(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る水産作業用合羽の一例である実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、下記に説明する実施形態は、あくまで本発明の一例であり、本発明は下記の実施形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内で適宜変更可能である。
【0012】
本発明に係る実施形態の水産作業用合羽は、船上での漁業や、海での魚や海苔、貝等の養殖業、さらには港湾等における漁船からの水揚げ作業等の水産業や、海産物を加工する水産加工業等の各種水産作業等に従事する漁師等の水産業従業者が使用する合羽であって、
図1〜
図5に示すように構成された上着1と、
図6および
図7に示すように構成されたフード3と、
図8〜
図10に示すように構成されたズボン2とで構成される。尚、フード3は取り外し式のもので構成しているため、本発明では省略しても良い。
【0013】
<上着1>
実施形態の上着1は、
図1〜
図5に示すように、漁師等の漁業を含む水産業従事者が羽織る上着の合羽であり、着衣者の体の前側に位置して、チャック11aやオス側面ファスナー11b1およびメス側面ファスナー11b2等の周知の開閉手段によって開閉自在の前身頃部11と、着衣者の背中側に位置する後身頃部12と、着衣者の首回りに設けられた襟部13と、脇の下部14と、着衣者の腕が通る袖部15とをそれぞれの境界部等で高周波ウェルダーや超音波ミシン等の溶着によって接着したり、ミシン等によって縫付けた上でその縫い目を裏側から防水テープを貼り付けることによって接合して構成される。尚、ミシン等によって縫付けた箇所は、裏側からその縫い目に防水テープを貼り付けて所定の防水性を確保している。
【0014】
そして実施形態の上着1では、図面中で塗り潰していない前身頃部11や袖部15の前側等は防水および防湿機能を有する防水防湿生地を使用して製作する一方、図面中で塗り潰している後身頃部12、襟部13、脇の下部14、そして袖部15の後述する腕裏下側上腕用袖部15a2および下腕用内袖部15b1等は防水および透湿機能を有する防水透湿生地を使用して製作したことを特徴の一つとしている。
【0015】
防水防湿生地は、従来から漁師等の漁業を含む水産業従事者が羽織る上着の合羽の生地(素材)として使用されている周知のもので、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)や、ポリウレタン、エチレンビニルアセテート、ポリエチレン、ポリスチレンなど、一般的に合成樹脂レザーと呼ばれている。防水防湿生地は、耐水圧がJIS L1092(高水圧法)10000mmH
20以上であるものを使用することが望ましいが、本発明ではこれに限定されるものではない。
【0016】
防水透湿生地は、透湿性の高い化学繊維層と合成樹脂層の積層体を使用した周知のもので、透湿性の高い化学繊維層として、例えば、ポリエステルや、ナイロン、レーヨン、アラミド繊維などを使用している。防水透湿生地は、透湿度がJIS L1092(A-1)で5000(g/m
2・24h)以上のものを使用することが望ましいが、本発明ではこれに限定されるものではない。
【0017】
尚、本実施形態では、例えば、防水防湿生地の色は、例えば青である一方、防水透湿生地の色は紺のツートンカラーで構成しており、防水防湿生地部分と防水透湿生地部分とが簡単かつ明確に識別できるように構成していると共に、デザイン性も向上させているが、本発明では、防水防湿生地部分と防水透湿生地部分とは同色のモノトーンでも良いし、青と紺以外の色、例えば、白色や、水色、赤色、オレンジ、黄色、緑、黒、銀色等の他の色の組み合わせでも勿論良い。
【0018】
(前身頃部11)
前身頃部11は、従来から漁師等の漁業を含む水産業従事者が水産作業用合羽の生地(素材)として使用されている防水および防湿機能を有する上述の防水防湿生地で製作されており、
図1に示すように、着衣者の体の前側に位置して、チャック11aやオス側面ファスナー11b1およびメス側面ファスナー11b2等の周知の開閉手段によって前合わせ部分で開閉自在に構成されており、同じ生地である防水防湿生地で製作された袖部15とは高周波ウェルダーや超音波ミシン等によって溶着して接合されている一方、異なる生地である防水透湿生地で製作された後身頃部12や襟部13、脇の下部14とはミシン等によって縫い付けた上でその縫い目を裏側から防水テープが貼り付けて接合されている。尚、生地同士の接合方法は、あくまで一例であり、これ以外の接合方法でも勿論良い。また、前合わせにチャック11aやオス側面ファスナー11b1およびメス側面ファスナー11b2等の面ファスナー以外にボタン等が使用されていても勿論良い。
