特許第6873418号(P6873418)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6873418遺伝子導入された細胞の製造方法及びポリエチレンイミンの置換体ポリマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873418
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】遺伝子導入された細胞の製造方法及びポリエチレンイミンの置換体ポリマー
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/87 20060101AFI20210510BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20210510BHJP
   C08G 18/64 20060101ALI20210510BHJP
   C08G 18/60 20060101ALI20210510BHJP
   C08L 79/02 20060101ALI20210510BHJP
   C08L 39/02 20060101ALI20210510BHJP
   C08L 77/04 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   C12N15/87 Z
   C12N5/10
   C08G18/64
   C08G18/60
   C08L79/02
   C08L39/02
   C08L77/04
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-221047(P2016-221047)
(22)【出願日】2016年11月11日
(65)【公開番号】特開2018-74984(P2018-74984A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】特許業務法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【弁理士】
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】松村 和明
(72)【発明者】
【氏名】サナ アハマッド
(72)【発明者】
【氏名】中 俊明
【審査官】 佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−100287(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102432877(CN,A)
【文献】 特開平11−187874(JP,A)
【文献】 特開2002−370310(JP,A)
【文献】 特開2011−030557(JP,A)
【文献】 特開2006−304644(JP,A)
【文献】 The Journal of Gene Medicine (2009), Vol.11, pp.921-932
【文献】 Biomaterials (2009), Vol.30, pp.4187-4194
【文献】 The Journal of Gene Medicine (2010), Vol.12, pp.729-738
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C08G
C08L
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸とカチオン性ポリマーの複合体を、培地中へ添加して、培地中で細胞と接触可能にする工程、
培地中の複合体と細胞を、凍結する工程、
凍結した細胞を、解凍する工程、
を含む、遺伝子導入された細胞を製造する方法であって、
カチオン性ポリマーが、
アミノ基を有するポリエチレンイミンの置換体ポリマーであって、
アミノ基、アミノ基が置換されてなる次のR基、及びアミノ基が置換されてなる次のR基:
基: −NH−CO−CH(CH−COOH)R11
(ただし、R11基は、水素、又はC1〜C6のアルキル基である)
基: −NH−CO−CH(CH−COOH)R21
(ただし、R21基は、水素、又はC1〜C6のアルキル基であり、R11基とは異なる基である)
を有する、ポリエチレンイミン置換体ポリマーである、方法
【請求項2】
核酸とカチオン性ポリマーの複合体が、
核酸と、カチオン性ポリマーを、溶液中で混合することによって複合体を形成する行程、によって形成された複合体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
核酸が、遺伝子導入される遺伝子を含む核酸である、請求項1〜2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
核酸とカチオン性ポリマーの複合体を、培地中へ添加して、培地中で細胞と接触可能にする工程が、
核酸とカチオン性ポリマーの複合体を、細胞が分散した培地中へ添加して、培地中で細胞と接触可能にする工程である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ポリエチレンイミンが、直鎖型ポリエチレンイミンまたは分岐型ポリエチレンイミンである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
