特許第6873405号(P6873405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873405
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用負極活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20210510BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20210510BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20210510BHJP
   H01M 10/054 20100101ALN20210510BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALN20210510BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01G11/50
   H01G11/06
   !H01M10/054
   !H01M10/0562
【請求項の数】8
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-534148(P2017-534148)
(86)(22)【出願日】2016年7月15日
(86)【国際出願番号】JP2016071033
(87)【国際公開番号】WO2017026228
(87)【国際公開日】20170216
【審査請求日】2019年6月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-158661(P2015-158661)
(32)【優先日】2015年8月11日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-228486(P2015-228486)
(32)【優先日】2015年11月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山内 英郎
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−192133(JP,A)
【文献】 特開2014−089836(JP,A)
【文献】 特開2008−282665(JP,A)
【文献】 特開2004−165018(JP,A)
【文献】 特開2002−246025(JP,A)
【文献】 特表2012−503293(JP,A)
【文献】 特表2009−531265(JP,A)
【文献】 特表2006−503416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
H01G 11/06
H01G 11/50
H01M 10/054
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Rx1R´x2MA(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも一種、R´はMg、Ca、Sr、Ba及びZnから選択される少なくとも一種、MはTi、V及びNbから選択される少なくとも一種、AはP、Si、B及びAlから選択される少なくとも一種、≦x≦6、0≦x≦6、0<y≦12、0.2≦z≦87)で表される結晶相を含有することを特徴とする蓄電デバイス用負極活物質。
【請求項2】
一般式RTiP(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも一種、2≦x≦6、0.25≦y≦4、2.5≦z≦16)で表される結晶相を含有することを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス用負極活物質。
【請求項3】
一般式RTiPで表される結晶相が、RTiP、RTiP12、RTiP8.5、R3.91TiP及びRTiPら選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項2に記載の蓄電デバイス用負極活物質。
【請求項4】
酸化物換算のモル%で、RO 0〜70%、R´O 0〜70%、TiO+V+Nb 1〜80%、P+SiO+B+Al 5〜70%を含有する組成からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用負極活物質。
【請求項5】
結晶相の含有量が50質量%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の蓄電デバイス用負極活物質。
【請求項6】
ナトリウムイオン二次電池用であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用負極活物質。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用負極活物質を含有することを特徴とする蓄電デバイス用負極材料。
【請求項8】
一般式RTiP、RTiP12、RTiP8.5、R3.91Ti、RTiP1.676.67、RTiP、RTiP1.5及びRTiPO(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも一種)から選択される少なくとも一種で表される結晶相を含有することを特徴とする蓄電デバイス用負極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯型電子機器、電気自動車、電気工具、バックアップ用非常電源等に用いられるリチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ等の蓄電デバイスに用いられる負極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型電子機器や電気自動車等の普及に伴い、リチウムイオン二次電池やナトリウムイオン二次電池等の蓄電デバイスの開発が進められている。蓄電デバイスに用いられる負極活物質として、理論容量の高いSiまたはSnを含有する材料が研究されている。しかしながら、SiまたはSnを含む負極活物質を使用した場合、リチウムイオンやナトリウムイオンの挿入脱離反応の際に生じる負極活物質の膨張収縮による体積変化が大きいため、繰り返し充放電に伴う負極活物質の崩壊が激しく、サイクル特性の低下が起こりやすいという問題がある。
【0003】
そこで、サイクル特性が比較的良好な負極活物質として、NASICON型化合物であるNaTi(POやNaTi(POが提案されている(例えば特許文献1及び非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−54208号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Abstract #137, 223rd ECS Meeting、2013 The Electrochemical Society
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、蓄電デバイスの作動電圧は正極の作動電圧と負極の作動電圧の差で決定され、負極の作動電圧が低いほど、蓄電デバイスとしての作動電圧は大きくなる。負極活物質として、NaTi(POやNaTi(POを使用した場合、Ti4+/Ti3+の反応電位が2.2V(vs.Na/Na)と非常に高く、負極の作動電圧が高くなるため、当該負極活物質を用いた蓄電デバイスの作動電圧が小さくなるという問題がある。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は作動電位が低く、蓄電デバイスとしての作動電圧を大きくすることが可能であるとともに、サイクル特性にも優れた蓄電デバイス用負極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意検討した結果、特定組成の結晶相を含有する負極活物質により、上記の課題を解決できることを見出した。
【0009】