【0019】
また、前身頃部11の左胸部分の裏側には、ポケット形状の防水防湿生地の輪郭を溶着してポケット11cが設けられている。尚、ポケット11cは必須のものではなく、本発明では、ポケット11cが省略されていても勿論良い。
【0020】
尚、前身頃部11と袖部15の前側との間の斜めの接合ラインを前身頃・袖接合ラインL1,L1、前身頃部11と後身頃部12との接合ラインを、前身頃・後身頃接合ラインL2,L2とする。
【0021】
(後身頃部12)
後身頃部12は、上述したように軽量で透湿性も高い防水透湿生地で製作されており、袖部15としていわゆるラグランスリーブ形式を採用しているため、背面から見た際、
図2に示すようなほぼ6角形状に形成されている。後身頃部12は、上述したように前身頃部11とは前身頃・後身頃接合ラインL2,L2でミシン等によって縫い付けた上でその縫い目を裏側から防水テープが貼り付けて接合されていると共に、左右両側の袖部15とは後身頃・袖部接合ラインL3,L3で同様にミシン等によって縫い付けた上でその縫い目を裏側から防水テープが貼り付けて接合されている。尚、前身頃部11と後身頃部12との接合ラインである前身頃・後身頃接合ラインL2,L2は、
図1に示すように多少、正面側に回っていてもよいし、正面側に回らず真横に来るようにしてもよいし、さらに、多少背面側に回るようにしても勿論よい。
【0022】
(襟部13)
襟部13は、後身頃部12と同様に防水透湿生地で製作されており、
図1および
図2に示すように前身頃部11と、後身頃部12と、袖部15との境界部を多少重ね合わせた上で縫付け、その縫い目を裏側から防水テープを貼り付けて設けられている。
【0023】
また、襟部13には、その外側にフード3を着脱自在に装着できるように、襟部13下端部である前身頃部11や後身頃部12、袖部15との境界部の縫付け部の上方に複数のボタン13aが所定間隔で設けられている。
【0024】
(脇の下部14)
脇の下部14は、後身頃部12や襟部13と同様に防水透湿生地で製作されており、
図2に示すように上着1の背面側にはほとんど現われず、
図1に示すように上着1の前面側に現われる上着1のパーツで、角が丸または湾曲した三角形状ないしは曲率半径の異なる曲線によって三日月形状等に形成されている。
【0025】
そのため、
図1や
図5に示す防水防湿生地で製作された前身頃部11および袖部15の後述する腕表・腕裏上側上腕用袖部15a1の脇の下部14の形状に合わせてカットされた脇の下接合ラインL4でミシン等で縫い付けられ、その縫い目を裏側から防水テープが貼り付けて接合される一方、その反対側は前身頃・後身頃接合ラインL2、上腕用袖部下部接合ラインL6でミシン等によって縫い付けられ、その縫い目を裏側から防水テープを貼り付けて接合される。
【0026】
(袖部15)
袖部15は、
図1および
図2に示すように、いわゆるラグランスリーブで構成されており、前身頃部11や後身頃部12および襟部13と接合され、主に着衣者の肩から肘までの上腕(二の腕)が納まる上腕用袖部15aと、袖口から肘部分までの約20cm前後の長さを有し、主に着衣者の肘から手首までの下腕(一の腕)が納まる下腕用袖部15bとで構成されている。
【0027】
上腕用袖部15aは、
図1および
図2、
図5等に示すように防水防湿生地で製作された腕の表側および腕裏の上側を覆う腕表・腕裏上側上腕用袖部15a1と、防水透湿生地で製作され
図2等に示すように腕裏の下側を覆う腕裏下側上腕用袖部15a2とがミシン縫いおよび防水テープで筒状に接合されて構成されている。
【0028】
ここで、腕表・腕裏上側上腕用袖部15a1と腕裏下側上腕用袖部15a2との2本の接合ラインの内、腕裏の中央よりやや上側に位置する接合ラインを上腕用袖部上部接合ラインL5(
図2参照。)、腕の下側に位置する接合ラインを上腕用袖部下部接合ラインL6(
図1参照。)とする。上腕用袖部下部接合ラインL6は、
図1に示すように多少、正面側に回っているが、正面側と背面側の中間である真下に位置するように構成しても良いし、さらに、多少背面側に回るように構成しても問題ない。
【0029】
下腕用袖部15bは、上腕用袖部15aの下側に連続して設けられ、主に着衣者の肘から手首までの下腕(一の腕)が納まるもので、
