【実施例】
【0021】
以下,本発明について,実施例を用いて,詳述する。
【0022】
<<I.実験材料ならびに実験方法>>
<1.皮膚由来の線維芽細胞の生成>
(1) 倫理委員会に承認されたプロトコールにより,インフォームドコンセントの下,FOP患者及び健常者の皮膚生検の外植片から線維芽細胞を作出した。
(2) 患者及び健常者からの皮膚試料を細かく刻み,10%ウシ胎児血清(FBS)を添加したDMEM培地で培養した。
(3) 線維芽細胞が出現したことを確認した後,初期化遺伝子を導入するために線維芽細胞を増殖させ,その後,10%DMSO+90%FBSからなる凍結溶液に入れ,凍結保存した。
【0023】
<2.iPS細胞の維持及び生成>
(1) 20%のKNOCKOUT(商標)血清置換物(KSR,インビトロゲン),2mMのL-グルタミン,1×10
-4Mの非必須アミノ酸(NEAA,シグマ),1×10
-4Mの2-メルカプトエタノール(シグマ),0.5%のペニシリンとストレプトマイシン(日本,ナカライテスク),及び5ng/mLの基本線維芽細胞増殖因子(bFGF,和光,日本)を添加したDMEM/F12(シグマ)を含有するヒトiPS培地において,マイトマイシンC(MMC)処理したMEF支持細胞上でヒトiPS細胞を維持した。
(2) N. Fusaki, H. Ban, A. Nishiyama, K. Saeki, M. Hasegawa, Proc. Jpn. Acad. Ser., B. Phys. Biol. Eci., 85, 348 (2009)に記載される方法により,ヒト由来の線維芽細胞からiPS細胞を生成した。
(3) 感染1日前に,6穴プレートにおいてウエル当たり5×10
5個のヒト線維芽細胞を播種し,その後,感染多重度(multiplicity of infection ; MOI)3にて,下記センダイウイルス(SeV)ベクターを細胞に感染させた。すなわち,Oct3/4遺伝子,Sox2遺伝子,K1f4遺伝子及びc-Myc遺伝子を含むSeVベクターについて,N. Fusaki, H. Ban, A. Nishiyama, K. Saeki, M. Hasegawa, Proc. Jpn. Acad. Ser., B. Phys. Biol. Eci., 85, 348 (2009)に記載される方法に従い,作成を行った。
(4) 感染の7日後,トリプシンによって感染させた線維芽細胞を回収し,60mmのシャーレ当たり5.4×10
4個の細胞,或いは100mmのシャーレ当たり1〜2×10
5個の細胞をMMC処理したMEF支持細胞上に播種した。翌日,ヒトiPS細胞培地に置き換え,感染の30日後まで培養を継続し,コロニーを観察した。
(5) iPS細胞の生成に対する骨形成タンパク質(BMP-4,6,及び7)の影響は,感染8日目に置き換える上記ヒトiPS細胞培地に,それぞれ,BMP-4(10ng/ml),BMP-6(50ng/ml),及びBMP-7(10ng/ml)を添加した培地を用い,30日目まで培養することにより確認した。また,一部の実験では,ALK2キナーゼ阻害剤であるLDN-193189(STEMGENT;ステムジェント)を200nMの濃度で上記ヒトiPS培地に添加した。
【0024】
<3.免疫ブロット及び免疫沈降解析>
(1) 免疫ブロットにおいては,細胞を溶解バッファー(62.5mM Tris-HCl,pH 7.4,2% SDS,0.05% 2ME,10% グリセロール,0.00125%臭素)にて溶解し,超音波を当て,4℃,15000rpm,条件下で10分間遠心分離を行った。
(2) 得られた上清をSDS-PAGEにより,目的タンパクをPVDFメンブレン上にて分離した。
(3) メンブレンを抗血清と共にインキュベートし,免疫反応バンドをEnhanced Chemiluminescence detection(PerkinElmer社)を用いて可視化した。バンドの濃さはImage J software(米国NIH)を用いて評価した。