即ち、本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、一般式Rx1R´x2MA(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも一種、R´はMg、Ca、Sr、Ba及びZnから選択される少なくとも一種、MはTi、V及びNbから選択される少なくとも一種、AはP、Si、B及びAlから選択される少なくとも一種、0≦x1≦6、0≦x2≦6、0<y≦12、0.2≦z≦87、但し、x1=0.5かつx2=0である場合、及び、x1=1.5かつx2=0である場合を含まない)で表される結晶相を含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、一般式RTiP(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも一種、0.5<x≦6、0.25≦y≦4、2.5≦z≦16、但し、x=1.5を含まない)で表される結晶相を含有することが好ましい。
【0011】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質において、一般式RTiPで表される結晶相が、RTiP、RTiP12、TiP8.5、R3.91TiP、RTiP1.676.67、RTiP、RTiP1.5、RTiP及びRTiPOから選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0012】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、酸化物換算のモル%で、RO 0〜70%、R´O 0〜70%、TiO+V+Nb 1〜80%、P+SiO+B+Al 5〜70%を含有する組成からなることが好ましい。なお、「TiO+V+Nb」はTiO、V及びNbの各含有量の合量を意味し、「P+SiO+B+Al」はP、SiO及びBの各含有量の合量を意味する。
【0013】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、結晶相の含有量が50質量%以上であることが好ましい。
【0014】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、ナトリウムイオン二次電池用として好適である。
【0015】
本発明の蓄電デバイス用負極材料は、上記の蓄電デバイス用負極活物質を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、作動電位が低く、蓄電デバイスとしての作動電圧を大きくすることが可能であるとともに、サイクル特性にも優れた蓄電デバイス用負極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例であるNo.1の試料のXRD(X線回折)パターンを示すチャートである。
図2】実施例であるNo.1の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
図3】実施例であるNo.15の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
図4】実施例であるNo.18の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
図5】実施例であるNo.20の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
図6】実施例であるNo.22の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
図7】実施例であるNo.24の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
図8】比較例であるNo.37の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、一般式Rx1R´x2MA(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも一種、R´はMg、Ca、Sr、Ba及びZnから選択される少なくとも一種、MはTi、V及びNbから選択される少なくとも一種、AはP、Si、B及びAlから選択される少なくとも一種、0≦x1≦6、0≦x2≦6、0<y≦12、0.2≦z≦87、但し、x1=0.5かつx2=0である場合、及び、x1=1.5かつx2=0である場合を含まない)で表される結晶相を含有することを特徴とする。
【0019】
Rはアルカリイオン伝導性を向上させる成分である。本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、充放電にともないアルカリイオンを吸蔵及び放出するが、アルカリイオンの一部は負極活物質中に吸蔵されたまま放出されない場合がある。当該アルカリイオンは不可逆容量につながり、初回放電容量の低下の原因となる。そこで、負極活物質中にR成分を予め含有させることにより、初回充電時に負極活物質中にアルカリイオンを吸収させにくくし、初回放電容量を向上させることが可能となる。x1の範囲は、0≦x1≦6、0.5<x1≦6、1≦x1≦5.8、2≦x1≦5.7、3≦x1≦5.6、4≦x1≦5.5、特に5≦x1≦5.4であることが好ましい(但し、x1=0.5かつx2=0である場合、及び、x1=1.5かつx2=0である場合を含まない)。x1が大きすぎると、アルカリイオンを含む異種結晶(例えばLiPO、Na、NaPO)が多量に形成され、サイクル特性が低下しやすくなる。また、活物質成分の含有量が相対的に低下するため放電容量が低下する傾向にある。
【0020】
Rとして、Li、Na及びKはそれぞれ単独で含有されていてもよく、なかでも資源的に豊富に存在するNa、Kが好ましく、原子量が小さいNaは活物質成分の含有量を相対的に高められるために特に好ましい。なお、蓄電デバイスの充放電時に、正極から電解質を通って吸蔵または放出されるイオンがリチウムイオンである場合はLiを含有することが好ましく、ナトリウムイオンである場合はNaを含有することが好ましく、カリウムイオンである場合はKを含有することが好ましい。
【0021】
R´は結晶構造を安定化させる成分である。またRと同様に、初回充電時に負極活物質中にアルカリイオンを吸収させにくくし、初回充放電効率を向上させる効果がある。x2の範囲は、0≦x2≦6、0≦x2≦5、0≦x2≦4、0≦x2≦3、0.1≦x2≦3、0.1≦x2≦2、特に0.1≦x2≦1.5であることが好ましい。x2が大きすぎると、アルカリ土類イオンを含む異種結晶(例えばBaB)が多量に形成され、サイクル特性が低下しやすくなる。また、活物質成分の含有量が相対的に低下するため放電容量が低下する傾向にある。R´として、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnはそれぞれ単独で含有されていてもよく、なかでも資源的に豊富に存在するMg、Ca、Sr好ましく、原子量が小さいMg、Caは活物質成分の含有量を相対的に高められるために特に好ましい。
【0022】
Mはアルカリイオンを吸蔵及び放出するサイトとなる活物質成分である。Mとして、Ti、V及びNbはそれぞれ単独で含有されていてもよく、なかでも資源的に豊富に存在するTi、Nb好ましく、特にTiであることが好ましい。MにおけるTiの含有量は、モル%で70%以上、80%以上、特に95%以上であることが好ましい。
【0023】
AはP、Si、B及びAlから選択される少なくとも一種であり、アルカリイオンの伝導性に優れるとともに、サイクル特性を向上させる作用がある。yの範囲は、0<y≦12、0.1≦y≦8、0.25≦y≦4、1≦y≦3.8、1.5≦y≦3.6、2≦y≦3.4、特に3≦y≦3.2であることが好ましい。yが小さすぎると、アルカリイオン伝導性が低下したり、サイクル特性が低下する傾向にある。一方、yが大きすぎると、放電容量が低下しやすくなる。Aとして、P、Si、B及びAlはそれぞれ単独で含有されていてもよく、なかでも資源的に豊富に存在するSi、Pが好ましく、アルカリイオン伝導性に優れるPが特に好ましい。
【0024】
zの範囲は、0.2≦z≦87、1≦z≦50、2≦z≦30、2.5≦z≦16、3≦z≦15、4≦z≦14、6≦z≦13、特に9≦z≦12であることが好ましい。zが小さすぎると、Tiが還元されて低価数化するため、充放電に伴うレドックス反応が起こりにくくなる。その結果、吸蔵及び放出されるアルカリイオンが少なくなり、蓄電デバイスの容量が低下する傾向にある。一方、zが大きすぎると、活物質成分の含有量が相対的に低下するため放電容量が低下する傾向にある。
【0025】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、一般式RTiP(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも一種、0.5<x≦6、0.25≦y≦4、2.5≦z≦16、但し、x=1.5を含まない)で表される結晶相を含有することが好ましい。
