(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。
【0015】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態の水処理装置7を備える水処理設備1を示す概略図である。
図1に示すように、第1の実施の形態の水処理装置7を備える水処理設備1は、被処理水貯留部2と、凝集処理部3と、第1付着力抑制機構4と、分離部5と、処理水貯留部6とを備えている。
【0016】
被処理水貯留部2は、除去対象物を含む被処理水を貯留する。除去対象物は、例えば、油分のような有機物や無機物などから構成される固形物、コロイド状物質などの濁質である。また、被処理水は、上記の除去対象物を含む水系の液体である。被処理水としては、例えば、産業施設から排出される産業排水などが挙げられる。例えば、被処理水の溶媒は水である。被処理水中の除去対象物の濃度は、例えば10ppm以上である。
【0017】
凝集処理部3は、被処理水に凝集剤を添加して、除去対象物の凝集処理を行う。被処理水貯留部2から排出された除去対象物を含む被処理水は、凝集処理部3に供給される。また、凝集処理部3には、除去対象物を凝集させる凝集剤が供給される。凝集処理部3内の被処理水に凝集剤が添加されると、被処理水中の除去対象物が凝集して、除去対象物と凝集剤とから構成される凝集物が生成される。凝集物は、微細な除去対象物の凝集によって粗大化したものである。なお、被処理水に添加された凝集剤を被処理水中で均一化するために、凝集処理部3内の被処理水は、図示しない攪拌機などによって撹拌されてもよい。
【0018】
被処理水に供給される凝集剤は、除去対象物の種類などに応じて、適宜選択される。凝集剤としては、無機凝集剤、カチオン系高分子凝集剤、アニオン系高分子凝集剤などが挙げられる。
【0019】
第1付着力抑制機構4は、分離部5に装着されている分離膜に対する凝集物の付着力を抑制する。凝集処理部3を排出した凝集物を含む被処理水は、第1付着力抑制機構4に供給される。第1付着力抑制機構4は、凝集処理部3で凝集して生成された凝集物の分離膜に対する付着力を低下させる。
【0020】
分離部5は、分離膜に対する付着力の低下した凝集物を被処理水から固液分離する。第1付着力抑制機構4から排出された凝集物を含む被処理水は、分離部5に供給される。また、分離部5には、被処理水をろ過するための分離膜が設けられている。分離部5では、被処理水を分離膜でろ過することによって、凝集物は分離膜を透過せずに、被処理水を構成する残りの成分が分離膜を透過する。このとき、分離膜が除去対象物を含む凝集物を除去することによって、処理水が得られる。
【0021】
分離部5を排出した処理水は、処理水貯留部6に供給される。処理水貯留部6は、分離部5で被処理水から凝集物を除去することによって得られた処理水を貯留する。処理水貯留部6に貯留される処理水は、水系の液体である。処理水中の除去対象物の濃度は、例えば10ppm以下である。
【0022】
なお、処理水中の除去対象物の形態には、凝集剤を添加しても凝集しなかった除去対象物と、除去対象物および凝集剤から構成される凝集物において、分離膜に形成される孔を透過した微細な凝集物とが含まれる。ここで、除去対象物および微細な凝集物の大きさは分離部5で除去される凝集物よりも小さく、除去対象物および微細な凝集物は分離膜に形成される孔を透過する。
【0023】
上記のように、凝集処理部3、第1付着力抑制機構4、および分離部5の処理を行うことによって、被処理水が処理されて、処理水が生成される。
【0024】
なお、被処理水貯留部2、凝集処理部3、第1付着力抑制機構4、分離部5、処理水貯留部6は、1つの槽に設けられてもよく、複数の槽に設けられてもよい。被処理水貯留部2、凝集処理部3、第1付着力抑制機構4、分離部5、処理水貯留部6が複数の槽に設けられる場合、被処理水貯留部2、凝集処理部3、第1付着力抑制機構4、分離部5、処理水貯留部6の各々が別々の槽に設けられてもよく、これらのいずれか2つ以上が1つの槽に設けられてもよい。
【0025】
次に、第1の実施の形態の水処理装置7について説明する。
【0026】
水処理装置7は、除去対象物と凝集剤とから構成される凝集物を含有する被処理水から分離膜を介して凝集物を分離する。水処理装置7は、
図1に示すように、第1付着力抑制機構4と分離部5に設けられる分離膜とを備える。
【0027】
分離膜は、被処理水をろ過するための槽、換言すると分離部5を備える槽に設けられる。また、分離膜は、凝集物との付着力を抑制する第2付着力抑制機構を有すると共に、分離膜に対する付着力が抑制された凝集物を被処理水から固液分離する。
【0028】
図2は、水処理装置7を構成する分離膜10を模式的に示す断面図である。
図3は、水処理装置7を構成する分離膜10の凹凸構造を模式的に示す拡大断面図である。
図4は、水処理装置7を構成する分離膜10の上面を観察したSEM画像である。
【0029】
図2および
図4に示すように、分離膜10は、分離膜10の表面に垂直な方向に分離膜10を貫通する孔11を複数有する多孔質の膜である。分離膜10の表面には、第2付着力抑制機構8が設けられる。第2付着力抑制機構8は、分離膜10の表面に形成される、複数の凹部12と複数の凸部13とから構成される規則的な凹凸構造を備える。第2付着力抑制機構8の凹凸構造は、分離膜10における孔11の形成されていない部分の表面に設けられる。
【0030】
孔11の大きさR
11と凝集物9の直径R
9との関係について、
図3に示すように、分離膜10が被処理水14をろ過して凝集物9を除去するために、孔11の大きさR
11は凝集物9の直径R
9すなわち凝集物9の粒径よりも小さい。なお、ここでは、凝集物9が球形である一例を示すが、凝集物9が非球形である場合、非球形の体積と同じ体積を有する球形を近似し、当該近似した球形の直径を凝集物9の直径とみなす。
【0031】
分離膜10の表面に平行な孔11の断面形状は、特に限定されるものではなく、円形状でも多角形状でもよい。孔11の断面形状が円である場合、円の直径が孔11の大きさR
11に相当する。また、孔11の断面形状が多角形である場合、多角形の面積と同じ面積を有する円を近似し、当該近似した円の直径が孔11の大きさR
