特許第6873212号(P6873212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873212
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】基板生産ライン
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/40 20160101AFI20210510BHJP
   H05K 13/00 20060101ALI20210510BHJP
   H02J 50/12 20160101ALI20210510BHJP
   B60L 13/03 20060101ALN20210510BHJP
   B60L 9/00 20190101ALN20210510BHJP
   B60L 53/12 20190101ALN20210510BHJP
【FI】
   H02J50/40
   H05K13/00 Z
   H02J50/12
   !B60L13/03 V
   !B60L9/00
   !B60L53/12
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-202177(P2019-202177)
(22)【出願日】2019年11月7日
(62)【分割の表示】特願2017-540436(P2017-540436)の分割
【原出願日】2015年9月18日
(65)【公開番号】特開2020-48407(P2020-48407A)
(43)【公開日】2020年3月26日
【審査請求日】2019年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】野村 壮志
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 慎二
(72)【発明者】
【氏名】沖 将志
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−211804(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/010083(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/049750(WO,A1)
【文献】 特開2012−038755(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/038018(WO,A1)
【文献】 特開2009−284695(JP,A)
【文献】 特開2011−167031(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/008600(WO,A1)
【文献】 特開2010−104097(JP,A)
【文献】 特開2010−125974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/40
H02J 50/12
H05K 13/00
B60L 9/00
B60L 13/03
B60L 53/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列設された複数の基板生産機と、
複数の前記基板生産機の前方に配設されて列設方向に延在し、保管庫に至るガイドレールと、
前記ガイドレールに沿って前記列設方向に移動し、前記基板生産機で使用する機材および部材の少なくとも一方を前記保管庫と前記基板生産機の間で搬送する移動体と、
複数の前記基板生産機の各々に設けられた給電素子と、
前記移動体の前記給電素子に対向する側面に設けられ、常時、少なくとも1個の前記給電素子の少なくとも一部に対向して、非接触給電により電力を受け取る受電素子と、
前記受電素子が受け取った電力で前記移動体を駆動する移動用駆動源と、
を備える基板生産ライン。
【請求項2】
前記受電素子は、2個設けられ、前記移動体の位置に関係なく常に、少なくともいずれか1個が前記給電素子に正対する、請求項1に記載の基板生産ライン。
【請求項3】
前記移動体は、前記列設方向に隣接する2台の前記基板生産機に向かい合うことが可能である、請求項1または2に記載の基板生産ライン。
【請求項4】
複数の前記基板生産機は、モジュール化されており、列設位置の順序変更、他の前記基板生産機との入れ替え、および、他の前記基板生産機の増設が可能とされている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の基板生産ライン。
【請求項5】
列設され、かつ、モジュール化された複数の基板生産機と、
複数の前記基板生産機の前方に配設されて列設方向に延在し、保管庫に至るガイドレールと、
