特許第6873624号(P6873624)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873624
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】腸内環境改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/045 20060101AFI20210510BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20210510BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20210510BHJP
【FI】
   A61K31/045
   A61P1/00
   A23L33/10
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-153805(P2016-153805)
(22)【出願日】2016年8月4日
(65)【公開番号】特開2018-20981(P2018-20981A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲場 由美
【審査官】 深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−069317(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/208511(WO,A1)
【文献】 特開2001−269135(JP,A)
【文献】 特表2015−520176(JP,A)
【文献】 β−クリプトキサンチン高含有ミカンジュースが食餌誘導肥満マウスの炎症応答と盲腸内細菌叢に及ぼす影響の解析,日本農芸化学会大会講演要旨集,2016年 3月,Vol.2016,Page3E101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A23L 33/00−33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−クリプトキサンチンを含有する、腸内フローラにおけるエンテロタイプがバクテロイデス属の比率が高い人のための、プレボテラ属菌の腸内フローラ占有割合を高めるための組成物。
【請求項2】
医薬品組成物又は食品組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
粉末飲料又は顆粒飲料である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
野菜ゼリー又は野菜ジュースである、請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内環境改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、腸内細菌叢(腸内フローラ)と健康との関係について研究が進んでいる。特に、次世代シーケンサーを用いた研究により、腸内フローラを構成する菌種のバランスが崩れると、多様な疾患が引き起こされることが分かってきた。つまり、腸内フローラの菌種のバランスが健康維持に極めて重要であるとの知見が得られてきている。このため、菌そのもの、あるいは低分子化合物などを投与するなどして、腸内フローラの構成を変化させ、疾患を治療・予防したり、健康を維持しようとするという試みも始まっている。
【0003】
また、日常摂取する食事の内容によって腸内細菌のバランスが異なることが知られている。(i)脂肪分や動物性タンパクの多い食事を摂る人と、(ii)野菜中心で炭水化物の多い食事を摂る人とでは、腸内に存在する微生物の比率が異なることが分かっている。特に、前記(i)(ii)の人の腸内の特定の種の細菌の比率に基づくと、二つのカテゴリー(すなわち、エンテロタイプ:enterotype)に分けられる。具体的には、前記(i)の人ではバクテロイデス(Bacteroides)属の比率が高く、一方前記(ii)の人ではプレボテラ(Prevotella)属の比率が高い(非特許文献1)。
【0004】
さらには、地中海式食事のような野菜を中心とした食物繊維が多い食事は、腸内細菌叢に良い影響をもたらし、健康レベルを上げることも知られている。
【0005】
これらのことから、より健康的な生活を送るためには、腸内フローラにおいて、プレボテラ属の菌の占有比率を高め、腸内環境を改善することが重要と考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Gary D. Wu et. al., “Linking long−term dietary patterns with gut microbial enterotypes” Science 2011 Oct 7;334(6052):105−8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規な腸内環境改善方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、β−クリプトキサンチンが腸内フローラにおけるプレボテラ属の菌の比率を高めることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
β−クリプトキサンチンを含有する腸内環境改善用組成物。
項2.
β−クリプトキサンチンを含有する、プレボテラ属菌の腸内フローラ占有割合を高めるための組成物。
項3.
プレボテラ属菌の腸内フローラ占有割合を高めるための、項1に記載の組成物。
項4.