11に相当する。
【0032】
孔11の大きさR
11は、凝集物9の大きさや分離精度を考慮して適宜選択される。孔11の大きさR
11は、例えば、0.5μm以上50.0μm以下であることが好ましく、5.0μm以上30.0μm以下であることがより好ましい。孔11の大きさR
11が0.5μmよりも小さいと、孔11の開孔率が非常に低くなると共に孔11が非常に狭くなるので、孔11を流れる処理水15の流速が低下して、所望のろ過速度が得られないことがある。また、孔11の大きさR
11が50.0μmよりも大きいと、分離膜10による凝集物9の捕捉率が低下することや、分離膜10の強度が低下して、分離膜10がろ過時の水圧によって破損することがありえる。
【0033】
第2付着力抑制機構8の凹凸構造の大きさと凝集物9の直径R
9との関係は、下記式(1)を満たすことが好ましい。すなわち、
図3に示すように、凹部12の幅W
12が凝集物9の直径R
9よりも小さいことが好ましい。また、凹部12の深さD
12と凝集物9の直径R
9との関係は、下記式(2)を満たすことが好ましい。ここで、凹部12の深さD
12は、凸部13の高さH
13と等しい。
【0036】
式(1)および式(2)を満たすことによって、
図2および
図3に示すように、凝集物9は、ろ過時に、凸部13の上側端部と点接触すると共に、凹部12の底面12aとは接触しない。一方で、表面に規則的な凹凸構造を有する第2付着力抑制機構を備えない従来の分離膜については、凝集物は、ろ過時に分離膜の表面と面接触する。このように、従来の分離膜に比べて、分離膜10と凝集物9との接触面積が減少するので、分離膜10と凝集物9との付着力は低下する。そのため、分離膜10の洗浄性は向上する。
【0037】
さらに、式(1)および式(2)を満たすことによって、
図2に示すように、凹部12の底面12aと凝集物9との間には、流路16が形成される。流路16内では、被処理水14が流れる。流路16が形成されると、分離膜10の表面付近や孔11付近における、被処理水14の流速が向上する。そのため、被処理水14のろ過に要する時間は短縮される。
【0038】
第2付着力抑制機構8における凹凸構造の大きさは、ろ過対象物である凝集物9の直径R
9に応じて適宜調整される。例えば、凹凸構造における凹部12の幅W
12は、0.5μm以上50.0μm以下であることが好ましく、5.0μm以上30.0μm以下であることがより好ましい。凹部12の幅W
12が上記範囲内であると、分離膜10の洗浄性は向上し、分離膜10によるろ過時間は短縮される。
【0039】
また、第2付着力抑制機構8における凹凸構造の大きさが非常に小さい場合、例えば凹部12の幅W
12が凝集物9の直径R
9よりも非常に小さいときには、流路16の体積は非常に小さくなる。そのため、分離膜10の表面付近や孔11付近における被処理水14の流速向上の効果は低下する。
【0040】
図5は、水処理装置7を構成する分離膜10を模式的に示す断面図である。
図5に示すように、凹凸構造の大きさ、例えば凹部12の幅W
12が凝集物9の直径R
9以上になると、凝集物9が凹部12内に入り込むことがある。凝集物9の入り込んだ凹部12では、凝集物9が凹部12の底面12aに接触するので、流路16が形成されない。このように、式(1)および式(2)を満たす分離膜10に比べて、式(1)および式(2)の少なくとも一方を満たさない分離膜全体に形成される流路16の体積は減少するので、被処理水14の流速向上の効果は低下する。
【0041】
図6は、第1の実施の形態の水処理装置7における、分離膜10の凸部13の半径と、分離膜10および凝集物9の間のファンデルワールス力との関係を示すグラフである。ここで、分離膜10に設けられる第2付着力抑制機構8における凹凸構造の大きさの指標として、凹凸構造が連続する半球状の凸部13から構成されるときの、凸部13の半径を用いた。例えば、凸部13の半径が1.00μmであるときには、半径1.00μmの半球状の凸部13が分離膜10の表面上に連続して形成している。また、分離膜10と凝集物9との付着力の指標として、分離膜10と凝集物9との間に働くファンデルワールス力を用いた。このとき、凝集物9は、1.00×10
1μmの直径R
9を有する球形である。なお、半球状の凸部13の半径は、凸部13の高さH
13に等しい。
【0042】
図6に示すように、半球状の凸部13で構成される凹凸構造を備える第2付着力抑制機構8において、凸部13の半径が凝集物9の直径R
9以下になると、分離膜10と凝集物9との間に働くファンデルワールス力が減少する。一方、凸部13の半径が凝集物9の直径R
9よりも大きい場合には、分離膜10と凝集物9との間に働くファンデルワールス力はほぼ一定である。すなわち、凝集物9の直径R
9に比べて、第2付着力抑制機構8の凹凸構造を微細にすることによって、分離膜10における凝集物9との付着力を低下させることができる。
【0043】
図7は、第1の実施の形態の水処理装置7における、分離膜10の凸部13のピッチの大きさ/凝集物の粒径と、分離膜10に形成される流路16の流路断面積(μm
2) との関係を示すグラフである。ここで、分離膜10に設けられる第2付着力抑制機構8における凹凸構造の指標として、凹凸構造が連続する半球状の凸部13から構成されるときの、凸部13のピッチを用いた。例えば、ピッチの大きさ/凝集物の粒径の値が1.00以上であるとき、凝集物9の粒径は凸部13のピッチの大きさ以下であり、ピッチの大きさ/凝集物の粒径の値が1.00よりも小さいとき、凝集物9の粒径は凸部13のピッチの大きさよりも大きい。また、このとき、凝集物9は、1.00×10
1μmの直径R
9を有する球形である。
【0044】
図7に示すように、半球状の凸部13で構成される凹凸構造を備える第2付着力抑制機構8において、凸部13のピッチの大きさが凝集物9の直径以下の範囲では、凸部13のピッチの大きさが小さくなるにつれて、凹部12と凝集物9との間に形成される流路16の流路断面積が増加する。すなわち、第2付着力抑制機構8の凹凸構造の大きさを調整することによって、流路16の流路断面積を制御することができる。そして、凸部13のピッチの大きさが凝集物9の直径以下の範囲において、第2付着力抑制機構8の凹凸部のピッチの大きさを小さくすることによって、流路16の流路断面積を増加させることができる。
