特許第6873638号(P6873638)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873638
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】ガスセンサ及びガス検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/02 20060101AFI20210510BHJP
【FI】
   G01N5/02 A
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-185086(P2016-185086)
(22)【出願日】2016年9月23日
(65)【公開番号】特開2018-48930(P2018-48930A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2019年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(72)【発明者】
【氏名】下舞 賢一
(72)【発明者】
【氏名】服部 将志
(72)【発明者】
【氏名】尾下 順二
【審査官】 北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−044625(JP,A)
【文献】 特開2009−250896(JP,A)
【文献】 特開平06−265459(JP,A)
【文献】 特開2009−229353(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/140321(WO,A1)
【文献】 特開平9−229841(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3094415(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1の振動子と、前記第1の振動子上に設けられた特定のガスを吸着する第1の吸着膜とを有し、前記ガスの吸着により共振周波数変化を生じる第1の検出素子と、
前記第1の振動子と同一の振動特性を有する第2の振動子と、前記第2の振動子上に設けられた前記ガスの水分を吸着する第2の吸着膜とを有し、前記水分により共振周波数変化を生じる第2の検出素子と、
前記第1の振動子と同一の振動特性を有する、共振周波数が温度変化に対して直線的に変化する第3の振動子を有し、前記ガスの温度により共振周波数変化を生じる第3の検出素子と、
前記第2の検出素子の共振周波数変化を前記第3の検出素子の共振周波数変化を基に補正し、この補正結果と前記第3の検出素子の共振周波数変化を基に、前記第1の検出素子の共振周波数変化を補正する演算部と
を具備するガスセンサ。
【請求項2】
請求項に記載のガスセンサであって、
前記第1の振動子及び前記第2の振動子は、ATカット水晶板からなり、
前記第3の振動子は、水晶板からなる
ガスセンサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガスセンサであって、
前記第1の振動子には電極が形成され、
前記第2の振動子は、前記第1の振動子と同じ直径及び厚さの振動子であり、前記第2の振動子に形成される電極は、前記第1の振動子に形成される電極と同じ材質、厚さ及びパターン形状であり、
前記第3の振動子は、前記第1の振動子と同じ直径及び厚さの振動子であり、前記第3の振動子に形成される電極は、前記第1の振動子に形成される電極と同じ材質、厚さ及びパターン形状である
ガスセンサ。
【請求項4】
請求項1から3いずれか1項に記載のガスセンサであって、
前記第1の振動子と同一の振動特性を有する第4の振動子と、前記第4の振動子上に設けられた前記ガスとは異なる特定のガスを吸着する第4の吸着膜とを有し、前記ガスとは異なる特定のガスの吸着により共振周波数変化を生じる第4の検出素子を更に具備し、
前記演算部は、前記第2の検出素子の共振周波数変化を前記第3の検出素子の共振周波数変化を基に補正し、この補正結果と前記第3の検出素子の共振周波数変化を基に、前記第4の検出素子の共振周波数変化を補正する
ガスセンサ。
【請求項5】
1の振動子と前記第1の振動子上に設けられた特定のガスを吸着する第1の吸着膜とを有する第1の検出素子の前記ガスの吸着による共振周波数変化を検出し、
前記第1の振動子と同一の振動特性を有する第2の振動子と前記第2の振動子上に設けられた前記ガスの水分を吸着する第2の吸着膜とを有する第2の検出素子の前記水分による共振周波数変化を検出し、
前記第1の振動子と同一の振動特性を有する、共振周波数が温度変化に対して直線的に変化する第3の振動子を有する第3の検出素子の前記ガスの温度による共振周波数変化を検出し、
前記第3の検出素子の検出結果を基に前記第2の検出素子の検出結果を補正し、
前記補正結果と、前記第3の検出素子の検出結果を基に、前記第1の検出素子の検出結果を補正し、
前記補正された前記第1の検出素子の検出結果から前記ガスを特定する
ガス検出方法。
【請求項6】
請求項5に記載のガス検出方法であって、
前記第1の振動子及び前記第2の振動子は、ATカット水晶板からなり、
前記第3の振動子は、水晶板からなる
ガス検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度、湿度の影響を補償することができるガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
