(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873325
(24)【登録日】2021年4月22日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】自動車用内装トリム
(51)【国際特許分類】
B60R 13/02 20060101AFI20210510BHJP
B60R 21/213 20110101ALI20210510BHJP
B60R 21/2165 20110101ALI20210510BHJP
【FI】
B60R13/02 B
B60R21/213
B60R21/2165
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-522418(P2020-522418)
(86)(22)【出願日】2018年5月29日
(86)【国際出願番号】JP2018020482
(87)【国際公開番号】WO2019229831
(87)【国際公開日】20191205
【審査請求日】2020年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000124454
【氏名又は名称】河西工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100069431
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 成則
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 智也
【審査官】
宮地 将斗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−285060(JP,A)
【文献】
特開2012−153196(JP,A)
【文献】
特開平9−76794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/02
B60R 21/213
B60R 21/2165
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所要形状に成形された樹脂芯材と、
前記樹脂芯材の表面に貼付された表皮材と、
前記樹脂芯材の幅方向に沿って該樹脂芯材の裏面に設けた複数の補強リブと、
前記樹脂芯材の裏面側でサイドエアーバックが展開したときに、その展開の力によって前記樹脂芯材の端末部が破断できるようにするための該破断の基点を前記樹脂芯材の端末部に設定する手段として、前記補強リブの上端面に形成された凹部と、を備え、
前記樹脂芯材の破断の基点に隣接する前記表皮材の端末部にスリットを形成したこと
を特徴とする自動車用内装トリム。
【請求項2】
前記スリットは、そのスリット始点からスリット終点までの範囲が線状の形態になっていること
を特徴とする請求項1に記載の自動車用内装トリム。
【請求項3】
前記スリットは、そのスリット始点からスリット終点までの範囲に、幅の広いスリット幅広部と幅の狭いスリット幅狭部とを備えた構成になっていること
を特徴とする請求項1に記載の自動車用内装トリム。
【請求項4】
前記スリット幅広部は、前記スリット終点から前記スリット始点の方向に向けてテーパー状に拡がるように形成されていること
を特徴とする請求項3に記載の自動車用内装トリム。
【請求項5】
前記スリット幅広部は、円弧状に形成されていること
を特徴とする請求項3に記載の自動車用内装トリム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体フレーム構成部品として周知のフロントピラーまたはリヤピラーの内面に取付けられる自動車用内装トリムに関し、特に、サイドサイドエアーバックを安定に展開可能とするのに好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体フレーム構成部品として周知のフロントピラーやリヤピラーの内面側(車内側に位置する面)には自動車用内装トリムとしてピラーガーニッシュが取付けられている。また、このようなフロント側、リヤ側のピラーガーニッシュを自動車の天井付近で連結している車体フレーム構成部品としてサイドレールが知られており、サイドレールの内面側にも自動車用内装トリムとしてサイドレールガーニッシュが取付けられている。
【0003】
サイドレールガーニッシュの裏面側にはサイドエアーバックが折り畳まれた形態やロール状に巻かれた形態で展開可能に設置される場合がある。この場合は、そのサイドエアーバックを膨張によって展開するためのガスを発生させる手段として、リヤ側のピラーガーニッシュの裏面側にインフレータが設けられる。
【0004】
