特許第6873410号(P6873410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6873410PAR1阻害をメカニズムとする異所性骨化の治療薬剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873410
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】PAR1阻害をメカニズムとする異所性骨化の治療薬剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/443 20060101AFI20210510BHJP
   A61K 31/517 20060101ALI20210510BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20210510BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20210510BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   A61K31/443
   A61K31/517
   A61K31/713
   A61P19/08
   A61P43/00 111
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-551922(P2017-551922)
(86)(22)【出願日】2016年11月17日
(86)【国際出願番号】JP2016084101
(87)【国際公開番号】WO2017086385
(87)【国際公開日】20170526
【審査請求日】2019年11月6日
(31)【優先権主張番号】特願2015-228232(P2015-228232)
(32)【優先日】2015年11月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100174791
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 敬義
(72)【発明者】
【氏名】江良 択実
(72)【発明者】
【氏名】木ト 貴之
【審査官】 大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】 JOURNAL OF BONE AND MINERAL RESEARCH,1999年,Vol. 14, No.8,p1320-1329
【文献】 Eur J Clin Pharmacol,2012年,Vol.68,p.291-300
【文献】 J. Jpn. Orthop. Assoc.,2014年,Vol.88, No.8,p.S1475, 1-PD-5
【文献】 ARTHRITIS & RHEUMATISM,2012年,Vol.64, No. 10,p.3344-3354
【文献】 Acta Universitatis Medicinalis Anhui,2015年 5月,Vol.50, No.5,p.608-611
【文献】 THE BONE,2005年,Vol.19, No.1,p.35-39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)から(3)のいずれかの化合物をPAR1阻害の有効成分とし,PAR1を阻害することで異所性骨化を治療ないし予防することを特徴とする異所性骨化用薬剤。

(1) ethyl [(1R,3aR,4aR,6R,8aR,9S,9aS)-9-{(1E)-2-[5-(3-fluorophenyl)pyridin-2-yl]ethen-1-yl}-1-methyl-3-oxododecahydronaphtho[2,3-c]furan-6-yl]carbamate,またはその塩

(2) SCH79797(N3-Cyclopropyl-7-[[4-(1-methylethyl)phenyl]methyl]-7H-pyrrolo[3,2-f]quinazoline-1,3-diamine)

(3) PAR1発現を抑制するsiRNA
【請求項2】
異所性骨化が,進行性骨化性線維異形成症による症状であることを特徴とする請求項1に記載の異所性骨化用薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,PAR1阻害をメカニズムとする異所性骨化の治療薬剤に関する。より詳細にいうと本発明は,FOPに特徴的にみられる病態である異所性骨化を,治療ないし予防するための薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
