(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施例1]
以下、本発明の実施例1の構成について、
図1〜
図2を参照しながら説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施例1の遊星歯車変速機構の構成を示すスケルトン図であり、
図2の(a)は、
図1のA―A断面概略図であり、
図2の(b)は、
図1のB−B断面概略図である。
図1、
図2により、遊星歯車変速機構の構成を説明する。
【0011】
図1に示すように、正逆転可能な駆動源としての電動モータ1は、入力軸としての電動モータ出力軸2を備えている。
なお、電動モータ出力軸2の回転方向は、矢視Dからみて、時計回りの回転gを正回転、反時計回りの回転fを逆回転とする。
電動モータ出力軸2は、第1ワンウェイクラッチOWC1を介して、遊星歯車の一要素としてのサンギヤSと連結するとともに、ドック歯10a、10bを備え、図示左右方向に移動可能なギヤセレクタ10に軸方向移動可能で、回転方向は一体的に回転するように、スプライン結合されている。
また、サンギヤSには、ドック歯10bと噛合い可能な対向する位置にドック歯Saが設けられている。このドック歯10bとドック歯Saにより、第1ドッグクラッチDog1を構成する。
サンギヤSは、変速機ケースに固定された遊星歯車の一要素としてのキャリアCに回転自在に支持される複数のピニオンギヤPに、内側から噛合っている。
また、複数のピニオンギヤPの外側には遊星歯車の一要素としてのリングギヤRが噛合っている。このリングギヤRは、電動モータ出力軸2の軸方向(図示右方向)に一体的に階段状に形成された出力ギヤ11aを有する出力軸11を有している。
この出力軸11は、第2ワンウェイクラッチOWC2を介して、伝動軸9と連結している。
伝動軸9のギヤセレクタ10側には、ドック歯10aと噛合い可能な対向する位置にドック歯9aが形成されている。このドック歯9aとドック歯10aにより、第2ドッグクラッチDog2を構成する。
なお、ギヤセレクタ10は、図示しない電動アクチュエータに連結するシフター4により、第1ドッグクラッチDog1の締結位置と第2ドッグクラッチDog2の締結位置と中立位置の3位置に移動可能となっている。
さらに、出力軸11は、図示しない差動機構を内蔵するデフケース7のデフリングギヤ6と噛合い、左右の駆動輪に連結する駆動軸8a、8bに駆動力を伝達する。
【0012】
図2(a)により、第1ワンウェイクラッチOWC1、
図2(b)により、第2ワンウェイクラッチOWC2の作動を説明する。
【0013】
図2(a)に示すように、電動モータ出力軸2が反時計回りの逆回転(実線)を行うと、第1ワンウェイクラッチOWC1はロックし、サンギヤSを同一回転方向に回転することになる。
なお、電動モータ出力軸2が時計回りの正回転(破線)を行うと、第1ワンウェイクラッチOWC1はフリーとなり、サンギヤSへの回転伝達はできなくなる。
図2(b)に示すように、伝動軸9が時計回りの正回転(破線)を行うと、第2ワンウェイクラッチOWC2はロックし、出力軸11を同一回転方向に回転することになる。
なお、伝動軸9が反時計回りの逆回転(実線)を行うと、第2ワンウェイクラッチOWC2はフリーとなり、出力軸11への回転伝達はできなくなる。
【0014】
図3は、本発明の実施例1の締結作動表であり、
図4の(a)は、各変速段における遊星歯車要素の回転停止状態を示す速度線図であり、
図4の(b)は、実施例1の発電モードにおける遊星歯車要素の回転停止状態を示す速度線図である。
図3,
図4により、遊星歯車変速機構の作動を説明する。
【0015】
(前進1速)
図3、
図4(a)に示すように、前進1速時には、電動モータ1の電動モータ出力軸2は反時計回りの逆回転であり、第2ドッグクラッチDog2が締結し、第1ワンウェイクラッチOWC1はロックしている状態である。