運転者の側頭部を衝撃から保護する手段として、例えば、特許文献1に記載されているように、サイドエアーバック(3a)の前方部分は、フロント側のピラーガーニッシュ(4a)の上部裏面付近まで延長されている。そして、サイドエアーバックが展開する力でフロント側のピラーガーニッシュ(4A)の上部付近が破断できるように設定する手段として、特許文献1のピラーガーニッシュ(4A)では、これを構成する樹脂芯材(5)の上部裏面側に、破断の基点を構成し得る凹部(6a)を形成している。
【0005】
ところで、特許文献1のピラーガーニッシュ(4A)のような従来の自動車用内装トリムは、樹脂芯材の表面に表皮材を貼付した構造になっている。しかしながら、その表皮材には、前述した凹部(6a)のような破断の基点を構成し得るものがなく、破断の基点が存在しない。このため、従来の自動車用内装トリムにあっては、サイドエアーバックの展開する力による破断が生じ難く、サイドエアーバックを安定に展開することができないという問題点がある。
【0006】
なお、前記カッコ内の符号は特許文献1で用いられている符号である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2010−173386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、サイドエアーバックを安定に展開可能とするのに好適な自動車用内装トリムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、所要形状に成形された樹脂芯材と、前記樹脂芯材の表面に貼付された表皮材と、前記樹脂芯材の幅方向に沿って該樹脂芯材の裏面に設けた複数の補強リブと、前記樹脂芯材の裏面側でサイドエアーバックが展開したときに、その展開の力によって前記樹脂芯材の端末部が破断できるようにするための該破断の基点を前記樹脂芯材の端末部に設定する手段として、前記補強リブの上端面に形成された凹部と、を備え、前記樹脂芯材の破断の基点に隣接する前記表皮材の端末部にスリットを形成したことを特徴とする。
【0010】
前記本発明において、前記スリットは、そのスリット始点からスリット終点までの範囲が線状の形態になっていることを特徴としてもよい。
【0011】
前記本発明において、前記スリットは、そのスリット始点からスリット終点までの範囲に、幅の広いスリット幅広部と幅の狭いスリット幅狭部とを備えた構成になっていることを特徴としてもよい。
【0012】
前記本発明において、前記スリット幅広部は、前記スリット終点から前記スリット始点の方向に向けてテーパー状に拡がるように形成されていることを特徴としてもよい。
【0013】
前記本発明において、前記スリット幅広部は、円弧状に形成されていることを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、自動車用内装トリムの具体的な構成として、前述の通り、樹脂芯材の破断の基点に隣接する表皮材の端末部にスリットを形成した。このため、サイドエアーバック展開の力によって樹脂芯材の端末部が破断する際、その破断に追従して表皮材がスリットを基点に割れるので、従来のようにサイドエアーバックの展開時において表皮材が樹脂芯材の端末部の破断を妨げることはなく、サイドエアーバックを安定に展開可能とするのに好適な自動車用内装トリムを提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態である自動車用内装トリム(フロントピラーガーニッシュ)の裏面模式斜視図。
【
図3】
図1の自動車用内装トリムを構成する表皮材(貼付前の状態)の裏面図。
【
図4】
図1の自動車用内装トリムをフロントピラーに取付けた状態の説明図。
【
図5】
図1に示したスリット(
図3参照)の改良形(貼付前の状態)の説明図。
【
図6】
図5に示したスリットの第1変形例(貼付前の状態)の説明図。
【
図7】
図5に示したスリットの第2変形例(貼付前の状態)の説明図。
【
図8】
図5に示したスリットの第3変形例(貼付前の状態)の説明図。
【
図9】
図5に示したスリットの変形例(貼付前の状態)の説明図。
【
図10】
図6に示したスリットの変形例(貼付前の状態)の説明図。
【
図11】
図7に示したスリットの変形例(貼付前の状態)の説明図。
【
図12】
図8に示したスリットの変形例(貼付前の状態)の説明図。
【
図13】
図1に示したスリット(
図3参照)の第4変形例(貼付前の状態)の説明図。
【
図14】
図1に示したスリット(
図3参照)の第5変形例(貼付前の状態)の説明図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明を適用した自動車用内装トリム(フロントピラーガーニッシュ)の裏面模式斜視図、
図2は、
図1のA矢視断面図、
図3は、
図1の自動車用内装トリムを構成する表皮材(貼付前の状態)の裏面図、
図4は、