進行性骨化性線維異形成症(Fibrodysplasia ossificans progressiva,以下,「FOP」)は,全身の軟部組織や筋肉が進行性に骨化する疾患である。FOPでは,通常,骨化することがない軟部組織が,外傷等による炎症をきっかけに骨化する異所性骨化という現象が生じることが特徴として挙げられる。FOPでは,進行性の骨化により,四肢における関節の可動性が低下したり,背中の変形などが生じる。
【0003】
最近の研究によりFOPは,ALK2(activin receptor-like kinase 2)における遺伝子の点変異により惹起される疾患であることが明らかとなってきた。
すなわち,ALK2は,骨誘導因子として知られるBMP(bone morphogenetic protein)の1回膜貫通型受容体として機能するリン酸化酵素である。通常,ALK2は,細胞外領域でBMPと結合することにより活性化され,細胞内に骨形成シグナルを伝達する。FOP患者では,このALK2の遺伝子に点変異が起こり,R206HやG356Dと呼ばれる変異型のALK2タンパクが生じる。これらの変異型ALK2では,細胞外領域におけるBMPと結合しなくても活性化されており,常に,骨形成シグナルを伝達してしまう。結果として,骨誘導が異常に促進され,軟部組織や筋肉等の骨化が進行してしまうことが明らかとなっている。
【0004】
このようにFOP発症のメカニズムが明らかとなってきた一方,FOPにおける異所性骨化のメカニズムについては,ほとんど明らかになっていない。加えて,FOPでは,未だ,有効な治療法が確立されていないのが現状である。
すなわち,FOP治療薬の開発は,発症要因であるALK2を標的としたキナーゼ阻害剤に焦点をあてて,開発が行われてきた。しかしながら,現在まで,臨床の場にて有効な治療薬は開発されていない。
そもそも,ALK2とBMPによる骨形成シグナル伝達は,正常な発達時における骨形成にも重要な役割を果たしている。このことから,ALK2阻害薬を成長期の子供に投与すると,成長に伴う正常な骨格形成に悪影響を及ぼすことが危惧される。すなわち,ALK2阻害をメカニズムとした薬剤開発は,有効性が期待されるものの,安全性の観点からの懸念がぬぐいきれないものである。
【0005】
このように,FOPにおいて臨床使用される治療薬は未だ開発されていない。これに加えて,外科的治療は,手術時の侵襲によって骨化が促進されるため行うことができない。これらの事情からFOPでは,未だ,有効な治療法が確立されていないのが現状である。そのため,FOPでは,乳児期から学童期にかけて発症し,40歳ぐらいまでには拘束性の呼吸障害によって高い確率で死亡してしまう。このことから,FOPは,難治性疾患として指定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/039087号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hamasaki M, Era T. et al. Stem Cells. 2012 Nov;30(11):2437-49. doi: 10.1002 / stem.1221.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者は,FOPの治療法として,iPS細胞(induced pluripotent stem cells)を用いた研究を行い,FOP患者の皮膚線維芽細胞からはiPS細胞の樹立が困難なことを明らかにしている(特許文献1,非特許文献1)。発明者は,この知見により,物質のスクリーニング方法にかかる発明を完成させたが,FOP患者の皮膚線維芽細胞において,なぜ,iPS細胞の樹立が困難であるかの根本的な原因は不明であった。
【0009】
上記事情を背景として本発明では,FOP患者の皮膚線維芽細胞からiPS細胞の樹立が困難であることの原因を解明し,FOP患者における病態メカニズムをより明らかにするとともに,得られた知見を活かした新たな治療薬や治療方法,診断方法等の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは,鋭意研究の結果,FOP患者においては,iPS細胞誘導時,ヒストンH3のK4ならびにK27におけるメチル化が低下していることを発見した。
【0011】
さらに発明者らは,ヒストンH3K27のメチル化低下に関連して,FOP特異的に発現上昇が起こる分子群を解析したところ,新たにF2rという遺伝子を同定した。F2rは,protease-activated receptor1(PAR1)と呼ばれる血液凝固因子であるトロンビン等によって活性化される受容体をコードしている遺伝子である。トロンビンは,外傷部位で大量に分泌されるたんぱく質である。