駆動力の流れとしては、入力軸としての電動モータ出力軸2は反時計回りの逆回転をし、第1ワンウェイクラッチOWC1はロックしている状態なので、サンギヤSが同一の逆回転方向へ回転を行い、サンギヤSと噛合っている固定されているキャリアCに支持された複数のピニオンギヤPは正回転に回転し、リングギヤRすなわち出力軸11を同一の正回転方向へ回転させる。
さらに、この出力軸11の出力ギヤ11aと噛合っているデフリングギヤ6を反時計回りの逆回転方向に回転させて、駆動軸8a、8bを介して駆動輪に、前進方向の駆動力を伝達している。
【0016】
(前進2速)
図3、
図4(a)に示すように、前進2速時には、電動モータ1の電動モータ出力軸2は時計回りの正回転であり、第2ドッグクラッチDog2が締結し、第2ワンウェイクラッチOWC2はロックしている状態である。
駆動力の流れとしては、入力軸としての電動モータ出力軸2は時計回りの正回転をし、第1ワンウェイクラッチOWC1はフリーの状態なので、サンギヤSへの回転伝達は行われないので、電動モータ出力軸2とスプライン結合しているギヤセレクタ10を同一の正回転方向に回転させる。ここで、締結している第2ドッグクラッチDog2を介して、伝動軸9を同一の正回転方向に回転させる。
伝動軸9が正回転を行うため、第2ワンウェイクラッチOWC2はロックし、出力軸11を同一の正回転方向へ回転させる。
さらに、この出力軸11の出力ギヤ11aと噛合っているデフリングギヤ6を反時計回りの逆回転方向に回転させて、駆動軸8a、8bを介して駆動輪に、前進1速より小さい変速比で、前進方向の駆動力を伝達する。
このように、前進1速から前進2速への変速は、電動モータ1の電動モータ出力軸2の回転方向を変更するのみで、行うことができる。
【0017】
(後退)
図3、
図4(a)に示すように、後退時には、電動モータ1の電動モータ出力軸2は時計回りの正回転であり、第1ドッグクラッチDog1が締結している状態である。
駆動力の流れとしては、入力軸としての電動モータ出力軸2は時計回りの正回転をし、第1ワンウェイクラッチOWC1はフリーの状態なので、第1ワンウェイクラッチOWC1を介してのサンギヤSへの回転伝達は行われない。
そこで、電動モータ出力軸2とスプライン結合しているギヤセレクタ10を同一の正回転方向に回転させる。さらに、締結している第1ドッグクラッチDog1を介して、サンギヤSを同一の正回転方向に回転させる。
サンギヤSが正回転方向へ回転を行い、サンギヤSと噛合っている固定されているキャリアCに支持されている複数のピニオンギヤPは逆回転に回転し、リングギヤRすなわち出力軸11を同一の逆回転方向へ回転させる。
さらに、この出力軸11の出力ギヤ11aと噛合っているデフリングギヤ6を時計回りの正回転方向に回転させて、駆動軸8a、8bを介して駆動輪に、後退方向の駆動力を伝達する。
なお、前進方向と後退方向の切り替えは、車両停止状態で行うため、ドッグクラッチの切替えを行っても変速ショックへの影響は全くない。
【0018】
(発電モード)
山道や街中での低速走行のような加減速の多い走行の場合には、前進コースト時に後退時と同様の締結にすることにより、回生が可能となり、電費をよくすることができる。
図3、
図4(b)に示すように、前進コースト時の発電モード時には、後退時と同様の締結とする。
逆駆動力の流れとしては、駆動輪より駆動される駆動軸8a、8bは車両前進方向である反時計回りの逆転方向に回転され、デフリングギヤ6を反時計回りの逆転方向に回転させる。
つぎに、デフリングギヤ6と出力ギヤ11aを介して噛合っている出力軸11すなわち一体的に形成されたリングギヤRを時計回りの正転方向へ回転させる。
さらに、複数のピニオンギヤPを介して、サンギヤSを逆回転方向へ回転させ、さらに締結している第1ドッグクラッチDog1を介して、ギヤセレクタ10を逆回転方向へ回転させ、つぎに、スプライン結合している電動モータ出力軸2を逆回転方向へ回転させることにより、電動モータ1を発電機として作用させ、回生エネルギを電気として回収することができる。
