(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873626
(24)【登録日】2021年4月23日
    
      
        (45)【発行日】2021年5月19日
      
    (54)【発明の名称】等速自在継手および動力伝達構造
(51)【国際特許分類】
   F16D   3/227       20060101AFI20210510BHJP        
   F16C  19/06        20060101ALI20210510BHJP        
   F16C  11/06        20060101ALN20210510BHJP        
【FI】
   F16D3/227 G
   F16C19/06
   !F16C11/06 N
【請求項の数】4
【全頁数】14
      (21)【出願番号】特願2016-161184(P2016-161184)
(22)【出願日】2016年8月19日
    
      (65)【公開番号】特開2018-28371(P2018-28371A)
(43)【公開日】2018年2月22日
    【審査請求日】2019年7月29日
      
        
          (73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
          (74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村  邦彦
          (74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野  剛
        
      
      
        (72)【発明者】
          【氏名】武川  康昭
              
            
        
      
    
      【審査官】
        倉田  和博
      
    (56)【参考文献】
      
        【文献】
          特開2013−155803(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2011−252547(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2011−190871(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2011−190903(JP,A)      
        
        【文献】
          米国特許第02150942(US,A)      
        
        【文献】
          特表2014−513258(JP,A)      
        
      
    (58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D      3/227      
F16C    19/06        
F16C    11/06        
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
  円筒形の内周面に軸方向に延びるトラック溝を円周方向に等間隔に形成した外側継手部材と、球面状の外周面に軸方向に延びるトラック溝を円周方向に等間隔に形成した内側継手部材と、対をなす外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在させたボールと、外側継手部材の内周面と内側継手部材の外周面との間に介在しボールを保持するケージとを有し、外側継手部材と内側継手部材との間で角度変位のみならず軸方向変位も可能なダブルオフセット型の等速自在継手であって、
  内側継手部材とボールとケージとで構成される内部部品の伸び側へのスライドを規制する伸び側規制部材と、前記内部部品の縮み側へのスライドを規制する縮み側規制部材とを備え、前記伸び側規制部材は、前記外側継手部材側に設けられて前記内部部品が伸び側へスライドした際にケージの伸び側の外球面が嵌合してそのスライドを規制する内球面を有し、前記縮み側規制部材は、前記外側継手部材側に設けられて前記内部部品が縮み側へスライドした際にケージの縮み側の外球面が嵌合してそのスライドを規制する内球面を有し、前記伸び側規制部材の凹球面からなる前記内球面の曲率半径は、ケージの伸び側の外球面の曲率半径と同一に設定されるとともに、伸び側規制部材の前記内球面の曲率中心は、前記内部部品の軸心が継手軸心と一致した状態でのケージの伸び側の外球面の曲率中心よりも伸び側にオフセットし、そのオフセット寸法が前記内部部品の伸び側のスライド許容寸であり、前記縮み側規制部材の凹球面からなる前記内球面の曲率半径は、ケージの縮み側の外球面の曲率半径と同一に設定されるとともに、縮み側規制部材の前記内球面の曲率中心は、前記内部部品の軸心が継手軸心と一致した状態でのケージの縮み側の外球面の曲率中心よりも縮み側にオフセットし、そのオフセット寸法が前記内部部品の縮み側のスライド許容寸法であることを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
  一対の第1・第2の等速自在継手と、これらを連結するシャフトとを備えた動力伝達構造であって、
  第1・第2の等速自在継手が、前記請求項1に記載の等速自在継手であることを特徴とする動力伝達構造。
【請求項3】
  一対の第1・第2の等速自在継手と、これらを連結するシャフトとを備えた動力伝達構造であって、
  第1の等速自在継手が前記請求項1に記載の等速自在継手であり、第2の等速自在継手が、伸び側規制部材及び縮み側規制部材を有さないダブルオフセット型の等速自在継手であることを特徴とする動力伝達構造。
【請求項4】
  シャフトの一方の端部が、第1の等速自在継手の内側継手部材の軸心孔に嵌入固定され、シャフトの他方の端部が、第2の等速自在継手の内側継手部材の軸心孔にスライド可能に嵌入されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の動力伝達構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本発明は、等速自在継手および動力伝達構造に関する。
 
