(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、超音波深傷検査における標準試料の測定に関する技術が知られている(特許文献1参照)。この従来の技術における標準試料は個体であるとともに、非破壊検査を前提としている。すなわち、熱可塑性樹脂によって標準試料のホルダーを形成し、この樹脂内に標準試料となる人工欠陥形成用粒子を保持させる。人工欠陥形成粒子に超音波を照射することによってホルダーを破壊することなく標準試料の測定が可能である。
【0005】
しかし、本発明で対象とする標準試料は液体であるとともに、レーザーを用いた破壊測定を前提とする。仮に、従来の熱可塑性樹脂製のホルダーに液体の標準試料を注入した場合には、標準試料の上部が樹脂でカバーされる状態となる。すなわち、分析対象である鉱物とは異なる材料である樹脂にレーザーを照射することとなる。このような測定を基にした検量線は、樹脂の特性が表れてしまい、鉱物を対象とした分析には適さない。すなわち、分析対象の正確な分析が困難であるという問題があった。
【0006】
この発明は、鉱物の流体包有物を分析する際に好適な標準試料溶液用の試料ホルダーの固定具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、レーザーによる鉱物の流体包有物分析に用いる標準試料溶液を保持する試料ホルダーの固定具であって、
前記試料ホルダーは、前記鉱物の主要構成元素と同一の材料によって構成される円柱形のベース部およびカバー部を含み、前記ベース部は、その上面から下面へ向かって延びるとともに、前記標準試料溶液が注入可能な柱状穴を備え、前記柱状穴は前記上面に平行な断面積がその深さ方向において等しく、前記カバー部は、前記柱状穴を塞いで前記上面に接触可能であり、前記試料ホルダーの少なくとも上部
を収納可能な第1部材と、少なくとも下部
を収納可能な第2部材と、前記第1部材および前記第2部材とを互いに連結する締結部材とを備え、前記第1部材には前記
カバー部の少なくとも一部を露出させる第1開口が設けられ
、前記第1開口は前記柱状穴に対応することを特徴とする。
このような固定具によれば、試料ホルダーへの標準試料溶液の注入から固定までを移動させることなくできるため、試料ホルダー中の標準試料溶液をこぼすことなく、試料ホルダーを固定することができる。
【0008】
前記第1部材は、前記試料ホルダーを保持する第1スペースが設けられた第1スペース部と、前記
第1スペース部に隣接するとともに前記第1開口が設けられた第1開口部とを備え、前記第1開口の径は、前記スペースよりも小さく、これら第1開口および第1スペースによって第1段部が形成され、
前記第2部材は、前記試料ホルダーを保持する第2スペースが設けられた第2スペース部と、前記第2スペース部に隣接するとともに第2開口が設けられた第2開口部とを備え、前記第2開口の径は、前記第2スペースよりも小さく、これら第2開口および前記スペースによって第2段部が形成され、
前記第1スペースおよび前記第2スペースによって前記試料ホルダーを保持するとともに、前記第1段部に前記ホルダーの上部が当接し、前記第2段部に前記ホルダーの下部が当接することを特徴とするものであってもよい。
この固定具によれば、第2開口を設けることで、第2開口を介して透過光による試料ホルダーの観察が可能となり、レーザーと試料ホルダーの位置合わせを容易にする。
【発明の効果】
【0009】
この発明の実施形態によれば、固定具において第1開口を設けるので、試料ホルダーの上部を露出させることができ、この第1開口を介してレーザーを直接試料ホルダーに照射することができる。また、試料ホルダー中の標準試料溶液をこぼすことなく、試料ホルダーを固定することができる。したがって、分析対象の正確な分析が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この実施形態で用いるレーザーアブレーション装置で分析対象の表面にレーザーを照射するとともに分析対象に含まれる元素をサンプリングし、このレーザーアブレーション装置に接続された質量分析計でサンプリングした元素を測定する。この実施形態において、流体包有物を有する鉱物を分析対象とし、流体包有物に含まれる元素の種類および量を分析することを目的とする。具体的には、鉱物にレーザーを照射することによってその一部を切削し、流体包有物に直接レーザーを照射し、流体をガス化または微細な液滴化し、それを質量分析計に運搬することで含有元素を測定する。
【0012】
鉱物の流体包有物の元素を分析するにあたり、任意の標準試料溶液を測定し、測定結果から検量線を作成する。流体包有物の測定結果を検量線と対比することによって流体包有物に含まれる元素の量を特定することができる。流体包有物は、鉱物の中でも石英に含まれることが多いことから、この実施形態においては、石英を主成分とする鉱物を対象として選定する。