【0045】
このように、分離膜10に設けられる第2付着力抑制機構8の凹凸構造の大きさおよび/またはピッチの大きさを調整することによって、分離膜10の洗浄性を向上させることができると共に、分離膜10による被処理水14のろ過時間を短縮させることができる。
【0046】
また、孔11および第2付着力抑制機構8における凹凸構造の形成方法は、特に限定されるものではなく、既知の方法を用いることができる。
図4に示す分離膜10については、レーザー光を照射することによって、分離膜10を貫通させずに分離膜10の表面を部分的に除去して、複数の凹部12を形成した。その後、レーザー光の照射強度を増加し、分離膜10の表面にレーザー光を照射することによって、分離膜10を除去して、分離膜10を貫通する複数の孔11を形成した。なお、フォトマスクを使用し、分離膜10の表面に対してレーザー光を部分的に遮りながら照射することによって、孔11や凹凸構造を形成してもよい。
【0047】
さらに、孔11および凹凸構造の形成方法は、レーザー光に加えて、例えば、電子ビーム照射、ドリルやナノインプリントのような機械加工、エッチング加工、放電加工、3Dプリントなどの方法を用いることができる。
【0048】
また、
図4に示す分離膜10において、分離膜10の表面を部分的に除去して形成される複数の凹部12から構成される凹凸構造について説明したが、分離膜10の凹凸構造は、分離膜10の表面へ部分的に所定の物質を積層させることによって形成される複数の凸部13から構成されてもよい。なお、凹凸構造は、複数の凹部12から構成されてもよいし、複数の凸部13から構成されてもよいし、複数の凹部12および複数の凸部13から構成されてもよい。
【0049】
凸部13を形成するときに分離膜10の表面に積層させる物質は、被処理水14に対して耐食性を有し、ろ過に耐えうる強度を有していれば、特に限定されるものではなく、例えば分離膜10を構成する材料と同じである。分離膜10の表面に積層させる物質の種類は、被処理水14、除去対象物、および凝集剤の種類、ろ過条件などによって、適宜選択される。
【0050】
また、第2付着力抑制機構8における凹凸構造の凹凸パターンは、特に限定されるものではなく、例えば、正方形、長方形、線状のパターンなどが挙げられる。
【0051】
分離膜10を構成する材料は、被処理水14に対して耐食性を有し、ろ過に耐えうる強度を有していれば、特に限定されるものではない。分離膜10は、例えば、SUSのような合金、チタン、ニッケルのような金属、ポリエチレンやポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレン、ポリイミド、フッ素樹脂のような樹脂などから構成される。分離膜10を構成する材料は、孔11および凹凸構造の形成方法、被処理水14、除去対象物、および凝集剤の種類、ろ過条件などによって、適宜選択される。
【0052】
分離膜10の厚さは、5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。ここで、分離膜10の厚さとは、分離膜10の表面に垂直な方向における、分離膜10の表面に向かい合う裏面と表面との最短距離、すなわち、分離膜10の裏面と凸部13の表面との最短距離である。分離膜10の厚さが5μmよりも小さいと、分離膜10の強度が低下することがある。そのため、分離膜10に孔11および凹凸構造を高精度で安定して形成することができないことや、分離膜10がろ過時の水圧によって破損することがある。また、分離膜10の厚さが100μmよりも大きいと、孔11および凹凸構造の形成が困難になることがある。
【0053】
次に、第1の実施の形態の水処理装置7を備えると共に第1の実施の形態の水処理方法を用いる水処理設備1で行われる工程について説明する。ここでは、被処理水貯留部2、凝集処理部3、第1付着力抑制機構4、分離部5、処理水貯留部6の各々が別々の槽に設けられる一例を示す。
【0054】
図8は、水処理装置7を備える水処理設備1で行われる工程を示す工程図である。
図8に示すように、水処理設備1で行われる工程は、凝集工程S10と、付着力抑制工程S20と、分離工程S30とを有する。
【0055】
図1に示すように、水処理設備1では、除去対象物を含む被処理水14が被処理水貯留部2に貯留されている。除去対象物を含む被処理水14は、被処理水貯留部2から排出される。
【0056】
図1および
図8に示すように、被処理水貯留部2を排出した被処理水14は、凝集処理部3に供給される。凝集処理部3では、凝集工程S10が行われる。凝集工程S10は、除去対象物を含む被処理水14に凝集剤を添加して、除去対象物と凝集剤とから構成される凝集物9を生成させる。こうして、凝集物9を含む被処理水14が得られる。凝集物9を含む被処理水14は、凝集処理部3から排出される。
【0057】
凝集処理部3を排出した凝集物9を含む被処理水14は、第1付着力抑制機構4に供給される。第1付着力抑制機構4では、付着力抑制工程S20が行われる。付着力抑制工程S20は、分離膜10に対する凝集物9の付着力を抑制する。付着力抑制工程S20を行った凝集物9を含む被処理水14は、第1付着力抑制機構4から排出される。
【0058】
第1付着力抑制機構4を排出した凝集物9を含む被処理水14は、分離部5に供給される。分離部5では、分離工程S30が行われる。分離工程S30は、凝集物9を含む被処理水14を分離膜10でろ過して、被処理水14から凝集物9を分離する。被処理水14のろ過時に、例えば窒素のような不活性ガスや圧縮空気などによって所定の圧力を被処理水14に付与すると、被処理水14は、一定圧力または一定流量で、分離膜10に供給される。分離工程S30において、分離膜10が被処理水14をろ過すると、被処理水14中の凝集物9が分離膜10によって除去されて、処理水15が生成される。処理水15は、分離部5から排出される。
【0059】