温度、湿度の影響を補償するガスセンサとして、例えば特許文献1には、ガスセンサのゼロ点を標準ガスを用いて校正して被測定ガスの測定を行うガス測定装置が記載されている。このガス測定装置では、温度センサ及び湿度センサを用いて被測定ガスと標準ガスの温湿度を測定し、これらの温度差及び湿度差に基づく影響分と匂いセンサのオフセット成分とを匂いセンサの出力から減算することにより、標準ガスと被測定ガスとの湿度差及び温度差による測定誤差を補償している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−174673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のガス測定装置においては、標準ガスと被測定ガスの2種類のガスを測定するので、標準ガス発生手段が必要となり、装置が大掛かりになってしまう。また、匂いセンサ、温度センサおよび湿度センサの出力特性が異なると、リアルタイムで温度および湿度を補償することができなくなるため、例えば、瞬時に流れる被検出ガスを精度よく検出することができないという問題がある。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、構成の簡素化を図りつつ、瞬時に流れる被検出ガスでも精度よく検出することができるガスセンサ及びそれを用いたガス検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るガスセンサは、第1の検出素子と、第2の検出素子と、第3の検出素子と、演算部とを具備する。
上記第1の検出素子は、所定の構造を有する第1の振動子と、上記第1の振動子上に設けられた特定のガスを吸着する第1の吸着膜とを有し、上記ガスの吸着により共振周波数変化を生じる。
上記第2の検出素子は、上記所定の構造を有する第2の振動子と、上記第2の振動子上に設けられた上記ガスの水分を吸着する第2の吸着膜とを有し、上記水分により共振周波数変化を生じる。
上記第3の検出素子は、上記所定の構造を有する第3の振動子を有し、上記ガスの温度により共振周波数変化を生じる。
上記演算部は、上記第1の検出素子の共振周波数変化を、上記第2の検出素子の共振周波数変化と上記第3の検出素子の共振周波数変化を基に補正する。
【0007】
本発明のこのような構成によれば、温度及び湿度による影響のない、ガス物質のみに係る共振周波数変化を算出することができ、精度よくガスを検出することができる。
【0008】
第1の検出素子において、第1の振動子の共振周波数は第1の吸着膜に吸着したガスの重量に比例して低下するので、振動子の共振周波数の変化量を検出することによりガスの吸着量を特定することができるが、第1の振動子の共振周波数は、温度及び湿度によっても変動するので、第1の検出素子により検出される共振周波数変化には、ガス物質のみに係る成分と、温度に係る成分と、湿度に係る成分が含まれている。
本発明においては、湿度補償をする第2の検出素子と温度補償をする第3の検出素子それぞれの検出結果を基に、第1の振動子の共振周波数を補正しているので、温度及び湿度の影響がない、ガス物質のみに係る共振周波数変化を算出することができる。したがって、精度よくガスを検出することが可能となる。
【0009】
また、補償用に用いられる第2の検出素子及び第3の検出素子に、第1の検出素子と同様の構造を有する振動子を用いることにより、検知応答性の早い検出素子を得ることができる。このような検出素子をガスセンサに用いることにより、被検出ガスが瞬時に流れるガスであっても、精度よくガスを検出することが可能となる。
【0010】
上記演算部は、上記第2の検出素子の共振周波数変化を上記第3の検出素子の共振周波数変化を基に補正し、この補正結果と上記第3の検出素子の共振周波数変化を基に、上記第1の検出素子の共振周波数変化を補正する。
【0011】
このように、湿度補償用に用いる第2の検出素子の検出結果を、温度補償用に用いる第3の検出素子の検出結果を基に補正してもよい。
第2の検出素子は、第2の吸着膜に水分が吸着することにより共振周波数変化を生じるものであるが、温度依存があり、温度によっても共振周波数変化が変動する。したがって、第1の検出素子の検出結果の補正時に用いる第2の検出素子の検出結果を予め温度補償用に用いる第3の検出素子の検出結果を基に補正することにより、より精度の高い検出結果を得ることができる。
【0012】
上記第1の振動子及び上記第2の振動子はATカット水晶板からなり、上記第3の振動子は共振周波数が温度変化に対して直線的に変化する水晶板からなっていてもよい。
【0013】
このように、第1の振動子及び第2の振動子に、室温付近で特性が変わらないATカット水晶板を用いることができる。そして、温度補償用に用いる第3の検出素子の第3の振動子に、共振周波数が温度変化に対して直線的に変化する水晶板を用いることができる。共振周波数が温度変化に対して直線的に変化する水晶板には、例えばカット角がATカットからずれた水晶板を用いることができる。これにより、第3の検出素子から検出された共振周波数変化から温度を検出することができる。
【0014】
所定の構造を有する第4の振動子と、上記第4の振動子上に設けられた上記ガスとは異なる特定のガスを吸着する第4の吸着膜とを有し、上記ガスとは異なる特定のガスの吸着により共振周波数変化を生じる第4の検出素子を更に具備し、演算部は、前記第4の検出素子の共振周波数変化を、前記第2の検出素子の共振周波数変化と前記第3の検出素子の共振周波数変化を基に補正してもよい。
【0015】
このように、複数のガス検出素子(第1の検出素子及び第4の検出素子)を設け、特定のガスを検出する構成としてもよい。
【0016】
本発明の一形態に係るガス検出方法は、第1の検出素子の共振周波数変化を検出し、第2の共振周波数変化を検出し、第3の検出素子の共振周波数変化を検出し、第2の検出素子の検出結果を補正し、上記第1の検出素子の検出結果を補正し、前記ガスと特定する。
上記第1の検出素子の共振周波数変化の検出は、所定の構造を有する第1の振動子と上記第1の振動子上に設けられた特定のガスを吸着する第1の吸着膜とを有する第1の検出素子の上記ガスの吸着による共振周波数変化を検出する。
