(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態による鉄骨梁の耐火被覆構造および鉄骨梁の耐火被覆方法について、
図1乃至
図8に基づいて説明する。
図1および
図2に示すように、本実施形態による鉄骨梁の耐火被覆構造1Aは、上部にデッキプレート2が取り付けられた鉄骨梁3の耐火被覆構造で、鉄骨梁3がシート状の耐火被覆材4で被覆されている。なお、
図2では、耐火被覆材4の内側を示すため耐火被覆材4を一点鎖線で示している。
鉄骨梁3は、例えば、H形鋼で構成されていて、上部フランジ31の上にデッキプレート2が取り付けられている。鉄骨梁3が延びる方向を長さ方向とし、この長さ方向に直交する水平方向を幅方向とする。
【0015】
デッキプレート2は、上部フランジ31に取り付けられる平板状の平板部21と、平板部21の下側から突出する複数のリブ22,22…と、を有するフラットデッキで構成されている。本実施形態では、デッキプレート2は、リブ22,22…の延びる方向が鉄骨梁3の幅方向となる向きに配置されている。
デッキプレート2は、リブ22,22…が鉄骨梁3と干渉しないように、リブ22,22…の鉄骨梁側の端部が鉄骨梁3と離間するように配置されている。本実施形態では、リブ22,22…の鉄骨梁3側の端部と鉄骨梁3とは、40mm程度離間している。
【0016】
図1に示すように、デッキプレート2の平板部21のうち、鉄骨梁の幅方向一方側に配置されたリブ22,22…と鉄骨梁3側の端部と鉄骨梁3との間の部分を第1耐火被覆材固定部23とし、うち、鉄骨梁3の幅方向他方側に配置されたリブ22,22…の鉄骨梁3側の端部と鉄骨梁3との間の部分を第2耐火被覆材固定部24とする。
また、リブ22,22…の鉄骨梁3側の端部近傍は、下側の部分が鉄骨梁3側からと鉄骨梁3と離間する側に向かって漸次下側に向かうように傾斜している。このリブ22,22…の下面の傾斜している部分を傾斜部221,221…とする。
デッキプレート2の上部には、所定量の鉄筋(不図示)が配筋されてコンクリート6が打設されている。
【0017】
耐火被覆材4は、グラスウールやロックウールなどの耐火材を所定の厚さのシート状にした部材で、鉄骨梁3に巻きつけ可能に構成されている。本実施形態では、耐火被覆材4は、鉄骨梁3の長さ方向に隙間なく複数配列されている。
耐火被覆材4は、鉄骨梁3の幅方向一方の側方を覆う第1側部被覆部41と、鉄骨梁3の幅方向他方の側方を覆う第2側部被覆部42と、第1側部被覆部41および第2側部被覆部42それぞれの下端部と連続し鉄骨梁3の下部フランジ32の下面を覆う下部被覆部43と、第1側部被覆部41の上端部と連続しデッキプレート2の第1耐火被覆材固定部23に固定される第1固定部44と、第2側部被覆部42の上端部と連続しデッキプレート2の第2耐火被覆材固定部24に固定される第2固定部45と、を有している。
【0018】
第1側部被覆部41および第2側部被覆部42は、それぞれ鉄骨梁3の上部フランジ31の幅方向の端部と、下部フランジ32の幅方向の端部とを結ぶように上下方向に延びている。
第1固定部44は、第1側部被覆部41側が第1耐火被覆材固定部23と当接し、第1側部被覆部41と離間する側がリブ22,22…の傾斜部221,221…の下側に配置されている。
第2固定部45は、第2側部被覆部42側が第2耐火被覆材固定部24と当接し、第2側部被覆部42と離間する側がリブ22,22…の傾斜部221,221…の下側に配置されている。
【0019】
図1乃至
図3に示すように、固定具5Aは、デッキプレート2の第1耐火被覆材固定部23および第2耐火被覆材固定部24に上側から貫通されるネジ51と、ネジ51の径よりも大きく形成され、ネジ51に対して下側から挿通されてネジ51に係止される支持部材52Aと、を有している。
ネジ51は、デッキプレート2の第1耐火被覆材固定部23および第2耐火被覆材固定部24に上側から挿し込まれて、頭部511がデッキプレート2の上側に配置され、ネジ部512がデッキプレート2の下側に配置された状態でデッキプレート2に係止されている。