【背景技術】
【0002】
  等速自在継手には、内径面にトラック溝を形成した外側継手部材と、外径面にトラック溝を形成した内側継手部材と、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在させたボールと、外側継手部材と内側継手部材との間に介在しボールを保持するケージとを有し、外側継手部材と内側継手部材との間で角度変位のみが可能な固定式等速自在継手がある。
【0003】
  しかしながら、このような固定式等速自在継手では、外側継手部材の外径寸法が300mmを越える大型のものは製造できなかった。これに対して、角度変位のみならず軸方向変位も可能なダブルオフセット型の等速自在継手(特許文献1及び特許文献2等の等速自在継手)では外側継手部材の外径寸法が300mmを越える大型のものの製造が可能である。
【0004】
  このため、従来においては、どのような用途においても、外側継手部材の外径寸法が300mmを越える大型の等速自在継手には、ダブルオフセット型の等速自在継手を用いていた。
【0005】
  ダブルオフセット型の等速自在継手は、
図10〜
図12に示すように、円筒形の内周面1に軸方向に延びるトラック溝2を円周方向に等間隔に形成した外側継手部材3と、球面状の外周面4に軸方向に延びるトラック溝5を円周方向に等間隔に形成した内側継手部材6と、対をなす外側継手部材3のトラック溝2と内側継手部材6のトラック溝5との間に介在させたボール7と、外側継手部材3の内周面1と内側継手部材6の外周面4との間に介在しボール7を保持するケージ8とを有する。
【0006】
  ケージ8の外径面8aの曲率中心O1とケージ8の内径面8bの曲率中心O2がケージ中心Oに対して軸方向反対側に等距離だけオフセットされている。この場合、ケージ8の内径面8bのO2が、ケージ中心Oよりも後述するシャフト側に配置され、ケージ8の外径面8aの曲率中心O1が、反シャフト側に配置される。
【0007】
  内側継手部材6の軸心孔の内径面に雌スプライン10が形成され、この軸心孔にシャフト11の端部軸11bの雄スプライン12が嵌入される。これによって、雌スプライン10と雄スプライン12とが噛合する。シャフト11は、中央の大径の鋼管11aと、この鋼管11aに連設される小径の前記端部軸11bとを有し、この端部軸11bの先端部に前記雄スプライン12が形成され、端部軸11bの基端部が、後述する密封装置18が装着されるブーツ装着部13とされる。
【0008】
  また、端部軸11bの先端には保持板15が装着されている。この保持板15は、ボルト部材14を端部軸11bの先端面に螺着することによって、端部軸11bの先端に固定される。
【0009】
  外側継手部材3は、一方の開口部(反シャフト側の開口部)には、フランジ部材16が装着される。このフランジ部材16は、リング状の平板体からなる本体部16aと、この本体部16aから外径側に延びるリング状の平板体からなる外鍔部16bとからなる。そして、外側継手部材3の一方の開口部の内径部には周方向切欠部17が形成され、この周方向切欠部17に、フランジ部材16の本体部16aの外側継手部材側のコーナ部が嵌合している。この場合、フランジ部材16と外側継手部材3とは溶接等の接合手段にて接合されている。
【0010】
  また、外側継手部材3の他方の開口部(シャフト側の開口部)には、密封装置18が装着されている。密封装置18は、外側継手部材3の他方の開口部に固着されるアダプタ19と、このアダプタ19に装着されるブーツ20とを備える。
【0011】
  アダプタ19は、本体リング部19aと、外側継手部材3の他方の開口部(シャフト側の開口部)に外嵌される大径部19bと、本体リング部19aの内径部がシャフト側に延びる小径筒部19cとからなる。このため、アダプタ19の外側継手部材側端面には、外側継手部材3の他方の開口部が嵌合する凹窪部が形成される。そして、この凹窪部に外側継手部材3の他方の開口部を嵌合させた状態で、外側継手部材3の他方の開口端面に設けられたネジ孔にボルト部材23を螺着させることによって、このアダプタ19が外側継手部材3に取付られる。
【0012】
  また、ブーツ20は、大径部20aと、小径部20bと、大径部20aと小径部20bとを連結する断面略U字形の屈曲部20cとからなる。そして、ブーツ20の大径部20aがアダプタ19の小径筒部19cに装着され、ブーツ20の小径部20bがシャフト11の端部軸11bのブーツ装着部13に外嵌される。
【0013】
  この場合、
図11に示すように、内部部品(内側継手部材6とボール7とケージ8とで成される部品)Sが外側継手部材3に対してシャフト側へ移動した場合、ボール7が、密封装置18のアダプタ19の内径コーナ部に設けた面取受け部21に受けられ(当接し)、シャフト側への移動が規制される。すなわち、アダプタ19の面取受け部21がこの動力伝達構造(この等速自在継手と、シャフト41と、この等速自在継手と反対側に配設される他の等速自在継手とから構成される)の伸び側規制部(ストッパ部)となる。
【0014】
  また、
図12に示すように、内部部品Sが反シャフト側へ移動した場合、ケージ8のフランジ部材側の端縁8cがフランジ部材16の本体部16aの内面22に当接(接触)し、反シャフト側への移動が規制される。すなわち、フランジ部材16の本体部16aの内面22が動力伝達構造の縮み側規制部(ストッパ部)となる。
 