上記第2の検出素子の共振周波数変化の検出は、上記所定の構造を有する第2の振動子と上記第2の振動子上に設けられた上記ガスの水分を吸着する第2の吸着膜とを有する第2の検出素子の上記水分による共振周波数変化を検出する。
上記第3の検出素子の共振周波数変化の検出は、上記所定の構造を有する第3の振動子を有する第3の検出素子の上記ガスの温度による共振周波数変化を検出する。
上記第2の検出素子の検出結果の補正は、上記第3の検出素子の検出結果を基に、上記第1の検出素子の検出結果を補正する。
上記第1の検出素子の検出結果の補正は、上記補正結果と上記第3の検出素子の検出結果を基に、上記第1の検出素子の検出結果を補正する。
前記ガスの特定は、前記補正された前記第1の検出素子の検出結果から行う。
【0017】
本発明のこのような構成によれば、温度及び湿度による影響のない、ガス物質のみに係る共振周波数変化を算出することができ、精度よくガスを検出することができる。
【0018】
上記第1の振動子及び上記第2の振動子はATカット水晶板からなり、上記第3の振動子は共振周波数が温度変化に対して直線的に変化する水晶板からなる。
【0019】
このように、第1の振動子及び第2の振動子に、室温付近で特性が変わらないATカット水晶板を用いることができる。そして、温度補償用に用いる第3の検出素子の第3の振動子に、共振周波数が温度変化に対して直線的に変化する水晶板を用いることができる。共振周波数が温度変化に対して直線的に変化する水晶板には、例えばカット角がATカットからずれた水晶板を用いることができる。これにより、第3の検出素子から温度を検出することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上述べたように、本発明によれば、構成の簡素化を図りつつ、瞬時に流れる被検出ガスでも精度よく検出することができる
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る検出素子の正面図である。
図2】本発明の実施形態に係るガスセンサの構成を示す概略図である。
図3図2に示すガスセンサによるガス検出方法を説明するイメージ図である。
図4】本発明の実施形態に係るガス検出方法を示すフローチャート図である。
図5図2に示すガスセンサに用いられる水晶振動子を用いた温度検出素子と、比較例としてのサーミスタを用いた温度検出素子の、温度上昇に伴う応答速度を比較する図である。
図6図2に示すガスセンサに用いられる水晶振動子を用いた温度検出素子と、比較例としてのサーミスタを用いた温度検出素子の、温度下降に伴う応答速度を比較する図である。
図7図2に示すガスセンサに用いられる水晶振動子を用いた温度検出素子と、比較例としてのサーミスタを用いた温度検出素子の、湿度上昇に伴う周波数変化を示す図である。
図8図2に示すガスセンサに用いられる水晶振動子を用いた湿度検出素子と、比較例としての容量変化式湿度検出素子の、湿度上昇及び下降に伴う応答速度を比較する図である。
図9】本発明の実施形態に係る、温度検出素子及び湿度検出素子によるリアルタイム補正を説明するためのタイム―チャート(その1)である。
図10】本発明の実施形態に係る、温度検出素子及び湿度検出素子によるリアルタイム補正を説明するためのタイム―チャート(その2)である。
図11】アンモニアガスを断続的に流したときの図2に示すガスセンサにおけるアンモニアガス検出素子による検出される補正前の検出結果を示す図である。
図12】アンモニアガスを断続的に流したときの図2に示すガスセンサにおける温度検出素子により検出される検出結果を示す図である。
図13】アンモニアガスを断続的に流した時の図2に示すガスセンサにおける湿度検出素子により検出される検出結果を示す図である。
図14】アンモニアガスを断続的に流した時の図2に示すガスセンサにおけるアンモニアガス検出素子により検出された検出結果を補正したあとの検出結果を示す図である。
図15】比較例としての既存の温湿度センサを用いたガス検出方法を説明するためのタイムチャート(その1)である。
図16】比較例としての既存の温湿度センサを用いたガス検出方法を説明するためのタイムチャート(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0023】
[検出素子の構成]
本実施形態に係るガスセンサは、特定のガスを検出するガス検出素子と、温度補償用の温度検出素子と、湿度補償用の湿度検出素子の3種類の検出素子を備える。ガスセンサの詳細な構造については後述する。
【0024】
図1は、ガス検出素子1(図2における1a〜1cを総称して1と称す。)、温度検出素子101、湿度検出素子201を示す正面図である。これら検出素子1、101及び201は基本的な構造は同じであり、吸着膜の有無、吸着膜の種類が異なる。
【0025】
図2は、ガスセンサの構成を示す概略図である。以下、順に各検出素子の構成について説明する。
【0026】
図1及び図2に示すように、第1の検出素子としてのガス検出素子1は、第1の振動子としての水晶振動子13と、電極11A(11B)と、吸着膜12と、リードランド16A、16Bと、リード14A、14Bと、ピン端子19A、19Bと、ホルダ18とを有する。
【0027】
水晶振動子13はATカット板からなる共振周波数が9MHzの水晶振動子である。水晶振動子13は、直径が8.6mmの円形状を有し、厚みが0.185mmである。
【0028】
水晶振動子13の互いに対向する主面13A、13Bそれぞれには、金属薄膜が所定の形状にパターニングされてなる電極11A、11Bが形成されている。本実施形態では、電極材料として金を用いた。電極11A、11Bは円形状であり、直径は5.0mmである。
【0029】
吸着膜12は、電極11A上に形成され、特定のガスを吸着する。
リードランド16Aは電極11Aと一体形成されてなり、リードランド16Bは電極11Bと一体形成されてなる。
【0030】
リード14A及びリード14Bは金属バネ材からなり、互いに平行に配置される。
