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特許6873487非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873487
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20210510BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20210510BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20210510BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20210510BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/36 C
   H01M4/66 A
   H01M10/0566
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-516295(P2018-516295)
(86)(22)【出願日】2016年5月12日
(86)【国際出願番号】JP2016064164
(87)【国際公開番号】WO2017195331
(87)【国際公開日】20171116
【審査請求日】2019年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】507317502
【氏名又は名称】エリーパワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】原 富太郎
(72)【発明者】
【氏名】葛島 勇介
【審査官】 佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−015726(JP,A)
【文献】 特開2015−210846(JP,A)
【文献】 特開2015−070032(JP,A)
【文献】 特開2015−065134(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/111710(WO,A1)
【文献】 特開昭56−035374(JP,A)
【文献】 特開2005−011540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
4/64−4/84
10/05−10/0587
10/36−10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン層と、前記カーボン層上に設けられた正極活物質層とを備え、
前記カーボン層は、易黒鉛化性炭素を含むことを特徴とする非水電解質二次電池用正極。
【請求項2】
前記カーボン層は、複数の炭素六角網面が積層した構造の基本構造単位が複数集合した非晶質炭素であり複数の基本構造単位が配向した配向組織を有する易黒鉛化性炭素を含む請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記カーボン層は、ピッチ系炭素材料である易黒鉛化性炭素を含む請求項1又は2に記載の正極。
【請求項4】
前記カーボン層は、1.8g/cm3以上2.1g/cm3以下の材料密度を有する易黒鉛化性炭素を含む請求項1〜3のいずれか1つに記載の正極。
【請求項5】
前記カーボン層は、易黒鉛化性炭素を90wt%以上含む請求項1〜4のいずれか1つに記載の正極。
【請求項6】
正極集電シートをさらに備え、
前記カーボン層は、前記正極集電シートと前記正極活物質層との間に設けられた請求項1〜5のいずれか1つに記載の正極。
【請求項7】
前記カーボン層は、前記カーボン層が前記正極活物質層及び前記正極集電シートの両方と接触するように設けられ、
前記正極活物質層は、前記正極活物質層が前記正極集電シートと実質的に接触しないように設けられた請求項6に記載の正極。
【請求項8】
前記カーボン層は、易黒鉛化性炭素の粒子とバインダーとを含む多孔質層である請求項1〜7のいずれか1つに記載の正極。
【請求項9】
前記正極活物質層は、炭素質被膜で覆われた正極活物質粒子とバインダーとを含む請求項1〜8のいずれか1つに記載の正極。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の正極と、負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極とに挟まれたセパレータと、非水電解質と、前記正極と前記負極と前記セパレータと前記非水電解質とを収容する電池ケースとを備える非水電解質二次電池。
【請求項11】
前記負極活物質は、炭素材料であり、
前記非水電解質は、非水溶媒にリチウム塩が溶解した電解液であり、
前記カーボン層は、過充電状態において電気化学的に分解又は反応し高抵抗化する易黒鉛化性炭素を含む請求項10に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
小型軽量かつ高容量で充放電が可能な電池として非水電解質系のリチウムイオン二次電池が近年実用化されるようになってきた。
リチウムイオン二次電池は一般的には、電解液としてリチウム塩を非水溶媒に溶解させた非水電解液が用いられている。
これらの非水電解液は可燃性の材料であることから、従来の電池には安全弁やセパレータ等の安全機構が設けられている。
過充電などによって電池が発熱するなどの異常な状態に見舞われた際、電池の破裂を防止するために安全弁を開裂させて、高くなった電池内圧を逃がす構造にしている。
また、過充電などによって電池が発熱などの異常な状態に見舞われた際、反応がさらに進んでしまうのを防止する為、120℃程度の温度に達するとセパレータに形成している細孔を閉塞(シャットダウン)させて、電池内の伝導イオンの通過経路を止めてしまう構造にしている。
【0003】
オリビン系の無機粒子の表面を被覆する炭素質被膜を設けた正極活物質が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、正極活物質層は、一般的に正極活物質とアセチレンブラックなどの導電助剤とバインダーとを混合して形成される。従って、正極活物質層には、炭素質被膜又は導電助剤として炭素材料が含まれる。
炭素材料は、一般的に、黒鉛、フラーレンなどの一定の結晶構造を有するものと、非晶質炭素(微晶質炭素)とに分類することができる。また、非晶質炭素は、一般的に易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)と難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)とに分類することができる。
