特許第6873547号(P6873547)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873547
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】車体の防音構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/10 20060101AFI20210510BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   B62D25/10 G
   G10K11/16 120
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-56447(P2017-56447)
(22)【出願日】2017年3月22日
(65)【公開番号】特開2018-158635(P2018-158635A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2020年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154782
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 知二
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】川島 眞也
【審査官】 立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭60−027736(JP,Y2)
【文献】 特開2003−252246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/10
G10K 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体を構成するパネルと、
前記パネルに固定されるサイレンサとを備え、
前記パネル上には、前記パネルの輪郭に沿って形成された枠体部を有するビードが形成されており、
前記サイレンサと前記パネルとは、前記ビードを介して、互いの表面が前記ビード以外の部分で離隔してなる空間を形成するよう接合されており、
前記パネルには、前記枠体部により形成される内部空間と外部とを連通させる間隙が、前記枠体部の凹凸形状により形成されている、
車体の防音構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車その他車両の車体の防音構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、自動車のエンジンフードの構成を示す底面図である。図6に示すように、エンジンフード100は、フードアウターパネル111と、フードインナーパネル112と、フードインシュレータ113とを主要な構成として備える。フードインナーパネル112は、フードアウターパネル111の周縁部の内側に接合されてフードアウターパネル111の平面方向の剛性を主に確保する。
【0003】
また、フードインシュレータ113は、熱硬化性樹脂バインダーを含有する材料製であって、フードインナーパネル112にクリップ固定される主骨相当部113aとフードアウターパネル111に接合される枝骨相当部113bにおいて熱硬化性樹脂バインダーが増量されて高度が高められるとともに、吸音部113cは熱硬化性樹脂バインダーがより低い割合で含有され、エンジンルームの音を遮音する作用を有する(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−54079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術によるエンジンフードにおいては、以下のような課題があった。すなわち、従来のエンジンフード100においては、フードインシュレータ113は、エンジンフードの剛性向上と吸音効果とを両立すべく、材料の組成及び形状がフードアウターパネル111及びフードインナーパネル112の形状に対応して部位毎に異なることとなっており、これは製造工程の複雑化、高コスト化を招くこととなっていた。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、簡易な構成にてエンジンフードに例示される車体の防音性能を向上させることが可能な車体の防音構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の側面は、車体を構成するパネルと、前記パネルに固定されるサイレンサとを備え、前記パネル上には、前記パネルの輪郭に沿って形成された枠体部を有するビードが形成されており、前記サイレンサと前記パネルとは、前記ビードを介して、互いの表面が前記ビード以外の部分で離隔してなる空間を形成するよう接合されており、前記パネルには、前記枠体部により形成される内部空間と外部とを連通させる間隙が、前記枠体部の凹凸形状により形成されている、車体の防音構造である。
【0008】
更に、本発明は、他の側面として、前記パネルはフードパネル及び前記フードパネルに接合されるフードインナを有する車両のエンジンフードであって、前記ビードは前記フードインナにより、少なくとも前記車体の前後方向に沿って形成され、前記間隙は前記車両の後方側に設けられているものとしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