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2010−54002号公報
【特許文献2】特開2010−112505号公報
 
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
  しかしながら、
図10に示すような構造のものでは、高速回転時にストッパ部との接触音等が発生しやすいものとなっている。また、動力伝達構造としての許容伸縮量が外側継手部材の軸方向長さに依存していた。このため、使用条件(高速回転や長スライド要求等)によっても対応困難な場合がある。
【0017】
  そこで、本発明は、従来(既存)のダブルオフセット型等速自在継手で対応が困難であった高速回転且つ長スライド可能であり、かつ固定式等速自在継手的な使用方法が可能であり、さらには頻繁に動的伸縮が繰り返されても内部干渉音等を抑えることが可能な等速自在継手および動力伝達構造を提供する。
 
【課題を解決するための手段】
【0018】
  本発明
の等速自在継手は、円筒形の内周面に軸方向に延びるトラック溝を円周方向に等間隔に形成した外側継手部材と、球面状の外周面に軸方向に延びるトラック溝を円周方向に等間隔に形成した内側継手部材と、対をなす外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在させたボールと、外側継手部材の内周面と内側継手部材の外周面との間に介在しボールを保持するケージとを有し、外側継手部材と内側継手部材との間で角度変位のみならず軸方向変位も可能なダブルオフセット型の等速自在継手であって、
  内側継手部材とボールとケージとで構成される内部部品の伸び側へのスライドを規制する伸び側規制部材と、前記内部部品の縮み側へのスライドを規制する縮み側規制部材とを備え、前記伸び側規制部材は、
前記外側継手部材側に設けられて前記内部部品が伸び側へスライドした際にケージの伸び側の外球面
が嵌合してそのスライドを規制する内球面を有し、
前記縮み側規制部材は、
前記外側継手部材側に設けられて前記内部部品が縮み側へスライドした際にケージの縮み側の外球面
が嵌合してそのスライドを規制する内球面を有し
、前記伸び側規制部材の凹球面からなる前記内球面の曲率半径は、ケージの伸び側の外球面の曲率半径と同一に設定されるとともに、伸び側規制部材の前記内球面の曲率中心は、前記内部部品の軸心が継手軸心と一致した状態でのケージの伸び側の外球面の曲率中心よりも伸び側にオフセットし、そのオフセット寸法が前記内部部品の伸び側のスライド許容寸であり、前記縮み側規制部材の凹球面からなる前記内球面の曲率半径は、ケージの縮み側の外球面の曲率半径と同一に設定されるとともに、縮み側規制部材の前記内球面の曲率中心は、前記内部部品の軸心が継手軸心と一致した状態でのケージの縮み側の外球面の曲率中心よりも縮み側にオフセットし、そのオフセット寸法が前記内部部品の縮み側のスライド許容寸法であるものである。
【0019】
  本発明
の等速自在継手によれば、伸び側規制部材は、ケージの伸び側の外球面に嵌合する内球面を有し、縮み側規制部材は、ケージの縮み側の外球面に嵌合する内球面を有するものであるので、伸び側の規制も縮み側の規制の球面嵌合となり、高速回転時においてもこれらの嵌合部位(接触部位)における干渉音を小さくできる。
【0020】
  また、伸び側規制部材は、内部部品が継手中央部に配置された状態から伸び側への内部部品の所定寸のスライドを許容し、縮み側規制部材は、内部部品が継手中央部に配置された状態から縮み側への内部部品の所定寸のスライドを許容するもの
であるので、外側継手部材に対して内部部品の軸方向に沿ってスライドがある程度可能となる。
【0023】