前記ガイドレールに沿って前記列設方向に移動し、前記基板生産機で使用する機材および部材の少なくとも一方を前記保管庫と前記基板生産機の間で搬送する移動体と、
複数の前記基板生産機の各々に設けられて前記列設方向に並び、かつ、モジュール化された給電素子と、
前記移動体の前記給電素子に対向する側面に設けられ、非接触給電により電力を受け取る受電素子と、を備え、
複数の前記基板生産機は、列設位置の順序変更、他の前記基板生産機との入れ替え、および、他の前記基板生産機の増設が可能とされている、
基板生産ライン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、複数の基板生産機で構成される基板生産ラインに関し、より詳細には、非接触給電を用いる基板生産ラインに関する。
【背景技術】
【0002】
多数の部品が実装された基板を生産する基板生産機として、はんだ印刷機、部品実装機、リフロー機、基板検査機などがある。これらの設備を連結して基板生産ラインを構成することが一般的になっている。さらに、モジュール化された同じ大きさの基板生産機を列設して基板生産ラインを構成する場合も多い。モジュール化された基板生産機を用いることにより、ラインの組み替え時やラインを長大化する増設時の段取り替え作業が容易になり、フレキシブルな基板生産ラインが実現される。
【0003】
近年、基板生産ラインの各基板生産機で使用する機材や部材を、基板生産ラインに沿って移動する移動体に搬送させ、省力化および自動化を推進することが検討されている。さらに、移動体への給電手段として、非接触給電装置が考えられている。なお、非接触給電装置の用途は、基板生産ラインに限定されず、他の製品を生産する組立ラインや加工ライン、電動車両の走行中給電など幅広い分野にわたっている。この種の非接触給電装置に関する技術例が特許文献1、2に開示されている。
【0004】
特許文献1の移動給電式の非接触給電装置は、定置された送電コイルから移動する受電コイルに非接触で電力を供給する装置である。送電コイルは、移動方向に沿い長いループ状をなすとともに、途中で交叉されて磁界の向きが交互に反転する複数のユニットが形成されており、受電コイルは、複数個が間隔を存して配置されている。また、2個の受電コイルの移動方向に沿ったサイズCおよび相互間の間隔dは、d≧C/2 の不等式を満足することが好ましい。さらに、送電コイルのユニットの移動方向のサイズLは、L≧C+d の不等式を満足することが好ましい。これにより、受電電力が瞬間的、周期的にゼロとなる脈動発生は確実に防止される、とされている。
【0005】
また、特許文献2の走行中非接触給電システムは、地上側の複数の一次側給電トランスから、移動体の二次側給電トランスに非接触で交流電力を給電するシステムであり、一次側給電トランスおよび二次側給電トランスはそれぞれ両側巻コイルからなっている。そして、一次側給電トランスの磁極の寸法をDとするとき、隣り合う一次側給電トランスの中心間距離が3Dを越えないことを特徴としている。さらに、複数の一次側給電トランスが高周波電源に直列に接続される態様が開示されている。これによれば、一次側給電トランスを飛び石状に配置しても、二次側給電トランスへの給電の途切れが発生しない、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−53984号公報
【特許文献2】特開2014−147160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の技術では、2個の受電コイルがともに送電コイルの2つのユニットの境界にまたがる、いわゆる「またぎ受電状態」の時間帯が発生し得る。この時間帯には、受電コイルに鎖交する2つのユニットの磁界が打ち消し合うので、受電電力はゼロにならずとも大幅に減少し、大きな脈動が生じ得る。受電電力が大きく脈動すると、移動体側の電気負荷を駆動できなくなるおそれが生じる。また、長いループ状の送電コイルの全体を常に充電することになるため、電源装置は大型化し、かつ漏れ磁束による損失の増加は避けられない。
【0008】
上記した受電電力の低下、ならびに電源装置の大型化および損失増加の問題点は、特許文献2の技術においても同様に発生する。すなわち、隣り合う一次側給電トランスの間には2Dの離間距離が存在し、この離間距離の間に二次側給電トランスが移動したとき、受電電力は低下して脈動する。脈動の影響を低減するため、特許文献2の実施形態には蓄電素子(バッテリ)および充電回路を用いる旨が開示されている。これは、移動体の重量の増加を意味し、移動に要する動力が増加してしまう。また、複数の一次側給電トランスが高周波電源に直列に接続されると、高周波電源は大型化し、その損失は増加する。
【0009】