易黒鉛化性炭素は、高温処理により黒鉛になりやすい炭素材料である。また、易黒鉛化性炭素は、一般的に、複数の基本構造単位(BSU)が集合した非晶質炭素であり、複数の基本構造単位が配向した配向組織を有する。基本構造単位は、複数の炭素六角網面が積層した構造単位であり、微視的に黒鉛類似構造を有する。また、一般的に、ピッチ類を熱処理した炭素材料、易黒鉛化性コークス類などが易黒鉛化性炭素に分類される(例えば、特許文献2参照)。
難黒鉛化性炭素は、高温処理の際に黒鉛化の進行が遅い炭素材料である。また、難黒鉛化性炭素は、一般的に、複数の基本構造単位が集合した非晶質炭素であり、複数の基本構造単位が配向していない無配向組織を有する。また、一般的に、熱硬化性樹脂を熱処理した炭素材料、カーボンブラック、難黒鉛化性コークス、植物系原料を熱処理した炭素材料などが難黒鉛化炭素に分類される(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−65134号公報
【特許文献2】特開2015−070032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の構造のような安全機構では、過充電時に起こる発熱の影響により、内蔵している電解液が沸騰してしまい電池の安全弁が開いてしまう。安全弁が開いた場合には電池中の電解液が周りに吹き出すことになり、周辺の機器類に悪影響を及ぼす可能性がある。
また、過充電の異常状態を止める機構として、セパレータの導電イオン通過経路を熱によって閉塞させる方法では、セパレータ材料種が限定されてしまうことに加え、発熱が過度に進行した場合、セパレータ全体が収縮する等で、正負極間の短絡を防ぐ機能が損なわれ異常状態を止める機能が働かなくなる可能性がある。
過充電時における保護機能の安全性の要求が高まる中で、安全弁やセパレータの保護機構に加えてさらなる安全機構の必要性が生じている。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、新たな過充電保護機能を有する非水電解質二次電池用正極を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、カーボン層と、前記カーボン層上に設けられた正極活物質層とを備え、前記カーボン層は、易黒鉛化性炭素を含むことを特徴とする非水電解質二次電池用正極を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の非水電解質二次電池用正極は正極活物質層を備えるため、充放電に伴い、正極活物質において電極反応(例えば、イオンの正極活物質へのインターカレーション、イオンの正極活物質からのデインターカレーション)を進行させることができ、非水電解質二次電池の充放電を行うことが可能になる。
前記正極活物質層は、カーボン層上に設けられるため、カーボン層と正極活物質との間の導電距離を短くすることができ、電極反応に伴う電子の授受を速やかに行うことができる。また、カーボン層を電子伝導経路とすることができる。
【0008】
前記カーボン層は易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)を含むため、電池の充放電をする際にカーボン層が高い導電率を有することができ、非水電解質二次電池が過充電状態になったときにカーボン層を高抵抗化することができる。易黒鉛化性炭素が電池の充放電をする際に高い導電率を有し、電池が過充電状態になったときに高抵抗化することは、発明者等が行った実験により明らかになった。この理由は、明らかではないが、過充電により高くなった正極の電位により、易黒鉛化性炭素が電気化学的に分解又は反応し変質するためと考えられる。
このため、非水電解質二次電池が過充電状態になったときに電子伝導経路であるカーボン層を高抵抗化することができ、過充電状態における電池内を流れる充電電流を速やかに少なくすることができる。このことにより、電解液の電気化学反応に伴う発熱や正極活物質層に電流が流れることによる発熱を抑制することができ、電池が高温になることを抑えることができ、電解液が沸騰することを抑制することができる。その結果として、過充電により電池の内圧が上昇することを抑制することができ、電池の破裂を防止することができる。つまり、本発明の正極を用いると、正極活物質層が安全性向上メカニズムを有する電池を作製することができる。
また、シャットダウン機構を有さないセパレータを使用して電池を作製することが可能になるため、電池の耐熱性を向上させることが可能になる。また、保護回路の簡略化することが可能になる。さらに、大型の電池の安全性を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)は本発明の一実施形態の非水電解質二次電池用正極の概略平面図であり、(b)は(a)の破線A−Aにおける正極の概略断面図である。
図2】(a)は本発明の一実施形態の非水電解質二次電池用正極の概略平面図であり、(b)は(a)の破線B−Bにおける正極の概略断面図である。
図3】本発明の一実施形態の非水電解質二次電池用正極に含まれる正極活物質層の拡大断面図である。
図4】本発明の一実施形態の非水電解質二次電池の概略断面図である。
図5】(a)は本発明の一実施形態の非水電解質二次電池に含まれる負極の概略平面図であり、(b)は(a)の破線B−Bにおける負極の概略断面図である。
図6】本発明の一実施形態の非水電解質二次電池に含まれる発電要素の概略構造図である。
図7】(a)は易黒鉛化性炭素の微細組織の説明図であり、(b)は難黒鉛化性炭素の微細組織の説明図である。
図8】(a)、(b)は過充電試験(1)の結果を示すグラフである。
図9】(a)、(b)は過充電試験(1)の結果を示すグラフである。
図10】ビーカーセルの概略断面図である。
図11】電圧印加実験の結果を示すグラフである。
図12】過充電試験(2)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の非水電解質二次電池用正極は、カーボン層と、前記カーボン層上に設けられた正極活物質層とを備え、前記カーボン層は、易黒鉛化性炭素を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の正極に含まれるカーボン層は、複数の炭素六角網面が積層した構造の基本構造単位が複数集合した非晶質炭素であり複数の基本構造単位が配向した配向組織を有する易黒鉛化性炭素を含むことが好ましい。このことにより、非水電解質二次電池が過充電状態になったときに、カーボン層を高抵抗化することができ、正極活物質層の発熱を抑制することができる。
