特許第6873388号(P6873388)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6873388-シースヒータ 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873388
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】シースヒータ
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/10 20060101AFI20210510BHJP
   H05B 3/48 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   H05B3/10 Z
   H05B3/48
   H05B3/10 C
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-9939(P2017-9939)
(22)【出願日】2017年1月24日
(65)【公開番号】特開2018-120685(P2018-120685A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183945
【氏名又は名称】助川電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100176164
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 州志
(72)【発明者】
【氏名】三浦 邦明
(72)【発明者】
【氏名】坂本 朋孝
(72)【発明者】
【氏名】安島 卓
【審査官】 西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−015036(JP,A)
【文献】 特開2005−126823(JP,A)
【文献】 特開2004−134106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/02− 3/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状の通電発熱体を絶縁体を介してシース部材で覆ったシースヒータであって、
前記シース部材が少なくともMgSi及びZnの元素を含み、かつ、Znの含有量を0.15質量%未満にしたアルミニウム合金であり、前記Mg及びSiの金属元素のモル比が、Mgを2にするときにSiが1以上であることを特徴とするシースヒータ。
【請求項2】
前記アルミニウム合金が、3000系及び4000系及び6000系のアルミニウム合金から選ばれるものであることを特徴とする請求項1に記載のシースヒータ
【請求項3】
前記絶縁体が酸化マグネシウムを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のシースヒータ。
【請求項4】
前記絶縁体が、さらにシリコーン樹脂及びシリコーンオイルの少なくとも何れかのシリコーン化合物を含み、
前記シース部材が、前記アルミニウム合金を熱処理しないで作製されるものであることを特徴とする請求項3に記載のシースヒータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線状の通電発熱体を絶縁体を介してシース部材で覆ったシースヒータであって、前記シース部材として特定のアルミニウム合金を使用することにより、アルミニウム基板ヒータとして高温で使用するときに、高温強度に優れ、且つ、345℃を超える高温での絶縁性の低下を抑制することができるシースヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
一般用ヒータ又はTFT液晶パネルの製造装置やシリコンウエハ等の半導体製造装置等の基板加熱用プレートヒータとして、抵抗発熱体を内蔵し、該抵抗発熱体の電流制御によって所望の温度に調整しながら加熱することができるパネルヒータが使用されている。
【0003】
このようなパネルヒータは、熱伝導性が良好なステンレスやアルミニウム等の金属製の支持板の中にシースヒータ等のヒータ線を埋め込み、このヒータ線の発熱により支持板を加熱し、その上に載せられた基板を加熱する方式のものが知られている。特に、アルミニウム製の支持板を使用した基板加熱用プレートヒータは、支持板の熱容量が小さいので、温度応答性に優れ、加熱や冷却するときの時間を短くできるだけでなく、温度制御を容易に行うことができる。また、表面をアルマイト処理することにより、基板面の絶縁性を高めたり、耐腐食性を向上することができる。
