(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873224
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】トーショナルバイブレーションダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/167 20060101AFI20210510BHJP
F16F 15/14 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
F16F15/167 A
F16F15/14 Z
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-504070(P2019-504070)
(86)(22)【出願日】2017年7月21日
(65)【公表番号】特表2019-523373(P2019-523373A)
(43)【公表日】2019年8月22日
(86)【国際出願番号】EP2017068530
(87)【国際公開番号】WO2018019729
(87)【国際公開日】20180201
【審査請求日】2019年2月22日
(31)【優先権主張番号】102016113719.7
(32)【優先日】2016年7月26日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】599169003
【氏名又は名称】ハッセ・ウント・ヴレーデ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Hasse & Wrede GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル シュタイドル
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン クノプフ
【審査官】
熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭49−073580(JP,A)
【文献】
特開平07−317841(JP,A)
【文献】
特開平02−195043(JP,A)
【文献】
特開2011−027128(JP,A)
【文献】
実開平03−057541(JP,U)
【文献】
特開平05−044781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00−15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーショナルバイブレーションダンパ(1)であって、
機関の駆動軸に取付け可能なハブ部分(2)(一次質量体)と、
該ハブ部分(2)を半径方向外側の領域において取り囲む振動緩衝リング(3)(二次質量体)と、
を備え、
前記ハブ部分(2)と前記振動緩衝リング(3)との間には、流体で満たされた間隙(4)と、シール装置(5)とが設けられており、該シール装置(5)によって流体の流出が回避されるようになっている、トーショナルバイブレーションダンパ(1)において、
複数の前記シール装置(5)は、それぞれ、前記ハブ部分(2)に密に結合された第1のリング(6)と、前記振動緩衝リング(3)に密に結合された第2のリング(7)と、エラストマーから成るリング(8)であって、一方では前記第1のリング(6)に、他方では前記第2のリング(7)に接着されたリング(8)とを有し、
前記シール装置(5)の、前記ハブ部分(2)または前記振動緩衝リング(3)に結合された前記第1のリング(6)または前記第2のリング(7)は、金属から成り、
エラストマーから製造された前記リング(8)は、前記第1のリング(6)および前記第2のリング(7)の、軸方向に延在する面状の領域と半径方向に延在する面状の領域とに接着されており、
前記第1のリング(6)と前記第2のリング(7)は、半径方向に重なっておらず、
前記リング(8)は、前記トーショナルバイブレーションダンパ(1)の回転軸に対して相対的に斜めに延びるように配置され、かつ前記第1のリング(6)と前記第2のリング(7)のそれぞれの軸方向および半径方向の面に加硫固定されていることを特徴とする、トーショナルバイブレーションダンパ(1)。
【請求項2】
少なくとも1つの前記シール装置(5)の、それぞれ前記第1のリング(6)と前記第2のリング(7)との間に設けられた、エラストマーから成る前記リング(8)は、耐高温性のエラストマーから成ることを特徴とする、請求項1記載のトーショナルバイブレーションダンパ。
【請求項3】
前記振動緩衝リング(3)は、前記ハブ部分(2)に対向して、滑り支持部材(9)において、半径方向および/または軸方向に規定されて支持されていることを特徴とする、請求項1または2記載のトーショナルバイブレーションダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トーショナルバイブレーションダンパであって、原動機若しくは機関の駆動軸に取付け可能なハブ部分(一次質量体)と、ハブ部分を半径方向外側の領域において取り囲む振動緩衝リング(二次質量体)とを備え、ハブ部分と振動緩衝リングとの間には、流体で満たされた間隙と、シール装置とが設けられており、シール装置によって流体の流出が回避されるようになっている、トーショナルバイブレーションダンパに関する。