前記カーボン層は、ピッチ系炭素材料(ピッチの焼成品)である易黒鉛化性炭素を含むことが好ましい。このことにより、非水電解質二次電池が過充電状態になったときに、カーボン層を高抵抗化することができ、正極活物質層の発熱を抑制することができる。
前記カーボン層は、1.8g/cm3以上2.1g/cm3以下の材料密度を有する易黒鉛化性炭素を含むことが好ましい。このことにより、非水電解質二次電池が過充電状態になったときに、カーボン層を高抵抗化することができ、正極活物質層の発熱を抑制することができる。
前記カーボン層は、易黒鉛化性炭素を90wt%以上含むことが好ましい。このことにより、電池の充放電をする際にカーボン層が高い導電率を有することができ、非水電解質二次電池が過充電状態になったときにカーボン層を高抵抗化することができる。
【0012】
本発明の正極は正極集電シートを備えることが好ましく、カーボン層は、正極集電シートと正極活物質層との間に設けられたことが好ましい。このことにより、カーボン層を正極集電シートと正極活物質層との間の電子伝導経路とすることができる。また、非水電解質二次電池が過充電状態になったときに、電子伝導経路であるカーボン層を高抵抗化することができ、正極集電シートと正極活物質層との間に流れる電流量を減らすことができる。このことにより、正極の内部抵抗を大きくすることができ、正極活物質層の発熱を抑制することができる。
カーボン層は、カーボン層が正極活物質層及び正極集電シートの両方と接触するように設けられることとが好ましく、正極活物質層は、正極活物質層が正極集電シートと実質的に接触しないように設けられることが好ましい。このことにより、非水電解質二次電池が過充電状態になったときに、カーボン層を高抵抗化することができ、正極集電シートと正極活物質層との間に流れる電流量を減らすことができる。
【0013】
前記カーボン層は、易黒鉛化性炭素の粒子とバインダーとを含む多孔質層であることが好ましい。このことにより、易黒鉛化性炭素の粒子と非水電解質との接触面積を広くすることができ、電池が過充電状態になった際に易黒鉛化性炭素の粒子と非水電解質とを広い範囲で電気化学的に反応させることができる。このことにより、カーボン層を高抵抗化することができる。
前記正極活物質層は、炭素質被膜で覆われた正極活物質粒子とバインダーとを含むことが好ましい。このことにより、炭素質被膜を電子伝導経路とすることができ、電極反応に伴う電子の授受を速やかに行うことができる。このため、電池特性を向上させることができる。また、正極活物質粒子に導電率の比較的低い材料を用いることが可能になる。
本発明の正極に含まれるカーボン層は難黒鉛化炭素(ハードカーボン)及び黒鉛を実質的に含まないことが好ましい。このことにより、非水電解質二次電池が過充電状態になったときに、カーボン層を高抵抗化させることができ、過充電状態の電池の発熱を抑制することができる。
【0014】
本発明は、本発明の正極と、負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極とに挟まれたセパレータと、非水電解質と、前記正極と前記負極と前記セパレータと前記非水電解質とを収容する電池ケースとを備える非水電解質二次電池も提供する。
本発明の非水電解質二次電池によれば、非水電解質二次電池が過充電状態になったときにカーボン層を高抵抗化することができ、電池が高温になることを抑制することができる。このため、過充電により電池の内圧が上昇することを抑制することができ、電池の破裂を防止することができる。
本発明の二次電池において、負極活物質は炭素材料であることが好ましく、非水電解質は非水溶媒にリチウム塩が溶解した電解液であることが好ましく、カーボン層は、過充電状態において、電気化学的に分解又は反応し高抵抗化する易黒鉛化性炭素を含むことが好ましい。このことにより、非水電解質二次電池が過充電状態になったときにカーボン層を高抵抗化することができ、電池が高温になることを抑制することができる。このため、過充電により電池の内圧が上昇することを抑制することができ、電池の破裂を防止することができる。
【0015】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0016】
図1(a)は本実施形態の非水電解質二次電池用正極の概略平面図であり、図1(b)は図1(a)の破線A−Aにおける正極の概略断面図である。図2(a)は本実施形態の非水電解質二次電池用正極の概略平面図であり、図2(b)は図2(a)の破線B−Bにおける正極の概略断面図である。図3は、本実施形態の正極に含まれる正極活物質層の拡大断面図である。図4は、本実施形態の非水電解質二次電池の概略断面図である。図5(a)は本実施形態の非水電解質二次電池に含まれる負極の概略平面図であり、図5(b)は図5(a)の破線B−Bにおける負極の概略断面図である。図6は本実施形態の非水電解質二次電池に含まれる発電要素の概略構造図である。
【0017】
本実施形態の非水電解質二次電池用正極5は、カーボン層2と、カーボン層2上に設けられた正極活物質層1とを備え、カーボン層2は、易黒鉛化性炭素を含むことを特徴とする。
本実施形態の非水電解質二次電池30は、本実施形態の正極5と、負極活物質を有する負極32と、正極5と負極32とに挟まれたセパレータ34と、非水電解質15と、正極5と負極32とセパレータ34と非水電解質15とを収容する電池ケース11とを備えることを特徴とする。
以下、本実施形態の非水電解質二次電池用正極5及び非水電解質二次電池30について説明する。
【0018】
1.非水電解質二次電池用正極
非水電解質二次電池用正極5は、非水電解質二次電池30を構成する正極又は非水電解質二次電池30の製造に用いられる正極である。
非水電解質二次電池用正極5は、カーボン層2と、カーボン層2上に設けられた正極活物質層1とを備える。また、正極5は、正極集電シート3を備えることができ、カーボン層2及び正極活物質層1は正極集電シート3上に設けることができる。また、カーボン層2は、正極集電シート3と正極活物質層1との間に設けることができる。また、カーボン層2は、カーボン層2が正極活物質層1及び正極集電シート3の両方と接触するように設けることができる。また、正極活物質層1は、正極活物質層1が正極集電シート3と実質的に接触しないように設けることができる。このことにより、カーボン層2を電子伝導経路とすることができる。
正極5は、例えば、図1(a)(b)に示したような構造を有することができる。正極集電シート3は、例えば、アルミニウム箔などの金属箔とすることができる。