  本発明の第1の動力伝達構造は、一対の第1・第2の等速自在継手と、これらを連結するシャフトとを備えた動力伝達構造であって、第1・第2の等速自在継手が、前記等速自在継手(伸び側規制部材と縮み側規制部材とを備えた等速自在継手)である。
【0024】
  本発明の第1の動力伝達構造によれば、各等速自在継手が伸び側の規制も縮み側の規制の球面嵌合となり、高速回転時においてもこれらの嵌合部位(接触部位)における干渉音を小さくできる。
【0029】
  本発明の
第2の動力伝達構造は、一対の第1・第2の等速自在継手と、これらを連結するシャフトとを備えた動力伝達構造であって、第1の等速自在継手が、前記等速自在継手(伸び側規制部材と縮み側規制部材とを備えた等速自在継手)であり、第2の等速自在継手が、伸び側規制部材及び縮み側規制部材を有さない既存のダブルオフセット型の等速自在継手である。
【0030】
  本発明の
第2の動力伝達構造によれば、一方の等速自在継手を固定式等速自在継手とし、他方を摺動式等速自在継手とした動力伝達構造の使用方法が可能となる。
【0031】
  前記各動力伝達構造において、シャフトの一方の端部が、第1の等速自在継手の内側継手部材の軸心孔に嵌入固定され、シャフトの他方の端部が、第2の等速自在継手の内側継手部材の軸心孔にスライド可能に嵌入されているように設定できる。
【0032】
  このように設定すれば、シャフトの他方の端部が、第2の等速自在継手の内側継手部材の軸心孔にスライド可能に嵌入されているので、長スライドに対応した構造となる。しかも、各等速自在継手は、伸び側の規制も縮み側の規制の球面嵌合となり、高速回転時においてもこれらの嵌合部位(接触部位)における干渉音を小さくできる。
 
【発明の効果】
【0033】
  本発明の等速自在継手では、伸び側の規制も縮み側の規制の球面嵌合となり、高速回転時においてもこれらの嵌合部位(接触部位)における干渉音を小さくできる。これによって、従来の大型のダブルオフセット型の等速自在継手では対応できなかった高速回転に対応できる。
 
 
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図2】
図1に示す等速自在継手の伸び側規制状態の断面図である。
 
【
図3】
図1に示す等速自在継手の縮み側規制状態の断面図である。
 
【
図5】
図4に示す等速自在継手の作動角を取った状態の断面図である。
 
【
図6】本発明の第1の動力伝達構造の断面図である。
 
【
図7】本発明の第2の動力伝達構造の断面図である。
 
【
図8】本発明の第3の動力伝達構造の断面図である。
 
【
図9】縦型に使用した場合の動力伝達構造の断面図である。
 
【
図11】
図10に示す等速自在継手の伸び側規制状態の断面図である。
 
【
図12】
図10に示す等速自在継手の縮み側規制状態の断面図である。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0035】
  以下本発明の実施の形態を
図1〜
図9に基づいて説明する。
図1に本発明にかかる等速自在継手を示し、この等速自在継手は、円筒形の内周面31に軸方向に延びるトラック溝32を円周方向に等間隔に形成した外側継手部材33と、球面状の外周面34に軸方向に延びるトラック溝35を円周方向に等間隔に形成した内側継手部材36と、対をなす外側継手部材33のトラック溝32と内側継手部材36のトラック溝35との間に介在させたボール37と、外側継手部材33の内周面31と内側継手部材36の外周面34との間に介在しボールを保持するケージと38を有し、外側継手部材33と内側継手部材36との間で角度変位のみならず軸方向変位も可能なダブルオフセット型の等速自在継手である。
 
