特許第6873651号(P6873651)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873651
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】タイヤ部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 1/00 20060101AFI20210510BHJP
   C08C 1/14 20060101ALI20210510BHJP
   C08L 7/02 20060101ALI20210510BHJP
   C08L 9/10 20060101ALI20210510BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20210510BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   B60C1/00 Z
   C08C1/14
   C08L7/02
   C08L9/10
   C08K3/013
   C08K5/20
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-202821(P2016-202821)
(22)【出願日】2016年10月14日
(65)【公開番号】特開2018-62616(P2018-62616A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 修平
【審査官】 三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−144680(JP,A)
【文献】 特開2012−214566(JP,A)
【文献】 特開2014−095013(JP,A)
【文献】 特開2014−084312(JP,A)
【文献】 特開2008−138043(JP,A)
【文献】 特開2008−143972(JP,A)
【文献】 特開2014−095014(JP,A)
【文献】 特開2016−022618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
B60C 1/00− 19/12
C08J 3/00− 3/28
99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られた、タイヤ部材の製造方法であって、
前記充填材、前記分散溶媒、および前記ゴムラテックス溶液を混合して、充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i)、前記充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固して、充填材含有ゴム凝固物を製造する工程(ii)、および前記充填材含有ゴム凝固物を脱水することにより、タイヤ部材を製造する工程(iii)を有し、
前記工程(iii)が、前記充填材含有ゴム凝固物にしゃくかい剤および下記式(I)に記載の化合物:
【化1】
(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)を添加し、単軸押出機を使用し、水分を含んだ前記充填材含有ゴム凝固物中で前記式(I)に記載の化合物を分散させつつ、前記充填材含有ゴム凝固物にせん断力を付与しながら脱水する工程であり、
前記工程(iii)において、前記式(I)に記載の化合物添加時の前記充填材含有ゴム凝固物中の水分量をWa、前記式(I)に記載の化合物の含有量をWbとしたとき、1≦Wa/Wb≦8100であることを特徴とするタイヤ部材の製造方法。
【請求項2】
少なくとも充填材およびゴムを原料として得られた、タイヤ部材の製造方法であって、
充填材およびゴムの混合物に対し、しゃくかい剤、下記式(I)に記載の化合物:
【化2】
(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)および水分を添加し、単軸押出機を使用し、せん断力を付与しながら分散させるものであり、
前記水分の添加量をWa、前記式(I)に記載の化合物の添加量をWbとしたとき、1≦Wa/Wb≦8100であることを特徴とするタイヤ部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られた、タイヤ部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴム業界においては、カーボンブラックなどの充填材を含有するタイヤ部材を製造する際の加工性や充填材の分散性を向上させるために、ゴムウエットマスターバッチを用いることが知られている。これは、充填材と分散溶媒とを予め一定の割合で混合し、機械的な力で充填材を分散溶媒中に分散させた充填材含有スラリー溶液と、ゴムラテックス溶液と、を液相で混合し、その後、酸などの凝固剤を加えて凝固させたものを回収して乾燥するものである。ゴムウエットマスターバッチを用いる場合、充填材とゴムとを固相で混合して得られるゴムドライマスターバッチを用いる場合に比べて、充填材の分散性に優れ、加工性や補強性などのゴム物性に優れるタイヤ部材が得られる。このようなタイヤ部材を原料とすることで、例えば転がり抵抗が低減され、耐疲労性に優れた空気入りタイヤなどのゴム製品を製造することができる。
【0003】
