【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、上述した問題を鑑み、太陽光の下で育成する植物に害虫がよりつくことを防止できる植物の育成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、育成対象である植物を、基材を織成して防虫可能な網目状に形成されたネットで覆うとともに、前記ネットを介した太陽光のうちの赤色の波長の光を前記植物に照射して、前記植物の生体内のジャスモン酸経路を活性化させて前記植物を育成
し、前記ネットの目合が、0.6mm以上0.8mm未満×0.6mm以上0.8mm未満である植物の育成方法であることを特徴とする。
【0008】
前記赤色の波長の光とは、赤色のみでなく、黄色や橙色、赤紫色の波長の光などを含む。換言すると、赤色の光とは、約580nm〜800nmの波長領域の光をさす。
上述の前記ネットを介した太陽光のうちの赤色の波長の光を前記植物に照射してとは、太陽光が前記ネットを形成する前記基材に反射(乱反射)又は透過することで、太陽光のうちの赤色の波長の光が前記植物に照射されることを指す。なお、前記反射又は透過するとは、赤色の波長領域の光を他の色の波長領域の光と比べて強く反射又は透過することをさす。すなわち、赤色の波長領域のみを反射又は透過する場合や、他の色の波長領域の光の一部を反射又は透過する場合を含む。なお、反射又は透過する基材とは、反射と透過の一方のみをする基材に限定することなく、反射及び透過の双方をする基材であってもよい。
【0009】
前記植物とは、生体内にジャスモン酸経路を有する植物をさす。例えば、ナス科やアブラナ科、キク科、バラ科、ウリ科など多くの園芸作物があるが、これらに限定されず、ジャスモン酸経路を有する植物であればどの植物であっても構わない。
【0010】
前記基材は、モノフィラメントや糸などの一本の糸状体で構成された場合や、複数の糸状体を撚り合わせた紐状体で構成された場合、短手方向に所定の幅を有する帯状体で構成された場合を含む。
前記ネットは、糸状体同士や紐状体同士、帯状体同士のように同一の前記基材を織成した場合や、糸状体と紐状体とを織成した場合などのように異なる種類の前記基材を織成した場合も含む。また、前記基材と他の色と比べて赤色を強く反射又は透過しない基材とで網目状に形成されたネットを含む。
【0011】
上述のネットで覆うとは、育成対象である植物を全体的に覆う場合や部分的に覆う場合を含む。具体的には、前記ネットで前記植物を取り囲む場合や、前記植物の上方に前記ネットを張った場合、前記植物から見て所定の方角に前記ネットを張った場合などを含む。
【0012】
上述のネットを介した太陽光とは、前記ネットを介して太陽光を前記植物に直接当てる場合や、ビニール材やガラス材などを透過した太陽光を前記植物を覆う前記ネットを介して前記植物に当たる場合を含む。
【0013】
この発明により、太陽光の下で育成する植物に害虫がよりつくことを防止できる。
例えば、太陽光が前記植物を覆う前記ネットに乱反射されることにより、乱反射された赤色の波長の光が植物にあたることとなる。これにより、前記植物の生体内のジャスモン酸経路が活性化され、害虫の忌避物質が前記植物の生体内で生成され、前記植物に害虫がよりつくことを防止できる。
【0014】
また、太陽光の下で育成するため、すなわち日照時間であれば常に強度の強い赤色の波長の光を当てることができるため、ジャスモン酸経路が常に活性化され、前記植物に害虫がよりつくことを防止できる。
【0015】
また、前記ネットの目合を、0.6mm以上0.8mm未満×0.6mm以上0.8mm未満とすることにより、目合よりも大きな害虫が前記植物によりつくことを防止できるとともに、通気性のよい環境下で前記植物を育成することができる。
【0016】
例えば、前記ネットの目合が0.6×0.6mm未満である場合、目合が細か過ぎるため通気性が悪くなり、ネットの内部において温度が上昇する。また、水遣り時の通水性も悪くなるため、前記植物の育成環境が劣化する。
【0017】
一方で、前記ネットの目合が0.8×0.8mm以上の場合、通気性や通水性が良くなるが、害虫が容易にネット内に侵入しやすくなるため、前記植物に害虫がつきやすくなる。
【0018】
また、前記ネットによって反射又は透過する赤色の光の光量が減少するため、赤色の光が十分に前記植物に当たらず、十分な量の忌避物質を産出できるだけのジャスモン酸経路の活性が得られないおそれがある。
【0019】