培地が、凍結保護剤を含む培地である、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
凍結保護剤が、
DMSO、両性電解質高分子化合物、ポリオール類、及び糖類からなる群から選択された凍結保護剤である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載の方法によって製造された遺伝子導入細胞の遺伝子を発現させて、遺伝子産物を製造する方法。
【請求項9】
アミノ基を有するポリエチレンイミンの置換体ポリマーであって、
アミノ基、アミノ基が置換されてなる次のR基、及びアミノ基が置換されてなる次のR基:
基: −NH−CO−CH(CH−COOH)R11
(ただし、R11基は、水素、又はC1〜C6のアルキル基である)
基: −NH−CO−CH(CH−COOH)R21
(ただし、R21基は、水素、又はC1〜C6のアルキル基であり、R11基とは異なる基である)
を有する、ポリエチレンイミン置換体ポリマー。
【請求項10】
11基が、水素、又はC1〜C2のアルキル基であり、R21基が、C3〜C5のアルキル基である、請求項に記載のポリエチレンイミン置換体ポリマー。
【請求項11】
11基が、水素であり、R21基が、ブチル基である、請求項に記載のポリエチレンイミン置換体ポリマー。
【請求項12】
ポリエチレンイミン置換体ポリマーにおいて、
置換前のアミノ基のモル数を100とした場合のR基のモル数の比率が、5〜25の範囲にあり、
置換前のアミノ基のモル数を100とした場合のR基のモル数の比率が、10〜30の範囲にある、請求項9〜11のいずれかに記載のポリエチレンイミン置換体ポリマー。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれかに記載のポリエチレンイミン置換体ポリマーからなる、遺伝子導入剤。
【請求項14】
請求項9〜12のいずれかに記載のポリエチレンイミン置換体ポリマーと、核酸を含む、核酸複合体組成物。
【請求項15】
核酸が、遺伝子導入される遺伝子を含む核酸である、請求項14に記載の核酸複合体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子導入された細胞の製造方法、及び遺伝子導入に好適なポリエチレンイミンの置換体ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞への遺伝子導入技術として、ポリエチレンイミンなどのポリマーをナノキャリアとして使用した技術が知られている。このようなナノキャリアとDNAとの複合体を形成させた後に、細胞へ投与することによって、DNA単独で細胞へ投与した場合と比較して、高い効率で遺伝子が導入され発現する。このようなナノキャリアにおいて、遺伝子の導入と発現の効率を上昇させるために、新しいナノキャリアとなる化合物が探索されてきた(特許文献1、特許文献2)。また新しいナノキャリアとなる化合物は、細胞毒性の点においても良好であることが求められている。
【0003】
細胞の凍結保存技術として、凍結保存剤を添加した凍結保存技術が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−246766号公開特許公報
【特許文献2】特開2012−060997号公開特許公報
【特許文献3】特開2015−100287号公開特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、遺伝子の導入と発現の効率に優れた、細胞への遺伝子導入の手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、細胞への遺伝子導入の手段について、鋭意研究を行ってきたところ、カチオン性ポリマー又はカチオン性脂質と遺伝子との複合体を形成した後に培地へ添加した状態で、細胞を凍結解凍することによって、上記目的を達成できることを見いだして、本発明に到達した。
【0007】
したがって、本発明は次の(1)以下を含む。
(1)
核酸とカチオン性ポリマー又はカチオン性脂質との複合体を、培地中へ添加して、培地中で細胞と接触可能にする工程、
培地中の複合体と細胞を、凍結する工程、
凍結した細胞を、解凍する工程、
を含む、遺伝子導入された細胞を製造する方法。
(2)
核酸とカチオン性ポリマー又はカチオン性脂質との複合体が、
核酸と、カチオン性ポリマー又はカチオン性脂質とを、溶液中で混合することによって複合体を形成する工程、によって形成された複合体である、(1)に記載の方法。
(3)
核酸が、遺伝子導入される遺伝子を含む核酸である、(1)〜(2)のいずれかに記載の方法。
(4)
核酸とカチオン性ポリマー又はカチオン性脂質との複合体を、培地中へ添加して、培地中で細胞と接触可能にする工程が、
核酸とカチオン性ポリマー又はカチオン性脂質との複合体を、細胞が分散した培地中へ添加して、培地中で細胞と接触可能にする工程である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)
カチオン性ポリマーが、
ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリアリルアミン、及びこれらの修飾ポリマーからなる群から選択された1種以上のカチオン性ポリマーである、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)