なお、第1ワンウェイクラッチOWC1はフリーの状態である。
また、前進ドライブ状態になると、前進時の締結状態に戻すことになる。
【0019】
(前進1速の時の後退防止)
実施例1の遊星歯車変速機構には、登坂停止時の後退防止機能を備えている。
後退防止機能の作動を説明する。
締結状態は、前進1速の時と同一である。
まず、駆動輪が後退しようとすると、駆動軸8a、8bは時計回りの正回転方向へ回転しようとし、デフリングギヤ6を時計回りの正回転方向へ回転させようとし、まず、第1に出力軸11の出力ギヤ11aを介してリングギヤRを反時計回りの逆回転方向へ回転させようとして、複数のピニオンギヤPに力がかかる系統と、第2に、出力軸11が反時計回りの逆回転方向へ回転しようとすることで、第2ワンウェイクラッチOWC2がロックして、伝動軸9を反時計回りの逆回転方向へ回転させようとすることで、第2ドッグクラッチDog2、ギヤセレクタ10、電動モータ出力軸2、さらに第1ワンウェイクラッチOWC1がロックして、サンギヤSを反時計回りの逆回転方向へ回転させようとして、複数のピニオンギヤPに力がかかる系統が発生することにより、第1、第2の2系統の力により、固定されたキャリアCに支持された複数のピニオンギヤPはロックする。
このため、駆動輪すなわち、デフリングギヤ6が後退方向へ回転することを防止することができる。
【0020】
次に、作用効果を説明する。
実施例1の遊星歯車変速機構にあっては、以下に列挙する作用効果を奏する。
【0021】
(1)前進1速、2速および後退への変速が可能である。
よって、前進時における電動モータ2の効率の高い領域を使うことができ、後退段を備えるため、車両用としての適用も容易となる。
【0022】
(2)前進時の変速は、切替クラッチの切替えを必要とせず、駆動モータ1の回転方向を変更するだけで、1−2変速を行うことができる。
よって、シフター4を駆動する電動アクチュエータを作動するためのエネルギ損失がなくなり、変速機構システムの作動効率が高くなる。
【0023】
(3)1−2変速時に、リングギヤRは同一方向回転であり、サンギヤSはフリーになるため、遊星歯車の大きな回転イナーシャがかからない。
よって、変速速度が向上し、回転方向を変えるエネルギが小さくて済むため、電費をよくすることができる。
【0024】
(4)電動モータ1の回転方向を変化させることで前進時の変速比を変更し、第2ドッグクラッチDog2から、第1ドッグクラッチDog1への切替えにより、後退変速段へ切り替えるようにした。
よって、前進時には複雑な制御を行う必要がなく、後退時のドッグクラッチ切換えのショックも停止時のため、ショックの心配もないので、小型かつ軽量な変速機構を構成できる。
【0025】
(5)車両が前進コースト時には、第2ドッグクラッチDog2から、第1ドッグクラッチDog1への切替えにより、後退時と同様の締結に切り替えるようにした。
よって、回生エネルギを電気として回収することができ、電費をよくすることができる。
【0026】
(6)前進1速の時に、登坂で停止時の後退には、遊星歯車をロックするようにした。
よって、遊星歯車変速機構は、登坂停止時の後退防止が可能となる。
【0027】
[他の実施例]
以上、本発明を実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は実施例に示した構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
正逆転可能な駆動源として、実施例1では、電動モータにて説明したが、エアモータを使用してもよい。
また、実施例1では、切り替えクラッチとして、ドッグクラッチにて説明したが、湿式クラッチ等を用いてもよい。この場合、前進時の発電モードへのクラッチ切替えショックをより低減することができる。