(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
[本発明の保護フィルム付き透明導電性フィルム]
図1に本発明の保護フィルム付き透明導電性フィルム10の1例の模式図を示す。
図1の保護フィルム付き透明導電性フィルム10では、フィルム基材11の一方の主面に光学調整層12が形成され、光学調整層12の上に透明導電層13が形成されている。フィルム基材11の透明導電層13と反対側の主面には保護フィルム14が、例えば図示しない粘着剤により、貼り合わされている。フィルム基材11と光学調整層12と透明導電層13の積層体を透明導電性フィルム15という。透明導電性フィルム15および保護フィルム14は、通常、樹脂フィルムにより構成される。樹脂フィルムは、加熱により寸法変化しやすく、一般に主面内の少なくとも一方向で熱収縮しやすい。よって、透明導電性フィルム15および保護フィルム14は、主面内の少なくとも一方向で熱収縮しやすい。透明導電性フィルム15の最大熱収縮率の絶対値は、保護フィルム14の最大熱収縮率の絶対値より小さい。なお透明導電性フィルム15の熱収縮率は圧倒的に厚さが厚いフィルム基材11の熱収縮率が支配的である。
【0022】
フィルム基材11は主面内において方向により熱収縮率が異なることがある。そのため透明導電性フィルム15は主面内において方向により熱収縮率が異なることがある。透明導電性フィルム15の最大熱収縮率としては、主面内にて最大の熱収縮率を用いる。また保護フィルム14も主面内において方向により熱収縮率が異なることがある。保護フィルム14についても最大熱収縮率としては、主面内にて最大の熱収縮率を用いる。
【0023】
保護フィルム付き透明導電性フィルム10の最大熱収縮率は0.06%〜0.68%が好ましく、0.10%〜0.64%がより好ましく、0.10%〜0.54%が更に好ましい。最大熱収縮率が前記範囲であれば、加熱工程を経る場合であっても、透明導電層13の微細配線加工を精度よく実施することができる。
【0024】
[フィルム基材]
フィルム基材11は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリオレフィン、ポリシクロオレフィン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリスチレン、ノルボルネンなどからなる。フィルム基材11の材質はこれらに限定されることはないが、透明性、耐熱性、および機械特性に優れるポリエチレンテレフタレートが、特に好ましい。
【0025】
フィルム基材11の厚さは、例えば、20μm以上、300μm以下であり、好ましくは40μmを超え、300μm以下であるが、これに限定されることはない。但しフィルム基材11の厚さが20μm未満であると取り扱いが困難になるおそれがある。フィルム基材11の厚さが300μmを超えると、タッチパネルなどに実装したときに透明導電性フィルム15の厚さが過大であるという問題が発生することがある。
【0026】
フィルム基材11の透湿度は、例えば、3g/m
2・day以上である。図示しないが、フィルム基材11の透明導電層13側の面と保護フィルム14側の面には、必要に応じて、易接着層、アンダーコート層、あるいはハードコート層等の機能層を備えていてもよい。易接着層はフィルム基材11とフィルム基材11上に形成される層(例えば、光学調整層12)との密着性を高める機能を有する。アンダーコート層はフィルム基材11の反射率や光学色相を調整する機能を有する。ハードコート層は透明導電性フィルム15の耐擦傷性を高める。前記機能層は、好ましくは有機樹脂を含む組成から成る。
【0027】
フィルム基材11の最大熱収縮率は、0.05%〜0.65%が好ましく、0.10%〜0.60%がより好ましく、0.10%〜0.50%が更に好ましい。フィルム基材11の最大熱収縮率が0.05%未満であると、透明導電層13の圧縮応力が小さくなりすぎて、透明導電層13の耐加湿信頼性が悪化する場合がある。フィルム基材11の最大熱収縮率が0.65%を超えると、透明導電層13をパターニングして配線形成する際、配線の位置精度が著しく悪化するおそれがある。
【0028】
[透明導電層]
透明導電層13は、金属の導電性酸化物を主成分とする薄膜層、または主金属と1種以上の不純物金属を含有する複合金属酸化物を主成分とする透明薄膜層である。透明導電層13は、可視光域で光透過性を有し、かつ、導電性を有するものであれば、その構成材料は特に限定されることはない。
【0029】
透明導電層13には、例えば、インジウム酸化物、インジウムスズ酸化物(ITO : Indium Tin Oxide) 、インジウム亜鉛酸化物(IZO : Indium Zinc Oxide)、インジウムガリウム亜鉛酸化物(IGZO : Indium Gallium Zinc Oxide)等が用いられるが、低比抵抗や透過色相の観点からインジウムスズ酸化物がより好ましい。透明導電層13は、非晶質であっても結晶質であっても良いが、結晶質であることがより好ましい。
【0030】
透明導電層13が結晶質であるか否かは、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いて平面TEM観察を行うことで確認することができる。本明細書では、25,000倍での平面TEM画像において、結晶粒が占める面積割合が50%以下(好ましくは、0%以上30%以下)である場合、非晶質であるとし、50%を超えるときは(好ましくは、80%以上)結晶質であるとする。
【0031】
結晶質の透明導電層13は、耐湿熱信頼性に優れる。結晶質の透明導電層13は、結晶粒界を有するため、粒界を経由して水が通りやすく、非晶質の透明導電層に比して透湿度を大きくすることができる。透明導電層13の透湿度は、例えば、1g/m
2・dayである。また、結晶質の透明導電層は、非晶質の透明導電層よりも耐擦傷性に劣る場合があるが、本願の透明導電性フィルム15は耐擦傷性に優れる光学調整層12を備えるため、結晶質の透明導電層13を好適に使用することができる。フィルム基材11に低温で形成されたインジウムスズ酸化物層は非晶質であり、これを加熱処理することにより、非晶質から結晶質に転化する。インジウムスズ酸化物層は結晶質に転化することにより表面抵抗値が低くなる。
【0032】
透明導電層13の比抵抗は、4X10
−4Ω・cm以下であることが好ましく、3.8X10
−4Ω・cm以下であることがより好ましく、3.5X10
−4Ω・cm以下であることが更に好ましく、3.3X10
−4Ω・cm以下であることが最も好ましく、下限値は、例えば、1X10