(4) 免疫沈降は,Smadsを過剰発現させた293T細胞とKDM6B又はLSD1を,RIPAバッファー(50mM Tris-HCl pH 7.4,1 mM EDTA,150mM NaCl,1% NP-40,protease/phosphatase inhibitor cocktail)に溶解し,必要な抗体と共に,4℃下で回転台にて一晩インキュベートした。その後,プロテインG樹脂を加え,4℃下で回転台にて2時間インキュベートした。樹脂を3回PMSで洗浄し,ウェスタンブロット用のバッファーに溶解させた。
【0025】
<4.クロマチン免疫沈降及びChIP-ChIP解析>
(1) 細胞を1%ホルムアルデヒドに作用させ,タンパク質のDNAへの固定化(クロスリンク)を行った。得られた溶解液を抗ヒストンメチル抗体と共にインキュベートした。精製したDNA断片はPCR増幅を行った。
(2) ChIP-ChIP解析においては,FOP由来線維芽細胞をRIPAバッファーにより溶解し,抗FLAGアフィニティゲル(シグマ社A2220)と共に4℃下で回転台にて一晩インキュベートした。得られたゲルを5回TBSで洗浄し,100ng/mlのFLAGペプチド(シグマ社F3290)を含むRIPAバッファーを加え,4℃下で回転台にて2時間インキュベートした。得られた混合物をTBSで3回洗浄し,500ng/ml の3 x FLAGペプチド(シグマ社F4799)を含むTBSバッファーを加え,4℃下で回転台にて2時間インキュベートした。この作業を3回繰り返した。
【0026】
<<II.実験結果>>
<実験1.FOP由来線維芽細胞におけるヒストンH3のメチル化の検討>
(1) FOP由来線維芽細胞のiPS細胞誘導を行い,ヒストンH3のメチル化の様子を調べた。比較対象として,正常線維芽細胞を用いた。
(2)
図1に結果を示す。正常線維芽細胞(N3)において,iPS細胞への誘導がすすむとともに,ヒストンH3のK4ならびにK27のバンドが濃くなっていった。
(3) 一方,FOP由来線維芽細胞(F1,F2)においては,ヒストンH3のK4ならびにK27のバンドの様子に変化はみられなかった。
(4) また,K9,K36,K79においては,正常線維芽細胞とFOP由来線維芽細胞の間でのバンドの違いはみられなかった。
(5) これらの結果から,FOP由来線維芽細胞のiPS細胞誘導の樹立が困難な理由として,ヒストンH3のK4ならびにK27のメチル化異常が原因の一つであることが示唆された。
【0027】
<実験2.血清存在下,BMP6刺激による骨芽細胞分化の比較>
(1) 血清存在下,BMP6の有無により,FOP由来線維芽細胞が骨芽細胞への分化の様子を,健常者由来線維芽細胞と比較して検討を行った。
(2)
図2に,骨芽細胞のマーカーであるアルカリフォスファターゼ(ALP)の免疫染色の結果を示す。
(3) 健常者由来線維芽細胞(Normal)では,ほとんど染まっておらず,骨芽細胞への分化誘導が進んでいないことが分かった(
図2a)。一方,FOP由来線維芽細胞(FOP)においては,健常者由来線維芽細胞と比較して強く染まっており,骨芽細胞への誘導が容易に進んでいることが分かった(
図2b)。
【0028】
<実験3.血清存在下,BMP6刺激によるPAR1の発現比較>
(1) 血清存在下,BMP6の有無により,FOP由来線維芽細胞におけるPAR1の発現量に変化がみられるかどうかを,健常者由来線維芽細胞と比較して検討を行った。
(2)
図3に,結果を示す。
図3は,BMP6(50ng/mL)で各時間処理したそれぞれの線維芽細胞におけるmRNAの発現量をqPCRで解析を行った結果をグラフで示したものである。