【0004】
パネルヒータは、薄膜パターンやホトレジスト等の成膜を行うため基板加熱用プレートヒータとして使用される場合は加熱温度が400℃以上の高温が要求されることが多い。そのため、パネルヒータは、高温時の熱歪を少なくしたり、高温時の剛性を確保する必要があり、様々な構成と構造を有するパネルヒータが提案されている(例えば、特許文献1及び2)。また、特許文献3には、アルミニウム部材の接合面に組み付けるシースヒータの絶縁抵抗を高めるため、前記シースヒータ発熱線端子の口元を封口する工程を有するヒータープレートの製造方法が開示されている。
【0005】
前記特許文献1〜3に記載されているように、パネル部材としては主にアルミニウム系合金が使用され、線状の通電発熱体をマグネシア(酸化マグネシウム)等の絶縁体を介してシース部材で覆ったシース構造の発熱体、すなわちシースヒータを前記パネル部材に埋設したパネルヒータが従来から知られている。ここで、シース部材としては、真空中でのガス放出が小さく、加工が容易であり、さらに、アルミニウムパネルとの熱膨張係数の違いによる熱応力を低減するため、アルミニウムやその合金が一般的に用いられている。
【0006】
一方、特許文献4には、シースヒータを高温で使用する場合に、金属パイプ及び内部発熱線とそのリードピンよりなる発熱素子の間の漏洩電流の発生を抑制するため、前記金属パイプと発熱素子との間にマグネシア等の耐熱絶縁物を充填させ、さらにシリコーン樹脂又はシリコーンオイル等を高温処理した物質を介在したシースヒータが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−215025号公報
【特許文献2】特開2014−146597号公報
【特許文献3】特開2002−324655号公報
【特許文献4】特開平9−82461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シース部材は、シースヒータの外形と形状を形造る構造部材であることから、アルミニウム部材を使用する場合に高強度で耐食性に優れることが求められる。また、シースヒータをパネルヒータに組込んで使用する場合は、その他の特性、例えば、耐熱性及びパネル材との組合せから低熱膨張性を付与することも行われている。このような様々な特性を実現するため、アルミニウムには各種の金属を微量成分として添加したり、焼入れや焼もどし等の熱処理が行われるのが一般的である。そして、アルミニウム合金は、含まれる添加成分の組成や熱処理の有無に応じて、1000系、2000系、・・・、8000系等のように品番が付けられている。
【0009】
このようなアルミニウム合金をシース部材として用いるシースヒータをパネルヒータの発熱源として適用する場合には、いくつかの技術課題がある。パネルヒータは、高温加熱動作時において高温時の熱歪を少なくして変形を防止したり、高温時の剛性を高める必要があるため、パネルヒータに組込まれるシースヒータのシース部材にも優れた高温強度を有することが求められている。
【0010】
それ以外にも、シースヒータの特性及び耐久性に対しては、次のような問題が発生する。例えば、シース材の内部に絶縁物として充填されるマグネシアは、大気中からの湿気によって絶縁抵抗が低下するという問題である。また、シースヒータを高温で使用する場合に、金属パイプと発熱素子との間に漏洩電流が発生しやすく、ブレーカがむやみに切れて電気回路が遮断することがある。これらの技術課題に対しては、前記特許文献3に開示されているように、シースヒータ発熱線端子の口元を封口する方法、また、前記特許文献4に開示されているように、絶縁物であるマグネシアにシリコーン化合物等を介在させる方法等によって様々な改良が行なわれている。さらに、絶縁物としてマグネシアそのものの材料的な改良や別の材料の適用等も検討されている。
【0011】
しかしながら、シース部材としてアルミニウムやその合金を適用する場合には、上記の問題の他にも、次のような新たな技術課題があることが分かった。すなわち、パネルヒータは400℃以上の高温で使用されることが多く、その場合にはシース材として使用するアルミニウム合金に含まれる添加元素である亜鉛(Zn)及びマグネシウム(Mg)が高温動作時シースヒータ内に充填されたアグネシア(酸化マグネシウム)等の絶縁体に拡散し、シースヒータの絶縁性低下を招くという問題である。絶縁性低下はシースヒータの特性劣化を促進させ、最悪の場合は絶縁破壊を招くことにより、耐久性を大幅に低下させるだけでなく、シースヒータに直接触れたり、アルミニウム部材を介して間接的に触れたりすると漏電を起こす場合がある。また、漏洩電流の発生により、使用中にブレーカが落ち、シーズヒータを加熱源として用いている加熱機器が使用できなくなる等の問題も発生する。