製造されたタイヤ部材は、製造後すぐに使用される場合もあるが、一定期間保管された後に使用される場合もある。その保管中の劣化を防止するために、例えば下記特許文献1に記載のとおり、タイヤ部材に老化防止剤を配合することが一般的に行われている。しかしながら、タイヤ部材中に老化防止剤を多量に配合すると、得られる加硫ゴムのゴム物性が悪化する傾向があり、老化防止剤の配合量をできるだけ低く抑えることが要求されている。また、ゴム凝固物の脱水・乾燥工程ではゴム凝固物に対し、熱が加えられるが、熱によりゴム分子の切断が過度に進行し、最終的に得られる加硫ゴムの低発熱性および破断強度の悪化が発生する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−95014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、加硫ゴムの物性低下が抑制された、タイヤ部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち本発明は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られた、タイヤ部材の製造方法であって、前記充填材、前記分散溶媒、および前記ゴムラテックス溶液を混合して、充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i)、前記充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固して、充填材含有ゴム凝固物を製造する工程(ii)、および前記充填材含有ゴム凝固物を脱水することにより、タイヤ部材を製造する工程(iii)を有し、前記工程(iii)が、前記充填材含有ゴム凝固物にしゃくかい剤および下記式(I)に記載の化合物:
【化1】
(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)を添加し、水分を含んだ前記充填材含有ゴム凝固物中で前記式(I)に記載の化合物を分散させつつ、前記充填材含有ゴム凝固物を脱水する工程であることを特徴とするタイヤ部材の製造方法、に関する。
【0007】
上記製造方法では、工程(iii)において、水分を含んだ充填材含有ゴム凝固物中で上記式(I)に記載の化合物を分散させつつ、充填材含有ゴム凝固物を脱水する。一般に、タイヤ用に使用されるゴムは乾燥状態で疎水性を示す。一方、上記式(I)に記載の化合物は親水性を示すため、乾燥状態のゴムと式(I)に記載の化合物とを乾式混合しても、式(I)に記載の化合物の分散性は向上しない。しかしながら、上記製造方法では、脱水工程に相当する工程(iii)において、水分を含んだ充填材含有ゴム凝固物中に式(I)に記載の化合物を分散させるため、水分を介して式(I)に記載の化合物の分散性が飛躍的に高まる。その結果、充填材含有ゴム凝固物中に式(I)に記載の化合物が高いレベルで分散する。一旦、充填材含有ゴム凝固物中に式(I)に記載の化合物が分散すれば、充填材含有ゴム凝固物が脱水されても、式(I)に記載の化合物の分散性は保持されることから、最終的に乾燥して得られるタイヤ部材でも、式(I)に記載の化合物の分散性は向上する。そして、式(I)に記載の化合物は、老化防止効果に優れることから、製造されたタイヤ部材を長期保管しても、最終的に得られる加硫ゴムの物性を保持することができる。つまり、上記製造方法によれば、長期保管しても加硫ゴムの物性低下が抑制されたタイヤ部材を製造することができる。
【0008】
さらに、上記製造方法では、工程(iii)において、水分を含んだ充填材含有ゴム凝固物に対し、式(I)に記載の化合物とともにしゃくかい剤を添加する。これにより、さらに下記(a)および(b)の効果を奏する。
(a)脱水工程に相当する工程(iii)において、しゃくかい剤を配合することでゴム凝固物中のゴム塊がほぐれ易くなり、例えば脱水機中で脱水する際、脱水機中でのゴム凝固物のゴム空隙率が低下する。その結果、ゴム凝固物の脱水効率が高まり、水分率を効率良く低下することができるため、生産性が向上する。
(b)しゃくかい剤が存在すると、工程(iii)においてゴム凝固物中のゴム分子内でラジカル発生が促進され、ゴム分子と式(I)記載の化合物との反応性が高まる。その結果、例えば脱水機中で脱水する際、式(I)記載の化合物の影響により、ゴムの熱劣化を抑制することができるため、最終的に得られる加硫ゴムの低発熱性を向上し、かつ破断強度の悪化を防止することができる。
【0009】
上記タイヤ部材の製造方法では、前記工程(iii)において、前記式(I)に記載の化合物添加時の前記充填材含有ゴム凝固物の水分量をWa、前記式(I)に記載の化合物の添加量をWbとしたとき、1≦Wa/Wb≦8100であることが好ましい。上記のとおり、式(I)に記載の化合物は水分存在下、水分を介して充填材含有ゴム凝固物中での分散性が著しく向上する。特に、1≦Wa/Wb≦8100であると、式(I)に記載の化合物の分散性と、充填材含有ゴム凝固物中の水分除去に必要な時間短縮とがバランス良く達成可能となる。
【0010】
さらに、本発明は、少なくとも充填材およびゴムを原料として得られた、タイヤ部材の製造方法であって、充填材およびゴムの混合物に対し、しゃくかい剤、下記式(I)に記載の化合物:
【化2】
(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)および水分を添加し、分散させることを特徴とするタイヤ部材の製造方法、に関する。
【0011】
上記製造方法では、水分存在下、充填材およびゴムの混合物に上記式(I)に記載の化合物を分散させる。一般に、タイヤ用に使用されるゴムは乾燥状態で疎水性を示す。一方、上記式(I)に記載の化合物は親水性を示すため、乾燥状態のゴムと式(I)に記載の化合物とを乾式混合しても、式(I)に記載の化合物の分散性は向上しない。しかしながら、上記製造方法では、水分存在下、充填材およびゴムの混合物に上記式(I)に記載の化合物を分散させるため、水分を介して式(I)に記載の化合物の分散性が飛躍的に高まる。その結果、充填材およびゴムの混合物中に式(I)に記載の化合物が高いレベルで分散する。そして、式(I)に記載の化合物は、老化防止効果に優れることから、最終的に得られるタイヤ部材を長期保管しても、最終的に得られる加硫ゴムの物性を保持することができる。つまり、上記製造方法によれば、長期保管しても加硫ゴムの物性低下が抑制されたタイヤ部材を製造することができる。
