(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873472
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】電界強度計測装置
(51)【国際特許分類】
G01R 29/12 20060101AFI20210510BHJP
【FI】
G01R29/12 A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-83587(P2017-83587)
(22)【出願日】2017年4月20日
(65)【公開番号】特開2018-179900(P2018-179900A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000123354
【氏名又は名称】音羽電機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】稲崎 弘次
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 征紀
(72)【発明者】
【氏名】今井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】工藤 剛史
【審査官】
田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭59−084478(JP,U)
【文献】
特開2005−073424(JP,A)
【文献】
特開2004−205274(JP,A)
【文献】
実開昭51−087473(JP,U)
【文献】
特開2004−286657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 29/00−29/26、
19/00−19/32、
H03F 1/00−3/45、
3/50−3/52、
3/62−3/64、
3/68、
3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中の電界を検出する偶数個の電極と前記電極に対向配置された遮蔽板とを備え、前記遮蔽板の回転により、半数の電極を遮蔽板で遮蔽すると同時に残り半数の電極を前記遮蔽板から露出させる状態を半数の電極ごとに交互に繰り返すようにした電界強度計測装置であって、
前記各電極は、それぞれ円形状を有すると共に、前記偶数個の電極は、点対称で円周上に配置され、
前記遮蔽板は、前記偶数個の電極の点対称軸を中心として回転自在に配置され、
前記電極の出力段に差動増幅器を設け、前記半数の電極を共通接続して前記差動増幅器の一方の入力端子に接続すると共に、前記残り半数の電極を共通接続して差動増幅器の他方の入力端子に接続したことを特徴とする電界強度計測装置。
【請求項2】
前記電極の出力段は、計測レンジが異なる複数の差動増幅器を並列接続した構成を備えている請求項1に記載の電界強度計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中の電界強度を計測する電界強度計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、雷発生を予測するシステムに使用される装置として、大気中の電界強度を計測する電界強度計測装置がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
この種の電界強度計測装置は、
図4および
図5に示すように、装置本体1の上部に水平状態で回転自在に取り付けられた部分円盤状の遮蔽板としてのチョッパ2と、装置本体1の上部にチョッパ2と近接して対向するように配設された電極3とで主要部が構成されている。
【0004】
チョッパ2は、装置本体1に内蔵されたモータ等の駆動源4により所定の回転数でもって回転可能となっている。このチョッパ2の回転時に電極3を大気中の電界に対して遮蔽および露出させるため、チョッパ2は、電極3を遮蔽する遮蔽部5と、電極3を露出させる開口部6とが回転方向に沿って交互に配された形状をなす。
【0005】
この電界強度計測装置において、電極3には抵抗器7が接続され、その抵抗器7の両端には増幅器8が接続されている。なお、チョッパ2は、アース接続されている。
【0006】
以上の構成からなる電界強度計測装置では、大気中の電界強度を以下の要領でもって計測するようにしている。
【0007】
まず、大気中に雷雲が発生すると、負電荷または正電荷を持つ雷雲と大地との間に電界が生じる。この大気中の電界強度を計測するため、前述の構成からなる電界強度計測装置を地上あるいは構築物上に設置する。
【0008】