【0012】
上記添加成分の中で、6000系の様にMg及びSiは熱処理をすることによってMgSiを作りアルミニウムの強度を向上させるために使用されるが、その中で結合しないMgが多いときや、初めから5000系の様にMgSiとなって結合する以上にMgがSiに比べて多い場合は高温になるとMgの蒸気圧が高くなるためシースヒータ内の絶縁体への拡散が顕著になる。また、高強度を得るためそれらの金属元素とともにZnを添加する7000系アルミニウム合金の場合は、Znが高温で高い蒸気圧を示すため、Mgと同様にシースヒータの絶縁不良を招くことがある。経験上Paオーダーの蒸気圧になる温度になると絶縁不良を起こす場合が多く、Mg及びZnは、蒸気圧が1.33Pa(10−2Torr)になるときの温度がそれぞれ437℃及び345℃であるため、アルミニウム合金の他の添加元素であるSi、Fe、Cu、Mn、Cr、Tiと比べて低い温度で拡散が起こりやすく、絶縁不良の要因となりやすい。
【0013】
以上のように、アルミニウム中の添加元素によるシースヒータの絶縁抵抗の低下は、上記特許文献1〜3に記載の発明を含め、従来技術では全く認識されていなかった技術課題である。特に、シースヒータを400℃以上、場合によっては400℃より低い温度で使用するときでも、その絶縁抵抗の大幅な低下がシース部材であるアルミニウム合金中の添加元素に起因する場合があることはほとんど知られていなかった。
【0014】
本発明は、係る問題を解決するためになされたものであり、線状の通電発熱体を絶縁体を介してアルミニウムやその合金のシース部材で覆ったシースヒータを、高温で使用するときに、高温強度に優れ、且つ、高温域、具体的には345℃以上の高温において絶縁性の低下を抑制することができるシースヒータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記の課題を解決するために、高強度を有するアルミニウム合金に微量成分として添加される金属成分の種類と含有量及び製造方法に着目し、高温強度を向上するために必要な添加元素の中で絶縁性の低下に最も影響を与える金属成分を特定し、その含有量を規定するとともに、さらに製造時に熱処理をあえて加えないアルミニウム合金をシース材として選択することにより、高温強度に優れ、高温において絶縁性の低下を抑制することができるシースヒータを提供できることを見出し本発明に到った。
【0016】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
[1]本発明は、線状の通電発熱体を絶縁体を介してシース部材で覆ったシースヒータであって、前記シース部材が少なくともMgSi及びZn元素を含み、かつ、Znの含有量を0.15質量%未満にしたアルミニウム合金であり、前記Mg及びSiの金属元素のモル比が、Mgを2にするときにSiが1以上であることを特徴とするシースヒータを提供する。
[2]本発明は、前記アルミニウム合金が、3000系及び4000系及び6000系のアルミニウム合金から選ばれるものであることを特徴とする前記[1]に記載のシースヒータを提供する。
[3]本発明は、前記絶縁体が酸化マグネシウムを含むことを特徴とする前記[1]又は[2]に記載のシースヒータを提供する。
[4]本発明は、前記絶縁体が、さらにシリコーン樹脂及びシリコーンオイルの少なくとも何れかのシリコーン化合物を含み、前記シース部材が、前記アルミニウム合金を熱処理しないで作製されるものであることを特徴とする前記[3]に記載のシースヒータを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のシースヒータは、高温強度を向上させるための添加成分として少なくともMg及びSiを含むとともに、絶縁性低下の要因となる添加元素Mg及びZnの含有量を規定したアルミニウム合金をシースヒータのシース部材として使用することにより、高温強度に優れ、且つ、高温域、具体的には345℃以上の高温において絶縁性の低下を抑制することができる。