【0002】
冒頭で述べたタイプのトーショナルバイブレーションダンパは、たとえば、英国特許出願公告第1105292号明細書(GB 11 05 292 A)から公知である。
【0003】
ここでは概して、冒頭で述べたタイプと同様に公知の構造とは異なるトーショナルバイブレーションダンパであって、外方へずらされた振動緩衝リングを備え、振動緩衝リングが別個のハウジング内で完全に密封して支持されたトーショナルバイブレーションダンパについても述べることにする。
【0004】
後者のトーショナルバイブレーションダンパの構造の欠点は、ハウジングの質量体がダンパの機能にとって重要ではなく、振動緩衝リングの密封により熱導出が制限されてしまうことである。
【0005】
外方へずらされた振動緩衝リングを備えた、公知のトーショナルバイブレーションダンパでは、ハブ部分と振動緩衝リングとの間に存在する流体の流出を回避することが確保されなければならない。
【0006】
冒頭で述べたタイプのトーショナルバイブレーションダンパでは、シール部材として滑動型のシールリングが使用される。このことは、減衰媒体として流体、特にシリコーンオイルが使用されるが、この流体は潤滑特性を有さず、これにより、滑動型のシール部材は短い運転時間中に高い摩耗にさらされるので、封止の問題を解決するのに限定的にしか適切でない、という欠点を伴う。さらに、滑動型のシール部材は、極めて小さな粒子、たとえば水の進入に対する完全な防護を保証することができない。
【0007】
本発明の根底を成す課題は、前述の欠点を有しない長寿命のシール装置を備えた、冒頭で述べたタイプのトーショナルバイブレーションダンパを提供することである。
【0008】
この課題は、複数のシール装置がそれぞれ、ハブ部分に密に結合された第1のリングと、振動緩衝リングに密に結合された第2のリングと、エラストマーから成るリングであって、一方では第1のリングに、他方では第2のリングに封止結合されたリングとから成ることによって解決される。
【0009】
このような構造により、従来技術の欠点が回避される。なぜならば、トーショナルバイブレーションダンパの、シール要素と回転する部材との間に摩擦が生じることがないからである。
【0010】
シール装置の、ハブ部分または振動緩衝リングに密に結合された第1のリングまたは第2のリングは、好適には金属から製造されている。
【0011】
好適には、シール装置の、エラストマーから成る各々のリングは、ハブ部分または振動緩衝リングに取り付けられた、金属から成るリングに、エラストマー架橋プロセス中に生成されたゴム金属複合体によって、封止結合されている。
【0012】
好適には、シール装置の、それぞれ第1のリングと第2のリングとの間に設けられたエラストマーとして、耐高温性のエラストマー、たとえばEPDMまたはシリコーン材料が使用される。「シリコーン材料」とは、本明細書の枠内では、ケイ素原子が酸素原子を介して結合された合成ポリマーを含有するまたはそのような合成ポリマーである材料を意味する。
【0013】
このことは、前述の材料は高温領域にも適しているので、特に合目的である。
【0014】
各々のシール装置は、構造上、滑動シール部材ではないので、確実かつ持続的で完全な封止が得られる。
【0015】
シール装置を圧縮する必要はなく、これにより、シール装置を、負荷を掛けずに構成することができる、という利点が得られる。したがって、特に、振動緩衝リングがハブ部分に対向して滑り支持部材に支持されていると、トーショナルバイブレーションダンパにおける間隙の、規定された状態を保証することができる。
【0016】
エラストマー、好適にはシリコーン材料から製造された少なくとも1つのリングは、リングの、斜めにかつ/または軸方向にかつ/または半径方向に延在する面状の領域に封止結合されていることが可能である。「斜め」とは、軸方向および半径方向に対して角度を成していることを意味する。
【0017】
エラストマー、好適にはシリコーン材料から製造された少なくとも1つのリングが、金属から成る2つのリングのうちの1つのリングまたは両リングの、それぞれ異なって方向付けられた、特に軸方向に延在する面状の領域と半径方向に延在する面状の領域とに封止結合されていると、特に有利である。というのも、一次質量体および/または二次質量体における2つの方向のこのような封止結合は、それぞれ、特に確実で長寿命の結合部を形成するからである。これにより、それぞれ、間隙の特に良好に規定された状態を、長時間の使用において保証することもできる。
【0018】
本発明のさらなる特徴および利点は、本発明のさらに別の従属請求項および以下の2つの実施の形態の説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るトーショナルバイブレーションダンパの斜視図である。
【
図2】
図1に示したII−II線に沿った部分断面図である。
【
図3】本発明の別の実施の形態によるトーショナルバイブレーションダンパの、
図2に対応する部分断面図である。
【0020】
図1および
図2に示され、全体的に参照符号1が付されたトーショナルバイブレーションダンパは、一次質量体と称されることもある、原動機若しくは機関の駆動軸に取付け可能なハブ部分2と、二次質量体とも称される、ハブ部分2を半径方向外側の領域において取り囲む振動緩衝リング3とを備える。
【0021】