本明細書は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、移動体により機材や部材を搬送して省力化を推進するとともに、移動体に対して常に安定した非接触給電を行える基板生産ラインを提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書は、列設された複数の基板生産機と、複数の前記基板生産機の前方に配設されて列設方向に延在し、保管庫に至るガイドレールと、前記ガイドレールに沿って前記列設方向に移動し、前記基板生産機で使用する機材および部材の少なくとも一方を前記保管庫と前記基板生産機の間で搬送する移動体と、複数の前記基板生産機の各々に設けられた給電素子と、前記移動体の前記給電素子に対向する側面に設けられ、常時、少なくとも1個の前記給電素子の少なくとも一部に対向して、非接触給電により電力を受け取る受電素子と、前記受電素子が受け取った電力で前記移動体を駆動する移動用駆動源と、を備える基板生産ラインを開示する。
また、本明細書は、列設され、かつ、モジュール化された複数の基板生産機と、複数の前記基板生産機の前方に配設されて列設方向に延在し、保管庫に至るガイドレールと、前記ガイドレールに沿って前記列設方向に移動し、前記基板生産機で使用する機材および部材の少なくとも一方を前記保管庫と前記基板生産機の間で搬送する移動体と、複数の前記基板生産機の各々に設けられて前記列設方向に並び、かつ、モジュール化された給電素子と、前記移動体の前記給電素子に対向する側面に設けられ、非接触給電により電力を受け取る受電素子と、を備え、複数の前記基板生産機は、列設位置の順序変更、他の前記基板生産機との入れ替え、および、他の前記基板生産機の増設が可能とされている、基板生産ラインを開示する。
【発明の効果】
【0011】
開示した基板生産ラインにおいて、移動体により機材および部材の少なくとも一方を搬送して省力化を推進することができる。また、常時、少なくとも1個の給電素子の少なくとも一部に対向する受電素子を備える態様では、受け取る交流電力が極端に減少する脈動は発生せず、移動体に対して常に安定した非接触給電を行える。さらに、モジュール化された基板生産機および給電素子を備える態様では、基板生産ラインのライン構成の変更時やモジュール増設対応時に、非接触給電に関する段取り替え作業が簡素となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態の基板生産ラインおよび非接触給電装置の構成を模式的に説明する図である。
図2】非接触給電装置の移動体の側の詳細な回路構成を示した回路図である。
図3】2個の受電コイルのうち一方が給電コイルに正対し、他方がまたぎ受電状態となっている位置関係を例示した図である。
図4】第2実施形態の基板生産ラインおよび非接触給電装置の構成を模式的に説明する図である。
図5】第3実施形態の基板生産ラインおよび非接触給電装置の構成を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1.第1実施形態の基板生産ライン9および非接触給電装置1)
第1実施形態の基板生産ライン9について、図1図3を参考にして説明する。図1は、第1実施形態の基板生産ライン9および非接触給電装置1の構成を模式的に説明する図である。第1実施形態の基板生産ライン9には、非接触給電装置1が設けられている。図1に示されるように、基板生産ライン9は、3台の第1〜第3基板生産機91、92、93が列設されて構成されている。図1の左右方向は、第1〜第3基板生産機91、92、93の列設方向であり、後述する移動体99の移動方向でもある
【0014】
各基板生産機91、92、93は、モジュール化されており、列設方向の幅寸法MLが互いに等しい。第1〜第3基板生産機91、92、93、は列設位置の順序変更、およびモジュール化された他の基板生産機との入れ替えが可能とされている。基板生産ライン9を構成する基板生産機の列設台数は4台以上でもよく、後から列設台数を増やすモジュール増設対応も可能になっている。第1〜第3基板生産機91、92、93として、部品実装機を例示でき、これに限定されない。
【0015】
第1〜第3基板生産機91、92、93の前方には、列設方向に延在する図略のガイドレールが配設されている。移動体99は、ガイドレールに沿って移動方向(第1〜第3基板生産機91、92、93の列設方向)に移動する。移動体99は、各基板生産機91、92、93で使用する機材や部材を図略の保管庫から搬入し、使用後の機材や部材を保管庫に戻す役割を担っている。
【0016】
非接触給電装置1は、第1〜第3基板生産機91、92、93から移動体99に非接触給電を行う装置である。非接触給電装置1は、第1〜第3基板生産機91、92、93にそれぞれ設けられた交流電源2、給電コイル31、および給電側コンデンサ35、ならびに、移動体に99に設けられた2個の受電コイル41、2個の受電側コンデンサ45、および受電回路5などで構成されている。
