(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トランスデューサ機構と、前記トランスデューサ機構に結合される音響透過窓とを備える超音波装置であって、前記音響透過窓が、エラストマー層を備え、前記エラストマー層は、エラストマーに分散される伝導性粒子を有し、前記エラストマー層が、ある感圧伝導率を有し、前記超音波装置が、前記エラストマー層に結合されて前記感圧伝導率を測定する電極機構をさらに備え、前記トランスデューサ機構が、超音波を生成し、前記伝導性粒子は、前記超音波に露出される患者の身体の中の前記超音波の最短波長の10%未満である最大直径を有する、超音波装置。
前記エラストマー層が、前記超音波装置によって生じる超音波に露出される前記身体の音響インピーダンス、及び/又は前記トランスデューサ機構の音響インピーダンスに整合する音響インピーダンスを有する、請求項1に記載の超音波装置。
前記エラストマー層の音響インピーダンスが、1.3〜3.0MRaylsの範囲であり、好ましくは、1.3〜1.9MRaylsの範囲である、請求項1又は2に記載の超音波装置。
前記エラストマーが、ポリオレフィン、ジエン重合体、若しくはポリシロキサンであるか、ポリオレフィン、ジエン重合体、若しくはポリシロキサンを含む共重合体又はブロック共重合体であるか、又はこれらのブレンドである、請求項1から3のいずれか一項に記載の超音波装置。
前記伝導性粒子が、炭素粒子、炭素複合体粒子、セラミック粒子、金属粒子、金属合金粒子、複合金属粒子、及び伝導性金属酸化物粒子のうちの少なくとも1つを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の超音波装置。
前記音響透過窓が、中に分散される伝導性粒子を有する別のエラストマー層を備え、前記別のエラストマー層が、ある感温伝導率を有し、前記超音波装置が、前記別のエラストマー層に結合されて当該感温伝導率を測定する別の電極機構をさらに備える、請求項1から10のいずれか一項に記載の超音波装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超音波トランスデューサアレイと身体との間の不十分な質のコンフォーマル接触に起因した、超音波装置の次善の動作が避けられるか又は正されるように、超音波トランスデューサアレイと超音波トランスデューサアレイを用いて生じる超音波を受ける身体との間の接触の質を評価することが求められている。これは、たとえば、超音波トランスデューサと画像化又は治療される身体の領域との間の良好な接触を確立することが困難なことで知られる、大面積超音波トランスデューサや経食道心臓超音波検査(TEE)プローブに適用される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、トランスデューサ機構とトランスデューサ機構を用いて生じる超音波を受ける身体との間の接触の質を評価することができるトランスデューサ機構を備える超音波装置を提供することに努める。
【0009】
本発明は、さらに、このような超音波装置を含む超音波システムを提供することに努め、この場合、超音波システムは、トランスデューサ機構とトランスデューサ機構を用いて生じる超音波を受ける身体との間の接触の質の評価が超音波装置によって提供されるのに応答して、その動作モードを調整するように構成される。
【0010】
本発明は、さらに、このような超音波装置を含む超音波機構を提供することに努め、この場合、超音波機構は、トランスデューサ機構と身体との間の接触の質の評価が超音波装置によって提供されるのに応答して、トランスデューサ機構とトランスデューサ機構を用いて生じる超音波を受ける身体との間の接触を変えるように構成される。
【0011】
一態様によれば、トランスデューサ機構と、トランスデューサ機構を覆う音響透過窓とを備える超音波装置であって、音響透過窓が、エラストマー層を備え、エラストマー層は、エラストマーに分散される伝導性粒子を有し、エラストマー層が、ある感圧伝導率を有し、超音波装置が、エラストマー層に結合されて感圧伝導率を測定するように構成される電極機構をさらに備える、超音波装置が提供される。
【0012】
互いに接触した状態の伝導性粒子によって形成されるエラストマー層の伝導性は、層に対する印加圧力の関数であるので、トランスデューサ機構を覆う音響透過窓の中に感圧エラストマー層を含むことにより、超音波装置と超音波装置によって生じる超音波を受ける身体との間の接触の質を決定することが可能になる。その結果、この伝導率は、電極機構を用いて測定され、超音波装置と身体との間の接触の質の指標として使用される。
【0013】
エラストマー層は、好ましくは、超音波装置によって生じる超音波に露出される身体の音響インピーダンス、及び/又はトランスデューサ機構の音響インピーダンスに整合する音響インピーダンスを有する。これにより、エラストマー層と身体及び/又はトランスデューサ機構との間の効率的な音響結合が確実となり、それによって、たとえば反射による超音波の損失を最小限にする。
【0014】
一実施形態では、エラストマー層の音響インピーダンスは、1.3〜3.0MRaylsの範囲であり、好ましくは、音響インピーダンスは、1.3〜1.9MRaylsの範囲である。たとえば、これはエラストマー層を、たとえば圧電トランスデューサ素子や静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサ(CMUT)素子と共に使用するのに特に適したものにし、後者のトランスデューサ素子は、1.3〜1.9MRaylsの範囲の音響インピーダンスを有するエラストマー層に特にうまく整合する。
【0015】
トランスデューサ機構は、通常、生じる超音波に露出される身体の中に最短波長を有する超音波を生成するように構成される。好ましくは、伝導性粒子による超音波の反射又は散乱を最小限にするために、伝導性粒子は、最短波長の10%未満である最大直径を有する。
【0016】
エラストマーは、ポリオレフィン、ジエン重合体、若しくはポリシロキサンであるか、ポリオレフィン、ジエン重合体、若しくはポリシロキサンを含む共重合体又はブロック共重合体であるか、又はこれらのブレンドでもよく、好ましくは、エラストマーは、ポリブタジエン又はポリジメチルシロキサンである。このようなエラストマーは、身体が超音波に露出される通常の温度、たとえば室温や患者の身体の体温において所望のエラストマー特性を発揮し、且つ望ましい音響インピーダンスを実現するためにエラストマーの浸透閾値未満で伝導性粒子を含めることによって調節される音響インピーダンスを発揮する。
【0017】
伝導性粒子は、炭素粒子、炭素複合体粒子、セラミック粒子、金属粒子、金属合金粒子、複合金属粒子、伝導性金属酸化物粒子、又はこれらの組合せなどの、任意の適したタイプの伝導性粒子でもよい。伝導性粒子又は伝導性粒子の組合せは、感圧エラストマー層の所望の音響機能性に基づいて選択されて、たとえば感圧エラストマー層の音響インピーダンスを調節する。
【0018】
一実施形態では、エラストマー層は、導電性粒子と非伝導性粒子の混合物を含む。非伝導性(電気絶縁性)粒子を含むことは、エラストマー層の音響インピーダンスの上昇を容易にする。
【0019】
一実施形態では、エラストマー層の中の伝導性粒子のボリュームは、エラストマー層の全体的なボリュームに対して、ボリュームで少なくとも15%である。伝導性粒子の性質に関わらず、本発明の実施形態によるエラストマー層は、エラストマー層の中の伝導性粒子の量が、ボリュームで少なくとも15%であるが、エラストマー層に圧力を印加することによって伝導性経路が形成されるエラストマー層についてはエラストマー層の浸透閾値を下回り、エラストマー層に圧力を印加することによって伝導性経路が壊されるエラストマー層についてはエラストマー層の浸透閾値を上回る場合、良好な圧力感受性を有することが分かっている。
【0020】
実施形態のうちの少なくともいくつかでは、エラストマー層は、10〜200μmの範囲の厚みを有する。この範囲の厚みを有するエラストマー層は、印加圧力に対する強い伝導性応答を発揮し、同時に、トランスデューサ機構によって音響透過窓から送信される超音波の損失を最小限にすることが分かっている。一実施形態では、エラストマー層は、インピーダンス整合層の一部を形成してもよく、λ/4層として実施されてもよく、ここでλはエラストマー層を伝わる超音波の波長である。印加される超音波の通常の波長に応じて、このようなエラストマー層は、10〜100μmの範囲の厚みを有する。
【0021】
