(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873494
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】ハンドピース型高周波振動装置
(51)【国際特許分類】
A61B 17/32 20060101AFI20210510BHJP
【FI】
A61B17/32 510
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-137699(P2019-137699)
(22)【出願日】2019年7月26日
(65)【公開番号】特開2021-19794(P2021-19794A)
(43)【公開日】2021年2月18日
【審査請求日】2020年4月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114019
【氏名又は名称】ミクロン精密株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢部 仁三
(72)【発明者】
【氏名】寒河江 茂兵衛
(72)【発明者】
【氏名】小林 敏
(72)【発明者】
【氏名】皆川 義博
【審査官】
和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−060773(JP,A)
【文献】
特開2019−088452(JP,A)
【文献】
特表2018−526231(JP,A)
【文献】
特表2002−514958(JP,A)
【文献】
特開2010−042123(JP,A)
【文献】
特開平02−116359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/32
A61C 1/07
B23B 37/00
B24B 1/04
B06B 1/00 − 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動する振動体、及び前記振動体の駆動を制御する制御装置を有するハンドピースを備え、前記ハンドピースの先端部には複数種類の工具が取り付け可能で、前記工具を前記振動体により振動させるハンドピース型高周波振動装置であって、
前記制御装置は、前記工具が対象物に接触していない非接触状態では、前記非接触状態での前記工具の共振周波数に、所定周波数を加算した加算周波数で前記工具を振動させるように、前記振動体を駆動し、
前記工具により前記対象物を切削する切削状態では、前記切削状態での前記工具の共振周波数が操作者によりハンドピースに与えられる力の増加に応じて増加して前記加算周波数に近づき、前記工具の切削エネルギーが上昇するように、前記所定周波数が設定されていることを特徴とするハンドピース型高周波振動装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハンドピース型高周波振動装置において、
前記共振周波数は、前記工具に応じて可変であることを特徴とするハンドピース型高周波振動装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のハンドピース型高周波振動装置において、
前記所定周波数は、操作者により選択可能であることを特徴とするハンドピース型高周波振動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端部に取り付けられた工具を用いて切削を行うハンドピース型高周波振動装
置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波振動する振動体(振動子)を有するハンドピースを備え、先端部に取り付けられた工具(処置部)を用いて対象物を切削するハンドピース型高周波振動装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載のハンドピース型高周波振動装置では、振動体での振動を工具に伝達するための超音波振動伝達部材を備え、この超音波振動伝達部材を振動体に着脱できない状態で固定的に連結している。
【0004】
特許文献1に記載のようなハンドピース型高周波振動装置で切削を行う場合、工具の周波数によって切削の容易さや切削時間が変わるため、工具の周波数を、工具の共振周波数とすることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−035002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、工具の熱上昇を抑制しつつ、切削し易いハンドピース型高周波振動装
置を提供することを目的とする。
【0007】
本発明のハンドピース型高周波振動装置は、超音波振動する振動体、及び前記振動体の駆動を制御する制御装置を有するハンドピースを備え、前記ハンドピースの先端部には複数種類の工具が取り付け可能で、前記工具を前記振動体により振動させるハンドピース型高周波振動装置であって、前記制御装置は、前記工具が対象物に接触していない非接触状態では、前記非接触状態での前記工具の共振周波数に、所定周波数を加算した加算周波数で前記工具を振動させるように、前記振動体を駆動し、前記工具により前記対象物を切削する切削状態では、前記切削状態での前記工具の共振周波数が操作者によりハンドピースに与えられる力の増加に応じて増加して前記加算周波数に近づき、前記工具の