【0012】
さらに、上記製造方法では、水分存在下、充填材およびゴムの混合物に対し、上記式(I)に記載の化合物とともにしゃくかい剤を分散させる。これにより、最終的に得られる加硫ゴムの低発熱性を向上し、かつ破断強度の悪化を防止することができる。
【0013】
上記タイヤ部材の製造方法では、前記水分の添加量をWa、前記式(I)に記載の化合物の添加量をWbとしたとき、1≦Wa/Wb≦8100であることが好ましい。上記のとおり、式(I)に記載の化合物は水分存在下、水分を介して充填材およびゴムの混合物中での分散性が著しく向上する。特に、1≦Wa/Wb≦7500であると、式(I)に記載の化合物の分散性と、充填材およびゴムの混合物中の水分除去に必要な時間短縮とがバランス良く達成可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るタイヤ部材の製造方法は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として使用する。
【0015】
本発明において、充填材とは、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウムなど、ゴム工業において通常使用される無機充填材を意味する。上記無機充填材の中でも、本発明においてはカーボンブラックを特に好適に使用することができる。
【0016】
カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックの他、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、通常のゴム工業において、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。
【0017】
分散溶媒としては、特に水を使用することが好ましいが、例えば有機溶媒を含有する水であってもよい。
【0018】
ゴムラテックス溶液としては、天然ゴムラテックス溶液および合成ゴムラテックス溶液を使用することができる。
【0019】
天然ゴムラテックス溶液は、植物の代謝作用による天然の生産物であり、特に分散溶媒が水である、天然ゴム/水系のものが好ましい。本発明において使用する天然ゴムラテックス中の天然ゴムの数平均分子量は、200万以上であることが好ましく、250万以上であることがより好ましい。天然ゴムラテックス溶液については濃縮ラテックスやフィールドラテックスといわれる新鮮ラテックスなど区別なく使用できる。合成ゴムラテックス溶液としては、例えばスチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴムを乳化重合により製造したものがある。
【0020】
本発明においては、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られた充填材含有ゴム凝固物を脱水する際、下記式(I)に記載の化合物を添加する。
【化3】
(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)
【0021】
なお、充填材、特にはカーボンブラックへの親和性を高めるためには、式(I)中のRおよびRが水素原子であり、Mがナトリウムイオンである下記式(I’)に記載の化合物:
【化4】
を使用することが特に好ましい。
【0022】
加硫ゴム特性を考慮した場合、タイヤ部材に含まれるゴム成分の全量を100質量部としたとき、式(I)に記載の化合物の配合量は0.1〜10質量部であることが好ましく、0.5〜8質量部であることがより好ましい。
【0023】
本発明においては、充填材含有ゴム凝固物を脱水する際、上記式(I)に記載の化合物とともにしゃくかい剤を添加する。しゃくかい剤は、素練り促進剤とも呼ばれ、ゴム成分に配合された状態で素練りされた場合に、ラジカルを発生させて、ゴム成分中にポリマーラジカルを発生させ、効果的にゴム成分中のポリマー主鎖切断反応を引き起こすために使用される配合剤である。本発明において、しゃくかい剤としては、o,o−ジベンズアミドジフェニルジスルフィド、2−ベンズアミドチオフェノール亜鉛塩、2−チオナフトール、チオキシレノール、ペンタクロロチオフェノールなどのジスルフィド類やメルカプタン類が挙げられ、これらに金属触媒を加えたものも用いられる。また、2−メルカプトベンゾチアゾールなどのチアゾール類;ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類、ジクミルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド類、その他の有機過酸化物等を用いることもできる。その他の例としては、キシレンチオール、ペンタクロロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノールの亜鉛塩、4−第三−ブチル−o−チオクレゾール、4−第三−ブチル−o−チオクレゾールの亜鉛塩、混合ジキシリル・ジスルフィド、チオ安息香酸亜鉛、ジベンズアミドチオフェニルジスルフィド、ジベンズアミドチオフェニルジスルフィドとステアリン酸の混合物、アルキル化フェノール・スルフィド、芳香族硫黄化合物、有機錯化合物、ジニトロソ・レゾルシノール、高分子量の油溶性スルホン酸等が挙げられるが、ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン塩、ジベンズアミドジフェニルジスルフィドとステアリン酸との混合物も挙げられる。また、加硫促進剤として知られる2−メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、およびN−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミンを使用することができる。