また、カーボン層2は、正極集電シートとして機能してもよい。この場合、正極5は、例えば、図2(a)(b)に示したような構造を有することができる。
【0019】
正極活物質層1は、正極活物質粒子6とバインダーとを含む多孔質層であってもよい。また、正極活物質層1は、導電助剤7を含んでもよい。また、正極活物質粒子6は炭素質被膜8で覆われたものであってもよい。このことにより、導電助剤7又は炭素質被膜8を電子伝導経路とすることができる。また、炭素質被膜8又は導電助剤7は、従来使用されている物質を使うことができ、中でも易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)とすることが好ましい。例えば、正極活物質層1は、図3のような微細構造を有することができる。このような正極活物質層1は、例えば、炭素質被膜8を形成した正極活物質粉末と、導電助剤7と、バインダーとを混合してペーストを調製し、このペーストをカーボン層2上に塗布することにより形成することができる。ペーストの調製に用いる溶剤としては、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、イソプロパノール、トルエン等が挙げられる。
【0020】
例えば、有機化合物の被覆層を正極活物質粒子6の表面上に形成し、この被覆層を非酸化性雰囲気中において熱処理し炭化させることにより炭素質被膜8を形成することができる。前記有機化合物は、石油ピッチ又は石炭ピッチであってもよい。このことにより、炭素質被膜8を易黒鉛化性炭素であるピッチ系炭素材料(ピッチの焼成品)とすることができる。また、前記熱処理は、例えば、500℃以上1000℃以下で行うことができる。
導電助剤7としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラックなどが挙げられる。また、導電助剤7は、例えば、易黒鉛化性炭素であるコークス系ソフトカーボンを用いることができる。
【0021】
カーボン層2は、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)を含む。また、カーボン層2は、易黒鉛化性炭素を90wt%以上含むことができる。カーボン層2は、例えば、易黒鉛化性炭素であるカーボン粒子とバインダーとを含む多孔質カーボン層であってもよい。このことにより、カーボン粒子と非水電解質との接触面積を広くすることができる。
このようなカーボン層2は、例えば、易黒鉛化性炭素のカーボン粉末とバインダーとを混合してペーストを調製し、このペーストを正極集電シート3上に塗布することにより形成することができる。カーボン層2に含まれるカーボン粒子は、実質的にすべて易黒鉛化性炭素であってもよい。また、カーボン層2に含まれるカーボン粒子は、ピッチの焼成品(ピッチ系炭素材料)であってもよい。カーボン層2に含まれる易黒鉛化性炭素のカーボン粉末の大きさはなるべく小さい粒子が好ましく、例えば、平均粒径が1μm以下であることが好ましい。平均粒径が大きすぎると平滑なカーボン層2の形成を阻害するおそれがあるからである。
カーボン層2の厚みは、1μm以上5μm以下が好ましい。さらに好ましくは3μm以下である。カーボン層2が厚くなると正極5の厚みに影響がでるおそれがあり、薄くなるとピンホールなどが発生するおそれがある。
易黒鉛化性炭素のカーボン粉末は、例えば、コークス系ソフトカーボンを用いることができる。
【0022】
後述する電圧印加実験により、易黒鉛化性炭素は、電池の充放電をする際に高い導電率を有し、電池が過充電状態になったときに高抵抗化することが明らかになった。このため、易黒鉛化性炭素を含むカーボン層2上に正極活物質層1を設けることにより、非水電解質二次電池30の充放電をする際には、カーボン層2と正極活物質粒子6との間の導電距離を短くすることができ、電極反応(例えば、イオンの正極活物質へのインターカレーション、イオンの正極活物質からのデインターカレーション)に伴う電子の授受を速やかに行うことができる。また、非水電解質二次電池30が過充電状態になったときにカーボン層2を高抵抗化することができ、過充電状態における電池30内を流れる充電電流を速やかに少なくすることができる。このことにより、電解液15の電気化学反応に伴う発熱や炭素質被膜8又は導電助剤7に電流が流れることによる発熱を抑制することができ、電池30が高温になることを抑えることができ、電解液15が沸騰することを抑制することができる。その結果として、過充電により電池30の内圧が上昇することを抑制することができ、電池30の破裂を防止することができる。
【0023】
易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)は、高温処理により黒鉛になりやすい炭素材料である。また、易黒鉛化性炭素は、例えば図7(a)に示した微細組織のように、複数の基本構造単位10(BSU)が集合した非晶質炭素であり、複数の基本構造単位10が配向した配向組織を有する。基本構造単位10は、複数の炭素六角網面4が積層した構造単位であり、微視的に黒鉛類似構造を有する。基本構造単位10は、結晶子であってもよい。従って、カーボン層2などを透過型電子顕微鏡観察、X線回折測定又はラマンスペクトル測定することにより、易黒鉛化性炭素であるか否かを確認することができる。
【0024】
一般的に、石油ピッチ、石炭ピッチなどのピッチ類を熱処理した炭素材料、易黒鉛化性コークス類などが易黒鉛化性炭素に分類される。従って、カーボン層2に含まれるカーボン粒子の原材料及び熱処理温度を調べることによっても易黒鉛化性炭素であるか否かを確認することができる。
また、カーボン層2に含まれるカーボン粒子は、1.8g/cm3以上2.1g/cm3以下の材料密度を有してもよい。一般的に、易黒鉛化性炭素は、難黒鉛化性炭素に比べ大きい材料密度を有するため、このことを調べることにより易黒鉛化性炭素であるか否かを確認することができる。
【0025】
一方、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)は、高温処理の際に黒鉛化の進行が遅い炭素材料である。また、難黒鉛化性炭素は、例えば図7(b)に示したような微細組織を有する、複数の基本構造単位10が集合した非晶質炭素であり、複数の基本構造単位10が配向していない無配向組織を有する。また、一般的に、熱硬化性樹脂を熱処理した炭素材料、カーボンブラック、難黒鉛化性コークス、植物系原料を熱処理した炭素材料などが難黒鉛化炭素に分類される。
なお、後述する電圧印加実験により、難黒鉛化性炭素及び黒鉛は、過充電状態において高抵抗化しないことが明らかになった。
