【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の構成を説明する前に、その創案に至った経緯からまず先に、その開発の「切っ掛け」となった新たな構成(以下切掛構成と言う)について説明する。但し、この以下に示す構成はあくまで本発明構成を創案する「切っ掛け」となったのもので、この構成によって、本発明の全ての前提構成とするものではない。
【0014】
現在の保険会社は、一般的に基幹システムのすべてを自社で運営しているが、上記切掛構成では、
図7に示すように、「顧客情報」に関わる機能および金銭の「請求・収納」に関わる機能などの事業会社間で共有可能な情報は、「顧客層」・「ビリング層」に分けて疎結合化して構築する(顧客層には顧客の情報を、又ビリング層には保険料請求・収納状況を手数料支払い状況と共に管理する)。
【0015】
さらに、ビジネス取引が無ければ存在し得ず、かつ異なる事業会社間でも共通性の高い契約番号、サービス期間などの情報やペイメント情報などを「エンゲージメント層」として定義する(図中エンゲージメント情報に、上記契約(証券)番号や保険期間等のつながり情報が格納され、またペイメント情報に顧客の支払い手段情報、口座・クレジットカード情報などが格納される)。このような構成により、エンゲージメント層により、事業者は顧客エンゲージメントを基準化して事業会社間を跨って把握することが可能となり、顧客情報を合理的に管理・活用することができる。
【0016】
さらに、事業固有のサービスにかかるシステムやデータベースは、「サービス層」に構築する(このサービス情報に、保険の対象、補償、保険料、手数料などの情報が格納される。他にこの層には保険金支払い管理情報がエンゲージメント層とビリング層に紐付けられている)。
【0017】
これらの構成は、1乃至複数のサーバで構成されたり、クラウド側に構築されても良い。重要なことは、これまでのメインフレーム中心のブラックボックス化したレガシーシステムの状態から、どの種の事業サービスにも共通な機能と、特定の事業サービスに必須な機能とを分け、前者は一つ構築してしまえば共通に使え、後者のみ特定の事業サービス用に開発すれば良くなる。即ち、このような構成によってグループ企業全体でのシステム規模を圧縮するのが狙いである。
【0018】
以上の様な「切掛構成」は、保険などに限らず、様々なサービスに適応可能なアイデアであり、以下に説明する本発明の構成は、上記特定のサービスに必須な機能を、具体化して規定するものである。上述のように、本発明は、この切掛構成を元に創案されたものであるが、限定された機能を取り出して開発されたもの故、取り出し後の該構成は、上記のような切掛構成に限定されることはない。
【0019】
以上の様な考え方を元に、本発明の構成を説明する。
まず、本発明の基本となる構成について説明する。
即ち、1つ目の本発明に係るデータ管理装置の構成は、後述する
図8に示されるように、
サービス利用に係るイベントの内容及び結果と、
少なくともオープン又はクローズのステータスとを保持するデータ群であり、そのデータ群をスライス型データとして記憶する第1の記憶手段1と、
そのデータ内容に異動が生じた時は、異動前のスライス型データのステータスをクローズし、異動後のスライス型データのステータスをオープンして追加する処理手段2と
を有するデータ管理装置であって、
一つの契約の情報は、上記スライス型データの集合体で表現されることを基本的特徴としている。
【0020】
この構成は、上述のように、取り出されて開発された限定機能に必須な構成について規定したもので、
図1は、上記スライス型データが、処理手段2によりどのように処理されるのかを模したデータ処理説明図である。
【0021】
これを仮に保険契約用に使用した場合について説明する(尚、保険契約だけに適用されるものでないことは始めに述べておく)。
【0022】
ここで、円筒型に示したものがスライス型データのイメージである。そして新規の保険契約があると、処理手段2は、該保険契約を最初のイベント1として、保険内容001のスライスを新規に生成し、そのステータスをオープンとする。
【0023】
次にその契約に対し、上記異動イベント2が発生したとすると、上記処理手段2は、上記保険内容001のスライスのステータスをクローズ(中止)に変更すると共に、該異動イベント2を反映する新保険内容002のスライスを生成し、該スライスのステータスをオープンする。ここでの保険内容002は、最初に契約された保険内容001に上記異動イベント2の内容が反映されたものである。
【0024】