【0012】
FOPにおけるF2rの発現上昇から発明者らは,外傷をきっかけとして起こる異所性骨化が,PAR1を介している可能性があると考えた。発明者らは,この仮説について検証を行い,これが正しいことを明らかにし,発明を完成させたものである。
本発明は,下記の構成からなる。
本発明の第一の構成は,PAR1を阻害することにより,異所性骨化を治療ないし予防することを特徴とする薬剤である。
【0013】
本発明の第二の構成は,PAR1阻害が,PAR1のアンタゴニストによりなされることを特徴とする第一の構成に記載の薬剤である。
本発明の第三の構成は,PAR1アンタゴニストが,ethyl [(1R,3aR,4aR,6R,8aR,9S,9aS)-9-{(1E)-2-[5-(3-fluorophenyl)pyridin-2-yl]ethen-1-yl}-1-methyl-3-oxododecahydronaphtho[2,3-c]furan-6-yl]carbamate,またはその塩であることを特徴とする第二の構成に記載の薬剤である。
本発明の第四の構成は,異所性骨化が,進行性骨化性線維異形成症による症状であることを特徴とする第一から第三の構成に記載の薬剤である。
本発明の第五の構成は,第一ないし第四の構成に記載の薬剤を用いて,異所性骨化を治療ないし予防する方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により,FOP患者の皮膚線維芽細胞からiPS細胞の樹立が困難であることの原因,ならびにFOP患者における異所性骨化のメカニズムが明らかになるとともに,異所性骨化の抑制ないし予防効果が期待できる薬剤の開発が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】FOP患者のiPS細胞誘導時におけるヒストンH3のメチル化の様子を示した図
図2】血清存在下,BMP6刺激によるFOP由来線維芽細胞の骨芽細胞への分化を比較検討した免疫染色図
図3】血清存在下,BMP6刺激によるFOP由来線維芽細胞におけるPAR1のmRNA発現量を比較検討した図
図4】血清非存在下,BMP6ないしTFLLR刺激によるFOP由来線維芽細胞の骨芽細胞への分化を比較検討した免疫染色図
図5】血清非存在下,BMP6ないしTFLLR刺激によるFOP由来線維芽細胞の骨芽細胞への分化をALP活性の測定により比較検討した図
図6】血清非存在下,PAR1ないしPI3K阻害剤によるFOP由来線維芽細胞の骨芽細胞への分化を比較検討した免疫染色図
図7】血清非存在下,PAR1ないしPI3K阻害剤によるFOP由来線維芽細胞の骨芽細胞への分化をALP活性の測定により比較検討した図
図8】インビボモデルを用いたPAR1阻害剤(Vorapaxar)の異所性骨化への影響をCTにより比較検討した図
図9】インビボモデルを用いたPAR1阻害剤(Vorapaxar)の異所性骨化への影響をグラフを用いて比較検討した図
図10】各siRNA投与を行ったインビボモデルにおけるCT画像を比較検討した図
図11】CT画像から算出されたテラトーマ容量ならびにテラトーマ内骨容量を比較検討した図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下,本発明の薬剤について説明を行う。
【0017】
発明者らは,下記実験事実を明らかにすることにより,FOPにおいて,外傷等による炎症をきっかけとして生じる異所性骨化が,PAR1を介して起こっているという新たな知見を見出したものである。
(1) FOP由来線維芽細胞は,血清存在下におけるBMP6刺激により,健常者由来線維芽細胞と比較して,骨芽細胞への分化が大きく進むとともに,PAR1の発現量が大きく増加する。
(2) 血清中に存在するPAR1シグナルを増強するトロンビン等の影響を排除するため,無血清にて上記(1)と同様の実験を行うと,BMP6刺激による骨芽細胞誘導効果は劇的に低下するが,BMP6とともにPAR1アゴニストによる刺激を合わせて行うと,骨芽細胞への分化が血清添加時と同等にまで回復する。
(3) さらに,PAR1阻害剤またはPAR1の下流で活性化されるPI3Kの阻害剤により,BMP6とTFLLR添加による骨芽細胞誘導は強く抑制される。
(4) FOP患者由来の線維芽細胞を用いたテラトーマモデルマウスにおいて,PAR1阻害剤によりテラトーマ内の骨容量増加が抑制される。加えて,siRNAを用いたPAR1発現抑制により,ALK2発現抑制と同様に,テラトーマ内の骨容量増加が抑制される。
【0018】