リード14Aは、一端がリードランド16Aを介して電極11Aと電気的に接続し、他端がピン端子19Aに接続するように構成される。リード14Bは、一端がリードランド16Bを介して電極11Bと電気的に接続し、他端がピン端子19Bに接続するように構成される。
【0031】
ホルダ18は絶縁部材からなり、ピン端子19A及び19Bが貫通する貫通孔を有する。ホルダ18の貫通孔にピン端子19A及び19Bが貫通するように水晶振動子13を保持することにより、ホルダ18によって水晶振動子13は振動自在に支持される。
【0032】
ガス検出素子1のピン端子19A及び19Bは発振回路4に接続され、ガス検出素子1に駆動電圧が印加される。ガス検出素子1は、駆動電圧が印加されると、水晶振動子13は固有の周波数(9MHz)で振動する。
そして、吸着膜12がガスを吸着することにより質量が変化し、その吸着量に応じて水晶振動子13の共振周波数は低下する。
【0033】
ガス検出素子1a〜1cは、吸着膜12a〜12cの種類が異なる点でのみ相違し、その他の構造は同じである。具体的に、ガス検出素子1a〜1cを構成する水晶振動子13の直径、厚さ、共振周波数等はそれぞれ同一であり、電極11A,11B、リードランド16A,16Bの材質、厚さ、パターン形状等も同一である。
【0034】
吸着膜12aは、フッ化ビニリデン樹脂(ポリビニリデンフルオライド。以下、PVDFと称す。)とトリフルオロエチレン(以下、TrFEと称す。)を用いて形成される共重合体からなる。具体的には、PVDFとTrFEとを、その配合重量比が8:2の割合となるように配合して共重合化した紛体をメチルエチルケトンで溶解して溶液を作製し、この溶液をスピンコートで所定の厚み、ここでは500nmの厚みに電極11A上に塗布した後、乾燥炉で溶剤を揮発させて吸着膜12aを成膜した。
【0035】
吸着膜12bは、PVDFと、TrFEと、三フッ化塩化エチレン樹脂(ポリクロロトリフルオロエチレン。以下、PCTFEと称す。)を用いて形成される共重合体からなる。具体的には、PVDFとTrFEとPCTFEとを、その配合重量比が65:25:10の割合となるように配合して共重合化した紛体をメチルエチルケトンで溶解して溶液を作製し、この溶液をスピンコートで所定の厚み、ここでは500nmの厚みに電極11A上に塗布した後、乾燥炉で溶剤を揮発させて吸着膜12bを成膜した。
【0036】
吸着膜12cは、シアニン色素を用いて形成される。シアニン色素としては、1、1´−ジブチル3、3、3´、3´−テトラメチル−4、5、4´、5´ジベンゾインドジカーボシアニンブロミド(株式会社 日本感光色素研究所製 品番NK3567)を用いた。このシアニン色素をテトラフルオロプロパノール(TFP)で溶解して溶液を作製し、この溶液をスピンコートで所定の厚み、ここでは500nmの厚みに電極11A上に塗布した後、乾燥炉で溶剤を揮発させて吸着膜12cを成膜した。
【0037】
吸着膜12aはアセトンを、吸着膜12bはトルエンを、吸着膜12cはアンモニアをそれぞれ吸着する特性を有し、本実施形態においては、ガス検出素子1aをアセトンの、ガス検出素子1bをトルエンの、ガス検出素子1cをアンモニアの検出にそれぞれ用いている。
【0038】
図1及び図2に示すように、第3の検出素子としての温度検出素子101は、第3の振動子としての水晶振動子113と、電極111A(111B)と、リードランド116A、116Bと、リード114A、114Bと、ピン端子119A、119Bと、ホルダ118とを有する。温度検出素子101には吸着膜は形成されていない。
【0039】
水晶振動子113は、共振周波数が温度変化に対して直線的に変化する水晶板であり、本実施形態ではカット角がATカットからずれた水晶板を用いている。水晶振動子113は、直径が8.6mmの円形状を有し、厚みが0.185mmであり、共振周波数は9MHzである。
【0040】
水晶振動子113の互いに対向する主面113A、113Bそれぞれには、金属薄膜が所定の形状にパターニングされてなる電極111A、111Bが形成されている。本実施形態では、電極材料として金を用いた。電極111A、111Bは円形状であり、直径は5.0mmである。
【0041】
リードランド116Aは電極111Aと一体形成されてなり、リードランド116Bは電極111Bと一体形成されてなる。
【0042】
リード114A及びリード114Bは金属バネ材からなり、互いに平行に配置される。リード114Aは、一端がリードランド116Aを介して電極111Aと電気的に接続し、他端がピン端子119Aに接続するように構成される。リード114Bは、一端がリードランド116Bを介して電極111Bと電気的に接続し、他端がピン端子119Bに接続するように構成される。
【0043】
ホルダ118は絶縁部材からなり、ピン端子119A及び119Bが貫通する貫通孔を有する。ホルダ118の貫通孔にピン端子119A及び119Bが貫通するように水晶振動子113を保持することにより、ホルダ118によって水晶振動子113は振動自在に支持される。
【0044】
温度検出素子101のピン端子119A及び119Bは発振回路4に接続され、温度検出素子101に駆動電圧が印加される。温度検出素子101は、駆動電圧が印加されると、水晶振動子113は固有の周波数(9MHz)で振動する。温度検出素子101の共振周波数は温度によって変動する。
【0045】
温度検出素子101には吸着膜が形成されていないので、ガスの吸着による共振周波数変化は生じず、また水分吸着による共振周波数変化も生じない。また、温度検出素子101には、振動子にカット角がATカットからずれた水晶板が用いられ、共振周波数が温度変化に対して直線的に変化するものが適している。これにより、温度検出素子101により検出された共振周波数変化から温度を検出することができる。
【0046】
図1及び図2に示すように、第2の検出素子としての湿度検出素子201は、第2の振動子としての水晶振動子213と、電極211A(211B)と、吸着膜212と、リードランド216A、216Bと、リード214A、214Bと、ピン端子219A、219Bと、ホルダ218とを有する。
