特許第6873215号(P6873215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6873215-低引火点燃料船の無通電回避構造 図000002
  • 特許6873215-低引火点燃料船の無通電回避構造 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6873215
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】低引火点燃料船の無通電回避構造
(51)【国際特許分類】
   B63B 11/02 20060101AFI20210510BHJP
   B63B 43/24 20060101ALI20210510BHJP
   B63B 11/04 20060101ALI20210510BHJP
   B63H 21/38 20060101ALI20210510BHJP
   B63J 2/08 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   B63B11/02
   B63B43/24
   B63B11/04 B
   B63H21/38 C
   B63J2/08 C
   B63J2/08 Z
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-206998(P2019-206998)
(22)【出願日】2019年11月15日
【審査請求日】2019年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146814
【氏名又は名称】株式会社新来島どっく
(74)【代理人】
【識別番号】100090044
【弁理士】
【氏名又は名称】大滝 均
(72)【発明者】
【氏名】大谷 洋一
(72)【発明者】
【氏名】吉光 寛晃
【審査官】 伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−131174(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/087704(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/040268(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 11/02
B63B 43/24
B63B 11/04
B63H 21/38
B63J 2/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料調整室又はバンカーステーションと車両積載艙であるRORO区画とを有する低引火点燃料船において、
第1種危険場所である燃料調整室又はバンカーステーションとの間に第1のガス密扉を介して隣接する第2種危険場所であるエアロックスペースと、
エアロックスペースとの間に第2のガス密扉を介して隣接第3のガス密扉を介してRORO区画に隣接する無通電回避区画とを有し、
各ガス密扉には、閉まるとスイッチオン又はオフとなるリミットスイッチが設けられ、各扉の「開」又は「閉」の状態を船橋で目視・確認するミミックパネルを有することを特徴とする低引火点燃料船の無通電回避構造。
【請求項2】
燃料調整室又はバンカーステーションが、隣接する危険場所の区画に対し、常時負圧となる通風排気設備を有することを特徴とする請求項1に記載の低引火点燃料船の無通電回避構造。
【請求項3】
エアロックスペースが、隣接する危険場所に対し、加圧を維持する通風装置を有するエアロックスペースであることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の低引火点燃料船の無通電回避構造。
【請求項4】
無通電回避区画が、防爆型電気機器が配置される無通電回避区画であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の低引火点燃料船の無通電回避構造。
【請求項5】
ガス扉は、水密あるいはガス密兼水密の扉であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の低引火点燃料船の無通電回避構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、LNG(液化天然ガス)炊きPCC(自動車運搬船)等の低引火点燃料船の無通電回避構造に関する。
【背景技術】
【0002】