ポリエチレンイミンが、直鎖型ポリエチレンイミンまたは分岐型ポリエチレンイミンである、(5)に記載の方法。
(7)
ポリエチレンイミンの修飾ポリマーが、アミノ基を有するポリエチレンイミンの置換体ポリマーであって、
アミノ基、及びアミノ基が置換されてなる次のR1基:
1基: −NH−CO−CH(CH2−COOH)R11
(ただし、R11基は、水素、又はC1〜C6のアルキル基である)
を有する、ポリエチレンイミン置換体ポリマーである、(5)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)
ポリエチレンイミンの修飾ポリマーが、アミノ基を有するポリエチレンイミンの置換体ポリマーであって、
アミノ基、アミノ基が置換されてなる次のR1基、及びアミノ基が置換されてなる次のR2基:
1基: −NH−CO−CH(CH2−COOH)R11
(ただし、R11基は、水素、又はC1〜C6のアルキル基である)
2基: −NH−CO−CH(CH2−COOH)R21
(ただし、R21基は、水素、又はC1〜C6のアルキル基であり、R11基とは異なる基である)
を有する、ポリエチレンイミン置換体ポリマーである、(5)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(9)
培地が、凍結保護剤を含む培地である、(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10)
凍結保護剤が、DMSO、両性電解質高分子化合物、ポリオール類、及び糖類からなる群から選択された凍結保護剤である、(9)に記載の方法。
(11)
(1)〜(10)のいずれかに記載の方法によって製造された遺伝子導入細胞の遺伝子を発現させて、遺伝子産物を製造する方法。
【0008】
さらに本発明は次の(12)以下を含む。
(12)
アミノ基を有するポリエチレンイミンの置換体ポリマーであって、
アミノ基、アミノ基が置換されてなる次のR1基、及びアミノ基が置換されてなる次のR2基:
1基: −NH−CO−CH(CH2−COOH)R11
(ただし、R11基は、水素、又はC1〜C6のアルキル基である)
2基: −NH−CO−CH(CH2−COOH)R21
(ただし、R21基は、水素、又はC1〜C6のアルキル基であり、R11基とは異なる基である)
を有する、ポリエチレンイミン置換体ポリマー。
(13)
11基が、水素、又はC1〜C2のアルキル基であり、R21基が、C3〜C5のアルキル基である、(12)に記載のポリエチレンイミン置換体ポリマー。
(14)
11基が、水素であり、R21基が、ブチル基である、(12)に記載のポリエチレンイミン置換体ポリマー。
(15)
ポリエチレンイミン置換体ポリマーにおいて、
置換前のアミノ基のモル数を100とした場合のR1基のモル数の比率が、5〜25の範囲にあり、
置換前のアミノ基のモル数を100とした場合のR2基のモル数の比率が、10〜30の範囲にある、(12)〜(14)のいずれかに記載のポリエチレンイミン置換体ポリマー。
(16)
(12)〜(15)のいずれかに記載のポリエチレンイミン置換体ポリマーからなる、遺伝子導入剤。
(17)
(12)〜(15)のいずれかに記載のポリエチレンイミン置換体ポリマーと、核酸を含む、核酸複合体組成物。
(18)
核酸が、遺伝子導入される遺伝子を含む核酸である、(17)に記載の核酸複合体組成物。
(19)
(17)〜(18)のいずれかに記載の核酸複合体組成物によって遺伝子導入されてなる、遺伝子導入細胞。
(20)
(17)〜(18)のいずれかに記載の核酸複合体組成物によって遺伝子導入された遺伝子が発現されて産生された、遺伝子産物。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、遺伝子の導入と発現の効率に優れた、細胞への遺伝子導入の手段及び遺伝子導入に好適なポリエチレンイミンの置換体ポリマーを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、ブチル無水コハク酸と無水コハク酸でアミノ基の一定割合を修飾した分岐型ポリエチレンイミン(PEI−BSA−SA)の合成の流れを示す。
図2図2は、異なる構造の分岐型PEIを用いたPEI−BSA−SAを合成する流れを示す。
図3A図3Aは、合成したPEI−BSA−SAの1H−NMR測定の結果である。
図3B図3Bは、1H−NMR測定のピーク番号に対応する構造式中の位置を示す
図4図4は、合成したPEI−BSA−SA等の細胞毒性試験の結果である。
図5図5は、大腸菌(DH5α)によるプラスミドの増幅と形質転換の手順を示す。
図6図6は、リポフェクトアミンの構造を示す。
図7図7は、凍結濃縮実験系の手順を示す。
図8図8は、市販の直鎖型PEI(JET PEI)による複合体を添加した場合の培養10時間後のGFP発現の様子を示す顕微鏡写真である。
図9図9は、市販の分岐型PEIによる複合体(PEI:DNA 5:1(w/w))を添加した場合のGFP発現の様子を示す顕微鏡写真である。
図10図10は、市販のリポフェクタミン(リポソーム系導入試薬)による複合体を添加した場合のGFP発現の様子を示す顕微鏡写真である。
図11図11は、PEI-BSA-SAによる複合体(PEI-BSA(20)-SA(15)-DNA (AcGFP)複合体)を添加した場合の10時間培養後の細胞のGFP発現の様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