【0026】
xの範囲は、0.5<x≦6、1≦x≦5.8、2≦x≦5.7、3≦x≦5.6、4≦x≦5.5、特に5≦x≦5.4であることが好ましい(但し、x=1.5を含まない)。xが小さすぎると、アルカリイオン伝導性が低下することで高抵抗化し放電電圧が上昇する傾向にある。また、初回充電時にアルカリイオンが負極活物質中に吸収されやすくなり、初回充放電効率が低下しやすくなる。一方、xが大きすぎると、アルカリイオンとPからなる異種結晶(例えばLiPO、Na、NaPO)が多量に形成され、サイクル特性が低下しやすくなる。また、活物質成分の含有量が相対的に低下するため放電容量が低下する傾向にある。
【0027】
yの範囲は、0.25≦y≦4、1≦y≦3.8、1.5≦y≦3.6、2≦y≦3.4、特に3≦y≦3.2であることが好ましい。yが小さすぎると、アルカリイオン伝導性が低下したり、サイクル特性が低下する傾向にある。一方、yが大きすぎると、耐水性が低下しやすくなって、水系電極ペーストを作製した際に望まない異種結晶が生じやすくなる。その結果、負極活物質中のPネットワークが切断されて、サイクル特性が低下しやすくなる。
【0028】
zの範囲は、2.5≦z≦16、3≦z≦15、4≦z≦14、6≦z≦13、特に9≦z≦12であることが好ましい。zが小さすぎると、Tiが還元されて低価数化するため、充放電に伴うレドックス反応が起こりにくくなる。その結果、吸蔵及び放出されるアルカリイオンが少なくなり、蓄電デバイスの容量が低下する傾向にある。一方、zが大きすぎると、Pを含む異種結晶(例えばLiPO、Na、NaPO)が多量に形成され、サイクル特性が低下しやすくなる。また、活物質成分の含有量が相対的に低下するため放電容量が低下する傾向にある。
【0029】
一般式RTiPで表される結晶相としては、RTiP[RTiO(PO]、RTiP12[RTi(POTiP8.5[R(TiO)Ti(PO]、R3.91TiP[R3.91TiO(PO]、RTiP1.676.67[RTi(PO]、RTiP[RTi(PO]、RTiP1.5[RTi(PO]、RTiP及びRTiPO[RTiOPO]から選択される少なくとも一種が好ましい([ ]内は示性式を示す)。これらの結晶相は、充放電に伴うTi4+/Ti3+の酸化還元電位を約1.2V(vs.Na/Na)まで低下させることができる上に、充放電に伴う電圧変動が小さく一定の作動電圧が得られやすい。上記の具体的な結晶相において、Rとしては資源的に豊富なNaであることが好ましく、特にNa3.91(TiP)、NaTiP、NaTiP12が好ましく、イオン伝導性に優れるNaTiP12が最も好ましい。なお、Na3.91TiP及びNaTiPは単斜晶系結晶であり、空間群P21/cに属する。また、NaTiP12は六方晶系結晶であり、空間群R32に属する。
【0030】
負極活物質における結晶相の存在は粉末X線回折測定によって確認することができる。例えば、負極活物質がNaTiO(POの結晶相を含有する場合、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=11.4゜、11.7゜、18.0゜、18.3゜、25.8゜、26.3゜、27.9゜、28.2゜、33.1゜、33.8゜、34.8゜付近に特徴的なピークを有する。また、発明の負極活物質がNaTi(POの結晶相を含有する場合、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=12.0゜、19.9゜、23.1゜、24.6゜、30.4゜、31.6゜、34.3゜、41.7゜、47.3゜、47.4゜、59.7゜、62.3゜付近に特徴的なピークを有する。なお、上記ピーク位置は、材料組成等によって結晶格子が若干変化し、多少前後する場合がある。そのため、各ピーク位置は±0.5゜の範囲を包含するものとする。
【0031】
負極活物質における結晶相の割合が大きいほど、結晶に含まれるTi4+/Ti3+の酸化還元電位が一定となりやすく、充放電電圧の変動を抑制しやすくなる。具体的には、負極活物質における結晶相の含有量は、質量%で50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、特に99%以上であることが好ましい。
【0032】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は非晶質相を含有していてもよい。非晶質相はアルカリイオン伝導性に優れるため、充放電に伴うアルカリイオンの挿入脱離が容易になる。その結果、酸化還元電位が低下し、負極の作動電圧を低下させることが可能となる。また、本発明の蓄電デバイス用負極活物質を全固体二次電池に使用した場合、負極活物質と固体電解質との界面に非晶質相が存在しやすくなる。当該非晶質相は、アルカリイオンの伝導パスとなるため、活物質結晶と固体電解質との間の界面抵抗を低下させ、蓄電デバイスの放電容量や放電電圧が高くなりやすい。また、サイクル特性が向上しやすくなる。さらに、非晶質相がバインダーの役割を果たすため、負極層と固体電解質層との接着強度も高くなる。
【0033】
非晶質相の含有量は、質量%で0.1%以上、1%以上、3%以上、特に5%以上であることが好ましい。但し、その含有量が多すぎると、相対的に結晶相の割合が低下して上記の効果が得られにくくなるため、質量%で50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、特に10%以下であることが好ましい。非晶質相の含有量が多すぎると、結晶に含まれるTi4+/Ti3+の酸化還元電位が一定でなくなり、充放電電圧の変動が大きくなる傾向にある。
【0034】
負極活物質における結晶相及び非晶質相の含有量は、CuKα線を用いた粉末X線回折測定によって得られる2θ値で10〜60°の回折線プロファイルにおいて、結晶性回折線と非晶質ハローとにピーク分離することで求められる。具体的には、回折線プロファイルからバックグラウンドを差し引いて得られた全散乱曲線から、10〜45°におけるブロードな回折線(非晶質ハロー)をピーク分離して求めた積分強度をIa、10〜60°において検出される求めたい結晶相の結晶性回折線をピーク分離して求めた積分強度の和をIc、その他の結晶性回折線から求めた積分強度の総和をIoとした場合、結晶相の含有量Xc及び非晶質相の含有量Xaは次式から求められる。
【0035】
Xc=[Ic/(Ia+Ic+Io)]×100(%)
Xa=[Ia/(Ia+Ic+Io)]×100(%)
【0036】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、酸化物換算のモル%で、RO(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも一種) 0〜70%、R´O(R´はMg、Ca、Sr、Ba及びZnから選択される少なくとも一種)0〜70%、TiO+V+Nb 1〜80%、P+SiO+B+Al 5〜70%を含有することが好ましい。各成分をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量の説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。
【0037】
Oはアルカリイオン伝導性を向上させる成分である。なお、本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、充放電にともないアルカリイオンを吸蔵及び放出するが、アルカリイオンの一部は負極活物質中に吸蔵されたまま放出されない場合がある。当該アルカリイオンは不可逆容量につながり、初回放電容量の低下の原因となる。そこで、負極活物質中にRO成分を予め含有させることにより、初回充電時に負極活物質中にアルカリイオンを吸収させにくくし、初回放電容量を向上させることが可能となる。ROの含有量は0〜70%、1〜70%、15〜70%、20〜65%、29〜60%、31〜58%、特に40〜55%であることが好ましい。ROの含有量が少なすぎると、アルカリイオン伝導性が低下することで高抵抗化し放電電圧が上昇する傾向にある。また、初回充電時にアルカリイオンが負極活物質中に吸収されやすくなり、初回充放電効率が低下しやすくなる。一方、ROの含有量が多すぎると、アルカリイオンと、Pからなる異種結晶(例えばLiPO、Na、NaPO)が多量に形成され、サイクル特性が低下しやすくなる。また、活物質成分の含有量が相対的に低下するため放電容量が低下する傾向にある。なお、LiO、NaO、KOの各成分の含有量は、各々0〜70%、1〜70%、15〜70%、20〜65%、29〜60%、31〜58%、特に40〜55%であることが好ましい。
【0038】