−4Ω・cm以上である。透明導電層13の比抵抗を小さくすることで、大型タッチパネルの透明電極としても好適に用いることができる。また、透明導電層13の比抵抗が小さいと、透明導電層の厚みを過度に厚くする必要がなくなり、透明導電層13の光透過率をより高くすることができる。透明導電層13は、薄膜化すると耐擦傷性が悪化する場合があるが、本願の透明導電性フィルム15は耐擦傷性に優れる光学調整層12を備えるため、比抵抗の小さい薄膜の透明導電層13を好適に使用できる。なお、透明導電層13の比抵抗は、JIS K7194(1994年)に準じて、四端子法により測定した透明導電層13の表面抵抗値(Ω/□)と、透過型電子顕微鏡により測定した透明導電層13の厚みとを用いて求めることができる。なお、透明導電層13の表面抵抗値は、200Ω/□以下であることが好ましく、150Ω/□以下であることがより好ましく、100Ω/□以下であることが更に好ましく、下限値は、例えば、40Ω/□以上である。前記範囲であれば、大型タッチパネルの透明電極としても好適に用いることができる。
【0033】
[保護フィルム]
保護フィルム14は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリオレフィン、ポリシクロオレフィン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリスチレン、ノルボルネン等からなる。保護フィルム14の材質がこれらに限定されることはないが、透明性、耐熱性、および機械特性に優れるポリエチレンテレフタレートが、特に好ましい。
【0034】
保護フィルム14の厚さは、保護フィルム付き透明導電性フィルム10の取扱いを良好にできる厚さであれば、特に限定されないが、20μm以上、300μm以下が好ましく、40μm以上、300μm以下であることがより好ましい。保護フィルム14の厚さが20μm未満であると取り扱いが困難になるおそれがある。また保護フィルム14の厚さが300μmを超えると巻回が困難になるおそれがある。
【0035】
保護フィルム14の厚みTpとフィルム基材11の厚みTsとの比(Ts/Tp)は、0.1〜3.0が好ましく、0.3〜2.0がより好ましく、0.3〜1.5が更に好ましい。Ts/Tpが前記の範囲であれば、保護フィルム付き透明導電性フィルム10の取扱い性を確実に向上することができる。
【0036】
保護フィルム14の透湿度は、例えば、3g/m
2・day以上である。保護フィルム14の最大熱収縮率は0.10%〜0.70%が好ましく、0.15%〜0.65%がより好ましく、0.15%〜0.55%が更に好ましい。保護フィルム14の最大熱収縮率が前記範囲であれば、透明導電性フィルム15の各種特性を悪化させるおそれがない。
【0037】
保護フィルム14はフィルム基材11に、例えば、図示しない粘着剤により貼り合わされる。本発明における保護フィルム14は、透明導電性フィルム15を、例えば、タッチパネル部材に貼り合わせる際、フィルム基材11から剥離する必要がある。このとき、光学調整層12がフィルム基材11から剥がれたり、透明導電層13が光学調整層12から剥がれたりすると、透明導電性フィルム15が破壊される。そのようなことを防止するため、保護フィルム14とフィルム基材11の層間密着力が、全ての層間密着力の中で最小であることが必要である。上記層間密着力としては、保護フィルム14をフィルム基材11から剥がすとき、光学調整層12がフィルム基材11から剥がれたり、透明導電層13が光学調整層12から剥がれたりすることがない範囲で適宜設定すればよく、例えば3N/50mm以下であることが望ましい。保護フィルムの剥離力は、JISZ0237に準拠した、180°剥離試験により測定することができる。
【0038】
本明細書における、保護フィルム14は、タッチパネル組み込みの際には最終的に剥離され、破棄される。なお、フィルム基材11と保護フィルム14とを剥離する際、界面に存在した粘着剤等は保護フィルム14に接着された状態で剥離されるのが好ましい。フィルム基材11に粘着剤が接着された状態で剥離されると、透明導電性フィルムの用途が限定されてしまう。また、粘着剤等の不具合が発生した場合(例えば、加熱による粘着剤の発泡)であっても、最終的に剥離され、破棄される保護フィルムの側に粘着剤等を残す形態にすることにより、透明導電性フィルム15は使用上の悪影響を受けにくくなる。
【0039】
[光学調整層]
光学調整層12は、フィルム基材11と透明導電層13との間に設けられる屈折率調整のための層であり、この層の存在により透明導電性フィルム15の光学特性(例えば、反射特性)を最適化することができる。光学調整層12は、乾式成膜法により、フィルム基材11上に成膜される乾式光学調整層であり、その組成は無機酸化物を含み、好ましくは、無機酸化物から成る。光学調整層12の形成方法は、十分な耐擦傷性が得られる乾式成膜法であれば限定はされないが、特にスパッタリング法が好ましい。スパッタリング法で形成した膜は、他の乾式成膜法(例えば、真空蒸着法)と比して、特に緻密な膜を安定して得ることができるため、スパッタリング法で形成した無機酸化物層を含む光学調整層12は優れた耐擦傷性を有する。
【0040】
スパッタリング法にて光学調整層12を成膜する際の、スパッタリングガスの圧力は0.05Pa〜0.5Paが好ましく、0.09Pa〜0.3Paがより好ましい。スパッタリングガスの圧力を上記範囲とすることで、より緻密な膜を形成することができる。スパッタリングガスの圧力が0.5Paを超えると、緻密な膜が得られなくなるおそれがある。スパッタリングガスの圧力が0.05Paを下回ると放電が安定しなくなり、透明導電性フィルム15の光学特性(例えば、透過率)を悪化させるおそれがある。
【0041】
光学調整層12の構成材料は特に限定されないが、例えば、ケイ素酸化物(一酸化ケイ素(SiO)、二酸化ケイ素(SiO
2、通常これを酸化ケイ素という)、亜酸化ケイ素(SiOx:xは1以上2未満))、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化ニオブ(Nb
2O
5)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化チタン(TiO
2)等の無機酸化物である。光学調整層12は、単層の無機酸化物層であっても良いし、主原子の異なる無機酸化物層が複数層積層されてなる無機酸化物層積層体であっても良い。乾式の無機酸化物を含んでなる光学調整層12は湿式光学調整層22(後述の
図3)より耐擦傷性が高いため、透明導電層13の微細な配線パターンが擦傷により断線することが抑制される。
【0042】
耐擦傷性に優れる光学調整層12とするためには、光学調整層12の透湿度は、例えば、1.0g/m
2・day以下であり、好ましくは、0.8g/m
2・day以下であり、より好ましくは、0.6g/m
2・day以下であり、更に好ましくは、0.4g/m
2・day以下であり、また、例えば、0.001g/m
2・day以上であり、好ましくは、0.01g/m
2・day以上である。これはフィルム基材11や保護フィルム14の透湿度よりおよそ1桁以上小さい水準である。光学調整層12の透湿度が前記範囲であれば、無機酸化物層の膜密度が十分に高いため、十分な耐擦傷性を得ることができる。光学調整層12の透湿度が0.001g/m
2・dayより小さいと、無機酸化物層の膜密度が過度に高くなり、硬度が高くなりすぎて、耐屈曲性が悪化するおそれがある。また、光学調整層12の透湿度が1.0g/m