図3(a)に示すように、ネジ部512には、所定のピッチのネジ山513が形成されている。
支持部材52Aは、ネジ51の径よりも大きい例えば外形が30mm程度の円板状の板材521を加工した部材で、略中央部にネジ部512が挿通される孔部522が形成されているとともに、孔部522の径方向外側に形成されてネジ部512が係止可能な一対の被係止片523,523が形成されている。
【0020】
一対の被係止片523,523は、孔部522を挟むように配置されていて、板材521に孔部522の縁部から径方向外側に2つずつ切り込みを入れて、2つの切り込みの間の部分を一方の板面側に斜めに突出するように折り曲げることで形成されている。なお、支持部材52Aは、それぞれ板面が略上下方向を向き、一対の被係止片523,523がそれぞれ斜め下側に突出する向きに配置されている。
一対の被係止片523,523は、先端部が隣り合うネジ山513,513の間に入り込むことが可能に構成されている。
【0021】
支持部材52Aは、一対の被係止片523,523が斜め下側に突出していることにより、ネジ51が挿通された状態において、ネジ51に対して上側に向かう方向には一対の被係止片523,523のそれぞれの先端部がネジ山513と当たりつつも移動が許容され、ネジ51に対して下側に向かう方向には一対の被係止片523,523のそれぞれの先端部が隣り合うネジ山513,513の間に入り込んで移動が拘束されるように構成されている。
なお、支持部材52Aをネジ51から下側に移動させて外すには、ネジ山513に沿って支持部材52Aを螺旋状に回すことで外れるように構成されている。
【0022】
図1に戻り、このような固定具5Aは、デッキプレート2を貫通したネジ51にデッキプレート2の下側において耐火被覆材4が挿しこまれ、耐火被覆材4の下側からネジ51に支持部材52Aを挿し込んで支持部材52Aがネジ51に係止されて、支持部材52Aが耐火被覆材4を下側から支持することで、耐火被覆材4をデッキプレート2に固定している。
また、固定具5Aは、1つの耐火被覆材4に対して、第1耐火被覆材固定部23側に鉄骨梁3の長さ方向に間隔をあけて4つずつ配置され、第2耐火被覆材固定部24側に鉄骨梁3の長さ方向に間隔をあけて4つずつ配置されている。
【0023】
次に、本実施形態による鉄骨梁の耐火被覆方法について説明する。
まず、
図4に示すように、デッキプレート2にネジ51を挿し込むネジ設置工程を行う。
デッキプレート2の第1耐火被覆材固定部23および第2耐火被覆材固定部24に上側からネジ51を貫通させ、ネジ51の頭部511をデッキプレート2の上に配置させるとともにネジ部512がデッキプレート2の下側に配置させて、ネジ51をデッキプレート2に支持された状態とする。
【0024】
続いて、
図5に示すように、第1耐火被覆材固定部23を貫通したネジ51に耐火被覆材4の第1固定部44を挿し込む第1耐火被覆材挿し込み工程(耐火被覆材挿し込み工程)を行う。
デッキプレート2下側において、第1耐火被覆材固定部23を貫通したネジ51に耐火被覆材の第1固定部44を挿し込んでデッキプレート2に当接させる。このとき、第1側部被覆部41が鉄骨梁3の幅方向の一方側に配置された状態とする。
【0025】
続いて、
図6に示すように、第1固定部44が挿し込まれたネジ51に支持部材52Aを挿し込み、支持部材52Aで耐火被覆材4を支持する第1支持部材設置工程(支持部材設置工程)を行う。
支持部材52A側からネジ51に挿し込み、所定の高さに配置する。これにより、所定の高さにおいて支持部材52Aの一対の被係止片523,523がそれぞれ隣り合うネジ山513,513の間に入り込んで係止され、支持部材52Aの上側の耐火被覆材4が下方へ移動しないようにデッキプレート2に固定される。
【0026】
続いて、
図7に示すように、第1固定部44がデッキプレート2に固定された状態の耐火被覆材4で鉄骨梁3を巻き込み、耐火被覆材4の第2固定部45を第2耐火被覆材固定部24を貫通したネジ51に挿し込む第2耐火被覆材挿し込み工程(耐火被覆材挿し込み工程)を行う。