【0017】
3台の基板生産機91、92、93、およびモジュール化された他の基板生産機の非接触給電装置1に関する構成は同一であるので、以降では第1基板生産機91に詳細な符号を付して説明する。交流電源2は、交流電圧を発生して給電コイル31に供給する。交流電圧の周波数は、後述する給電側共振回路および受電側共振回路の共振周波数に基づいて適宜設定されることが好ましい。3台の基板生産機91、92、93に設けられた合計3個の交流電源2は、相互に独立して動作可能となっている。
【0018】
交流電源2は、例えば、直流電圧を出力する直流電源部と、直流電圧を交流変換する公知のブリッジ回路とを用いて構成できる。交流電源2は、電圧値や周波数、位相などを調整する機能を具備していてもよい。交流電源2の第1出力端子21は、給電コイル31の一端311に直結されており、第2出力端子22は、給電側コンデンサ35の一端351に接続されている。
【0019】
給電側コンデンサ35の他端352は、給電コイル31の他端352に接続されている。これにより、閉じた給電回路が構成される。給電コイル31は、給電素子の一形態である。給電コイル31は、各基板生産機91、92、93の前面に設けられており、搬送方向の前後で対称形状に形成され、モジュール化されている。給電側コンデンサ35は、給電コイル31に直列接続されて給電側共振回路を形成する共振用素子である。
【0020】
2個の受電コイル41は、移動体99の給電コイル31に対向する側面98に配設されており、移動方向に沿い相互に離間して配置される。受電コイル41および給電コイル31は相互に電磁結合し、相互インダクタンスが発生して非接触給電が可能になる。受電コイル41は、受電素子の一形態である。受電コイル41の一端411は、受電側コンデンサ45の一端451、および受電回路5を構成する整流回路51の入力側の一端子511に接続されている。受電コイル41の他端412は、受電側コンデンサ45の他端452、および整流回路51の入力側の他端子512に接続されている。受電側コンデンサ45は、受電コイル41に並列接続されて受電側共振回路を形成する共振用素子である。
【0021】
図2は、非接触給電装置1の移動体99の側の詳細な回路構成を示した回路図である。図示されるように、受電回路5は、2個の受電コイル41に個別に設けられた整流回路51、および、2個の受電コイル41に共通に設けられた直流電源回路55を含んで構成されている。整流回路51は、4個の整流ダイオードをブリッジ接続した全波整流回路52、および全波整流回路52の出力側に接続された平滑コンデンサ53によって構成される。2個の整流回路51の出力側の一端子513および他端子514は、直流電源回路55に対して並列接続されている。2個の整流回路51は、それぞれの入力側に接続された受電コイル41が非接触給電により受け取った交流電力を直流電圧に変換して、直流電源回路55に出力する。
【0022】
直流電源回路55は、整流回路51から出力された電圧値不定の直流電圧を概ね一定電圧の直流の駆動電圧に調整して、移動体99に搭載された電気負荷57に出力する。電気負荷57は、移動体99の移動用駆動源、例えばリニアモータなどを含んでいてもよい。直流電源回路55として、スイッチング方式またはドロッパ方式のDCDCコンバータを例示できる。
【0023】
(2.非接触給電装置1の作用)
次に、給電コイル31および受電コイル41の移動方向の長さ、および移動方向に隣り合うコイル間の離間距離に関する大小関係、およびその大小関係がもたらす作用について説明する。図1に示されるように、基板生産ライン9側の給電コイル31の移動方向の長さをLTとし、給電コイル31の相互間の離間距離をDTとする。また、移動体99側の受電コイル41の移動方向の長さをLRとし、受電コイル41の相互間の離間距離をDRとする。給電コイル31の移動方向の長さLTは、基板生産機91、92、93の幅寸法MLよりも少しだけ小さい。
【0024】
ここで、DT≦DRの関係が成り立っている。この関係によれば、基板生産ライン9側の小さな離間距離DTの間に、移動体99側の2個の受電コイル41が向かい合うことが生じない。このため、2個の受電コイル41の少なくとも一方は必ず、離間距離DTの範囲から外れて給電コイル31に正対する。「正対」とは、受電コイル41の移動方向の長さLRの全体が給電コイル31の移動方向の長さLTの範囲内に向かい合う位置関係を意味する。
【0025】