電界強度計測装置では、駆動源4によりチョッパ2を所定の回転数でもって回転させる(
図4の白抜き矢印参照)。このチョッパ2の回転により、チョッパ2の遮蔽部5および開口部6でもって電極3が大気中の電界に対して遮蔽および露出を交互に繰り返すことになる。
【0009】
このチョッパ2による電極3の遮蔽および露出の繰り返しにより、電極3が負電荷または正電荷の帯電状態と非帯電状態とを繰り返す。
【0010】
これにより、電極3に接続された抵抗器7の両端には交流電圧が発生する。この交流電圧を増幅器8により増幅することにより、増幅器8から出力される交流電圧の大きさから電界強度を計測するようにしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ボルテック(株)「EFM-100 Atmospheric Electric Field Monitor」製品カタログ(2014-2016発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、前述した従来の電界強度計測装置において、低電界強度下では、増幅器8からの出力信号が小さくなる反面、潜在的に存在するノイズのために出力信号に含まれるノイズ成分が見かけ上大きくなる。このことから、低電界強度下では、電界強度を高精度に計測することが困難である。
【0013】
電界強度の高精度な計測を実現するには、増幅器8からの出力信号のノイズ成分を小さくするため、抵抗器7の抵抗値を、例えば数kΩ〜数百kΩ程度に小さくする必要がある。このように、抵抗器7の抵抗値を小さくすれば、出力信号のノイズ成分を抑制することができる。
【0014】
しかしながら、抵抗器7の抵抗値を小さくすると、計測できる電界強度も低下してしまう。一方、増幅器8の増幅率を大きくすると、出力信号のノイズ成分が増大してしまう。
【0015】
そこで、本発明は前述の課題に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、低電界強度下においても電界強度を高精度に計測し得る小型で安価な電界強度計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る電界強度計測装置は、大気中の電界を検出する偶数個の電極とその電極に対向配置された遮蔽板とを備え、電極と遮蔽板との相対移動により、半数の電極を遮蔽板で遮蔽すると同時に残り半数の電極を遮蔽板から露出させる状態を半数の電極ごとに交互に繰り返すようにした構造を具備する。
【0017】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明の電界強度計測装置は、電極の出力段に差動増幅器を設け、半数の電極を共通接続して差動増幅器の一方の入力端子に接続すると共に、残り半数の電極を共通接続して差動増幅器の他方の入力端子に接続したことを特徴とする。
【0018】
本発明の電界強度計測装置では、電極と遮蔽板との相対移動により、遮蔽板から露出する電極による検出信号と、遮蔽板で遮蔽された電極による検出信号とを差動増幅器の入力信号としている。
【0019】
これにより、遮蔽板で遮蔽された電極による検出信号がノイズ成分となるので、遮蔽板から露出する電極による検出信号との差動増幅によりノイズ成分が除去され、低電界強度下であってもその電界強度を高精度に計測することが可能となる。
【0020】
その結果、差動増幅器の増幅率を大きくすることなく、高感度にすることができるので、装置の小型化およびコスト低減を容易に実現することができる。
【0021】
本発明における電極は、点対称で円周上に配置され、遮蔽板は、電極の点対称軸を中心として回転自在に配置されていることが望ましい。
【0022】
このような構造を採用すれば、電極に対する遮蔽板の回転により、半数の電極を遮蔽板で遮蔽すると同時に残り半数の電極を遮蔽板から露出させる状態を半数の電極ごとに交互に繰り返すようにすることが容易となる。
【0023】
本発明における電極の出力段は、計測レンジが異なる複数の差動増幅器を並列接続した構成を備えていることが望ましい。
【0024】
このように、計測レンジが異なる複数の差動増幅器を並列接続した構成を出力段に採用すれば、低電界強度から高電界強度まで幅広い領域で電界強度を計測することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、電極と遮蔽板との相対移動により、遮蔽板から露出する電極による検出信号と、遮蔽板で遮蔽された電極による検出信号とを差動増幅器の入力信号としていることから、遮蔽板で遮蔽された電極による検出信号をノイズ成分として除去できる。
【0026】