デッキプレート2の下側において、第2耐火被覆材固定部24を貫通したネジ51に耐火被覆材4の第2固定部45を挿し込んでデッキプレート2に当接させる。このとき、下部被覆部43が鉄骨梁3の下面に沿って配置され、第2側部被覆部42が鉄骨梁3の幅方向の他方側に配置された状態とする。
【0027】
続いて、
図8に示すように、第2固定部45が挿し込まれたネジ51に支持部材52A挿し込み、支持部材52Aで耐火被覆材4を支持する第2支持部材設置工程(支持部材設置工程)を行う。
支持部材52Aを下側からネジ51に挿し込み、所定の高さに配置する。これにより、所定の高さにおいて支持部材52Aの一対の被係止片523,523(
図3参照)がそれぞれ隣り合うネジ山513,513(
図3参照)の間に入り込んで係止され、支持部材52Aの上側の耐火被覆材4が下方へ移動しないようにデッキプレート2に固定される。
そして、耐火被覆材4の第1固定部44および第2固定部45がそれぞれデッキプレート2に固定されることで鉄骨梁3が耐火被覆材4に被覆される。
【0028】
続いて、
図9に示すように、デッキプレートの上部にコンクリート6を打設し、コンクリートスラブを構築するコンクリートスラブ構築工程を行う。
なお、コンクリートスラブ構築工程は、ネジ設置工程の後であれば鉄骨梁3に耐火被覆材4を被覆する前に行ってもよい。
【0029】
次に、本実施形態による鉄骨梁の耐火被覆構造および鉄骨梁の耐火被覆方法の作用・効果について図面を用いて説明する。
本実施形態による鉄骨梁の耐火被覆構造1Aでは、デッキプレートに支持されたネジ51に耐火被覆材4を挿し込み、耐火被覆材4の下側においてネジ51に支持部材52Aを係止させることで、耐火被覆材4が支持部材52Aに引っ掛かるようにして支持されるため、容易に耐火被覆材4をデッキプレート2に固定することができる。そして、耐火被覆材4が鉄骨梁3の側方においてデッキプレート2に固定されることにより、耐火被覆材4を溶接ピンなどで鉄骨梁3に直接固定する必要がないため、容易に鉄骨梁3を耐火被覆材4で被覆することができる。
【0030】
また、支持部材52Aをデッキプレート2係止されたネジ51に下側から挿通させ上側に移動させて所望の高さに配置すれば、支持部材52Aが下側に移動することがないため、ネジ51に対して支持部材52Aを容易に係止させることができて、容易に耐火被覆材4をデッキプレート2に固定することができる。
【0031】
次に、他の実施形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1実施形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
(第2実施形態)
図10(a)および(b)に示すように、第2実施形態による鉄骨梁の耐火被覆構造1Bでは、固定具5Bの支持部材52Bが、耐火被覆材4の下側においてネジ51に挿通可能に構成され、耐火被覆材4を下側から支持可能に構成された板部材525と、板部材525の下側においてネジ51に係止可能に構成され、板部材525を下側から支持可能に構成されたナット526を有している。
板部材525は、外径がネジ51の径よりも大きい例えば30mm程度で、略中央部に孔部が形成された円板状の部材で構成されている。板部材525には、第1実施形態の支持部材52Aのような被係止片523は形成されていない。
ナット526は、ネジ51のネジ部512に螺合可能で、ネジ部512の所望の位置に係止されるように構成されている。
【0032】
第2実施形態では、デッキプレート2の第1耐火被覆材固定部23および第2耐火被覆材固定部24に挿通されたネジ51にデッキプレート2の下側において耐火被覆材4が挿通され、耐火被覆材4の下側においてネジ51に板部材525が挿通され、その下側においてナット526がネジ部512に螺合して所望の高さに係止されている。
これにより、板部材525がナット526を介してネジ51に係止され、ネジ51に係止された板部材525によって耐火被覆材4がデッキプレート2に固定されている。
【0033】