2・dayを超えると、膜密度が不足して耐擦傷性が悪化するおそれがある。なお、光学調整層12の透湿度は、透明導電性フィルム15を構成する層の中で、最も低いことが好ましく、そうすることで十分に膜密度が高い光学調整層12が得られ、耐擦傷性に優れる透明導電性フィルム15を得ることができる。
【0043】
光学調整層12は、無機酸化物を構成する無機原子及び酸素原子以外の不純物原子を実質的に含まない領域を有していることが好ましく、具体的には炭素原子が0.2atomic%以下の領域を有することが好ましい。光学調整層12に含まれうる炭素原子は、例えば、フィルム基材11やフィルム基材11に湿式工法にて形成されたハードコート層(図示しない)に由来する不純物原子である。また、湿式光学調整層22(後述の
図3)は、有機樹脂に由来する炭素原子を含む場合がある。
【0044】
本明細書において、炭素原子が0.2atomic%以下の領域の有無は、X線光電子分光法(通称ESCA:Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)にてデプスプロファイル測定を行うことで判断する。
【0045】
炭素原子は、光学調整層12の膜密度を低下させ、耐擦傷性低下を招く。光学調整層12が、炭素原子が0.2atomic%以下の領域を有することにより、十分な耐擦傷性を得ることができる。光学調整層12に含まれる炭素原子は少ない程良いが、X線光電子分光法において、0.2atomic%以下になると、装置検出限界以下の水準となり、検出できない場合がある。そのため、本明細書では、炭素原子が0.2atomic%以下であれば、不純物原子を実質的に含んでいないと判断することとする。光学調整層12の総厚み(即ち、乾式光学調整層の総厚み)を100%とするときにおける、炭素原子が0.2atomic%以下の領域の厚みの割合は、例えば、10%以上であり、好ましくは、15%以上であり、より好ましくは、20%以上であり、更に好ましくは、25%以上であり、最も好ましくは30%以上である。「炭素原子が0.2atomic%以下の領域」の求め方は[光学調整層内の不純物原子(炭素原子)の存在領域の評価]欄に詳細を記載する。炭素原子が0.2atomic%以下の領域の割合は、乾式光学調整層の総厚みA(nm)と、乾式光学調整層内で炭素原子が検出された領域の厚みB(nm)を求め、式「100−(B/A)X100」(単位:%)を計算することで求められる。炭素原子が0.2atomic%以下の領域が10%以上であれば、十分な耐擦傷性が得られる。炭素原子が0.2atomic%以下の領域の割合は高いほど良いが、分析上の問題で、例えば、光学調整層12のフィルム基材11近傍付近ではフィルム基材11を構成する炭素原子を検出してしまうため、実質的に100%という分析結果は得られない。炭素原子が0.2atomic%以下の領域の上限値は、例えば90%である。
【0046】
不純物原子を含まない光学調整層12は、例えば、フィルム基材11の温度を過度に加熱しない状態で形成することにより好適に得られる。例えば、フィルム基材11の光学調整層12を形成する側とは反対の側を−20℃〜15℃、好ましくは−20℃〜5℃に冷却しながら光学調整層12を形成する。フィルム基材11を冷却した状態で光学調整層12を形成することにより、フィルム基材に含まれるガス成分の放出が抑制され、光学調整層12に不純物原子が含まれにくくなる。
【0047】
光学調整層12の厚さは、例えば、1nm以上であり、好ましくは、5nm以上であり、より好ましくは、8nm以上であり、更に好ましくは、10nm以上であり、また、200nm以下であり、好ましくは100nm以下であり、更に好ましくは80nm以下であり、最も好ましくは50nm以下である。光学調整層12の厚さが1nm未満であると、透明導電性フィルム15の耐擦傷性が不足する場合がある。光学調整層12の厚さが200nmを超えると、透明導電性フィルム15の耐屈曲性が悪化するおそれがある。
【0048】
[透明導電性フィルムの透湿度]
透明導電性フィルム15の、温度40℃、相対湿度90%での透湿度は、1.0g/m
2・day以下であることが好ましく、0.5g/m
2・day以下であることがより好ましい。透湿度が1.0g/m
2・dayを超えると、透明導電層13の耐加湿信頼性が悪化する場合がある。
【0049】
[透明導電性フィルムの最大熱収縮率と保護フィルムの最大熱収縮率の差]
透明導電性フィルム15の最大熱収縮率の絶対値と、保護フィルム14の最大熱収縮率の絶対値の差は0.05%〜0.6%であることが好ましく、0.05%〜0.5%であることがより好ましく、0.05%〜0.4%であることが更に好ましく、0.1%〜0.4%であることが最も好ましい。そのようにすることにより、保護フィルム付き透明導電性フィルム10のシートのカールを適切な範囲に制御できる。フィルム基材11および保護フィルム14の最大熱収縮率は、フィルム基材11および保護フィルム14の材料、延伸履歴、方向などにより、マイナスになる(熱膨張する)ことがある。そのため最大熱収縮率の絶対値で比較することとする。
【0050】
透明導電性フィルム15の主面内における最大熱収縮率は、透明導電性フィルム15の主面内における最大寸法変化率の絶対値と等しいことが好ましい。透明導電性フィルム15は主面内において、ある方向(例えばMD:Machine Direction)で熱収縮を、他の方向(例えばTD:Transverse Direction)で熱膨張を示す場合がある。最大熱収縮率が最大寸法変化率の絶対値と等しいとは、最大熱収縮率の絶対値が最大熱膨張率の絶対値より大きいことを意味する。
【0051】
例えば、透明導電性フィルム15が主面内において、MDで最大熱収縮率1.0%を示し、TDで最大熱膨張率0.5%を示す場合、最大熱収縮率(1.0%)が最大熱膨張率(0.5%)より大きく、最大熱収縮率が最大寸法変化率の絶対値と等しくなる。
【0052】
最大熱収縮率と、最大寸法変化率の絶対値が等しいとは、熱収縮率の値がプラスの値である(熱膨張ではない)ことを意味しており、加熱による寸法変化の支配的要因が熱収縮であることを示す。透明導電性フィルム15の主面内において、寸法変化の支配的要因が熱収縮である場合、寸法変化に伴って透明導電層13にクラックを生じるおそれがない。
【0053】
保護フィルム14の主面内における最大熱収縮率も透明導電性フィルム15と同様に、保護フィルム14の主面内における最大寸法変化率の絶対値と等しいことが好ましい。そのように設計することで、保護フィルム14を透明導電性フィルム15と貼り合せた場合であっても、透明導電層13にクラックを生じるおそれがない。
【0054】
透明導電性フィルム15の最大熱収縮率(実質的にはフィルム基材11の最大熱収縮率)と保護フィルム14の最大熱収縮率の差は、それぞれの形成条件を異ならせることにより得られる。例えばフィルム基材11と保護フィルム14が同じポリエチレンテレフタレート(PET)からなり、それぞれの厚さが同じ場合でも、それぞれの延伸条件が異なれば最大熱収縮率を異ならせることができる。
【0055】
従来の保護フィルム付き透明導電性フィルムにおいてカールが発生するメカニズムを説明し、次に本発明の保護フィルム付き透明導電性フィルムにおいてカールが小さくなるメカニズムを説明する。