【0047】
水晶振動子213はATカット板からなる水晶振動子である。水晶振動子213は、直径が8.6mmの円形状を有し、厚みが0.185mmであり、共振周波数は9MHzである。
【0048】
水晶振動子213の互いに対向する主面213A、213Bそれぞれには、金属薄膜が所定の形状にパターニングされてなる電極211A、211Bが形成されている。本実施形態では、電極材料として金を用いた。電極211A、211Bは円形状であり、直径は5.0mmである。
【0049】
吸着膜212は、電極211A上に形成される。吸着膜212はポリビニルアルコール樹脂からなる。吸着膜212はガスを吸着せず、水分を吸着する。
【0050】
リードランド216Aは電極211Aと一体形成されてなり、リードランド216Bは電極211Bと一体形成されてなる。
【0051】
リード214A及びリード214Bは金属バネ材からなり、互いに平行に配置される。
リード214Aは、一端がリードランド216Aを介して電極211Aと電気的に接続し、他端がピン端子219Aに接続するように構成される。リード214Bは、一端がリードランド216Bを介して電極211Bと電気的に接続し、他端がピン端子219Bに接続するように構成される。
【0052】
ホルダ218は絶縁部材からなり、ピン端子219A及び219Bが貫通する貫通孔を有する。ホルダ218の貫通孔にピン端子219A及び219Bが貫通するように水晶振動子213を保持することにより、ホルダ218によって水晶振動子213は振動自在に支持される。
【0053】
湿度検出素子201のピン端子219A及び219Bは後述する発振回路に接続され、湿度検出素子201に駆動電圧が印加される。湿度検出素子201は、駆動電圧が印加されると、水晶振動子213は固有の周波数(9MHz)で振動する。
そして、吸着膜212が水分を吸着することにより質量が変化し、その吸着量に応じて水晶振動子213の共振周波数は低下する。
【0054】
上述のように、温度検出素子101を構成する水晶振動子113および湿度検出素子201を構成する水晶振動子213はいずれも、ガス検出素子1(図2におけるガス検出素子1a〜1c)を構成する水晶振動子13と同一の直径、厚み、共振周波数を有している。また、これら水晶振動子113(213)に形成される電極111A(211A),111B(211B)、リードランド116A(216A),116B(216B)もまた、材質、厚さ、パターン形状等がガス検出素子1の電極11A,11B、リードランド16A,16Bと同一に構成される。このように、各検出素子1,101,201の振動子は同一の所定構造を有しており、それぞれが実質的に同一又は等価と評価され得る振動特性を有する。
【0055】
なお本実施形態においては、検出素子を構成する振動子として水晶振動子を用いたが、これに限定されない。例えば、水晶振動子以外にセラミック振動子、表面弾性波素子、カンチレバー、ダイヤフラムなど、吸着膜のガス吸着による重量増加や膨張応力増加といった物理変化を検出し電気信号に変換できる他の振動素子も適用可能である。この場合も、各検出素子は、共通の種類の振動素子で構成される。
【0056】
[ガスセンサの構成]
図2に示すように、ガスセンサ2は、ガスセンサユニット3と、コントローラ10とを有する。コントローラ10は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ等を有するコンピュータで構成され、発振回路4と、検出回路5と、演算部6とを有する。
【0057】
本実施形態に係るガスセンサ2は、複数の検出素子を有している。
複数の検出素子は、特定のガスを検出するガス検出素子1a〜1cと、湿度補償用の湿度検出素子201と、温度補償用の温度検出素子101とからなる。
【0058】
ガス検出素子1a〜1c、温度検出素子101及び湿度検出素子201の構成については上述したので説明を省略する。
【0059】
ガスセンサユニット3は、チャンバ31と、該チャンバ31内に収容された3つのガス検出素子1a〜1cと、温度検出素子101と、湿度検出素子201を具備する。チャンバ31は、所定の間隙をおいて配置されたガス検出素子1a〜1dを収容する。チャンバ31は、その内部に検出対象のガスが導入可能となっている。
【0060】
発振回路4は、ガス検出素子1a〜1c、温度検出素子101及び湿度検出素子201の各水晶振動子13、113及び213をそれぞれ所定周波数(共振周波数:9MHz)で振動させる。
【0061】
検出回路5は、ガス検出素子1a〜1c、温度検出素子101及び湿度検出素子201の共振周波数又はその変化を検出する。
【0062】
ガス検出素子1a〜1cを発振回路4によって上記所定周波数で振動させた状態で、吸着膜12a〜12cにガス等の検出対象物が吸着すると、各ガス検出素子1a〜1cの水晶振動子13の共振周波数が変化する。検出回路5からは、検出された共振周波数の電気信号が演算部6に出力される。
【0063】
温度検出素子101を発振回路4によって上記所定周波数で振動させ、水晶振動子213の共振周波数を検出回路5によって検出する。検出回路5からは、検出された共振周波数の電気信号が演算部6に出力される。温度検出素子101は、温度によってその共振周波数が変化するので、検出結果から温度を求めることができる。
【0064】
湿度検出素子201を発振回路4によって所定周波数で振動させた状態で、吸着膜212に検出対象物のガスの水分が吸着すると、水晶振動子213の共振周波数が変化する。検出回路5からは、検出された共振周波数の電気信号が演算部6に出力される。
【0065】
演算部6は、検出回路5から入力された各ガス検出素子1a〜1c、温度検出素子101及び湿度検出素子201それぞれの電気信号を基に、各ガス検出素子1a〜1cにおける、温度及び湿度の影響のない、ガス物質のみに係る共振周波数変化を算出し、算出された共振周波数変化からチャンバ31内に導入されたガスの種類を特定する。演算部6で行われる処理の詳細については後述のガス検出方法で説明する。