このようにしてノイズ成分を除去できることから、低電界強度下であってもその電界強度を高感度にすることが可能となる。その結果、差動増幅器の増幅率を大きくすることなく、高感度にすることができるので、装置の小型化およびコスト低減を容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態で、電界強度計測装置を示す概略構成図である。
【
図2】
図1の電界強度計測装置の外観を示す正面図である。
【
図3】本発明の他の実施形態で、電界強度計測装置を示す概略構成図である。
【
図4】従来の電界強度計測装置を示す概略構成図である。
【
図5】
図4の電界強度計測装置の外観を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る電界強度計測装置の実施形態を図面に基づいて以下に詳述する。なお、以下の実施形態では、雷発生を予測するシステムに使用される電界強度計測装置を例示するが、この電界強度計測装置は、雷発生を予測するシステム以外にも適用可能である。
【0029】
この実施形態の電界強度計測装置は、
図1および
図2に示すように、遮蔽板である部分円盤状のチョッパ12と、円形状を有する複数の電極13,14とで主要部が構成されている。電極13,14は、装置本体11の上部に、チョッパ12と近接して対向するように点対称で円周上に配設されている。チョッパ12は、装置本体11の上部に、電極13,14の点対称軸を中心として回転自在に水平状態で配置されている。
【0030】
チョッパ部材12は、装置本体11に内蔵されたモータ等の駆動源15により所定の回転数でもって回転可能となっている。このチョッパ部材12の回転時に大気中の電界に対して電極部材13,14を遮蔽および露出させるため、チョッパ12は、電極13,14を遮蔽する扇形状の遮蔽部16と、電極13,14を露出させる切り欠き形状の開口部17とが回転方向に沿って交互に配された形状をなす。
【0031】
なお、この実施形態では、チョッパ12が部分円盤状をなし、扇形状の遮蔽部16を有する形状を例示するが、四角形などの他の形状を有するチョッパであってもよい。また、この実施形態では、チョッパ12の遮蔽部16を2葉とし、電極13,14を4個とした場合を例示しているが、チョッパ12の遮蔽部16を4葉とし、電極13,14を8個としてもよい。
【0032】
このように、チョッパ12の遮蔽部16をn葉とし、電極13,14を2n個(偶数個)とする。これにより、チョッパ12の回転時にチョッパ12の遮蔽部16でn個(電極13,14の半数)の電極13を大気中の電界に対して遮蔽すると共に、遮蔽された電極13と同数(n個)の電極14をチョッパ12の開口部17で大気中の電界に対して露出させるようにしている。
【0033】
この実施形態の電界強度計測装置において、電極13,14の出力段に差動増幅器20を設け、チョッパ12の開口部17に位置する電極13が差動増幅器20の一方の入力端子18に接続され、かつ、チョッパ12の遮蔽部16に位置する電極14が差動増幅器20の他方の入力端子19に接続されている。
【0034】
つまり、チョッパ12の回転時にチョッパ12の開口部17で大気中の電界に対して露出する2個の電極13、つまり、円周方向に沿って配設された4個の電極13,14のうち、径方向に並ぶ2個の電極13が、差動増幅器20の一方(
図1でのプラス側)の入力端子18に接続されている。
【0035】
また、チョッパ12の回転時にチョッパ12の遮蔽部16で大気中の電界に対して遮蔽される2個の電極14、つまり、円周方向に沿って配設された4個の電極13,14のうち、径方向に並ぶ2個の電極14が、差動増幅器20の他方(
図1でのマイナス側)の入力端子19に接続されている。
【0036】
チョッパ12の回転時にチョッパ12の開口部17で大気中の電界に対して露出する2個の電極13および差動増幅器20の一方の入力端子18と大地との間に抵抗器24が接続されている。また、チョッパ12の回転時にチョッパ12の遮蔽部16で大気中の電界に対して遮蔽される2個の電極14および差動増幅器20の他方の入力端子19と大地との間に抵抗器25が接続されている。なお、チョッパ12は、アース接続されていることが望ましい。
【0037】
以上の構成からなる電界強度計測装置では、大気中の電界強度を以下の要領でもって計測する。
【0038】
まず、大気中に雷雲が発生すると、負電荷または正電荷を持つ雷雲と大地との間に電界が生じる。この大気中の電界強度を計測するため、この実施形態の電界強度計測装置を地上あるいは構築物上に設置する。
【0039】
電界強度計測装置では、駆動源15によりチョッパ12を所定の回転数でもって回転させる(
図1の白抜き矢印参照)。このチョッパ12の回転により、チョッパ12の遮蔽部16および開口部17でもって電極13,14が大気中の電界に対して遮蔽および露出を交互に繰り返すことになる。