分離部5を排出した処理水15は、処理水貯留部6に供給される。処理水貯留部6に貯留している処理水15は、別途の洗浄処理などを施さずに、河川などに流すことができる。例えば、処理水15に含まれる除去対象物と凝集物との合計の濃度は、10ppm以下である。
【0060】
次に、第1の実施の形態の水処理方法について説明する。
【0061】
第1の実施の形態の水処理方法は、
図2に示すように、凝集物9を含有する被処理水14から分離膜10を介して凝集物9を分離する。この水処理方法は、付着力抑制工程S20と、分離工程S30とを有する。
【0062】
付着力抑制工程S20は、被処理水14中の凝集物9に施される。付着力抑制工程S20では、除去対象物および凝集剤から構成される凝集物9の分離膜10に対する付着力が低下する。付着力抑制工程S20は、第1付着力抑制機構4を備える槽で行われる。
【0063】
分離工程S30は、分離膜10を介して、分離膜10に対する付着力の抑制された凝集物9を被処理水14から分離する。分離部5に取り付けられている分離膜10は、被処理水14中の凝集物9との付着力を抑制する第2付着力抑制機構8を有する。分離工程S30は、分離部5を備える槽で行われる。
【0064】
ここで、分離部5には、分離膜10に対する付着力の低下した凝集物9を含むと共に第1付着力抑制機構4を排出した被処理水14が供給される。また、分離部5には、凝集物9との付着力を低下した分離膜10が取り付けられている。そして、凝集物9および分離膜10に働く付着力が低下するので、凝集物9は分離膜10の表面に付着しにくくなり、ろ過時間の経過と共に増加する分離膜10上への凝集物9の付着量は、従来よりも抑制される。このように、分離膜10に対する凝集物9の付着量の増加は抑制されることから、分離膜10に付着した凝集物9によって孔11が閉塞される時間は、従来よりも長くなる。そのため、凝集物9による孔11の詰りに起因する分離膜10のろ過速度の経時的な低下は、従来よりも抑制される。
【0065】
さらに、分離膜10の孔11が凝集物9によって閉塞されている場合や分離膜10のろ過速度が凝集物9によって低下している場合であっても、逆洗や薬品洗浄を分離膜10に施すことによって、分離膜10の表面に付着して孔11を閉塞している凝集物9は、従来よりも容易に分離膜10の表面から除去される。凝集物9が分離膜10の表面から除去されると、被処理水14の透過性が回復するので、分離膜10のろ過速度の低下は解消される。ここで、上述したように凝集物9および分離膜10に働く付着力が低下するので、分離膜10の洗浄回復性は向上する。そのため、分離膜10の洗浄によって、従来よりも、分離膜10の表面に付着している凝集物9を分離膜10から容易に除去できると共に、分離膜10の洗浄後に分離膜10の表面に残留する凝集物9の付着量を低下できる。そのため、分離膜10の洗浄後における分離膜10のろ過速度は、未使用の分離膜10の使用開始時におけるろ過速度近くまで増加する。
【0066】
なお、第1付着力抑制機構4および分離部5は、別々の槽に設けられてもよいが、1つの槽に設けられてもよい。
【0067】
上記したように、第1の実施の形態の水処理装置および水処理方法によれば、被処理水14に含まれる凝集物9の分離膜10に対する付着力を低下させると共に、分離膜10における凝集物9との付着力を低下させることができる。このように、凝集物9および分離膜10の付着力は低下する。そのため、分離膜10に形成される孔11の閉塞を抑えることができるので、分離膜10のろ過速度の経時的な低下を抑制させることができる。さらに、定期的に分離膜10の洗浄を行うことによって、分離膜10のろ過速度の低下を解消させて、分離膜10のろ過速度を回復させることができる。
【0068】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態の水処理装置および水処理方法において、第2付着力抑制機構の構成が異なる以外は、第1の実施の形態の水処理装置および水処理方法の構成と基本的に同じである。そのため、ここでは、その異なる構成について主に説明する。なお、以下に示す実施の形態において、第1の実施の形態の水処理装置および水処理方法の構成と重複する説明を省略または簡略する。
【0069】
第2の実施の形態の水処理装置は、第1付着力抑制機構と第2付着力抑制機構を有する分離膜とを備える。そして、第2付着力抑制機構は、分離膜の表面に形成される親水部を備える。表面に形成される親水部とは、親水化処理されている表面の部分である。
【0070】
分離膜の表面形状は、特に限定されるものではない。すなわち、第2付着力抑制機構は、
図2に示すような凹部12および凸部13から構成される凹凸構造を具備する分離膜の表面に形成される親水部を備えてもよいし、凹凸構造を具備しない平滑な分離膜の表面に形成される親水部を備えてもよい。換言すると、凹凸構造を具備する分離膜の表面が親水化処理されていてもよいし、凹凸構造を具備しない平滑な分離膜の表面が親水化処理されていてもよい。
【0071】
分離膜の親水化処理は、特に限定されるものではなく、既知の方法によって処理される。例えば、分離膜の表面にガラスのような親水性材料をコーティングする親水化コーティング、分離膜の表面をプラズマや電子線などで改質する表面改質などによって、第2付着力抑制機構の親水部が分離膜の表面に形成される。
【0072】
分離膜の親水化は、例えば、分離膜の表面における水の接触角によって測定することができる。ここで、水の接触角とは、水の液滴の自由表面と分離膜の表面との接点における、水の液滴の接線と分離膜の表面とのなす角のうち、水の液滴を含む側の角である。水の接触角は、接触角計で測定することができる。
【0073】
図9は、第2の実施の形態の水処理装置における、親水化処理前および親水化処理後の分離膜の表面における水の接触角を示すグラフである。ここでは、SUSから構成され、凹凸構造を具備せずに平滑な表面を有する分離膜の表面にガラスをコーティングすることによって、分離膜の表面を親水化処理した。
【0074】
親水化処理前の分離膜、すなわち第2付着力抑制機構を備えない分離膜では、水の接触角が約80度であった。また、親水化処理後の分離膜、すなわち第2付着力抑制機構を備える分離膜では、水の接触角が約10度であった。このように、分離膜の表面に親水化コーティングを施すことによって、親水部を備える第2付着力抑制機構が分離膜の表面に形成されることが示唆された。