いくつかの実施形態では、エラストマー層は、電極機構の間に挟まれる。特に有利な一実施形態では、電極機構は、エラストマー層の個々の部分の感圧伝導率を測定するように構成される電極マトリクスを備える。この実施形態では、超音波装置と超音波に露出される身体との間の接触の質に関する特にきめの細かい情報が得られ、それは、このような接触情報が電極マトリクスの電極セルごとに独立して得られるからである。この実施形態では、エラストマー層は、連続的な層でもパターン形成した層でもよく、パターン形成した層は、複数のエラストマー層部分を備え、前記部分のそれぞれは、電極マトリクスのセルのうちの1つの中に配置される。
【0022】
音響透過窓は、中に分散される導電性粒子及び任意選択の電気絶縁性粒子を有する別のエラストマー層をさらに備え、別のエラストマー層は、ある感温電気伝導率を有し、超音波装置は、別のエラストマー層に結合されて当該感温伝導率を測定するように構成される別の電極機構をさらに備える。エラストマー層によって提供される圧力情報に加えて、このような別のエラストマー層は、温度情報を提供するように独立して最適化される。このような温度情報は、たとえば、超音波装置と患者の身体との間の接触の質を測定するため、且つ/又は超音波装置の過熱を防ぐために使用される。
【0023】
別の態様によれば、任意の記述される実施形態による超音波装置を備える超音波システムが提供され、超音波システムは、超音波装置のトランスデューサ機構を駆動するように構成される電源をさらに備え、電源は、電極機構に応答し、エラストマー層の抵抗率の変化を示す電極機構からの信号があった際に、トランスデューサ機構を動作不能にするように構成される。このような超音波システムは、トランスデューサ機構とトランスデューサ機構によって生じる超音波を受ける身体との間の接触の質が悪化している、たとえば規定された質の閾値を下回って下がっているという、エラストマー層の抵抗率の変化から導き出される指標があると、トランスデューサ機構への給電を止める。トランスデューサ機構への電力を止めることにより、このような不十分な接触状態の下での、トランスデューサ機構による超音波の生成が避けられ、これは、超音波装置の耐用期間を延長するという点において、且つ身体の意図されていない区域がこのような超音波に露出されるのを避けるという点において有益である。
【0024】
超音波装置が前述の感温性の別のエラストマー層をさらに備える場合、電源は、別の電極機構にさらに応答し、別のエラストマー層の抵抗率の変化を示す、別の電極機構からの別の信号、たとえば別のエラストマー層での温度が限界閾値を超えていることを示す別の信号があると、トランスデューサ機構に供給される電力を減らすか又はトランスデューサ機構を動作不能にするように構成される。
【0025】
特に重要な一実施形態では、トランスデューサ機構は、複数の静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサを備え、各静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサは、基板を覆う膜であって、膜及び基板が空洞の範囲を定める、膜と、第1の電気絶縁性層によって空洞から隔てられる、基板上の第1の電極と、膜によって支持される、第1の電極に対向する第2の電極とを備え、電源は、各静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサの第1の電極及び第2の電極に、選択される静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサの膜を圧潰モード(collapsed mode)にさせるバイアス電圧と、圧潰モードの膜を共振させる、バイアス電圧に加わる交番電圧とを供給するように構成される。この実施形態では、トランスデューサ機構とトランスデューサ機構によって生成される超音波に露出される身体との間の接触の質が不十分であるとき、又は超音波装置が過熱の危険にさらされているとき、いわゆる圧潰モードでのCMUT素子の動作は避けられる。いわゆる圧潰モードでのCMUT素子の動作では、トランスデューサアレイの音響性能は機能強化されるがCMUT素子の耐用期間は短くなることは、それ自体よく知られているので、このようなCMUT素子を用いた超音波の生成が、トランスデューサアレイと身体との間の接触の質が不十分であるために所望の結果をもたらさない場合(又はトランスデューサ素子が過熱によって損傷する恐れがある場合)、このようなCMUT素子への給電を(一時的に)止めることができるのは、それによりCMUT素子の耐用期間が長くなるので、この実施形態では特に有利である。
【0026】
さらに別の態様によれば、記述される実施形態のうちの任意の超音波装置と、超音波装置を用いて生成される超音波に露出される身体の表面に対してある向きで超音波装置を保持するように構成される保持器であって、超音波装置の向きを調整するアクチュエータ機構、並びにアクチュエータ機構を制御するように構成されるコントローラを備える、保持器とを備え、コントローラが、電極機構によって与えられる、エラストマー層の抵抗率の変化を示す信号に応答する、超音波機構が提供される。このような超音波機構は、エラストマー層の測定された抵抗率が、トランスデューサ機構とトランスデューサ機構によって生成される超音波に露出される身体との間の接触の質に変えられ、その結果、測定された抵抗率は、アクチュエータ機構を制御するための帰還信号として使用され、その結果、超音波装置は、トランスデューサ機構が超音波に露出される身体との間で質の良い接触を実現する向きに、アクチュエータ機構によって自律的に位置決めされるということから、利益を得る。
【0027】
本発明の実施形態は、添付図面を参照して、より詳細に、且つ非限定的な例として記述される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
各図は単なる概略図であり、一定の縮尺で描かれていないことを理解されたい。同じ部分又は同様の部分を示すために、同じ参照符号が各図の全体を通して使用されていることも理解されたい。
【0030】
本出願のコンテキストでは、「伝導性」という用語は、明確にそうでないことが述べられていない限り、「導電性」を意味する。同様に、「非伝導性」という用語は、明確にそうでないことが述べられていない限り、「電気絶縁性」を意味する。エラストマー層について言及される場合、これは、エラストマー特性を有し、伝導性粒子を含み、任意選択で非伝導性粒子をさらに含む材料の層又は材料のブレンドの層を意味することを意図している。このような粒子は、通常はエラストマー層に分散される。
図1は、一実施形態による超音波装置10を概略的に示す。超音波装置10は、キャリア11の上に複数の超音波トランスデューサタイル100を備える。複数の超音波トランスデューサタイル100は、トランスデューサアレイとも称される。それぞれのタイル100は、圧電トランスデューサ素子やCMUT素子などの1つ又は複数の超音波トランスデューサ素子を備えてもよい。別法として、超音波装置10は、超音波トランスデューサタイル100の代わりに、単結晶トランスデューサ素子を備えてもよい。特に好ましい一実施形態では、超音波装置10は、複数のCMUTタイル100を備え、それぞれのタイル100の個々のCMUT素子は、以下にさらに詳細に説明される、いわゆる圧潰モードで動作するように構成される。
【0031】
音響窓150は、超音波トランスデューサタイル100を覆って、すなわち超音波トランスデューサタイル100の上に直接的又は間接的に配置され、その結果、トランスデューサアレイの超音波トランスデューサ素子は、音響窓150から超音波を送信するように構成される。言い換えれば、音響窓150は、トランスデューサ機構110に、すなわちトランスデューサ機構110の超音波トランスデューサ素子の送信表面に音響的に結合される。このような音響窓150は、トランスデューサアレイが直接接触できないようにし、それによってトランスデューサアレイを損傷から守り、且つトランスデューサアレイによって生成される超音波に露出される身体が、トランスデューサアレイによって直接接触されないようにして、たとえば不慮の電気ショックから身体を守る。それ自体よく知られているように、このような音響窓150は、さらに、トランスデューサアレイと身体との間のインピーダンス整合を可能にする。
【0032】