【0013】
図1および
図2を参照すれば、標準試料溶液を注入するための試料ホルダー1は、固定具2に固定して、図示しないレーザーアブレーション装置にセットされる。
【0014】
図3をあわせて参照すれば、試料ホルダー1は、ベース部11とカバー部12とを備え、ベース部11によって下部1Bを構成し、カバー部12によって上部1Aを構成する。これらベース部11およびカバー部12は、分析対象の鉱物の主要構成元素と同一の石英ガラスによって形成される。ベース部11は、円柱形であり、その直径は約15mm、厚さ約8mmである。ベース部11にはその上面11Aから下面11Bに向かう柱状穴13が、上面11Aのほぼ中央部分に複数設けられる。この実施形態において柱状穴13は、その径が小さい小径穴14と、小径穴14よりも径の大きい大径穴15とを備える。
【0015】
図4を参照すれば、小径穴14および大径穴15は、上面11Aに位置する開口面14Aおよび15Aと、これに対向する底面14Bおよび15Bとをそれぞれ備えるとともに、これら開口面14Aおよび15Aと、底面14Bおよび15Bは、それぞれ円形を有する。小径穴14において、開口面14Aと底面14Bとの面積はほぼ等しく、かつほぼ平行である。したがって、小径穴14は、全体として円柱状であるとともにその中心線は垂直に延びる。また、上面11Aすなわち開口面14Aに平行な断面積は、その深さ方向においてほぼ等しい。同様に、大径穴15においても、開口面15Aと底面15Bとの面積はほぼ等しく、かつほぼ平行である。したがって、大径穴15は、全体として円柱状であるとともにその中心線は垂直に延びる。また、上面11Aすなわち開口面15Aに平行な
断面積は、その深さ方向においてほぼ等しい。
【0016】
この実施形態において、小径穴14の径は約20μmであり、深さ約40μmである。大径穴15の径は約150μmであり、深さは約80μmある。なお、柱状穴13の径および深さはここに例示した寸法に限定されるものではなく、適宜変更可能である。分析に用いるレーザーの種類に応じて変更することもできる。また、柱状穴13の径を円形とすることによって、略円形のレーザーの照射に対応させることができる。
【0017】
柱状穴13は、この実施形態のように複数設けることもできるし、一か所のみ設けることができる。複数の柱状穴13を設けた場合には、例えば同一種類の標準試料溶液を柱状穴13に注入しておくことによって、都度標準試料溶液を試料ホルダー1に注入する必要がなく、作業の簡略化を図ることができる。また、異なる径の柱状穴13を設けてもよいし、同じ径の柱状穴13を複数設けてもよい。例えば、分析によってレーザーの径が異なる場合には、異なる径の柱状穴13を備えていた方が、レーザーに対応する柱状穴13を選択することができ、より精度の高い分析が可能となる。
【0018】
柱状穴13は上面11Aから下面11Bへと貫通して設けられていてもよい。柱状穴13が貫通している場合には、下面11Bにおいてこれを塞ぐためのプレート等を別途設ける。このようにプレート等を設けた場合には、柱状穴13の底面はプレート等によって画定される。上記のような柱状穴13は、例えばレーザー加工によって、ベース部11を切削することによって形成することができる。
【0019】
カバー部12は、円柱形であり、その直径は約15mm、厚さ約0.2mmである。カバー部12をベース部11の上面11Aに積層させることによって、小径穴14の開口面14Aおよび大径穴15の開口面15Aを塞ぐことができる。
【0020】
図1および
図2を再び参照すれば、固定具2は、第1部材21と第2部材22とを備え、第1部材21が試料ホルダー1の上部1Aに当接可能であり、第2部材22が試料ホルダー1の下部1Bに当接可能である。第1部材21および第2部材22は、例えばステンレス製とすることができる。
【0021】
第1部材21は、上部1A側に当接するとともに、試料ホルダー1の直径よりも小さい第1開口23Aをその中央部に備える第1開口部23と、第1開口部23よりも大きい直径を有する第1スペース24Aをその中央に備える第1スペース部24とを有する。第1スペース24Aの直径は、試料ホルダー1の直径よりもやや大きく、後述する第2スペース26Aとともに試料ホルダー1の保持スペースを形成する。また、第1開口23Aと第1スペース24Aとの間には、第1段部23Bが設けられ、第1段部23Bが試料ホルダー1の上部1Aに当接可能となる。第1開口部23および第1スペース部24は別部材からなるとともに、それぞれ環状の板状部材であり、それらを積層することによって第1部材21を構成する。
【0022】