【0056】
図3は従来の保護フィルム付き透明導電性フィルム20の第1例の模式図である。
図3の従来の保護フィルム付き透明導電性フィルム20では、フィルム基材21の一方の主面に湿式光学調整層22が形成され、湿式光学調整層22の上に透明導電層23が形成されている。フィルム基材21と湿式光学調整層22と透明導電層23の積層体を透明導電性フィルム25という。フィルム基材21の、透明導電層23とは反対側の主面には保護フィルム24が貼り合わされている。湿式光学調整層22とは、有機樹脂材料(例えば、アクリル樹脂)を溶剤(例えば、メチルイソブチルケトン)に溶解し、フィルム基材21に塗工(湿式工法)して形成される光学調整層(例えば、屈折率の調整のための層)である。
【0057】
従来の保護フィルム付き透明導電性フィルム20の第1例においては、フィルム基材21の熱収縮率と保護フィルム24の熱収縮率が略等しくなるように設計されている。フィルム基材21と保護フィルム24の熱収縮率が略等しいので、温度変化によっては、保護フィルム付き透明導電性フィルム20のシートのカールはほとんど発生しない。
【0058】
従来の保護フィルム付き透明導電性フィルム20の第1例においては、湿式光学調整層22の透湿度が非常に大きい。そのため、空気中から透明導電層23と湿式光学調整層22を通してフィルム基材21に吸収される水の吸収速度と、空気中から保護フィルム24に直接吸収される水の吸収速度の差が小さい。フィルム基材21と保護フィルム24はいずれも吸水膨張するが、フィルム基材21の吸水速度と保護フィルム24の吸水速度の差が小さいため、フィルム基材21と保護フィルム24は同じように吸水膨張する。そのため、吸水膨張により発生する保護フィルム付き透明導電性フィルム20のシートのカールは小さい。したがって従来の保護フィルム付き透明導電性フィルム20の第1例のシートは温度変化によっても吸水膨張によっても発生するカールは小さく、カールの問題は生じない。しかし従来の保護フィルム付き透明導電性フィルム20の第1例には、耐擦傷性が低いという問題がある。
【0059】
図4に従来の保護フィルム付き透明導電性フィルム30の第2例の模式図を示す。従来の保護フィルム付き透明導電性フィルム20の第1例の耐擦傷性が低いという問題を解決するため、従来の保護フィルム付き透明導電性フィルム30の第2例では、耐擦傷性が高い乾式光学調整層32が用いられている。
【0060】
図4の保護フィルム付き透明導電性フィルム30では、フィルム基材31の一方の主面に乾式光学調整層32が形成され、乾式光学調整層32の上に透明導電層33が形成されている。フィルム基材31と乾式光学調整層32と透明導電層33の積層体を透明導電性フィルム35という。フィルム基材31の透明導電層33と反対側の主面には保護フィルム34が貼り合わされている。乾式光学調整層32は、例えば、スパッタリング法(乾式工法)で形成された二酸化ケイ素(SiO
2)層である。
【0061】
従来の保護フィルム付き透明導電性フィルム30の第2例においても、フィルム基材31の熱収縮率と保護フィルム34の熱収縮率が略等しくなるように設計されている。フィルム基材31と保護フィルム34の熱収縮率が略等しいので、温度変化によっては、保護フィルム付き透明導電性フィルム30のシートのカールはほとんど発生しない。
【0062】
乾式光学調整層32の透湿度は湿式光学調整層22の透湿度に比べておよそ1桁以上小さい。例えば、湿式光学調整層22の透湿度が20g/m
2・day〜300g/m
2・day程度であるのに対して、乾式光学調整層32の透湿度は0.001g/m
2・day〜1.0g/m
2・day程度である。従来の保護フィルム付き透明導電性フィルム30の第2例においては、乾式光学調整層32の透湿度が湿式光学調整層22の透湿度に比べて1桁以上小さいため、空気中から透明導電層33と乾式光学調整層32を通して単位時間にフィルム基材31に吸収される水の量は、空気中から保護フィルム34に直接吸収される水の量に比べてかなり少ない。フィルム基材31は保護フィルム34を通しても空気中の水を吸収するが、その場合フィルム基材31が水を吸収するタイミングは、保護フィルム34より遅くなる。
【0063】
保護フィルム34の吸水膨張量がフィルム基材31の吸水膨張量に比べて多いため、吸水膨張の結果、保護フィルム34の寸法がフィルム基材31の寸法より大きくなる。そのため保護フィルム付き透明導電性フィルム30のシートには吸水膨張による大きなカールが発生する。カールの大きい保護フィルム付き透明導電性フィルム30のシートは、大型タッチパネルデバイスの製造工程、例えば、透明導電層の加熱結晶化工程や他材料との貼り合せ工程における取り扱いが極めて難しい。
【0064】
[本発明のカール抑制メカニズム]
図2により、本発明の保護フィルム付き透明導電性フィルム10のシートのカールを抑制するメカニズムを説明する(
図2の符号は
図1と共通である)。なお
図2においては、透明導電性フィルム15および保護フィルム14がいずれも熱収縮する(熱収縮率がプラス)場合について説明する。
図2(a)は透明導電性フィルム15に保護フィルム14が貼り合わされた保護フィルム付き透明導電性フィルム10のシートの模式図である。この貼り合わせは常温で行なわれる。この時点では保護フィルム付き透明導電性フィルム10のシートにカールはほとんどない。
【0065】
図2(b)は保護フィルム付き透明導電性フィルム10のシートを加熱したときの模式図である。保護フィルム付き透明導電性フィルム10は、タッチパネルデバイスを製造する際、いずれかの工程で加熱工程を経る場合が多い。例えば、タッチパネルデバイスはパネル額縁部に引き回し配線を形成するが、その配線材料にはしばしば銀ペーストが用いられる。銀ペーストは多量の溶剤を含んでおり、配線として固化するために高温(例えば、140℃)での加熱が必要となる。
【0066】
また、透明導電層13が、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)の場合、インジウムスズ酸化物を結晶化させて表面抵抗値を低くするため、保護フィルム付き透明導電性フィルム10を、例えば、140℃で加熱する必要がある。加熱により、透明導電性フィルム15および保護フィルム14のいずれも熱収縮するが、それぞれの熱収縮率は異なる。透明導電性フィルム15の熱収縮率が保護フィルム14の熱収縮率より小さいため、図示の方向(保護フィルム14方向)のカールが発生する。
【0067】
図2(c)は加熱後の保護フィルム付き透明導電性フィルム10のシートを常温の大気中に放置したときのカールの変化を示す。本発明の保護フィルム付き透明導電性フィルム10においては、光学調整層12の透湿度が非常に小さい。そのため、空気中から透明導電層13と光学調整層12を通してフィルム基材11に吸収される水の吸収速度は、空気中から保護フィルム14に直接吸収される水の吸収速度よりもかなり遅い。フィルム基材11は保護フィルム14を通しても空気中の水を吸収するが、その場合、フィルム基材11が水を吸収するタイミングは保護フィルム14より遅くなる。その結果、フィルム基材11と保護フィルム14はいずれも吸水膨張するものの、保護フィルム14の吸水速度がフィルム基材11の吸水速度よりも速いため、保護フィルム14の吸水膨張はフィルム基材11の吸水膨張より大きくなる。そのため熱収縮により発生した