【0026】
正極活物質粒子6は、オリビン型結晶構造を有する物質(オリビン型化合物)の粒子であってもよい。オリビン型化合物としては、例えば、LiFePO4、LixyPO4(但し、0.05≦x≦1.2、0≦y≦1であり、MはFe、Mn、Cr、Co、Cu、Ni、V、Mo、Ti、Zn、Al、Ga、Mg、B、Nbのうち少なくとも1種以上である)などが挙げられる。
また、正極活物質粒子6は、Yx2(PO43で表すことができるNASICON型化合物の粒子であってもよい。NASICON型化合物は、菱面体晶を有し、例えば、Li3+xFe2(PO43、Li2+xFeTi(PO43、LixTiNb(PO43およびLi1+xFeNb(PO43などが挙げられる。
また、正極活物質粒子6は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することが可能なリチウム遷移金属複合酸化物(層状系、スピネル等)の粒子であってもよい。
また、正極活物質層1は、上述の正極活物質粒子6を一種単独で含有してもよく、複数種を含有してもよい。
【0027】
また、正極活物質粒子6は、例えば、ナトリウム遷移金属複合酸化物の粒子として、Na6Fe2Si1230およびNa2Fe5Si1230等のNab2cSi1230で表される酸化物の粒子(M2は1種以上の遷移金属元素、2≦b≦6、2≦c≦5);Na2Fe2Si618およびNa2MnFeSi618等のNad3eSi618で表される酸化物の粒子(M3は1種以上の遷移金属元素、3≦d≦6、1≦e≦2);Na2FeSiO6等のNaf4gSi26で表される酸化物の粒子(M4は遷移金属元素、MgおよびAlからなる群より選ばれる1種以上の元素、1≦f≦2、1≦g≦2);NaFePO4、Na3Fe2(PO43等のリン酸塩の粒子;NaFeBO4、Na3Fe2(BO43等のホウ酸塩の粒子;Na3FeF6およびNa2MnF6等のNah56で表されるフッ化物の粒子(M5は1種以上の遷移金属元素、2≦h≦3);などであってもよい。
また、正極活物質層1は、上述の正極活物質粒子6を一種単独で含有してもよく、複数種を含有してもよい。
【0028】
正極活物質層1に含まれるバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、アクリロニトリルゴム、および、アクリロニトリルゴム−PTFE混合体などが挙げられる。
【0029】
2.非水電解質二次電池
非水電解質二次電池30は、上述の正極5と、負極32と、正極5と負極32とに挟まれたセパレータ34と、非水電解質15と、正極5と負極32とセパレータ34と非水電解質15とを収容する電池ケース11とを備える。非水電解質二次電池30は、例えば、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池などである。
【0030】
非水電解質二次電池30は、非水電解質二次電池用正極5を備える。非水電解質二次電池用正極5についての説明は上述したため、ここでは省略する。なお、正極5は、負極32、セパレータ34と共に図6に示したような発電要素22を構成することができる。
【0031】
負極32は、負極活物質を含む多孔性の負極活物質層36を有する。また、負極32は、負極集電シート38を有することができる。
負極活物質層36は、負極活物質、導電剤、結着剤などを含むことができる。
負極活物質は、例えば、グラファイト(黒鉛)、部分黒鉛化した炭素、ハードカーボン、ソフトカーボン、LiTiO4、Sn、Siなどが挙げられる。また、負極活物質層36は、上述の負極活物質を一種単独で含有してもよく、複数種を含有してもよい。
【0032】
負極活物質層36は、負極集電シート38上に設けることができる。負極活物質層36は、例えば、図5(a)(b)に示した負極32のように、負極集電シート38の両主要面上に設けることができる。
【0033】
セパレータ34は、シート状であり、正極5と負極32との間に配置される。また、セパレータ34は、正極5、負極32と共に図6に示したような発電要素22を構成することができる。セパレータ34を設けることにより、正極5と負極32との間に短絡電流が流れることを防止することができる。
セパレータ34は、短絡電流が流れることを防止でき、正極−負極間を伝導するイオンが透過可能なものであれば特に限定されないが、例えばポリオレフィンの微多孔性フィルム、セルロースシート、アラミドシートとすることができる。
電池ケース11は、正極5、負極32、セパレータ34、非水電解質15を収容する容器である。また、電池ケース11は、蓋部材12により塞がれた開口を有してもよい。このことにより、電池ケース11内に発電要素22を収容することができる。
【0034】
非水電解質15は、電池ケース11内に収容されて正極−負極間のイオン伝導媒体となる。また、非水電解質15は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。
非水電解質15に含まれる非水溶媒には、カーボネート化合物(環状カーボネート化合物、鎖状カーボネート化合物など)、ラクトン、エーテル、エステルなどを使用することができ、これら溶媒の2種類以上を混合して用いることもできる。これらの中では特に環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物を混合して用いることが好ましい。
非水電解質15に含まれる電解質塩としては、例えば、LiCF3SO3、LiAsF6、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiBOB、LiN(CF3SO2)2、LiN(C25SO2)等を挙げることができる。
また、非水電解質15には、必要に応じて難燃化剤等の添加剤を配合してもよい。
【0035】
リチウムイオン二次電池の作製方法
易黒鉛化性炭素であるコークス系ソフトカーボンのカーボン粉末をカーボン層に用いた正極(1)を作製し、アセチレンブラックのカーボン粉末をカーボン層に用いた正極(2)を作製した。カーボン層以外の構成は同じにした。具体的には以下のように作製した。
まず、カーボン粉末と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF ((CH2CF2)n))(バインダー)とを、合計100重量%に対し、カーボン粉末が94重量%となり、PVDFが6重量%となるように混合した。この混合粉末にN−メチルピロリドンを加えて混練することによりカーボンペーストを調製した。このカーボンペーストをアルミニウム箔(正極集電シート)上に塗布し、塗布膜を乾燥させることにより正極集電シート上に厚さ約2μmのカーボン層を形成した。なお、コークス系ソフトカーボンのカーボン粉末には、KANJ-9(エム・ティー・カーボン株式会社製)(平均粒径約0.5μm)を用いた。また、アセチレンブラックのカーボン粉末には、デンカ株式会社製のアセチレンブラックを用いた。