図3および
図4等に示すように下腕用内袖部15b1と下腕用外袖部15b2との二重構造で形成されている。
【0030】
内側の下腕用内袖部15b1は、軽量で透湿性の高い防水透湿生地を
図4に示すように、腕の後側の下腕用内袖部接合ラインL7でミシン等で縫付けると共に裏から防水テープを貼り付けて円筒状に形成されていると共に、
図3および
図4等に示すようにその先端部である袖口にはゴム等が通されて袖口が窄まるように構成して、袖口から水が中に入り難く構成している。
【0031】
これに対し、外側の下腕用外袖部15b2は、防水透湿生地よりも重量があり耐久性も防水性も高い合成樹脂レザー等の防水防湿生地を
図3や
図4等に示すように腕の後側の下腕用外袖部接合ラインL8で溶着して円筒状に構成されており、下腕用外袖部接合ラインL8は下腕用内袖部接合ラインL7と一直線上にならないように僅かにずらしている。
【0032】
このように上腕用袖部15aの腕表・腕裏上側上腕用袖部15a1と、下腕用袖部15bの下腕用外袖部15b2とは、防水透湿生地よりも重量があるものの耐久性も防水性も高い防水防湿生地で製作されているため、漁業等の水産作業時に海水や真水、雨等がかかったり、魚や網等に触れても従来の水産作業用合羽と同様の耐久性および防水性を発揮することができる。
【0033】
特に、上腕用袖部15aの腕表・腕裏上側上腕用袖部15a1は、腕の後側でも上方から雨や海水を浴び易い腕裏の上側は防水防湿生地で製作しているので、耐久性および防水性を発揮することができ、作業性を向上させることができる。
【0034】
また、本実施形態の上着1の袖部15の場合、漁業等の水産作業時に最も海水や真水、雨等がかかったり、魚や網等が触れやすい袖口から肘部分までの約20cm程度の下腕用袖部15bは、透湿性の高い防水透湿生地で製作された下腕用内袖部15b1と、防水性の高い合成樹脂レザー等の防水防湿生地で製作された下腕用外袖部15b2とで構成されているため、魚や網等が触れやすい外側の下腕用外袖部15b2で防水性や耐久性等を確保できると共に、内側の下腕用内袖部15b1で透湿性を確保して、汗や湿気を蒸散し易くして、蒸れ等を確実に防止することができる。
【0035】
特に、二重構造で形成された下腕用袖部15bにおける内側の下腕用内袖部15b1は、防水透湿生地で製作されているため、透湿性が高いだけでなく、合成樹脂レザー等の防水防湿生地よりも滑り易いので、ゴム等で出来ている水産用手袋を使用する際も水産用手袋の入口部分との摩擦が少なく、簡単に下腕用内袖部15b1まで水産用手袋を装着したり、外すことが可能であり、水産用手袋の着脱が容易となるので、この点でも作業性を向上させることができる。
【0036】
また、本実施形態の水産作業用合羽の上着1の袖部15では、
図2〜
図4等に示すように、上腕用袖部15aの上腕用袖部上部接合ラインL5と、下腕用袖部15bの下腕用外袖部15b2の下腕用外袖部接合ラインL8とは共に上着1の正面側ではなく、腕の後ろ側、すなわち背面側に来るように構成したため、水産作業時等に前方から海水や真水等を被った場合でも、上腕用袖部上部接合ラインL5および下腕用外袖部接合ラインL8の縫い目等の接合部からの染み出しによる浸水を極力防止できる。
【0037】
また、本実施形態の水産作業用合羽の上着1の袖部15では、
図2〜
図4等に示すように、上腕用袖部15aの上腕用袖部上部接合ラインL5と、下腕用袖部15bの下腕用外袖部15b2の下腕用外袖部接合ラインL8とはズレており、一直線上にないため、溶着や縫付け、防水テープ等が重なることによる生地の盛り上りを抑制することができる。
【0038】
そのため、水産作業者がこの上着1を着た際、袖部15裏側における溶着や縫付けが重なることによる生地の盛り上りによる違和感を抑制して、漁業等の水産作業時の作業性を向上させることができる。ただし、腕用袖部上部接合ラインL5と下腕用外袖部接合ラインL8とが一直線上に位置するように製作しても勿論よい。
【0039】
特に、本実施形態の水産作業用合羽の上着1の袖部15では、下腕用袖部15bは二重構造であり、仮に、上腕用袖部上部接合ラインL5と下腕用外袖部15b2の下腕用外袖部接合ラインL8とが一直線であった場合、上腕用袖部上部接合ラインL5と下腕用外袖部15b2の下腕用外袖部接合ラインL8と、上腕用袖部15aと下腕用袖部15bとの接合ラインである上腕・下腕用袖部接合ラインL9との交点では、下腕用袖部15bが二重構造である点も考慮すると、生地や溶着部、縫い付け部等が幾重にも重なり、上着1を着た際の違和感が大きくなるだけでなく、出っ張りが大きくなり船や網等で擦れたり引っ掛り易くなるというデメリットが発生する。