LiO、NaO、KOはそれぞれ単独で含有されていてもよく、なかでも資源的に豊富に存在するNaO、KOが好ましく、原子量が小さいNaOは活物質成分の含有量を相対的に高められるために特に好ましい。なお、蓄電デバイスにおける充放電時に、正極から電解質を通って吸蔵または放出されるイオンがリチウムイオンである場合は、LiOを含有することが好ましく、ナトリウムイオンである場合は、NaOを含有することが好ましく、カリウムイオンである場合はKOを含有することが好ましい。
【0039】
R´Oは結晶構造を安定化させる成分である。またROと同様に、初回充電時に負極活物質中にアルカリイオンを吸収させにくくし、初回充放電効率を向上させる効果がある。R´Oの含有量は0〜70%、0〜60%、0〜50%、0〜40%、0.1〜30%、0.5〜25%、特に5〜20%であることが好ましい。R´Oの含有量が少なすぎると放電電圧が上昇する傾向にある。また、初回充電時にアルカリイオンが負極活物質中に吸収されやすくなり、初回充放電効率が低下しやすくなる。一方、R´Oの含有量が多すぎると異種結晶(例えばBaB)が多量に形成され、サイクル特性が低下しやすくなる。また、活物質成分の含有量が相対的に低下するため放電容量が低下する傾向にある。なお、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOの各成分の含有量は、各々0〜70%、0〜60%、0〜50%、0〜40%、0.1〜30%、0.5〜25%、特に5〜20%であることが好ましい。MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOはそれぞれ単独で含有されていてもよく、なかでも資源的に豊富に存在するMgO、CaO、SrO好ましく、原子量が小さいMgO、CaOは活物質成分の含有量を相対的に高められるために特に好ましい。
【0040】
TiO、V、Nbは、アルカリイオンを吸蔵及び放出するサイトとなる活物質成分である。TiO、V、Nbの含有量は合量で1〜80%、1〜70%、1〜59%、5〜49%、10〜39%、12〜29%、特に15〜27%であることが好ましい。TiO、V、Nbの含有量が少なすぎると、負極活物質の単位質量当たりの放電容量が小さくなり、かつ、初回充放電時の充放電効率が低下する傾向がある。一方、TiO、V、Nbの含有量が多すぎると、充放電時のアルカリイオンの吸蔵及び放出に伴う体積変化が大きくなって、サイクル特性が低下する傾向がある。なお、TiO、V、Nbの各成分の含有量は、各々0〜80%、1〜80%、1〜70%、1〜59%、5〜49%、10〜39%、12〜29%、特に15〜27%であることが好ましい。
【0041】
はアルカリイオンの伝導性に優れるとともに、サイクル特性を向上させる作用がある。SiO、B及びAlは、Pと同様にアルカリイオンの伝導性に優れるとともに、サイクル特性を向上させる作用がある。P+SiO+B+Alの含有量は5〜70%、15〜70%、17〜60%、20〜40%、特に25〜35%であることが好ましい。P+SiO+B+Alの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、P+SiO+B+Alの含有量が多すぎると、放電容量が低下しやすくなる。
【0042】
の含有量は5〜70%、15〜70%、17〜60%、20〜40%、特に25〜35%であることが好ましい。Pの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、Pの含有量が多すぎると、耐水性が低下しやすくなって、水系電極ペーストを作製した際に望まない異種結晶が生じやすくなる。その結果、負極活物質中のPネットワークが切断されて、サイクル特性が低下しやすくなる。SiO、B及びAlの含有量は各々0〜70%、1〜50%、3〜40%、5〜35%、特に7〜30%であることが好ましい。SiO、BまたはAlの含有量が多すぎると、放電容量が低下しやすくなる。特に、Bの含有量が多すぎると、化学的耐久性が低下しやすくなる。
【0043】
TiOとPの含有量のモル比(TiO/P)は0.2〜3、0.2〜1.5、0.3〜1.3、0.4〜1.2、特に0.5〜1.1であることが好ましい。TiO/Pが小さすぎると、活物質成分が少なくなるため放電容量が低下する傾向がある。また、初回充電時に吸蔵されたアルカリイオンが負極活物質中に吸収されやすくなるため、初回充放電効率が低下する傾向にある。一方、TiO/Pが大きすぎると、充放電に伴うTiイオンの体積変化を緩和できなくなり、サイクル特性が低下する傾向がある。
【0044】
OとPの含有量のモル比(RO/P)は0.4〜2.5、0.5〜2.3、1.0〜2.2、特に1.5〜2.1であることが好ましい。RO/Pが小さすぎると、イオン伝導性が低下して、充放電に伴う酸化還元電位が上昇する傾向にある。一方、RO/Pが大きすぎると、充放電に伴うTiイオンの体積変化を緩和できなくなり、サイクル特性が低下する傾向がある。
【0045】
TiO+V+NbとP+SiO+B+Alの含有量のモル比((TiO+V+Nb)/(P+SiO+B+Al))は0.1〜8、0.2〜2、0.2〜1.5、0.3〜1.3、0.4〜1.2、特に0.5〜1.1であることが好ましい。(TiO+V+Nb)/(P+SiO+B+Al)が小さすぎると、活物質成分が少なくなるため放電容量が低下する傾向がある。また、初回充電時に吸蔵されたアルカリイオンが負極活物質中に吸収されやすくなるため、初回充放電効率が低下する傾向にある。一方、(TiO+V+Nb)/(P+SiO+B+Al)が大きすぎると、充放電に伴うTiイオンの体積変化を緩和できなくなり、サイクル特性が低下する傾向がある。
【0046】
O+R´OとP+SiO+B+Alの含有量のモル比((RO+R´O)/(P+SiO+B+Al))は0.4〜2.5、0.5〜2.3、1.0〜2.2、特に1.5〜2.1であることが好ましい。(RO+R´O)/(P+SiO+B+Al)が小さすぎると、イオン伝導性が低下して、充放電に伴う酸化還元電位が上昇する傾向にある。一方、(RO+R´O)/(P+SiO+B+Al)が大きすぎると、充放電に伴うTiイオンの体積変化を緩和できなくなり、サイクル特性が低下する傾向がある。
【0047】
なお、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分に加えてさらに種々の成分を含有させることができる。具体的には、酸化物表記でCuO、SnO、Bi、GeO、ZrO、またはSbを含有させることができる。上記成分の含有量は合量で0〜40%、0.1〜30%、特に0.5〜20%であることが好ましい。
【0048】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、例えば結晶化ガラス法により製造することができる。具体的な製造方法について以下に説明する。
【0049】
まず、上記の組成となるように原料粉末を調製して原料バッチを得る。次に、得られた原料バッチを溶融する。溶融温度は原料バッチが均質に溶融されるよう適宜調整すればよい。具体的には、溶融温度は800℃以上、特に900℃以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、溶融温度が高すぎるとエネルギーロス、ナトリウム成分の蒸発につながるため、1600℃以下、特に1500℃以下であることが好ましい。
【0050】
得られた溶融物を成形することにより、溶融固化物を得る。成形方法としては特に限定されず、例えば、溶融物を一対の冷却ロール間に流し込み、急冷しながらフィルム状に成形してもよいし、あるいは、溶融物を鋳型に流し出し、インゴット状に成形しても構わない。溶融固化物は、通常、非晶質体からなるものであるが、結晶相を含んでいてもよい。
【0051】
次に、溶融固化物を所定温度で所定時間熱処理することにより結晶化させることにより、結晶化ガラスからなる負極活物質を得る。熱処理は、例えば温度の制御が可能な電気炉中で行われる。熱処理温度は、非晶質体のガラス転移温度以上であることが好ましく、結晶化温度以上であることがより好ましい。具体的には、350℃以上、特に400℃以上であることが好ましい。熱処理時間は、結晶化が十分に進行するよう適宜調整される。具体的には、0.3〜6時間、特に0.5〜4時間であることが好ましい。
【0052】
溶融固化体の熱処理は大気雰囲気、不活性雰囲気、還元雰囲気のいずれで行ってもよい。
【0053】
本発明の負極活物質を結晶化ガラス法により作製した場合、内部に非晶質相を容易に形成することができる。その結果、非晶質相に起因する既述の効果を享受しやすくなる。
【0054】