【0036】
  ケージ38の外球面38aの曲率中心O1とケージ38の内径面38bの曲率中心O2がケージ中心Oに対して軸方向反対側に等距離だけオフセットされている。すなわち、ケージ38の外球面38aの曲率中心O1が、ケージ中心Oよりも後述するシャフト側に配置され、ケージ38の内径面38bの曲率中心O2が、反シャフト側に配置される。外球面38aのオフセット量をH1とし、内径面38bのオフセット量をH2とした場合、H1=H2としている。
 
【0037】
  内側継手部材36の軸心孔の内径面に雌スプライン40が形成され、この軸心孔にシャフト41の端部軸41bの雄スプライン42が嵌入される。これによって、雌スプライン40と雄スプライン42とが噛合する。シャフト41は、中央の大径の鋼管41aと、この鋼管41aに連設される小径の前記端部軸41bとを有し、この端部軸41bの先端部に前記雄スプライン42が形成され、端部軸41bの基端部が、後述する密封装置58が装着されるブーツ装着部43とされる。すなわち、端部軸41bは、雄スプライン42と、ブーツ装着部43と、基端ボス部44とからなる。なお、基端ボス部44は、中空体の鋼管41aに嵌入される嵌入部44aと、大径鍔部44bと、この大径鍔部44bからブーツ装着部43に連設されるテーパ部44cとからなる。そして、嵌入部44aが中空体の鋼管41aの一方の開口部に嵌入された状態で、溶接等の接合手段にて、基端ボス部44と鋼管41aとが一体化される。
 
【0038】
  また、端部軸41bの先端には保持板45が装着されている。この保持板45は、ボルト部材64を端部軸41bの先端面に設けられたねじ孔に螺着することによって、端部軸41bの先端に固定される。すなわち、保持板45は、円盤形状の本体部45aと、この本体部45aの外周縁部から継手内部へ突出する周方向突出部45bとからなる。この場合、保持板45がシャフト11の端面への装着状態で、周方向突出部45bが内側継手部材36の一方の端面36aに当接している。
 
【0039】
  外側継手部材33は、一方の開口部(反シャフト側の開口部)には、フランジ部材46が装着される。このフランジ部材46は、円盤形状部46aと、この円盤形状部46aの内面(継手側の端面)から継手側へと突出する短円筒形状の本体部46bとからなる。そして、円盤形状部46aには、その外周側にボルト孔47aが設けられるとともに、その先端面に凹部47bが設けられている。なお、円盤形状部46aの中心部には貫通孔47cが設けられている。
 
【0040】
  また、外側継手部材33の反シャフト側の開口端面には、その内径側に周方向切欠部33aが形成されるとともに、フランジ部材46の本体部46aの継手側の外径部には周方向切欠部48が形成されている。このため、外側継手部材33の反シャフト側の開口端面
に外径側の凸部49が形成され、フランジ部材46の本体部46aの継手側の端面には内径側の凸部46b1が形成され、この凸部46b1が外側継手部材33の周方向切欠部33aに嵌合し、外側継手部材33の凸部49がフランジ部材46の周方向切欠部48に嵌合する。そして、このような嵌合状態で、溶接等の接合手段にてフランジ部材46と外側継手部材33とが接合される。
 
【0041】
  また、外側継手部材33の他方の開口部(シャフト側の開口部)には、密封装置58が装着されている。密封装置58は、外側継手部材33の他方の開口部に固着されるアダプタ59と、このアダプタ59に装着されるブーツ60とを備える。
 