【0066】
図3は、図2のガスセンサによるガス検出方法を説明するイメージ図である。
【0067】
図3に示すように、ガスセンサ2では、温度検出素子101及び湿度検出素子201それぞれの検出結果を基に、ガス検出素子1a〜1cの検出結果を補正している。詳細には、温度検出素子101を用いて温度補償し、湿度検出素子201を用いて湿度補償している。これに加え、湿度検出素子201は温度により共振周波数が変動するため、ガス検出素子1a〜1cの検出結果を補正する前に、予め温度検出素子101の検出結果を基に湿度検出素子201の検出結果を補正している。
【0068】
図3の符号20、21、22はガスのにおい分子を示している。例えば本実施形態では、ガス検出素子1aではアセトンのにおい分子(ガス物質)20が吸着され、ガス検出素子1bではトルエンのにおい分子(ガス物質)21が吸着され、ガス検出素子1cではアンモニアのにおい分子(ガス物質)22が吸着される。このように、本実施形態のガスセンサ2では、互いに異なる特定のガスを3種類検出できる。
【0069】
(ガス検出方法)
次に、上述のガスセンサ2を用いたガス検出方法について図2図3及び図4を用いて説明する。図4はガス検出方法を示すフローチャート図である。以下、図4のフローに従って説明する。
【0070】
まず、チャンバ31内に検出対象のガスを導入し、発振回路4を作動し、各ガス検出素子1a〜1c、温度検出素子101及び湿度検出素子201の水晶振動子13、113、213を所定周波数(共振周波数;9MHz)で振動させる。
【0071】
次に、検出回路5により、ガス検出素子1a〜1c、温度検出素子101及び湿度検出素子201の共振周波数が検出される。検出された共振周波数の電気信号は、演算部6に入力される。以下のS101〜S106の工程は、ガス検出素子1a〜1c毎に行われ、この検出工程により、それぞれのガス検出素子1a〜1cで検出された共振周波数変化Δf1a、Δf1b、Δf1cが補正されたΔf1aG、Δf1bG、Δf1cGが算出される。以下、個別に説明する場合を除き、ガス検出素子1a〜1cをガス検出素子1と総称する。
【0072】
演算部6は、温度検出素子101の共振周波数変化から温度(T)を検出する(S101)。具体的には、演算部6は、予め作成されている温度検出素子101における温度と共振周波数とを対応させたテーブルを参照し、温度検出素子101からの電気信号を基にガスの温度を検出する。テーブルは例えばコントローラ10内の図示しないメモリに格納されている。本実施形態においては、温度検出素子101の振動子113として、共振周波数が温度変化に対して直線的に変化する水晶板を用いているので、適正な温度補償を行うことができる。
【0073】
次に、演算部6は、検出された温度(T)と湿度検出素子201の周波数変化の情報より湿度(H)を検出する(S102)。上述したように、湿度検出素子201の共振周波数は温度により変動するので、この工程により温度の影響が除かれた湿度(H)情報が検出される。
【0074】
次に、演算部6は、S102で検出された湿度(H)情報を基に、ガス検出素子1における湿度(H)による補正周波数Δf1Hを上記メモリから呼び出す(S103)。上記メモリには、予め作成された、ガス検出素子1における湿度(H)と補正周波数Δf1Hとを対応させたテーブルが格納されている。このテーブルは、ガス検出素子1a〜1c毎に異なる。
【0075】
また、S101で検出された温度(T)を基に、ガス検出素子1における温度(T)による補正周波数Δf1Tを上記メモリから呼び出す(S104)。上記メモリには、予め作成された、ガス検出素子1における温度(T)と補正周波数Δf1Tとを対応させたテーブルが格納されている。このテーブルは、ガス検出素子1a〜1c毎に異なる。
【0076】
また、演算部6には、検出回路5により検出されたガス検出素子1の共振周波数から共振周波数変化Δf1が検出される(S105)。
【0077】
次に、演算部6は、下記(1)式を用いて、ガス検出素子1の周波数変化Δf1、温度に係る補正周波数Δf1T、湿度に係る補正周波数Δf1Hから、温度及び湿度の影響が除かれたガス物質のみに係る周波数変化Δf1Gを算出し、この算出結果を基に検出対象ガスの種類を特定し、ガス濃度を算出し、出力する(S106)。
【0078】
【数1】
【0079】
ここで、ガス検出素子から検出される共振周波数変化Δfは、次のように表される。
【0080】
【数2】
【0081】
式中、Δfは周波数変化量を示す。Δmは質量変化を示す。f0は基本周波数を示す。ρは水晶の密度を示す。μは水晶のせん断応力を示す。Aは電極面積を示す。このように、Δfは、吸着による吸着膜の質量変化に比例する。
【0082】
また、次の(2)式に示すように、ガス検出素子1(1a〜1c)から検出される周波数変化Δf1には、ガス吸着の他に温度、湿度による影響も含まれている。すなわち、ガス検出素子1から検出される周波数変化Δf1は、温度、湿度による影響がないガス物質のみの吸着に係る共振周波数変化Δf1Gの成分と、温度に係る補正周波数変化Δf1aTの成分と、湿度に係る補正周波数変化Δf1Hの成分を有している。
【0083】
【数3】
【0084】
(2)式から導き出される(3)式より、温度、湿度の影響がないガス吸着による共振周波数変化Δf1Gは、ガス検出素子1から検出される周波数変化Δf1から、温度に係る補正周波数変化Δf1Tと、湿度に係る補正周波数変化Δf1H分を減算して算出される。
【0085】
Δf1Tは、温度検出素子101から算出される温度Tにより補正され、変数Tの関数から求められる。Δf1Hは、湿度検出素子201から算出される湿度Hにより補正され、変数Hの関数から求められる。ただし、湿度検出素子201は温度の影響を受けるため、HとTの関数となり、Tには温度検出素子101のTを用いる。これにより、上述の(1)式が導き出される。