また、特殊なしゃくかい剤として、上記のしゃくかい剤の分子中に、水酸基、カルボキシル基などの反応性官能基を含有させた化合物(以下、「官能基導入性しゃくかい剤」と称する)を用いることもできる。これらは単独で用いてもよいし、上記一般的なしゃくかい剤と任意の混合比で併用することもできる。このような官能基導入性しゃくかい剤を用いて天然ゴムをしゃくかいすることにより、天然ゴム分子鎖中に反応性官能基を導入することができる。官能基導入性しゃくかい剤のうち、水酸基を含有するものの例としては、2−ヒドロキシジフェニルジスルフィド、2−ヒドロキシエチルジスルフィド、メルカプトフェノール、2−メルカプトエタノール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール等が挙げられる。カルボキシル基を含有するものの例としては、メルカプト安息香酸、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸等が挙げられる。また、無水マレイン酸等のカルボン酸無水物も官能基導入性しゃくかい剤として用いることができる。無水マレイン酸等と上記しゃくかい剤とを任意の混合比で併用することで、天然ゴム分子鎖中に無水酸基を導入することができる。
【0024】
目的とする効果をより高めるために、しゃくかい剤の使用量は、最終的に得られるゴム部材中のゴム成分の全量を100質量部としたとき、0.01〜1質量部とすることが好ましく、0.05〜0.6質量部とすることが好ましい。
【0025】
以下に、本発明に係るタイヤ部材の製造方法について具体的に説明する。かかる製造方法は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られた、タイヤ部材の製造方法であって、前記充填材、前記分散溶媒、および前記ゴムラテックス溶液を混合して、充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i)、前記充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固して、充填材含有ゴム凝固物を製造する工程(ii)、および前記充填材含有ゴム凝固物を脱水することにより、タイヤ部材を製造する工程(iii)を有し、前記工程(iii)が、前記充填材含有ゴム凝固物にしゃくかい剤および上記式(I)に記載の化合物を添加し、水分を含んだ前記充填材含有ゴム凝固物中で前記式(I)に記載の化合物を分散させつつ、前記充填材含有ゴム凝固物を脱水する工程であることを特徴とする。
【0026】
(1)工程(i)
工程(i)では、充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を混合して、充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する。特に、本発明においては、前記工程(i)が、前記充填材を前記分散溶媒中に分散させる際に、前記ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液を製造する工程(i−(a))、およびゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液と、残りの前記ゴムラテックス溶液とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i−(b))を含むことが好ましい。以下に、工程(i−(a))および工程(i−(b))について説明する。特に、本実施形態では、充填材としてカーボンブラックを使用した例について説明する。
【0027】
工程(i−(a))
工程(i−(a))では、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際に、ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する。ゴムラテックス溶液は、あらかじめ分散溶媒と混合した後、カーボンブラックを添加し、分散させても良い。また、分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで所定の添加速度で、ゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させても良く、あるいは分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで何回かに分けて一定量のゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させても良い。ゴムラテックス溶液が存在する状態で、分散溶媒中にカーボンブラックを分散させることにより、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造することができる。工程(i−(a))におけるゴムラテックス溶液の添加量としては、使用するゴムラテックス溶液の全量(工程(i−(a))および工程(i−(b))で添加する全量)に対して、0.075〜12質量%が例示される。
【0028】
工程(i−(a))では、添加するゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量が、カーボンブラックとの質量比で0.25〜15%であることが好ましく、0.5〜6%であることが好ましい。また、添加するゴムラテックス溶液中の固形分(ゴム)濃度が、0.2〜5質量%であることが好ましく、0.25〜1.5質量%であることがより好ましい。これらの場合、ゴムラテックス粒子をカーボンブラックに確実に付着させつつ、カーボンブラックの分散度合いを高めたタイヤ部材を製造することができる。
【0029】