図12図12は、市販のリポフェクタミン、JETPEI、分岐型PEIを用いた場合のルシフェラーゼ活性を、非凍結濃縮系と凍結濃縮系とで対比するグラフである。
図13図13は、PEI-BSA(20)-SA(15)を用いた場合のルシフェラーゼ活性を、PEI-BSA(20)-SA(15):DNAのそれぞれの比率ごとに、非凍結濃縮系と凍結濃縮系とで対比するグラフである。
図14図14は、PEI-BSA(20)-SA(15)を用いた複合体による凍結濃縮系において、細胞の核をヘキスト33342(Hoechst 33342)で染色し、エンドソームをリソトラッカーグリーン(lysotracker green)でラベルし、プラスミドDNAをレッドシアニン3’(Red cyanine 3’)でラベルした、蛍光顕微鏡写真である。
図15図15は、直鎖型PEI(JET PEI)とレッドシアニン3’(Red cyanine 3’)でラベルしたプラスミドDNA(pAcGFPプラスミド)との複合体を使用して、複合体のプラスミドDNAが細胞に導入される様子を、凍結濃縮系と非凍結濃縮系とで比較した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
具体的な実施の形態をあげて、以下に本発明を詳細に説明する。本発明は、以下にあげる具体的な実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
[凍結解凍による遺伝子導入]
本発明によれば、核酸とカチオン性ポリマー又はカチオン性脂質との複合体を、培地中へ添加して、培地中で細胞と接触可能にする工程、培地中の複合体と細胞を、凍結する工程、凍結した細胞を、解凍する工程、を含む方法によって、遺伝子導入された細胞を製造することができる。この方法は、細胞へ遺伝子を導入する方法でもある。
【0013】
従来、カチオン性ポリマー等を使用した細胞への遺伝子導入技術の改良は、核酸のキャリアとしてより特性の優れた新規なカチオン性ポリマー等の化合物を開発するというアプローチによって、行われてきた。しかし、本発明者は、カチオン性ポリマー又はカチオン性脂質を核酸のキャリアとして使用して複合体を形成させた後に、これを培地に添加して細胞を凍結することによって、従来から知られているカチオン性ポリマー又はカチオン性脂質であっても、導入と発現の効率が大幅に上昇することを見いだして、本発明に到達した。
【0014】
[核酸]
導入される核酸は、遺伝子導入される遺伝子を含む核酸であり、従来の遺伝子導入技術において使用されている核酸を使用することができる。好適な実施の態様において、核酸として、例えば、DNA、RNA、small interfering RNA(siRNA)、遺伝子導入される遺伝子を含むプラスミドの形態の核酸を使用することができる。
【0015】
[細胞]
遺伝子導入される細胞は、従来の遺伝子導入技術において使用されている細胞を、特に制限なく使用することができる。動物細胞を好適に使用できる。好適な実施の態様において、細胞として、例えば、Chinese Hamster Ovary(CHO)細胞、間葉系幹細胞、がん細胞などをあげることができる。細胞の状態は、核酸とカチオン性ポリマーとの複合体が、培地中で十分に接触可能な状態であれば、特に制限はない。例えば、ディッシュ上で培養された状態の細胞であってもよく、三次元的な組織に包埋された状態の細胞であってもよく、培地中に分散された状態の細胞であってもよい。好適な実施の態様において、培地中に細胞が分散された状態の細胞を使用することができる。
【0016】
[培地]
培地としては、従来の遺伝子導入技術において使用されている細胞の培地を、特に制限なく使用することができる。好適な実施の態様において、培地としては、例えば、無血清ダルベッコ改良イーグル培地(DMEM培地)、RPMI培地、イーグル培地をあげることができる。
【0017】
[凍結保護剤]
本発明は、凍結の工程によって細胞へ高い効率で遺伝子導入を可能としているが、好適な実施の態様において、細胞の保護のために、培地として、凍結保護剤が添加された培地を使用することができる。このような凍結保護剤として、公知の凍結保護剤を使用することができる。凍結保護剤として、例えば、DMSO、両性電解質高分子化合物、ポリオール類、糖類をあげることができる。両性電解質高分子化合物としては、例えば、カルボキシル基が導入されたε−ポリ−L−リジン、ポリジメチルアミノエチルメタクリル酸・メタクリル酸共重合体、ポリスルホベタインをあげることができる。ポリオール類としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロースをあげることができる。糖類としては、例えば、トレハロース、グルコース、スクロースをあげることができる。これらの凍結保護剤は、それぞれ公知の濃度となるように添加して、使用することができる。DMSOは、培地中の最終濃度として、例えば1〜20質量%の濃度となるように使用できる。カルボキシル基が導入されたε−ポリ−L−リジンは、培地中の最終濃度として、例えば1〜20質量%の濃度となるように使用できる。カルボキシル基が導入されたε−ポリ−L−リジンは、特許文献3に記載の方法によって合成することができる。カルボキシル基を導入したε−ポリ−L−リジンにおいて、アミノ基に対するカルボキシル基の比率(カルボキシル基/アミノ基)が、例えば0.8〜19の範囲、好ましくは1.5〜15の範囲とすることができる。ポリジメチルアミノエチルメタクリル酸・メタクリル酸共重合体は、文献「Rajan R, et al., J. Biomater. Sci. Polym. Ed., 24, 1767-1780, 2013」の開示を参照して使用することができる。ポリスルホベタインは、文献「Rajan R, et al., Biomacromolecules, 17, 1882-1893, 2016」の開示を参照して使用することができる。