【0036】
次に、炭素質被膜を有するリン酸鉄リチウム(LiFePO4)粉末(正極活物質粉末)と、アセチレンブラック(導電助剤)と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF ((CH2CF2)n))(バインダー)とを、合計100重量%に対し、正極活物質粉末が88〜95重量%となり、導電助剤が3.5〜4.5重量%となるように混合した。この混合粉末にN−メチルピロリドンを加えて混練することにより正極活物質ペーストを調製した。この正極活物質ペーストをカーボン層上に塗布し、塗布膜を乾燥させることにより正極集電シート上にカーボン層及び正極活物質層を形成し正極(1)、(2)を作製した。なお、リン酸鉄リチウム粉末は、住友大阪セメント株式会社製のものを用いた。
【0037】
次に、正極(1)を用いてリチウムイオン二次電池(1)を作製し、正極(2)を用いてリチウムイオン二次電池(2)を作製した。正極以外の構成は同じにした。具体的には以下のように作製した。
正極(1)又は正極(2)と、ポリオレフィン製のセパレータ(シャットダウン温度120℃付近)と、炭素質負極とを複数層積層した発電要素を、蓋部材に安全弁を備えた電池容器に収容し、非水電解液を電池容器内に注入することによりリチウムイオン二次電池(1)、(2)を作製した。非水電解液には、カーボネート系溶媒(EC:DEC:EMC=1:1:1)と、添加剤(電解液100重量部に対してVCを1重量部、FECを1重量部)と、電解質であるLiPF6とを含む1MのLiPF6電解液を用いた。また、リチウムイオン二次電池(1)、(2)は、電池の容量が50Ahとなるように作製した。
【0038】
過充電試験(1)
作製したリチウムイオン二次電池(1)、(2)の過充電試験を行った。具体的には以下のようにして試験を行った。
まず、充電電流を50A、上限電圧を3.5Vとして6時間の充電を行い作製した電池を満充電状態にした後、過充電試験を行った。過充電試験では、充電電流を1ItA(1CA)である50Aとし、試験上限電圧を10Vとして、CCCV (Constant-Current-Constant-Voltage) 充電を行った。なお、過充電試験では、正極の外部接続端子と負極の外部接続端子との間の電圧と、これらの外部接続端子間に流れる電流を測定した。また、過充電試験では、電池容器に熱電対を取り付けて温度を測定した。
この試験結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
リチウムイオン二次電池(1)の過充電試験の結果を図8に示し、リチウムイオン二次電池(2)の過充電試験の結果を図9に示す。なお、図8、9の横軸は、過充電試験を開始した時点を0分とした試験時間を示した。
電池(2)では、図9(a)に示した電圧曲線のように過充電状態で充電を続けると、正極−負極間の電圧は、約5.5Vまで上昇した後ほぼ一定となった。そして約12分から電圧は急上昇し、13分付近で正極−負極間の電圧は試験上限電圧に達した。
また、電池(2)では、図9(b)に示した電流曲線のように13分付近で正極−負極間の電流は急降下しほとんど流れなくなった。なお、電池(2)では安全弁が開き、電池容器中の電解液が噴出した。
電池(2)では、12〜13分で正極−負極間の電圧が急上昇し、電流が急降下しているため、電池内部の温度が120℃以上に達し、セパレータの細孔がシャットダウンし、電池内の伝導イオンの通過経路が止まったと考えられる。
【0041】
電池(1)では、図8(a)に示した電圧曲線のように過充電状態で充電を続けると、正極−負極間の電圧は徐々に上昇し、試験時間が6分付近で試験上限電圧に達した。電池(2)よりも、緩やかに電圧が上昇していくことがわかった。
また、電池(1)では、図8(b)に示した電流曲線のように正極−負極間の電圧が6分付近で試験上限電圧に達すると、正極−負極間に流れる電流は徐々に減少し試験時間が10〜12分でほとんど流れなくなった。セパレータのシャットダウン時にみられるような急に電流が流れなくなるような現象とは異なる挙動を示していた。なお、電池(1)では、安全弁が開くことはなかった。
電池(1)では、正極−負極間の電圧は徐々に上昇し、正極−負極間に流れる電流は徐々に減少しているため、電池が過充電状態になると、電池の内部抵抗が徐々に上昇すると考えられる。
【0042】
過充電試験後の電池分解実験
過充電試験後のリチウムイオン二次電池(1)、(2)から正極(1)、(2)を取り出し、正極(1)、(2) の正極集電シートと正極活物質層との間の電気抵抗率を四端子法を用いて測定した。また、電池組み込み前の正極(1)、(2)の電気抵抗率も測定した。
また、過充電試験後のリチウムイオン二次電池(1)、(2)からセパレータを取り出し、透気抵抗度試験を行った。また、電池組み込み前のセパレータについても、透気抵抗度試験を行った。透気抵抗度試験は、透気抵抗度試験機(ガーレー試験機)を用いて測定を行った。この試験は、単位面積当たりを規定された体積の空気が透過するのに要する時間を測定するものである。
これらの試験結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2に示した結果から、過充電試験後の正極(1)の抵抗率は500Ω・m以上であり電池組込前の正極(1)に比べて大幅に上昇していることがわかった。これに対し、過充電試験後の正極(2)の抵抗率は約9Ω・mであり、正極(2)の抵抗率の上昇量は少ないことがわかった。
このことから電池(1)についての過充電試験における電池の内部抵抗の上昇は、正極(1)の内部抵抗の上昇に起因することがわかった。
一方、電池(2)についての過充電試験における電池の内部抵抗の上昇は、正極(2)の内部抵抗の上昇によるものではないことがわかった。
【0045】
また、表2に示した結果から、過充電試験後の電池(1)のセパレータの透気抵抗度は、未使用のセパレータの透気抵抗度の約1.3倍であった。一方、過充電試験後の電池(2)から取り出したセパレータの透気抵抗度を測定したところ、透気抵抗度の値が大きすぎて測定が不可能であった。
このことから電池(1)についての過充電試験では、電池内部温度がセパレータのシャットダウン温度まで到達していないことがわかった。また、過充電試験における電池(1)の内部抵抗の上昇は、セパレータの細孔の閉塞に起因しないことがわかった。