図2(b)のカールが徐々に矯正されて
図2(c)のようにほぼ平坦なカールの小さい状態になる。
【0068】
透明導電性フィルム15と保護フィルム14の熱収縮率の差と、透明導電性フィルム15と保護フィルム14の吸水速度の差のバランスがとれていると、
図2(c)の状態(カールの小さい状態)が実現できる。透明導電性フィルム15と保護フィルム14の最大熱収縮率の差が過大(0.6%を超える)であると、熱収縮により発生した、加熱直後(吸水前)のカールが過大となる。そのため、吸水膨張によって矯正することが十分できないため、吸水膨張後も
図2(b)の状態(保護フィルム14側にカールした状態)となる。逆に透明導電性フィルム15と保護フィルム14の最大熱収縮率の差が過小(0.05%未満)であると、熱収縮により発生したカールが、吸水膨張により過矯正されて、吸水膨張後は
図2(d)の状態(透明導電性フィルム15側にカールした状態)で大きくカールしてしまう。
【0069】
光学調整層12の透湿度が1.0g/m
2・day以下であり、透明導電性フィルム15の主面内の最大熱収縮率(%)の絶対値が、保護フィルム14の主面内の最大熱収縮率(%)の絶対値より小さく、その差が0.05%〜0.6%であるとき、透明導電性フィルム15と保護フィルム14の熱収縮率の差と、透明導電性フィルム15と保護フィルム14の吸水速度の差のバランスがとれることが見出された。
【0070】
透湿度が1.0g/m
2・day以下の光学調整層12は、好適には、スパッタリング膜により実現される。
【0071】
また、光学調整層12に炭素原子の含有量が0.2atomic%以下の領域が含まれ、透明導電性フィルム15の主面内の最大熱収縮率(%)の絶対値が、保護フィルム14の主面内の最大熱収縮率(%)の絶対値より小さく、その差が0.05%〜0.6%であるとき、透明導電性フィルム15と保護フィルム14の熱収縮率の差と、透明導電性フィルム15と保護フィルム14の吸水速度の差のバランスがとれることが見出された。炭素原子の含有量が0.2atomic%以下の領域は、好適には、スパッタリング膜により実現される。
【0072】
保護フィルム付き透明導電性フィルムのシート(保護フィルム付き透明導電性フィルムから切り出されたシート)のカールを測定する際の形状は、カールの測定点が明確になりやすく、実際の製造工程では殆ど正方形あるいは長方形で取り扱われるという観点から正方形あるいは長方形であることが好ましく、正方形であることがより好ましい。
【0073】
また、保護フィルム付き透明導電性フィルムのシートの面積は、600cm
2以上であることが好ましく、600cm
2以上2500cm
2以下であることがより好ましく、620cm
2以上2500cm
2以下であることが更に好ましく、1200cm
2以上2500cm
2以下であることが最も好ましい。カール測定時の保護フィルム付き透明導電性フィルムのシートは、例えば、A4の長方形(624cm
2)、辺が35cmの正方形(1225cm
2)、辺が50cmの正方形(2500cm
2)である。シート面積が600cm
2未満であると、カール試験を実施しても、製造工程で問題になるレベルのカールの有無を確認することが難しい。また、シート面積が2500cm
2を超えると、加熱設備によっては、保護フィルム付き透明導電性フィルムのシートを均一に加熱することができず、カールの数値が大きくばらつくおそれがある。
【0074】
本明細書において、カールの測定は、保護フィルム付き透明導電性フィルムのシートを切り出して、加熱処理した後、シートの四頂点が透明導電性フィルム側にカールする場合は透明導電性フィルムを上側に、保護フィルム側にカールする場合は、保護フィルムを上側にした状態で行う。なお、保護フィルム付き透明導電性フィルムのシートの四頂点のうち、一部の頂点におけるカールの方向が、他の頂点におけるカールの方向と反対の方向になる場合があるが、その場合、まず透明導電性フィルムを上側にして、透明導電性フィルム側にカールしている頂点のカールの実測値を測定し、その後、シートを反転して保護フィルムを上側とし、保護フィルム側にカールしている頂点のカールの実測値を測定する。
【0075】
本願請求項及び明細書におけるカールの値は、特筆した補足説明がない限り、正方形あるいは長方形の保護フィルム付き透明導電性フィルムの四頂点位置で測定した各々のカールの実測値の平均値を意味する。なお、カールの実測値は、シートの頂点が透明導電性フィルム側にカールする場合(
図2(d))をプラスの値とし、シートの頂点が保護フィルム側にカールする場合(
図2(b))をマイナスの値とする。
【0076】
保護フィルム付き透明導電性フィルムのシートを温度140℃で90分間加熱し、引き続き温度25℃、相対湿度55%の環境に1分間〜4時間暴露した際のカールの絶対値は、全暴露時間を通して、保護フィルム付き透明導電性フィルムのシートの最大長の2.1%以下であることが望ましい。
【0077】
保護フィルム付き透明導電性フィルムのシートの大きさが50cmX50cmの正方形の場合、最大長は対角線の約70.7cmであるから、全暴露時間を通して、カールの絶対値は15mm以下(70.7cmの2.1%以下)であることが望ましい。カールの絶対値が保護フィルム付き透明導電性フィルムのシートの最大長の2.1%を超えると、保護フィルム付き透明導電性フィルムのシートを、例えば、パターンニングおよびエッチングするときの取り扱いが困難になるおそれがある。保護フィルム付き透明導電性フィルムのシートが正方形および長方形のときは、最大長は対角線となる。保護フィルム付き透明導電性フィルムのシートが不定形のときは、最大長は差し渡しの最も長い部分の長さになる。
【0078】
シート面積が600cm
2以上2500cm
2以下である正方形あるいは長方形の保護フィルム付き透明導電性フィルムのシートを、140℃で90分間加熱し、引き続き温度25℃、相対湿度55%の環境に1分間〜4時間暴露した際の、カールの絶対値が、全暴露時間を通して、15mm以下であることが好ましい。カールの絶対値が15mm以下であれば、大型タッチパネルデバイスの製造工程であっても、カール由来の工程不良が生じることはない。
【0079】
カールの方向は、例えば、
図2(b)のように、保護フィルム側にカールした状態(カールがマイナス値)が望ましい。これは、保護フィルム付き透明導電性フィルム10のシートを、フォトリソグラフィなどによりパターンニングおよびエッチングする際、保護フィルム付き透明導電性フィルムのシートの保護フィルム側を真空吸着ステージに吸着するのに好都合だからである。
【0080】
以上、本実施形態に係る保護フィルム付き透明導電性フィルムについて述べたが、本発明は記述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【0081】
[実施例および比較例]