このような組成を有し、製造時に熱処理をしないで得られるシース材で線状の通電発熱体を覆うことにより、絶縁体が酸化マグネシウムで、さらに絶縁体の耐湿性を向上させるため、シリコーン樹脂又はシリコーンオイルのシリコーン化合物を含むような一般的なシースヒータの構成において、絶縁抵抗の低下を抑え、シースヒータの絶縁性を大幅に向上させることができる。それにより、高性能で耐久性に優れ、汎用性の高いシースヒータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のシースヒータの構成及び構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に、本発明のシースヒータの断面図を示す。図1の(a)に示すように、本発明のシースヒータ1はアルミニウム合金の金属管2に発熱線3が収納され、発熱線3の周囲に絶縁材4が充填されているもので、端部には端子5が接続され、金属管の口元6は解放されている。ここで、発熱線3としては、ニクロム線やタングステン、クロム、タンタル等の高融点金属が使用される。絶縁材4としては、絶縁性及び熱伝導性の点からマグネシア(酸化マグネシウム)を使用するのが好ましく、このマグネシアには耐湿性や高温時の絶縁抵抗値を高くするためマグネシウム以外の金属酸化物を含有させたり、また、シリコーンオイル又はシリコーン樹脂等の添加剤を含有させることができる。さらに、マグネシアよりも低吸湿性で絶縁抵抗値が高い材料、例えば、第三燐酸アルミニウム等をアグネシアの代わりに使用してもよい。
【0020】
図1の(b)、(c)及び(d)に示すように、シースヒータは、大気中からの湿気が混入してアグネシア等の絶縁材の絶縁抵抗値が低下するのを抑制するため、金属管の口元6が樹脂又は低融点ガラス等を用いて封止されるのが一般的である。例えば、図1の(b)に示すように、絶縁材を充填した封口前のシースヒータ7を高温、好ましくは200℃以上に加熱して乾燥させ、次いで減圧下で加熱溶融した樹脂封口剤8をシース金属管の開口部に充填し、150℃以上、好ましくは180℃以上で所定時間加熱硬化させることにより、シース金属管の開口部が封口される。ここで、樹脂封口剤8としては、例えば、シリコーン樹脂やエポキシ樹脂等が使用される。また、図1の(c)に示すシースヒータ9のように、樹脂封口剤8の硬化物の外側に低融点ガラス10を取付ける場合は、シース金属管の開口部に樹脂封口剤8を充填した後、さらに低融点ガラス10を取付け、加熱硬化が行われる。
【0021】
このようにして作製されたシースヒータ6、7、9を、例えばパネルヒータに組込んで使用する場合は、アルミニウムやその合金からなるパネル材に所望の形状で設けた溝又は凹部に前記シースヒータを密着させるように挿入し、熱間鍛圧を行うことにより組込む。
【0022】
また、上記の以外にも、前記特許文献3に開示されているものと同様の方法に従ってパネルヒータを作製することができる。すなわち、絶縁材を充填した封口前のシースヒータを、アルミニウムやその合金からなるパネル材に所望の形状で設けた溝又は凹部にシースヒータを密着させるように挿入し、熱間鍛圧を行って組込んだ後、室温に冷却する。ここで、パネル材の全体が冷却されて金属管内に負圧が生じる前に、シースヒータの金属管の口元を樹脂で仮止めする。次いで、図1の(d)に示すように、湿度を管理した空間もしくはパネルヒータを加熱した状態で仮止めの樹脂を削除し、金属管の口元を低融点ガラス10で正式に封口する。この方法により作製されるヒースヒータ11は、大気を吸い込むことがなく、マグネシア等の絶縁体へ吸湿を抑制することができるため、高い絶縁抵抗を有するシースヒータを得ることができる。
【0023】
本発明のシースヒータは、金属管としてアルミニウム合金を使用するとともに、シース部材が少なくともMg及びSiの元素を含み、かつ、Znの含有量を0.15質量%未満にしたアルミニウム合金であり、前記Mg及びSiの金属元素のモル比が、Mgを2にするときにSiが1以上であることを特徴とする。
【0024】
アルミニウムのうち純度99.00%以上のものは純アルミニウムと呼ばれ、1000系アルミニウムとして知られているが、強度が低いため、本発明のシースシータのシース材としては適さない。したがって、種々の元素を添加して強度を高めるなどの性質の改善が行われている。添加金属の中で、Mg及びSiは、アルミニウムの強度を向上させる添加元素として有効な金属である。Mg及びSiを含むアルミニウム合金としては、例えば、強度、耐食性ともに良好で構造用材として多用されているAl−Mg−Si系合金(圧延用の6000系アルミニウム合金)が知られている。また、Mgの含有量が低く、かつ、比較的多くのSiを含有する合金は、熱膨張係数が低く、耐熱性及び耐摩耗性に優れており、その代表的なものとしてAl−Si系合金(圧延用の4000系アルミニウム合金)が挙げられる。