なお、結晶化ガラス法以外にも、原料粉末を混合して焼成炉で焼成する固相反応法で製造してもよい。なお、本発明の負極活物質を結晶化ガラス法により作製した場合、結晶相含有量が高くなりやすい。結果として、放電容量が向上したり、作動電圧が低下しやすくなる。
【0055】
上記の方法により得られた負極活物質は、必要に応じて、所定サイズの粉末を得るために粉砕や分級が行われる。粉砕には、乳鉢、ボールミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル等を、分級には、篩、遠心分離、空気分級等を用いることができる。
【0056】
負極活物質が粉末状である場合、平均粒子径は0.1〜20μm、0.2〜15μm、0.3〜10μm、特に0.5〜5μmであることが好ましい。また、最大粒子径は150μm以下、100μm以下、75μm以下、特に55μm以下であることが好ましい。負極活物質の平均粒子径や最大粒子径が大きすぎると、充放電した際にアルカリイオンの吸蔵及び放出に伴う負極活物質の体積変化を緩和できず、集電体から剥れやすくなり、サイクル特性が著しく低下する傾向がある。一方、平均粒子径が小さすぎると、ペースト化した際に粉末の分散状態が悪化しやすくなる。その結果、結着剤や溶媒の添加量を多くする必要性が生じたり、塗布性に劣るため、均一な電極形成が困難となる傾向がある。
【0057】
ここで、平均粒子径と最大粒子径は、それぞれ一次粒子のメジアン径でD50(50%体積累積径)とD90(90%体積累積径)を示し、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定された値をいう。
【0058】
また、粉末状の負極活物質のBET法による比表面積は0.1〜20m/g、0.15〜15m/g、特に0.2〜10m/gであることが好ましい。負極活物質の比表面積が小さすぎると、アルカリイオンの吸蔵及び放出が迅速に行えず、充放電時間が長くなる傾向がある。一方、負極活物質の比表面積が大きすぎると、ペースト化した際の分散状態が悪化しやすくなる。その結果、結着剤や溶媒の添加量を多くする必要性が生じたり、塗布性に劣るため、均一な電極形成が困難となる傾向がある。
【0059】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、導電性炭素で被覆、あるいは導電性炭素と混合することにより、導電性を付与することが好ましい。負極活物質表面を導電性炭素で被覆することにより、電子伝導度性が高くなり、高速充放電特性が向上しやすくなる。導電性炭素としては、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラック、グラファイト等のカーボン粉末、炭素繊維等を用いることができる。なかでも、電子伝導性が高いアセチレンブラックが好ましい。
【0060】
例えば、負極活物質と導電性炭素とを粉砕しながら混合する方法としては、乳鉢、らいかい機、ボールミル、アトライター、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、ビーズミル等の一般的な粉砕機を用いる方法が挙げられる。なかでも、遊星型ボールミルを使用することが好ましい。遊星型ボールミルは、ポットが自転回転しながら、台盤が公転回転し、非常に高い衝撃エネルギーを効率良く発生させることができ、負極活物質中に導電性炭素を均質に分散させることが可能となる。
【0061】
また、負極活物質に導電性を付与する別の方法として、例えば粉末状の負極活物質と有機化合物を混合した後、不活性雰囲気または還元雰囲気で焼成して有機化合物を炭化させることにより、負極活物質表面を導電性炭素で被覆する方法が挙げられる。なお、負極活物質を結晶化ガラス法により作製する場合、負極活物質の前駆体であるガラス粉末と有機化合物を混合した後、焼成することで、導電性炭素の被覆と同時にガラス粉末の結晶化を行ってもよい。有機化合物としては、熱処理により炭素として残留するものであればよく、例えば、グルコース、クエン酸、アスコルビン酸、フェノール樹脂、界面活性剤等が挙げられる。特に負極活物質表面に吸着しやすい界面活性剤が好ましい。界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤のいずれでもよいが、特に、負極活物質表面への吸着性に優れた非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0062】
導電性炭素の含有量は、負極活物質100質量部に対して、0.01〜20質量部、0.03〜15質量部、0.05〜12質量部、特に0.07〜10質量部であることが好ましい。導電性炭素の含有量が少なすぎると、被覆状態が不十分となり、電子伝導性に劣る傾向がある。一方、炭素含有量が多すぎると、負極材料中に占める負極活物質の割合が小さくなるため、放電容量が低下しやすくなる。
【0063】
負極活物質表面に形成された導電性炭素被膜の厚さは1〜100nm、特に5〜80nmであることが好ましい。導電性炭素被膜の厚さが小さすぎると、充放電過程で被覆が消失して電池特性が低下するおそれがある。一方、導電性炭素被膜の厚さが大きすぎると、蓄電デバイスの放電容量や作動電圧が低下しやすくなる。
【0064】
なお、表面に導電性炭素被膜が形成された負極活物質は、ラマン分光法における1550〜1650cm−1のピーク強度Gに対する1300〜1400cm−1のピーク強度Dの比(D/G)が1以下、特に0.8以下であり、かつ、ピーク強度Gに対する800〜1100cm−1のピーク強度Fの比(F/G)が0.5以下、特に0.1以下であることが好ましい。ここで、ピーク強度Gは結晶質炭素に由来し、ピーク強度Dは非晶質炭素に由来する。よって、ピーク強度比D/Gの値が小さいほど、導電性炭素被膜が結晶質に近いことを意味し、電子伝導性が高い傾向がある。また、ピーク強度Fは負極活物質成分に由来する。よって、ピーク強度比F/Gの値が小さいほど、負極活物質表面が結晶質の導電性炭素被膜で被覆されている割合が高いことを意味し、電子伝導性が高い傾向がある。
【0065】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、タップ密度が0.3g/ml以上、特に0.5g/ml以上であることが好ましい。負極活物質のタップ密度が小さすぎると、電極密度が小さくなり、電極の単位体積あたりの放電容量が低下する傾向がある。上限は概ね負極活物質の真比重に相当する値になるが、粉末の粒塊化を考慮すると、現実的には5g/ml以下、特に4g/ml以下である。なお、本発明においてタップ密度は、タッピングストローク:10mm、タッピング回数:250回、タッピング速度:2回/1秒の条件により測定された値をいう。
【0066】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、結着剤や導電助剤を添加してペースト化することにより蓄電デバイス用負極材料として用いることができる。
【0067】
結着剤は、負極活物質同士、あるいは負極活物質と固体電解質を結着させ、充放電に伴う体積変化によって負極活物質が負極から脱離するのを防止するために添加される成分である。結着剤としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素系ゴム、スチレン−ブタンジエンゴム(SBR)等の熱可塑性直鎖状高分子;熱硬化性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;カルボキシメチルセルロース(カルボキシメチルセルロースナトリウム等のカルボキシメチルセルロース塩も含む。以下同様)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース及びヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン及びそれらの共重合体等の水溶性高分子が挙げられる。なかでも、結着性に優れる点から、熱硬化性樹脂、セルロース誘導体、水溶性溶性高分子が好ましく、工業的に広範囲に用いられる熱硬化性ポリイミドまたはカルボキシメチルセルロースがより好ましい。特に、安価であり、かつ、ペースト作製時に有機溶媒を必要としない低環境負荷のカルボキメチルセルロースが最も好ましい。これらの結着剤は一種類のみを使用してもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0068】
導電助剤としては、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラック、グラファイト等のカーボン粉末、炭素繊維等が挙げられる。
【0069】