これに対して、前記ネットの目合を0.6mm以上0.8mm未満×0.6mm以上0.8mm未満とすることで、十分な通気性及び通水性を確保できるとともに、赤色の光を前記植物に当ててジャスモン酸経路を活性化させることができる。したがって、適した育成環境を維持できるとともに、十分な害虫の忌避物質を産出でき、前記植物に害虫がよりつくことを防止できる。
【0020】
この発明の態様として、前記ネットは、糸状に形成されるとともに、照射された太陽光が赤色の波長の光として前記植物に照射される前記基材で構成された経糸と、糸状に形成されるとともに、照射された太陽光が赤色の波長の光として前記植物に照射される前記基材で構成された緯糸とを織成して形成されてもよい。
【0021】
換言すると、前記ネットは、糸状に形成されるとともに、赤色の波長の光を反射又は透過する前記基材で構成された経糸と、糸状に形成されるとともに、赤色の波長の光を反射又は透過する前記基材で構成された緯糸とを織成して形成されてもよい。
【0022】
この発明により、前記ネットを織成す経糸及び緯糸を介して赤色の波長の光を植物に照射できるため、例えば経糸又は緯糸の一方が赤色の波長の光を前記直物に照射する前記基材で構成された場合に比べて、前記ネットが前記植物に照射する赤色の波長の光の量が増加することとなる。したがって、前記ネットを介して赤色の波長の光を前記植物に十分量当てることができ、ジャスモン酸経路がより活性化され害虫の忌避物質をより多く産出できる。これにより、前記植物に害虫がつくことをより防止できる。
【0023】
またこの発明の態様として、前記赤色の波長の光は、波長580〜680nmの波長領域をピークとしてもよい。
さらにまたこの発明の態様として、前記赤色の波長の光は、波長610〜650nmの波長領域をピークとしてもよい。
【0024】
前記ピークとは、例えば前記基材に反射又は透過した赤色の波長の光の少なくとも一方のピークであることを含む。すなわち、前記ピークとは、上述の波長領域において前記ネットを介して前記植物に照射される波長をさす。
【0025】
これらの発明により、生体内のジャスモン酸経路を活性化させる波長630nmを中心とした波長の光を前記植物に当てることができるため、ジャスモン酸経路を確実に活性化させて害虫の忌避物質を産出させることができ、前記植物に害虫がよりつくことをより防止できる。
【0026】
またこの発明の態様として、前記ネットで前記育成対象である植物を囲繞してもよい。
この発明により、例えば反射又は透過した赤色の波長の光を四方から前記植物に当てることができ、害虫の忌避物質を産出できるとともに、害虫の侵入経路を前記ネットで妨げることができるため、害虫のよりつきと害虫の外部からの侵入とを物理的に防止できる。
【0027】
また、前記植物を前記ネットで囲繞することにより、太陽の移動に関わらず前記植物に赤色の波長の光を当てることができるため、日照時間であれば時間帯に関わらずジャスモン酸経路を活性化させて害虫の忌避物質を産出させることができる。したがって、日照時間によらず害虫が植物によりつくことを防止できる。
【発明の効果】
【0028】
この発明によれば、太陽の下で育成する植物に害虫がよりつくことを防止できる植物の育成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
図1は、太陽光の当たる野外において植物21(苗状態にあるものなど)を植えた畝22などにネット10をトンネル被覆した状態を示す。このように、ネット10を介して太陽光を植物21に当てる植物21の育成方法について以下説明する。
【0031】
植物21は、ナス科の植物であるトマトである。なお、植物21はトマトに限らず、ジャスモン酸経路を有するアブラナ科、キク科、バラ科、ウリ科など多くの園芸作物としてもよい。
また、植物21は必ずしも畝22に植える必要はなく、例えばプランターやセルトレイに植えてもよい。また、植物21を育成する場所は太陽光が当たる場所であれば野外である必要はなく、例えばガラス張りのガラスハウスや、ビニールハウス内であってもよい。
【0032】
この植物21をトンネル被覆するネット10は、
図2に示すように、経糸11と緯糸12とを平織して網目状に形成されている。
この経糸11及び緯糸12は透明のポリエチレンに赤い着色剤(顔料、染料)を練り込んだ赤色の透明なモノフィラメント100で構成されている。このモノフィラメント100は着色剤(顔料、染料)を練り込んでいるため、容易に退色しない。
【0033】
また、