【0075】
図10は、第2の実施の形態の水処理装置における、分離膜の表面における水の接触角と、分離膜の洗浄エネルギとの関係を示すグラフである。分離膜の洗浄エネルギとは、分離膜の表面に付着している凝集物を分離膜の表面から除去するために必要なエネルギである。洗浄エネルギが小さいと、分離膜における凝集物との付着力は小さいとみなすことができ、分離膜の孔の閉塞が抑制される。また、有機系凝集物とは、樹脂などの有機系材料から構成される非ゲル状の凝集物であり、無機系凝集物とは、粘土などの無機系材料から構成される非ゲル状の凝集物であり、水溶系凝集物とは、ゲル状の凝集物である。
【0076】
図10に示すように、分離膜の洗浄エネルギは、分離膜における水の接触角の変化に応じて、線形的に変化する。そして、水の接触角が小さいほど、分離膜の洗浄エネルギは小さく、分離膜の孔の閉塞が抑制される。
【0077】
被処理水に含まれる凝集物の種類や、分離膜に適用する洗浄方法の洗浄エネルギなどを考慮して、分離膜の親水化処理の程度を適宜設定する。複数種類の凝集物が被処理水に含まれる場合であっても、水の接触角を小さくすることによって、分離膜から凝集物を容易に除去することができる。
【0078】
上記したように、第2の実施の形態の水処理装置および水処理方法によれば、分離膜の表面に形成される親水部を具備する第2付着力抑制機構を有する分離膜を備える。分離膜の表面における水の接触角が小さいほど、分離膜の洗浄エネルギは小さくなり、分離膜の洗浄性は向上する。このように、親水部を備える第2付着力抑制機構を有する分離膜を用いることによって、分離膜の洗浄を容易に行うことができるため、分離膜のろ過速度の経時的な低下を解消させて、分離膜のろ過速度を回復させることができる。
【0079】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態の水処理装置および水処理方法において、第2付着力抑制機構の構成が異なる以外は、第1の実施の形態の水処理装置および水処理方法の構成と基本的に同じである。そのため、ここでは、その異なる構成について主に説明する。
【0080】
第3の実施の形態の水処理装置は、第1付着力抑制機構と第2付着力抑制機構を有する分離膜とを備える。そして、第2付着力抑制機構は、分離膜の表面に形成される被帯電部を備える。表面に形成される被帯電部とは、電荷が付与されている表面の部分である。
【0081】
例えば、正の電荷が分離膜の表面に付与され、被処理水に含まれる凝集物の電荷が正である場合、第2付着力抑制機構の被帯電部および凝集物の間には、斥力の静電気力が作用する。そのため、分離膜における凝集物との付着力は小さくなり、分離膜の孔の閉塞が抑制される。一方、例えば、負の電荷が分離膜の表面に付与され、凝集物の電荷が正である場合、第2付着力抑制機構の被帯電部および凝集物の間には、引力の静電気力が作用する。そのため、分離膜における凝集物との付着力は大きくなる。
【0082】
このように、凝集物の電荷の極性と同じ極性の電荷を分離膜の表面に付与して被帯電部を形成することによって、第2付着力抑制機構の被帯電部と凝集物との間には、斥力の静電気力が働く。そのため、分離膜における凝集物との付着力を低下することができる。さらには、分離膜への凝集物の付着を抑制することができる。
【0083】
分離膜の表面状態は、特に限定されるものではない。すなわち、第2付着力抑制機構は、凹部12および凸部13から構成される凹凸構造を備えてもよいし、凹凸構造を備えなくてもよい。また、第2付着力抑制機構は、親水部を備えてもよいし、親水部を備えなくてもよい。
【0084】
分離膜の表面への電荷付与は、特に限定されるものではなく、既知の方法によって処理される。例えば、分離膜の表面に金属酸化物のような帯電付与材料をコーティングする帯電付与コーティングなどによって、第2付着力抑制機構の被帯電部が分離膜の表面に形成される。
【0085】
また、分離膜の表面への電荷付与は、物質を水中に浸漬することによって、物質の表面が所定の極性および電荷量で帯電する性質を利用してもよい。すなわち、分離膜を構成する材料の種類に応じて、被処理水中の分離膜の極性および帯電量が決まる。そのため、このような性質を利用して第2付着力抑制機構の被帯電部を形成する場合、分離膜に付与させたい極性および電荷量を基に、分離膜を構成する材料を選択する。
【0086】
分離膜の電荷は、例えば、分離膜の表面電荷密度によって測定することができる。分離膜の表面電荷密度は、ゼータ電位で測定することができる。
【0087】
図11は、第3の実施の形態の水処理装置における、分離膜の表面電荷密度と、分離膜および凝集物の間に働く静電気力との関係を示すグラフである。ここでは、被処理水中に含まれる凝集物が1.0×10
−4(C/m
2)で帯電している一例を示している。
【0088】
分離膜の表面電荷密度が0である場合、分離膜の表面には、電荷が付与されておらず、被帯電部が形成されていない。分離膜の表面電荷密度が正である場合、分離膜の表面には、正の電荷が付与されており、正に帯電している被帯電部が形成されている。分離膜の表面電荷密度が負である場合、分離膜の表面には、負の電荷が付与されており、負に帯電している被帯電部が形成されている。
【0089】
また、静電気力が0である場合、分離膜および凝集物の間には、静電気力が作用しない。静電気力が正である場合、正に帯電している被帯電部を備える分離膜および正に帯電している凝集物の間には、斥力の静電気力が作用する。静電気力が負である場合、負に帯電している被帯電部を備える分離膜および正に帯電している凝集物の間には、引力の静電気力が作用する。すなわち、静電気力が大きくなるにつれて、分離膜における凝集物との付着力は小さくなり、静電気力が小さくなるにつれて、分離膜における凝集物との付着力は大きくなる。
【0090】