【0025】
添加元素としてMg及びSiを含むアルミニウム合金は作製中に反応物としてMgSiが形成されるが、MgSiを形成する量以上にMgの含有量が多くなる場合は、高温において余剰のMgが蒸気となって揮発し拡散するため、アグネシア等の絶縁体にMgが混入しやすくなる。それにより、シース金属管に充填された絶縁体の絶縁抵抗が大幅に低下するという問題が起きる。したがって、本発明のシースヒータにおいては、MgSiを確実に形成させることによりMgの蒸気発生が抑制されるため、Mg及びSiの金属元素のモル比が、Mgを2にするときにSiが1以上であるアルミニウム合金を使用する必要がある。
【0026】
また、アルミニウム合金の強度を向上させる添加金属としてはMnやZnも有効な添加金属である。例えば、添加金属としてZnを僅かに含むAl−Mn系合金(圧延用の3000系アルミニウム合金)は構造材として使用され、代表的なものは3003合金がある。また、Al−Zn−Mg系合金(圧延用の7000系アルミニウム合金)は、Cuを含まない構造用合金と、Cuを添加したアルミニウム合金の中で最も高い強度を有するものとして分類されている。Al−Zn−Mg系合金の代表的なものは、超々ジュラルミンの呼称で知られる7003や7075の合金がある。しかしながら、上記で述べたように、Znは、400℃以下でも比較的大きな蒸気圧を有し、例えば、1.33Pa(10−2Torr)になるときの温度は345℃である。そのため、アルミニウム合金にZnを比較的多く含有する合金は、高温におけるZnの蒸発及び拡散による影響がMgの場合よりも大きくなる。本発明者が詳細に検討した結果、シース部材として使用できるアルミニウム合金は、Znの含有量を0.15質量%未満にする必要があることが分かった。さらに、揮発するZnの悪影響を最小限にするため、Znの含有量は0.1質量%以下であることが好ましい。
【0027】
圧延用アルミニウム合金において、添加金属としてMg、Si及びZnが上記に規定する範囲で含まれるものは3000系、4000系及び6000系として分類されるアルミニウム合金であり、それらの分類に属するものを本発明のシースヒータ用のシース部材に適用することができる。それら以外の1000系は強度が低く、2000系及び7000系はZnの含有量が多い。2000系については、Znの含有量の他にも、SiよりMgを多く含む材料があるため、Mgによる悪影響を考慮する必要がある。また、5000系もMgの含有量が多いため、本発明に使用するシース部材として適さない。さらに、8000系は特殊合金であり、汎用性に乏しいため使用することが難しい。
【0028】
3000系アルミニウム合金としては、例えば、Znの含有量が0.10質量%である3003が挙げられる。4000系アルミニウム合金としては、例えば、Znの含有量が0.10質量%である4043、4045が挙げられる。6000系アルミニウム合金としては、例えば、Znの含有量が0.10質量%である6063、6106が使用でき、場合によっては6056においてZnの含有量を少ない合金を選んで使用してもよい。なお、前記特許文献1には、シースヒータのシース部材としてJIS:A3003、A6063等のアルミニウム合金を使用することが記載されているが、前記特許文献1に記載の発明はアルミニウム合金に含まれる添加金属の含有量に着目してなされたものではなく、本発明とは技術思想が全く異なっている。
【0029】
以上のように、本発明のシースヒータではシース部材として3000系、4000系及び6000系として分類されるアルミニウム合金を使用することが好ましいが、さらにアルミニウム合金を作製するときに熱処理が施されていないものを使用することがより好ましい。これは、熱処理による溶体化処理を行ったアルミニウム合金は、シースヒータを高温で動作するときに、アルミニウム合金の結晶状態が変化し、シース部材の性質が初期の所望の状態から好ましくない状態に変わることがあるためである。
【0030】
また、シースヒータに含まれる絶縁体として、低湿性を向上させるため、シリコーン樹脂及びシリコーンオイルの少なくとも何れかのシリコーン化合物を含むマグネシアの場合、熱処理による溶体化処理を行ったアルミニウム合金をシース部材として使用すると次のような問題が起きる。シースヒータは高温で動作中にマグネシアに含まれるシリコーン化合物が350℃から分解し始め、500℃に近づくと遊離Siを形成するため、500℃付近で溶体化処理を行ったアルミニウム合金に対して、前記遊離Siがアルミニウムの結晶粒界に析出しアルミニウム合金組織を変えることがある。したがって、絶縁体としてシリコーン化合物を含むマグネシアを充填したシースヒータにおいては、熱処理が施されていないアルミニウム合金を使用することが好ましい。