図2に示すように、網目状であるネット10は、経糸11と緯糸12で囲まれる部分に隙間13を有する。この隙間13の大きさは、すなわちネット10の目合はw1×w2=0.8mm×0.8mmであり、一定以上の大きさの害虫の侵入を防ぐ大きさであるとともに、通気性や通水性を確保可能な大きさに設定される。
【0034】
なお、この隙間13の大きさ(目合の大きさ)は3mm〜5mm程度の大きさであってもよいが、1mm×1mm程度の小さい目合のものであれば、十分な通気性を確保しつつも、より多くの種類の害虫の侵入を防止できるのでよい。また好ましくは、目合を0.6mm〜1.0mm×0.6〜1.0mmに設定するのがよい。例えば0.2mm×0.2mmなど、目合を0.6mm×0.6mmより小さくすると、アザミウマのような微小な害虫にも防除効果を有するものの、通気性や通水性を確保しにくくなる。また、極端に細い糸を用いずとも、50%以上の空隙率を得ることが可能となるからである。
【0035】
このように構成されたネット10の性質について
図3及び
図4に基づいて詳述する。
図3は可視光領域の波長に対するネット10の反射率を示すグラフであり、
図4はネット10を介して植物21に当たる太陽光の進路を簡易的に説明するモデル図を示す。
【0036】
ここで、ネット10の反射率は、SZ−Σ90(日本電色工業製)を用いて測定した。
詳述すると、ネット10及び白色ネットに対して400nm〜700nmまでの光を20nmずつ当て、それぞれの波長に対する乱反射した光の強度を測定し反射率を測定した。
図3はその測定結果を示す。
【0037】
以下において、
図3に基づいて、ネット10の反射について詳述する。
ネット10は、
図3に示すように、波長が約630nmの光をピークとする波長580nm〜700nmの光(赤色の光)、より詳しくは波長610〜650nmの光を強く拡散反射(乱反射)し、650nmよりも長波長側の光は徐々に反射率が低下する。このことから、植物21をトンネル被覆したネット10に太陽光が当たると、波長580nm〜700nmの光は乱反射され、ネット10の内側に波長580nm〜700nmの光が入り込む(
図5中のλ1)。すなわち、ネット10でトンネル被覆した植物21には、ネット10に乱反射された波長580nm〜700nmの光(赤色の光)が当たることとなる。
【0038】
なお、ネット10は、経糸11と緯糸12で囲まれる部分に所望の大きさを有する隙間13(目合がw1×w2=0.8mm×0.8mm)を有するため、太陽光がネット10に当たることなく内部に入り込む(
図5中のλ2)。すなわち、ネット10は隙間13を構成することにより、植物の成長に不可欠な太陽光を遮ることなく、また空気も水も容易に通過できる。
【0039】
このように、植物21をネット10でトンネル被覆することで、植物21には、ネット10に乱反射された波長580〜700nmをピークとした赤色の光(
図5中のλ1)及びネット10の目合を通過した太陽光(
図5中のλ2)が当たることとなる。
【0040】
次に、このように赤色の光を透過及び反射するネット10でトンネル被覆するとともに、ネット10を介した太陽光を当てて育成された植物21に対する害虫(アザミウマ)のよりつき具合(防除作用)について述べる。
以下、植物21に対するアザミウマの防除作用の調査方法について説明する。
【0041】
<比較対象植物の育成方法>
比較対象である植物21の育成方法について説明する。
まず、太陽光の当たる温室内で植物21をセルトレイに播種し発芽させ、発芽した植物21を28株無差別に選択し、7株ずつ分けた。
【0042】
次に、無差別に選択した28株の植物21の苗のうち7株を、太陽光の当たる温室内で約一月、5葉展開するまで育苗した(この7株をサンプル1とする)。また、他の7株の苗は、目合が0.80×0.80mmであるネット10で被覆し、サンプル1と同様に、太陽光の当たる温室内で5葉展開するまで約一月育苗した(この7株をサンプル2とする)。
【0043】
さらにまた、他の7株の苗は、目合が0.80×0.80mmで白色透明のモノフィラメントを経糸及び緯糸とした白色ネットで被覆し、サンプル1及びサンプル2と同様に、太陽光の当たる温室内で5葉展開するまで約一月育苗した(この7株をサンプル3とする)。すなわち、サンプル3に対応する植物21の苗は、白色ネットを介した太陽光を当てて育苗した。
なお、上述の白色透明のモノフィラメントは特定の波長を強く透過及び反射させることはないフィラメントであるため、このネットでトンネル被覆した植物21には特定波長の光が強く当たることはない。(
図3参照)