ハブ部分2と振動緩衝リング3との間には、間隙4が設けられている。間隙4は、流体、好ましくはシリコーンオイルで満たされている。間隙4の領域は、複数のシール装置5によって、外方に向かって封止されている。シール装置5について以下に詳説する。
【0022】
各々のシール装置5は、それぞれ、ハブ部分2に密に結合された第1のリング6と、振動緩衝リング3に同様に密に結合された第2のリング7と、エラストマーから成るリング8とから成る。リング8は、一方では第1のリング6に、他方では第2のリング7に、封止結合されている。
【0023】
各々のシール装置5の第1のリング6および第2のリング7はそれぞれ、好ましくは金属から成り、ハブ部分2または振動緩衝リング3に適切な結合方法、特にねじ締結、溶接、接着、ろう接またはこれに類する方法によって固く結合されており、ひいては本明細書の意味において密に結合されている、特に周囲にわたって密に結合されている。
【0024】
エラストマー、好ましくは耐高温性のエラストマー、たとえばシリコーン材料から製造された各々のリング8は、第1のリング6および第2のリング7の両方に、ある種の複合部材として封止結合されている、特に周に沿って封止結合されている。好適には、各々のシール装置5の、エラストマーから成る各々のリング8は、ハブ部分2または振動緩衝リング3に取り付けられた、金属から成るリング6,7に、特にエラストマー架橋プロセス中に生成されたゴム金属複合体によって、封止結合されている。
【0025】
これにより、間隙領域の、申し分のない持続的な封止が得られる。この場合、耐高温性のエラストマー、たとえばシリコーン材料を各々のリング8に使用すると、これらのリング8が高温領域にも適している、という利点が得られる。
【0026】
振動緩衝リング3は、有利には、ハブ部分2に対向して滑り支持部材9に支持されており、それも、半径方向にも軸方向にも支持されている。これにより、間隙4の大きさは、正確に規定されている。
【0027】
エラストマー、好適にはシリコーンから製造されたリング8が、第1のリング6および第2のリング7の、互いに対向して位置する軸方向および/または半径方向の面に加硫固定されていると、特に有利である。
【0028】
図1および
図2による本発明の実施の形態では、エラストマー、好適にはシリコーンから製造されたリング8は、本形態では半径方向に互いに重なり合う第1のリング6および第2のリング7の、互いに対向して位置する面に加硫固定されている。
【0029】
図3による本発明の実施の形態では、
図1および
図2による実施の形態との違いは、シール装置5の第1のリング6および第2のリング7が同一平面上に位置しており、リング8が、これらのリング6および7の、半径方向で互いに対向して位置する周方向かつ軸方向に延在する縁に加硫固定されている、という点にある。
【0030】
エラストマーから製造されたリング8が、リング6および7の、好ましくは比較的大きな面積を有する半径方向の面にも、軸方向の面、特に縁領域にも、同時に取り付けられているまたは付着している構造も考えられる。この点において、エラストマー、好適にはシリコーンから製造されたリング8が、第1のリング6および第2のリング7の、互いに対向して位置する軸方向および半径方向の面に加硫固定されていると、特に有利である。このことは、種々異なる方法で実現可能である。たとえば、リング6が、
図2の構造において、いくぶんより短く半径方向外方へ延びていて、この場合、エラストマー材料がリング6の半径方向外側の軸方向面にも到達してそこに付着し、リング8のエラストマー材料がリング7の下側の軸方向面にも到達してそこに付着する(ここでは図示せず)ように設計することが有利であり得る。この場合、リング8は、たとえば、リング7がいくぶんより短く半径方向内方へ延びているか、または両リング6,7が半径方向に全く重なり合わない場合には、全体的に半径方向および軸方向に対して斜めに延在することもできるだろう。しかもこの場合、また、リング6,7の軸方向面および半径方向面に付着する、斜めに延在するリング8によって、有利な実施の形態を実現することができるだろう(ここではそれぞれ図示せず)。
【0031】
さらに、振動緩衝リング3が、本形態では、少なくとも2つの構成部品から成り、これにより、この振動緩衝リング3をハブ部分2上に取り付けることができることも言及しておく。この場合、これまでに公知の全ての構造形態が考えられる。
【0032】
ハブ部分2は、図示された実施の形態では、半径方向外方に向かって突出するフランジ10を有する。フランジ10は、外側の縁領域において、軸方向に延在するウェブ11によって終端される。ウェブ11は、
図2および
図3に示したように、フランジ10の両側に向かって延在することができ、これによりT字形状が得られ、しかもフランジ10の片側のみに向かって延在することもでき、これによりL字形の横断面が得られる。この幾何学形状により、振動緩衝リング3は、半径方向にも軸方向にもハブ部分2に対向して固定されている。この場合、すでに言及したように、滑り支持部材9によって、周方向に延在する間隙4の大きさが常に規定されている。この構造は特に有利であるが、本発明は、この構造に限定されない。
【符号の説明】
【0033】
1 トーショナルバイブレーションダンパ
2 ハブ部分
3 振動緩衝リング
4 間隙
5 シール装置
6 リング
7 リング
8 リング
9 滑り支持部材
10 フランジ
11 ウェブ