(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873452
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】食品組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20210510BHJP
A23L 17/40 20160101ALI20210510BHJP
A61K 35/618 20150101ALI20210510BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20210510BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L17/40 C
A61K35/618
A61P43/00 111
A61P3/06
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-164322(P2016-164322)
(22)【出願日】2016年8月25日
(65)【公開番号】特開2018-29531(P2018-29531A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】504146349
【氏名又は名称】佐々木食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千々松 武司
【審査官】
中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−210990(JP,A)
【文献】
特開2005−261408(JP,A)
【文献】
今木雅英他、「血清コリンエステラーゼ活性値と摂取熱量及び食物摂取パターンとの関連性について」,民族衛生, 1986, vol. 52, no. 4, pp. 190-195
【文献】
日本食品科学工学会誌, vol. 55, no. 2, pp. 63-68
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 31/00−33/29
A23L 17/00−17/60
A61K 35/00−35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/AGRICOLA/BIOTECHNO/CABA/SCISEARCH/TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱水で抽出したシジミ抽出物を有効成分として220〜2000mg含む、血中コリンエステラーゼ濃度低下用食品組成物(ただし、前記血中コリンエステラーゼ濃度とは、至適条件下で、試料1L 中に1分間に1μmol の基質を変化させることができるコリンエステラーゼ量を1単位とする、コリンエステラーゼ活性のことである)。
【請求項2】
タブレット、ソフトカプセル、ハードカプセル、顆粒、散剤及び液剤からなる群から選ばれるいずれかの製剤形態である、請求項1に記載の食品組成物。
【請求項3】
サプリメントである、請求項1又は2に記載の食品組成物。
【請求項4】
BMI<30の健常者が摂取した場合に、血中コリンエステラーゼ濃度を低下させることができる、請求項1〜3のいずれかに記載の食品組成物(ただし、前記血中コリンエステラーゼ濃度とは、至適条件下で、試料1L 中に1分間に1μmol の基質を変化させることができるコリンエステラーゼ量を1単位とする、コリンエステラーゼ活性のことである)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中コリンエステラーゼ濃度低下用食品組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シジミは古くから味噌汁や佃煮として食されてきた一般的な和食材であると同時に、「肝臓に良い」、「黄疸によい」などの理由から民間療法として利用されてきた。更に、近年の健康志向の高まりからシジミ抽出物食品が栄養補助食品、健康補助食品やサプリメントとして流通している。
【0003】
特許文献1は、シジミエキスが肝機能改善効果を有することを開示する。
【0004】
コリンエステラーゼは、肝臓で合成されて血液中に分泌される酵素であり、過栄養性脂肪肝、糖尿病、肥満、ネフローゼ症候群、甲状腺機能亢進症等で高値を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-261408
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、蛋白合成や脂質代謝の亢進を改善し、血中のコリンエステラーゼを低下させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の食品組成物を提供するものである。
項1. シジミ抽出物を有効成分として含む、血中コリンエステラーゼ濃度低下用食品組成物。
項2. タブレット、ソフトカプセル、ハードカプセル、顆粒、散剤及び液剤からなる群から選ばれるいずれかの製剤形態である、項1に記載の食品組成物。
項3. サプリメントである、項1又は2に記載の食品組成物。
項4. BMI<30の健常者が摂取した場合に、血中コリンエステラーゼ濃度を低下させることができる、項1〜3のいずれかに記載の食品組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の食品組成物は、血中(例えば血清中)のコリンエステラーゼ濃度を低下させることができる。この血中コリンエステラーゼ濃度の低下は、蛋白合成や脂質代謝の亢進状態を正常化させたことを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に使用されるシジミとしては、二枚貝であり、ヤマトシジミ(Corbicula japonica)、セタシジミ(Corbicula Sandai)、マシジミ(Corbicula leana)やタイワンシジミ(Corbicula fluminea)などが挙げられ、これらのいずれを使用してもよいが、好ましくはタイワンシジミが挙げられる。抽出に用いられるシジミは、冷凍であっても生であっても乾燥品であってもよく、加熱処理したものでもよい。シジミ抽出物に用いられるのはシジミの可食部である。可食部は粉砕したものが抽出効率がよくなるために好ましい。
【0010】
シジミエキスは、シジミを溶媒抽出することにより調製してもよく、シジミを酵素加水分解処理して調製してもよい。
【0011】
シジミエキスの調製に用いられるシジミは、冷凍であっても生であっても乾燥品であってもよく、加熱処理したものでもよい。シジミエキスの調製に用いられるのはシジミの可食部である。
【0012】
抽出溶媒は、水、エタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの水混和性有機溶媒、クロロホルム、塩化メチレンなどの塩素化炭化水素、酢酸エチルなどのエステル、トルエンなどの芳香族炭化水素などが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。好ましい抽出溶媒は、水又は含水溶媒(例えば水とエタノールの混合溶媒)であり、さらに好ましくは水である。シジミの酵素加水分解に使用する酵素としては、スブチリシン、パパイン、トリプシン、キモトリプシン、サブチリシン、ペプシン、サーモリシン、カテプシン、サーモリシン、プロナーゼ、カスパーゼ、カルパイン、フューリン、ブロメライン、プロテイナーゼK、カルボキシペプチダーゼなどのプロテアーゼが挙げられ、プロテアーゼの由来は特に制限されず、微生物、動物、植物等いずれの由来のものを用いてもよい。また、プロテアーゼとしては、公知のプロテアーゼのホモログや改変体を利用してもよい。