また、本発明の蓄電デバイス用負極活物質には、後述するアルカリイオン伝導性固体電解質を混合して電極合材として使用することもできる。
【0070】
上記の蓄電デバイス用負極材料を、集電体としての役割を果たす金属箔等の表面に塗布する、あるいは、蓄電デバイス用負極材料を用いて負極層を形成後、負極層の表面に金属薄膜等を形成することで蓄電デバイス用負極として用いることができる。
【0071】
蓄電デバイス用負極は、別途準備した蓄電デバイス用正極と、電解質を組み合わせることにより、蓄電デバイスとして使用することができる。電解質としては、水系電解質、非水系電解質または固体電解質を用いることができる。
【0072】
水系電解質は、水に電解質塩を溶解してなるものである。電解質塩としては、正極から供給されるアルカリイオンがリチウムである場合、LiNO、LiOH、LiF、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiSO、CHCOOLi、LiBF、LiPF等が挙げられ、ナトリウムである場合、NaNO、NaSO、NaOH、NaCl、CHCOONa等が挙げられ、カリウムイオンである場合、KNO、KOH、KF、KCl、KBr、KI、KClO、KSO、CHCOOK、KBF、KPF等が挙げられる。これらの電解質塩は単独で使用してもよいし二種類以上を混合して用いてもよい。電解質塩濃度は、一般的には0.1M以上飽和濃度以下の範囲内で適宜調整される。
【0073】
非水電解質は、非水溶媒である有機溶媒及び/またはイオン液体と、当該非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。以下に、有機溶媒、イオン液体、電解質塩の具体例を列挙する。なお、下記の化合物名の後の[ ]内は略称を示す。
【0074】
有機溶媒としては、プロピレンカーボネート[PC]、エチレンカーボネート[EC]、1,2−ジメトキシエタン[DME]、γ−ブチロラクトン[GBL]、テトラヒドロフラン[THF]、2−メチルテトラヒドロフラン[2−MeHF]、1,3−ジオキソラン、スルホラン、アセトニトリル[AN]、ジエチルカーボネート[DEC]、ジメチルカーボネート[DMC]、メチルエチルカーボネート[MEC]、ジプロピルカーボネート[DPC]等が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で使用してもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。なかでも、低温特性に優れるプロピレンカーボネートが好ましい。
【0075】
イオン液体としては、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[TMPA−TFSI]、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[PP13−TFSI]、N−メチル−N−プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[P13−TFSI]、N−メチル−N−ブチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[P14−TFSI]等の脂肪族4級アンモニウム塩;1−メチル−3−エチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート[EMIBF4]、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[EMITFSI]、1−アリル−3−エチルイミダゾリウムブロマイド[AEImBr]、1−アリル−3−エチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート[AEImBF4]、1−アリル−3−エチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[AEImTFSI]、1,3−ジアリルイミダゾリウムブロマイド[AAImBr]、1,3−ジアリルイミダゾリウムテトラフルオロボラート[AAImBF4]、1,3−ジアリルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[AAImTFSI]等のアルキルイミダゾリウム4級塩等が挙げられる。
【0076】
電解質塩としては、PF、BF、(CFSO[TFSI]、CFSO[TFS]、(CSO[BETI]、ClO、AsF、SbF、B(C[BOB]、BFOCOOC(CF[B(HHIB)]等のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。これらの電解質塩は単独で使用してもよいし二種類以上を混合して用いてもよい。特に、安価であるPF、BFのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。電解質塩濃度は、一般的には0.5〜3M以下の範囲内で適宜調整される。
【0077】
なお、非水電解質には、ビニレンカーボネート[VC]、ビニレンアセテート[VA]、ビニレンブチレート、ビニレンヘキサネート、ビニレンクロトネート、カテコールカーボネート等の添加剤を含有してもよい。これらの添加剤は、負極活物質表面に保護膜(LiCO等)を形成する役割を有する。添加剤の量は、非水電解質100質量部に対して0.1〜3質量部、特に0.5〜1質量部であることが好ましい。添加剤の量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、添加剤の量が多すぎても、さらなる効果が得られにくい。
【0078】
固体電解質としては、正極から負極に供給されるアルカリイオンがリチウムイオンである場合、リチウムβ−アルミナ、リチウムβ”−アルミナ、LiS−Pガラスまたは結晶化ガラス、Li1+xAlGe2−x(PO結晶または結晶化ガラス、Li14Al0.4(Ge2−xTi1.6(PO結晶または結晶化ガラス、Li3xLa2/3−xTiO結晶または結晶化ガラス、Li0.8La0.6Zr(PO結晶または結晶化ガラス、Li1+xTi2−xAl(PO結晶または結晶化ガラス、Li1+x+yTi2−xAlSi(PO3−y結晶または結晶化ガラス、LiTiZr2−x(PO結晶または結晶化ガラス等が挙げられ、ナトリウムイオンである場合、ナトリウムβ−アルミナ、ナトリウムβ”−アルミナ、Na1+xZrSi3−x12結晶または結晶化ガラス、Na3.12SiZr1.880.12PO12結晶または結晶化ガラス、Na5.9Sm0.6Al0.10.3Si3.6結晶化ガラス等が挙げられ、カリウムイオンである場合、カリウムβ−アルミナ、カリウムβ”−アルミナ等が挙げられる。
【0079】
上記電解質のうち、非水系電解質及び固体電解質は電位窓が広いため好ましい。特に、アルカリイオン伝導性を有する固体電解質は電位窓が広いため、充放電時における電解質の分解に伴うガスの発生がほとんど生じることがなく、蓄電デバイスの安全性を高めることが可能である。
【0080】
水系電解質または非水系電解質を用いた電解液系の蓄電デバイスの場合、電極間にセパレータを設けることが好ましい。セパレータは絶縁性を有する材質からなり、具体的にはポリオレフィン、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ビニロン等のポリマーから得られる多孔質フィルムまたは不織布、繊維状ガラスを含むガラス不織布、繊維状ガラスを編んだガラスクロス、フィルム状ガラス等を用いることができる。
【0081】
正極に用いられる正極活物質としては、特に限定されるものはなく、目的とする蓄電デバイスの種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、ナトリウムイオン二次電池の場合、NaFeO、NaNiO、NaCoO、NaMnO、NaVO、Na(NiMn1−x)O、Na(FeMn1−x)O(0<x<1)、NaVPO、NaFeP、Na(PO等を挙げることができる。また、リチウムイオン二次電池の場合、LiCoO、LiNiO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiVO、LiCrO、LiMn、LiFePO、LiMnPO等を挙げることができる。