【0086】
上述の(1)式において、温度検出素子101(X)の関数、湿度検出素子201(Y)の関数は、ガス検出素子1a〜1c毎に異なる関数となる。これは、各ガス検出素子1a〜1cに設けられる吸着膜12a〜12cが異なり、温度、湿度による影響がそれぞれのガス検出素子1a〜1cで異なるためである。
【0087】
演算部6は、上述のS101〜S106の演算処理を、ガス検出素子1a〜1c毎に行う。これにより、各ガス検出素子1a〜1cの温度及び湿度の影響が除かれたガス吸着に係る周波数変化Δf1aG、Δf1bG、Δf1cGが算出される。
【0088】
本実施形態においては、温度検出素子101及び湿度検出素子201に同一構造の振動子を用いているので、リアルタイムな検出が可能となり、瞬時に流れるガスに対して正確なガス検出を行うことができる。
【0089】
[水晶振動子型温度検出素子とサーミスタ式温度検出素子との比較]
図5及び図6は、本実施形態に示した水晶振動子を用いた水晶振動子型温度検出素子P1(実施形態における温度検出素子101に相当)と、比較例としてのサーミスタ式温度検出素子P2との、温度変化に対する応答特性を比較する図である。
【0090】
図5は、相対湿度RHを50%で一定にした条件下で5℃刻みに温度を上昇させたときの検出素子P1の周波数変化(右軸)及びP2の出力(左軸)の変化を示す。図6は、相対湿度RHを50%で一定にした条件下で5℃刻みに温度を下降させたときの検出素子P1の周波数変化(右軸)及びP2の出力(左軸)の変化を示す。ここで、P2の出力は「温度表示値(℃)」で表している。
【0091】
図5及び図6に示すように、温度の上昇、下降の双方において、水晶振動子型温度検出素子P1の方がサーミスタ式温度検出素子P2よりも、温度変化に対して応答が速いことがわかる。サーミスタ式温度検出素子P2は水晶振動子型温度検出素子P1よりも100秒ほどずれて遅く応答しており、このような遅れを生じるサーミスタ式温度検出素子P2はリアルタイムな補正には適さない。例えば呼気検出のように瞬時に流れるガスを検出する場合には、サーミスタ温度検出素子P2では正確な瞬時に流れるガスの温度を検出することができず、正確な温度補正を行うことができない。
【0092】
本実施形態においては温度検出素子101に振動子を用いているので、呼気検出のように瞬時に流れるガスを検出する場合においても比較的高い応答性をもってガスの温度を検出することができる。しかも、温度検出素子101がガス検出素子1と同一構造の振動子で構成されているため、ガス検出素子1の出力をリアルタイムに温度補正することができ、信頼性の高いガス検出結果を得ることができる。
【0093】
図7は、本実施形態である水晶振動子を用いた水晶振動子型温度検出素子P1と、比較例としてのサーミスタ式温度検出素子P2との、湿度変化に対する応答特性を比較する図である。図7には、既存湿度センサP3による湿度表示値も合わせて図示している。
【0094】
図7は、温度を25℃と一定にした条件下で10%刻みに相対湿度RHを50%から90%まで上昇させたときの検出素子P1の周波数変化(右軸)並びにP2及びP3の出力(左軸)の変化を示す。ここで、P3の出力は「湿度表示値(%RH)」で表している。
【0095】
図7に示すように、水晶振動子型温度検出素子P1とサーミスタ式温度検出素子P2は、ある相対湿度以上では出力が一定となる特性を示しており、湿度による影響を受けない。
【0096】
[水晶振動子型湿度検出素子と容量変化式湿度検出素子との比較]
図8は、本実施形態に示した水晶振動子を用いた水晶振動子型湿度検出素子P4(実施形態における湿度検出素子201に相当)と、比較例としての容量変化式湿度検出素子P5との、湿度変化に対する応答特性を比較する図である。
【0097】
図8に示すように、温度を25℃と一定にした条件下で10%刻みに相対湿度RHを50%から90%まで上昇させた後、10%刻みに相対湿度RHを90%から50%まで下降させたときの検出素子P4の周波数変化(右軸)及びP5の出力(左軸)の変化を示す。
【0098】
図8に示すように、湿度の上昇、下降の双方において、水晶振動子型湿度検出素子P4の方が容量変化式湿度検出素子P5よりも、湿度変化に対して応答が速いことがわかる。容量変化式湿度検出素子P5は水晶振動子型湿度検出素子P4よりも50秒ほどずれて遅く応答しており、このような遅れを生じる容量変化式湿度検出素子P5はリアルタイムな補正には適さない。例えば呼気検出のように瞬時に流れるガスを検出する場合には、容量変化式湿度検出素子P5では正確な瞬時に流れるガスの湿度を検出することができず、正確な湿度補正を行うことができない。
【0099】
本実施形態においては湿度検出素子201に振動子を用いているので、呼気検出のように瞬時に流れるガスを検出する場合においても比較的高い応答性をもってガスの湿度を検出することができる。しかも、湿度検出素子201がガス検出素子1と同一構造の振動子で構成されているため、ガス検出素子1の出力をリアルタイムに湿度補正することができ、信頼性の高いガス検出結果を得ることができる。
【0100】
[本実施形態におけるリアルタイム補正の説明]
次に、温度検出素子及び湿度検出素子に振動子を用いた本実施形態のガス検出時におけるリアルタイム補正を、比較例と対比させて説明する。
【0101】
図9及び図10は、本実施形態における上述したΔf1Gの算出を説明するための図である。図9及び図10は、水晶振動子を用いた温度検出素子101及び湿度検出素子201によるリアルタイム補正を説明するためのタイムチャートであり、図9は補正前のタイムチャート、図10は補正後のタイムチャートを示す。
【0102】
図15及び図16は、比較例としてサーミスタ式温度検出素子及び容量式湿度検出素子を用いた場合におけるΔf1Gの算出を説明するための図である。図15及び図16は、サーミスタ式温度検出素子及び容量式湿度検出素子を用いた場合のタイムチャートであり、図15は補正前のタイムチャート、図16は補正後のタイムチャートを示す。