【0018】
[カチオン性ポリマー]
カチオン性ポリマーとしては、核酸との複合体を形成できるポリマーが使用される。カチオン性ポリマーとして、ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリアリルアミンおよびこれらの修飾ポリマーからなる群から選択された1種以上のカチオン性ポリマーをあげることができる。従来から、遺伝子導入剤として使用されてきたカチオン性ポリマーを、本発明の凍結工程において、好適に使用することができる。
【0019】
[カチオン性脂質]
カチオン性脂質としては、核酸との複合体を形成できる脂質が使用される。カチオン性脂質として、例えば、ポリフェクトアミン、1,2-dioleoyloxy-3-trimethylammonium propane chloride、 1,2-dioleyloxy-3-trimethylammonium propane chloride、 1,2-diolyloxy-3-dimethylaminonium propane、 O,O’-ditetradecanoyl-N-(α-trimethylammonioacetyl)diethanolamine chlorideをあげることができる。従来から、遺伝子導入剤として使用されてきたカチオン性脂質を、本発明の凍結工程において、好適に使用することができる。
【0020】
[ポリエチレンイミン]
ポリエチレンイミン(PEI)としては、直鎖型ポリエチレンイミン及び分岐型ポリエチレンイミンをあげることができる。これらの構造式を、図1図2及び後述する実施例において、例示して示す。分岐型のポリエチレンイミンは、単一の繰り返し構造を備えているものではないが、その分岐構造に由来してアミノ基を有している。アミノ基を有するポリエチレンイミンは、そのアミノ基の一部又は全部を置換することによって、修飾ポリマーとして、置換体ポリマーを製造することができる。この置換体を製造するための修飾の流れを、図1図2に例示して示す。
【0021】
[アミノ基を有するポリエチレンイミンの置換体ポリマー]
好適な実施の態様において、カチオン性ポリマーとして、ポリエチレンイミンの修飾ポリマーを使用することができる。特に好適なポリエチレンイミンの修飾ポリマーとして、アミノ基を有するポリエチレンイミンにおいて、アミノ基を置換して調製した置換体ポリマーをあげることができる。
【0022】
[アミノ基及びR1基を有するポリエチレンイミンの置換体ポリマー]
好適な実施の態様において、アミノ基を有するポリエチレンイミンの置換体ポリマーとして、アミノ基と、アミノ基が置換されてなるR1基を有する、ポリエチレンイミンの置換体ポリマーをあげることができる。
【0023】
上記R1基は、
1基: −NH−CO−CH(CH2−COOH)R11
である。
【0024】
1基において、R11基は、水素、又はC1〜C6のアルキル基とすることができ、好ましくは水素、又はC1〜C2のアルキル基であり、特に好ましくは水素である。
【0025】
ポリエチレンイミン置換体ポリマーにおいて、置換前のアミノ基のモル数を100とした場合のR1基のモル数の比率を、例えば5〜25の範囲、10〜20の範囲とすることができる。
【0026】
[アミノ基、R1基及びR2基を有するポリエチレンイミンの置換体ポリマー]
好適な実施の態様において、アミノ基を有するポリエチレンイミンの置換体ポリマーとして、アミノ基と、アミノ基が置換されてなるR1基と、アミノ基が置換されてなるR2基を有する、ポリエチレンイミンの置換体ポリマーをあげることができる。
【0027】
上記R1基は、
1基: −NH−CO−CH(CH2−COOH)R11
である。
【0028】
1基において、R11基は、水素、又はC1〜C6のアルキル基とすることができ、好ましくは水素、又はC1〜C2のアルキル基であり、特に好ましくは水素である。
【0029】
上記R2基は、
2基: −NH−CO−CH(CH2−COOH)R21
である。
【0030】
2基において、R21基は、R11基とは異なる基であり、水素、又はC1〜C6のアルキル基とすることができ、好ましくはC3〜C5のアルキル基であり、特に好ましくはブチル基である。
【0031】
ポリエチレンイミン置換体ポリマーにおいて、置換前のアミノ基のモル数を100とした場合のR1基のモル数の比率を、例えば5〜25の範囲、10〜20の範囲とすることができる。置換前のアミノ基のモル数を100とした場合のR2基のモル数の比率を、例えば10〜30の範囲、15〜25の範囲とすることができる。
【0032】
[核酸とカチオン性ポリマーとの複合体]
核酸とカチオン性ポリマーとの複合体を、培地中へ添加して、培地中で細胞と接触可能にする。好適な実施の態様において、複合体は、核酸と、カチオン性ポリマーとを、溶液中で混合することによって形成することができる。本発明は、この複合体組成物にもある。