以上のような本発明は、簡易な構成にて車体の防音性能を向上させることが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る車体の防音構造の構成を示す裏面図
図2図2のA−A直線による断面図
図3】本発明の他の実施の形態に係る車体の防音構造の構成を示す断面図
図4】本発明の他の実施の形態に係る車体の防音構造の構成を示す断面図
図5】本発明の他の実施の形態に係る車体の防音構造の構成を示す断面図
図6】従来のエンジンフードの構成を示す裏面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る車体の防音構造を含むエンジンフード1の構成を示す裏面図であり、図2は、図1のA−A直線による断面図である。
【0013】
各図に示すように、エンジンフード1は、フードパネル10と、フードインナ20と、サイレンサ30とを主要な構成として備える。
【0014】
フードパネル10は鋼製の平板の部材であって、図1に示すように、車両のエンジンルームの開口の輪郭に対応した平面形状を有するとともに、図2に示すように車長方向にそって緩やかな凸に湾曲して、裏面10a及び表面10bに起伏を持たない一様な断面を有する。
【0015】
フードインナ20はフードパネル10と同一材料製の板状の部材であって、図1に示すように、フードパネル10の輪郭に沿って形成された枠体部20a1及び、フードパネル10の中央を挟んで対向する枠体部20a1の間を、車長方向に沿って横断してなる桟部20a2とを含む本体部20aと、本体部20aの周縁からフードパネル10の裏面10aに正対して外向きに延出するフランジ部20b及び内向きに延出するフランジ部20cとに区画される。
【0016】
フードパネル10とフードインナ20は、裏面10aとフランジ部20b及びフランジ部20cとが接合することに一体化し、図2に示すように、本体部20a及びフードパネル10が、閉断面20xに例示される断面形状略台形の閉断面を形成する。
【0017】
サイレンサ30は、硝子繊維、不織布、織布、発泡樹脂及びこれらの積層体等を材料として吸音性を備えた平板状の部材であって、フードインナ20の枠体部20a1に対応した輪郭を有し、本体部20aをなす枠体部20a1及び桟部20a2の表面に接合されて、フードパネル10の裏面10aと離隔して配置される。これにより、図2に示すように、フードパネル10において裏面10aのフードインナ20のフランジ部20cに囲まれた部分はフードインナ20の本体部20a及びサイレンサ30にて遮蔽され、内部空間Lを形成する。
【0018】
更に、フードインナ20の枠体部20a1において、車長方向後方に位置して車両のカウルに隣接する側は、内部空間Lの個数に対応して各々の一部が切りかかれることにより、フランジ部20b及び20cと略同一高となる、平面形状矩形の平板状のフランジ部20dが形成される。フランジ部20dは両端に本体部20aの側面をなす側壁21、及びサイレンサ30とともに、内部空間Lと外部とを連通させる開口部Oを形成する。ここで開口部Oは、フランジ部20dの平面形状に対応して、車幅方向に沿って等幅を保ちつつ車長方向に沿って延出する矩形状の平面形状を有するとともに、フランジ部20d及びサイレンサ30の断面形状に対応して、車高方向に沿って等高を保ちつつ車長方向に沿って延出する断面形状を有する。
【0019】
以上の構成において、フードパネル10及びフードインナ20の組合せは本発明のパネルに相当し、サイレンサ30は本発明のサイレンサに相当する。フードインナ20の本体部20aは本発明のビードに相当し、内部空間Lは本発明の空間に、開口部Oを形成するフランジ部20d及び本体部20aの側壁21の組合せは、本発明の間隙に相当する。
【0020】
本発明の実施の形態の車体の防音構造を含むエンジンフード1は、以上のような構成を備えたことにより、サイレンサ30の表面における吸音に加えて、開口部Oを介して導入される騒音を内部空間Lにて反響、吸音させて、サイレンサ30単体以上の吸音性能を獲得している。更に、開口部Oは、エンジンフード1のフードパネル10及びフードインナ20の形状として容易な加工により構成され、サイレンサ30の材料、形状等を単純化した態様にて得ることができる。更に、開口部Oを構成するためにサイレンサ30の面積を削減する必要が無く、サイレンサ30自体の吸音性能の低下を抑止することができる。
【0021】
したがって、簡易な構成にて車体の防音性能を向上させることが可能になる。
【0022】
更に、本実施の形態においては、フードインナ20の本体部20aの一部を切り欠いて構成されたフランジ部20dに基づく開口部Oを、エンジンフード1の車長方向に沿って後方に設けたことにより、以下の効果を奏する。すなわち、エンジンフード1はフードパネル10及びフードインナ20の接合により、周縁に断面形状略台形の閉断面を形成して剛性が高められているところ、フランジ部20dにより切りかかれた部分は平板の接合面として形成され、他の部分より剛性が低下している。これにより、開口部Oは応力が加えられたときの構造断点として働き、エンジンフード1の変形の向きや程度を制御して、車両の衝突時等における歩行者の安全性を高めることが可能となる。
【0023】