【0040】
しかし、本実施形態の水産作業用合羽の上着1の袖部15では、上腕用袖部上部接合ラインL5と下腕用外袖部15b2の下腕用外袖部接合ラインL8とが一直線上にならないようずらしているので、下腕用袖部15bは二重構造であっても、これらのデメリットを抑制して、漁業等の水産作業時の作業性を向上させることができると共に、生地や溶着部、縫い付け部等の重なりによる製作し難さや隙間からの水漏れを低減することができる。
【0041】
また、二重構造で形成された下腕用袖部15bの下腕用内袖部15b1の下腕用内袖部接合ラインL7は、
図4に示すように、腕の後ろ側に位置すると共に、外側の下腕用外袖部15b2の下腕用外袖部接合ラインL8とずれ一直線上になく、上腕用袖部上部接合ラインL5ともずれており、上腕用袖部上部接合ラインL5、下腕用外袖部接合ラインL8および下腕用内袖部接合ラインL7は全てずれている。
【0042】
そのため、二重構造で形成された下腕用袖部15bだけでなく、袖部15全体としても、生地や溶着部、縫い付け部等の重なりにより出っ張りが少なくなるので、袖部15に腕を通した際の違和感を極力低減することができると共に、上腕・下腕用袖部接合ラインL9との交点における生地や溶着部、縫い付け部等の重なりによる製作し難さや隙間からの水漏れを低減することができる。
【0043】
<フード3>
フード3は、襟13等と同様に軽量でかつ防水および透湿機能を有する防水透湿生地で製作されており、
図6および
図7に示すように、フード本体31と、顎下(首前部分)を覆う顎下部32と、鍔部33とから構成されており、フード本体31の下側には、上着1の襟13のボタン13aに対し着脱可能に取り付けられるように所定間隔で複数のボタン31aが設けられている
【0044】
そのため、上着1にフード3を装着した状態で漁業等の水産作業を行っても、フード3全体が防水透湿生地で製作されているので、非常に汗をかき易い頭や顔が汗をかいても、フード3自体が蒸れることを防止することができ、作業性を向上させることができる。
【0045】
また、フード本体31には、フード本体31と鍔部33との接合部分に留められ、そこから後頭部側に向かって延びるストッパー31b付きの調整紐31cが設けられている。尚、調整紐31cは、フード本体31裏側とその裏側に貼り付けられた防水テープ31d等との間の空洞を通って、フード本体31の後頭部側に設けられた通し孔から外側に突出し、ストッパー31bが設けられている。
【0046】
そのため、ストッパー31bで調整紐31cの長さを調整することによって、着衣者の頭の大小に合わせてフード本体31を着衣者の頭に密着等させることが可能になる。また、
図6に示すように、ストッパー31bや調整紐31cはフード本体31の後頭部側から外側に突出し前側に来ないので、漁業等の水産作業に邪魔になることが少なくなり、この点でも、漁業等の水産作業の効率性を向上させることができる。
【0047】
また、フード3の顎下部32には、
図6に示すように、左右両側に接離可能に接着する二条のオス側面ファスナー32a,32aと、メス側面ファスナー32b,32bが設けられている。
【0048】
図6に示すように、オス側面ファスナー32a,32aは縦向きである一方、メス側面ファスナー32b,32bは横向きで、オス側面ファスナー32a,32aに対し交差する方向である。そのため、手袋等をして漁業等の水産業に従事している場合や、暴風雨時等でも、確実にフード3のオス側面ファスナー32a,32aと、メス側面ファスナー32b,32bとを操作することが可能となり、この点でも作業の効率性を向上させることができる。
【0049】
また、フード3上方の鍔部33は、フード本体31に対し折り返し可能に構成されおり、鍔部33の裏側には蛍光テープ33aが縫付けられている一方、鍔部33先端にはフード本体31に留めるためのボタン33bが設けられている。
図6に示すフード3では、鍔部33を折り返して鍔部33先端のボタン33bでフード本体31側の図示しないボタンに留めた状態を示しており、フード本体31の上部前側に鍔部33裏側の蛍光テープ33aが現れている。
【0050】
そのため、このフード3では、鍔部33裏側に蛍光テープ33aが設けられており、鍔部33先端のボタン33bでフード本体側のボタンに留めると、鍔部33裏側の蛍光テープ33aが現れるため、夜間時の暗い時だけでなく、薄昏時や夕方などの薄暗い時でも、蛍光テープ33aが目立つので、漁業等の水産作業を確実かつ安全に行うことができる。また、風雨が強い場合でも、鍔部33先端のボタン33bでフード本体31側の図示しないボタンに確実に留めることができるので、漁業等の水産作業を確実かつ安全に行うことができる。