さらに、別の異動イベント3が発生したとすると、上記処理手段2は、上記保険内容002のスライスのステータスをクローズ(中止)に変更すると共に、該異動イベント3を反映する新保険内容003のスライスを生成し、該スライスのステータスをオープンする。ここでの保険内容003は、保険内容002に上記異動イベント3の内容が反映されたものである。
【0025】
以下新たな異動イベントが生じる度に上記処理手段2は、スライス型データを上述のように処理し、新たな保険内容のスライスが追加されていくことになる。
【0026】
このように、本発明の構成では、新規保険契約も異動も全てイベントとして上記処理手段2によって処理され、スライス型データが生成され、且つそれらのスライス型データの
ステータスとして、少なくともオープン及びクローズに相当する処理がなされて、スライス型データの集合体として表現されることになる。
ここで、スライス型データとは、どのようなものかを詳述する。該スライス型データとは、上述のように、新規保険契約も異動も全てイベントとして上記処理手段2によって処理されて生成され、且つそれらのデータのステータスとして、少なくともオープン及びクローズに相当する処理がなされて(後述するように、ステータスにインバリッドのステータスを含むようにすることもできる)、該データの集合体として表現されることになる。さらに、有効開始日時を示すfrom情報と有効終了日時を示すto情報が該データに含まれており、同一エンティティのスライス型データは、少なくとも新規や異動のどの時点でも全て同一データ構造であり、同一の第1の記憶手段1に格納されて、同一のアプリケーション・インターフェースで処理が可能であることが特徴となる。そのため、異動のデータを、異動後の内容が反映された新規データ相当として取り扱うことができ、また複数の異動を同時に行う場合は、すべての異動を反映した新規データ相当として取り扱うことにより、複数の異動内容を1つの履歴にまとめて処理することができる。またデータの照会時にもこのfrom情報とto情報を検索することで直ぐにでき、わざわざデータ合成処理を行う必要がなくなるという性質を有する。
【0027】
この構成を従来技術として示した差分履歴型契約データモデルの場合と比較してみると、
図10に示される差分履歴型契約データモデルでは、複数の異動内容を1つの履歴にまとめて処理することができないため、有効開始日時(from)のみを保持し、同一日時の複数の履歴を重ねるのが一般的である。それに対し、本構成では、
図1、上記[0026]の説明及び後述する説明([0034][0035][0083][0085]に記載する説明)に示すように、有効開始日時(from)と有効終了日時(to)を保持し、複数の異動内容を1つの履歴にまとめて処理することができることになる。即ち、異動のデータを、異動後の内容が反映された新規データ相当として取り扱うことができ、また複数の異動を同時に行う場合は、すべての異動を反映した新規データ相当として取り扱うことができるようになる。またデータの照会時にもわざわざデータ合成処理が必要ではなくなる。
【0028】
他方、本構成を従来技術として示したイベントヒストリ型契約データモデルの場合と比較してみると、
図11に示されるイベントヒストリ型契約データモデルでは、イベントヒストリデータベースと契約データベースに分かれており、データ構造も同一でないのが一般的である。これに対し、本構成では、データベース及びデータ構造が1つの構成で済み、保険会社が将来の保険金給付や解約返戻金支払い等に充てるために保険料や運用収益を財源として積み立てておく必要のある責任準備金や保険料を、異動内容毎に再計算し、データの妥当性、異動前後の整合性等を確保するシステム設計が別途必要になると言うことはない。データベースの簡略化と保険料などの再計算やデータの妥当性・整合性を検証する別途のシステムの開発が不要となる。
【0030】
本発明の2つ目の構成は、基本的に1つ目の発明の構成と同じであるが、さらに、原則的に同時に異動する必然性のないデータ項目の内容を、スライス型データの別エンティティに保持する構成のものである。
【0031】
即ち、この2つ目の構成は、
図2に示されるように、
サービス利用に係るイベントの内容及び結果と、
少なくともオープン又はクローズのステータスとを保持するデータ群であり、そのデータ群をスライス型データとして記憶する第1の記憶手段1と、
そのデータ内容に異動が生じた時は、異動前のスライス型データのステータスをクローズし、異動後のスライス型データのステータスをオープンして追加する処理手段2と
を有すると共に、
一つの契約の情報は、上記スライス型データの集合体で表現されるデータ管理装置であって、