図11に示すように、分離膜と凝集物との間に働く静電気力は、分離膜の表面電荷密度の変化に応じて、線形的に変化する。そして、分離膜の表面電荷密度が大きいほど、斥力の静電気力は大きい。凝集物の電荷の極性および量を考慮して、分離膜の表面電荷密度を適宜設定する。例えば、凝集物の電荷が負である場合には、分離膜の表面に負の電荷を付与することによって、負に帯電している被帯電部を備える第2付着力抑制機構が形成されるので、斥力の静電気力が分離膜の第2付着力抑制機構および凝集物の間に作用する。そのため、分離膜における凝集物との付着力は小さくなる。すなわち、凝集物の電荷の極性と同じ極性の電荷を分離膜の表面に付与して被帯電部を形成することによって、被帯電部を備える第2付着力抑制機構における凝集物との付着力を低下させることができる。
【0091】
上記したように、第3の実施の形態の水処理装置および水処理方法によれば、分離膜の表面に形成される被帯電部を具備する第2付着力抑制機構を有する分離膜を備える。例えば被処理水中の凝集物が正に帯電している場合、分離膜における正の表面電荷密度が大きいほど、分離膜と凝集物との間に働く斥力の静電気力が増加するので、分離膜における凝集物との付着力は低下し、分離膜の孔の閉塞は抑制される。このように、被処理水に含まれる凝集物の電荷の極性および量に応じて、分離膜の表面に付与する電荷の極性および量を調整することによって、分離膜における凝集物との付着力を低下させると共に、分離膜への凝集物の付着量を減少させることができる。さらには、分離膜の洗浄性を向上させることができる。そのため、分離膜に形成される孔の閉塞を抑えることができるので、分離膜のろ過速度の経時的な低下を抑制させることができる。さらに、被帯電部を備える第2付着力抑制機構を有する分離膜を用いることによって、分離膜の洗浄を容易に行うことができるので、分離膜のろ過速度の経時的な低下を解消させて、分離膜のろ過速度を回復させることができる。
【0092】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態の水処理装置および水処理方法において、第1付着力抑制機構の構成が異なる以外は、第1の実施の形態の水処理装置および水処理方法の構成と基本的に同じである。そのため、ここでは、その異なる構成について主に説明する。
【0093】
第4の実施の形態の水処理装置は、第1付着力抑制機構と第2付着力抑制機構を有する分離膜とを備える。そして、第1付着力抑制機構は、被処理水に含まれる凝集物を球形化する球形化処理部を備える。
【0094】
球形化処理部を備える第1付着力抑制機構が凝集物を球形化処理すると、凝集物は球状に加工される。凝集物の形状が真球に近いほど、ろ過抵抗は低下するので、ろ過時の被処理水の流速は向上する。そのため、ろ過速度は短くなる。また、凝集物の形状が真球に近いほど、分離膜と凝集物との接触面積は減少するので、分離膜に対する凝集物の付着力は低下する。そのため、分離膜の孔の閉塞が抑制されると共に、分離膜の洗浄性は向上する。
【0095】
凝集物の球形化は、特に限定されるものではなく、既知の方法によって処理される。例えば、転動造粒機のように凝集物を転動させる装置やシステムを用いることによって、凝集物の球形化が行われる。また、球形化の処理時間や凝集剤の量などを変化させることによって、球形化される凝集物の形状を制御することができる。
【0096】
凝集物の形状は、例えば、長軸と短軸との比率を表すアスペクト比、真球度などによって測定することができる。アスペクト比や真球度は、凝集物の画像処理によって測定することができる。
【0097】
図12は、第4の実施の形態の水処理装置における、凝集物の真球度と、分離膜および凝集物の間の付着力との関係を示すグラフである。
【0098】
図12に示すように、凝集物の真球度が小さくなるにつれて、付着力が低下する。そして、凝集物の真球度が0
μmのとき、付着力は最も低い。このように、球形化処理部が凝集物を球形化することによって、分離膜に対する凝集物の付着力が低下する。そのため、分離膜の孔の閉塞が抑制されると共に、分離膜の洗浄性は向上する。
【0099】
上記したように、第4の実施の形態の水処理装置および水処理方法によれば、凝集物を球形化する球形化処理部を有する第1付着力抑制機構を備える。凝集物の形状が真球になるほど、分離膜に対する凝集物の付着力は低下し、分離膜の孔の閉塞が抑制される。このように、球形化処理部が凝集物を球形化することによって、分離膜の洗浄を容易に行うことができるため、分離膜のろ過速度の経時的な低下を解消させて、分離膜のろ過速度を回復させることができる。
【0100】
なお、凝集処理部と球形化処理部を有する第1付着力抑制機構とを別々の槽に設けて、凝集処理部で行う凝集処理を実施した後に、第1付着力抑制機構で行う球形化処理を実施してもよいが、凝集処理部と球形化処理部を有する第1付着力抑制機構とを同じ槽に設けて、凝集処理部で行う凝集処理と第1付着力抑制機構で行う球形化処理とを同時に実施してもよい。
【0101】
(第5の実施の形態)
第5の実施の形態の水処理装置および水処理方法において、第1付着力抑制機構の構成が異なる以外は、第1の実施の形態の水処理装置および水処理方法の構成と基本的に同じである。そのため、ここでは、その異なる構成について主に説明する。
【0102】
第5の実施の形態の水処理装置は、第1付着力抑制機構と第2付着力抑制機構を有する分離膜とを備える。そして、第1付着力抑制機構は、被処理水に含まれる凝集物を圧密化する圧密化処理部を備える。
【0103】
ここで、一般的に、除去対象物と凝集剤とから構成される凝集物は、ゲル状であり、多量の水分を含有するので、変形しやすい状態である。そのため、凝集物は、ろ過時の圧力によって変形することがある。凝集物が変形すると、ろ過抵抗が増加するので、ろ過時の被処理水の流速は低下する。また、凝集物が変形すると、分離膜と凝集物との接触面積が増加するので、分離膜に対する凝集物の付着力は増加すると共に分離膜の孔は閉塞されやすくなる。
【0104】
圧密化処理部を備える第1付着力抑制機構が凝集物を圧密化処理すると、凝集物は高密度化されて、圧密化される。圧密化された凝集物は、変形しやすい状態から変形しにくい状態に変わる。そのため、ろ過時の流速の低下、凝集物の付着力の増加、孔の閉塞などは抑制される。
【0105】