一実施形態では、音響窓150は、エラストマー層153を備え、エラストマー層153は、エラストマー層に分散されてエラストマー層153に感圧伝導性を付与する伝導性粒子を有する。エラストマーは、伝導性粒子に電気絶縁性マトリクスを提供する。伝導性粒子は、エラストマーの浸透閾値、すなわち伝導性粒子がエラストマー層153を通って恒久的な伝導性経路を形成する、すなわち伝導性粒子が互いに恒久的に接触した状態になる限度を下回るある濃度で、エラストマー中に存在する。こうした伝導性経路は、代わりにエラストマー層153に圧力を印加し、それによってエラストマー層153の電気抵抗値の変化、たとえば低下を引き起こすことによって、一時的に形成される。エラストマー層153への印加圧力の変化は、通常、エラストマー層153を通って伝導性粒子によって形成される伝導性経路の数、及び/又は長さの変化を引き起こし、したがって、エラストマー層153に印加される圧力の変化は、通常、この層の電気抵抗値の変化を生じさせる。したがって、エラストマー層153の電気抵抗値は、音響窓150に接触させられる表面、たとえば超音波トランスデューサタイル100を含むトランスデューサアレイによって生成される超音波に露出される患者の身体の部位と超音波装置10のトランスデューサアレイとの間の接触の指標を提供する。
【0033】
別法として、伝導性粒子は、エラストマーの浸透閾値、すなわち伝導性粒子がエラストマー層153を通って恒久的な伝導性経路を形成する、すなわち伝導性粒子が互いに恒久的に接触した状態になる限度を上回るある濃度で、エラストマー中に存在してもよい。この実施形態では、このような伝導性経路は、エラストマー層153に圧力を印加し、それによってエラストマー層153の電気抵抗値の変化、たとえば上昇が引き起こされることによって一時的に途絶される。エラストマー層153での良好な圧力感受性を実現するために、エラストマー層153での伝導性粒子の濃度は、好ましくは、エラストマー層の全体的なボリュームに対して、ボリュームで少なくとも15%であり、より好ましくは、伝導性粒子の濃度は、エラストマーの圧電感受性を最大化するために、たとえば浸透閾値を下回るか又は上回る、エラストマーの浸透閾値の近くである。たとえばエラストマー層153での伝導性粒子の濃度は、エラストマー層の全体的なボリュームに対して、ボリュームで15〜25%でもよい。
【0034】
エラストマー層153は、好ましくは、トランスデューサアレイの音響インピーダンスと音響的に整合する、すなわちトランスデューサアレイの音響インピーダンスとおおよそ整合する音響インピーダンスを有する。たとえば、圧電トランスデューサを備えるトランスデューサアレイの場合、エラストマー層153は1.3〜3.0MRaylsの範囲の音響インピーダンスを有するが、一方CMUT素子を備えるトランスデューサアレイの場合、エラストマー層153は1.3〜1.9MRaylsの範囲の音響インピーダンスを有し、これには、音響インピーダンスが、通常約1.6MRaylsの音響インピーダンスを有する身体組織の音響インピーダンスに厳密に整合するという、さらなる利点がある。実施形態の一例では、エラストマー層153は、1.4〜1.7MRaylsの範囲の音響インピーダンスを有する。
【0035】
エラストマー層153の音響インピーダンスは、エラストマーの選択によって、すなわち適した固有音響インピーダンスを有するエラストマーを選ぶことによって調節され、この固有音響インピーダンスは、別の固有音響インピーダンスを有する伝導性粒子を含むことによって調整され、したがって、エラストマー層153の全体の音響インピーダンスは、エラストマーの固有音響インピーダンスと伝導性粒子の別の固有音響インピーダンスとの組合せによって定められる。この目的のために、互いに異なる固有音響インピーダンスを有する伝導性粒子の混合物が使用されてもよい。
【0036】
たとえば、vが音速、dが粒子密度であり、粒子の音響インピーダンスZがZ=v*dと表されるとき、エラストマー層153の音響インピーダンスは、特定の密度及び/又はサイズを有する伝導性粒子を選択することによって調節される。したがって、比較的重い(密度の高い)粒子を使用して、エラストマー層153のエラストマーの固有音響インピーダンスを上昇させることができる。
【0037】
任意の適したエラストマーが、エラストマー層153のエラストマーとして使用される。実施形態はそれらに限定されないが、たとえばエラストマーは、ポリオレフィン、ジエン重合体、若しくはポリシロキサンであるか、ポリオレフィン、ジエン重合体、若しくはポリシロキサンを含む共重合体又はブロック共重合体であるか、又はこれらのブレンドでもよい。カテーテルに一般的に使用されるポリブタジエン、ポリジメチルシロキサン及び比較的柔らかいポリエーテルブロックアミド(PEBA)が、適したエラストマーとして具体的に言及される。
【0038】
任意の適した伝導性粒子が、エラストマー層153に使用される。実施形態はそれらに限定されないが、たとえば伝導性粒子は、たとえばグラファイト粒子やグラフェン粒子である炭素粒子、炭素複合体粒子、セラミック粒子、金属粒子、金属合金粒子、複合金属粒子、及び伝導性金属酸化物粒子のうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【0039】
少なくともいくつかの実施形態では、エラストマー層153は、伝導性粒子と非伝導性粒子の混合物を含む。非伝導性粒子を含むことは、エラストマー層153の音響インピーダンスを調節するために有用である。たとえば、非伝導性粒子は、比較的高い密度を有する粒子である場合があり、その結果、エラストマー層153の中の粒子部分全体(すなわち非伝導性粒子+伝導性粒子)に対して少量の非伝導性粒子部分が、エラストマー層153の圧電感受性を著しく下げることなしに、その音響インピーダンスを著しく上昇させる。任意の適した非伝導性粒子、又は非伝導性粒子の混合物が、この目的のために使用される。非限定的な例として、非伝導性粒子は、セラミック粒子、たとえば遷移金属の酸化物、窒化物、炭化物粒子、高密度金属の酸化物、窒化物、炭化物粒子などでもよい。
【0040】
一実施形態では、エラストマー層153は、10〜200μmの範囲、たとえば150μmの厚みを有する。エラストマー層153の厚みが200μmを超える場合は、エラストマー層153の可撓性が低下する可能性がある。エラストマー層153の厚みが10μm未満である場合は、エラストマー層153において所望の圧力感受性を実現することが困難である可能性がある。
【0041】
特定の一実施形態では、感圧エラストマー層153は、λ/4である厚みを有する整合層であり、この整合層は、エラストマー層153を通過する、波長λを有する超音波の反射を防止する。たとえば、PDMSを通る超音波の伝搬スピードvは、1000m/秒である。10MHzである周波数fを有する超音波においては、λ=v/f=100マイクロメートルである。厚みd=25マイクロメートルを有するようにPDMS層を選ぶことにより、エラストマー層153による10MHzの超音波の規模の大きい反射が効果的に避けられる。エラストマー層153の厚みdは、エラストマー層153を通る超音波の伝搬スピードvに基づいて、且つ超音波装置10によって生成される超音波の主な周波数又は中心周波数fに基づいて調節されることは、当業者には前述の内容から即座に明らかになろう。超音波装置10は、患者の体内で特定の波長範囲の超音波を生成するように構成される。たとえば、7〜12MHzの範囲の超音波は、体内では約0.1〜0.2mmの波長に対応する。エラストマー層153の中の伝導性粒子の最大粒子サイズは、トランスデューサアレイから出る超音波の(又は超音波装置10へと戻る超音波エコーの)反射を最小限にするために、好ましくは超音波装置10が生み出し得る超音波の波長範囲に従って選ばれる。この理由で、伝導性粒子、及びもしあれば非伝導性粒子は、好ましくは、超音波装置10によって生じ得る最短超音波波長の10%未満である最大直径を有する。
【0042】
本出願のコンテキストでは、「最大直径」という用語は、(非)伝導性粒子の最大断面寸法を指し、(非)伝導性粒子の形状を球形粒子に限定することを意図するものではない。(非)伝導性粒子は、任意の適した形状を有してもよく、たとえば球形でも、板状体でも、薄片でも、コアシェル型ナノ粒子、ナノワイヤ、ナノロッド、ナノチューブなどを含むナノ粒子でもよい。
【0043】
超音波装置10は、エラストマー層153に伝導的に結合される電極機構160をさらに備える。
図1では、電極機構160は、エラストマー層153の周辺部に沿って、すなわちエラストマー層153の少なくとも1つの縁部に沿って配置される。電極機構160は、エラストマー層153の圧電抵抗率を検知するように構成される検知回路170に伝導的に結合される。たとえば、検知回路170は、電極機構160を用いてエラストマー層153の両端に電圧ポテンシャルを印加し、その結果得られる、エラストマー層153を流れる電流を測定するように構成される。別法として、検知回路170は、電極機構160を用いてエラストマー層153の両端に電流を印加し、その結果得られる、エラストマー層153の両端の電圧降下を測定して、その抵抗率を決定するように構成されてもよい。エラストマー層153の圧電抵抗率を測定する他の適したやり方は、当業者には即座に明らかになろう。