【0051】
<ズボン2>
ズボン2は、
図8〜
図10に示すように、サスペンダー式を採用しており、ズボン前側部21と、腹胸当て部22と、ズボン後側部23と、背当て部24と、サスペンダー25と、裾部26とから構成されている。
【0052】
ズボン前側部21は、漁業等の水産作業時に海水や真水を被り易いため、上着1の前身頃部11や袖部15の腕表・腕裏上側上腕用袖部15a1および下腕用外袖部15b2と同様に、従来より水産作業用合羽に使用されている合成樹脂レザー等の防水防湿生地で製作されている。
【0053】
また、ズボン前側部21は、
図8に示すように、膝部21aの防水防湿生地を二重にして、高周波ウェルダー、超音波ミシン等によって
図8に示す点線のように二重にした防水防湿生地同士を溶着して模様を描きながら補強されている。尚、膝部21aの補強は
図8のように表側から当ててもよいし、内側から当ててもよい。また省略しても良い。
【0054】
腹胸当て部22も、ズボン前側部21と同様に漁業等の水産作業時に海水や真水を被り易いため合成樹脂レザー等の防水防湿生地で製作され、その下端部はズボン前側部21の上端部に対し高周波ウェルダー、超音波ミシン等によって溶着されて接合されている一方、上端部には、
図8に示すように、サスペンダー25先端の合成樹脂製の公知のオス側バックル25b,25bが係合する合成樹脂製のメス側バックル22a,22aがハトメ具22b,22bで留められた防水防湿生地のテープ22c,22c先端に設けられている。
【0055】
また、腹胸当て部22は、防水防湿生地が二重で、かつ、輪郭部が溶着されており、
図9に示すように腹胸当て部22裏側にチャック22dを設け、二重構造の腹胸当て部22の中に財布や鍵、携帯電話等の貴重品等を収納できるように製作されている。
【0056】
ズボン後側部23は、
図9に示すように、着衣者のお尻部分(臀部)が当たる尻部23aと、尻部23a以外の尻以外部23bとを生地を変えて構成したことを特徴としている。
【0057】
つまり、ズボン後側部23では、尻部23aは、座った際に力がかかったり、また濡れ易く、また船や網等の他の物に当たって擦れ易いため、ズボン前側部21や腹胸当て部22等と同様に、耐久性が高く、かつ、防水および防湿性も高い合成樹脂レザー等の防水防湿生地で製作されている。
【0058】
これに対し、ズボン後側部23における尻部23a以外の尻以外部23bは、ズボン2の裏側で、ズボン前側部21とは異なり、上着1の後身頃部12や襟部13等と同様にそれほど海水を被ったり、魚油等で汚れることは少ないため、軽量で汗や湿気を蒸散できるように防水透湿生地で製作されている。尚、尻部23aと尻以外部23bとは生地が異なるため、境界部を重ねた上で縫付けその縫い目を裏側から防水テープを貼り付けて接合している。
【0059】
ここで、尻以外部23bは、
図9に示すように、尻部23aより高い位置に設けられるズボン後尻上部23b1と、右脚側のズボン後右脚部23b2と、左脚側のズボン後左脚部23b3とで構成され、かつ、尻部23aと接合することによってズボン後側部23を形成するため、ズボン後右脚部23b2とズボン後左脚部23b3とは尻部23aの形状に合わせてカットされている。そして、尻部23aと、尻以外部23bを構成するズボン後尻上部23b1、ズボン後右脚部23b2およびズボン後左脚部23b3は、それぞれ、水平方向の直線状のズボン後尻上部接合ラインL10、ほぼU字形状の尻部接合ラインL11、上下方向の直線状のズボン後左脚・右脚接合ラインL12でミシン等によって縫い付けられ、その縫い目を裏側から防水テープが貼り付けて接合されている。
【0060】
また、ズボン前側部21とズボン後側部23との接合も生地が異なるため、境界部を重ねた上で縫付けその縫い目を裏側から防水テープを貼り付けて接合しており、その接合ラインであるズボン前・後接合ラインL13は、後述する裾部26の接合ラインである裾部上下方向接合ラインL14とは、
図8や
図10に示すように、一直線上に来ないようにずらしている。
【0061】