図1の自動車用内装トリムをフロントピラーに取付けた状態の説明図である。
【0018】
図1および
図2を参照すると、本実施形態の自動車用内装トリム1は、自動車の車体フレーム構成部品として周知のフロントピラー(図示省略)の内面に取付けられるフロントピラーガーニッシュとして使用されるものであり、その基本的な構成部材として、フロントピラーの形状に対応して所要形状に成形された樹脂芯材2と、樹脂芯材2の表面に貼付された表皮材3とを具備する構造になっている。この構造において、貼付された表皮材3の端末部3Aは
図2のように樹脂芯材2の裏面側に折られることで表面側に露出しないように設定されている。
【0019】
樹脂芯材2と表皮材3はいずれも樹脂で形成されているので、樹脂芯材2に対する表皮材3の貼付方式として、本実施形態の自動車用内装トリム1では、超音波等での加熱溶融によって表皮材3と樹脂芯材2とを複数箇所でスポット的に溶着している。
【0020】
樹脂芯材2の裏面には図示しないクリップ等の固定手段が設けられており、かかる固定手段によって本実施形態の自動車用内装トリム1はフロントピラーの内面に取付けられるように構成されている。
【0021】
また、
図4を参照すると、本実施形態の自動車用内装トリム1(フロントピラーガーニッシュ)は、フロントピラーの内面に取付けた状態で、別の自動車用内装トリム(具体的には、自動車内のフロント天井付近からリヤ天井付近に向けて延在するサイドレールガーニッシュ100)に連結される。
【0022】
サイドレールガーニッシュ100の裏面側には周知のエアバッグ装置101が設けられている。このエアバッグ装置101は、折り畳まれた状態のサイドエアーバック101Aと、サイドエアーバック101Aを膨張によって展開するためのガスを発生させるインフレータ101Bと、を備えている。
【0023】
運転者の側頭部を衝撃から保護する手段として、サイドエアーバック101Aの前方部分は、
図4に示したように、本実施形態の自動車用内装トリム1(フロントピラーガーニッシュ)の上部裏面付近まで延長されている。したがって、本実施形態の自動車用内装トリム1の裏面側(具体的には、樹脂芯材2の裏面側)でもサイドエアーバック101Aは展開する。
【0024】
自動車用内装トリム1全体の強度向上を図る手段として、本実施形態の自動車用内装トリム1では、
図1および
図2に示したように、樹脂芯材2の幅方向に沿って樹脂芯材2の裏面に複数の補強リブ4を設けている。この種の補強リブ4の個数、形状、配置間隔などは必要に応じて適宜変更することができる。
【0025】
樹脂芯材1の裏面側でサイドエアーバック101Aが展開したときに、その展開の力によって樹脂芯材2の端末部2Aが破断できるようにするための該破断の基点BPを樹脂芯材2の端末部2Aに設定する手段として、本実施形態の自動車用内装トリム1では、補強リブ4の上端面に凹部5を形成している。
【0026】
破断の基点BPから図中点線で示す設計上の破断予定線BLに沿って樹脂芯材2を破断させるために、本実施形態の自動車用内装トリム1では、連続する複数の補強リブ4に一つずつ凹部5を設けているが、これに限定されることはない。どの補強リブ4に凹部5を何個設けるのか、この点については破断予定線BLを考慮しつつ必要に応じて適宜変更することができる。
【0027】
サイドエアーバック101Aの展開時において表皮材3が樹脂芯材2の端末部2Aの破断を妨げないようにする手段として、本実施形態の自動車用内装トリム1では、樹脂芯材2の破断の基点BPに隣接する表皮材3の端末部3Aに、スリット6を形成している(
図3参照)。つまり、サイドエアーバックの展開する力によって樹脂芯材2が基点BPから破断する際、表皮材2はその破断に追従してスリット6を基点に割れ若しくは裂けるように設定されている。
【0028】
スリット6の左右両縁部が捲り上がることを防止する手段として、本実施形態の自動車用内装トリム1では、先に説明したように表皮材3と樹脂芯材2とを複数箇所でスポット的に溶着する際に、スリット6の左右両縁部も同様にスポット的に溶着している。この溶着のポイントは図中符号WPで示されている。
【0029】
《スリット6の詳細》
図3を参照すると、
図1に示されたスリット6は、スリット始点SSからスリット終点SEまでの範囲が線状の形態になっている。この形態(以下「基本形」という)のスリット6では、そのスリット6左右両縁部と樹脂芯材2との溶着のポイント(以下「スリット左右両縁部の溶着ポイントWP」という)が樹脂芯材2の破断予定線BLに最も接近した状態となるように設定できるので、破断予定線BLに沿って樹脂芯材2が破断するときに、スリット6を基点として迅速に表皮材3の割れが生じる、要するに、樹脂芯材2の破断に対する表皮材2の割れ反応(以下「割れレスポンス」という)が良いという利点がある。この反面、基本形のスリット6は、そのスリット6全長の範囲でスリット6左右両縁部が近接しているので、スリット6左右両縁部を溶着する際に、スリット6を目視で確認し難く、スリット6を探す手間がかかる等、溶着の作業をスムーズに行うことができない場合もある。