【0044】
音響窓150は、追加的な音響的に透過性の層を備えてもよい。一実施形態では、音響窓150は、外部層155をさらに備え、これは、エラストマー層153が外部層155と超音波トランスデューサタイル100との間に配置されるように構成される。別の実施形態では、音響窓150は、内部層151をさらに備え、これは、内部層151がエラストマー層153と超音波トランスデューサタイル100との間に配置されるように構成される。さらに別の実施形態では、
図1に示すように、音響窓150は、内部層151と外部層155とをさらに備え、これらは、エラストマー層153が内部層151と外部層155との間に配置されるように構成される。
【0045】
外部層155は、超音波装置10で検査又は治療される患者又は身体に面することが意図されている。たとえば、外部層155は、電気絶縁性重合体、たとえばエラストマーなどの任意の適した電気絶縁性材料を含んで、エラストマー層153の導電中、エラストマー層153を損傷から守り、患者を不慮の電気ショックから守る。外部層155は、たとえばポリオレフィン系から選択される熱可塑性重合体(熱可塑性ポリオレフィン、すなわちTPO)とポリオレフィン系から選択されるエラストマー(ポリオレフィンエラストマー、すなわちPOE)とのブレンドを含んでもよい。エラストマーは、一般に、「結び目」が付けられた分子鎖の、大きい編み目状の架橋結合によって特徴付けられる。このタイプの架橋結合は、材料が、高いレベルの寸法安定性を有するが、なお弾性的に伸ばすことができることを意味する。荷重(たとえば引張荷重)を印加することによって鎖は伸ばされるが、荷重を取り除いた後、鎖は再び緩む。硬化されていないエラストマーの通常の硬さは、デュロメータ(Aスケール)で測定して、50ショアA未満である。オレフィン系(アルケンとも呼ばれる)は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する不飽和炭化水素の系である。ポリオレフィンは、オレフィン系から選択される単量体を含む重合体である。市販のPOEの大半は、エチレン−ブテン又はエチレン−オクテンの共重合体である。
【0046】
熱可塑性重合体は、エラストマーとは異なり、分子鎖が架橋されていない重合体である。その結果、熱可塑性重合体は、塑性弾性挙動を示し、熱成形可能である(加熱されると軟化又は溶融し、冷却されると再び硬化する特性をもつ)。この成形性は可逆的であり、言い換えれば、材料が過熱によって熱的に損傷していない限り、必要に応じて繰り返され得る。熱可塑性物質は架橋結合をほとんど、又はまったく有しないので、それらの個々の重合鎖は、加熱に際して、互いにすり抜ける。ここでは、熱可塑性重合体は酸素を含む官能基をさらに含まないと仮定すると、熱可塑性ポリオレフィンにおいては、ポリオレフィン系は、飽和炭化水素と比較して、熱可塑性重合体に比較的低い分子量を与える。熱可塑性ポリオレフィンは、線状イソタクチック重合体を含んでもよい。一般に、熱可塑性重合体は、60ショアAを上回る硬さを有する。
【0047】
外部層155に使用されるポリオレフィン熱可塑性重合体のブレンドにポリオレフィンエラストマーを添加することにより、せん断波減衰が大きくなり、これは、超音波トランスデューサタイル100の超音波トランスデューサ素子同士の間のクロストークを有益に低減する。したがって、超音波装置10の音響窓150は、熱可塑性ポリオレフィンとポリオレフィンエラストマーとのブレンドから形成される外部層155を含んで、超音波撮像中、画像のアーチファクトの軽減を実現する。
【0048】
これらの重合体材料のブレンディング(コンパウンディング)は、たとえば、2軸押出機を用いて実施される。熱可塑性重合体とエラストマーとのブレンドは、いわゆる非相溶性重合体ブレンド(異種重合体ブレンド)に相当し、これらの2つの重合体で作られたブレンドは、ブレンドを形成する材料に対応する、ガラス転移温度や融点などの、2組の別個の物理的特性を示す。ポリオレフィンエラストマーの追加的な利点は、大半のオレフィン性材料と相溶性であることであり、オレフィン性は、少なくとも1つの二重結合を有する不飽和鎖式炭化水素のうちの任意のクラスである。
【0049】
熱可塑性ポリオレフィンとのブレンドにポリオレフィンエラストマーを添加することにより、純粋な熱可塑性物質と比較してブレンドの密度が変化し、その結果、外部層155の音響インピーダンスが、エラストマー層153の音響インピーダンス及び/又は(約1.6MRaylsである)軟部組織の音響インピーダンスと整合するように有益に調整される。音響波速度、音響エネルギー減衰、せん断波減衰などの、外部層の他の音響特性も、熱可塑性重合体にブレンドされるエラストマー含有量の異なる比を選択することによって調節される。外部層155には熱可塑性ポリオレフィンを使用することが望ましく、これは、超音波画像の質を損なうことなしに、機械的頑健性を提供する。
【0050】
外部層155に使用される熱可塑性重合体の材料の一例は、ポリメチルペンテン(ポリ4−メチルペンテン−1)である。ポリメチルペンテン(Mitsuiから商品名TPXで入手可能)の材料は、縦方向の小さい音響減衰を示す。このコンテキストでは、縦方向の減衰は、トランスデューサアレイに面するように配置される音響窓150の内部表面から音響窓150の外部表面へと伝搬する間の、波の振幅の減少に対応する。0から10MHzまでの周波数範囲では、ポリメチルペンテンは、最大10MHzの超音波周波数に関して3dB/mmを下回る減衰値を示す。
【0051】
別の例では、ポリメチルペンテンは、ポリオレフィンエラストマーを形成する共重合体にブレンドされてもよい。共重合体は、異なる弾性特性を有する材料から構成される重合体(2つの異なる単量体)の物理的混合物である。ポリオレフィンエラストマーの共重合体は、エチレンとオクタンやブタンなどのアルファオレフィンとの共重合体である。アルファ−オレフィン(又はα−オレフィン)は、1次的位置又はアルファ(α)位に二重結合を有することによって特徴付けられる、化学式C
nH
2nを有するアルケンである、有機化合物の系である。別の実施形態では、外部層は、ポリメチルペンテンとエチレン−オクテン共重合体とのブレンドを含んでもよい。この共重合体は、Dow Chemicalから商品名Engageで入手可能である。
【0052】
エチレン−オクテン共重合体は、そのオレフィン性質により、ポリメチルペンテンとブレンドするのに適している。この共重合体は、平均して、TPXより低い音響インピーダンスを示し、ほぼ1桁大きいせん断波減衰を示す。その結果得られるTPXとエチレン−オクテン共重合体とのブレンドは、TPXからは、比較的速い音響波速度を伴う、より小さい密度を引き継ぎ、共重合体からは、より低い音響インピーダンス、及びより大きいせん断波減衰を引き継ぐ。したがって、特に適した外部層155は、TPXとエチレン−オクテン共重合体とのブレンドを含む。このブレンドは、音響窓150から生じる、画像のアーチファクトの軽減に起因した改善型の撮像品質に次いで、超音波装置10の音響窓150に、耐久性及び低音響減衰特性を提供する。
【0053】
内部層151は、電気絶縁性重合体、たとえばエラストマーなどの任意の適した電気絶縁性材料を含んで、エラストマー層153からトランスデューサアレイを電気的に絶縁する。内部層151を形成する材料は、超音波トランスデューサの音響インピーダンスや電気音響変換のメカニズムなどの、超音波トランスデューサの音響要件に基づいて選択される。内部層151は、超音波トランスデューサアレイの放射表面の、音響窓150への音響結合を実現する。
【0054】
超音波トランスデューサタイル100、具体的にはCMUTタイル100と内部層151との特に効果的な音響結合を実現するために、内部層151は、熱硬化性ゴムから選択される1つ又は複数の材料を含んでもよい。熱硬化性ゴムは、水素原子及び炭素原子のみを含み、(1g/cm3を下回る)比較的小さい密度を有する重合体材料である。
【0055】
たとえば、内部層151は、ポリブタジエンゴム又はブチルゴムを含んでもよい。ブチルゴムは、イソブチレン−イソプレン共重合体であり、わずか40ショアAである硬さを示す。ポリブタジエンは、水素及び炭素以外の原子タイプを含まない熱硬化性ゴムに属する。この材料は、伝搬する音響エネルギーに対する、最低の減衰効果のうちの1つを示す。内部層151用の材料として使用されるポリブタジエン層は、特にトランスデューサ素子がCMUT素子であるとき、音響窓150全体に関して、改善された音波送信(より小さい減衰)を示す。このことは、PZTと比べた、CMUTの異なる電気音響変換メカニズムに帰する。PZTをベースとするトランスデューサは、通常は平行六面体の形状を有し、その面のうちの少なくとも1つは、音波の送信中、ピストンのような動きで振動するように構成される。振動する(アクティブな)面の変位量は、面の表面の全体にわたって均一である。