本発明の薬剤は,かかる知見に基づくものであり,PAR1を阻害することにより,異所性骨化を治療ないし予防することを特徴とする。すなわち,本発明は,かかる知見に基づくPAR1阻害をメカニズムとする薬剤を投与することにより,異所性骨化を治療,抑制,予防するものである。
本発明において異所性骨化とは,通常においては骨化することがない軟部組織が,外傷等による炎症をきっかけに骨化する現象として定義される。異所性骨化は,FOPに代表的にみられる病態であり,本発明についてもFOPを例に挙げ説明を行っている。しかるに,本発明の対象疾患は,FOPに限定されるものではなく,発明者により見出された前述の知見から導かれるメカニズムに基づいた異所性骨化を有する疾患すべてが対象として含まれるものである。
PAR1を阻害するとは,PAR1を,そのアンタゴニストの結合などにより直接的に阻害することに加え,PAR1の上流分子を阻害・抑制することにより,間接的にPAR1を阻害することを含む概念として定義される。
【0019】
本発明の薬剤の剤形について,種々の剤形を用いることができるが,錠剤やカプセル剤,散剤などの経口摂取用製剤の形態を取ることが好ましく,その他,注射用製剤や経皮吸収型製剤などの形態をとることもできる。また,本発明の薬剤が投与可能な期間は,年齢や症状,剤形等を勘案して,薬剤としての有効性が十分発揮しうる限り特に限定されないが,例えば2日以上の連続投与,好ましくは数ヶ月以上,より好ましくは複数年以上に渡るような,長期間に渡って投与できることが望ましい。
【0020】
PAR1のアンタゴニストとは,PAR1の受容体に結合し,シグナル伝達を遮断・抑制する分子として定義される。本発明は,薬剤の組成成分そのものにPAR1アンタゴニスト分子を含む場合に限定されるものではない。すなわち,本発明の趣旨に鑑み,薬物代謝等により,体内においてPAR1アンタゴニストに変化して薬効を示す,いわゆるDDS化された分子が組成成分の一つである場合を含むものである。
PAR1アンタゴニストとしては,例えば,SCH79797(N3-Cyclopropyl-7-[[4-(1-methylethyl)phenyl]methyl]-7H-pyrrolo[3,2-f]quinazoline-1,3-diamine)や,Vorapaxar(ethyl [(1R,3aR,4aR,6R,8aR,9S,9aS)-9-{(1E)-2-[5-(3-fluorophenyl)pyridin-2-yl]ethen-1-yl}-1-methyl-3-oxododecahydronaphtho[2,3-c]furan-6-yl]carbamate),あるいはこれらの塩などが挙げられる。
PAR1アンタゴニストの塩としては,溶解性の向上や薬剤としての安定性など,薬効成分としての有用性を考慮した種々の塩形態を採用することができる。前述するSCH79797の場合は二塩酸塩(SCH79797 dihydrochloride),Vorapaxarの場合は硫酸塩(Vorapaxar sulfate),これらの塩形態を好ましくは採用することができる。
Vorapaxarを例に挙げると,投与方法はこれに限定されないが,例えば,この所定量を,所定の感覚で経口摂取することにより,FOPにおける異所性骨化を抑制ないし予防することが期待できる。
【実施例】
【0021】
以下,本発明について,実施例を用いて,詳述する。
【0022】
<<I.実験材料ならびに実験方法>>
<1.皮膚由来の線維芽細胞の生成>
(1) 倫理委員会に承認されたプロトコールにより,インフォームドコンセントの下,FOP患者及び健常者の皮膚生検の外植片から線維芽細胞を作出した。
(2) 患者及び健常者からの皮膚試料を細かく刻み,10%ウシ胎児血清(FBS)を添加したDMEM培地で培養した。
(3) 線維芽細胞が出現したことを確認した後,初期化遺伝子を導入するために線維芽細胞を増殖させ,その後,10%DMSO+90%FBSからなる凍結溶液に入れ,凍結保存した。
【0023】
<2.iPS細胞の維持及び生成>
(1) 20%のKNOCKOUT(商標)血清置換物(KSR,インビトロゲン),2mMのL-グルタミン,1×10-4Mの非必須アミノ酸(NEAA,シグマ),1×10-4Mの2-メルカプトエタノール(シグマ),0.5%のペニシリンとストレプトマイシン(日本,ナカライテスク),及び5ng/mLの基本線維芽細胞増殖因子(bFGF,和光,日本)を添加したDMEM/F12(シグマ)を含有するヒトiPS培地において,マイトマイシンC(MMC)処理したMEF支持細胞上でヒトiPS細胞を維持した。