上記スライス型データの別レイヤーに、サービスの提供における顧客との接点に関する情報を保持するエンゲージメント情報があり、その中には少なくともエンゲージメントID、エンゲージメント期間を含み、該エンゲージメント情報の異動は、そのエンゲージメント情報とは別レイヤーのスライス型データのステータスの変更を伴わないことを特徴としている。
【0032】
原則的に同時に異動する必然性のないデータ項目の内容とは、例えば保険期間等のエンゲージメント期間を、サービスの提供における顧客との接点に関する情報を保持するエンゲージメント情報として含むことを言い、これらの情報は上記スライス型データとは別レイヤーに備えられており、仮に上記保険期間に当たるエンゲージメント期間の異動を行う場合はエンゲージメント情報の異動により行われて、そのエンゲージメント情報とは別レイヤーのスライス型データのステータスの変更を伴わないものとするものである。
【0033】
上述した1つ目及び2つ目の発明の構成において、既に説明したとおり、上記スライス型データには、有効開始日時を示すfrom情報と、有効終了日時を示すto情報とを含んでいる。
【0034】
2つの発明の構成では、新規保険契約も異動も全てイベントとして上記処理手段2によって処理され、スライス型データが生成され、且つ
それらのデータのステータスとして、少なくともオープン及びクローズに相当する処理がなされて、スライス型データの集合体として表現されることになる。
上述のように、該スライス型データには、有効開始日時を示すfrom情報と有効終了日時を示すto情報が該データに含まれており、同一エンティティのスライス型データは、少なくとも新規や異動のどの時点でも全て同一データ構造であり、同一の第1の記憶手段1に格納されて、同一のアプリケーション・インターフェースで処理が可能であることが特徴となる。そのため、異動のデータを、異動後の内容が反映された新規データ相当として取り扱うことができ、また複数の異動を同時に行う場合は、すべての異動を反映した新規データ相当として取り扱うことにより、複数の異動内容を1つの履歴にまとめて処理することができる。またデータの照会時にもこのfrom情報とto情報を検索することで直ぐにでき、わざわざデータ合成処理を行う必要がなくなるという性質を有する。
【0035】
また、上述のように、スライス型データには、有効開始日時を示すfrom情報と有効終了日時を示すto情報を含んでいる
ので、同一エンティティのスライス型データは、少なくとも新規や異動のどの時点でも全て同一データ構造であり、同一の第1の記憶手段1に格納されて、同一のアプリケーション・インターフェースで処理が
可能である。
【0036】
現状の個人向けの金融商品の中では、保険商品は特に内容が複雑であるため、従来から一定の頻度で誤認や錯誤により、やむを得ない取り消し手続きが存在する。これまでは、代理店や営業職員など一定水準の資格を持つ人員を介して内容説明と手続きを行ってきたが、今後デジタル化が進み、または新型コロナウイルスの影響などで非接触型のビジネススタイルが指向され、顧客が直接手続きを行うケースが増えていった場合、消費者保護の観点から手続き取り消しのニーズは拡大する可能性がある。
【0037】
上述のように、上記2つの発明構成の場合、新規の保険契約や異動などのイベントが発生する毎に、処理手段は、新たな保険内容のスライスを新規に生成し、そのステータスをオープンとすると共に、その直前のスライスをクローズすることになる。こうした場合に、このイベント自身を取り消ししたい等の時(異動の取り消しをしたい場合)は、以上の構成のままでは簡単にその取り消しが出来ないことになる。
【0038】
そのため、本構成では、上記スライス型データのステータスとして少なくともオープン、クローズ及びインバリッドのステータスを含むものとするが、このような異動の取り消しを行う際は、上記スライス型データ取り消しするスライス型データのステータスをオープンからインバリッド(無効)とし、さらにその異動前のスライス型データのステータスをクローズからオープンにする必要があるが、この異動前のスライス型データのステータスがクローズされる際にはステータス以外にも精算保険料額などのデータ項目が同時に更新されている。このため、すべてのデータ項目内容を復元することができない。
【0039】
そのため本発明の上記構成に加えて、上記処理手段で、異動前のスライス型データのステータスをクローズし、異動後のスライス型データのステータスをオープンして追加する際に、上記
図9に示されるように、該処理手段2により、クローズ直前のスライス型データのイメージをバックアップとして記憶する第2の記憶手段3を有する構成を提案する。
【0040】