【0056】
対照的に、CMUTの振動膜は、膜の面積(表面)の全体にわたって異なる変位量を有する。従来の動作モードでは、膜の変位量は、CMUTセルの中心部で最も大きく、膜の周辺部で最も小さい。以下により詳細に説明されるように、圧潰動作モードでは、CMUTの膜は、セル床部と部分的に接触しており、その結果、従来の動作モードと比較して、膜の変位量(D)が最大になる。
【0057】
膜の振動部分の変位量の変動は、動作しているCMUT素子の改善された音響結合を実現するために、音響窓150の内部層151の特性に関して異なる要件を課す。音響窓150、具体的には内部層151は、その内部表面を膜の変位量に適合させる必要がある。ポリブタジエンの比較的小さい分子量が、(60ショアAを下回る、好ましくは50ショアAを下回る)その比較的低い硬さとあいまって、振動するように構成されるCMUTの膜と音響窓150との間の改善された音響接触を提供する。さらに、内部層を形成する材料の音波減衰が小さいことにより、音響窓150の全体にわたって、改善された波の遷移が提供され得る。
【0058】
ポリブタジエンは、約1.45MRaylである音響インピーダンスを有する。トランスデューサアレイとトランスデューサアレイを用いて生成される超音波に露出される身体組織との間のインピーダンス不整合を最小限にするために、ポリブタジエンを含む音響窓材料、たとえば内部層151の音響インピーダンス値を、たとえば約1.6MRaylまで上昇させて、軟部身体組織の音響インピーダンスに整合させることが望ましい。これは、内部層151に電気絶縁性粒子などのフィラーを加えることによって実現される。内部層151に電気絶縁性粒子を添加することにより、この層の全体的な密度が大きくなる。組み込まれる絶縁性粒子によって生じる追加的な音響損失は十分に小さいことが分かっており、音響窓150を通る音波伝搬の質に大幅に影響を及ぼすことはない。層の音響インピーダンスは、その重量の25%を絶縁性粒子(たとえばZrO
2粒子)の形で有する内部層151においても、最大10MHzの超音波周波数に関し、層の減衰は依然として1.5dB/mm未満のままにしながら、より高い値に向けて、たとえば組織の音響インピーダンスに近づくように調節されてもよい。組み込まれる絶縁性粒子を有する重合体材料を含む内部層151が0.94g/cm
3以上の密度を有し、1.5MRayl以上の音響インピーダンスを有するとき、CMUT素子の膜への音響窓150の直接的な音響結合が実現される。したがって、音響窓150とCMUTアレイとの間の追加的な結合媒体は必要とされない。
【0059】
超音波で一般的に使用されるシリコンをベースとしたゴム(充填シリコーン(filled silicone))と比較して、分子量が小さい熱硬化性ゴムの利点は、これらの熱硬化性ゴム、具体的にはポリブタジエンが、より高い音響インピーダンスを有することである。したがって、身体組織のインピーダンスにポリオレフィンをベースとする重合体層の音響インピーダンスを調節するために、この重合体材料に必要とされるフィラーの量は、たとえば充填シリコーンと比べて比較的少ない。
【0060】
一実施形態では、内部層151の電気絶縁性粒子として、セラミック粒子が使用される。金属酸化物(ZrO
2、Al
2O
3、TiO
2、Bi
2O
3、BaSO
4など)などのセラミック粒子は、高絶縁特性を示し、これは超音波装置10の電子装置、たとえばキャリア11に組み込まれる電子装置に追加的な絶縁を提供するのに有利である。内部層151及び外部層155の音響特性は、これらの層に組み込まれる絶縁性粒子の重量比を変化させることによって調節される。
【0061】
しかし、上記の内容は内部層151及び外部層155向けに特に適した材料を示すが、本発明の実施形態はこれらの特に適した材料には限定されず、任意の適した材料が内部層151及び外部層155にそれぞれ使用されてもよいことを理解されたい。さらに、内部層151及び外部層155の実施形態として等しく記述される種々のエラストマー材料及び材料のブレンドは、エラストマー層153のエラストマーとして使用されてもよい。
【0062】
図2は、超音波装置10の別の実施形態を概略的に示す。この実施形態では、エラストマー層153は、電極機構160の間に挟まれる。このような挟まれた構成では、電極機構160の各電極とエラストマー層153との間の接触面積がより大きいので、検知回路170の感受性が向上する。電極機構160は、たとえばエラストマー層153と上部層155との間に配置される、エラストマー層153に接する上部電極と、たとえば音響窓150のエラストマー層153と下部層151との間に配置され、上部電極と対向する、エラストマー層153に接する下部電極とを備えてもよい。電極機構160の電極は、電極を通過する超音波との干渉を最小限にするために、可能な限り薄く、たとえば1マイクロメートル未満に保たれる。このような厚みで、たとえばAu、Ni、Ni/Cr、Cu、又はCu/Ti電極などの金属や金属合金の電極、たとえばITO電極である伝導性金属酸化物電極、伝導性重合体又は伝導性重合体複合電極など、任意の適した伝導性材料が電極に使用されてもよい。多くの他の電極材料が、当業者には即座に明らかになろう。
【0063】
図3は、超音波装置10のさらに別の実施形態を概略的に示す。
図2に概略的に示す実施形態と比較して、電極機構160は、個別に取扱い可能な電極セルの電極マトリクスを形成するようにパターン形成され、その結果、各電極セルは、セルの電極部分の間の、エラストマー層153の一部の圧電抵抗率を決定する。すなわち各エラストマー層部分は、電極機構160によって個別に取り扱われる。たとえば、電極機構160は、パッシブマトリクス構成として実施されて、エラストマー層153の各部分の個々の取扱いを容易にする。この実施形態では、各エラストマー層部分の患者の身体との接触の質が、電極機構160を用いてその特定のエラストマー層部分に質問することによって得られるので、トランスデューサアレイに関して、特にきめの細かい接触圧力マップが作り出される。
【0064】
電極マトリクスは、互いに対向するパターン形成した電極、並びにコモン電極に対向するパターン形成した電極(たとえばエラストマー層153と超音波トランスデューサタイル100との間のパターン形成した電極及び対向するコモン電極、又はエラストマー層153と超音波トランスデューサタイル100との間のコモン電極及び対向するパターン形成した電極)を備えてもよい。エラストマー層153は、連続的な層として提供されてもよく、別法として、複数の部分にパターン形成され、各部分が、電極マトリクスの電極セルの対向する電極部分同士の間に配置されてもよい。少なくともいくつかの実施形態では、電極機構の、患者の身体に面する電極は、接地されて電気ショックのリスクを低減する。
【0065】
図1〜
図3には具体的に示されていないが、音響窓150は、追加的な層を備えてもよく、これは特定の機能を果たすように調節される。たとえば、音響窓は、別の導電性粒子を含み任意選択で別の非伝導性粒子をさらに含む別のエラストマー層をさらに備え、別のエラストマー層の特性、たとえば別の導電性粒子及び任意選択の別の非伝導性粒子のサイズ、形状、及び/又は密度は、たとえば別のエラストマー層に温度依存抵抗性を付与することにより、別のエラストマー層の温度感受性を最適化するように調節される。別の電極機構が、別のエラストマー層と伝導的に接触した状態で提供されてもよい。たとえば、別のエラストマー層は、連続的な別の電極機構や上に説明したような別の電極マトリクス構成などの、別の電極機構の間に挟まれてもよく、別の電極機構は、別の検知回路に伝導的に結合されて、別の電極機構を用いて測定された抵抗率の関数として、別のエラストマー層の温度を決定してもよい。このような温度情報は、たとえば、決定された温度が限界閾値を超えるのに際し、トランスデューサアレイに供給される電力を止めるか又は減らすことによって、たとえば超音波トランスデューサタイル100が過熱するのを防ぐために使用される。別法として、又は追加的に、別のエラストマー層の温度は、通常はこの接触の質が向上するにつれて高くなるので、このような温度情報は、超音波装置10と患者の身体との間の接触についての接触の質の情報を取り出すために使用されてもよい。
【0066】