また、(2×LR+DR)≦LTの関係が成り立っている。この関係によれば、2個の受電コイル41の移動方向の長さLRの全体が1個の給電コイル31の移動方向の長さLTの範囲内に対向する時間帯が発生する。換言すると、移動体99の移動に伴って、2個の受電コイル41が1個の給電コイル31に正対する位置関係が存在する。
【0026】
具体的に、図1に示される位置関係において、図中の左側の受電コイル41は、第1基板生産機91の給電コイル31に正対し、図中の右側の受電コイル41は、第2基板生産機92の給電コイル31に正対している。つまり、一の受電コイル41が一の給電コイル31と正対し、かつ、他の受電コイル41が他の給電コイル31と正対する位置関係が存在する。このとき、2個の受電コイル41は、ともに良好な受電状態となり、矢印P1、P2に示されるように大きな交流電力を受け取ることができる。そして、2個の受電コイル41が受け取った交流電力は、それぞれ整流された後に直流電源回路55で合算される。これにより、2個の受電コイル41が受け取った交流電力に相当する大きな直流電力が電気負荷57に供給される。
【0027】
図1の位置関係から移動体99が右方向に移動すると、右側の受電コイル41は、第2基板生産機92の給電コイル31に正対し続ける。これに対し、左側の受電コイル41は、第1基板生産機91の給電コイル31の正面からずれて対向する。「対向」とは、受電コイル41の移動方向の長さLRの一部が給電コイル31の移動方向の長さLTの範囲内に向かい合う位置関係を意味する。対向状態の受電コイル41では、給電コイル31と向かい合う対向面積が正対状態から減少するのにつれて、受け取る交流電力が減少する。
【0028】
さらに、移動体99が右方向に移動すると、図3に示される位置関係となる。図3は、2個の受電コイル41のうち一方が給電コイル31に正対し、他方がまたぎ受電状態となっている位置関係を例示した図である。図3において、右側の受電コイル41は第2基板生産機92の給電コイル31に正対している。左側の受電コイル41は、第1および第2基板生産機91、92の間に位置し、2個の給電コイル31にまたがって対向している。
【0029】
またぎ受電状態の受電コイル41が受け取る交流電力の大きさは、対向する2個の給電コイル31との位置関係や、2個の交流電源2の周波数および位相などに依存する。したがって、またぎ受電状態の受電コイル41は、良好な受電状態とは言えない。例えば、特許文献1の技術と同様に2個の交流電源2が逆位相であると、またぎ受電状態の受電コイル41に対向する2個の給電コイル31が形成する磁束の作用が打ち消し合い、受電状態は低下する。2個の交流電源2の周波数および位相が一致していると、またぎ受電状態の受電コイル41の受電状態は改善される。
【0030】
一方、図中の右側の受電コイル41は、第2基板生産機92の給電コイル31に正対し続けている。このため、右側の受電コイル41は、良好な受電状態が維持され、矢印P3に示されるように大きな交流電力を受け取ることができる。したがって、右側の受電コイル41が良好な受電状態で受け取る大きな交流電力が、最低でも確保される。
【0031】
図3の位置関係から移動体99がさらに右方向に移動すると、2個の受電コイル41が第2基板生産機92の給電コイル31に正対する位置関係となる。このとき、2個の受電コイル41は、1個の給電コイル31が誘起する磁束を分け合って良好な受電状態となる。したがって、図3に示される位置関係のときよりも大きな交流電力が確保される。移動体99がさらに右方向に移動すると、今度は、左側の受電コイル41の正対状態が維持され、右側の受電コイル41が正対状態から対向状態、またぎ受電状態へと変化してゆく。その後、左側の受電コイル41が第2基板生産機92の給電コイル31に正対し、右側の受電コイル41が第3基板生産機93の給電コイル31に正対した位置関係となる。
【0032】
上述した位置関係の変化から分かるように、第1実施形態では、移動体99の移動に伴って、給電コイル31に正対する受電コイル41は順次切り替わってゆく。それでも、常に、少なくともいずれか1個の受電コイル41が給電コイル31に正対して、良好な受電状態が確保される。
【0033】
また、第1〜第3基板生産機91、92、93の列設位置の順序変更、およびモジュール化された他の基板生産機との入れ替えが行われても、図1に示された基板生産ライン9側の配置が維持される。つまり、基板生産ライン9のライン構成が変更されても、非接触給電装置1は、構成が変更されずに良好な受電状態が確保される。さらに、基板生産ライン9の列設台数が4台以上にモジュール増設対応されたとき、増設部分においても給電コイル31の長さLTおよび離間距離DTは同一値になる。したがって、基板生産ライン9がモジュール増設対応されたときにも、非接触給電装置1は、良好な受電状態が確保される。
【0034】