(3) BMP6刺激により,健常者由来線維芽細胞(Normal)でのPAR1の発現増加は,経時的に有意に増加していたが,その増加は穏やかであった。一方,FOP由来線維芽細胞(FOP)では,健常者由来線維芽細胞と比較して,顕著に増加していた。
【0029】
<実験4.血清非存在下,BMPならびにPAR1アゴニスト刺激による骨芽細胞分化の比較>
(1) 血清非存在下,BMP6の有無により,FOP由来線維芽細胞の骨芽細胞への分化の様子を,健常者由来線維芽細胞と比較して検討を行った。加えて,PAR1アゴニストであるTFLLRの有無で,同様の検討を行った。
(2)
図4に,ALPの免疫染色の結果を示す。また,
図5に,ALP活性を,コントロールと比較した結果を示す。
(3) 血清非存在下で,FOP由来線維芽細胞の培養を行ったところ,ALPの発現はほとんど見られなかった(
図4c)。このことから,血清非存在下においては,FOP由来線維芽細胞の骨芽細胞への分化はほとんど見られないことが分かった。
(4) BMP6存在下において,ALPの発現はみられ,その活性もコントロールと比較して有意に増加していた(
図4d,5)。このことから,血清非存在下において,BMP6の刺激により,骨芽細胞への分化が進んでいることが分かった。しかしながら,この結果は,血清存在下,行った検討(
図2b)と比較すると,骨芽細胞への分化は弱いものといえる。
(5) PAR1アゴニストであるTFLLR存在下では,ALPの発現はほとんど見られず,またALP活性も低かった(
図4e,
図5)。このことから,血清非存在下において,TFLLRの刺激では,骨芽細胞への分化はほとんど進まないことが分かった。
(6) BMP6とTFLLR,これら両方が存在した場合は,ALPの発現は増加しており,その活性も大きく上昇していた(
図4f,
図5)。このことから,血清非存在下において,BMP6およびTFLLR,これら2つの分子の刺激により,骨芽細胞への分化が大きく進むことが分かった。
(7) これらの結果から,BMP6とPAR1,これら2つの分子が関連して,FOP由来線維芽細胞の骨芽細胞への分化を誘導していることが示された。
【0030】
<実験5.血清非存在下,各種阻害剤を用いた場合の骨芽細胞分化の比較>
(1) PAR1阻害剤(SCH79797,Vorapaxar),PI3K阻害剤(LY294002)を用いて,FOP由来線維芽細胞の骨芽細胞への分化にどのような影響を及ぼすかを調べるため検討を行った。
(2)
図6に,ALPの免疫染色の結果を示す。また,
図7に,ALP活性を,コントロールと比較した結果を示す。
(3) 実験4で行った結果と同様,血清非存在下において,BMP6およびTFLLRのいずれの刺激もない場合は,FOP由来線維芽細胞の骨芽細胞への分化はほとんど進まず(
図6g),これら分子による刺激があった場合は,骨芽細胞への分化が大きく進んでいた(
図6hおよびk)。
(4) 一方,PAR1阻害剤であるSCH79797(200nM)又はVorapaxar(1μM)の存在下では,ALPの発現ならびに活性ともに大きく減少していた(
図6iおよびl,
図7)。また,PI3K阻害剤であるLY294002(10μM)においても同様に,ALPの発現ならびに活性ともに大きく減少していた(
図6j,
図7)。これらの結果から,PAR1を阻害することによりFOP由来線維芽細胞の骨芽細胞への分化が抑制されること,ならびにPAR1より下流に位置するPI3Kのシグナル伝達を抑制することでもFOP由来線維芽細胞の骨芽細胞の分化が抑制されることが示された。
(5) これらの結果より,PAR1阻害剤が,FOPにおける異所性骨化の治療に期待できることが示された。
【0031】
<実験6.PAR1阻害薬の動物試験における検証>
(1) PAR1阻害剤(Vorapaxar)が,マウスにおける異所性骨化の抑制にどのような影響を及ぼすかを調べるため検討を行った。