【0040】
このチョッパ12による電極13,14の遮蔽および露出の繰り返しにより、電極13,14が負電荷または正電荷の帯電状態と非帯電状態とを繰り返す。
【0041】
これにより、チョッパ12の開口部17に位置する2個の電極13による検出信号としての交流電圧が、差動増幅器20の一方の入力端子18に入力される。また、チョッパ12の遮蔽部16に位置する2個の電極14による検出信号としての交流電圧が、差動増幅器20の他方の入力端子19に入力される。
【0042】
この交流電圧の周波数は、駆動源15によるチョッパ12の回転速度と、そのチョッパ12の遮蔽部16の数とによって決定される。また、交流電圧の大きさは、電極13,14とチョッパ12との間隔に関連する。
【0043】
チョッパ12の開口部17で大気中の電界に対して露出する電極13による検出信号と、チョッパ12の遮蔽部16で大気中の電界に対して遮蔽される電極14による検出信号との差、つまり、2つの交流電圧の差が差動増幅器20の出力信号となる。
【0044】
この差動増幅器20の出力信号では、チョッパ12の遮蔽部16で大気中の電界に対して遮蔽される電極14による検出信号が、差動増幅器20で2つの交流電圧の差をとることによりノイズ成分としてキャンセルする。このノイズ成分のキャンセルにより、低電界強度下であってもその電界強度を高精度に計測することが可能となる。
【0045】
このように、差動増幅器20に入力される2つの検出信号(交流電圧)の差動増幅により、ノイズ成分をキャンセルすることができるので、2つの抵抗器24,25の抵抗値を大きく設定することができる。
【0046】
この抵抗器24,25の抵抗値を、例えば数MΩ〜数百MΩ程度に大きくすることで、差動増幅器20の増幅率を小さくしても、電界強度を計測する上で十分に大きな出力信号を得ることができる。
【0047】
このことから、差動増幅器20の増幅率を大きくすることなく、小さな増幅率の差動増幅器20の出力でもって正確な電界強度を計測することができる。その結果、装置の小型化およびコスト低減を容易に実現することができる。
【0048】
以上の実施形態では、電界強度計測装置の出力段に1つの差動増幅器20を設けた場合を例示したが、
図3に示すように、電界強度計測装置の出力段は、計測レンジが異なる複数の差動増幅器20〜23を並列接続した構成とすることが有効である。
【0049】
図3に示す実施形態の電界強度計測装置では、例えば、210kV/m、90kV/m、60kV/mおよび30kV/mのように、計測レンジが異なる4個の差動増幅器20〜23を並列接続した出力段を例示する。
【0050】
なお、差動増幅器20〜23の数は4個に限定されず、その数は任意である。また、
図3の電界強度計測装置において、
図1の電界強度計測装置と同一部分には同一参照符号を付して重複説明は省略する。
【0051】
この実施形態のように、計測レンジが異なる複数の差動増幅器20〜23を並列接続した構成を出力段に採用することにより、高電界強度下において、例えば30kV/mの計測レンジの差動増幅器23が飽和しても、飽和していない差動増幅器の出力を読み取ればよい。例えば60kV/mの計測レンジの差動増幅器22が未飽和であれば、その差動増幅器22で電界強度を計測することができ、最大210kV/mの計測レンジの差動増幅器20でも対応できる。
【0052】
このように、計測レンジが異なる複数の差動増幅器20〜23を並列接続した構成を出力段に採用することにより、低電界強度から高電界強度まで幅広い領域で電界強度を確実に計測することができる。
【0053】
以上で説明した実施形態では、複数の電極13,14を点対称で円周上に配置すると共に、チョッパ12を電極13,14の点対称軸を中心として回転自在に配置した構造を例示している。このような構造により、電極13,14に対するチョッパ12の回転により、半数の電極14をチョッパ12で遮蔽すると同時に残り半数の電極13をチョッパ12から露出させる状態を半数の電極13,14ごとに交互に繰り返すようにすることが容易となる。
【0054】
なお、電極13,14とチョッパ12との相対移動、例えば電極13,14に対するチョッパ12の直線移動により、半数の電極14をチョッパ12で遮蔽すると同時に残り半数の電極13をチョッパ12から露出させる状態を半数の電極13,14ごとに交互に繰り返すことができる他の構造であってもよい。
【0055】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0056】
12 遮蔽板(チョッパ)
13,14 電極
18,19 入力端子
20〜23 差動増幅器