路)40と、フィラメント用電源30を制御するフィラメント電流制御回路(低圧電源制御回路)50とを備える。
【0025】
フィラメント電流制御回路50は、入力装置71からの入力信号に基づいて、フィラメント12に低電圧V
lowを印加するようになっている。例えば、分析者が入力装置71を用いて電流値5mA〜100mA程度の内から管電流値Iを選択すると、フィラメント電流制御回路50はその選択された管電流値Iと乖離がないように、フィラメント12にフィラメント電流を流すフィードバック制御を行う。
また、実施形態に係るフィラメント電流制御回路50は、X線発生装置1を停止するための入力信号「OFF」が入力された際には、フィラメント12に所定時間(例えば20秒以下)、所定値の低電圧V
low’を印加することにより、所定値(0.3A以上5.0A以下)のフィラメント電流を流すようになっている。
上記所定値としては、0.3A以上5.0A以下であること等が挙げられるが、蛍光X線分析装置60では、回路構成を考慮して3.4Aとした。これにより、減少スピードもX線管球10の構造によって変わるが、蛍光X線分析装置60では、50kV(最大管電圧)/3kV(一秒あたりの減少スピード)= 16.6s となり、16.6秒で電位が低下するようになった。
【0026】
管電圧制御回路40は、入力装置71からの入力信号に基づいて、ターゲット11に高電圧V
highを印加するようになっている。例えば、分析者が入力装置71を用いて電圧値1kV〜50kV程度の内から管電圧値V
highを選択すると、管電圧制御回路40はその選択された管電圧値V
highをターゲット11に印加することにより、ターゲット11の電位を管電圧値V
highとする。このとき、管電圧制御回路40は、ターゲット11の電位が管電圧値V
highと乖離がないようにフィードバック制御を行う。
また、実施形態に係る管電圧制御回路40は、X線発生装置1を停止するための入力信号「OFF」が入力されると、フィラメント12に低電圧V
low’を印加することを停止する前に、ターゲット11に高電圧V
highを印加することを停止するようになっている。
【0027】
ここで、X線発生装置1を停止する停止方法について説明する。
図3は、停止方法について説明するためのフローチャートである。
まず、ステップS101の処理において、CPU72はX線発生装置1を停止するための入力信号「OFF」が入力されたか否かを判定する。入力信号「OFF」が入力されていないと判定したときには、ステップS101の処理を繰り返す。
【0028】
一方、入力信号「OFF」が入力されたと判定したときには、ステップS102の処理において、フィラメント電流制御回路50は、フィラメント12に所定値の低電圧V
low’を印加することにより、所定値(3.4A)のフィラメント電流を流す。このとき、フィラメント12の温度が最高温度とならないので、フィラメント12の消耗を防止することができる。
次に、ステップS103の処理において、管電圧制御回路40は、ターゲット11に高電圧V
highを印加することを停止する。
【0029】
次に、ステップS104の処理において、CPU72は所定時間(20秒)が経過したか否かを判定する。所定時間が経過していないと判定したときには、ステップS104の処理を繰り返す。このとき、管電圧値V
highが管電流I’として逃げる(
図2(b)参照)。
次に、所定時間が経過したと判定したときには、ステップS105の処理において、フィラメント電流制御回路50は、フィラメント12に所定値の低電圧V
low’を印加することを停止する。
そして、ステップS105の処理が終了すると、本フローチャートを終了させることになる。
【0030】
以上のように、本発明に係る蛍光X線分析装置60によれば、ターゲット11の電位の管電圧値V
highを低下させるために、ターゲット11の電位の管電圧値V
highを管電流I’として逃がすため、管電圧値V
highを逃がす待ち時間を短くすることができる。
【0031】
<他の実施形態>
(1)上述した実施形態では蛍光X線分析装置60を例に説明を行ったが、連続的にX線を発生する装置(非破壊検査装置や医療用X線装置等)に対しても本発明を同様に適用することができる。また、最大管電圧は装置によって変わるため、表面分析のため比較的低い管電圧を使用している蛍光X線分析装置60を例に説明を行ったが、高い管電圧を使用している装置に適用してもよい。
【0032】
(2)上述した蛍光X線分析装置60では、所定時間(20秒)が経過したか否かを判定するような構成を示したが、ターゲット11の電位が所定値(1kV)以下となったか否かを判定するような構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、試料中に含まれる元素の濃度を算出する蛍光X線分析装置等に利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 X線発生装置
10 X線管
11 ターゲット
12 フィラメント
13 筐体
15 高電圧用ケーブル
16 低電圧用ケーブル
20 高電圧電源
30 低電圧電源
40 高電圧電源制御回路
50 低電圧電源制御回路