【0013】
プロテアーゼとしては、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。市販品としては、酵素製剤が挙げられる。市販の酵素製剤として、具体的には、例えば、Protamex(ノボザイム製)が挙げられるが、これに限定されない。
【0014】
抽出溶媒は、水、エタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの水混和性有機溶媒、クロロホルム、塩化メチレンなどの塩素化炭化水素、酢酸エチルなどのエステル、トルエンなどの芳香族炭化水素などが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。好ましい抽出溶媒は、水又は含水溶媒であり、さらに好ましくは水である。
【0015】
抽出温度は室温から溶媒の沸点までの温度が挙げられ、例えば水を抽出溶媒として使用する場合には40〜100℃、好ましくは60〜95℃程度の温度が挙げられる。抽出時間は1〜24時間程度が挙げられる。抽出後はろ過により不溶物を除去し、抽出液を濃縮することにより、シジミ抽出物を得ることができる。
【0016】
抽出に使用する溶媒量は、可食部重量に対して1〜10倍量程度、好ましくは1.5〜3倍量程度である。
【0017】
本発明の食品組成物は、血中コリンエステラーゼ濃度を低下させる。本発明の食品組成物の対象は、特にBMIが30未満のヒト健常者である。これは、BMIが30以上の肥満者の場合、糖尿病や脂肪肝などの疾患が原因で血中コリンエステラーゼ濃度が基準値を超える場合があるが、これらの患者は医薬での治療が優先させる。一方、BMIが30未満の健常者において血中コリンエステラーゼ濃度を低下させることで、本発明の食品組成物は、高栄養状態でのタンパク質合成や脂質合成の亢進を緩和し、糖尿病や肥満などの生活習慣病の予防にも有効である。本発明の食品組成物は、血中コリンエステラーゼ濃度低下用の製剤の形態が好ましい。製剤としては、具体的には錠剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル)、丸剤、チュアブル錠、口腔内崩壊錠、顆粒剤、散剤、液剤、ドリンク剤、懸濁剤、乳濁剤などが挙げられる。
【0018】
本発明の食品組成物は、シジミ抽出物とともに製剤用の担体を含むことができる。このような担体としては、固形製剤の場合、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤などが挙げられ、液状製剤の場合、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤などが挙げられる。また、必要に応じて防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、安定化剤等の製剤添加物を用いることもできる。カプセル剤の担体としては、ハードカプセルの場合には、カプセル皮膜としてゼラチンを挙げることができ、ソフトカプセルの場合には、カプセル用皮膜として、ゼラチン、多価アルコール(グリセリン、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等)等を挙げることができる。ソフトカプセルはさらに水を含んでいてもよい。賦形剤としては、乳糖、白糖、D-マンニトール、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、無水ケイ酸等が挙げられる。
【0019】
結合剤としては、水、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、α-デンプン液、ゼラチン液、D-マンニトール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0020】
崩壊剤としては、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等が挙げられる。
【0021】
滑沢剤としては、精製タルク、ステアリン酸塩ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ホウ砂、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0022】
着色剤としては、酸化チタン、酸化鉄等が挙げられる。
【0023】
矯味・矯臭剤としては白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0024】
緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0025】
安定剤としては、トラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0026】
本発明の組成物は、サプリメントの形態であってもよい。
【0027】
本発明において、食品としては、グミ、ドリンクゼリー、キャンデー、クッキー、ビスケットなどが挙げられる。
【0028】
本発明の有効成分であるシジミ抽出物は、健常な成人1日当たり10〜2000mg程度、好ましくは50〜1500mg程度、より好ましくは100〜1200mg程度である。
【実施例】
【0029】
以下に参考例、実施例及び試験例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0030】
実施例1
(1)シジミ抽出物の調製
シジミ抽出物は以下のようにして調製した。
タイワンシジミ(Corbicula fluminea) を蒸煮し、殻を非可食部として取り除き、可食部を熱水にて撹拌抽出し、80 meshの濾布で濾過した。濾液を噴霧乾燥し、シジミエキス粉末を得た。
(2)対象者
被験者は年齢26〜71歳、BMIが30未満の健康な日本人男女とした。除外基準は、何らかの慢性疾患を患い治療を受けている者、医薬品、サプリメントなどを使用している者、食品や医薬品に対しアレルギー症状を示す恐れのある者、妊娠中、授乳中或いは試験期間中に妊娠する意思のある者とした。
(3)試験サンプル
シジミエキス粉末110mgを含むソフトカプセルを用いた。プラセボは、1粒に含まれるシジミエキス粉末110mgに代えてデキストリン+カラメル色素を用いた。
i. シジミエキス摂取群: 1日2回、朝食後に1粒、夕食後に1粒を水またはぬるま湯で摂取することとした(2粒/日)。
ii. プラセボ群: 1日2回、朝食後に1粒、夕食後に1粒を水またはぬるま湯で摂取することとした(2粒/日)。
※摂取を忘れた際には気づいたときに摂取することとした。
(4)試験スケジュールと摂取方法
摂取期間は12週とした。事前検査、摂取12週後に採血をし、血液検査を行った。試験期間中は、医薬品、サプリメントなどは摂取しないように指示した。その他の食事・飲酒等については特に指定しなかった。
(5)血液検査
血清中のコリンエステラーゼを測定した。
(6)統計解析
データは、平均値±95%信頼区間で示した。有意差検定は、対応のないt検定を用いて試験食品群の摂取前から摂取12週後にかけての変化量をプラセボ群と比較した。危険率5%未満の時に有意差ありとした。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1より、本発明の食品組成物は、血中のコリンエステラーゼ濃度を有意に低下させることが示された。