【実施例】
【0041】
[炭化物の製造]
(実施例1)
イグサの乾燥物を3〜10mmに裁断したものを被炭化物として、上記の第1の実施態様の炭化物の製造方法によりイグサ炭化物を製造した。加熱部の温度は約250℃であり、加熱工程の時間は約5分とした。このイグサ炭化物を「試料1」とする。試料1についてラマンスペクトルを測定し、その結果を
図4に示す。
【0042】
(実施例2)
イグサの乾燥物を3〜10mmに裁断したものを被炭化物として、上記の第2の実施態様の炭化物の製造方法によりイグサ炭化物を製造した。加熱部の温度は約450℃であり、加熱工程の時間は約10分とした。このイグサ炭化物を「試料2」とする。試料2についてラマンスペクトルを測定し、その結果を
図5に示す。
【0043】
(実施例3)
マキの木の葉(未乾燥物)を被炭化物として、上記の第1の実施態様の炭化物の製造方法によりマキの木の葉の炭化物を製造した。加熱部の温度は約280℃であり、加熱工程時間は約30分とした。このマキの木の葉の炭化物を「MK−1」とする。MK−1についてラマンスペクトルを測定した。
【0044】
(実施例4)
マキの木の葉(未乾燥物)を被炭化物として、上記の第1の実施態様の炭化物の製造方法によりマキの木の葉の炭化物を製造した。加熱部の温度は約320℃であり、加熱工程時間は約15分とした。このマキの木の葉の炭化物を「MK−2」とする。MK−2についてラマンスペクトルを測定した。
【0045】
(比較例1)
イグサを3〜10mmに裁断したものを被炭化物として、電気炉を用いて、アルゴン雰囲気下、炭化温度480℃で180分間炭化処理し、イグサ炭化物を製造した。このイグサ炭化物を「480−180」とする。480−180についてラマンスペクトルを測定し、その結果を
図6に示す。
【0046】
(比較例2)
イグサを3〜10mmに裁断したものを被炭化物として、電気炉を用いて、アルゴン雰囲気下、炭化温度300℃で炭化処理した。炭化処理時間を、10分間、20分間、30分間、40分間とし、各炭化処理時間におけるイグサ炭化処理物についてラマンスペクトルを測定した。その結果を
図7に示す。なお、各炭化処理物の試料名は、「300−(炭化処理時間)」で表す。
【0047】
(比較例3)
イグサを3〜10mmに裁断したものを被炭化物として、電気炉を用いて、アルゴン雰囲気下、炭化温度350℃で炭化処理した。炭化処理時間を、10分間、20分間、30分間、40分間とし、各炭化処理時間におけるイグサ炭化処理物についてラマンスペクトルを測定した。その結果を
図8に示す。なお、各炭化処理物の試料名は、「350−(炭化処理時間)」で表す。
【0048】
(比較例4)
マキの木の葉(未乾燥物)を被炭化物として、電気炉を用いて、アルゴン雰囲気下、炭化温度280℃で30分間炭化処理し、マキの木の葉の炭化物を製造した。このマキの木の葉の炭化物を「MK炉280−30」とする。MK炉280−30についてラマンスペクトルを測定した。
【0049】
(比較例5)
マキの木の葉(未乾燥物)を被炭化物として、電気炉を用いて、アルゴン雰囲気下、炭化温度280℃で60分間炭化処理し、マキの木の葉の炭化物を製造した。このマキの木の葉の炭化物を「MK炉280−60」とする。MK炉280−60についてラマンスペクトルを測定した。
【0050】
[炭化物のラマンスペクトル測定]
ラマンスペクトルの測定条件は以下のとおりである。
測定器:顕微レーザーラマン分光分析装置(レニショー(株)「inVia Reflex」)
レーザー:YAG(ダブリング)、532nm
出力:50mWを5%に減光
対物レンズ:100倍
積算回数:5回
測定範囲:800〜2000cm
-1
露光時間:100s
【0051】
実施例および比較例の各試料について、sp3混成軌道に由来する約1400cm
-1付近のピーク(Dバンド)と、sp2混成軌道に由来する約1600cm
-1付近のピーク(Gバンド)の面積比(I
D/I
G)を算出し、以下の表1にまとめた。
【0052】
【表1】
【0053】
電気炉を用いて十分に炭化したイグサ炭化物(試料名:480−180)のラマンスペクトルを見ると、DバンドとGバンドが認められ、その面積比は2.6であった。
また、試料1(実施例1)、試料2(実施例2)のラマンスペクトルにおいてもDバンドとGバンドが認められ、その面積比は、それぞれ2.4、2.5であった。すなわち、実施例1、2の炭化物の製造方法によれば、加熱部温度200〜500℃、加熱工程時間20分以内で炭化処理しても、電気炉で十分に炭化した試料「480−180」と同等の炭化物を得られることがわかる。
【0054】
次に、比較例2、3において、電気炉を用いて、炭化処理温度を300℃、350℃とし、炭化処理時間を10〜40分として炭化処理したイグサ炭化処理物について検討した。その結果、300℃では、40分間加熱してもDバンドとGバンドに十分なピークが形成されなかった。また、350℃では、40分間加熱するとDバンドとGバンドの面積比が試料1、2と同等になったが、Dバンドの半値幅が試料1、2よりやや大きく、加熱時間が不十分であることが認められる。
【0055】