【0033】
[凍結]
培地中の複合体と細胞を凍結する工程は、細胞の凍結保存時における凍結の操作と同様の操作によって行うことができる。例えば、フリーザー(例えば、−80℃)の中に置いて、凍結することができる。凍結された細胞は、適宜保存することもできるが、速やかに解凍して、次の操作に供することもできる。
【0034】
[解凍]
凍結した細胞を解凍する工程は、細胞の凍結保存時における解凍の操作と同様の操作によって行うことができる。例えば、室温下あるいは37℃で静置して解凍してもよい。適宜、湯浴等の手段を使用してもよい。
【0035】
[遺伝子発現]
凍結によって遺伝子導入された細胞は、解凍されて培養可能な状態となる。培養は、それぞれの細胞に応じた条件によって行うことができ、導入された遺伝子の発現を、それぞれの遺伝子に応じた公知の手段によって確認することができる。
【0036】
[遺伝子導入剤]
核酸と複合体を形成して遺伝子導入を行うことができる遺伝子導入剤として、本発明において、上述のカチオン性ポリマーを使用することができる。好適な実施の態様において、遺伝子導入剤として、ポリエチレンイミンの置換体ポリマーを使用することができ、好ましくはアミノ基及びR1基を有するポリエチレンイミンの置換体ポリマー、及びアミノ基、R1基及びR2基を有するポリエチレンイミンの置換体ポリマーを使用することができる。
【0037】
後述する実施例で示すように、このアミノ基、R1基及びR2基を有するポリエチレンイミンの置換体ポリマーは、凍結工程を備えた本発明の遺伝子導入方法において好適に使用できることに加えて、凍結工程を備えない従来の手法による遺伝子導入方法においても好適に使用することができる。したがって、本発明は、アミノ基を有するポリエチレンイミンの置換体ポリマーであって、アミノ基、アミノ基が置換されてなるR1基、及びアミノ基が置換されてなるR2基を有する、ポリエチレンイミン置換体ポリマーにもある。このアミノ基、R1基及びR2基を有するポリエチレンイミン置換体ポリマーは、従来の遺伝子導入剤であるポリエチレンイミンと比較して、IC50の濃度が5倍以上であるという、細胞毒性が著しく低減されたものとなっている。
【実施例】
【0038】
以下に実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、特にことわりのない限り「%」及び「部」はそれぞれ重量%及び重量部を示す。
【0039】
[合成]
0.5gの分岐型ポリエチレンイミン(シグマアルドリッチ製、1級:2級:3級アミン=1:2:1(モル比)、分子量25kDa)を10mLの0.5MNaCl水溶液に溶解し、pHを塩酸で5.0に調整した。ブチル無水コハク酸(BSA、東京化成)0.266gを加えて100℃で2時間反応させ、次に無水コハク酸(SAナカライテスク)を0.170g加えて100℃で2時間反応させた。透析により精製を行い、凍結乾燥により回収した。TNBS法(Haneeb, A. F. Anal. Biochem. 1966, 14, 328-36による)によるアミノ基の定量から、BSAの置換率は約20±0.8モル%、SAの置換率は約15±1.2%であった。PEI-BSA(20)-SA(15)と表記。BSAによる置換を行わず、SAによる置換のみ行ったPEI-SA(15)も併せて毒性試験に供した。
【0040】
上述した、ブチル無水コハク酸と無水コハク酸でアミノ基の一定割合を修飾した分岐型ポリエチレンイミン(PEI−BSA−SA)の合成の流れを、図1に示す。図1において、出発材料である分岐型PEIの構造式では、アミノ基を有する繰り返し単位と、アミノ基を有さない繰り返し単位とが、それぞれ繰り返し単位数xとyとで存在していることを示しているが、これは分子全体の繰り返し単位数のなかにあるアミノ基を有する繰り返し単位の数を、まとめて表現するための構造式であって、アミノ基を有する繰り返し単位と有さない繰り返し単位とが、それぞれ連続して存在していることを示すものではない。図1に例示した分岐型PEIの構造とは異なる構造の分岐型PEIを例示して、出発材料として使用してPEI−BSA−SAを合成する流れを、図2に示す。図2においても例示した繰り返し単位の構造式は、繰り返し単位の構造の多様性を説明するための例示であって、この構造式と完全同一の繰り返し単位によって分子全体が構成されていることを示すものではない。
【0041】
合成したPEI−BSA−SAの特定を1H−NMR測定によって行った。1H−NMR測定によるグラフを図3Aに示す。図3B図3Aの1H−NMR測定のピーク番号に対応する構造式中の位置を示す。
【0042】
[毒性試験]
毒性試験では、HEK293細胞を使用した。96wellプレートに各ウェルあたり1000個の細胞を播種し、72時間後、所定濃度のPEI化合物を添加し、さらに24時間後、細胞の生存率をMTT法で定量化し、化合物無添加系に対する生存率の比を計算した。その割合が50%を切るのに必要な濃度をIC50で表し、毒性の指標とした。市販の分岐型PEIのIC50 ha40μg/mL、PEI-SA(15)のIC50は175μg/ML、PEI-BSA(20)-SA(15)のIC50は220μg/mLという結果であり、PEI-BSA(20)-SA(15)が最も低い毒性を示した。これは、アミノ基がより多くカルボキシル基に変換されていることが原因であると考えられる。この結果のグラフを、図4に示す。図4のグラフのなかで、下向きの矢印は、それぞれのカーブのなかでIC50にあたる値が、横軸でどの値に相当するかを示した矢印である。