凝集物の圧密化は、特に限定されるものではなく、既知の方法によって処理される。例えば、所定の撹拌強度以上、例えば一般的な水処理の撹拌で適用される75(1/s)以上のG値を与えながら撹拌することによって、凝集物の圧密化が行われる。また、攪拌強度、撹拌時間、凝集剤の量などを変化させることによって、凝集物の圧密化の状態を制御することができる。
【0106】
凝集物の圧密化の状態は、例えば、凝集物の画像処理、沈降速度などの一般的な測定方法によって測定することができる。
【0107】
図13は、第5の実施の形態の水処理装置における、凝集物の圧密率と、分離膜および凝集物の間の付着力との関係を示すグラフである。
【0108】
図13に示すように、凝集物の圧密率が大きくなるにつれて、付着力が低下する。このように、圧密化処理部が凝集物を圧密化することによって、分離膜に対する凝集物の付着力が低下する。そのため、分離膜の孔の閉塞が抑制されると共に、分離膜の洗浄性は向上する。
【0109】
上記したように、第5の実施の形態の水処理装置および水処理方法によれば、凝集物を圧密化する圧密化処理部を有する第1付着力抑制機構を備える。凝集物の圧密率が大きいほど、分離膜に対する凝集物の付着力は低下し、分離膜の孔の閉塞が抑制される。このように、圧密化処理部が凝集物を圧密化することによって、分離膜の洗浄を容易に行うことができるため、分離膜のろ過速度の経時的な低下を解消させて、分離膜のろ過速度を回復させることができる。
【0110】
なお、凝集処理部と圧密化処理部を有する第1付着力抑制機構とを別々の槽に設けて、凝集処理部で行う凝集処理を実施した後に、第1付着力抑制機構で行う圧密化処理を実施してもよいが、凝集処理部と圧密化処理部を有する第1付着力抑制機構とを同じ槽に設けて、凝集処理部で行う凝集処理と第1付着力抑制機構で行う圧密化処理とを同時に実施してもよい。
【0111】
また、第1付着力抑制機構は、圧密化処理部に加えて、上記の球形化処理部を備えてもよい。第1付着力抑制機構が球形化処理部および圧密化処理部を備える場合、球形化処理および圧密化処理を実施する順番は特に限定されるものではなく、球形化処理を実施した後に圧密化処理を実施してもよいし、圧密化処理を実施した後に球形化処理を実施してもよいし、球形化処理および圧密化処理を同時に実施してもよい。好ましくは、圧密化処理を実施した後に球形化処理を実施する。
【0112】
(第6の実施の形態)
第6の実施の形態の水処理装置および水処理方法において、第1付着力抑制機構の構成が異なる以外は、第1の実施の形態の水処理装置および水処理方法の構成と基本的に同じである。そのため、ここでは、その異なる構成について主に説明する。
【0113】
第6の実施の形態の水処理装置は、第1付着力抑制機構と第2付着力抑制機構を有する分離膜とを備える。そして、第1付着力抑制機構は、被処理水に含まれる凝集物の粒径を制御する粒径制御部を備える。
【0114】
ここで、一般的に、除去対象物と凝集剤とから構成される凝集物において、粒径すなわち直径は不均一である。粒径の不均一な凝集物については、大きな粒径を有する凝集物の間に小さな粒径を有する凝集物が入り込むことによって、大きな粒径を有する凝集物よりも大きい粗大な凝集物が生じることがある。このような粗大な凝集物が生成されると、ろ過抵抗が増加するので、ろ過時の被処理水の流速は低下する。また、小さな粒径を有する凝集物は、分離膜の孔によって捕捉されずに、孔を通過することがあるため、分離膜による凝集物の捕捉率が低下することがある。さらには、小さな粒径を有する凝集物が孔に入り込み、孔の内周面に付着することによって、孔が閉塞することがある。
【0115】
粒径制御部を備える第1付着力抑制機構が凝集物の粒径を制御すると、凝集物は所望の粒径になるように加工され、凝集物の粒径は制御されて均一化される。凝集物の粒径が均一になると、上述したような粗大な凝集物の生成が抑制されると共に、小さな粒径を有する凝集物の量が減少する。そのため、ろ過時の流速の低下、凝集物の捕捉率の低下、孔の閉塞などは抑制される。
【0116】
凝集物の粒径制御は、特に限定されるものではなく、既知の方法によって処理される。例えば、攪拌することによって、凝集物の粒径制御処理が行われる。例えば、攪拌強度を弱く、攪拌時間を長く、凝集剤の量を増やす事により大きな粒径を得る。逆に小さい粒径を得たい際には、その逆の操作を行うなど、攪拌強度、撹拌時間、凝集剤の量などを変化させることによって、凝集物の粒径を制御することができる。
【0117】
凝集物の粒径は、例えば、レーザー回折法、動的光散乱法、画像処理などの一般的な測定方法によって測定することができる。
【0118】
図14は、第6の実施の形態の水処理装置における、ピッチの大きさ/凝集物の粒径と、分離膜および凝集物の間のファンデルワールス力との関係を示すグラフである。ここで、ピッチの大きさ/凝集物の粒径とは、大きさの均一な複数の半球状の凸部が均一なピッチで分離膜の表面に形成しているときの、粒径を制御した凝集物の粒径に対するピッチの大きさの比である。また、分離膜の表面において、凸部の形成されていない部分は、平滑な表面である。
【0119】
例えば、ピッチの大きさ/凝集物の粒径の値が1.00以上であるとき、凝集物の粒径はピッチの大きさ以下であるので、凝集物は分離膜の平滑な表面に接触する。一方、ピッチの大きさ/凝集物の粒径の値が1.00よりも小さいとき、凝集物の粒径はピッチの大きさよりも大きいので、凝集物は分離膜の平滑な表面には接触せずに凸部に点接触する。
【0120】
図14に示すように、ピッチの大きさ/凝集物の粒径の値が1.00未満のとき、ピッチの大きさ/凝集物の粒径の値が大きくなるにつれて、ファンデルワールス力が低下する。そして、ピッチの大きさ/凝集物の粒径の値が1.00以上になると、ファンデルワールス力は急激に増加する。このように、分離膜の凹凸構造の大きさに応じて、粒径制御部が凝集物の粒径を制御することによって、分離膜に対する凝集物の付着力が低下する。そのため、分離膜の孔の閉塞が抑制されると共に、分離膜の洗浄性は向上する。
【0121】