医薬品組成物又は食品組成物である、項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、健常者はもちろん腸内環境が優れない者であっても腸内環境を改善及び/又は良好に維持することができる。特に、本発明では、β−クリプトキサンチンが腸内フローラにおけるプレボテラ属の菌の比率を高めるため、プレボテラ属の菌の比率が比較的低い者(例えば脂肪分や動物性タンパクの多い食事を主に摂取する人)に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例において、各食餌を摂取したマウスの腸内フローラにおけるプレボテラ属の菌の占有比率(%)を示す。n=5、Dunnett検定による解析結果であり、**はp<0.01を示す。
図2】実施例の菌叢解析(T−RFLP解析)プロファイルに基づき、クラスター解析を実施した結果(デンドログラム)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に包含される組成物(例えば上記項1〜4に記載の組成物)は、腸内改善のために用いることができる。当該組成物は、β−クリプトキサンチンを含む。β−クリプトキサンチンは、例えばミカンやグレープフルーツなどの柑橘類に多く含まれる化合物であり、特に温州ミカンに多く含まれる。本発明に用いるβ−クリプトキサンチンは、特に制限はされず、例えば柑橘類(特に好ましくは温州ミカン)由来のものでもよいし、微生物から抽出されたものや合成品であってもよい。温州ミカンなどの柑橘類由来のものを用いる場合、柑橘類の抽出物や、柑橘類の酵素処理物などを用いることもできる。また、市販品を用いることもできる。例えば、「酵素処理温州ミカン」(株式会社ダイセル)、「クリプトベータ」(アークレイ株式会社)等が好ましく例示できる。
【0013】
組成物におけるβ−クリプトキサンチンの含有量は、本発明の効果が損なわれない限り特に制限されないが、例えば0.01〜100重量%が好ましく、0.1〜99重量%がさらに好ましい。
【0014】
本発明に係る組成物の摂取量は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に制限されない。例えば、含有されるβ−クリプトキサンチン量が、成人一日あたり、5μg〜64.8mg程度が好ましく、10μg〜10mg程度がより好ましく、15μg〜1mg程度がさらに好ましく、20μg〜500μg程度がよりさらに好ましく、25μg〜100μg程度が特に好ましい。
最も好ましい。
【0015】
また、本発明に係る組成物は、1回又は複数回(好ましくは2〜3回)に分けて摂取することができる。適用対象はヒトが好ましいが、ヒト以外の非ヒト哺乳動物であってもよい。適用対象が非ヒト哺乳動物(例えばペット又は家畜、より具体的には、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ニワトリ、ヒツジ等)の場合も、当該ヒトの投与又は摂取量を参考として適宜設定することができる。また、本発明に係る組成物の生体への適用方法は、腸に適用できれば特に制限されないが、経口又は経腸適用(つまり、経口組成物又は経腸組成物)であることが好ましく、経口で適用することがより好ましい。
【0016】
本発明に係る組成物を用いることで、上述の通り、健常者はもちろん腸内環境が優れない者であっても腸内環境を改善することができる。より具体的には、例えば、「おなかの調子を整える」、「腸内環境を改善する/整える」、「腸内環境を良好にする/良好に保つ」、「腸の調子を改善する/整える」、「腸内フローラ(腸内細菌叢)の菌のバランスを改善する/整える」、「腸内フローラ(腸内細菌叢)を良好にする/良好に保つ」、などの効果を期待して使用することが出来る。
【0017】
特に、本発明に係る組成物は、腸内フローラにおけるプレボテラ属の菌の比率を高める又は調整することができる。このため、プレボテラ属の菌の比率が比較的低い者(例えば、外食する機会が多い人、インスタント食品を食べる機会の多い人、脂肪分や動物性タンパクの多い食事を好む人、高脂肪及び高タンパク質の食事が気になる人、野菜や根菜など繊維質を多く含む食品が嫌いな人や食べる機会の少ない人)に特に好適である。
【0018】
本発明に係る組成物は、β−クリプトキサンチンを含み、さらに他の成分を含むことができる。
【0019】
例えば、上述したように、β−クリプトキサンチンとして柑橘類の抽出物や、柑橘類の酵素処理物などを用いる場合には、これらに含まれるβ−クリプトキサンチン以外の成分を当該他の成分として含むことができる。
【0020】
また、該他の成分として、当該組成物を用いる分野に応じて適宜公知の成分を選択して用いることもできる。例えば、薬学的又は食品衛生学的に許容される担体を用いることができる。
【0021】
本発明に係る組成物は、例えば医薬組成物、食品組成物(飲料組成物及び食品添加物組成物を包含する)として好ましく用いることができる。
【0022】
医薬組成物として用いる場合、他の成分としては、薬学的に許容される基剤、担体、及び/又は添加剤(例えば溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等)等が例示できる。また、当該医薬組成物の形態も特に制限されず、錠剤、タブレット剤、口中崩壊剤、丸剤、散剤、液剤、顆粒剤、カプセル剤等が例示できる。これらの形態の医薬製剤は、必要に応じて当該他の成分と、β−クリプトキサンチンを組み合わせて常法により調製することができる。
【0023】