また、電池(2)についての過充電試験では、電池内部温度がセパレータのシャットダウン温度まで到達したことがわかった。このため、セパレータの細孔が閉塞して電池内の伝導イオンの通過経路が遮断され、正極−負極間の電圧が急上昇し、電流が急降下したと考えられる。
【0046】
電圧印加実験
異なる種類のカーボン層42を有する正極(3)〜(5)を作製し、この正極(3)〜(5)を用いて図10に示したようなビーカーセル(1)〜(3)を作製し、過充電試験を想定した電圧印加実験を行った。易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)粉末とバインダー(PVDF)とを混合して調製したペーストをアルミニウム箔41上に塗布してカーボン層42aを形成して正極(3)を作製し、この正極(3)を用いてビーカーセル(1)を作製した。易黒鉛化性炭素粉末には、コークス系ソフトカーボンであるKANJ-9(エム・ティー・カーボン株式会社製)を用いた。
また、同様の方法で難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)粉末を用いて形成したカーボン層42bを有する正極(4)を作製し、ビーカーセル(2)を作製した。難黒鉛化性炭素粉末には、カーボトロンP(株式会社クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製)を用いた。
さらに同様の方法でグラファイト粉末を用いて形成したカーボン層42cを有する正極(5)を作製し、ビーカーセル(3)を作製した。グラファイト粉末には、コークス系カーボンを焼成して作成したKGNJ-9(エム・ティー・カーボン株式会社製)を用いた。
作製したカーボン層42a、42b、42cは、いずれも高い導電率を有していた。
なお、非水電解質15には、カーボネート系溶媒(EC:DEC =3:7)と、電解質であるLiPF6とを含む1MのLiPF6電解液を用いた。負極32には、金属リチウム箔を用いた。電圧印加実験では、試験上限電圧を7Vとして、充電電圧を正極と負極の間に印加し10mAの定電流を流すことにより行った。
【0047】
試験結果を図11に示す。ソフトカーボンのカーボン層42aを有する正極(3)を用いたビーカーセル(1)では、試験時間約0〜10秒で、端子電圧が約5.3Vまで上昇し、試験時間約10〜220秒で端子電圧は徐々に約6Vまで上昇した。その後、端子電圧は急上昇し試験上限電圧に達した。
ハードカーボンのカーボン層42bを有する正極(4)を用いたビーカーセル(2)では、試験時間約0〜15秒で、端子電圧が約6.2Vまで上昇し、その後、端子電圧は一定となった。
グラファイトのカーボン層42cを有する正極(5)を用いたビーカーセル(3)では、試験時間約0〜2秒で、端子電圧が約5.0Vまで急上昇し、試験時間約2〜275秒で端子電圧は徐々に約6.2Vまで上昇した。そして、端子電圧は、約6.2Vで一定となった。
【0048】
ビーカーセル(1)では、端子電圧が試験上限電圧に達した。ソフトカーボンは端子電圧が約5.3Vから約6Vまで上昇している間に高抵抗化して、端子電圧が約6Vを超えたところではソフトカーボンの高抵抗化が終わって、カーボン層42aに電流が流れ難くなるため端子電圧が試験上限電圧に達したと考えられる。また、試験時間約10〜220秒では、ソフトカーボンが電解質中のLiPF6で酸化されたものと考えられる。
正極のカーボン層42にハードカーボンを用いたビーカーセル(2)では、ハードカーボンが電気化学反応に関与することなく、端子電圧が上がり続けて端子電圧が約6.2Vで一定となった。
また、正極のカーボン層42にグラファイトを用いたビーカーセル(3)では、グラファイトが約5.0Vで電気化学反応に関与していていることが観察されるものの、グラファイトの構造が安定なためにカーボン層42の高抵抗化には至らず、端子電圧が約6.2Vで一定となった。
なお、端子電圧が約6.2Vで一定である領域では、カーボネート系溶媒が電気化学的に反応していると考えられる。
【0049】
上記電圧印加実験の結果から、上記過充電試験(1)で測定されたリチウムイオン二次電池(1) の内部抵抗の上昇及び上記電池分解実験で測定された正極(1)の電気抵抗の上昇は、ソフトカーボンからなるカーボン層の高抵抗化に起因すると考えられる。
また、上記電圧印加実験の結果から、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)及びグラファイトは、過充電状態で高抵抗化しないことがわかった。アセチレンブラックはグラファイト化が進んだカーボンブラックであるため、アセチレンブラックも過充電状態で高抵抗化しないと考えられる。このことから、上記過充電試験(1)のリチウムイオン二次電池(2)では、カーボン層がアセチレンブラックであるため、電池が過充電状態となり正極の電位が高くなった場合でもカーボン層が高い導電率を有すると考えられる。このため、過充電状態でもカーボン層を介して正極活物質層1に電流が流れると考えられ、正極活物質層1において非水電解質15に含まれる電解質や非水溶媒が電気化学的に分解又は反応し発熱すると考えられる。この発熱により電解液15が沸騰し電池の安全弁が開いたと考えられる。
【0050】
過充電試験(2)
炭素質被膜が形成されたリン酸鉄リチウム(LiFePO4)粉末(住友大阪セメント株式会社製)を正極活物質粉末として用いて正極(6)、(7)を作製し、ビーカーセル(4)、(5)を作製した。具体的には以下のように作製した。
正極(6)、ビーカーセル(4):94重量%の易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)粉末(約10mg)と6重量%のバインダー(PVDF)とを混合して調製したペーストをアルミニウム箔(正極集電シート)上に塗布して下地カーボン層(導電性下地層)を形成した。易黒鉛化性炭素粉末にはコークス系ソフトカーボンであるKANJ-9(エム・ティー・カーボン株式会社製)の粉砕物(平均粒径:約0.5μm)を用いた。
また、正極活物質粉末と、バインダー(PVDF)とを、合計100重量%に対し、正極活物質粉末が95重量%となり、バインダーが5重量%となるように混合した(導電助剤は加えていない)。この混合粉末にN−メチルピロリドンを加えて混練することにより正極活物質ペーストを調製した。この正極活物質ペーストを下地カーボン層上に塗布し(塗布量:約10mg)、正極集電シート3上に下地カーボン層(膜厚:約2μm)及び正極活物質層1(膜厚:約200μm)を形成し正極(6)を作製した。