LNG(液化天然ガス)炊きPCC(自動車運搬船)等の低引火点燃料船に関しては、2016年12月27日新規制定の日本海事協会鋼船規則GF編(低引火燃料船)によれば、LNG炊きPCC等のRORO区画(ロールオン/ロールオフ区画:積載車両自走区画)を有する船舶においては、当該RORO区画等への交通は,非危険場所から直接立ち入ることができるものとしてはならず、運航上の理由により、交通開口が必要な場合には、「エアロック」を設けることとされている。ここに、「エアロック」とは、「十分なガス密性を有する戸を備えたガス密の隔壁により閉鎖された区域(鋼船規則5.12.1)」をいい、エアロックには,隣接するRORO区画に危険場所であるバンカーステーションから燃料ガスがRORO区画に漏洩することがないように加圧状態が維持されるようにされなければならないとされる。
上記要請に対応するために、LNGバンカーステーション等の危険区域とRORO区画との間には、「エアロックスペース」が設けられる。
【0003】
図2は、船級規格が求める第1種危険場所である燃料調整室(例えば、バンカーステーション)とRORO区画の間に「エアロックスペース」を設ける場合の低引火点燃料船の概略を示す図である。図2において、符号100は、LNG炊き船等の低引火点燃料船であり、101は、第1種危険場所である燃料調整室(又はバンカーステーション)、102は、RORO区画、103は、エアロックスペース(AIR L.sp)、104は、燃料調整室101とエアロックスペース103との間の扉、105は、エアロックスペース103とRORO区画102との間の扉である(なお、符号は、先行技術であることを明らかにするために、3桁の符号で説明した。)。
【0004】
図2に示すように、エアロックスペース103は、隣接する危険場所である燃料調整室又はバンカーステーション101やRORO区画102の間に配置され、そして、エアロックスペース103は、燃料調整室又はバンカーステーション101とRORO区画102に対して高圧の加圧状態が維持されている。
【0005】
ところが、図2に示すような燃料調整室101とRORO区画102の間にエアロックスペース103だけが配置される構造においては、エアロックスペース103の加圧状態を維持する機器(図示外)が故障してしまって、その区域が加圧状態でなくなった時には、RORO区画102を無通電状態(電源遮断)としなければならず(鋼船規格14.3.9)、このような場合には、燃料調整室101とRORO区画102との間を交通することさえできなくなってしまうことはともかく、RORO区画102の電源も落とすことが要求され(いわゆる、「無通電状態」)、RORO区画102の電源を落とすことは、積荷である積載車両の排ガス排気など積荷への影響が大きいのでできるだけ避けることが望まれる。
【0006】
また、燃料調整室101とエアロックスペース103の間の扉104と、エアロックスペース103とRORO区画102との間の扉105の両扉104、105が開いている場合には、燃料調整室(又はバンカーステーション)101内に漏洩するLNG燃料ガスがRORO区画102内に侵入し、それらの区画に配設される電気機器等で着火・爆発のおそれがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本海事協会鋼船規則GF編(低引火燃料船)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本願発明は、LNG炊きPCC等の低引火点燃料船において、エアロックスペースとRORO区画の間に、新たに、いわば無通電回避区画を設け、エアロックスペースを加圧状態を維持する機器が故障してしまった場合にもRORO区画の無通電状態(電源遮断)を回避し、積載車両への影響を避け、また、燃料調整室とエアロックスペースの間の扉と、エアロックスペースとRORO区画との間の扉の両扉が開いている場合であっても、燃料調整室等から漏洩するLNG燃料ガスがRORO区画に侵入することを避けることができる低引火点燃料船の無通電回避構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本願請求項1に係る発明は、燃料調整室又はバンカーステーションと車両積載艙であるRORO区画とを有する低引火点燃料船において、第1種危険場所である燃料調整室又はバンカーステーションとの間に第1のガス密扉を介して隣接する第2種危険場所であるエアロックスペースと、エアロックスペースとの間に第2のガス密扉を介して隣接第3のガス密扉を介してRORO区画に隣接する無通電回避区画とを有し、各ガス密扉には、閉まるとスイッチオン又はオフとなるリミットスイッチが設けられ、各扉の「開」又は「閉」の状態を船橋で目視・確認するミミックパネルを有することを特徴とする。