また、交流電源2は、3台の基板生産機91、92、93にそれぞれ設けられ、相互に独立して動作可能となっている。したがって、個々の交流電源2は、小容量で小形化が可能になり、基板生産機91、92、93へ搭載するスペースの制約が小さい。さらに、移動体99から離れている基板生産機では、交流電源2を停止できる。例えば、図1および図3に示される位置関係のとき、第3基板生産機93では交流電源2を停止できる。
【0035】
(3.第1実施形態における非接触給電装置1の態様および効果)
非接触給電装置1は、基板生産ライン9(固定部)に設定された移動方向に沿い相互に離間して配置された複数の給電コイル31(給電素子)と、各給電コイル31に交流電力を供給する交流電源2と、移動方向に沿って移動する移動体99に設けられ、対向配置される給電コイル31と電気的に結合して非接触で交流電力を受け取る受電コイル41(受電素子)と、受電コイル41が受け取った交流電力を変換し、駆動電圧を生成して移動体99に設けられた電気負荷57に出力する受電回路5と、を備えた非接触給電装置1であって、受電コイル41は、移動体99の移動方向に沿い相互に離間して複数配置されており、給電コイル31の移動方向の長さをLTとし、給電コイル31の相互間の離間距離をDTとし、受電コイル41の移動方向の長さをLRとし、受電コイル41の相互間の離間距離をDRとしたとき、DT≦DRの関係、および(2×LR+DR)≦LTの関係が成り立つ。
【0036】
これによれば、移動体99の位置に関係なく常に、少なくともいずれか1個の受電コイル41が給電コイル31に正対する。したがって、常に、少なくとも1個の受電コイル41は、良好な受電状態を確保して大きな交流電力を受け取ることができる。これにより、受電する交流電力の脈動を抑制して、常に安定した非接触給電を行える。
【0037】
さらに、非接触給電装置1において、移動体99の移動に伴って複数の内の一の受電コイル41が複数の内の一の給電コイル31と正対し、かつ、複数の内の他の受電コイル41が複数の内の他の給電コイル31と正対する位置関係が存在する。このとき、2個の受電コイル41は、ともに良好な受電状態となり、大きな交流電力が確保される。
【0038】
また、非接触給電装置1において、移動体99の移動に伴って隣り合う2個の受電コイル41が1個の給電コイル31と正対する位置関係が存在する。このとき、2個の受電コイル41は、1個の給電コイル31が誘起する磁束を分け合って良好な受電状態となり、大きな交流電力が確保される。
【0039】
さらに、交流電源2は、複数の給電コイル31に個別に設けられ、かつ相互に独立して動作する複数からなる。これによれば、個々の交流電源2は、小容量で小形化が可能になるので、配置スペースの制約が少ない。さらに、移動体99から離れた給電コイル31に交流電力を供給する交流電源2を停止できるので、発生する損失が低減される。
【0040】
さらに、受電回路5は、複数の受電コイル41に個別に設けられ、受電コイル41が受け取った交流電力を直流の駆動電圧に変換して出力する複数の整流回路51を含むとともに、各整流回路51の出力側が電気負荷57に対して並列接続されている。この回路構成によれば、受電状態の良好な少なくとも1個の受電コイル41が受け取った交流電力で電気負荷57を駆動できる。したがって、特許文献2の技術などで用いられる蓄電素子(バッテリ)および充電回路を不要にできる。
【0041】
さらに、非接触給電装置1は、受電コイル41および給電コイル31に接続されて共振回路を形成する受電側コンデンサ45および給電側コンデンサ35(共振用素子)をさらに備える。これによれば、共振特性を利用して高い給電効率が得られる。
【0042】
さらに、受電素子は受電コイル41とされ、給電素子は給電コイル31とされている。これによれば、電磁結合方式の非接触給電装置1で、常に安定した非接触給電を行える。
【0043】
さらに固定部は、複数の基板生産機91〜93が列設された基板生産ライン9であり、複数の基板生産機91〜93の列設方向に移動方向が設定されており、複数の給電コイル31は、複数の基板生産機91〜93に同数個ずつ配置されている。これによれば、第1〜第3基板生産機91、92、93の列設位置の順序変更、およびモジュール化された他の基板生産機との入れ替え、ならびに、列設台数が4台以上に増設されるモジュール増設対応の全ての場合に、非接触給電装置1は、良好な受電状態が確保される。したがって、基板生産ライン9のライン構成の変更時やモジュール増設対応時に、非接触給電装置1に関する段取り替え作業は簡素である。
【0044】
(4.第2実施形態の基板生産ライン9および非接触給電装置1A)
次に、第2実施形態の基板生産ライン9について、第1実施形態と異なる点を主に説明する。図4は、第2実施形態の基板生産ライン9および非接触給電装置1Aの構成を模式的に説明する図である。非接触給電装置1Aは、第1実施形態と同様の装置構成であり、給電コイル31および受電コイル41の移動方向の長さLt、Lr、および移動方向に隣り合うコイル間の離間距離Dt、Drが第1実施形態と異なる。