第2実施形態による鉄骨梁の耐火被覆構造1Bでは、板部材525がネジ51に係止されたナット526によって支持されるため、耐火被覆材4を確実にデッキプレート2に固定することができる。
【0034】
(第3実施形態)
図11(a)および(b)に示すように、第3実施形態による鉄骨梁の耐火被覆構造1Cでは、固定部5Cの支持部材52Cがネジ51のネジ部512が螺合可能なネジ孔527を有する円板状に形成されている。
支持部材52Cは、例えば、外径がネジ51の径よりも大きい30mm程度で、厚さが3mm以上に形成され、略中央部にネジ孔527が形成されている。支持部材52Cは、ネジ51に挿通されて、ネジ孔527にネジ部512が螺合することにより、ネジ部51に係止されるように構成されている。また、支持部材52Cをネジ51に挿通した状態で回転させることで、支持部材52Cを所望の高さにおいてネジ部512に係止させることができる。
【0035】
第3実施形態では、デッキプレート2の第1耐火被覆材固定部23および第2耐火被覆材固定部24に挿通されたネジ51にデッキプレート2の下側において耐火被覆材4が挿通され、耐火被覆材4の下側においてネジ51に支持部材52Cが挿通されている。
これにより、支持部材52Cがネジ51に係止され、ネジ51に係止された支持部材52Cによって耐火被覆材4がデッキプレート2に固定されている。
【0036】
第3実施形態による鉄骨梁の耐火被覆構造1Cでは、支持部材52Cが確実かつ容易にネジ51に係止されるため、耐火被覆材4を確実かつ容易にデッキプレート2に固定することができる。
また、支持部材52Cを回転させることでネジ51に対する所望の位置に配置することができる。
【0037】
以上、本発明による鉄骨梁の耐火被覆構造の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、耐火被覆材4の第1固定部44および第2固定部45が固定具5A,5B,5Cによってデッキプレート2に固定されているが、
図12に示すように、第1固定部44および第2固定部45の一方のみ(
図12では第1固定部44)が固定具5A,5B,5Cでデッキプレート2に固定され、他方(
図12では第2固定部45)が柱や壁に固定具7などで固定されていてもよい。耐火被覆材4を柱や壁に固定する固定具7は、例えば、耐火被覆材4を貫通するとともに柱や壁に挿し込まれるネジ71と、ネジ71に係止されて耐火被覆材4を押さえる円板状の押さえ板72と、を有する形態としてもよい。
【0038】
また、上記の実施形態では、デッキプレート2は、平板部21と、平板部21から突出するリブ22,22…と、を有するフラットデッキプレートで構成されているが、リブ22,22…が形成されていない平板部21のみのデッキプレートで構成されていてもよい。また、
図13に示す鉄骨梁の耐火被覆構造1D、および
図14に示す鉄骨梁の耐火被覆構造1Eのように、凹凸が形成されたデッキプレート2A,2Bが設けられていてもよい。このような場合は、デッキプレート2A,2Bの凹凸の下側に凹んだ山下の部分26に固定具5A,5B,5Cのネジ51が貫通することが好ましい。
【0039】
また、上記の実施形態では、デッキプレート2は、リブ22,22…の延びる方向が鉄骨梁3の幅方向となる向きに配置されているが、リブ22,22…の延びる方向が鉄骨梁3の長さ方向となる向きに配置されていてもよい。
また、上記の実施形態では、固定具5A,5B,5Cは、1つの耐火被覆材4に対して、第1耐火被覆材固定部23側に鉄骨梁3の長さ方向に間隔をあけて4つ設けられ、第2耐火被覆材固定部24側に鉄骨梁3の長さ方向に間隔をあけて4つ設けられているが、1つの耐火被覆材4に対して設けられる固定具5A,5B,5Cの数は適宜設定されてよい。
また、上記の第1実施形態では、支持部材52Aに一対の被係止片523,523が形成されているが、形成される被係止片523の数は適宜設定されてよい。また、第1実施形態において、支持部材52Aが一対の被係止片523,523が形成された部材に代わって、ネジ51が挿通可能なプッシュナットなどの部材で構成されていてもよい。