【0082】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質を用いた蓄電デバイスを充放電した後は、負極活物質はリチウム、ナトリウムまたはカリウムの酸化物や、Ti4+、Ti3+またはTi2+を含む酸化物等を含有する場合がある。例えば、本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、放電完了時に、酸化物換算のモル%で、RO(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも一種) 1〜75%、TiO 0.5〜59%、P+SiO+B 10〜65%を含有する。ここで、ナトリウムイオン二次電池の場合、「放電完了時」とは、本発明の蓄電デバイス用負極活物質を負極に用い、正極に金属ナトリウム、電解液に1M NaPF溶液/EC:DEC=1:1を用いた試験電池において0.1Cレートの定電流で0.5V(vs.Na/Na)まで充電した後、0.1Cレートの定電流で2.5Vまで放電した状態を指す。また、リチウムイオン二次電池の場合、「放電完了時」とは、本発明の蓄電デバイス用負極活物質を負極に用い、正極に金属リチウム、電解液に1M NaPF溶液/EC:DEC=1:1を用いた試験電池において0.1Cレートの定電流で1.5V(vs.Li/Li)まで充電した後、0.1Cレートの定電流で3.2Vまで放電した状態を指す。
【0083】
以上、主に蓄電デバイスがリチウムイオン二次電池やナトリウムイオン二次電池等のアルカリイオン二次電池の場合について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池またはナトリウムイオン二次電池等に用いられる負極活物質と非水系電気二重層キャパシタ用の正極材料とを組み合わせたハイブリットキャパシタ等にも適用できる。
【0084】
ハイブリットキャパシタであるリチウムイオンキャパシタ及びナトリウムイオンキャパシタは、正極と負極の充放電原理が異なる非対称キャパシタの一種である。リチウムイオンキャパシタは、リチウムイオン二次電池用の負極と電気二重層キャパシタ用の正極を組み合わせた構造を有している。ナトリウムイオンキャパシタは、ナトリウムイオン二次電池用の負極と電気二重層キャパシタ用の正極を組み合わせた構造を有している。ここで、正極は表面に電気二重層を形成し、物理的な作用(静電気作用)を利用して充放電するのに対し、負極は既述のリチウムイオン二次電池またはナトリウムイオン二次電池と同様にリチウムイオンまたはナトリウムイオンの化学反応(吸蔵及び放出)により充放電する。
【0085】
リチウムイオンキャパシタ及びナトリウムイオンキャパシタの正極には、活性炭、ポリアセン、メソフェーズカーボン等の高比表面積の炭素質粉末等からなる正極活物質が用いられる。一方、負極には、本発明の負極活物質を用いることができる。
【0086】
なお、リチウムイオンキャパシタまたはナトリウムイオンキャパシタに本発明の負極活物質を使用する場合、負極活物質には予めリチウムイオンまたはナトリウムイオンと電子を吸蔵させる必要がある。その手段は特に限定されず、例えば、リチウムイオンやナトリウムイオンと電子の供給源である金属リチウム極や金属ナトリウム極をキャパシタセル内に配置し、本発明の負極活物質を含む負極と直接または導電体を通じて接触させてもよいし、別のセルで本発明の負極活物質に予めリチウムイオンやナトリウムイオンと電子を吸蔵させたうえで、キャパシタセルに組み込んでもよい。
【実施例】
【0087】
以下、本発明の蓄電デバイス用負極活物質の一例として、非水系電解質及び固体電解質を用いた二次電池に適用した実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0088】
非水系電解質を用いた二次電池
表1〜8は本発明の実施例(No.1〜36)及び比較例(No.37、38)を示す。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
【表5】
【0094】
【表6】
【0095】
【表7】
【0096】
【表8】
【0097】
(1)負極活物質の作製
(a)結晶化ガラス法による作製
表1、2、4〜8に示す各組成となるように、原料として各種酸化物、炭酸塩原料等を用いて原料粉末を調製した。原料粉末を白金ルツボに投入し、電気炉を用いて大気中にて1200〜1500℃で60分間の溶融を行った。次いで、溶融ガラスを一対の回転ローラー間に流し出し、急冷しながら成形し、厚み0.1〜2mmのフィルム状の溶融固化体を得た。フィルム状溶融固化体をボールミルで粉砕した後、空気分級することで、平均粒子径2μmの負極活物質前駆体粉末を得た。
【0098】
上記で得られた負極活物質前駆体粉末100質量部に対して、カーボン源として非イオン性界面活性剤であるポリエチレンオキシドノニルフェニルエーテル(HLB値:13.3、質量平均分子量:660)を21.4質量部(炭素換算12質量部に相当)及びエタノール10質量部とを十分に混合した後、100℃で約1時間乾燥させた。その後、窒素雰囲気下で600℃、1時間(但し、No.11〜36については表4〜7に記載された温度及び時間)焼成を行うことにより、非イオン性界面活性剤の炭化と粉末の結晶化を同時に行い、表面が炭素で被覆された負極活物質粉末を得た。
【0099】
(b)固相反応法による作製
表3に記載の組成となるように、炭酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、酸化チタンを秤量し、原料バッチを調整した。遊星ボールミルを用いて原料バッチをエタノール中で混合した後、100℃で乾燥させた。乾燥後の原料バッチを電気炉中にて900℃で6時間仮焼成することで脱ガスした。仮焼成した原料バッチを500kgf/cmで加圧成形後、大気雰囲気中、800℃で5時間焼成した。得られた焼結体に対し、φ20mmのZrO玉石を使用したボールミル粉砕を5時間行い、空気分級することで平均粒子径D50が2μmの負極活物質粉末を得た。
【0100】
上記で得られた負極活物質粉末100質量部に対して、カーボン源として非イオン性界面活性剤であるポリエチレンオキシドノニルフェニルエーテル(HLB値:13.3、質量平均分子量:660)を21.4質量部(炭素換算12質量部に相当)及びエタノール10質量部とを十分に混合した後、100℃で約1時間乾燥させた。その後、窒素雰囲気下で600℃、1時間焼成を行うことにより、非イオン性界面活性剤の炭化を行い、表面が炭素で被覆された負極活物質粉末を得た。
【0101】
(c)結晶構造の同定
得られた負極活物質粉末について粉末X線回折測定することにより構造を同定した結果を表1〜8に示す。また、No.1の試料のXRDパターンを図1に示す。なお、図1の下段にNaTi(PO結晶(PDFカード番号39−0178)のXRDパターンも併せて示す。
【0102】
(2)負極の作製
上記で得られた負極活物質粉末に対し、導電助剤として導電性カーボンブラック(SuperC65、Timcal社製)、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを、粉末:導電助剤:結着剤=85:5:10(質量比)となるように秤量し、N−メチルピロリドン(NMP)に分散した後、自転・公転ミキサーで十分に撹拌してスラリー化し、負極材料を得た。
【0103】
次に、隙間125μmのドクターブレードを用いて、得られた負極材料を負極集電体である厚さ20μmの銅箔上にコートし、70℃の乾燥機で真空乾燥後、一対の回転ローラー間に通してプレスすることにより電極シートを得た。この電極シートを電極打ち抜き機で直径11mmに打ち抜き、温度150℃にて8時間、減圧下で乾燥させて円形の負極を得た。
【0104】
(3)試験電池の作製
ナトリウムイオン二次電池(NIB)用試験電池は以下のようにして作製した。上記で得られた負極を、銅箔面を下に向けてコインセルの下蓋に載置し、その上に70℃で8時間減圧乾燥した直径16mmのポリプロピレン多孔質膜からなるセパレータ、及び、対極である金属ナトリウムを積層し、試験電池を作製した。電解液としては、1M NaPF溶液/EC:DEC=1:1(EC=エチレンカーボネート、DEC=ジエチルカーボネート)を用いた。なお試験電池の組み立ては露点温度−70℃以下の環境で行った。
【0105】
リチウムイオン二次電池(LIB)用試験電池は以下のようにして作製した。上記で得られた負極を、銅箔面を下に向けてコインセルの下蓋に載置し、その上に70℃で8時間減圧乾燥した直径16mmのポリプロピレン多孔質膜からなるセパレータ、及び、対極である金属リチウムを積層し、試験電池を作製した。電解液としては、1M LiPF溶液/EC:DEC=1:1(EC=エチレンカーボネート、DEC=ジエチルカーボネート)を用いた。なお試験電池の組み立ては露点温度−50℃以下の環境で行った。
【0106】
(4)充放電試験