この実施形態において、第1開口部23および第1スペース部24の外径は、それぞれ約25mmである。第1開口23Aの直径は約10mm、厚さ方向における寸法は約1mmである。第1スペース24Aの直径は約16mm、厚さ方向における寸法は約4mmである。第1開口部23の厚さ方向における寸法は、可能な限り小さい方がよい。固定具2をレーザーアブレーション装置に載せたときに、レーザーと試料ホルダー1との距離をなるべく近くして焦点を合わせやすくするためである。
【0023】
第2部材22は、下部1Bに当接するとともに、試料ホルダー1の直径よりも小さい第2開口25Aをその中央部に備える第2開口部25と、第2開口部25よりも大きい直径の第2スペース26Aをその中央部に備える第2スペース部26とを有する。第2スペース26Aの直径は、試料ホルダー1よりもやや大きく、第1スペース24Aとともに試料ホルダー1の保持スペースを形成する。また、第2開口25Aと第2スペース26Aとの間には、第2段部25Bが設けられ、第2段部25Bが試料ホルダー1の下部1Bに当接可能となる。第2開口部25および第2スペース部26は、一体的に形成されている。
【0024】
第2開口部25および第2スペース部26の外径は約25mm、第2開口25Aの直径は約10mm、厚さ方向における寸法は約2mmである。第2スペース26Aの直径は約16mm、厚さ方向における寸法は約3mmである。
【0025】
第1スペース部24の厚さ方向における寸法と、第2スペース部26における厚さ方向における寸法との和は、試料ホルダー1の厚さ方向における寸法よりも小さくなるようにしている。
【0026】
上記のような構成において、固定具の第1部材21と第2部材22とは第1スペース部24と第2スペース部26が互いに対向するように組み合わされ、これらによって形成された空洞に試料ホルダー1を収納することができる。
【0027】
固定具2の第1部材21および第2部材22は、第1締結部材27によって互いに連結される。この実施形態において、第1締結部材27は3つ設けられ、固定具2の上面においてそれぞれの離間寸法が等しい。第1締結部材27として、具体的にはねじを用いることができる。第1締結部材27が挿入される第1部材21には、ねじの直径よりも大きい貫通孔が設けられ、第2部材22にはねじ穴が形成される。第1締結部材27として用いるねじは、第1部材21を貫通し第2部材22においてねじによる締め付けが可能な長さである。
【0028】
この実施形態において第1部材21の第1開口部23と第1スペース部24とはそれぞれ別の部材からなり、第2締結部材28によって互いに連結される。第2締結部材28としてねじを用いることができ、その長さは第1開口部23を貫通して第1スペース部24に到達する程度である。したがって、第2締結部材28の長さは、第1締結部材27の長さよりも短い。第2締結部材28は、3つ設けられ、固定具2の上面において第1締結部材27の間に配置されるとともに、それぞれの離間寸法が等しい。
【0029】
上記のような構成において、固定具2の第2部材22の第2スペース26Aに試料ホルダー1のベース部11を嵌める。ベース部11は第2段部25Bによって支持される。第2部材22に支持されたベース部11の柱状穴13に標準試料溶液を注入し、カバー部12で柱状穴13に蓋をする。このとき、柱状穴13の中に空気が混入しないようにカバー部12をベース部11に載せる。次いで、第2スペース部26と第1スペース部24とを対向させるように第1部材21を第2部材22に載せる。なお、第1部材21において、第1開口部23と第1スペース部24とを予め第2締結部材28で連結しておく。このように第1部材21をカバー部12に載せると、第1段部23Bがカバー部12に当接する。第2部材22に第1部材21を載せたら、第1締結部材27でこれらを互いに連結する。
【0030】
上記のような固定具2において、標準試料溶液の注入からカバー部12の固定までをベース部11を移動させることなくできるので、ベース部11の移動によって標準試料溶液がこぼれてしまうのを予防することができる。
第1締結部材27を締めることによって、第1部材21と第2部材22とを連結することができる。したがって、第1部材21と第2部材22との間に配置された試料ホルダー1を確実に支持することができる。
【0031】
この実施形態において、第1スペース部24と第2スペース部26との厚さ方向における寸法の和は、試料ホルダー1の厚さ方向における寸法よりも小さくなるようにしている。したがって、第1締結部材27を適度に締め付け、第1部材21および第2部材22と試料ホルダー1とを圧接させることによって、厚さ方向における試料ホルダー1のがたつきを抑えることができる。また、試料ホルダー1を厚さ方向に圧接することができるので、ベース部11とカバー部12とを密着させることができる。このように固定具2に保持された試料ホルダー1において、その中央部分に設けられた柱状穴13は、固定具2の中央部分に設けられた各開口23A,24A,25A,26Aに対応する位置に配置される。