【0043】
[プラスミドの抽出]
プラスミドは、大腸菌(DH5α)を用い、pAcGFP-N2(Clontech, USA)とpGL4.51[luc2/CMV/Neo] (Promega, USA)を増幅させ、Genopure plasmid kit(ロシュ)を用いて純化し、使用した。pAcGFP-N2はGreen Fluorescent Protein (GFP)をエンコードしており、大腸菌中での増幅にカナマイシン抵抗性遺伝子を使用した。pGL4.51[luc2/CMV/Neo]ベクターは、luc2リポーター遺伝子を有しており、大腸菌中での増幅にアンピシリン抵抗性遺伝子を使用した。大腸菌(DH5α)によるプラスミドの増幅と形質転換の手順を図5に示す。
【0044】
[HEK293細胞への遺伝子導入]
遺伝子導入のために、市販のJETPEI(PolyPlus Transfection)、市販のリポフェクタミン3000(Thermo Scientific)、市販の分岐型PEI(シグマアルドリッチ社製、製品名Branched polyethyleneimine、平均分子量25000)、および上記合成したPEI-BSA(20)-SA(15)を用いた。JETPEIは、直鎖型PEIを用いた導入キットである。リポフェクタミン3000は、リポフェクトアミンを用いた導入キットである。直鎖型PEIの構造を以下に示す。リポフェクトアミンの構造を図6に示す。
【化1】
【0045】
JETPEIは、所定のプロトコルにしたがって、生理食塩水50μL中にJETPEI試薬2μL及びプラスミド1μgを含むように添加して混合し、複合体溶液として調製して、後述のように細胞に投与した。
リポフェクタミンは、所定のプロトコルにしたがって、Opti-MEMバッファー125μL中にリポフェクタミン溶液7.5μL及びプラスミド1μgを含むように添加して混合し、複合体溶液として調製して、後述のように細胞に投与した。
市販の分岐型PEIは、リン酸緩衝液(pH7.4)50μL中に、プラスミド1μgに対してポリマー2、5、7、10μg(ポリマー:DNA=2:1、5:1,7:1、10:1)となるように添加して混合し、複合体溶液として調製して、後述のように細胞に投与した。
上記合成したPEI-BSA(20)-SA(15)は、リン酸緩衝液(pH7.4)50μL中に、プラスミド1μgに対してポリマー2、5、7、10μg(ポリマー:DNA=2:1、5:1,7:1、10:1)となるように添加して混合し、複合体溶液として調製して、後述のように細胞に投与した。
上記の直鎖型PEI、リポフェクタミン、分岐型PEI又はPEI-BSA(20)-SA(15)と、プラスミドとの複合体の溶液を細胞へ投与するにあたっては、後述する通り、凍結濃縮法による実験(凍結濃縮実験系)と、凍結濃縮を利用しない実験(非凍結濃縮実験系)とを行った。
【0046】
[非凍結濃縮系]
上記作成した複合体の細胞への投与にあたって、凍結濃縮を利用しない実験(本発明の比較例)を以下のように行った。
106個の細胞を3.5cmディッシュに播種し、1mL の培養液(無血清ダルベッコ改良イーグル培地(DMEM))中で10時間培養後、それぞれの複合体試薬溶液(いずれの複合体溶液も50μL、ただしリポフェクタミンによる複合体溶液は125μL)を添加後、10時間37℃、インキュベータ中で培養して、後述のように、共焦点レーザー顕微鏡でGFPの発現の観察(pAcGFP-N2の場合)、ルミノメータ(Lumat3、ベルトールド)でルシフェラーゼ活性の測定(pGL4.51の場合)を行い、遺伝子導入を確認した。
【0047】
ルシフェラーゼ活性の測定は、ルシフェラーゼアッセイキット(Promega)を使用してその使用法に則り行った。培養後の細胞を1mL のPBSで3回洗浄し、キット付属の細胞溶解液(2mMジチオスレイトール、2mM 1,2-diaminocycloheaxane-N,N,N',N'-teraacetic acid、10%グリセリン1% Triton X-100の25mMトリスリン酸バッファーpH7.8溶液)500μLで細胞を溶解させ、全量をマイクロチューブに回収した。その後、13200rpmで遠心分離し、上清を回収した。キット付属のルシフェラーゼアッセイ試薬(ルシフェリンPBS溶液)をあらかじめ100μL添加したチューブに上記細胞溶解液上清を20μL添加し、ルミノメータにて2秒間の発光を測定し、RLU(相対発光量)を算出し、比較した。
【0048】
[凍結濃縮系]
上記調製した複合体の細胞への投与にあたって、凍結濃縮法による実験(本発明の実施例)を以下のように行った。
クライオバイアル中に106個の細胞を懸濁した1mL の無血清DMEM培地(10%DMSOおよび複合体試薬溶液(50μL(リポフェクタミンのみ125μL))含有)を添加し、-80℃のフリーザー中で一晩凍結した。37℃の湯浴中で解凍した後、1mL のPBSで3回遠心洗浄した後、3.5cmディッシュに細胞を全量播種し、1mL の無血清DMEM中を添加して37℃のインキュベータで10時間培養後、共焦点レーザー顕微鏡観察およびルシフェラーゼ活性の測定を行った。この凍結濃縮実験系の手順を図7に示す。
【0049】
[GFP発現]