【0042】
  アダプタ59は、本体リング部59aと、外側継手部材33の他方の開口部(シャフト側の開口部)に外嵌される大径部59bと、本体リング部59aの内径部がシャフト側に延びる小径筒部59cとからなる。このため、アダプタ59の外側継手部材側端面には、外側継手部材33の他方の開口部が嵌合する凹窪部59dが形成される。そして、この凹窪部59dに外側継手部材33の他方の開口部を嵌合させた状態で、外側継手部材33の他方の開口端面に設けられたネジ孔61に、アダプタ59の貫通孔62を介してボルト部材63を螺着させることによって、このアダプタ59が外側継手部材33に取付られる。
 
【0043】
  また、ブーツ60は、大径部60aと、小径部60bと、大径部60aと小径部60bとを連結する断面略U字形の屈曲部60cとからなる。そして、ブーツ60の大径部60aがアダプタ59の小径筒部59cに装着され、ブーツ60の小径部60bがシャフト41の端部軸41bのブーツ装着部43に外嵌される。
 
【0044】
  ところで、この等速自在継手では、内側継手部材36とボール37とケージと38で構成される内部部品Sの伸び側へのスライドを規制する伸び側規制部材65と、前記内部部品Sの縮み側へのスライドを規制する縮み側規制部材66とを備える。
 
【0045】
  伸び側規制部材65は、前記密封装置58のアダプタ59にて構成できる。すなわち、アダプタ59の本体リング部59aと小径筒部59cとの内径側コーナ部に、凹球面からなる内球面65aを形成する。このため、伸び側規制部材65は内球面65aを有することになる。この内球面65aの曲率半径A2は、ケージ38の密封装置側の外球面38a1の曲率半径A1と同一に設定される。この場合、
図1に示すように、内球面65aの曲率中心O3は、内部部品Sの軸心が継手軸心Oと一致した状態でのケージ38の密封装置側の外球面38aの曲率中心O1よりも密封装置58側にオフセットしている。
 
【0046】
  また、縮み側規制部材66は、フランジ部材の継手内部側の端面と、外側継手部材のフランジ部材側の内径部との間のコーナ部に嵌合されるリング体70にて構成できる。すなわち、リング体70の内径面に、その継手外部側の凹球面からなる内球面71aと、継手内部側のテーパ孔部71bとを形成している。この内球面71aが縮み側規制部材66を構成することになる。この内球面71aの曲率半径C2がケージ38の反密封装置側の外球面38a2の曲率半径C1と同一に設定される。内球面71aの曲率中心O4は、ケージ軸心Oが継手中心と一致した状態でのケージ38の反密封装置側の外球面38a2の曲率中心O2よりも反密封装置58側(フランジ部材46側)にオフセットしている。また、内球面71aの曲率中心O4は、ケージ38の内球面38bの曲率中心O2よりも僅かに継手軸心O寄りに配置される。
 
【0047】
  このように構成された等速自在継手では、
図1に示す状態から、
図2に示すように、内部部品Sが密封装置側へスライドした場合、ケージ38の外球面38a1が伸び側規制部材65の内球面65aに当接し、内部部品Sのこれ以上の密封装置側へのスライドが規制される。すなわち、
図1に示す状態で所定寸の内部部品Sの伸び側へのスライドが許容される。この場合の所定寸は、
図1に示す曲率中心O1から内球面65aの曲率中心O3までの寸法である。
 
【0048】
  また、
図1に示す状態から、
図3に示すように、内部部品Sが反密封装置側へスライドした場合、ケージ38の外球面38a2が縮み側規制部材66の内球面71aに当接し、内部部品Sのこれ以上の反密封装置側へのスライドが規制される。すなわち、
図1に示す状態で所定寸の内部部品Sの縮み側へのスライドが許容される。この場合の所定寸は、
図1に示す曲率中心O1から内球面71aの曲率中心O4までの寸法である。
 
【0049】
  このため、この
図1に示す等速自在継手では、伸び側規制部材65は、内部部品Sが継手中央部に配置された状態から伸び側への内部部品Sの所定寸のスライドを許容し、縮み側規制部材66は、内部部品Sが継手中央部に配置された状態から縮み側への内部部品Sの所定寸のスライドを許容するものである。
 