【0044】
そして残った7株の苗に対しては、100ppmに薄めたジャスモン酸誘導体(PDJ)を定期的に散布して、他のサンプルと同様に、太陽光の当たる温室内で5葉展開するまで約一ヶ月育苗した(この7株をサンプル4とする)。
【0045】
その後、5葉展開した各サンプルに対応する植物21を野外に設けた株間×畝間=35×90cmの畝22に7株ずつ一条植えで定植した。すなわち、サンプル1〜4に対応する植物21を7株ずつ定植した畝22が、4区並んで設けられている。なお、第1区にはサンプル1を、第2区にはサンプル2を、第3区にはサンプル3を、第4区にはサンプル4を定植した。
【0046】
このようにそれぞれ異なる育苗条件で育てられた7株の植物21は、それぞれ第1区〜第4区に定植され、太陽光の下で13日間育成された。
【0047】
<害虫数の計数方法>
次に、このように定植された植物21に寄りついた害虫の頭数の計数方法について説明する。
植物21によりついた害虫(アザミウマ)の頭数は、各区の中央5株に寄生している害虫の頭数を3反復で数え、これらの平均値を算出することで、1区ごとの害虫の頭数とした。なお、定植した日から13日後に各区の害虫の頭数を計数した。
【0048】
<調査結果>
上記計数方法により得られた各区における定植した日から13日後の害虫(アザミウマ)の頭数の計数結果を表1に示す。
【0050】
表1に示すように、定植してから13日後における各区のアザミウマの平均頭数は、第1区で154.0±35.2匹、第2区で64.0±32.9匹、第3区で174.3±27.0匹、第4区で26.3±17.2匹であった。
【0051】
第1区と第2区とを比較したところ、13日後の第1区でのアザミウマの平均頭数が154.0±35.2匹であるのに対しては、第2区でのアザミウマの平均頭数は64.0±32.9匹であり、温室内での育苗時にネット10で被覆した植物21を定植した第2区では、育苗時にネット10で被覆しなかった第1区と比べて明らかにアザミウマの頭数が減少していた。
【0052】
このことから、ネット10を用いた植物21を育成する育成方法では、ネット10で植物21を被覆しないで育成した場合と比べて、アザミウマに対する効果的な防除作用を有することが分かる。
【0053】
これに対して、育苗時に白色ネットで被覆した植物21を定植した第3区でのアザミウマの頭数は、13日後の第2区でのアザミウマの頭数と比べて、著しく多かった(13日後174.3±27.0匹)。すなわち、育苗時において白色ネットで植物21を被覆することは、アザミウマに対する効果的な防除作用を有さない。
【0054】
一方で、育苗時にPDJを定期的に散布した植物21を定植した第4区では、アザミウマの頭数が他の区に比べて著しく少ないことが分かる(13日後26.3±17.2匹)。すなわち、PDJにはアザミウマの忌避効果を有することが分かる。
なお、植物は食害や傷害により、ジャスモン酸経路が活性化され、害虫の忌避物質を産出することが知られており、PDJはこれと同様の効果を有すると考えられる。
【0055】
以上より、ネット10で被覆されるとともに、太陽光の下で生育された植物21は、ネットを用いずに太陽光の下で生育された、又は白色ネットで被覆されるとともに太陽光の下で生育された植物21と比べて、害虫(アザミウマ)に対する効果的な防除効果を有していた。
なお、育成されたサンプル1〜4の植物21は見た目に大きな差がないことから、ネット10で覆うことによる植物21の成長への影響ない。
【0056】
次に、ネット10で覆うとともに、ネット10を介して太陽光を当てた植物21の生体内でのジャスモン酸経路の遺伝子発現量について記載する。
以下、ジャスモン酸経路の発現量を測定するための試料の処理方法及び発現量の測定方法について記載する。
【0057】
<対象植物の育成方法>
対象植物である植物21を3株、午前9時から10時間ほど室温にした暗室で育成する。
次に、この3株のうちの2株を午後7時に昼間に太陽光のあたる場所に出し、そのうちの1株をネット10で被覆し、24時間放置する(以下、サンプル5とする。)。
【0058】
同様に、太陽光の当たる場所に出された他の1株を囲繞するように白色ネットで被覆し、24時間放置する(以下、サンプル6とする。)。
なお、太陽光の当たる場所に出されなかった1株(以下、サンプル7とする。)は、引き続き暗室で24時間生育する。
【0059】
<遺伝子発現量の測定方法>
このように24時間育成させたサンプル5〜7の生長点付近の上位2葉を回収し、細胞内のRNAを回収する。