(2) N. Fusaki, H. Ban, A. Nishiyama, K. Saeki, M. Hasegawa, Proc. Jpn. Acad. Ser., B. Phys. Biol. Eci., 85, 348 (2009)に記載される方法により,ヒト由来の線維芽細胞からiPS細胞を生成した。
(3) 感染1日前に,6穴プレートにおいてウエル当たり5×105個のヒト線維芽細胞を播種し,その後,感染多重度(multiplicity of infection ; MOI)3にて,下記センダイウイルス(SeV)ベクターを細胞に感染させた。すなわち,Oct3/4遺伝子,Sox2遺伝子,K1f4遺伝子及びc-Myc遺伝子を含むSeVベクターについて,N. Fusaki, H. Ban, A. Nishiyama, K. Saeki, M. Hasegawa, Proc. Jpn. Acad. Ser., B. Phys. Biol. Eci., 85, 348 (2009)に記載される方法に従い,作成を行った。
(4) 感染の7日後,トリプシンによって感染させた線維芽細胞を回収し,60mmのシャーレ当たり5.4×104個の細胞,或いは100mmのシャーレ当たり1〜2×105個の細胞をMMC処理したMEF支持細胞上に播種した。翌日,ヒトiPS細胞培地に置き換え,感染の30日後まで培養を継続し,コロニーを観察した。
(5) iPS細胞の生成に対する骨形成タンパク質(BMP-4,6,及び7)の影響は,感染8日目に置き換える上記ヒトiPS細胞培地に,それぞれ,BMP-4(10ng/ml),BMP-6(50ng/ml),及びBMP-7(10ng/ml)を添加した培地を用い,30日目まで培養することにより確認した。また,一部の実験では,ALK2キナーゼ阻害剤であるLDN-193189(STEMGENT;ステムジェント)を200nMの濃度で上記ヒトiPS培地に添加した。
【0024】
<3.免疫ブロット及び免疫沈降解析>
(1) 免疫ブロットにおいては,細胞を溶解バッファー(62.5mM Tris-HCl,pH 7.4,2% SDS,0.05% 2ME,10% グリセロール,0.00125%臭素)にて溶解し,超音波を当て,4℃,15000rpm,条件下で10分間遠心分離を行った。
(2) 得られた上清をSDS-PAGEにより,目的タンパクをPVDFメンブレン上にて分離した。
(3) メンブレンを抗血清と共にインキュベートし,免疫反応バンドをEnhanced Chemiluminescence detection(PerkinElmer社)を用いて可視化した。バンドの濃さはImage J software(米国NIH)を用いて評価した。
(4) 免疫沈降は,Smadsを過剰発現させた293T細胞とKDM6B又はLSD1を,RIPAバッファー(50mM Tris-HCl pH 7.4,1 mM EDTA,150mM NaCl,1% NP-40,protease/phosphatase inhibitor cocktail)に溶解し,必要な抗体と共に,4℃下で回転台にて一晩インキュベートした。その後,プロテインG樹脂を加え,4℃下で回転台にて2時間インキュベートした。樹脂を3回PMSで洗浄し,ウェスタンブロット用のバッファーに溶解させた。
【0025】
<4.クロマチン免疫沈降及びChIP-ChIP解析>
(1) 細胞を1%ホルムアルデヒドに作用させ,タンパク質のDNAへの固定化(クロスリンク)を行った。得られた溶解液を抗ヒストンメチル抗体と共にインキュベートした。精製したDNA断片はPCR増幅を行った。
(2) ChIP-ChIP解析においては,FOP由来線維芽細胞をRIPAバッファーにより溶解し,抗FLAGアフィニティゲル(シグマ社A2220)と共に4℃下で回転台にて一晩インキュベートした。得られたゲルを5回TBSで洗浄し,100ng/mlのFLAGペプチド(シグマ社F3290)を含むRIPAバッファーを加え,4℃下で回転台にて2時間インキュベートした。得られた混合物をTBSで3回洗浄し,500ng/ml の3 x FLAGペプチド(シグマ社F4799)を含むTBSバッファーを加え,4℃下で回転台にて2時間インキュベートした。この作業を3回繰り返した。
【0026】
<<II.実験結果>>
<実験1.FOP由来線維芽細胞におけるヒストンH3のメチル化の検討>
(1) FOP由来線維芽細胞のiPS細胞誘導を行い,ヒストンH3のメチル化の様子を調べた。比較対象として,正常線維芽細胞を用いた。
(2) 図1に結果を示す。正常線維芽細胞(N3)において,iPS細胞への誘導がすすむとともに,ヒストンH3のK4ならびにK27のバンドが濃くなっていった。
(3) 一方,FOP由来線維芽細胞(F1,F2)においては,ヒストンH3のK4ならびにK27のバンドの様子に変化はみられなかった。