【0050】
  これに対して、
図4では、伸び側規制部材65は、内部部品Sが継手中央部に配置された状態から伸び側への内部部品Sのスライドを規制し、縮み側規制部材66は、内部部品Sが継手中央部に配置された状態から縮み側への内部部品Sのスライドを規制するものである。
 
【0051】
  すなわち、
図4に示す等速自在継手では、外側継手部材33の軸方向長さを、
図1に示す等速自在継手の外側継手部材33よりも短く設定している。そして、ケージ38の外球面38a1(38a2)の曲率中心O1に、伸び側規制部材65の内球面65a及び縮み側規制部材66の内球面71aの曲率中心O3、O4を一致させている。
 
【0052】
  このため、
図4に示すように、内部部品Sが外側継手部材内に配設された状態で、ケージ38の外球面38a1が伸び側規制部材65の内球面65aに当接して、継手中央部に配置された状態から伸び側への内部部品Sのスライドを規制し、ケージ38の外球面38a2が縮み側規制部材66の内球面71aに当接し、継手中央部に配置された状態から縮み側への内部部品Sのスライドを規制する。
 
【0053】
  図4に示す等速自在継手では、外側継手部材33と内側継手部材36との間で角度変位が可能であるが(
図5参照)、軸方向変位が不可能なもの、すなわち、固定式等速自在継手と同様の機能の等速自在継手となる。
 
【0054】
  このように
図1や
図4に示す等速自在継手では、伸び側規制部材65は、ケージ38の伸び側の外球面38a1に嵌合する内球面65aを有し、縮み側規制部材66は、ケージ38の縮み側の外球面38a2に嵌合する内球面71aを有するものであるので、伸び側の規制も縮み側の規制の球面嵌合となり、高速回転時においてもこれらの嵌合部位(接触部位)における干渉音を小さくできる。これによって、従来の大型のダブルオフセット型の等速自在継手では対応できなかった高速回転に対応できる。
 
【0055】
  図6は、一対の第1・第2の等速自在継手M1、M2と、これらを連結するシャフト41とを備えた動力伝達構造である。この場合、第1・第2の等速自在継手M1、M2は、前記
図4に示す等速自在継手を用いている。すなわち、外側継手部材33と内側継手部材36との間で角度変位のみが可能な固定式等速自在継手と同様な機能を発揮する等速自在継手を用いている。
 
【0056】
  また、シャフト41は、中央の大径の鋼管41aと、この鋼管41aに連設される小径の端部軸41bと、端部軸41bと反対側において鋼管41aに連設される軸部材41cとからなる。
 
【0057】
  軸部材41cは、長尺状の雄スプライン73と、基端側軸部74と、基端ボス部75とからなる。基端ボス部75は、端部軸41bの基端ボス部44と同様、中空体の鋼管41aに嵌入される嵌入部75aと、大径鍔部75bと、この大径鍔部75bから基端側軸部74に連設されるテーパ部75cとからなる。そして、嵌入部75aが中空体の鋼管41aの他方の開口部に嵌入された状態で、溶接等の接合手段にて、基端ボス部75と鋼管41aとが一体化される。
 
【0058】
  この場合、雄スプライン73は、第2の等速自在継手M2の内側継手部材36に雌スプライン40に軸方向のスライドを可能として嵌合している。すなわち、雄スプライン73のスプライン有効長Aを長くし、長スライドに対応した動力伝達構造としている。この
図6に示すものでは、第1及び第2の等速自在継手M1,M2を固定式等速自在継手的な使用が可能で、従来の固定式等速自在継手を用いた動力伝達構造では対応できなかった大スライド量は可能となる。まや、いわゆる中間スライドシャフトを使用しないので、動バランス修正をし易く高速回転にも対応できる。
 
【0059】
  また、この第2の等速自在継手M2の密封装置のブーツ60の小径部60bは、雄スプライン73に外嵌されるスペーサ76に外嵌固定されている。このため、第1の等速自在継手M1が固定側とされ、第2の等速自在継手M2がスライド側とされる。
 