【0060】
回収されたRNAに対して、生体内でのジャスモン酸の生成に関わるPathogenesis-related
protein 6(PR6)に対応するプライマーを作製し、当該プライマーを用いてリアルタイムPCR法にて、サンプル5〜7で発現されたPR6のmRNAの発現量を測定する。なお、リアルタイムPCRは遺伝子解析の分野においては、当業者であるならば周知の技術であるため詳細は省く。
【0061】
なお、PR6はジャスモン酸経路発現の指標タンパク質であるため、PR6に対応するmRNAの発現量を調べることでジャスモン酸経路に係る遺伝子群の発現量を調べることができる。
【0062】
上述の方法で測定されたサンプル5〜7のmRNAの発現量について、
図5に基づいて説明する。
ここで、
図5は生体内において発現するアクチンに対応するmRNAの発現量を基準(アクチンの遺伝子発現量を1とする)とした場合における、サンプル5〜7のPR6に対応するmRNAの相対発現量を示す。
【0063】
図5に示すように、ネット10を用いて育成したサンプル5は、サンプル6及びサンプル7と比べ、PR6遺伝子の発現量が多かった。すなわち、ネット10で覆った植物21であるサンプル5は、サンプル6及びサンプル7に比べてジャスモン酸経路が活性化されていた。
【0064】
また、サンプル5とサンプル7との比較から、太陽光の下で育成した植物21は太陽光の当たらない状況下で育成した植物21と比べてPR6の発現量が増加した。さらにサンプル5とサンプル6との比較から、同じようにネットで覆われるとともに、太陽光の下で育成された植物21であっても、赤色の光を透過及び反射させるネット10を用いた方がより多くのPR6が発現しており、ジャスモン酸経路がより活性化されていた。
【0065】
ここでネット10は、
図3に示すように、波長630nmを中心とした波長領域の光が乱反射されるため、ネット10で被覆された植物21には乱反射された波長630nmを中心とした赤色の光が当たることとなる。
【0066】
このことからネット10で覆った植物21には波長630nmをピークとした赤色の光が植物21に当たることで、ジャスモン酸経路が活性化され、植物が食害や傷害を受けた場合と同様に、ジャスモン酸経路の活性化による害虫の忌避物質が大量に産出され、植物21に害虫がよりつくことを防止できる。
【0067】
このように育成対象である植物21を、赤色の光を透過及び反射するモノフィラメント100を織成して網目状に形成されたネット10で覆うとともに、ネット10を介した太陽光のうちの赤色の波長の光を植物21に照射して、植物21の生体内のジャスモン酸経路を活性化させる植物の育成方法により、植物21に害虫がよりつくことを防止できる。
【0068】
詳述すると、太陽光が植物21を覆うネット10を介することにより、ネット10に反射された赤色の波長の光が植物21に当たるため、生体内のジャスモン酸経路が活性化され、植物21の生体内で害虫の忌避物質が生成される。これにより、植物21に害虫がよりつくことを防止できる。
【0069】
また、この植物の育成方法では植物21の育成に太陽光を用いる、すなわち日照時間中では常にネット10の目合を抜けた太陽光と強度の強い赤色の光とを植物21に当てることができるため、植物の成長に欠かせない光合成などを妨げることなく、ジャスモン酸経路が常に活性化できる。すなわち、植物21に害虫がよりつくことを防止しながら、植物21を生育させることができる。
【0070】
また、ネット10を、糸状に形成されるとともに、照射された太陽光が赤色の波長の光として植物21に照射することができるモノフィラメント100で構成された経糸11と、糸状に形成されるとともに、照射された太陽光が赤色の波長の光として植物21に照射することができるモノフィラメント100で構成された緯糸12とを織成なした構成とすることにより、赤色の波長の光をより多く植物21に照射することができる。
【0071】
具体的には、経糸11及び緯糸12の双方をモノフィラメント100で構成することにより、経糸11又は緯糸12の一方のみをモノフィラメント100で構成した場合に比べ、ネット10によって反射される赤色の光の量が多くなる。このため、植物21に当たる赤色の光の量が増え、ジャスモン酸経路がより活性化されることとなり、害虫の忌避物質がより多く産出される。したがって、植物21に害虫がよりつくことをより防止できる。
【0072】
また、例えば曇りの日のように太陽光の光量が少ない場合であっても、経糸11及び緯糸12により太陽光が透過及び反射されるため、植物21に対して一定量の赤色の波長の光を当てることができ、害虫がよりつくことをより防止できる。