【0031】
本発明にシースヒータは、アルミニウム合金の金属管の内部に充填される絶縁体として従来から使用されているマグネシアを使用することが好ましい。また、前記マグネシアには、低湿性を向上させるため、さらにシリコーン樹脂及びシリコーンオイルの少なくとも何れかのシリコーン化合物を含むことが好ましい。これらの絶縁体の構成とそこに使用される材料はシースヒータの分野において一般的なものであるため、上記アルミニウム合金のシース部材と組み合わせることにより、高性能で耐久性に優れ、汎用性の高いシースヒータを提供することができる。
【実施例】
【0032】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
<実施例1〜5、比較例1〜7>
表1に示す各種のアルミニウム製及びアルミニウム合金製のシース管内に、電熱線としてニクロム線を配置し、絶縁材としてマグネシア紛体を充填した封口前のシースヒータを300℃で3時間空焼きして乾燥させ、150℃に降温して保持した。次いで、エポキシ樹脂を150℃で加熱脱気した後、シースヒータ開口部に注入し、150℃で3時間保持して硬化させ、仮止めを行った。その後、仮止め用のエポキシ樹脂を除去し、鉛ガラス又は酸化ビスマス系ガラス等の低融点ガラスで正式に封口し、図1の(d)に示す構造を有するシースヒータを作製した。表1に示す各種アルミウム合金には、種類番号及びMg、Si及びZnの各添加金属の含有量を合わせて示している。
【0034】
このようにして得られたシースヒータを用いて、シース管である金属管2と電気取出し用の端子5との間の絶縁抵抗値を測定した。絶縁抵抗値の測定は、表1に示す実施例及び比較例においてシースヒータをそれぞれ3本作製し、各シースヒータについて絶縁抵抗計(菊水電機製のTOS.8850)を用いて行い、500Vの電圧を印加したときの電気絶縁抵抗値を読み取った。絶縁抵抗値の読取は、以下のように(A)〜(D)の各条件の放置後に室温で行った。
(A)初期
(B)350℃の高温槽内に1ヶ月間連続加熱放置
(C)400℃の高温槽内に1ヶ月間連続加熱放置
(D)400℃高温槽内に連続加熱放置した後、さらに40℃で相対湿度が95%の多湿雰囲気中に2週間放置
上記(D)の条件による評価は、400℃の連続加熱によって絶縁抵抗値が低下する程度の違いを明確に把握するため、さらに多湿雰囲気下で放置した後に行ったものである。
【0035】
絶縁抵抗の測定結果を下記に表1に示す。表1に示す実施例及び比較例において、(A)初期で測定した絶縁抵抗値はどれも100MΩを超えていた。表1には、この(A)初期で測定した絶縁抵抗値を100%としたときに、上記(B)〜(D)の各条件で測定したときの絶縁抵抗値を対数表示したときの(A)初期の値(対数表示の値)に対する保持率を%で示している。例えば、初期の絶縁抵抗値が室温で200MΩであるときに、ある条件で放置した後に室温で測定した絶縁抵抗値が10MΩ及び0.1MΩであるとすると、絶縁抵抗の保持率は対数表示するときにそれぞれ84%及び62%となる。表1に示す絶縁抵抗値の保持率は、3本のシースヒータの測定結果にややバラツキがみられたため、一つの数値ではなく、各測定値が含まれる範囲として示している。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示すように、実施例1〜5は、アルミニウム合金に含まれるMg及びZnの量が少ないため、絶縁抵抗値の低下が小さく、優れた絶縁性を有することが分かる。特に、実施例1〜3は、実施例4及び5と比べてMgの含有量が相対的に少ないため、400℃放置後でも絶縁抵抗値の保持率が高くなっている。
【0038】