上記したように、第6の実施の形態の水処理装置および水処理方法によれば、凝集物の粒径を制御する粒径制御部を有する第1付着力抑制機構を備える。粒径を制御した凝集物の粒径がピッチの大きさよりも大きい場合において、凝集物の粒径がピッチの大きさに近づくほど、分離膜に対する凝集物の付着力は低下し、分離膜の孔の閉塞が抑制される。このように、分離膜の凹凸構造の大きさに応じて、粒径制御部が凝集物の粒径を制御することによって、分離膜の洗浄を容易に行うことができるため、分離膜のろ過速度の経時的な低下を解消させて、分離膜のろ過速度を回復させることができる。
【0122】
なお、凝集処理部と粒径制御部を有する第1付着力抑制機構とを別々の槽に設けて、凝集処理部で行う凝集処理を実施した後に、第1付着力抑制機構で行う粒径制御処理を実施してもよいが、凝集処理部と粒径制御部を有する第1付着力抑制機構とを同じ槽に設けて、凝集処理部で行う凝集処理と第1付着力抑制機構で行う粒径制御処理とを同時に実施してもよい。
【0123】
また、第1付着力抑制機構は、粒径制御部に加えて、上記の球形化処理部および圧密化処理部の少なくとも1つを備えてもよい。第1付着力抑制機構が球形化処理部、圧密化処理部、および粒径制御部を備える場合、球形化処理、圧密化処理、および粒径制御処理を実施する順番は特に限定されるものではなく、球形化処理と圧密化処理と粒径制御処理とを同時に実施してもよい。
【0124】
(第7の実施の形態)
第7の実施の形態の水処理装置および水処理方法において、第1付着力抑制機構の構成が異なる以外は、第1の実施の形態の水処理装置および水処理方法の構成と基本的に同じである。そのため、ここでは、その異なる構成について主に説明する。
【0125】
第7の実施の形態の水処理装置は、第1付着力抑制機構と第2付着力抑制機構を有する分離膜とを備える。そして、第1付着力抑制機構は、被処理水に含まれる凝集物の表面電位を制御する表面電位制御部を備える。
【0126】
ここで、一般的に、
図1に示す凝集処理部3で行われる凝集処理では、除去対象物の表面電位の極性と逆の極性を有する凝集剤を被処理水に添加して、除去対象物の表面電位を電気的に中和させることによって、除去対象物を凝集させている。そのため、除去対象物と凝集剤とから構成される凝集物の表面電位は0に近く、凝集物は分離膜に付着しやすい状態である。このような状態の凝集物が分離膜によってろ過されると、凝集物が容易に分離膜に付着することがあるので、ろ過時における被処理水の流速の低下、分離膜の洗浄性の低下、分離膜に形成されている孔の閉塞などを引き起こす可能性がある。
【0127】
表面電位制御部を備える第1付着力抑制機構が凝集物の表面電位を制御して、凝集物の表面電位の極性を分離膜の極性と同じにさせると、凝集物と分離膜との間には、斥力が働く。斥力が凝集物と分離膜との間に作用すると、分離膜に対する凝集物の付着力は低下する。そのため、ろ過時の流速の低下、分離膜の洗浄性の低下、孔の閉塞などは抑制される。さらには、凝集物の極性と分離膜の極性が同じ場合において、凝集物の表面電位を増加させるにつれて、凝集物と分離膜との間に働く斥力が増加する。
【0128】
凝集物の表面電位の制御は、特に限定されるものではなく、既知の方法によって処理される。例えば、被処理水のpHを変化させることによって、凝集物の表面電位の制御処理が行われる。また、凝集物を含む被処理水に、凝集物の表面電位を制御する電位制御剤を添加することによっても、凝集物の表面電位の制御処理が行われる。電位制御剤は、分離膜の極性に応じて、適宜選択される。分離膜が正の極性を有する場合、カチオン系電位制御剤を被処理水に添加して、凝集物の表面電位を正に帯電させる。また、分離膜が負の極性を有する場合、アニオン系電位制御剤を被処理水に添加して、凝集物の表面電位を負に帯電させる。
【0129】
凝集物の表面電位は、例えば、顕微鏡電気泳動法、回転回折格子法、レーザー・ドップラー電気泳動法などの一般的な測定方法によって測定することができる。
【0130】
凝集物の表面電位の極性が分離膜の表面電位の極性と同じになるように、表面電位制御部が凝集物の表面電位を制御することによって、分離膜に対する凝集物の付着力が低下する。そのため、分離膜の孔の閉塞が抑制されると共に、分離膜の洗浄性は向上する。さらに、凝集物の極性と分離膜の極性が同じ場合において、凝集物の表面電位の大きさが増加すると、分離膜に対する凝集物の付着力はさらに低下する。
【0131】
上記したように、第7の実施の形態の水処理装置および水処理方法によれば、凝集物の表面電位を制御する表面電位制御部を有する第1付着力抑制機構を備える。凝集物の表面電位の極性と分離膜の表面電位の極性とが同じであり、さらには、凝集物の表面電位が大きいほど、分離膜に対する凝集物の付着力は低下し、分離膜の孔の閉塞が抑制される。このように、分離膜の表面電位に応じて、表面電位制御部が凝集物の表面電位を制御することによって、分離膜の洗浄を容易に行うことができるため、分離膜のろ過速度の経時的な低下を解消させて、分離膜のろ過速度を回復させることができる。
【0132】
なお、凝集処理部と表面電位制御部を有する第1付着力抑制機構とを別々の槽に設けて、凝集処理部で行う凝集処理を実施した後に、第1付着力抑制機構で行う表面電位制御処理を実施してもよいが、凝集処理部と表面電位制御部を有する第1付着力抑制機構とを同じ槽に設けて、凝集処理部で行う凝集処理と第1付着力抑制機構で行う表面電位制御処理とを同時に実施してもよい。
【0133】
また、第1付着力抑制機構は、表面電位制御部に加えて、上記の球形化処理部、圧密化処理部、および粒径制御部の少なくとも1つを備えてもよい。第1付着力抑制機構が球形化処理部、圧密化処理部、粒径制御部、および表面電位制御部を備える場合、球形化処理、圧密化処理、粒径制御処理、および表面電位制御処理を実施する順番は特に限定されるものではなく、球形化処理と圧密化処理と粒径制御処理と表面電位制御処理とを同時に実施してもよい。
【0134】
以上説明した少なくとも一つの実施の形態によれば、分離膜と被処理水に含まれる凝集物との付着力を抑制し、分離膜への凝集物の付着および凝集物による分離膜の孔の閉塞を抑制させることができると共に、分離膜の洗浄性を向上させることができる水処理装置および水処理方法を提供することができる。
【0135】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。