【0073】
また、上述のネットを介して直物に照射される赤色の波長の光は、波長580〜680nmの波長領域を、より好ましくは、波長610〜650nmの波長領域をピークとすることにより、生体内のジャスモン酸経路を活性化させる波長約630nmの波長領域を中心とした光を植物21に当てることができる。これにより、確実に生体内のジャスモン酸経路が活性化され、忌避物質を産出させることができ、植物21に害虫がよりつくことをより確実に防止できる。
【0074】
また、ネット10で育成対象である植物21を囲繞することにより、透過及び反射した赤色の光を四方から植物21に当てることができ、確実に忌避物質を産出できるとともに、害虫の侵入経路をネット10で妨げることができるため、害虫の外部からの侵入を物理的に防止できる。
【0075】
さらにまた、植物21をネット10で囲繞することにより、太陽の移動に関わらず植物21に赤色の光を当てることができる。すなわち、日照時間であれば時間帯に関わらずジャスモン酸経路を活性化させて忌避物質を産出させることができる。したがって、日照時間によらず害虫が植物21によりつくことを防止できる。
【0076】
さらにまた、ネット10の目合を、0.6×0.6mm以上1.0×1.0mm以下とすることにより、目合よりも小さい害虫が植物21によりつくことを防止できるとともに、通気性のよい環境下で植物21を育成することができる。
【0077】
詳述すると、ネット10の目合が0.6×0.6mm未満である場合、目合が細か過ぎるため通気性が悪くなり、ネット10の内部において温度が上昇することとなる。また、水遣り時の通水性も悪くなるため、植物21の育成環境が劣化することとなる。
【0078】
一方で、ネット10の目合が1.0×1.0mmよりも大きい場合、容易に害虫がネット10内に侵入することができるため、植物21に害虫がつきやすくなる。
【0079】
また、ネット10に透過及び反射する太陽光の割合が減少するため、赤色の光が十分に植物21に当たらず、十分な量の忌避物質を産出できるだけのジャスモン酸経路の活性が得られないおそれがある。
【0080】
これに対して、ネット10の目合を0.6〜1.0×0.6mm〜1.0mm以下とすることで、十分な通気性を確保できるとともに、赤色の光を植物21に当ててジャスモン酸経路を活性化できる。したがって、適した育成環境を維持できるとともに、十分な忌避物質を産出させることができ、植物21に害虫がよりつくことを防止できる。
【0081】
本発明の構成と、前述の実施態様との対応において、
植物は、植物21に対応し、
基材は、モノフィラメント100に対応し、
ネットは、ネット10に対応し、
経糸は、経糸11に対応し、
緯糸は、緯糸12に対応するも、上記実施形態に限定するものではない。
【0082】
例えば、上記実施形態では、ネット10は、赤色の波長の光を反射するモノフィラメント100で構成されているが、本発明は赤色の波長の光(好ましくは波長580〜680nm、より好ましくは波長610〜650nm)を植物に当てることにより、ジャスモン酸経路を活性化させる発明であり、ネット10で反射される光に限定されるものではない。
【0083】
すなわち、赤色の波長の光を透過させる例えばフィルムのようなものでネット10を構成してもよく、またモノフィラメント100を赤色の波長の光を透過及び反射する素材で構成してもよく、さらにはモノフィラメント100とフィルムなどの透過可能な素材とを組み合わせてネット10を織成してもよい。換言すると、ネット10を介した太陽光から得られた赤色の波長の光を植物に当てることができれば、ネット10を織成す基材の材質に限定はされない。
【0084】
また、経糸11及び緯糸12を構成するモノフィラメント100は、糸などの一本の糸状体や、複数の糸状体を撚り合わせた紐状体、短手方向に所定の幅を有する帯状体で構成してもよい。
【0085】
またネット10は、糸状体同士であるモノフィラメント100を織成して構成しているが、糸状体と紐状体などのように異なる基材を織成して構成してもよい。また、モノフィラメント100と他の色と比べて赤色を強く透過及び反射しない基材とで網目状に形成されたネットとしてもよい。
【0086】
また、ネット10で覆うとは、育成対象である植物21をトラック被覆のように全体的に覆うのみでなく、例えば植物21の上方にネット10を張ったり、植物21から見て所定の方向にネット10を張ったりしてもよい。