それに対して、比較例1の1100系アルミニウム合金は、強度が低く、400℃の放置後でシース管にやや曲りが観測されたため、シース部材としては適さないことが確認された。また、比較例2、3、4、6及び7は、Znの含有量が1.5質量%以上であるため、345℃(Znの蒸気圧が1.33Paになるときの温度)をやや超える350℃の温度で、絶縁抵抗値の低下がみられた。さらに、SiのMgに対するモル比が、Mgを2にするときSiが1未満である比較例2、3、6及び7は、比較例4と比べて400℃放置後における絶縁抵抗値の低下がやや大きくなった。このように、比較例2、3、6及び7においては、Zn及びMgの両者が絶縁抵抗値を低下させる要因であることが分かる。一方、比較例5は、Znの含有量が1.0質量%と少ないもののMgの含有量がモル比でSiの1に対して2を大きく超えるため、350℃放置後は絶縁抵抗値の低下がわずかであるが、400℃放置後において絶縁抵抗値の低下がみられた。なお、Mg及びSiは、原子量がそれぞれ24及び28と非常に近い値を有するため、両金属のモル比率は、表1に示す両金属の質量%の値から容易に推察することができる。
【0039】
したがって、本願発明は、シースヒータのシース部材として、少なくともMg及びSiの元素を含み、かつ、Znの含有量を0.15質量%未満にするとともに、前記Mg及びSiの金属元素のモル比が、Mgを2にするときにSiが1以上であるアルミニウム合金を使用することにより、高温使用時において絶縁抵抗値の低下を抑制し、耐熱性と絶縁性に優れるシースヒータを提供するという本発明の効果を奏することができる。
【0040】
<実施例6〜10>
実施例1〜5において、絶縁材としてシリコーンオイルの0.5質量%又はシリコーン樹脂の1質量%を均一に混合したマグネシア紛体を用いたことを除いて、アルミニウム合金のシース部材、電熱線、仮止め樹脂材及び低融点ガラス封口剤は実施例1〜5と同じものを用いて、実施例6〜10のシースヒータを作製した。ここで、シースヒータの耐湿性は、一般的にマグネシア絶縁材にシリコーンオイル又はシリコーン樹脂を0.01〜5質量%で添加することによって向上させることができる。このとき、シリコーンオイルはシリコーン樹脂と併用してもよい。
【0041】
実施例6〜10のシースヒータを用いて、図1の(d)に示すシース管の金属管2と電気取出し用の端子5との間の絶縁抵抗値を、実施例1〜5と同じ方法と雰囲気条件で測定した。絶縁抵抗値の保持率の測定結果を下記の表2に示す。表2に示す実施例6〜10において、(A)初期で測定した絶縁抵抗値は、実施例1〜5と同じように、どれも100MΩを超えていた。
【0042】
【表2】
【0043】
表2に示すように、実施例6〜8のシースヒータは、シリコーンオイル又はシリコーン樹脂を混合したマグネシア絶縁材を使用することにより、多湿環境下で放置後の絶縁抵抗値の低下が実施例1〜3と比べて小さくなった。それに対して、実施例9及び10は、実施例4及び5と比べて、吸湿による絶縁抵抗値低下の程度がほとんど変わらず、シリコーンオイル又はシリコーン樹脂を混合したマグネシア絶縁材を使用した効果が十分にみられなかった。
【0044】
実施例9及び10は、熱処理による溶体化処理を行ったアルミニウム合金をシース部材として使用したシースヒータであるが、見掛け上、絶縁抵抗値の低下を抑制する効果がみられなかった理由については詳細が不明である。しかしながら、その要因とひとつとして、マグネシアに含まれるシリコーン化合物が高温放置において350℃から分解し始め、それ以上の温度で遊離Siを形成する可能性があるため、該遊離Siが溶体化処理を行ったアルミニウム合金の結晶粒界に析出し、アルミニウム合金組織を変えたことが考えられる。したがって、シリコーン化合物を含むマグネシアを、アルミニウム合金からなる金属管の内部に絶縁材として充填したシースヒータでは、実施例6〜8のように熱処理が施されていないアルミニウム合金を使用することが好ましい。
【0045】
以上のように、本発明のシースヒータは、高温強度を向上させるための添加元素として少なくともMg及びSiを含むとともに、絶縁性低下の要因となる添加元素Mg及びZnの含有量を規定したアルミニウム合金をシースヒータのシース部材として使用することにより、高温強度に優れ、且つ、高温域、具体的には345℃以上の高温において絶縁性の低下を抑制することができる。さらに、このような組成を有し、製造時に熱処理をしないで得られるアルミニウム合金のシース材で線状の通電発熱体を覆うことにより、絶縁体が酸化マグネシウムで、さらに絶縁体の耐湿性を向上させる目的でシリコーン樹脂又はシリコーンオイルのシリコーン化合物を含むような一般的なシースヒータの構成において、絶縁抵抗の低下を抑えるシースヒータの絶縁性を大幅に向上させることができるため、高性能で耐久性に優れ、汎用性の高いシースヒータを提供することができる。
【符号の説明】
【0046】
1、7、9、11・・・シースシータ
2・・・金属管
3・・・発熱線
4・・・絶縁材
5・・・端子
6・・・金属管の口元
8・・・樹脂封口剤
10・・・低融点ガラス
図1