表1に本発明の保護フィルム付き透明導電性フィルムの実施例1〜4と比較例1〜4を示す。各サンプルは50cmX50cm(シート面積:2500cm
2)の正方形のシートである。
【0083】
[実施例1]
実施例1の保護フィルム付き透明導電性フィルム40の膜構成を
図5に示す(
図1と共通部分は同じ符号を付す)。フィルム基材11の一主面上にハードコート層16が形成され、ハードコート層16上に光学調整層12が形成され、光学調整層12上に透明導電層13が形成されている。フィルム基材11、ハードコート層16、光学調整層12および透明導電層13の積層体を透明導電性フィルム17という。フィルム基材11の、透明導電層13と反対側の主面に保護フィルム14が貼り合わされている。フィルム基材11は厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、保護フィルム14は厚さ120μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。ハードコート層16は、酸化ジルコニウム粒子とアクリル樹脂を含む紫外線硬化性樹脂からなる、厚み0.3μmの層である。透明導電性フィルム17の最大熱収縮率は、実質的にはフィルム基材11の最大熱収縮率である。フィルム基材11と保護フィルム14は延伸条件が異なる。延伸条件を調整して、透明導電性フィルム17の最大熱収縮率は0.30%、保護フィルム14の最大熱収縮率は0.45%となるようにした。
【0084】
光学調整層12は、厚み3nmのSiOx(x=1.5)層と、SiOx層上に形成された厚み17nmのSiO
2層とから成る、合計厚み20nmのケイ素酸化物層である。SiOx層は、アルゴン及び酸素(アルゴン:酸素=100:1)を導入した0.3Paの真空雰囲気下で、Siターゲットをスパッタリングすることにより、ハードコート層16上に形成された。SiO
2層は、アルゴン及び酸素(アルゴン:酸素=100:38)を導入した0.2Paの真空雰囲気下で、Siターゲットをスパッタリングすることにより、SiOx層上に形成された。
【0085】
透明導電層13は、酸化インジウムと酸化スズを90:10の重量比で有するターゲットを、アルゴン及び酸素(アルゴン:酸素=100:1)を導入した0.4Paの真空雰囲気下で、スパッタリングすることにより形成された厚さ22nmのインジウムスズ酸化物(ITO)層である。透明導電層13を140℃、90分間加熱した後の結晶質の比抵抗は3.3X10
−4Ω・cmであった。なお、光学調整層12と透明導電層13は、フィルム基材11の、光学調整層12を形成する面とは反対の側を、0℃の成膜ロールに接触させ、フィルム基材11を冷却しながら形成した。
【0086】
[実施例2]
実施例2の保護フィルム付き透明導電性フィルムは、透明導電性フィルムの最大熱収縮率を0.20%、保護フィルムの最大熱収縮率を0.51%とした以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0087】
[実施例3]
実施例3の保護フィルム付き透明導電性フィルムは、透明導電性フィルムの最大熱収縮率を0.22%、保護フィルムの最大熱収縮率を0.46%とした以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0088】
[実施例4]
実施例4の保護フィルム付き透明導電性フィルムは、光学調整層12を構成するSiO
2層の成膜する際の気圧を0.3Paとした以外は、実施例3と同様にして作成した。SiO
2層の成膜する際の気圧を変えることにより、SiO
2層の密度および透湿度が調整できる。
【0089】
[比較例1]
比較例1の保護フィルム付き透明導電性フィルムは、透明導電性フィルムの最大熱収縮率を0.43%、保護フィルムの最大熱収縮率を0.45%とした以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0090】
[比較例2]
比較例2の保護フィルム付き透明導電性フィルムは、透明導電性フィルムの最大熱収縮率を0.51%、保護フィルムの最大熱収縮率を0.48%とした以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0091】
[比較例3]
比較例3の保護フィルム付き透明導電性フィルム50の膜構成を
図6に示す(
図3と共通の部分には同じ符号を付す)。フィルム基材21の一主面上にハードコート層26が形成され、ハードコート層26上に湿式光学調整層22が形成され、湿式光学調整層22上に透明導電層23が形成されている。フィルム基材21の、透明導電層23と反対側の主面に保護フィルム24が貼り合わされている。フィルム基材21は厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム、保護フィルム24は厚さ120μmのポリエチレンテレフタレートフィルムである。透明導電性フィルム27の最大熱収縮率(実質的にはフィルム基材21の最大熱収縮率)は0.46%、保護フィルム24の最大熱収縮率は0.45%で略等しい。湿式光学調整層22は、メラミン樹脂:アルキド樹脂:有機シラン縮合物の重量比2:2:1の熱硬化樹脂を、厚さ35nmでハードコート層26上に塗工形成したものである。ハードコート層26と透明導電層23は、実施例1と同様にして作製した。透明導電層23を140℃、90分間加熱した後の結晶質の比抵抗は3.2X10
−4Ω・cmであった。
【0092】
[比較例4]
比較例4の保護フィルム付き透明導電性フィルムは、電子ビーム蒸着法により形成した厚み8nmのSiO
2層を乾式光学調整層とした形成した以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0093】
[透湿度]
表1に記載した実施例1〜4および比較例1、2、4の透湿度は、透明導電性フィルム(保護フィルムは備えていない)において、透明導電層のみをエッチングにより除去した、乾式光学調整層付きフィルムの、温度40℃、相対湿度90%での透湿度である。表1に記載した比較例3の透湿度は、より透湿度が高い薄型PETフィルム(厚み23μm)上に、比較例3と同一の材料及び塗布条件で、厚み0.3μmのハードコート層及び厚さ35nmの熱硬化樹脂を形成して作製した湿式光学調整層付薄型PETフィルムの、温度40℃、相対湿度90%での透湿度である。
【0094】
実施例1〜4および比較例1、2の透湿度が低い理由は、実施例1〜4および比較例1、2の形成条件でスパッタ成膜した乾式光学調整層の透湿度が低いためである。比較例3の透湿度が桁違いに高いのは、湿式光学調整層(塗工法で形成された厚さ35nmの熱硬化樹脂層)の透湿度が桁違いに高いためである。比較例4の透湿度が高い理由は、電子ビーム蒸着法にて形成した乾式光学調整層の透湿度が高いためである。
【0095】
[最大熱収縮率]