ナトリウムイオン二次電池用試験電池は、30℃で開回路電圧から0.5VまでCC(定電流)充電を行い、単位質量当たりの負極活物質へ充電された電気量(初回充電容量)を求めた。次に、0.5Vから2.5VまでCC放電させ、単位質量当たりの負極活物質から放電された電気量(初回放電容量)を求めた。但し、No.15〜36については、開回路電圧から0.01Vまで充電を行うことにより初回充電容量を求め、次に0.01Vから2.5VまでCC放電させて初回放電容量を求めた。なお、Cレートは0.1Cとした。
【0107】
リチウムイオン二次電池用試験電池は、30℃で開回路電圧から1.5VまでCC(定電流)充電を行い、単位質量当たりの負極活物質へ充電された電気量(初回充電容量)を求めた。次に、1.5Vから3.2VまでCC放電させ、単位質量当たりの負極活物質から放電された電気量(初回放電容量)を求めた。なお、Cレートは0.1Cとした。
【0108】
表1〜8に充放電特性の結果を示す。また、No.1、15、18、20、22、24、37の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線をそれぞれ図2〜8に示す。表において、「放電容量」は初回放電容量、「放電電圧」は初回放電時の平均電圧、「初回充放電効率」は初回充電容量に対する初回放電容量の割合、「放電容量維持率」は初回放電容量に対する100サイクル目の放電容量の割合をそれぞれ意味する。
【0109】
表1〜8、図2〜8から明らかなように、実施例であるNo.1〜36は、ナトリウムイオン二次電池用試験電池での放電電圧が1.6V以下、放電容量維持率が72%以上、リチウムイオン二次電池用試験電池での放電電圧が1.92V以下、放電容量維持率が94%以上であり、各特性に優れていた。一方、比較例であるNo.37、38は、ナトリウムイオン二次電池用試験電池での放電電圧が2.15V以上、放電容量維持率が69%以下、リチウムイオン二次電池用試験電池での放電電圧が2.59V以上、放電容量維持率が69%以下であり、実施例と比較して劣っていた。
【0110】
固体電解質を用いたナトリウムイオン二次電池
表9、10は本発明の実施例(No.39〜43)を示す。
【0111】
【表9】
【0112】
【表10】
【0113】
(1)負極活物質前駆体粉末の作製
No.39〜41については、メタリン酸ソーダ(NaPO)、酸化チタン(TiO)、炭酸ソーダ(NaCO)、オルソリン酸(HPO)を原料とし、モル%で、NaO 48.9%、TiO 19.6%、及びP 31.5%の組成となるように原料粉末を調合し、1250℃にて45分間、大気雰囲気中にて溶融を行った。No.42、43については、表10に示す各組成となるように、原料として各種酸化物、炭酸塩原料等を用いて原料粉末を調合し、1350℃にて60分間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、溶融ガラスを一対の回転ローラー間に流し出し、急冷しながら成形し、厚み0.1〜1mmのフィルム状のガラスを得た。このフィルム状ガラスに対し、φ20mmのZrO玉石を使用したボールミル粉砕を5時間行い、目開き120μmの樹脂製篩に通過させ、平均粒子径3〜15μmのガラス粗粉末を得た。さらに、このガラス粗粉末に対し、粉砕助剤にエタノールを用い、φ3mmのZrO玉石を使用したボールミル粉砕を80時間行うことで、平均粒子径0.7μmのガラス粉末(負極活物質前駆体粉末)を得た。XRD測定の結果、ガラス粉末は非晶質であることが確認された。
【0114】
(2)ナトリウムイオン伝導性固体電解質の作製
(LiO安定化β”アルミナ)
組成式:Na1.6Li0.34Al10.6617のLiO安定化β”アルミナ(Ionotec社製)を乾式研磨して、厚み0.2mmに加工することにより固体電解質シートを得た。また、得られた固体電解質シートを遊星ボールミルを用いて粉砕し、目開き10μmの篩に通過させることで、別途、固体電解質粉末(平均粒子径13μm)を作製した。
【0115】
(MgO安定化β”アルミナ)
炭酸ナトリウム(NaCO)、酸化アルミニウム(Al)及び酸化マグネシウム(MgO)を原料とし、モル%で、NaO 13.0%、Al 80.2%、及びMgO 6.8%となるように原料粉末を調合し、エタノール中でφ5mmのAl玉石を使用したボールミルで粉砕及び混合を10時間行った。得られた粉末を、厚み0.2mmのシート状に成形後、40MPaの圧力で等方加圧成形した後、大気雰囲気中1640℃にて1時間熱処理を行うことにより、MgO安定化β”アルミナからなる固体電解質シートを得た。
【0116】
また、得られた固体電解質シートを遊星ボールミルを用いて粉砕し、目開き10μmの篩に通過させることで、別途、固体電解質粉末(平均粒子径12μm)を得た。得られた固体電解質粉末について粉末X線回折パターンを確認したところ、空間群R−3mに属する三方晶系結晶である((Al10.32Mg0.6816)(Na1.68O))由来の回折線が確認された。
【0117】
(NASICON結晶)
メタリン酸ナトリウム(NaPO)、イットリア安定ジルコニア((ZrO0.97(Y0.03)、炭酸ナトリウム(NaCO)及び二酸化ケイ素(SiO)を原料とし、モル%で、NaO 25.3%、ZrO 31.6%、Y 1.0%、P 8.4%、SiO 33.7%となるように原料粉末を調合し、エタノール中でφ5mmのAl玉石を使用したボールミルで粉砕及び混合を10時間行った。得られた粉末を、厚み0.2mmのシート状に成形後、40MPaの圧力で等方加圧成形した後、大気雰囲気中1250℃にて2時間熱処理を行うことにより、NASICON結晶からなる固体電解質シートを得た。
【0118】
また、得られた固体電解質シートを遊星ボールミルを用いて粉砕し、目開き10μmの篩に通過させることで、別途、固体電解質粉末(平均粒子径12μm)を得た。固体電解質結晶について粉末X線回折パターンを確認したところ、空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na3.05ZrSi2.050.9512)由来の回折線が確認された。
【0119】
(3)固体型ナトリウムイオン二次電池の作製
上記で得られた負極活物質前駆体粉末、固体電解質粉末、導電性炭素としてアセチレンブラック(TIMCAL社製 SUPER C65)をそれぞれ表9、10に記載の割合で秤量し、遊星ボールミルを用いて、300rpmで30分間混合した。得られた混合粉末100質量部に、10質量部のポリプロピレンカーボネート(住友精化株式会社製)を添加し、さらにN−メチルピロリドンを30質量部添加して、自転・公転ミキサーを用いて十分に撹拌し、スラリー化した。
【0120】
得られたスラリーを、表9、10に記載の固体電解質シートの一方の表面に、面積1cm、厚さ80μmで塗布し、70℃で3時間乾燥させた。次に、カーボン容器に入れて、窒素雰囲気中、600℃で1時間焼成することにより、負極活物質前駆体粉末を結晶化させ、負極層を形成した。なお、上記の操作はすべて露点−50℃以下の環境で行った。
【0121】
負極層を構成する材料について粉末X線回折パターンを確認したところ、No.39〜41についてはNaTi(PO結晶由来の回折線が確認され、No.42、43については表10に記載の結晶由来の回折線が確認された。なお、いずれの負極においても、使用した各固体電解質粉末に由来する結晶性回折線が確認された。
【0122】
次に、負極層の表面にスパッタ装置(サンユー電子株式会社製 SC−701AT)を用いて厚さ300nmの金電極からなる集電体を形成した。さらに、露点−70℃以下のアルゴン雰囲気中にて、対極となる金属ナトリウムを、固体電解質層の負極層が形成された表面と反対側の表面に圧着した。得られた積層体をコインセルの下蓋の上に載置した後、上蓋を被せてCR2032型試験電池を作製した。
【0123】
(4)充放電試験
作製した試験電池について、60℃で開回路電圧から0.7VまでのCC(定電流)充電を行い、単位質量当たりの負極活物質へ充電された電気量(初回充電容量)を求めた。次に、放電は0.7Vから2.5VまでCC放電を行い、単位質量当たりの負極活物質から放電された電気量(初回放電容量)を求めた。なお本試験では、Cレートは0.01Cとし、「放電容量維持率」は初回放電容量に対する10サイクル目の放電容量の割合で評価した。結果を表9、10に示す。
【0124】
表9、10から明らかなように、No.39〜43では、放電電圧が1.29V以下、放電容量維持率が98%以上と優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、携帯型電子機器、電気自動車、電気工具、バックアップ用非常電源等に使用される蓄電デバイス用として好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8