以上の結果から、加熱部温度約250℃、加熱工程時間約5分で処理した実施例1では、電気炉で炭化処理した比較例2、3より、低温かつ短時間でイグサ炭化物が得られたことがわかる。
【0056】
また、マキの木の葉の炭化物のラマンスペクトルの結果では、MK−1のI
D/I
Gは1.66、MK−2のI
D/I
Gは1.40であった。一方、MK炉280−30、MK炉280−60では、DバンドとGバンドが認められなかった。本発明の炭化物の製造方法により、短時間でマキの木の葉の炭化物を得られることがわかる。
【0057】
[吸着試験]
以下の試料3〜8のイグサ炭化物、試料9のイグサについて、セシウム又は硫化水素の吸着試験を行った。結果は、表2、3に記載した。
試料3:イグサの全茎(地上部)を3〜10mmに裁断したものを被炭化物とし、実施例1と同様にイグサ炭化物を製造した。
試料4:イグサの茎の外筒部を剥がして茎内部の綿部を取り出し、3〜10mmに裁断したものを被炭化物とし、実施例1と同様にイグサ炭化物を製造した。
試料5:イグサの茎の外筒部を剥がして茎内部の綿部を取り出し、約3mmに裁断したものを被炭化物とし、実施例1と同様にイグサ炭化物を製造した。
試料6:イグサの全茎(地上部)を10〜20mmに裁断したものを被炭化物とし、実施例2と同様にイグサ炭化物を製造した。
試料7:イグサの全茎(地中部)を10〜20mmに裁断したものを被炭化物とし、実施例2と同様にイグサ炭化物を製造した。
試料8:イグサの全草(球根部も含む。)を10〜20mmに裁断したものを被炭化物とし、実施例2と同様にイグサ炭化物を製造した。
試料9:イグサの全茎(地上部)を3〜10mmに裁断し、加熱せずに、そのまま使用した。
【0058】
[セシウム吸着試験]
セシウム吸着試験の処理操作:試料1gに100mLの水を加え3時間以上撹拌し、水になじませた。マグネチックスターラで撹拌しながら安定セシウムを1mg/Lとなるように投入し試験を開始した。室温で撹拌し、0.5時間後、1時間後、2時間後に試験液を採取した。採取した試験液は、孔径0.45μmのフィルタでろ過し、ろ液を分析試料とした。分析は、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP−MS)により行った。結果は、開始時の濃度を100%とし、試験液に残存するセシウムの割合を表示した。
【0059】
【表2】
【0060】
表2を見ると、加熱処理をしていない試料9は、セシウム吸着能が低かった。一方、本発明の炭化物の製造方法により得られたイグサ炭化物は、高いセシウム吸着能を有することが認められた。
更には、約250℃で炭化したイグサ炭化物は、約450℃で炭化したイグサ炭化物より高いセシウム吸着能を有することが認められた。
【0061】
本発明の炭化物の製造方法によれば、約250℃の低温でも炭化物を製造することが可能であり、高いセシウム吸着能を有する炭化物等、従来に無い新たな性質を有する炭化物を得ることができた。
【0062】
試料3〜5を見ると、イグサの茎の外筒部を剥がして、綿部のみを炭化した試料4,5の方が、全茎を炭化した試料3より優れたセシウム吸着能が認められた。また、試料6〜8を参照しても、綿部の少ない地中部や球根部を含む全草の方が、セシウム吸着能が低下することから、イグサの茎内部の綿部を低温で炭化した炭化物は高いセシウム吸着能を有していることがわかる。
【0063】
なお、上記比較例1で得られたイグサ炭化物(電気炉、480℃、180分間)について、イグサの茎内部を観察すると、綿部の形跡がなくなっていた。電気炉を用いて炭化処理すると、イグサ全体を、時間をかけて加熱する必要がある。そのため、綿部に多量の熱がかかり、外筒部が炭化する時には、綿部は消失すると推察される。すなわち、本発明の炭化物の製造方法により、綿部の繊維のような弱い構造物の炭化物を得ることが可能となったといえる。
【0064】
[硫化水素吸着試験]
硫化水素吸着試験の処理操作:濃度100ppmの硫化水素ガスを満たした5Lの容器内に、試料1gを置き、0.5時間後、2時間後、6時間後に容器内の気体を採取して、硫化水素の濃度を測定した。
【0065】
【表3】
【0066】
表3を見ると、本発明の炭化物の製造方法により得られた試料6は優れた硫化水素吸着能を有することが認められた。
【0067】
[イグサの熱重量測定]
上記の吸着試験の効果を検証するべく、イグサ(茎部)の熱重量測定を行い、イグサ炭化物の形成過程を調べた。熱重量測定は、昇温温度10℃/min、窒素雰囲気下の条件で行った。その結果を
図9に示す。
図9(A)は、試料重量(TG)の変化を表す図である。
図9(B)は、試料重量の減少速度(DTG)を表す図である。
【0068】
図9(B)を見ると、210〜300℃付近に第1のピーク、300〜380℃付近に第2のピークが認められる。これは、外筒部と綿部の炭化温度の違いにより生じていると推察される。また、その重量の残分は、開始時の試料重量を100%として、210℃における重量残分は93%であり、第1のピークを越えると68%(300℃)まで低下し、更に第2のピークを越えると36%(380℃)まで低下した。