表1に記載した最大熱収縮率は、透明導電性フィルムおよび保護フィルムを140℃、90分加熱したときの、それぞれの主面内での最大熱収縮率(%)である。実施例1〜4、比較例1〜4においては、透明導電性フィルムおよび保護フィルムのいずれも最大熱収縮率の値がプラスである(熱収縮している)ため、表1の数値は、各例の最大熱収縮率の絶対値と同値である。本発明では、透明導電性フィルムの最大熱収縮率(絶対値)と保護フィルムの最大熱収縮率(絶対値)の大小関係とその差の大きさが重要である。透明導電性フィルムの最大熱収縮率の絶対値は保護フィルムの最大熱収縮率の絶対値より小さく、その差は0.05%〜0.6%の必要がある。実施例1〜4はこの条件を満たす。
【0096】
[カール]
表1に記載したカールの値は、保護フィルム付き透明導電性フィルムのシートを熱処理炉内で140℃、90分加熱し、熱処理炉から出した直後、室温(温度25℃、相対湿度55%)雰囲気中で30分放置した時点、室温で1時間放置した時点、室温で4時間放置した時点で、それぞれ測定したものである。実施例1〜4及び比較例4は、いずれもカールの値がマイナスである。比較例1〜3は、いずれもカールの値がプラスである。熱処理炉から出した直後は、透明導電性フィルムおよび保護フィルムのどちらもまだ空気中の水分を吸水していない。
【0097】
実施例1〜4において、カールの値は全ての測定時間でマイナスであり、カールの絶対値は加熱直後(熱処理炉から出した直後)が最も大きく、時間が経過するにつれて小さくなる。実施例1〜4のいずれにおいても、加熱直後から4時間後までの全暴露時間において、カールの絶対値の大きさは15mm(サンプルの最大長(対角線)の2.1%)以下である。なお、実施例1〜4を比較すると、透明導電性フィルムと保護フィルムの最大熱収縮率の差が大きくなると、全ての測定時間でカールの絶対値が大きくなる傾向がある。しかし、いずれも実用上問題となるような大きさのカールではない。
【0098】
比較例1、2において、カールの値は全ての測定時間においてプラスであり、カールの絶対値は加熱直後が最も小さく、時間が経過するにつれて大きくなる。比較例1は透明導電性フィルムの方が保護フィルムより最大熱収縮率が小さいが、その差が小さすぎるため(0.05%未満)、保護フィルムの吸水膨張を最大熱収縮率の差で打ち消すことができない。そのため時間の経過とともにカールが大きくなる傾向がある。比較例1、2においては、加熱直後はカールが15mm以下であるが、1時間後、4時間後には15mm(サンプルの最大長(対角線)の2.1%)を超えている。
【0099】
比較例2は透明導電性フィルムの方が保護フィルムより最大熱収縮率が大きいため、最大熱収縮率の差により保護フィルムの吸水膨張が更に拡大される。そのため時間の経過とともにカールが大きくなる傾向がある。当然のことながら比較例2のカールの大きさは比較例1より大きい。
【0100】
比較例3は湿式光学調整層が用いられているため参考例であるが、透明導電性フィルムと保護フィルムで最大熱収縮率の差がほとんどないように設計されている。乾式光学調整層に比べて透湿度が桁違いに高い湿式光学調整層を用いているため、透明導電性フィルムと保護フィルムの吸水膨張の差が小さい。その結果、カールの大きさは小さく、時間の経過とともに吸水膨張が進行してもほとんど変化しない。
【0101】
比較例4は、カールの値は全ての測定時間でマイナスであり、カールの絶対値は、時間の経過でほとんど変化しない。比較例4の乾式光学調整層は、実施例1〜4、比較例1、2の乾式光学調整層と比して、透湿度が桁違いに大きい。そのため、比較例3と同様、透明導電性フィルムと保護フィルムの吸水膨張の差が小さい。その結果、時間の経過とともに吸水膨張が進行してもカールの変化は小さい。
【0102】
なお、表1には記載しないが、実施例1、比較例1の保護フィルム付き透明導電性フィルムを10cmX10cmに切り出し、実施例1〜4、比較例1〜4と同様にしてカールを評価した結果、実施例1のカールの絶対値は加熱直後が最も大きく(カールの値は−4mm)、比較例1のカールの絶対値は4時間後が最も大きい(カールの値は8mm)結果となった。即ち、実施例、比較例いずれの場合であっても、カール値の絶対値は低水準(15mm以下)となった。
【0103】
これは、従来の小面積でのカール測定では、本発明形態の保護フィルム付き透明導電性フィルムを大面積で使用する際に問題となるようなカールは検知し難いことを意味しており、大面積でのカールの絶対値が小さく、かつ、耐擦傷性に優れる保護フィルム付き透明導電性フィルムの技術的設計は、従来の技術的常識の範疇では不可能であったと言える。
【0104】
[耐擦傷性]
実施例1〜4および比較例1、2は、透湿度が十分に低く、膜密度が高い乾式光学調整層(スパッタリング法で形成された厚さ20nmのケイ素酸化物層)を備えているため、擦傷性試験を実施した後であっても、抵抗値の変化が小さく(R20/R0=1.1以下)、耐擦傷性は良好であった。
【0105】
比較例3は、透湿度が高く、膜密度の低い光学調整層(塗工法で形成された厚さ35nmの熱硬化樹脂層)を有しているため、擦傷性試験により抵抗値が大きく変化(R20/R0=1.9)し、耐擦傷性が不十分であることが示された。
【0106】
比較例4は、透湿度が高く、膜密度の低い乾式光学調整層を備えているため、擦傷性試験により抵抗値が大きく変化(R20/R0=1.8)し、耐擦傷性が不十分であることが示された。
【0107】
[光学調整層内の不純物原子(炭素原子)の存在領域の有無]
実施例1〜4および比較例1、2における、光学調整層12(スパッタリング法で形成された厚さ20nmのケイ素酸化物層)には、炭素原子が0.2atomic%以下の領域が、厚さ方向に少なくとも50%以上あることをX線光電子分光法にて確認した。比較例3における、湿式光学調整層22(塗工法で形成された厚さ35nmの熱硬化樹脂層)及び比較例4における、光学調整層12(電子ビーム蒸着法で形成された厚さ8nmのSiO
2層)には、炭素原子が0.2atomic%以下の領域がないことをX線光電子分光法にて確認した。
【0108】
[測定方法]
[最大熱収縮率]
まず、保護フィルム付き透明導電性フィルムを、透明導電性フィルムと保護フィルム(粘着層付き)とに分離した。次に、透明導電性フィルム及び保護フィルムのそれぞれについて、流れ方向(MD : Machine Direction)に10cm(L1)、その直交方向(垂直方向(TD : Transverse Direction))に10cmの正方形にサンプリングし、これを140℃、90分の条件で加熱した。加熱後の最大熱収縮方向(実施例1〜4、比較例1〜4ではMD方向)のサンプル長さ(L2)を測定し、「最大熱収縮率(%)={(L1−L2)/L1}X100」という式に従って最大熱収縮率を算出した。
【0109】
[カール]
カールの測定は、保護フィルム付き透明導電性フィルムから切り出した正方形のシート(50cmX50cm)を、140℃、90分加熱した後、定盤に載せ、正方形の四頂点の高さ(カールの実測値)を測定し、それらの実測値の平均値を算出してカールの値とした。
【0110】
[光学調整層の透湿度]