切削エネルギー振動強度が上昇するように、前記所定周波数が設定されていることを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のハンドピース型高周波振動装置の発振方法は、超音波振動する振動体を有するハンドピースを備え、前記ハンドピースの先端部には複数種類の工具が取り付け可能で、前記工具を前記振動体により振動させるハンドピース型高周波振動装置の発振方法であって、前記工具が対象物に接触していない非接触状態では、前記非接触状態での前記工具の共振周波数に、所定周波数を加算した加算周波数で前記工具を振動させる振動工程と、前記工具により前記対象物を切削する切削状態では、前記切削状態での前記工具の共振周波数が増加して前記加算周波数に近づくように、前記振動体を駆動する切削工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、工具が対象物を切削する前の非接触状態では、工具の周波数を、共振周波数に所定周波数加算した加算周波数にするので、工具の周波数が共振周波数であるものに比べて、研削エネルギーが低くなり、非接触状態での工具の発熱を抑制することができる。
【0010】
また、前記
共振周波数は、前記工具に応じて可変であることが好ましい。
【0011】
また、前記所定周波数は、前記工具に応じて可変であることが好ましい。
【0012】
さらに、所定周波数は、
操作者により選択可能であることが好ましい。
【0013】
さらに、前記所定周波数は、選択可能であることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、術者により工具の周波数を設定することができる。これにより、例えば、切削時に工具を対象物に押し付ける力が強い術者は、所定周波数を閾値よりも高くし、切削時に工具を対象物に押し付ける力が弱い術者は、所定周波数を閾値よりも低くすることで、術者のタイプに応じた切削し易い適切な周波数にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態としてのハンドピース型高周波振動装置の構成に関する説明図。
【
図2】非接触状態と接触状態と切削状態との工具の周波数に応じた切削エネルギーを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1に示すように、本発明の一実施形態としてのハンドピース型高周波振動装置は、ハンドピースを構成する略円筒状のハウジング10と、保持部材11と、工具12と、制御装置20と、加振装置21とを備えている。
【0018】
ハウジング10は、通常の人間が片手で持てる程度のサイズに設計されている。ハウジング10およびその内部空間に少なくとも一部が配置される保持部材11等の構成要素により高周波振動式切削装置のハンドピースが構成されているが、当該ハンドピースを取り扱いの簡便性のために軽量化する観点から、当該構成要素の種類および仕様が適当に選定されてもよい。
【0019】
保持部材11は、その後端部が加振装置21に対して取り付けられ、ハウジング10の内側壁に対して固定されている支持部112、114を介してハウジング10に軸線方向移動自在に支持されている。保持部材11は、振幅を増大するホーンとしての機能を有している。工具12は、保持部材11の先端部に対して脱着自在に取り付けられている。
【0020】
保持部材11の軸線方向に対して垂直な方向について工具12の長さは、30〜150[mm]である。工具12の種類としては、キュレット、ノミ、メス、ヤスリ、ロングタイプ、ショートタイプ等が挙げられる。また、工具12の形状としては、先端が直線状、円弧状の刃物や、略円柱状、匙状、屈曲または湾曲したロッド状などの任意の形状が採用される。
【0021】
加振装置21は、ハウジング10の取付部10aに対して取り付けられ、ハウジング10の内部空間に配置されている圧電素子により構成され、保持部材11をその軸線方向に振動させるまたは往復駆動する。ハウジング10の後端部に取り付けられているケーブル24およびハウジング10の内部空間に配置されている制御装置20および導線を通じて加振装置21に対して電力が供給される。
【0022】
加振装置21および保持部材11は、それぞれの軸線が共通するように、かつ、それぞれの軸線方向について離間して配置されているため、当該軸線が平行に離間してまたは非平行に配置されている場合と比較して、当該軸線に対して垂直な方向について、ハウジング10の内部空間における加振装置21および保持部材11の占有スペース、ひいてはハウジング10のコンパクト化が図られる。これにより、持ちやすさおよび操作性の向上が図られたハンドピースとして高周波振動式切削装置が構成されうる。
【0023】
加振装置21の力が、伝動機構が用いられることなく保持部材11に対して直接的に伝えられるため、一般的に当該伝動機構に用いられるグリス等の潤滑剤が不要になる。よって、医療機器としての高周波振動式切削装置が高圧水蒸気によって滅菌処理される場合、潤滑剤の存在に由来する当該医療機器のコンタミネーションが生じる事態が回避される。
【0024】
制御装置20は、加振装置21の動作を制御する。制御装置20を構成するマイクロコンピュータまたはプロセッサは、これが実装されている基板とともにハウジング10の内部空間に配置されている。制御装置20は、加振装置21による保持部材11を介しての工具12の軸線方向の振動周波数f2が20〜60[kHz]の範囲に含まれるように制御する。f2=25〜40[kHz]に制御されることがより好ましい。