【0103】
図9において、実線はΔf1T、点線はΔf1H、一点鎖線はΔf1を示す。Δf1Tは上述のS104の工程で求められる。Δf1Hは上述のS103の工程で求められる。Δf1は上述のS105の工程で求められる。図9に示すように、これらΔf1T、Δf1H、Δf1はガスの導入にあわせてリアルタイムに検出される。そして、図9に示すΔf1T、Δf1H、Δf1から、上述のS106の工程で算出されたΔf1Gは、図10に示すようにガスの導入にあわせてリアルタイムに算出される。
【0104】
このように、温度検出素子及び湿度検出素子にガス検出素子と同様な水晶振動子を用いた本実施形態のガスセンサにおけるΔf1Gの算出は、リアルタイムに温度補償及び湿度補償が行われて算出される。
【0105】
これに対し、比較例としてのサーミスタ式温度検出素子及び容量式湿度検出素子を用いたガスセンサにおけるΔf1Gの算出について、図15及び図16に示すタイムチャートを用いて説明する。図15に示すように、Δf1(一点鎖線で図示。)に対して、Δf1H(点線)及びΔf1T(実線)は時間的に遅れて出力されている。このため、これらΔf1、Δf1H及びΔf1Tから算出されたΔf1Gは、図16に示すようなタイムチャートを示す。これは、サーミスタ式温度検出素子による温度補正及び容量式湿度検出素子による湿度補正が追い付かないことを示している。したがって、ガス検出素子のガス吸着物質のみの共振周波数変化を正確に検出することができない。
【0106】
以上のように、温度検出素子及び湿度検出素子に振動子を用いることにより、リアルタイムなガス検出が可能となり、精度の高いガス検出ができる。
【0107】
[本実施形態のガスセンサによるアンモニアガスの検出例]
次に、上述のガスセンサ2のチャンバ3内に例えばアンモニアガスを導入した実験結果について説明する。以下、図11図14を用いて、主にΔf1cGの算出について説明する。この実験では、チャンバ内雰囲気を温度20℃、相対湿度RH50%とし、温度25℃、相対湿度RHが70%のアンモニアガスを断続的に流した。
【0108】
アンモニアガスは、ガス検出素子1cの吸着膜12cに吸着され、検出される。Δf1cGの算出は、上述のS101〜S106の工程を経て行われる。
【0109】
図11はS105の工程でガス検出素子1cによって検出されるΔf1cを示し、補正前の周波数変化を示す。図12はS104の工程で検出されるΔf1cTを示す。図13はS103の工程で検出されるΔf1cHを示す。図14はS106の工程で算出されるΔf1cGを示し、補正後の周波数変化を示す。
【0110】
図11図13に示すように、ガスのチャンバ3内へのアンモニアガスの導入のオン、オフに応じて、Δf1c、Δf1cT、Δf1cHは変動する。図11に示すように、Δf1cは、時間の経過に従って、アンモニアガスの導入のオン時、オフ時ともに徐々に大きくなっている。
【0111】
図12に示すように、Δf1cTは、アンモニアガスの導入オン期間における周波数変化はほぼ一定の数値をとり、また、アンモニアガス導入オフ期間における周波数変化においてもほぼ一定の数値をとっている。これは、温度検出素子101によって検出される温度が、アンモニアガス導入オン期間はアンモニアガスの温度を検出し、アンモニアガス導入オフ期間は設定されたチャンバ内の温度を検出していることを示している。
【0112】
図13に示すように、Δf1cHは、時間の経過に従って、アンモニアガスの導入のオン時、オフ時ともに周波数変化が徐々に大きくなっていることがわかる。これは時間経過とともに雰囲気湿度が徐々に上昇していることを示す。したがって、この雰囲気湿度の上昇に伴い、図11に示すように、Δf1cの値は時間の経過とともに徐々に大きくなっている。すなわち、Δf1cには湿度が影響していることがわかる。
【0113】
図14に示すように、Δf1cH及びΔf1cTを用いて、Δf1cを補正することにより算出されるΔf1cGは、アンモニアガスの導入のオン期間、オフ期間それぞれでほぼ一定の数値をとっている。このように、温度補償及び湿度補償を行うことにより、温度及び湿度の影響のないガス物質のみの吸着に係る周波数変化を算出することができる。
【0114】
以上のように、本実施形態は、ガス検出素子と同一構造の振動子を有する温度検出素子及び湿度検出素子を備えているため、リアルタイムに温度及び湿度に係る補正を行って、温度及び湿度の影響のないガス物質のみの吸着による共振周波数変化を算出し、この算出結果を用いてガスの特定を行うことができる。これにより、簡素な構成で、精度の高いガス検出が行える。
【0115】
また、このようなリアルタイム補正が可能な本実施形態によれば、瞬時に流れるガスの検出にも適用することができ、精度の高いガス検出を行うことができる。
【0116】
また、上述の実施形態においては、湿度検出素子の検出結果を、温度検出素子の検出結果を用いて補正し、その後、補正された湿度検出素子の検出結果と温度検出素子の検出結果に基づいて、ガス検出素子の検出結果を補正するので、更に精度の高いガス検出を行うことができる。
【0117】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。上述の実施形態においては、3種類のガス検出素子が設けられたガスセンサを例にあげたが、ガス検出素子が1つであってもよいし、複数であってもよい。
【符号の説明】
【0118】
1a ガス検出素子
1b ガス検出素子
1c ガス検出素子
6 演算部
13、213 ATカット水晶板からなる水晶振動子
113 カット角がATカットからずれた水晶板からなる水晶振動子
101 温度検出素子
201 湿度検出素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16