(4) また,K9,K36,K79においては,正常線維芽細胞とFOP由来線維芽細胞の間でのバンドの違いはみられなかった。
(5) これらの結果から,FOP由来線維芽細胞のiPS細胞誘導の樹立が困難な理由として,ヒストンH3のK4ならびにK27のメチル化異常が原因の一つであることが示唆された。
【0027】
<実験2.血清存在下,BMP6刺激による骨芽細胞分化の比較>
(1) 血清存在下,BMP6の有無により,FOP由来線維芽細胞が骨芽細胞への分化の様子を,健常者由来線維芽細胞と比較して検討を行った。
(2) 図2に,骨芽細胞のマーカーであるアルカリフォスファターゼ(ALP)の免疫染色の結果を示す。
(3) 健常者由来線維芽細胞(Normal)では,ほとんど染まっておらず,骨芽細胞への分化誘導が進んでいないことが分かった(図2a)。一方,FOP由来線維芽細胞(FOP)においては,健常者由来線維芽細胞と比較して強く染まっており,骨芽細胞への誘導が容易に進んでいることが分かった(図2b)。
【0028】
<実験3.血清存在下,BMP6刺激によるPAR1の発現比較>
(1) 血清存在下,BMP6の有無により,FOP由来線維芽細胞におけるPAR1の発現量に変化がみられるかどうかを,健常者由来線維芽細胞と比較して検討を行った。
(2) 図3に,結果を示す。図3は,BMP6(50ng/mL)で各時間処理したそれぞれの線維芽細胞におけるmRNAの発現量をqPCRで解析を行った結果をグラフで示したものである。
(3) BMP6刺激により,健常者由来線維芽細胞(Normal)でのPAR1の発現増加は,経時的に有意に増加していたが,その増加は穏やかであった。一方,FOP由来線維芽細胞(FOP)では,健常者由来線維芽細胞と比較して,顕著に増加していた。
【0029】
<実験4.血清非存在下,BMPならびにPAR1アゴニスト刺激による骨芽細胞分化の比較>
(1) 血清非存在下,BMP6の有無により,FOP由来線維芽細胞の骨芽細胞への分化の様子を,健常者由来線維芽細胞と比較して検討を行った。加えて,PAR1アゴニストであるTFLLRの有無で,同様の検討を行った。
(2) 図4に,ALPの免疫染色の結果を示す。また,図5に,ALP活性を,コントロールと比較した結果を示す。
(3) 血清非存在下で,FOP由来線維芽細胞の培養を行ったところ,ALPの発現はほとんど見られなかった(図4c)。このことから,血清非存在下においては,FOP由来線維芽細胞の骨芽細胞への分化はほとんど見られないことが分かった。
(4) BMP6存在下において,ALPの発現はみられ,その活性もコントロールと比較して有意に増加していた(図4d,5)。このことから,血清非存在下において,BMP6の刺激により,骨芽細胞への分化が進んでいることが分かった。しかしながら,この結果は,血清存在下,行った検討(図2b)と比較すると,骨芽細胞への分化は弱いものといえる。
(5) PAR1アゴニストであるTFLLR存在下では,ALPの発現はほとんど見られず,またALP活性も低かった(図4e,図5)。このことから,血清非存在下において,TFLLRの刺激では,骨芽細胞への分化はほとんど進まないことが分かった。
(6) BMP6とTFLLR,これら両方が存在した場合は,ALPの発現は増加しており,その活性も大きく上昇していた(図4f,図5)。このことから,血清非存在下において,BMP6およびTFLLR,これら2つの分子の刺激により,骨芽細胞への分化が大きく進むことが分かった。
(7) これらの結果から,BMP6とPAR1,これら2つの分子が関連して,FOP由来線維芽細胞の骨芽細胞への分化を誘導していることが示された。
【0030】
<実験5.血清非存在下,各種阻害剤を用いた場合の骨芽細胞分化の比較>
(1) PAR1阻害剤(SCH79797,Vorapaxar),PI3K阻害剤(LY294002)を用いて,FOP由来線維芽細胞の骨芽細胞への分化にどのような影響を及ぼすかを調べるため検討を行った。
(2) 図6に,ALPの免疫染色の結果を示す。また,図7に,ALP活性を,コントロールと比較した結果を示す。
(3) 実験4で行った結果と同様,血清非存在下において,BMP6およびTFLLRのいずれの刺激もない場合は,FOP由来線維芽細胞の骨芽細胞への分化はほとんど進まず(図6g),これら分子による刺激があった場合は,骨芽細胞への分化が大きく進んでいた(図6hおよびk)。