また、本願請求項2に係る発明は、前記請求項1に記載の低引火点燃料船の無通電回避構造において、燃料調整室又はバンカーステーションが、隣接する危険場所の区画に対し、常時負圧となる通風排気設備を有することを特徴とする。
さらに、本願請求項3に係る発明は、前記請求項1又は請求項2のいずれかに記載の低引火点燃料船の無通電回避構造において、エアロックスペースが、隣接する危険場所に対し、加圧を維持する通風装置を有するエアロックスペースであることを特徴とする。
そして、本願請求項4に係る発明は、前記請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の低引火点燃料船の無通電回避構造において、無通電回避区画が、防爆型電気機器が配置される無通電回避区画であることを特徴とする。
また、本願請求項5に係る発明は、前記請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の低引火点燃料船の無通電回避構造において、ガス扉は、水密あるいはガス密兼水密の扉であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記のような構成としたので、本発明に係る低引火点燃料船の無通電回避構造は,次のような効果を有する。
(1)エアロックスペースを加圧状態を維持する機器が故障してしまった場合にもRORO区画への無通電状態(電源遮断)とすることを回避することができ、RORO区画の換気ファンを回動させ、積載車両からの排ガス換気できないことによる積載車両への影響のない構造とすることができる。
(2)燃料調整室とエアロックスペースの間の扉、エアロックスペースと無通電区画との間の扉の両扉が開いている場合であっても、燃料調整室等から漏洩する燃料LNGガスがRORO区画に侵入することのない構造とすることができ、RORO区画への無通電状態(電源遮断)とすることを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施例1に係る低引火点燃料船の無通電回避構造の概略図である。
図2図2は、船級規格が求める第1種危険場所である燃料調整室(例えば、バンカーステーション)とRORO区画の間に「エアロックスペース」を設ける低引火点燃料船の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る低引火点燃料船の無通電回避構造を実施するための一実施例を図面に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の実施例1に係る低引火点燃料船の無通電回避構造の概略図である。
図1において、符号1は、実施例1に係る低引火点燃料船の無通電回避構造、2は、第1種危険場所である燃料調整室(又はバンカーステーション)、3は、無通電(電源遮断)が要求されないCAR HOLD(車両積載艙)等のRORO区画、4は、隣接する危険場所に対、加圧状態に維持されるエアロックスペース(AIR L.sp)、5は、無通電回避区画、6は、燃料調整室2とエアロックスペース4との間の第1のガス密扉、7は、エアロックスペース4と無通電回避区画5との間の第2のガス密扉、8は、無通電回避区画5とRORO区画3との間の第3のガス密扉であり、それぞれ自動開閉のガス密扉6、7、8は、通行作業者を検知し、自動的に開き、通行後、自動的に閉まる構造のガス密扉6、7、8である。
【0014】
本実施例1に係る低引火点燃料船の無通電回避構造1における燃料調整室(又はバンカーステーション)2は、第1種危険場所であるので、常時通風排気の設備が設置され、隣接する区画(例えば、前記エアロックスペース4)に対し、負圧が生成される設備が設置されている。また、前記エアロックススペース4は、第2種危険場所として構成されなければならないので、隣接した危険場所(例えば、バンカーステーション2)に対して加圧状態が維持される通風装置が設けられ、船級規則(船級規則5.12.2)を満足する構造としている。
【0015】
なお、本実施例1に係る低引火点燃料船の無通電回避構造1においては、エアロックスペース4に隣接する区画が無通電回避区画5となるので、エアロックスペース4の加圧設備が停止し、エアロックが機能不全に陥ったときなどには、無通電回避区画5自体を無通電状態とし、また、これに対応するため、無通電回避区画5には、安全形以外の機器(例えば、照明など)の電源の遮断(無通電状態)を避けるため、防爆型機器とする。また、当該無通電回避区画5にエアロックスペース4に加圧状態を維持する設備を設けても良い。
【0016】