【0025】
前記構成のハンドピース型高周波振動装置によれば、保持部材11がその軸線方向に往復駆動されることにより、当該保持部材11の先端部に設けられている工具12によって対象物が切削される。
【0026】
(作用効果)
ハンドピース型高周波振動装置を用いて対象物を切削する場合、切削(手術)を行う術者は、工具12を保持部材11の先端部に取り付ける。そして、術者は、工具12により対象物である患者の組織、例えば耳内の骨を切削する前(非接触状態)に、保持部材11(工具12)を軸線方向に振動させる。
【0027】
制御装置20は、非接触状態における工具12の第1共振周波数fr1を検出装置(図示せず)により検出する。そして、制御装置20は、第1共振周波数fr1に所定周波数fs(詳しくは後述)加算した加算周波数fpで工具12を振動させるように、加振装置21を駆動する(加算周波数fpに対応したパルス電流を加振装置21に通電する)(振動工程)。
【0028】
これにより、
図2の点線で示すように、非接触状態では、工具12は第1共振周波数fr1より高い加算周波数fpで振動されるため、第1共振周波数fr1で工具12を振動させた場合に比べて、切削エネルギーを低くし、工具12が発する熱量を少なくすることができる。これにより、工具12が対象物の周囲の生物組織(耳の中の生物組織)に当接した場合の、生物組織の変質または損傷の抑制が図られる。
【0029】
工具12が対象物に接触する(接触状態)と、該接触状態での工具12の第2共振周波数fr2が増加して、加算周波数fpに近づくように、加振装置21の駆動を制御する。この接触状態においても、工具12は、加算周波数fpで振動される。
【0030】
これにより、
図2の二点鎖線で示すように、接触状態では、工具12を加算周波数fpで振動させると、非接触状態よりも切削エネルギーが高くなるが、第2共振周波数fr2よりも高い加算周波数fpで振動されるため、第2共振周波数fr2で工具12を振動させた場合に比べて、切削エネルギーを低くすることができる。
【0031】
制御装置20は、工具12により対象物を切削可能な負荷で工具12が対象物に接触している切削状態では、該切削状態での工具12の第3共振周波数fr3が増加して、加算周波数fpに一致するように、加振装置21の駆動を制御する(切削工程)。この切削状態においても、工具12は、加算周波数fpで振動される。本実施形態では、所定周波数fsは、第3共振周波数fr3が加算周波数fpに一致するような周波数が設定される。なお、上記一致に限らず、第3共振周波数fr3が加算周波数fpに近づくようにすればよい。
【0032】
これにより、
図2の実線で示すように、切削状態では、工具12を第3共振周波数fr3(加算周波数fp)で振動させることができるので、高い切削エネルギーで対象物を切削することができ、切削効率が高い。
【0033】
なお、所定周波数fsを術者によって設定可能にしてもよい。例えば、切削時に工具12を対象物に押し付ける力が強い術者は、所定周波数fsを閾値よりも高くし、切削時に工具12を対象物に押し付ける力が弱い術者は、所定周波数fsを閾値よりも低くする。これにより、術者のタイプに応じた適切な所定周波数にすることができる。
【0034】
本実施形態では、接触状態と切削状態との間では、工具12が対象物に接触している負荷の増加に応じて、工具12の共振周波数が増加するように、加振装置21の駆動を制御する。すなわち、術者が加える力(工具12を対象物に押し付ける力)の増加に応じて、切削エネルギーが増加する。
【0035】
従来、工具12として、例えばボーンキュレットを使用するものでは、術者の力加減で骨(対象物)の切削量をコントロールしている。本実施形態では、術者が加える力加減に応じて切削エネルギー(発振パワー)も上がることから、これまでの術者感覚を活かしながら、かつ加える力は小さくすることができ、繊細な作業をストレスなくサポートすることができる。
【0036】
また、内視鏡を用いて術野を確保しながら、対象物(骨)を水中で切削する場合には、工具12の切削エネルギーが高いと、工具12の周りの水が大きく揺らされ、水流で骨粉や軟組織が揺らされるため、内視鏡の視野の妨げとなるが、本実施形態によれば、骨を削る直前まで、切削エネルギーが抑制されることで作業性が向上する。
【0037】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はこのような実施形態により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0038】
例えば、上記実施形態では、非接触状態での工具12の第1共振周波数fr1を検出装置により検出しているが、複数種類の工具12毎の第1共振周波数fr1を、予めメモリ(図示せず)に記憶し、制御装置20は、保持部材11の先端部に取り付けられた工具12の種類に応じてメモリから第1共振周波数fr1を読み出すようにしてもよい。
【0039】
この場合、ハンドピース型高周波振動装置は、工具12の種類を、術者に入力させるための入力インターフェースをさらに備える。入力インターフェースは、例えば、キーボード、タッチパネル式のボタンまたは操作ボタン等により構成される。
【符号の説明】
【0040】
10…ハウジング、11…保持部材、12…工具、20…制御装置、21…加振装置