食品組成物として用いる場合、他の成分としては、食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤や、その他食品として利用され得る成分・材料が例示できる。また、当該食品組成物の形態も特に制限されず、例えば加工食品、健康食品(栄養補助食品、栄養機能食品、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示商品等)、サプリメント、病者向け食品(病院食、病人食又は介護食等)等が例示できる。これらは常法により調製することができる。特に、健康食品(栄養補助食品、栄養機能食品、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示食品等)、又はサプリメントとして、食品組成物を調製する場合は、継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒、カプセル(ソフトカプセル、ハードカプセル、マルチカプセルなど)、タブレット、錠剤(チュアブル剤等を含む)、ゼリー(易崩壊ゲル/ゼリーを含む)、飲料(粉末/顆粒飲料、タブレット飲料、ドリンク剤等)等の形態で調製することが好ましく、なかでもカプセル、タブレット、錠剤、ゼリー、粉末/顆粒飲料、タブレット飲料、ドリンク剤の形態が摂取の簡便さの点からは好ましいが、特にこれらに限定されるものではない。なお、食品組成物の中でも食品添加物組成物として用いる場合には、その形態として、例えば液状、粉末状、フレーク状、顆粒状、ペースト状のものが挙げられる。より具体的には、調味料(醤油、ソース、ケチャップ、ドレッシング等)、フレーク(ふりかけ)、焼き肉のたれ、スパイス、ルーペースト(カレールーペースト等)等が例示できる。
【0024】
なお、上述の通り、(i)脂肪分や動物性タンパクの多い食事を摂る人と、(ii)野菜中心で炭水化物の多い食事を摂る人とでは、(i)の人では腸内フローラにおいてバクテロイデス(Bacteroides)属の比率が高く、一方(ii)の人では腸内フローラにおいてプレボテラ(Prevotella)属の比率が高いことから、プレボテラ属の菌の腸内フローラ占有率を高めるためには、野菜や炭水化物を多く摂取することも有効であると考えられる。よって、本発明の組成物においては、他の成分として、野菜や炭水化物を含むことも好適であり、特に食品組成物において野菜や米、麺類などの炭水化物を多く他の成分として含むことは好ましい。例えば、食品組成物がゼリーや飲料である場合には、本発明の食品組成物がβ−クリプトキサンチンを含む野菜ゼリーや野菜ジュースであることが中でも好適である。また例えば、β−クリプトキサンチンを含む野菜ピューレ及び当該ピューレを用いた食品も好適である。
【0025】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term “comprising” includes “consisting essentially of” and “consisting of.”)。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0027】
<使用動物及び群分け>
動物種:マウス(SPF)
系統:C57BL/6J 日本チャールス・リバー株式会社
雄、4週齢
【0028】
マウスを購入後、5日間の検疫期間、その後2日間の馴化期間を設け、体重推移及び一般状態に異常の認められないものを群分けに用いた。群分けはコンピュータシステム(IBUKI、株式会社日本バイオリサーチセンター)を用いて、体重を層別に分けたのち、無作為抽出法により各群の平均体重がほぼ等しくなるように馴化終了日に行った。
【0029】
具体的には、表1に記載の5群にn=5づつ振り分けた。
【0030】
<被験物質>
抗肥満効果のある素材として知られる、あしたばを対象に用いて、βクリプトキサンチンの効果を検討した。
【0031】
被検物質はオリーブ油(和光純薬工業株式会社)を用いて40mg/mLまたは160mg/mLとなるように溶解し、ゾンデを用いて経口で投与した。一日あたりの被験物質投与量を表1に示す。
【0032】
用いた被験物質の詳細は次の通りである。
・あした葉ポリフェノール(CALSAP): 株式会社日本生物化学研究所
・酵素処理温州ミカン β−クリプトキサンチン0.15%含有:株式会社ダイセル
【0033】
<飼料及び食餌条件>
普通食飼料:CRF−1、オリエンタル酵母工業株式会社
高脂肪食飼料:HFD−60、オリエンタル酵母工業株式会社
検疫・馴化期間及び群分け後の普通食群はCRF−1を給餌器に入れて自由に摂取させた。群分け後のその他の群はHFD−60を給餌器に入れ、自由に摂取させた。
群分け前日から当日、群分け後(すなわち試験開始から)25日〜26日、26日〜27日、及び投与27日〜28日に、各個体のケージ中の糞便を採取した。糞便を入れたチューブは超低温フリーザー中で凍結保存した。
【0034】
【表1】
【0035】
<菌叢解析>
糞便中の菌叢解析については、各検体の細菌叢に由来する16SrDNA部分塩基配列のT−RFLP(Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism)解析を行い、得られたデータに基づいて検体中の主要な分類群の簡易的な推定およびクラスター解析による検体間の比較を実施した。なお、当該菌叢解析には、25日〜26日、26日〜27日、及び投与27日〜28日に、採取した糞便を混合したものを検体として用いた。また、解析は株式会社テクノスルガラボに依頼した。
【0036】
菌叢解析の結果算出された、プレボテラ属の菌が腸内フローラにおいて占める割合をグラフとして図1に示す。なお、図1では、高脂肪食をFFDと標記する。
【0037】
あしたば及びβクリプトキサンチンは、いずれも抗肥満素材として知られているが、対照的な結果を示した。すなわち、あしたばを高脂肪食とあわせて摂取した群では、プレボテラ属の菌が腸内フローラにおいて占める割合は改善(増加)するどころか、むしろ高脂肪食のみを摂取した群よりも有意に悪化(減少)した。一方、β−クリプトキサンチンを高脂肪食とあわせて摂取した群では、プレボテラ属の菌が腸内フローラにおいて占める割合は高脂肪食のみを摂取した群に比べて改善(増加)しており、普通食のみを摂取した群と比べても遜色なかった。
【0038】
またさらに、T−RFLP解析プロファイルに基づき、クラスター解析を実施した結果(デンドログラム)を図2に示す。β−クリプトキサンチンを高脂肪食とあわせて摂取した群と、普通食のみを摂取した群とが、よく似たプロファイルを有することが明らかとなった。なお、クラスター解析には、以下のソフト及び手法を用いた。
解析ソフト:Gene Maths(Applied1Maths、Belgium)
クラスタリング方法:UPGMA
距離関数:ピアソンの相関関数
図1
図2