実施例1〜4、比較例1、2、4では、透明導電性フィルム(保護フィルムは備えていない)の非晶質透明導電層(加熱処理前の透明導電層)を、20℃の塩酸(濃度:10重量%)に2分間浸漬することでエッチング除去し、光学調整層付きフィルム基材とした(ハードコート層も含まれている)。その後、通称モコン法によって、光学調整層付きフィルム基材の透湿度を測定し、その測定値を光学調整層の透湿度とした。具体的には、試験装置「PERMATRAN W3/33(MOCON社製)」を用いて、JIS K7129:2008に準じ、40℃、相対湿度90%の雰囲気下で、透湿度測定を実施した。
【0111】
比較例3については、湿式光学調整層の透湿度が厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)基材(透湿度6g/m
2・day)よりも高いため、湿式光学調整層付フィルムとして透湿度を評価しても、その値はポリエチレンテレフタレートフィルム基材の透湿度の値となってしまい、湿式光学調整層の透湿度は測定できない。
【0112】
本明細書では、本実施例の酸化ケイ素層及びフィルム基材に対して、湿式光学調整層の透湿度が、どの程度の水準であるかを確認するために、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート基材よりも、より透湿度が高い薄型ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ23μm、透湿度25g/m
2・day)を用意した。薄型ポリエチレンテレフタレートフィルムの上に、比較例3と同一の材料及び塗布条件で厚さ0.3μmのハードコート層と厚さ35nmの湿式光学調整層を形成し、湿式光学調整層付薄型PETフィルムとして、実施例1〜3、比較例1,2と同様の方法にて透湿度を評価した。
【0113】
その結果、湿式光学調整層付薄型PETフィルムの透湿度は25g/m
2・dayとなり、湿式光学調整層の透湿度は薄型ポリエチレンテレフタレートフィルムの透湿度よりも高いことが判明した。このため、正確な湿式光学調整層の透湿度は測定できていないが、その数値は25g/m
2・day以上であることが判明したため、25g/m
2・day以上とした。
【0114】
比較例4においては、比較例3と同様、乾式光学調整層の透湿度が、フィルム基材11(100μmのPET基材)の透湿度と同等(透湿度6g/m
2・day)となり、厳密な透湿度の測定はできなかった。そのため、比較例4の乾式光学調整層の透湿度は、6g/m
2・day以上とした。
【0115】
なお、参考として、比較例4の乾式光学調整層の厚みを30nmとしたSiO
2膜を、フィルム基材11(100μmのPET基材)に積層した真空蒸着膜付きPET基材を作成し、透湿度を測定した。その結果、乾式光学調整層の厚みを、実施例1〜4の1.5倍の厚みとなる30nmとしても、乾式光学調整層の透湿度は、100μmのPET基材の透湿度と同等(透湿度6g/m
2・day)となった。このことから、比較例4が備える乾式光学調整層は、実施例1〜4、比較例1、2に示すスパッタリング膜からなる乾式光学調整層よりも明らかに透湿度が大きいことがわかる。
【0116】
また、140℃、90分加熱し、透明導電層を結晶化した比較例3の透明導電性フィルム(保護フィルムは備えていない)に関し、透湿度評価を行った結果、1.2g/m
2・dayであった。100μmのPET基材の透湿度は6g/m
2・dayであり、比較例3の湿式光学調整層の透湿度は、25g/m
2・day以上であるから、この数値は、実質的に透明導電層の透湿度である。
【0117】
実施例1〜4、比較例1、2の乾式光学調整層の透湿度と、透明導電層の透湿度及びフィルム基材11の透湿度を比較すると、実施例1〜4、比較例1、2の乾式光学調整層の透湿度は、透明導電性フィルム15を構成する層の中で、最も低いことがわかる。
【0118】
[光学調整層内の不純物原子(炭素原子)の存在領域の評価]
光学調整層内の不純物原子(炭素原子)の厚さ方向の存在領域の評価は、測定装置Quantum2000(アルバック・ファイ社製)を用いて、X線光電子分光法(通称ESCA法)により行った。具体的には、保護フィルム付き透明導電性フィルムの、透明導電層の側からフィルム基材方向に向かって、Arイオンでエッチングしながら、In、Si、O、C原子に関するデプスプロファイル測定を行い、SiO
2換算で1nmごとの、前記4元素の元素比率(atomic%)を算出した。光学調整層内の不純物原子(炭素原子)の厚さ方向の存在領域は、デプスプロファイルで測定したSiO
2層の膜厚T
1と、炭素原子が検出された領域の厚みT
2より、式(T
2/T
1)X100(%)で求め、これをもとにして、炭素原子が0.2atomic%以下の領域を、式「100−(T
2/T
1)X100」(%)により算出した。
【0119】
以下にSiO
2層の膜厚T
1の求め方を説明する。
図7はSiO
2換算で1nmごとに測定した、前記4元素のデプスプロファイルである。横軸は厚さ方向(nm)を示し、縦軸は元素比率(atomic%)を示す。
図7において、左端が透明導電層側(表面側)、右端がハードコート層側である。ESCAは分析の特質上、デプスプロファイルが裾野を引く形状となるが、SiO
2の膜厚T
1は、Siの元素比率の最大値に対して、それぞれ表面側およびフィルム基材側で半減した位置をSiO
2層の最表部、最深部とし、その間の厚みをSiO
2層の膜厚T
1とした。
【0120】
そのようにして求めた膜厚T
1のうち、不純物原子としてC原子が検出された領域の厚みT
2を算出し、不純物原子の存在領域(T
2/T
1)X100(%)を求めた。
【0121】
[耐擦傷性]
140℃、90分間加熱した保護フィルム付き透明導電性フィルムを5cmX11cmの長方形で切り出し、長辺側の両端部5mm部分に銀ペーストを塗着して、48時間自然乾燥させた。次に、保護フィルム付き透明導電性フィルムの保護フィルムを剥がし、透明導電性フィルムの、透明導電層とは反対の側を、粘着剤付ガラス板に貼付し、擦傷性評価用サンプルを得た。10連式ペン試験機(エム・ティー・エム社製)を用いて、擦傷性評価用サンプルの短辺側における中央位置(2.5cm位置)で、下記条件にて、長辺方向に10cmの長さで擦傷性評価用サンプルの透明導電層表面を擦った。擦る前の擦傷性評価用サンプルの抵抗値(R0)と、擦った後の擦傷性評価用サンプルの抵抗値(R20)とを、擦傷性評価用サンプルの長辺側における中央位置(5.5cm位置)で、両端部の銀ペースト部にテスターをあてることで測定し、抵抗変化率(R20/R0)を求めることで耐擦傷性を評価した。抵抗変化率が1.5以下であった場合を「○」、1.5を超えた場合を「X」として評価した。
・擦傷子:アンティコンゴールド(コンテック社製)
・荷重:127g/cm2
・擦傷速度:13cm/秒(7.8m/分)
・擦傷回数:20回(往復10回)
【0122】
[各構成の厚み]
フィルム基材及び保護フィルムの厚みは、膜厚計(尾崎製作所(Peacock(登録商標))社製、装置名「デジタルダイアルゲージ DG−205」)を用いて測定した。また、ハードコート層、光学調整層、透明導電層の厚みは、透過型電子顕微鏡(日立製作所製、装置名「H−7650」)により断面観察して測定した。