(4) 一方,PAR1阻害剤であるSCH79797(200nM)又はVorapaxar(1μM)の存在下では,ALPの発現ならびに活性ともに大きく減少していた(図6iおよびl,図7)。また,PI3K阻害剤であるLY294002(10μM)においても同様に,ALPの発現ならびに活性ともに大きく減少していた(図6j,図7)。これらの結果から,PAR1を阻害することによりFOP由来線維芽細胞の骨芽細胞への分化が抑制されること,ならびにPAR1より下流に位置するPI3Kのシグナル伝達を抑制することでもFOP由来線維芽細胞の骨芽細胞の分化が抑制されることが示された。
(5) これらの結果より,PAR1阻害剤が,FOPにおける異所性骨化の治療に期待できることが示された。
【0031】
<実験6.PAR1阻害薬の動物試験における検証>
(1) PAR1阻害剤(Vorapaxar)が,マウスにおける異所性骨化の抑制にどのような影響を及ぼすかを調べるため検討を行った。
(2) インビボモデルとして,NOGマウスを用い,FOP患者由来の線維芽細胞から作製したiPS細胞を精巣内に移植を行い,テラトーマを作製した。本インビボモデルでは,移植後,テラトーマが成長するとともに,9週間経過すると,本テラトーマ内で骨化が進行し,骨容量が増加する。このことから,移植9週間後より,Vorapaxar (0.2mg/kg/day)を1日1回,腹腔内投与した。比較対象として,Vorapaxarを有効成分として含まない溶液(vehicle)を,同様に腹腔内投与した。
(3) 図8ならびに図9に,結果を示す。図8は,インビボモデルのCT画像,図9は,CT画像から算出されたテラトーマ容量ならびにテラトーマ内骨容量を,グラフで示したものである。
(4) Vorapaxar投与後2週間において,vehicle投与を行った個体では,精巣に形成されたテラトーマ内に,骨が散見された(図8,上)。一方,Vorapaxar投与を行った個体では,vehicle投与個体と比較して,散見される骨が,著しく少なくなっていることが確認された(図8,下)。
(5) また,人為的に作製したテラトーマについて,CT画像からその容量を算出したところ,vehicle投与とVorapaxar投与を行った個体間で,テラトーマ容量に有意な差はみられなかった(図9,左)。一方,骨容量を算出したところ,Vorapaxar投与の個体では,vehicle投与と比較しておよそ3分の1程度と,骨容量が,大きく,かつ,有意に減少していた(図9,右)。
(6) これらの結果から,Vorapaxar投与個体における骨所見ならびに骨容量の低下は,テラトーマの成長度の差ではなく,PAR1阻害剤であるVorapaxarの薬理効果の発揮により,もたらされていることが示された。この結果より,PAR1阻害剤が,FOPにおける異所性骨化の治療に期待できることが動物試験によっても示された。
【0032】
<実験7.PAR1の機能抑制の動物試験における検証>
(1) PAR1を人為的に機能抑制することにより,マウスにおける異所性骨化の抑制にどのような影響を及ぼすかを調べるため検討を行った。
(2) 実験6と同様にインビボモデルの作製を行った。既報に従い,PAR1発現を抑制するsiRNA(siPAR1)を作製し,テラトーマ移植9週間後より,1日1回,腹腔内投与した。比較対象として,生体に影響を及ぼさないLuciferaseのsiRNA(siLuciferase),及び骨化因子として既知のALK2の発現を抑制するsiRNA(siALK2-R206H)を,同様に腹腔内投与した。
(3) 図10ならびに図11に,結果を示す。図10は,インビボモデルのCT画像,図11は,CT画像から算出されたテラトーマ容量ならびにテラトーマ内骨容量を,グラフで示したものである。
(4) 投与後2週間において,siLuciferase投与を行った個体では,精巣に形成されたテラトーマ内に,骨が散見された。一方,siPAR1及びsiALK2-R206H投与を行った個体では,siLuciferase投与個体と比較して,散見される骨が,著しく少なくなっていることが確認された。
(5) また,人為的に作製したテラトーマについて,CT画像からその容量を算出したところ,siLuciferase,siPAR1及びsiALK2-R206H投与を行った個体間で,テラトーマ容量に有意な差はみられなかった。一方,骨容量を算出したところ,siPAR1及びsiALK2-R206H投与の個体では,siLuciferase投与と比較して有意にテラトーマ内の骨容量が減少していた。
(6) これらの結果から,siPAR1投与個体における骨所見ならびに骨容量の低下は,テラトーマの成長度の差ではなく,siRNAによりPAR1の機能発現を抑制する結果により,もたらされていることが示された。これより,PAR1の機能発現阻害が,FOPにおける異所性骨化の治療に期待できることが動物試験によっても示された。

図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11