【0045】
図4に示されるように、基板生産ライン9側の給電コイル31の移動方向の長さをLtとし、給電コイル31の相互間の離間距離をDtとする。また、移動体99側の受電コイル41の移動方向の長さをLrとし、受電コイル41の相互間の離間距離をDrとする。ここで、第1実施形態と同様に、Dt≦Drの関係が成り立ち、さらに、(2×Lr+Dr)≦Ltの関係が成り立っている。したがって、第2実施形態においても、移動体99の位置に関係なく常に、少なくともいずれか1個の受電コイル41が給電コイル31に正対する。
【0046】
図4には、図中の左側の受電コイル41が第1基板生産機91の給電コイル31に対向し、図中の右側の受電コイル41が第2基板生産機92の給電コイル31に正対した位置関係が例示されている。図4の位置関係において、左側の受電コイル41は、矢印P4に示されるように、第1基板生産機91の給電コイル31から、正対状態よりも小さめの交流電力を受け取る。また、右側の受電コイル41は、第2基板生産機92の給電コイル31から、大きな交流電力を受け取る。
【0047】
また、第2実施形態において、第1実施形態と異なるLr≦Dtの関係が成り立っている。つまり、受電コイル41の移動方向の長さLrは、給電コイル31の相互間の離間距離Dt以下とされている。この構成では、受電コイル41のまたぎ受電状態が発生しないので、複数の交流電源2の相互間で、周波数ずれや位相ずれなどを考慮する必要が無くなる。
【0048】
非接触給電装置1Aは、基板生産ライン9(固定部)に設定された移動方向に沿い相互に離間して配置された複数の給電コイル31(給電素子)と、各給電コイル31に交流電力を供給する交流電源2と、移動方向に沿って移動する移動体99に設けられ、対向配置される給電コイル31と電気的に結合して非接触で交流電力を受け取る受電コイル41(受電素子)と、受電コイル41が受け取った交流電力を変換し、駆動電圧を生成して移動体99に設けられた電気負荷57に出力する受電回路5と、を備えた非接触給電装置1Aであって、受電コイル41は、移動体99の移動に伴って給電コイル31と正対する位置関係が存在し、かつ、隣り合う2個の給電コイル31には同時に対向できないように、移動体99の移動方向に沿い相互に離間して複数配置されている。
【0049】
これによれば、受電コイル41のまたぎ受電状態が発生しないので、複数の交流電源2の相互間で、周波数ずれや位相ずれなどを考慮する必要が無くなる。
【0050】
(5.第3実施形態の基板生産ライン9Bおよび非接触給電装置1B)
次に、第3実施形態基板生産ライン9Bおよび非接触給電装置1Bについて、第1および第2実施形態と異なる点を主に説明する。図5は、第3実施形態の基板生産ライン9Bおよび非接触給電装置1Bの構成を模式的に説明する図である。非接触給電装置1Bは、基板生産ライン9Bに組み付けられているが、移動体99側の受電コイル41は1個である。また、給電コイル31および受電コイル41の移動方向の長さLS、LCなどは、第1および第2実施形態から変更されている。第3実施形態では、第1および第2実施形態とは逆に、受電コイル41が給電コイル31よりも長くなっている。
【0051】
図5に示されるように、1個の受電コイル41は、移動体99の給電コイル31に対向する側面98に配設されている。受電コイル41の両端は、受電側コンデンサ45に接続されるとともに、受電回路5Bを構成する整流回路51の入力側にも接続されている。整流回路51の出力側は、直流電源回路55に接続されている。一方、3台の基板生産機91、92、93に設けられた合計3個の交流電源2は、移動体99の近傍の給電コイル31で周波数および位相が揃うように制御される。
【0052】
ここで、基板生産ライン9B側の給電コイル31の移動方向の長さLSは、第1実施形態における長さLTよりも小さく変更されている。これに伴い、給電コイル31の相互間の離間距離DSは、第1実施形態における離間距離DTよりも大きくなる。また、移動体99側の受電コイル41の移動方向の長さLCは、第1実施形態における長さLRよりも大きく変更されている。
【0053】
そして、LS<LCの関係が成り立っている。この関係によれば、受電コイル41が給電コイル31に正対して、良好な受電状態を確保できる位置関係が存在する。ここで、「正対」とは、受電コイル41の移動方向の長さLRの範囲内に、給電コイル31の移動方向の長さLSの全体が向かい合う位置関係を意味する。「正対」の拡張された意味は、受電コイル41および給電コイル31の内の長い一方の範囲内に、短い他方の全体が向かい合うことである。
【0054】