本発明の実施形態では、超音波装置10は、超音波撮像システム、又は超音波治療システムにおいて使用するための超音波プローブなどでもよい。たとえば、このような超音波プローブは、侵襲的な撮像又は治療のためのカテーテルの一部を形成してもよく、非侵襲的な撮像又は治療のための手持ち式装置の一部を形成してもよく、たとえば患者の身体の特定の区域の長時間の治療のための、ウェアラブル装置の一部を形成してもよい。このようなプローブの非限定的な例には、経食道心臓超音波検査(TEE)プローブ、心腔内エコーカテーテルなどの血管内プローブが含まれる。
【0067】
本発明の好ましい実施形態では、それぞれの超音波トランスデューサタイル100は、1つ又は複数のCMUT素子を備える。
図4は、CMUT素子の実施形態例を概略的に示す。このようなCMUT素子は、通常は、シリコン基板112の上に懸架される膜又は振動板114を備え、間隙又は空洞118がそれらの間に存在する。上方電極120は、振動板114に位置付けられ、振動板と共に動く。下方電極は、この例では、基板112の上部表面の、セルの床部に位置付けられる。電極120が膜114に組み込まれる、又は追加的な層として膜114に堆積されるなど、電極120の設計の他の実現法が考えられる。非限定的な例として、この例では、下方電極122は、円形に構成され、基板112に組み込まれる。他の適した構成、たとえば、下方電極122が間隙118に直接露出される、又は上方電極120と下方電極122との間の短絡を防止するために電気絶縁性層若しくは電気絶縁性フィルムによって間隙118から隔てられるような、たとえば基板層112の上での下方電極122の他の位置や他の電極形状が企図される。
【0068】
さらに、膜層114は、基板層112の上面に対して固定され、膜層114と基板層112との間に球形又は円筒形の空洞118を画定するように、構成及び寸法決定される。非限定的な例として、下方電極122は接地される。たとえば上方電極120が接地される、又は上方電極120と下方電極122がどちらもフローティングするなどの他の構成が、当然等しく実施可能である。
【0069】
セル100及びその空洞118は、代替のジオメトリを示してもよい。たとえば、空洞118は、長方形若しくは正方形の断面、六角形の断面、楕円形の断面、又は不規則な断面を示してもよい。本明細書において、CMUTセル100の直径についての言及は、セルの最大横寸法であると理解される。
【0070】
一実施形態では、下方電極122は、追加的な層(図示せず)を用いて、その空洞に面する表面で絶縁される。この層に関して任意の電気絶縁性材料が企図されることが理解されるべきではあるが、好ましい電気絶縁性層は、基板電極122の上、且つ膜電極120の下に形成される酸化物−窒化物−酸化物(ONO)誘電層である。ONO−誘電層は、有利には、装置の不安定性並びに音響出力圧力のドリフト及び低下を引き起こす、電極での電荷蓄積を軽減する。
【0071】
CMUT素子へのONO−誘電層の組付け例は、Klootwijkらによる、2008年9月16日出願の「Capacitive micromachined ultrasound transducer」と題する欧州特許出願第EP2,326,432A2号において詳細に述べられている。ONO−誘電層の使用は、懸架された膜を用いて動作するCMUTより電荷保持の影響を受けやすい、事前圧潰CMUTにおいて望ましい。開示される構成要素は、CMOS適合材料、たとえば、Al、Ti、窒化物(たとえばシリコン窒化物)、酸化物(種々のグレード)、テトラエチルオキシシラン(TEOS)、ポリシリコンなどから製造される。CMOSの製造においては、たとえば酸化物層及び窒化物層は化学蒸気堆積によって形成され、メタライゼーション(電極)層は、スパッタリングプロセスによって付着させられる。
【0072】
適したCMOSプロセスは、LPCVD及びPECVDであり、後者は、400℃未満である、比較的低い動作温度を有する。開示される空洞118を生成する例示的な技法は、膜層114の上面を加える前に、膜層114の初期部分に空洞を画定するものである。他の組付けの詳細は、米国特許第6,328,697号(Fraser)に認められる。
図4に示す例示的な実施形態では、円筒形の空洞118の直径は、円形に構成される電極プレート122の直径より大きい。こうした一致は必要とされないが、電極120は、円形に構成される電極プレート122と同じ外径を有してもよい。このように、本発明の例示的な一実装形態では、膜電極120は、下の電極プレート122に位置合わせするように、膜層114の上面に対して固定される。
【0073】
CMUTの電極は、装置の静電容量型プレートを形成し、間隙118は、コンデンサのプレート間の誘電体である。振動板が振動するとき、プレート間の誘電性間隙の寸法が変化することによって容量値の変化がもたらされ、これは受信された音響エコーに対するCMUTの応答であるとして検知される。電極間の間隔は、
図5に概略的に示されるように、電源45を用いて電極に静電圧、たとえばDCバイアス電圧を印加することによって制御される。電源45は、通常は、各超音波トランスデューサタイル100、たとえばこれらのタイルの個々のトランスデューサ素子に刺激を与えるように構成されるか、又は各タイル100が(同期されるCMUT素子から構成される)単一のトランスデューサ素子として動作するように、これらのタイルのトランスデューサ素子を同時に取り扱うように構成される。
【0074】
電源45は、CMUT素子の場合はトランスデューサ素子の膜が自由に共振することになるように、超音波装置10のトランスデューサ素子を動作させるように構成される。代替の一実施形態では、電源45は、取り扱われるCMUT素子の各膜が基板112の上に圧潰される、すなわち圧潰モードになるように、このようなCMUT素子を動作させるように構成される。この目的のために、電源45は、選択される静電容量型マイクロマシン超音波トランスデューサの膜を圧潰モードにさせるバイアス電圧を生み出すように構成される第1の段102と、圧潰モードの膜を共振させる、バイアス電圧に加わる交番電圧を生み出すように構成される第2の段104とを備える。別法として、このバイアス電圧及びバイアス電圧に加わる交番電圧は、電源45の単一の段によって生じてもよい。
【0075】
それ自体知られているように、ある閾値を上回る静電圧を印加することにより、CMUTは圧潰状態にされ、圧潰状態では、膜114は、基板112の上へと圧潰する。この閾値は、CMUTの精密な設計に依存し、バイアス電圧の印加中、膜114がファンデルワールス力によってセル床部にくっつく(接触する)DCバイアス電圧として定義される。膜114と基板112との間の接触の量(面積)は、印加されるバイアス電圧に依存する。膜114と基板112との間の接触面積が大きくなることにより、膜114の共振周波数が高くなる。これは、
図6a、
図6b、及び
図7a、
図7bを用いて、より詳細に説明される。
【0076】
圧潰モードのCMUTの周波数応答は、電源45を用いて圧壊した後、CMUT電極に印加されるDCバイアス電圧を調整することによって変えられる。その結果、CMUTセルの共振周波数は、電極に印加されるDCバイアス電圧が高くなるにつれて増加する。
図6a及び
図7aの断面図は、このことを、各実例において膜が空洞118の床部(すなわち基板112)に接触し始めるポイントと膜114の外部支持体との間の距離D1及び距離D2によって、1次元的に示す。比較的低いバイアス電圧が印加されるとき、
図6aでの距離D1は比較的長い距離であるが、一方
図7aでの距離D2は、印加されるバイアス電圧がより高いので、ずっと短い距離であることが理解される。これらの距離は、端部で保持され、次いで弾かれる、長い紐と短い紐に例えられる。長い緩んだ紐は、弾かれると、より短くよりぴんと張った紐よりずっと低い周波数で振動する。類似して、
図6aでのCMUTセルの共振周波数は、より高いプルダウンバイアス電圧を受ける
図7aでのCMUTセルの共振周波数より低い。
【0077】
この現象は、実際にはCMUT膜114の有効動作面積の関数であるので、この現象は
図6b及び
図7bの2次元の図からも理解される。
図6aに示されるように、膜114がCMUTの床部にちょうど接触するとき、
図6bに示されるように、セル膜114の非接触(自由振動)部分の有効振動面積A1は大きい。中心17の小さい穴部は、膜114の中心接触領域を表す。面積の大きい膜は、比較的低い周波数で振動する。この面積17は、CMUTの床部に圧潰される、膜114の面積である。しかし、
図7aのように、より高いバイアス電圧により、膜が引き寄せられてより深く圧潰するとき、中心接触面積17’は大きくなり、その結果、