そのため、上着1の袖部15における腕用袖部上部接合ラインL5と下腕用外袖部接合ラインL8等のズレと同様に、ズボン2のズボン前側部21とズボン後側部23との接合でもズボン前・後接合ラインL13と裾部上下方向接合ラインL14とがズレることにより、溶着や縫付け、防水テープ等が重なることによる生地の盛り上りを抑制して、生地の盛り上りによる違和感や他の物に対する引っ掛かり易さを防止して、作業性を向上させている。ただし、裾部上下方向接合ラインL14は、通常、足元の長靴部分に来るため、ズボン前・後接合ラインL13と裾部上下方向接合ラインL14とが一直線だったとしても、上着1の袖部15における腕用袖部上部接合ラインL5と下腕用外袖部接合ラインL8の場合よりも違和感を感じることが少なく、上着1の袖部15における腕用袖部上部接合ラインL5と下腕用外袖部接合ラインL8の場合よりもズボン前・後接合ラインL13と裾部上下方向接合ラインL14とを一直線にしても問題はない。
【0062】
尚、ズボン前側部21およびズボン後側部23の上端部は、それぞれの生地が折り返されており、胸当て部22と背当て部24の間の脇の部分には、それらの折り返した部分に脇ゴムが設けられ、ズボン前側部21およびズボン後側部23の上端部が余り広がらず、ズボンが履きやすく適度に窄まるように構成されている。
【0063】
背当て部24は、ズボン後側部23と同様に漁業等の水産作業時にズボン前側部21よりも海水や真水がかかり難く、むしろ汗をかき易く、蒸れ易いため防水透湿生地で製作されており、
図9に示すようにその下端部はズボン後側部23の尻以外部23bの上端部に縫付けられて接合されている一方、上端部には、サスペンダー25先端の合成樹脂製の公知のオス側バックル25c,25cが係合する合成樹脂製のメス側バックル24a,24aがハトメ具24b.24bで留められた防水防湿生地のテープ24c,24c先端に設けられている。
【0064】
サスペンダー25は、伸縮性の高い2本の幅広ゴム25a,25a等から構成されており、
図8および
図9に示すように前側には腹胸当て部22上端に設けられたメス側バックル22a,22aに接離自在に嵌り合うオス側バックル25b,25bが取り付けられている一方、後側にも背当て部24上端に設けられたメス側バックル24a,24aに接離自在に嵌り合うオス側バックル25c,25cが取り付けられている。
【0065】
裾部26は、
図8および
図10に示すように、漁業等の水産作業時に海水や真水を被り易いため合成樹脂レザー等の防水防湿生地を裾部上下方向接合ラインL14で高周波ウェルダー、超音波ミシン等によって溶着されて円筒状に製作されていると共に、
図8〜
図10に示すように、ズボン2を構成するズボン前側部21とズボン後側部23の下端部に裾部水平方向接合ラインL15で縫い付けた上、裏側から防水テープが貼付けられて構成されている。
【0066】
ここで、裾部26は、長靴や網等に接触して擦れ易く傷み易く、また裾部26が上方に捲れ上がったり、ずり上がり難くするため、
図10に示すように下端部(先端部)で折り返して裾部水平方向接合ラインL15まで構成されていると共に、着衣者の足の長さに応じてカットして当該裾部の長さを調整できるようその裾部26が下端部(先端部)を含め上方に向かって所定間隔を開け複数個所(ここでは、説明の便宜上、例えば、4箇所とする。)の溶着ライン26a〜26dで内側面同士が円環状に裾部水平方向接合ラインL15と平行に溶着されている。
【0067】
そのため、脚の長い着衣者は、裾部26をカットせずにズボン2を履くことができる一方、脚の短い着衣者は、裾部26を溶着ライン26b,26c,26d等うちのいずれかの溶着ラインの下方でカットし、裾部26を短くして履くことも可能となる。
【0068】
また、ズボン2の裾部26の裾部上下方向接合ラインL14が側面側に位置するように構成したため、高周波ウェルダーや超音波ミシン等によって溶着した防水防湿生地からなる裾部26の裾部上下方向接合ラインL14が盛り上がり、裾部26を長靴の外に出して作業したり、歩行する際に左右の裾部26の裾部上下方向接合ラインL14同士が当たったり、引っ掛ったりすることを防止でき、作業性や歩行性を向上させることができると共に、裾部上下方向接合ラインL14同士が擦れて摩耗することも防止することができる。
【0069】
またズボン2の裾部26は防水防湿生地を折り返し、高周波ウェルダーや超音波ミシン等のみで環状に溶着して形成しているため、裾口からの海水、水の侵入や吸い上げを防ぐことができる。
【0070】
また、ズボン2の裾部26の裾部上下方向接合ラインL14は、防水透湿生地よりも厚手の防水防湿生地を下端部(先端部)で折り返して裾部水平方向接合ラインL15まで二重にした上で、裾部上下方向接合ラインL14で縁部を重ねて高周波ウェルダーや超音波ミシン等によって溶着しており、の裾部上下方向接合ラインL14の盛り上がりが大きくなるため、ズボン2の裾部26の側面側に位置させることにより、長靴を履いての作業時や歩行時に引っ掛ったり、擦れて摩耗することを確実に防止することができる。