市販品のJETPEIでは、非凍結濃縮実験系では、GFPの発現による緑の蛍光がほとんど見られなかったが、凍結濃縮実験系では、GFPの発現による緑の蛍光が明瞭に確認された。市販の分岐型PEIでは凍結のあるなしにかかわらず、蛍光はほとんど観察されなかった。リポフェクタミン3000の場合も、凍結しない場合は蛍光が観察されなかったのに対し、凍結により蛍光が確認された。PEI-BSA(20)-SA(15)に関しては、いずれのポリマー:DNAの割合においても凍結後に蛍光が観察された。5:1の場合は、若干凍結無しの系でも蛍光が確認できた。
【0050】
図8図10に、市販のリポフェクタミン、分岐型PEI、直鎖型PEIのGFP発現の様子を示す。図8図10において、上段の図は、非凍結濃縮系によって得られた細胞の顕微鏡写真である。上段の左図は細胞の顕微鏡写真、上段の中央図はGFP発現を観察する蛍光顕微鏡写真、上段の右図は両視野を重ねた写真である。図8図10のいずれの図においても、下段の図は、凍結濃縮系によって得られた細胞の顕微鏡写真である。下段の左図は細胞の顕微鏡写真、下段の中央図はGFP発現を観察する蛍光顕微鏡写真、下段の右図は両視野を重ねた写真である。
【0051】
図8は、市販の直鎖型PEI(JET PEI)による複合体を添加した場合の培養10時間後のGFP発現の様子を示す顕微鏡写真である。
【0052】
図9は、市販の分岐型PEIによる複合体(PEI:DNA 5:1(w/w))を添加した場合のGFP発現の様子を示す顕微鏡写真である。
【0053】
図10は、市販のリポフェクタミン(リポソーム系導入試薬)による複合体を添加した場合のGFP発現の様子を示す顕微鏡写真である。
【0054】
図11は、PEI-BSA-SAによる複合体(PEI-BSA(20)-SA(15)-DNA (AcGFP)複合体)を添加した場合の10時間培養後の細胞のGFP発現の様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【0055】
[ルシフェラーゼアッセイ]
GFP発現の結果から、凍結濃縮が遺伝子導入の効果を向上させていることがわかった。これを定量化をするため、さらにルシフェラーゼアッセイを上述の通りに行った。
【0056】
非凍結濃縮系の場合のルシフェラーゼ活性は、市販のリポフェクタミン、JETPEI、分岐型PEIにおいて、それぞれ150000、420000、160000(relative light unit (RLU))であるのに対し、凍結濃縮系ではそれぞれ、310000、800000、470000(RLU)に向上した。
【0057】
一方、PEI-BSA(20)-SA(15)に関しては、ポリマー:DNAが2:1、5:1、7:1、10:1において、非凍結濃縮系はそれぞれ280000、420000、120000、200000(RLU)であったのに対し、凍結濃縮系ではそれぞれ、3100000、3200000、1450000、2100000(RLU)と市販のリポフェクタミン、JETPEI、分岐型PEIに比べて4倍から20倍以上の活性を示すことが確認できた。
【0058】
図12に、市販のリポフェクタミン、JETPEI、分岐型PEIを用いた場合のルシフェラーゼ活性を、非凍結濃縮系と凍結濃縮系とで対比するグラフを示す。
【0059】
図13に、PEI-BSA(20)-SA(15)を用いた場合のルシフェラーゼ活性を、PEI-BSA(20)-SA(15):DNAのそれぞれの比率ごとに、非凍結濃縮系と凍結濃縮系とで対比するグラフを示す。
【0060】
[凍結濃縮系におけるエンドソームからのプラスミドDNAのリリース]
PEI-BSA(20)-SA(15)を用いた複合体による凍結濃縮系において、複合体のプラスミドDNAが細胞に導入発現される機構を確認するために、次の実験を行った。細胞の核をヘキスト33342(Hoechst 33342)で染色し、エンドソームをリソトラッカーグリーン(lysotracker green)でラベルし、プラスミドDNAをレッドシアニン3’(Red cyanine 3’)でラベルした、蛍光顕微鏡写真を図14に示す。図14の矢印で示す箇所において、赤色染色されたプラスミドDNAが、緑色染色されたエンドソームの外に移行して、青色染色された細胞核の近傍に存在している。このように複合体による凍結濃縮系によって、プラスミドDNAは細胞内に取り込まれた後に、エンドソームから放出されて、核へ移行するという機構が存在することが確認された。
【0061】
[凍結濃縮系におけるプラスミドDNAの細胞への吸着]
凍結濃縮系において、複合体のプラスミドDNAが細胞に導入発現される機構を確認するために、次の実験を行った。複合体は、直鎖型PEI(JET PEI)と、レッドシアニン3’(Red cyanine 3’)でラベルしたプラスミドDNA(pAcGFPプラスミド)との複合体を使用した。凍結濃縮系において、複合体が導入された細胞の顕微鏡写真を図15に示す。図15の上段は非凍結濃縮系であり、図15の下段は凍結濃縮系である。図15の左図は細胞の顕微鏡写真、図15の中央の図は蛍光顕微鏡写真、図15の右図はこれらを同視野で重ねた写真である。非凍結濃縮系と比較して、凍結濃縮系においては、レッドシアニン3’でラベルされたプラスミドDNAは、著しく細胞へ集中していた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は細胞への遺伝子導入技術を提供する。本発明は産業上有用な発明である。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15