【0030】
図5は、
図1に示したスリット(
図3参照)の改良形の説明図、
図6は、
図5に示したスリットの第1変形例の説明図、
図7は、
図5に示したスリットの第2変形例の説明図であり、
図8は、
図5に示したスリットの第3変形例の説明図である。
【0031】
図5のスリット6は、スリット始点SS付近から所定長の範囲で部分的にスリット6の幅を拡げた形態になっている。つまり、この形態(以下「改良形」という)のスリット6は、スリット始点SSからスリット終点SEまでの範囲に、幅の広いスリット幅広部61と幅の狭いスリット幅狭部62とを備えた構成になっている。このような改良形のスリット6は、スリット6左右両縁部を溶着する際に、スリット幅広部61を目視で確認し易いので、先に説明した基本形のスリット6(
図1、
図3参照)に比べて、スリット6を見つけ易く、溶着の作業をスムーズに行うことができる。また、樹脂芯材2の破断予定線BLに対して比較的近い位置にスリット6左右両縁部の溶着ポイントWPを設定できるので、表皮材2の割れレスポンスもよい。
【0032】
図6のスリット6は、
図5に示したスリット6の第1変形例として、スリット終点SEからスリット始点SSの方向に向けてスリット幅広部61がテーパー状に拡がるように形成することで、目視によるスリット幅広部61の確認容易性を高め、より一層スリット6を見つけ易くなるように設定したものである。
【0033】
図7のスリット6は、
図5に示したスリット6の第2変形例として、スリット幅広部61を円弧状に形成したものであり、このような第2変形例もまた先に説明した第1変形例と同じく、より一層スリット6を見つけ易くなっている。この第2変形例もまた、樹脂芯材2の破断予定線BLに対して比較的近い位置にスリット左右両縁部の溶着ポイントWPを設定できるので、表皮材2の割れレスポンスもよい。
【0034】
図8のスリット6は、
図5に示したスリット6の第3変形例として、スリット幅広部61を更に幅広く設定したものである。この第3変形例は、
図5に示したスリット6に比べて、より一層スリット6を見つけ易くなるという利点がある。この反面、この第3変形例は、スリット左右両縁部の溶着ポイントWPが樹脂芯材2の破断予定線BLから比較的遠く離れてしまうため、表皮材2の割れレスポンスは低下する傾向になる。
【0035】
図9は、
図5に示したスリットの変形例であり、
図10は、
図6に示したスリットの変形例、
図11は
図7に示したスリット6の変形例、
図12は
図8に示したスリット6の変形例である。
【0036】
図5から
図8に示したスリット6では、スリット幅広部61とスリット幅狭部62の長さの比率を1:1に設定する等、その比率を略同一に設定しているが、
図9から12に示した変形例のスリット6では、いずれも、その比率を1:3に変更する等、スリット幅広部61よりもスリット幅狭部62の方が長くなるように設定してある。この場合、表皮材2の割れレスポンスは比較的高まる反面、スリット6の見つけ易さは低下する。なお、
図5から
図8に示したスリット6と
図9から12に示した変形例のスリット6とにおける構成上の相違は前述の比率のみであり、それ以外の構成は同一であるため、その詳細説明は省略する。
【0037】
図13は、
図1に示したスリット(
図3参照)の第4変形例の説明図、
図14は、
図1に示したスリット(
図3参照)の第5変形例の説明図である。
【0038】
図1に示した基本形のスリット6は、例えば、
図13に示したようにV字形状に形成することも可能であるが、このようなV字形状のスリット6はV字の先端が尖っているので型抜きが難しいという成形上の問題がある。この問題を解決する方法として、
図14に示したスリット6のようにV字形状の先端を円弧形状とする方法が考えられるが、円弧形状は表皮材2の割れの基点として好ましくない。
【0039】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により多くの変形が可能である。
【0040】
例えば、本発明は、自動車用内装トリムとして周知のリアピラーガーニッシュに適用してもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 自動車用内装トリム
2 樹脂芯材
2A 樹脂芯材の端末部
3 表皮材
3A 表皮材の端末部
4 補強リブ
5 凹部
6 スリット
61 スリット幅広部
62 スリット幅狭部
100 サイドレールガーニッシュ
101 エアバッグ装置
101A サイドエアーバック
101B インフレータ
BL 破断予定線
BP 樹脂芯材の破断の基点
SS スリット始点
SE スリット終点