図7bに示されるように、自由振動面積A2は小さくなる。この小さい方の面積A2は、大きい方のA1面積より高い周波数で振動する。したがって、DCバイアス電圧が低くなるとき、圧潰されるCMUTの周波数応答は小さくなり、DCバイアス電圧が高くなるとき、圧潰されるCMUTの周波数応答は大きくなる。
【0078】
図5に示されるように、電源45は、検知回路170に(且つもしあれば、音響窓150の中の感温性の別のエラストマー層に伝導的に結合される別の検知回路に)応答する。この実施形態では、検知回路170は、エラストマー層153の測定された圧電抵抗値(及び/又は測定された別のエラストマー層の熱電抵抗値)が超音波装置と患者の身体との間の接触が低水準であることを示す場合、電源45に対する警告信号を生成するように構成される。
【0079】
このような警告信号に応答して、電源45は、超音波トランスデューサタイル100に各制御信号、たとえば各CMUT素子を圧潰モードにさせるバイアス電圧を提供することを一時的に停止するように構成されてもよく、その結果、トランスデューサアレイの各CMUT素子は、超音波装置10と患者の身体との間の十分な質のコンフォーマル接触が確立されるときのみ、圧潰モードにされる。このやり方では、超音波装置10と患者の身体との間の接触の質が効果的な治療又は撮像の助けになっているときのみCMUT素子を動作させることによって、CMUT素子の耐用期間が延長される。別法として、検知回路170は電源45に生のセンサデータを提供し、プロセッサなどを備える電源45が、生のセンサデータを処理し、処理された生のセンサデータから超音波装置10と患者の身体との間の接触の質の指標を導き出すように構成されてもよい。電源45は、超音波装置10と患者の身体との間の接触が超音波装置10の動作を再開するのに十分な質であるという指標を受信次第、超音波トランスデューサタイル100に各制御信号を提供することを再開する。同様に、電源45は、感温性の別のエラストマー層に関連付けられる別の電極機構が別のエラストマー層での温度が閾値を超えている、すなわち超音波装置10が過熱の危険にさらされているという指標を提供するのに応答して、超音波トランスデューサタイル100に各制御信号、たとえば各CMUT素子を圧潰モードにさせるバイアス電圧を提供することを一時的に停止するように構成されてもよい。
【0080】
別法として、電源45は、超音波装置10と患者の身体との間の低水準なコンフォーマル接触の指標、及び/又は超音波装置10が過熱の危険にさらされているという指標に応答して、超音波トランスデューサタイル100に供給される電力を一時的に減らすように構成されてもよい。
【0081】
超音波装置10及び電源45は、超音波診断撮像システムや超音波治療システムなどの超音波システムの一部を形成してもよい。超音波診断撮像システム1の実施形態例は、
図8にブロック図の形態で概略的に示される。超音波トランスデューサタイル100を備えるトランスデューサアレイ110が超音波装置10に提供されて、超音波を送信し、エコー情報を受信する。トランスデューサアレイ110は、2D平面、又は3D撮像向けに3次元を走査して読み込むことができる、トランスデューサ素子、たとえばタイル100の、1次元又は2次元のアレイである。
【0082】
トランスデューサアレイ110は、アレイセル、たとえばCMUTセルによる信号の送信及び受信を制御する、プローブ10のマイクロビームフォーマ12に結合される。たとえば米国特許第US5,997,479号(Savordら)、第US6,013,032号(Savord)、及び第US6,623,432(Powersら)に記述されるように、マイクロビームフォーマは、トランスデューサ素子のグループ、又は「パッチ」によって受信される信号を少なくとも部分的にビームフォーミングすることができる。
【0083】
マイクロビームフォーマ12は、プローブケーブル、たとえば同軸線によって送信/受信(T/R)スイッチ16に結合され、このスイッチは、送信モードと受信モードを切り換え、マイクロビームフォーマが存在していないか又は使用されておらず、トランスデューサアレイ110がメインシステムビームフォーマ20によって直接操作されるとき、高エネルギーの送信信号からメインビームフォーマ20を保護する。マイクロビームフォーマ12の制御下でのトランスデューサアレイ110からの超音波ビームの送信は、T/Rスイッチ16によってマイクロビームフォーマ及びメインシステムビームフォーマ20に結合されるトランスデューサコントローラ18によって指図され、トランスデューサコントローラ18は、ユーザインターフェース又はコントロールパネル38のユーザの動作から入力を受ける。トランスデューサコントローラ18によって制御される機能のうちの1つは、ビームが向けられ、集束される方向である。ビームは、トランスデューサアレイ110から(アレイに直交して)まっすぐ前方へ向けられてもよく、より広い視野を求めて様々な角度に向けられてもよい。トランスデューサコントローラ18は、トランスデューサアレイ110向けの前述の電圧源45を制御するように結合される。たとえば、電圧源45は、CMUTアレイ110のCMUTセル100に印加されるDCバイアス電圧及びACバイアス電圧を設定して、たとえば上に説明したように、CMUTセルを圧潰モードへと駆動する。
【0084】
マイクロビームフォーマ12によって生じる、部分的にビームフォーミングされた信号は、メインビームフォーマ20に送られ、メインビームフォーマ20では、トランスデューサ素子の個々のパッチからの部分的にビームフォーミングされた信号が組み合わせられて、完全にビームフォーミングされた信号になる。たとえば、メインビームフォーマ20は128のチャネルを有し、これらのチャネルのそれぞれが、数十又は数百のトランスデューサセルのパッチから、たとえばタイル100から、部分的にビームフォーミングされた信号を受ける。このようにトランスデューサアレイ110の数千のトランスデューサ素子によって受信される信号は、効率的に、ビームフォーミングされた単一の信号に寄与する。
【0085】
ビームフォーミングされた信号は、信号プロセッサ22に結合される。信号プロセッサ22は、バンドパスフィルタリング、デシメーション、I成分及びQ成分分離、並びに組織及びマイクロバブルから戻ってくる非線形(基本周波数の、より高い高調波)のエコー信号を識別することができるように、線形信号と非線形信号を分離するように機能する高調波信号分離などの種々の方式で、受信したエコー信号を処理する。
【0086】
信号プロセッサ22は、任意選択で、スペックル低減、信号の合成、雑音除去などの追加的な信号強調を実施する。信号プロセッサ22のバンドパスフィルタは、トラッキングフィルタでもよく、エコー信号がますます奥の方の深部から受信されるとき、そのフィルタの通過帯域が、高い方の周波数帯から低い方の周波数帯へスライドし、これにより、高い方の周波数が解剖学的な情報を有しない、より深い深部からの、これらの高い方の周波数での雑音が除去される。
【0087】
処理された信号は、Bモードプロセッサ26に結合され、任意選択でドップラープロセッサ28に結合される。Bモードプロセッサ26は、体内の器官及び血管の組織などの体内の構造の撮像のために、受信される超音波信号の振幅の検出を利用する。たとえば米国特許第US6,283,919号(Roundhillら)及び第US6,458,083号(Jagoら)に記述されるように、身体の構造のBモード画像は、高調波画像モード、基本画像モード、又はその両方の組合せのいずれかで形成される。
【0088】
もしあれば、ドップラープロセッサ28は、画像フィールド内の血球の流れなどの物体の動きを検出するために、組織の運動及び血液の流れからの時間的に異なる信号を処理する。ドップラープロセッサは、通常は、選択されたタイプの体内の物質から戻ってくるエコーを通過させる、且つ/又は除去するように設定されるパラメータを有するウォールフィルタを含む。たとえば、ウォールフィルタは、速度が速い方の物質からの比較的小さい振幅の信号は通過させ、速度が遅い方の、又は速度がゼロの物質からの比較的強い信号は除去する通過帯域特性を有するように設定される。
【0089】
この通過帯域特性は、流れている血液からの信号は通過させ、心臓の壁などの、近くの静止した物、又は動きの遅い物からの信号は除去する。逆の特性は、いわゆる組織ドップラー撮像向けに、心臓の動いている組織からの信号は通過させ、血流信号は除去して、組織の動きを検出及び描画する。ドップラープロセッサは、画像フィールド内の様々な地点からの、時間的に不連続なエコー信号のシーケンスを受信及び処理し、特定の地点からのエコーのシーケンスは、アンサンブルと呼ばれる。比較的短い時間で立て続けに受信されるエコーのアンサンブルを使用して、流れている血液のドップラーシフト周波数が推定され、ドップラー周波数と速度の対応関係が、血液の流速を示す。より長い時間にわたって受信されるエコーのアンサンブルは、より流れの遅い血液、又は動きの遅い組織の速度を推定するために使用される。