【0032】
上記のような固定具2に保持された試料ホルダー1は、レーザーアブレーション装置を用いた分析に適用することができる。
この実施形態で用いるレーザーアブレーション装置において、試料は試料チャンバーに保持され分析される。試料チャンバーは、ガス導入系により高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS装置)またはICP発光分光分析装置(ICP−AES装置)に接続される。試料チャンバー内にはキャリアガスとしてヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、または窒素ガスが流れ、レーザーによりアブレートされた微粒子、ガスおよび微細な液滴がキャリアガスにより、ICP−MSまたはICP−AES装置へと供給され、化学分析がおこなわれる。
【0033】
固定具2に保持された試料ホルダー1をレーザーアブレーション装置の試料チャンバーにセットし、試料ホルダー1のカバー部12の上面にレーザーの焦点を合わせ、アブレートを開始する。このとき、レーザーが柱状穴13のいずれかに対応するように固定具2の位置合わせをおこなう。固定具2において第1開口23Aを設けるので、試料ホルダー1の上部1Aを露出させることができ、この第1開口23Aを介してレーザーを直接試料ホルダー1に照射することができる。また、第2開口25Aを設けることによって、下部1Bからの透過光による柱状穴13の観察が可能となり、レーザーと柱状穴13との位置合わせを容易とする。
【0034】
レーザーは設定された焦点範囲でカバー部12を掘削し、カバー部12を貫通すると、柱状穴13に保持された標準試料溶液に照射される。標準試料溶液は、レーザーにより気化または微細な液滴化し試料チャンバー内のキャリアガスとともにICP−MS装置またはICP−AES装置に導入され、化学分析がされる。
【0035】
ICP−MS装置またはIPC−AES装置において、質量分析部でベース部11を構成する石英ガラスの成分であるケイ素の値をモニターすることによって、レーザーがカバー部12を切削したこと、標準試料溶液に到達したこと、およびベース部11の柱状穴13の底部に到達したことを検出することができる。なお、分析は、レーザーが柱状穴13の底部に到達する前に終了してもよい。
【0036】
柱状穴13は、垂直方向に延びるとともに、開口面から底面においてその断面積がほぼ等しくされている。したがって、垂直に照射されるレーザーで柱状穴13の周囲のベース部11を切削したとしても、その切削される石英ガラスの量は経時的に一定であり、標準試料溶液の量も経時的に一定であるから、これらの割合を算出し補正するのは容易である。しかし、仮に柱状穴13の断面積が等しくない場合には、石英ガラスの切削量は一定にならず、測定された標準試料溶液との割合を算出することができない。したがって、このような場合には正確な検量線の作成が困難となる。
【0037】
この実施形態においてカバー部12の厚さ方向における寸法を約0.1mm〜0.5mmとすることができる。ただし、この寸法に限定されるものではなく、適宜変更可能である。しかし、カバー部12の厚さが薄すぎると、取扱いが困難となり、厚すぎると、切削に時間がかかりすぎるという問題がある。したがって、カバー部12の厚さは、取り扱いやすく、かつ、切削に時間がかかりすぎないことが必要となる。
【0038】
柱状穴13の深さ方向における寸法は、約10μm〜100μmとすることができ、分析対象の流体包有物の大きさに相当する大きさを選択することができる。また、柱状穴13の直径は、約20〜150μmとすることができる。望ましくは照射するレーザー直径に約5μm加えた直径とする。柱状穴13の直径が妄りに大きくなると、分析対象の流体包有物と大きさがかけ離れることとなり、標準試料測定時の特性と分析対象測定時の特性が異なることとなる。また、柱状穴13の直径が約20μmよりも小さくなると、標準試料溶液を注入しにくくなる虞があるので、注入作業に適した大きさとすることが望ましい。
【0039】
ベース部11およびカバー部12として石英ガラスを用いているが、これに限定されるものではない。例えば、鉱物としてオリビンやコランダムを用いることもでき、このような場合には、それぞれの鉱物の主要構成元素と同一の材料によって試料ホルダー1を構成する。このように主要構成元素と同じ材料で構成することによって、標準試料溶液測定時の特性と、分析対象測定時の特性とを近似させることができ、より正確な分析結果を得ることができる。
【0040】
この実施形態において、レーザーアブレーション装置に試料ホルダー1および固定具2を適用しているが、レーザー・ラマン分光分析装置にも適用することができる。