(2) インビボモデルとして,NOGマウスを用い,FOP患者由来の線維芽細胞から作製したiPS細胞を精巣内に移植を行い,テラトーマを作製した。本インビボモデルでは,移植後,テラトーマが成長するとともに,9週間経過すると,本テラトーマ内で骨化が進行し,骨容量が増加する。このことから,移植9週間後より,Vorapaxar (0.2mg/kg/day)を1日1回,腹腔内投与した。比較対象として,Vorapaxarを有効成分として含まない溶液(vehicle)を,同様に腹腔内投与した。
(3)
図8ならびに
図9に,結果を示す。
図8は,インビボモデルのCT画像,
図9は,CT画像から算出されたテラトーマ容量ならびにテラトーマ内骨容量を,グラフで示したものである。
(4) Vorapaxar投与後2週間において,vehicle投与を行った個体では,精巣に形成されたテラトーマ内に,骨が散見された(
図8,上)。一方,Vorapaxar投与を行った個体では,vehicle投与個体と比較して,散見される骨が,著しく少なくなっていることが確認された(
図8,下)。
(5) また,人為的に作製したテラトーマについて,CT画像からその容量を算出したところ,vehicle投与とVorapaxar投与を行った個体間で,テラトーマ容量に有意な差はみられなかった(
図9,左)。一方,骨容量を算出したところ,Vorapaxar投与の個体では,vehicle投与と比較しておよそ3分の1程度と,骨容量が,大きく,かつ,有意に減少していた(
図9,右)。
(6) これらの結果から,Vorapaxar投与個体における骨所見ならびに骨容量の低下は,テラトーマの成長度の差ではなく,PAR1阻害剤であるVorapaxarの薬理効果の発揮により,もたらされていることが示された。この結果より,PAR1阻害剤が,FOPにおける異所性骨化の治療に期待できることが動物試験によっても示された。
【0032】
<実験7.PAR1の機能抑制の動物試験における検証>
(1) PAR1を人為的に機能抑制することにより,マウスにおける異所性骨化の抑制にどのような影響を及ぼすかを調べるため検討を行った。
(2) 実験6と同様にインビボモデルの作製を行った。既報に従い,PAR1発現を抑制するsiRNA(siPAR1)を作製し,テラトーマ移植9週間後より,1日1回,腹腔内投与した。比較対象として,生体に影響を及ぼさないLuciferaseのsiRNA(siLuciferase),及び骨化因子として既知のALK2の発現を抑制するsiRNA(siALK2-R206H)を,同様に腹腔内投与した。
(3)
図10ならびに
図11に,結果を示す。
図10は,インビボモデルのCT画像,
図11は,CT画像から算出されたテラトーマ容量ならびにテラトーマ内骨容量を,グラフで示したものである。
(4) 投与後2週間において,siLuciferase投与を行った個体では,精巣に形成されたテラトーマ内に,骨が散見された。一方,siPAR1及びsiALK2-R206H投与を行った個体では,siLuciferase投与個体と比較して,散見される骨が,著しく少なくなっていることが確認された。
(5) また,人為的に作製したテラトーマについて,CT画像からその容量を算出したところ,siLuciferase,siPAR1及びsiALK2-R206H投与を行った個体間で,テラトーマ容量に有意な差はみられなかった。一方,骨容量を算出したところ,siPAR1及びsiALK2-R206H投与の個体では,siLuciferase投与と比較して有意にテラトーマ内の骨容量が減少していた。
(6) これらの結果から,siPAR1投与個体における骨所見ならびに骨容量の低下は,テラトーマの成長度の差ではなく,siRNAによりPAR1の機能発現を抑制する結果により,もたらされていることが示された。これより,PAR1の機能発現阻害が,FOPにおける異所性骨化の治療に期待できることが動物試験によっても示された。