上記の3つ目の発明の構成を実際に稼働させるなら、
上記スライス型データのステータスとして少なくともオープン、クローズ及びインバリッドのステータスを含むものとし、異動後のスライス型データのステータスをオープンして追加した際に、そのステータスが取り消しになった場合、上記処理手段2により、該スライス型データのステータスをインバリッドとし、上記第2の記憶手段3に記憶された異動対象となってクローズされたスライス型データを、上記第1の記憶手段1に、そのステータスをオープンにして記憶させる復元処理が行われるようにする構成とする必要があり、このため、
図5に示されるように、異動前のスライス型データのステータスをクローズする際に、クローズ直前のスライス型データのイメージのバックアップを確保する必要があることから、上記第2の記憶手段3の構成を有することとした。
【0041】
原則として、クローズされたスライス型データおよびバックアップを取る第2の記憶手段3には「異動の取り消し」以外の更新は行われない。つまり、「異動の取り消し」が発生するまでデータの整合性が理論上確保されていることになる。このため、この状態が変化しない限り、第2の記憶手段3の実装方法には構造上の制約が無く、バックアップの圧縮要否やストレージの冗長化などの非機能的な要求に対する自由度が高い。
【発明の効果】
【0042】
本発明のデータ管理装置によれば、どの種の事業サービスにも共通な機能と、特定の事業サービスに必須な機能とを分け、前者は一つ構築して共通に使えるようにすると共に、後者のみ特定の事業サービス用に開発することが可能となり、これまでのメインフレーム中心のブラックボックス化したレガシーシステムの状態ではそれを作り直すのに手間暇の掛かるものが一気に解消できるようになって、グループ企業全体でのシステム規模を圧縮することが可能となるというと言う優れた効果を奏し得る。
【0043】
また、本発明の構成では、新規保険契約も異動も全てイベントとして上記処理手段によって処理され、スライス型データが生成され、且つそれらのスライス型データの
少なくともオープン及びクローズ処理がなされて、スライス型データの集合体として表現されることになり、異動のデータを、異動後の内容が反映された新規データ相当として取り扱うことができ、また複数の異動を同時に行う場合は、すべての異動を反映した新規データ相当として取り扱うことができるようになるため、従来の差分履歴型契約データモデルの場合に比べ、複数の異動内容を1つの履歴にまとめて処理することができることになる。さらに、データの照会時にもわざわざデータ合成処理が必要ではなくなる。
【0044】
他方、従来のイベントヒストリ型契約データモデルの場合に比べ、データベース及びデータ構造が1つの構成で済み、データベースの簡略化と保険料などの再計算やデータの妥当性・整合性を検証する別途のシステムの開発が不要となる。
【0045】
加えて、2つ目の発明の構成は、原則的に同時に異動する必然性のないデータ項目の内容を、スライス型データの別エンティティに保持する構成とすることで、スライス型データとは別エンティティのエンゲージメント情報として含まれ、且つこれらの情報は上記スライス型データとは別レイヤーに備えられているため、仮にエンゲージメント期間の異動を行う場合はエンゲージメント情報の異動により行われるので、そのエンゲージメント情報とは別レイヤーのスライス型データのステータスの変更を伴うことはない。これによりその処理負荷が軽くなるだけではなく、システム全体の構成を疎結合化して他のシステムと連携しやすくなると言う効果もある。
【0046】
さらに、3つ目の発明の構成は、上記の第2の記憶手段を有し、異動後のスライス型データのステータスをオープンして追加した後に、その異動が取り消しになった場合であっても、上記処理手段により、該スライス型データのステータスをインバリッドとし、上記第2の記憶手段に記憶された異動対象となってクローズされた異動前のスライス型データのクローズ前のバックアップデータを、上記第1の記憶手段に、そのステータスをオープンにして復元することで異動の取り消しを簡便に行うことを可能とする構成としたため、システム上大掛かり仕組みが必要となる、契約単位のロールバックをしないで、その取り消しが行えることになるといった優れた効果もある。
【0047】
また、このクローズされたスライス型データとそのクローズ前のバックアップデータは異動の取り消しが発生するまでデータの整合性が理論上確保されていることになり、この状態が例外的に変化しない限り、第2の記憶手段の実装方法には構造上の制約が無く、バックアップの圧縮要否やストレージの冗長化などの非機能的な要求に対する自由度が高い。