【0071】
また、ズボン前側部21とズボン後側部23との接合ラインであるズボン前・後接合ラインL13と、裾部26の接合ラインである裾部上下方向接合ラインL14とが一直線上にならないようにずらしたため、溶着や縫付け、防水テープ等が重なることによる生地の盛り上りを抑制して、生地の盛り上りによる違和感や他の物に対する引っ掛かり易さを防止して、作業性を向上させている。ただし、裾部上下方向接合ラインL14は、通常、足元の長靴部分に来るため、ズボン前・後接合ラインL13と裾部上下方向接合ラインL14とが一直線だったとしても、上着1の袖部15における腕用袖部上部接合ラインL5と下腕用外袖部接合ラインL8の場合よりも違和感を感じることが少なく、上着1の袖部15における腕用袖部上部接合ラインL5と下腕用外袖部接合ラインL8の場合よりもズボン前・後接合ラインL13と裾部上下方向接合ラインL14とを一直線にしても問題はない。
【0072】
以上説明したように、本実施形態の水産作業用合羽の上着1では、後身頃部12および襟部13を軽量で透湿性の高い防水透湿生地で製作する一方、前身頃部11および袖部15の前側は、防水透湿生地より重量が重いものの防水性および耐久性が高い合成樹脂レザー等の防水防湿生地で製作したため、防水性および耐久性の要求に対応しつつも水産作業用合羽全体を軽量化することができ、漁業を含む水産作業時の作業性を向上させることができる。
【0073】
例えば、上記実施形態と同型で上着1およびズボン2全てを防水防湿生地である合成樹脂レザーのみで製作すると、上着1とズボン2を合計した重量は例えば1930グラムであるのに対し、本実施形態の方法で作成した製品の上着1とズボン2の合計重量は1430グラムとなり、従来の方法で作成された製品よりも約26%も重量が軽減されるので、漁業等の水産用途での使用に限らず、他の水に濡れる作業や、釣り、ボート等のアウトドアやレジャー活動また農作業など各種作業用途にも使用できる。
【0074】
また、本実施形態の水産作業用合羽の上着1では、前身頃部11と袖部15の前身頃側との間の斜めの前身頃・袖接合ラインL1に沿って着衣者の脇の下から襟部13の方向に向かって延びる脇の下部14,14を設け、脇の下部14,14も、透湿性の高い防水透湿生地で製作しているため、脇の下でかいた汗が脇の下部14,14から蒸散し易くなるので、水産作業時の蒸れを効率良く防止でき、この点でも作業性を向上させることができる。
【0075】
また、袖部15は、主に上腕(二の腕)が納まる上腕用袖部15aと、主に下腕(一の腕)が納まる下腕用袖部15bとで構成し、下腕用袖部15bは、防水透湿生地で製作した下腕用内袖部15b1と、合成樹脂レザー等の防水防湿生地で製作した下腕用外袖部15b2との二重構造で構成したため、外側の下腕用外袖部15b2で防水性や耐久性等を確保できると共に、内側の下腕用内袖部15b1で透湿性を確保して、汗や湿気を蒸散し易くして、蒸れを確実に防止することができ、この点でも作業性を向上させることができる。
【0076】
特に、二重構造で形成された下腕用袖部15bにおける内側の下腕用内袖部15b1は、防水透湿生地で製作されているため、透湿性が高いだけでなく、合成樹脂レザー等の防水防湿生地よりも滑り易いので、ゴム等で出来ている水産用手袋を使用する際も水産用手袋の入口部分との摩擦が少なく、簡単に下腕用内袖部15b1まで水産用手袋を装着したり、外すことが可能であり、水産用手袋の着脱が容易となるので、この点でも作業性を向上させることができる。
【0077】
また、本実施形態の水産作業用合羽の上着1の袖部15では、
図2や
図3等に示すように、上腕用袖部15aの上腕用袖部上部接合ラインL5と、下腕用袖部15bの下腕用外袖部15b2の下腕用外袖部接合ラインL8とは共に上着1の正面側ではなく、背面側に来るように構成したため、水産作業時に海水や真水等を被った場合でも、上腕用袖部上部接合ラインL5および下腕用外袖部接合ラインL8からの浸水を極力防止できる。
【0078】
また、本実施形態の水産作業用合羽の上着1の袖部15では、
図2や
図3等に示すように、上腕用袖部15aの上腕用袖部上部接合ラインL5と、下腕用袖部15bの下腕用外袖部15b2の下腕用外袖部接合ラインL8とはズレており、一直線上にないため、溶着や縫付けが重なることによる生地の盛り上りを抑制することが可能となり、水産作業者がこの上着1を着た際の袖部15裏側における溶着や縫付けが重なることによる生地の盛り上りによる違和感を抑制して、摩擦による袖下接合部分の破損を防ぎ、漁業等の水産作業時の作業性を向上させることができる。