更に、本実施の形態においては、開口部Oを、エンジンフード1の車長方向に沿って後方に設けたことにより、エンジンルームより車長方向後方に位置する車室内側に伝達する騒音を低減することが可能となる。
【0024】
更に、本実施の形態においては、開口部Oを、エンジンフード1の車長方向に沿って後方に設けたことにより、車両の進行方向に対して後方に位置することとなり、走行時の雨水、雪等の侵入の恐れが軽減される。
【0025】
以上のように、本実施の形態の車体の防音構造を含むエンジンフード1によれば、簡易な構成にて車体の防音性能を向上させることが可能になる。
【0026】
しかしながら、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。上記の説明においては、開口部Oはエンジンフード1の車長方向に沿って後方に設けるものとしたが、エンジンフード1の任意の方向において設けることとしてもよい。また、開口部Oはフードパネル10においてフードインナ20のフランジ部20cに囲まれた、フードインナ20の本体部20a及びサイレンサ30にて遮蔽されてなる内部空間Lに対して1つ設けるものとしたが、任意の個数設ける構成としてもよい。
【0027】
更に、上記の説明においては、開口部Oは、平面形状矩形のフランジ部20dに対応して、車幅方向に沿って等幅を保ちつつ車長方向に沿って延出する矩形状の平面形状を有するものとしたが、図3に示すエンジンフード2におけるように、フランジ部20dの形状を、外部と連通する外側開口O1及び内部空間Lと連通する内側開口O2の近傍にて開く向きに湾曲させた態様としてもよい。これにより、外側開口O2から導入される空気の流れ、及び内側開口O1から内部空間Lに導入される空気の流れがそれぞれ滑らかに整えられ、空気導入時の損失を軽減して、内部空間Lを形成したことによる吸音効果を更に向上させることが可能となる。更に、外側開口O1又は内側開口O2のいずれか一方のみを湾曲させるようにしてもよい。
【0028】
更に、上記の説明においては、開口部Oは、フランジ部20d及びサイレンサ30の断面形状に対応して、車高方向に沿って等高を保ちつつ車長方向に沿って延出する断面形状を有するものとしたが、図4に示すエンジンフード3におけるように、外部寄りにてサイレンサ30に近接するとともに内部空間L寄りにてサイレンサ30から離間するよう高さが変化する曲面又は平面状の斜面を含む、断面形状くさび形のフランジ部20eを形成するようにしてもよい。これにより、開口部Oを介して導入される空気を、図示しないダッシュパネルから車高方向に沿って滑らかに導入させることができ、内部空間Lを形成したことによる吸音効果を更に向上させることが可能となる。
【0029】
更に、上記の説明においては、本実施の形態の車体の防音構造は、フードパネル10及びフードインナ20を接合してなるエンジンフード1にて実施するものとしたが、本発明は、サイレンサとパネルとが、パネル上に形成されたビードを介して、互いの表面がビード以外の部分で離隔してなる空間を形成するよう接合された構成において実施されればよく、パネルの具体的な構成、用途、機能等によって限定されるものではない。
【0030】
例として、図5に示すエンジンフード4においては、裏面40a及び表面40bを有する一枚のパネル40において、周縁に裏面40a側から突出する横断面形状略台形のビード40a1を形成し、ビード40a1にサイレンサ30を接合して内部空間Lを形成するとともに、ビード40a1の下方に切り欠きとしての一対の側壁41を設け、側壁41を介して裏面40aをパネル40の下端まで延伸させることにより、内部空間Lと連通する開口部Oを形成している。
【0031】
更に、本発明のパネルは、車両のエンジンフードの他、サイドパネル、ルーフパネル、トリム等、車両の任意の部位にて実施するものとしてもよい。
【0032】
以上のように、本発明は、車体の防音構造であって、本発明の側面は、車体を構成するパネルと、前記パネルに固定されるサイレンサとを備え、前記パネル上には、前記パネルの輪郭に沿って形成された枠体部を有するビードが形成されており、前記サイレンサと前記パネルとは、前記ビードを介して、互いの表面が前記ビード以外の部分で離隔してなる空間を形成するよう接合されており、前記パネルには、前記枠体部により形成される内部空間と外部とを連通させる間隙が、前記枠体部の凹凸形状により形成されているものであればよく、その他の具体的な目的、用途、構成によって限定されるものではない。
【0033】
したがって、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内であれば、以上説明したものを含め、上記実施の形態に種々の変更を加えたものとして実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のような本発明は、簡易な構成にて車体の防音性能を向上させることが可能になるという効果を有し、例えば自動車のエンジンフードへの適用において有用である。
【符号の説明】
【0035】
1〜4 エンジンフード
10 フードパネル
20 フードインナ
20a 本体部
20a1 枠体部
20b、20c、20d、20e フランジ部
20a2 桟部
20x 閉断面
21、22、41 側壁
30 サイレンサ
40 パネル
10a、40a 裏面
10b、40b 表面
40a1 ビード
図1
図2
図3
図4
図5
図6