本実施例1に係る低引火点燃料船の無通電回避構造1は、図1に示すように、エアロックスペース4とRORO区画3との間に新たに無通電回避区画5を配置したので、エアロックスペース4とCAR HOLD(車両積載艙)であるRORO区画3とは隣接する区画ではなくなり、RORO区画3に対しては、船級規格で求められる「エアロックスペース4が加圧状態でなくなった時に、隣接するRORO区画3を無通電状態としなければならない(船級規格14.3.9)」こと、すなわち電源遮断を回避することができ、CAR HOLD(車両積載艙)であるRORO区画3へは常時電力供給を実現できることとなるのである。
【0017】
これは、エアロックスペース4を加圧する電気設備(例えば、通風機等)が故障したときなどであっても、CAR HOLD(車両積載艙)であるRORO区画3への電力供給が維持されるという点で極めて使い勝手の良い低引火点燃料船となる。
【0018】
さらには、燃料調整室(又はバンカーステーション)2からRORO区画3へは、燃料調整室2とエアロックスペース4との間の第1のガス扉6及びエアロックスペース4と無通電回避区画5との間の第2のガス扉7、無通電回避区画5とRORO区画3との間の第3の扉8を順次開閉して通行すれば良いのであるから、扉6、7、8が長時間の開状態でない限り、通常の開閉状態で通行する限りは、RORO区画への電源遮断(無通電状態)の必要が発生することはなく、この点でも通常の作業性を向上させつつ積載車両艙への電力供給を続けることができることとなる。なお、扉6、7、8は、ガスに限らず、水密あるいはガス密兼水密の扉であってもよい。
【0019】
なお、上述してきたように、本実施例1に係る低引火点燃料船の無通電回避構造1においては、エアロックスペース4とRORO区画3との間に新たに無通電回避区画5を配置した結果、無通電回避区画5は、エアロックスペース4に隣接する区画となり、エアロックスペース4のエアロック機能が機能不全に陥った場合などには、当該無通電回避区画5自体に安全形以外の機器(照明など)を使用する場合には、それらの機器の電源を遮断(無通電状態)することが求められるが、これも、当該電気機器(照明など)を防爆型とすれば、容易にそれらの要請を回避することができ、無通電回避区画5自体も、実際上、無通電状態となることを回避できることとなる。
【実施例2】
【0020】
(変形実施例)
上述する本実施例1に係る低引火点燃料船の無通電回避構造1においては、無通電回避区画5をエアロックスペース4に隣接する新たな区画とする構造としたが、これは、当初のエアロックスペース4の内部をガス密扉を有する密閉構造の仕切り壁を設けるだけでも良く、その広さや大きさは、本来的に必要とされるエアロックスペース(1.5m以上2.5m以下の間隔で配置された2つの十分なガス密性を有する戸を備えたガス密の隔壁により閉鎖された区域(船級規格5.12.1))が確保できれば、それに隣接する無通電回避区画5は、広さや大きさを問わない。例えば、二重の扉を有する半導体製造や食品製造等で用いられるクリーンルーム前室構造のような狭いスペースでも構わない。
【0021】
なお、自動開閉する前記扉6,7、8には、各扉6,7、8が閉まるとスイッチオンとなるリミットスイッチが設けられ、船橋に設けられるミミックパネルにより、各扉6、7、8の状態(「開」又は「閉」)を目視・確認できるようにし、また、各扉6、7、8が、常時は閉鎖状態としておくことの注意喚起のため、「扉を常時閉鎖すること」等の注意銘板を設けるようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、LNG(液化天然ガス)炊きPCC(自動車運搬船)等の低引火点燃料船の無通電回避構造に利用される。
【符号の説明】
【0023】
1 実施例1に係る低点火燃料船の無通電回避構造
2 燃料調整室(又はバンカーステーション)
3 RORO区画
4 エアロックスペース
5 無通電回避区画
6、7、8 第1ー第3のガス密扉
100 LNG炊き船等の低引火点燃料船
101 燃料調整室(又はバンカーステーション)
102 RORO区画
103 エアロックスペース(AIR L.sp)
104、105 扉
【要約】
【課題】
エアロックスペースを加圧状態を維持する機器が故障してしまった場合にもRORO区画の無通電状態(電源遮断)を回避し、積載車両への影響を避け、また、燃料調整室とエアロックスペースの間の扉と、エアロックスペースとRORO区画との間の扉の両扉が開いている場合であっても、燃料調整室等から漏洩するLNG燃料ガスがRORO区画に侵入を避けることができる低引火点燃料船の無通電回避構造を提供する
【解決手段】
第1種危険場所である燃料調整室又はバンカーステーションとの間にガス密扉を介して隣接する第2種危険場所であるエアロックスペースと、エアロックスペースとの間にガス密扉を介して隣接する無通電回避区画と、ガス密扉を介してRORO区画に隣接する無通電回避区画とを有する低引火点燃料船。
【選択図】図1
図1
図2