さらに、DS<LCの関係が成り立っている。この関係によれば、受電コイル41は、1個の給電コイル31に正対または対向する状態、あるいは、2個の給電コイル31の少なくとも一部に対向するまたぎ受電状態になる。またぎ受電状態であっても、2個の給電コイル31に交流電圧を供給する2個の交流電源2は、周波数および位相が揃っているので、受電コイル41の受電状態は良好になる。仮に、DS<LCの関係が成り立たないと、受電コイル41の移動方向の長さLCの全体が2個の給電コイル31の離間距離DSの間に入り込む位置関係が存在する。このとき、受電コイル41は、給電コイル31が形成する磁束に殆ど鎖交できなくなる。したがって、受電コイル41は、受電状態が低下して、受け取る交流電力が極端に減少してしまう。
【0055】
具体的に、図5に示される位置関係において、受電コイル41は、第1基板生産機91の給電コイル31の一部、および第2基板生産機92の給電コイル31の一部に向かいあっており、またぎ受電状態になっている。したがって、矢印P6、P7に示されるように、受電コイル41は、2個の給電コイル31、32からそれぞれ交流電力を受け取ることができる。
【0056】
非接触給電装置1Bは、基板生産ライン9B(固定部)に定められた移動方向に沿い相互に離間して配置された複数の給電コイル31(給電素子)と、給電コイル31に交流電力を供給する交流電源2と、移動方向に移動する移動体99に設けられ、対向配置される給電コイル31と電気的に結合して非接触で交流電力を受け取る受電コイル41(受電素子)と、受電コイル41が受け取った交流電力を変換し、駆動電圧を生成して移動体99に設けられた電気負荷57に出力する受電回路5Bと、を備えた非接触給電装置1Bであって、給電コイル31の移動方向の長さをLSとし、給電コイル31の相互間の離間距離をDSとし、受電コイル41の移動方向の長さをLCとしたとき、LS<LCの関係、およびDS<LCの関係が成り立つ。
【0057】
これによれば、受電コイル41は、常時、少なくとも1個の給電コイル31の少なくとも一部に対向するので、受け取る交流電力が極端に減少する脈動は発生しない。したがって、特許文献2の技術で離間距離Dの間に二次側給電トランスが移動する場合と比較して良好な受電状態が維持され、常に安定した非接触給電を行える。
【0058】
さらに、交流電源2は、複数の給電コイル31に個別に設けられ、かつ移動体99の近傍の給電コイル31で相互に周波数および位相が揃うように制御される複数からなる。これによれば、またぎ受電状態の受電コイル41の受電状態を良好にできる。また、個々の交流電源2は、小容量で小形化が可能になるので、配置スペースの制約が少ない。さらに、移動体99から離れた給電コイル31に交流電力を供給する交流電源2を停止できるので、発生する損失が低減される。
【0059】
(6.実施形態の応用および変形)
なお、第1および第2実施形態において、各基板生産機91、92、93の前面の移動方向に、給電コイル31を2個ずつ並べて配置することもできる。この場合、交流電源2は、2個の給電コイル31が電気的に直列接続または並列接続された両端に交流電圧を供給する。一方、移動体99側の受電コイル41を2個よりも多くすることができる。受電コイル41を3個とした場合、前述した2個の不等式の関係が成り立つ条件下で、常に、少なくともいずれか1個の受電コイル41が給電コイル31に正対する。さらに、受電コイル41を4個とした場合、前述した2個の不等式の関係が成り立つ条件下で、常に、少なくともいずれか2個の受電コイル41が給電コイル31に正対する。
【0060】
また、非接触給電の方式は、給電コイル31および受電コイル41を用いた電磁結合方式に限定されず、例えば、給電電極および受電電極を用いた静電結合方式であってもよい。本発明は、その他にも様々な応用や変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
第1〜第3実施形態の基板生産ライン(9、9B)に用いる非接触給電の構成は、基板以外の製品を生産する組立ラインや加工ライン、電動車両の走行中給電など幅広い分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1、1A、1B:非接触給電装置
2:交流電源 31:給電コイル
35:給電側コンデンサ 41:受電コイル
45:受電側コンデンサ 5、5B:受電回路
51:整流回路 55:直流電源回路 57:電気負荷
9、9B:基板生産ライン
91、92、93:第1〜第3基板生産機 99:移動体
LT、Lt、LS:給電コイルの移動方向の長さ
DT、Dt、DS:給電コイルの相互間の離間距離
LR、Lr、LC:受電コイルの移動方向の長さ
DR、Dr:受電コイルの相互間の離間距離
図1
図2
図3
図4
図5