【0090】
Bモード(及びドップラー)プロセッサによって生じる構造的信号及び運動信号は、スキャンコンバータ32及び多断面再構成装置44に結合される。スキャンコンバータ32は、所望の画像形式で、エコー信号を、エコー信号がそこから受信された空間的関係に構成する。たとえば、スキャンコンバータは、エコー信号を、2次元の(2D)扇形の形式、又はピラミッド型の3次元の(3D)画像に構成する。
【0091】
スキャンコンバータは、画像フィールド内の地点での動きに対応する色を、それらのドップラー推定速度を用いてBモード構造的画像に重ね合わせて、画像フィールド内の組織の動き及び血流を描写するカラードップラー画像を生み出す。たとえば米国特許第US6,443,896号(Detmer)に記述されているように、多断面再構成装置44は、身体のボリュメトリック領域(volumetric region)の共通平面内の地点から受信されるエコーを、その平面の超音波画像に変換する。米国特許第6,530,885号(Entrekinら)に記述されているように、ボリュームレンダラー42は、3Dデータセットのエコー信号を所与の基準地点から見た投影3D画像に変換する。
【0092】
2D画像又は3D画像は、画像ディスプレイ40上に表示するためのさらなる強調、バッファリング及び一時記憶のために、スキャンコンバータ32、多断面再構成装置44、及びボリュームレンダラー42から画像プロセッサ30へと結合される。ドップラープロセッサ28によって生じる血流値、及びBモードプロセッサ26によって生じる組織構造情報は、撮像用に使用されることに加えて、定量化プロセッサ34に結合される。定量化プロセッサは、血流のボリュームレート(volume rate)などの様々な流動状態の尺度、及び器官のサイズや妊娠期間などの構造的測定値を生み出す。定量化プロセッサは、ユーザコントロールパネル38から、測定が実施されることになる、画像の、解剖学的構造内の地点などの入力を受ける。
【0093】
定量化プロセッサからの出力データは、グラフィックスプロセッサ36に結合されて、画像と共にディスプレイ40に測定グラフィックス及び測定値を再生する。グラフィックスプロセッサ36は、グラフィックオーバーレイも生成して、超音波画像と共に表示する。これらのグラフィックオーバーレイは、患者名、画像の日時、撮像パラメータなどの、標準的な識別情報を含む。これらの目的のために、グラフィックスプロセッサは、ユーザインターフェース38から患者名などの入力を受ける。
【0094】
ユーザインターフェースは、送信コントローラ18にも結合されて、トランスデューサアレイ110からの超音波信号の生成、したがってトランスデューサアレイ及び超音波システムによって生じる画像を制御する。ユーザインターフェースは、多断面再構成装置44にも結合されて、MPR画像の画像フィールドにおいて定量化される尺度(quantified measures)を実施するために使用される複数の多断面再構成(MPR)画像の平面を選択及び制御する。
【0095】
当業者には理解されるように、超音波診断撮像システムの上記の実施形態は、このような超音波診断撮像システムの非限定的な例を提供することを意図している。本発明の教示から逸脱することなく、超音波診断撮像システムの構造においていくつかの変形形態が実施可能であることは、当業者には即座に理解されよう。たとえば、上記の実施形態にも示されているように、マイクロビームフォーマ12及び/又はドップラープロセッサ28は無くされてもよく、超音波プローブ10は3D撮像機能を有していなくてもよい、などである。当業者には、他の変形形態が明らかになろう。
【0096】
さらに、超音波治療システムの場合、システムはパルスエコーを受信及び処理できる必要がないことは明らかであり、したがって、超音波診断撮像システムの上記の実施形態は、このようなパルスエコーの処理を受けるために必要とされるシステム構成要素を省くことによって超音波治療システムを形成するように構成されてもよいことは、当業者には即座に明らかになろう。
【0097】
図9は、本発明の超音波機構の実施形態の一例を概略的に示す。超音波機構は、超音波装置10を保持する保持器200を備え、この保持器は、コントローラ210によって制御されて保持器200の中の超音波装置10の向きを調整する、1つ又は複数のアクチュエータを備える。たとえば、保持器200は、治療台2に、たとえば患者1を支持する治療台2の上部表面のグリップ3に取付け可能なアームでもよい。アームは、治療台2にアームを取り付けるために、たとえばクランプなどの取付け部材201を備える。アームは、コントローラ210の制御下にある1つ又は複数の作動ヒンジ203、205、207を備え、これらのヒンジは、コントローラ210によって与えられる制御信号に応答して、超音波装置10の向きを変えるように作動する。コントローラ210は、検知回路170に応答し、検知回路170が、超音波装置10と患者の身体との間の接触が良質であるという指標を示すまで、患者の身体での超音波装置10の向きを系統的に調整するように構成される。言い換えれば、検知回路170は、コントローラ210に帰還信号を提供し、これはコントローラ210によって使用されて、超音波装置10と患者1との間に質の高い所望の接触を確立する。さらに、検知回路170が、先に説明したようにエラストマー層153の圧電抵抗率の測定される変化から得られる、超音波装置10と患者の身体との間の接触の質の変化(低下)の指標を示すのに応答して、コントローラ210は、超音波装置と患者1との間の所望の接触の質を取り戻すために、患者の身体に対する超音波装置10の向きを定期的に変えるように構成される。たとえば、検知回路170が食道壁に与えられる圧力量の指標を提供する食道超音波検査に使用される超音波機構においては、同様の構成を使用して、最小の圧力で十分な音響接触が実現される。
【0098】
超音波装置10がパターン形成された電極機構160を備える一実施形態では、コントローラ210は、エラストマー層153の個々の部分での各圧力に対応する圧力マップが電極機構160を用いて検知されるのに応答して、作動ヒンジ203、205、207を制御するように構成される。たとえば、コントローラ210は、作動ヒンジ203、205、207を制御して、圧力マップでの圧力勾配を最小にする、すなわちエラストマー層153全体にわたって圧力を均等にするように構成される。作動ヒンジ203、205、207に印加される制御信号は、このような圧力勾配から導き出されてもよい。
【0099】
検知回路170からのこのような帰還を使用して超音波装置10の向きを調整する他の実施形態が企図されてもよい。たとえば、超音波装置10は、検知回路170によって与えられる帰還情報に応答して個々のトランスデューサタイル100の向きを変えるように構成される、一体型アクチュエータを備えてもよい。この実施形態は、たとえば
図3に概略的に示されるパターン形成したエラストマー層153との組合せにおいて特に有利であり、この場合、それぞれのエラストマー層部分は、個々のトランスデューサタイル100に位置合わせされ、個々のトランスデューサタイル100に対応するように寸法決定されており、その結果、個々のトランスデューサタイル100ごとの接触の質は、一体型アクチュエータを用い、検知回路170によって与えられる、その特定の個々のトランスデューサタイルに特有の帰還情報に応答して個々のトランスデューサタイル100の向きを変えることによって制御される。
【0100】
上に述べた実施形態は、本発明を限定するものではなく、本発明を説明するものであり、当業者は、添付の特許請求の範囲に記載の範囲から逸脱することなく、多くの代替の実施形態を設計することができることに留意されたい。特許請求の範囲では、括弧の間に記載される任意の参照符号は、その請求項を限定するものであるとは解釈されない。「備える(comprising)」という語は、請求項に列挙されるもの以外の要素又はステップの存在を排除するものではない。ある要素の前に付く「a」又は「an」という語は、複数のこのような要素の存在を排除するものではない。本発明は、いくつかの別個の要素を備えるハードウェアによって実施されてもよい。いくつかの手段を列挙する装置クレームでは、これらの手段のうちのいくつかは、同一のハードウェアアイテムによって具体化されてもよい。いくつかの方策が単に互いに異なる従属請求項に列挙されていることは、これらの方策の組合せが有利に使用され得ないことを示すものではない。