【0079】
また、本実施形態の水産作業用合羽の上着1には、さらに、着衣者の首回りから立ち上がる襟部13にフード3を着脱可能に設け、その襟部13およびフード3は防水透湿生地で製作したので、首や頭から蒸散される汗を襟部13およびフード3から外部へ効率良く排出することができる。
【0080】
また、本実施形態の水産作業用合羽のズボン2では、ズボン2の前側であるズボン前側部21は、合成樹脂レザー等の防水防湿生地で製作し、ズボン2の後側であるズボン後側部23は、尻部23aが、座った際に力がかかったり、また濡れ易く、また他の物に当たって擦れ易いため、耐久性が高く、かつ、防水および防湿性も高い合成樹脂レザー等の防水防湿生地で制作されている。一方、尻以外部23bは防水透湿生地で製作されているため、汗や湿気等をズボン後側部23の尻以外部23bから蒸散することができるので、漁業等の水産作業時の作業性を向上させることができる。
【0081】
また、本実施形態の水産作業用合羽のズボン2には、ズボン前側部21およびズボン後側部23の下端部に裾部26が設けられており、この裾部26は合成樹脂レザー等の防水防湿生地を使用し裾部26下端部で折り返して裾部水平方向接合ラインL15まで二重にした上で裾部水平方向接合ラインL15でズボン前側部21およびズボン後側部23の下端部に縫付けおよび防水テープで接合して製作しているため、長靴や網等に接触して擦れても損傷し難くなり、耐久性等が向上すると共に、裾部26が上方に捲れ上がったり、ずり上がることも防止できるので、漁業等の水産作業時の作業性を向上させることができる。
【0082】
また、この裾部26では、着衣者の足の長さに応じてカットして裾部26の長さを調整できるように裾部26下端部から上方に向かって所定間隔で円環状に溶着した溶着ライン26a〜26dを設けているため、脚の長い着衣者は裾部26をカットせずにズボン2を履くことができる一方、脚の短い着衣者は、裾部26を溶着ライン26b,26c,26d等の下方でカットし、裾部26を短くして履くことが可能となり、裾を踏みつけて転倒するなどの危険性を排除でき、この点でも作業性を向上させることができる。
【0083】
また、本実施形態の水産作業用合羽のズボン2では、裾部26の裾部上下方向接合ラインL14が側面側に位置するように構成したため、高周波ウェルダーや超音波ミシン等によって溶着した防水防湿生地からなる裾部26の裾部上下方向接合ラインL14が盛り上がり、裾部26を長靴の外に出して作業したり、歩行する際に左右の裾部26の裾部上下方向接合ラインL14同士が当たったり、引っ掛ったりすることを防止でき、作業性や歩行性を向上させることができると共に、裾部上下方向接合ラインL14同士が擦れて摩耗することも防止することができる。
【0084】
特に、ズボン2の裾部26の裾部上下方向接合ラインL14は、防水透湿生地よりも厚手の防水防湿生地を下端部(先端部)で折り返して裾部水平方向接合ラインL15まで二重にした上で、裾部上下方向接合ラインL14で縁部を重ねて高周波ウェルダーや超音波ミシン等によって溶着しており、裾部上下方向接合ラインL14の盛り上がりが大きくなるが、ズボン2の裾部26の側面側に位置させているので、長靴を履いての作業時や歩行時に左右両側の裾部26の裾部上下方向接合ラインL14同士が引っ掛ったり、擦れて摩耗することを確実に防止することができる。
【0085】
その結果、本発明に係る水産作業用合羽によれば、日本の漁業を支える水産業従事者等の作業において水濡れや汚れといった不安が少ないうえ、発汗などによる蒸れや長時間着用による肉体的負担が軽減され安心して安全に作業に取り組むことができ、日本の文化でもある漁業の発展に貢献することができる。
【0086】
尚、本実施形態の水産作業用合羽の説明では、上着1に防水透湿生地で製作された襟部13および着脱式のフード3の両方を設けて説明したが、本発明では、これに限らず、例えば、フード3を省略しても良いし、さらには襟部13を省略して上着1にフード3が着脱不可に直付けするように構成しても勿論良い。
【0087】
また、本実施形態の水産作業用合羽の上着1の説明では、袖部15は
図1および
図2等に示すようにいわゆるラグランスリーブで説明したが、本発明ではこれに限定されるものではなく、セットインスリーブ(普通袖)等の他の形式の袖部でも勿論良い。