【0060】
  図7に示す動力伝達構造は、第1の等速自在継手M1を
図4に示す等速自在継手、つまり、固定式等速自在継手と同様な機能を発揮する等速自在継手を用い、第2の等速自在継手M2を従来のダブルオフセットタイプの摺動式等速自在継手を用いている。すなわち、この第2の等速自在継手M2は、
図10に示す従来の摺動式等速自在継手を用いるので、
図10と同一の符号を付してこの第2の等速自在継手M2の説明を省略する。
 
【0061】
  また、シャフト41は、中央の大径の鋼管41aと、この鋼管41aに第1の等速自在継手M1側に連設される小径の端部軸41bと、鋼管41aから端部軸41bとは反対側へ突設される端部軸41bとからなる。つまり、シャフト41の鋼管41aの両側に端部軸41bがそれぞれ突出されている。この
図7に示すものでは、摺動式等速自在継手と固定式等速自在継手とを用いた動力伝達構造となり、負荷伸縮のある使用箇所に対応できる。
 
【0062】
  図8に示す動力伝達構造は、第1の等速自在継手M1及び第2の等速自在継手M2を
図1に示す等速自在継手を用い、シャフト41に
図7に示すシャフト41を用いている。また、
図9は、
図8に示す動力伝達構造をスラスト荷重を受ける縦型に使用している場合を示している。
図8と
図9に示すものでは、
図1に示す等速自在継手を両側に配置される動力伝達構造となり、負荷伸縮がやや多い箇所にも対応できる。
 
【0063】
  このように、内部部品Sが継手中央部に配置された状態から伸び側への内部部品Sの所定寸のスライドを許容するとともに、内部部品Sが継手中央部に配置された状態から縮み側への内部部品Sの所定寸のスライドを許容するタイプの等速自在継手(
図1に示すタイプの等速自在継手)と、内部部品Sが継手中央部に配置された状態から伸び側への内部部品Sのスライドを規制するとともに、内部部品Sが継手中央部に配置された状態から縮み側への内部部品Sのスライドを規制する等速自在継手(
図4に示すタイプの等速自在継手)とを用いることによって、種々のタイプの動力伝達構造を構成できる。このため、
図1示す等速自在継手、
図4に示す等速自在継手、従来のダブルオフセット型等速自在継手を任意に組み合わせることによって、産業機械関係(鉄鋼、製紙、試験機等)に幅広く適用できる。
 
【0064】
  以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、動力伝達構造において、第1及び第2の等速自在継手M1,M2に
図4に示す等速自在継手を用いる場合においても、
図6に示すシャフトを用いることなく、
図7等に示すシャフトを用いるものであってもよい。また、第1及び第2の等速自在継手M1,M2において、第1の等速自在継手に
図1に示す等速自在継手を用い、第2の等速自在継手に
図4に示す等速自在継手を用いても、第1の等速自在継手に
図4に示す等速自在継手を用い、第2の等速自在継手に
図1に示す等速自在継手を用いてもよい。また、
図7に示す動力伝達構造において、第2の等速自在継手に従来のダブルオフセットタイプの等速自在継手を用いることなく、
図1に示す等速自在継手を用いるものであってもよい。
 
【0065】
  図1に示すように、内部部品Sが継手中央部に配置された状態から伸び側への内部部品Sの所定寸のスライドを許容するとともに、内部部品Sが継手中央部に配置された状態から縮み側への内部部品Sの所定寸のスライドを許容するタイプの等速自在継手である場合における、伸び側への内部部品Sのスライド量、縮み側への内部部品Sのスライド量としては、配設部位に応じて種々設定できる。
 
 
【符号の説明】
【0066】
31   内周面
32   トラック溝
33   外側継手部材
34   外周面
35   トラック溝
36   内側継手部材
37   ボール
38   ケージ
41   シャフト
65   伸び側規制部材
65a 内球面
66   縮み側規制部材
71a 内球面
M1   第1の等速自在継手
M2   第2の等速自在継手
S     内部部品