この正極(6)を用いてビーカーセル(4)を作製した。なお、非水電解液15には、カーボネート系溶媒(EC:DEC=3:7)と、電解質であるLiPF6とを含む1MのLiPF6電解液を用いた。負極32には、金属リチウム箔を用いた。また、セパレータは設けていない。
【0051】
正極(7)、ビーカーセル(5):正極(6)と同様に正極集電シート3上に下地カーボン層を形成した。
正極活物質粉末と、アセチレンブラック(導電助剤)と、バインダー(PVDF)とを、合計100重量%に対し、正極活物質粉末が91重量%となり、導電助剤が4重量%となり、バインダーが5重量%となるように混合した。この混合粉末にN−メチルピロリドンを加えて混練することにより正極活物質ペーストを調製した。この正極活物質ペーストを下地カーボン層上に塗布し(塗布量:約10mg)、集電シート3上に下地カーボン層(膜厚:約2μm)及び正極活物質層1(膜厚:約200μm)を形成し正極(7)を作製した。正極(9)の正極活物質層1には、アセチレンブラックである導電助剤7を含まれているが、下地カーボン層は易黒鉛化性炭素である。
この正極(7)を用いてビーカーセル(5)を作製した。なお、非水電解液15には、カーボネート系溶媒(EC:DEC =3:7)と、電解質であるLiPF6とを含む1MのLiPF6電解液を用いた。負極には、金属リチウム箔を用いた。また、セパレータは設けていない。
【0052】
ビーカーセル(4)、(5)を用いて充電・過充電試験を行った。充電・過充電試験では、試験上限電圧を7.5Vとして、充電電圧を正極と負極の間に印加し約0.6Cの定電流を流すことにより行った。
充電・過充電試験の結果を図12に示す。
ビーカーセル(4)の試験では、約0〜4350秒の充電領域では、端子電圧が約3.8Vで安定していた。満充電状態を超えて過充電をすると、約4350〜6520秒で端子電圧は上昇していき、約6520〜7140秒で端子電圧が一定になり、その後、端子電圧が上昇し試験上限電圧に達した。このことにより、セパレータを設けない場合でも、電池の内部抵抗が上昇することが確認できた。
【0053】
ビーカーセル(4)に含まれる正極(6)の正極活物質層1は、アセチレンブラックを含んでなく、下地カーボン層は易黒鉛化性炭素である。このため、過充電状態において、易黒鉛化性炭素が電気化学的に酸化されることにより下地カーボン層が高抵抗化し、図12のように、ビーカーセル(4)の内部抵抗が上昇したと考えられる。なお、約6520〜7140秒の端子電圧が一定となる領域は、ソフトカーボンが電気化学的に酸化されている領域と考えられる。
【0054】
従って、易黒鉛化性炭素の下地カーボン層を設けることにより、過充電状態において、下地カーボン層を速やかに高抵抗化することができ、正極活物質層1に発熱を伴う電流が流れることを抑制することができることがわかった。従って、易黒鉛化性炭素の下地カーボン層を設けることにより、過充電状態における電池の発熱を抑制することができ、電池の内圧が上昇し電池の破裂を防止することができることがわかった。
【0055】
ビーカーセル(5)の試験では、約0〜4350秒の充電領域では、端子電圧が約3.8Vで安定していた。満充電状態を超えて過充電をすると、約4350〜6230秒で端子電圧は上昇していき、約6230〜6740秒で端子電圧が少し低下し、その後、端子電圧が上昇し試験上限電圧に達した。なお、約6230〜6740秒の端子電圧が少し低下する理由は不明である。
【0056】
ビーカーセル(5)に含まれる正極(7)の正極活物質層1は、アセチレンブラック(導電助剤7)を含んでおり、下地カーボン層は易黒鉛化性炭素である。このため、過充電状態において、易黒鉛化性炭素が電気化学的に非水電解液15と反応することにより下地カーボン層が高抵抗化し、図12のように、ビーカーセル(5)の内部抵抗が上昇したと考えられる。また、正極集電シート3と正極活物質層1との間に、易黒鉛化性炭素の下地カーボン層を設けることにより、過充電状態において電子伝導経路である下地カーボン層を高抵抗化することができ、正極活物質層1に発熱を伴う電流が流れることを抑制することができることがわかった。従って、易黒鉛化性炭素の下地カーボン層を設けることにより、過充電状態における電池の発熱を抑制することができ、電池の内圧が上昇し電池の破裂を防止することができることがわかった。
【0057】
過充電試験(3)
ソフトカーボンとハードカーボンの混合粉末を用いて下地カーボン層を形成したビーカーセル(6)〜(9)を作製した。下地カーボン層以外はビーカーセル(5)と同じように作製した。ソフトカーボンには、コークス系ソフトカーボンであるKANJ-9(エム・ティー・カーボン株式会社製)を用い、ハードカーボンには、カーボトロンP(株式会社クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製)を用いた。各セルのソフトカーボンとハードカーボンの混合割合を表3に示した。
作製したビーカーセル(6)〜(9)を用いて、過充電試験を行った。過充電試験では、試験上限電圧を7.0Vとして、充電電圧を正極と負極の間に印加し約0.6Cの定電流を流すことにより行った。また、所定の時間内に、端子電圧が試験上限電圧に達した場合に下地カーボン層が高抵抗化したと判断した。試験結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
ビーカーセル(6)、(7)の試験では、所定の時間内に端子電圧が試験上限電圧に達しなかった。これらのセルでは、下地カーボン層に含まれるハードカーボンの割合が大きいため、下地カーボン層が高抵抗化しなかったと考えられる。
ビーカーセル(8)、(9)の試験では、所定の時間内に端子電圧が試験上限電圧に達した。これらのセルでは、下地カーボン層に含まれるハードカーボンの割合が小さく、ソフトカーボンの割合が大きいため、下地カーボン層が高抵抗化したと考えられる。
【符号の説明】
【0060】
1:正極活物質層 2:カーボン層 3:正極集電シート 4:炭素六角網面 5:正極 6:正極活物質粒子 7:導電助剤 8:炭素質被膜 9:細孔 10:基本構造単位(BSU) 11: 電池ケース 12:蓋部材 13:正極接続部材 14:負極接続部材 15:非水電解質 16a、16b:ねじ部材 18a、18b:外部接続端子 20a、20b:外部絶縁部材 21a、21b:内部絶縁部材 22:発電要素 25:シュリンクフィルム 30:非水電解質二次電池 32:負極 34:セパレータ 36:負極活物質層 38:負極集電シート 40a、40b:クリップ 41:アルミニウム箔 42:カーボン層 43:正極 45:ビーカーセル
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