工程(i−(a))において、ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合する方法としては、高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用してカーボンブラックを分散させる方法が挙げられる。
【0030】
上記「高せん断ミキサー」とは、ローターとステーターとを備えるミキサーであって、高速回転が可能なローターと、固定されたステーターと、の間に精密なクリアランスを設けた状態でローターが回転することにより、高せん断作用が働くミキサーを意味する。このような高せん断作用を生み出すためには、ローターとステーターとのクリアランスを0.8mm以下とし、ローターの周速を5m/s以上とすることが好ましい。このような高せん断ミキサーは、市販品を使用することができ、例えばSILVERSON社製「ハイシアーミキサー」が挙げられる。
【0031】
本発明においては、ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合し、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する際、カーボンブラックの分散性向上のために界面活性剤を添加しても良い。界面活性剤としては、ゴム業界において公知の界面活性剤を使用することができ、例えば非イオン性界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両イオン系界面活性剤などが挙げられる。また、界面活性剤に代えて、あるいは界面活性剤に加えて、エタノールなどのアルコールを使用しても良い。ただし、界面活性剤を使用した場合、最終的な加硫ゴムのゴム物性が低下することが懸念されるため、界面活性剤の配合量は、ゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量100質量部に対して、2質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、実質的に界面活性剤を使用しないことが好ましい。
【0032】
工程(i−(b))
工程(i−(b))では、スラリー溶液と、残りのゴムラテックス溶液とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造する。スラリー溶液と、残りのゴムラテックス溶液とを液相で混合する方法は特に限定されるものではなく、スラリー溶液および残りのゴムラテックス溶液とを高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用して混合する方法が挙げられる。必要に応じて、混合の際に分散機などの混合系全体を加温してもよい。
【0033】
残りのゴムラテックス溶液は、次工程(iii)での脱水時間・労力を考慮した場合、工程(i−(a))で添加したゴムラテックス溶液よりも固形分(ゴム)濃度が高いことが好ましく、具体的には固形分(ゴム)濃度が10〜60質量%であることが好ましく、20〜30質量%であることがより好ましい。
【0034】
(2)工程(ii)
工程(ii)では、カーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を凝固して、カーボンブラック含有ゴム凝固物を製造する。凝固方法としては、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液中に凝固剤を含有させる方法が例示可能である。この場合、凝固剤としては、ゴムラテックス溶液の凝固用として通常使用されるギ酸、硫酸などの酸や、塩化ナトリウムなどの塩を使用することができる。なお、工程(ii)の後、工程(iii)の前に、必要に応じて、充填材含有ゴム凝固物が含む水分量を適度に低減する目的で、例えば遠心分離工程や加熱工程などの固液分離工程を設けても良い。
【0035】
(3)工程(iii)
工程(iii)では、カーボンブラック含有ゴム凝固物を脱水することにより、タイヤ部材を製造する。工程(iii)では例えば、単軸押出機を使用し、100〜250℃に加熱しつつ、カーボンブラック含有ゴム凝固物にせん断力を付与しながら脱水することが可能である。本発明においては、特に工程(iii)において、カーボンブラック含有ゴム凝固物にしゃくかい剤および上記式(I)に記載の化合物を添加し、水分を含んだカーボンブラック含有ゴム凝固物中で式(I)に記載の化合物を分散させつつ、カーボンブラック含有ゴム凝固物を脱水する。工程(iii)開始前のカーボンブラック含有ゴム凝固物の水分率は特に限定されるものではないが、前記固液分離工程などを必要に応じて設けて、後述するWa/Wbが適切な範囲となるように水分率を調整することが好ましい。
【0036】
上記のとおり、水分存在下で、カーボンブラック含有ゴム凝固物中に式(I)に記載の化合物を分散させることにより、その分散性が著しく向上する。特に式(I)に記載の化合物添加時のカーボンブラック含有ゴム凝固物の水分量をWa、式(I)に記載の化合物の含有量をWbとしたとき、1≦Wa/Wb≦8100であることが好ましい。Wa/Wbが1未満であると、カーボンブラック含有ゴム凝固物中での式(I)に記載の化合物の分散性が十分に向上しない場合がある。式(I)に記載の化合物の分散性をさらに向上させるためには、Wa/Wbが1以上であることが好ましい。一方、Wa/Wbが8100を超える場合、脱水させる水分が著しく多くなるため、タイヤ部材の生産性が悪化する傾向がある。タイヤ部材の生産性を考慮した場合、Wa/Wbは7500以下であることが好ましい。
【0037】
工程(iii)の後、必要に応じてさらにタイヤ部材の水分率を低減するため、別途、乾燥工程を設けても良い。タイヤ部材の乾燥方法としては、単軸押出機、オーブン、真空乾燥機、エアードライヤーなどの各種乾燥装置を使用することができる。
【0038】
(4)工程(iv)
必要に応じて、工程(iv)では、タイヤ部材に各種配合剤を乾式混合する。使用可能な配合剤としては、例えば、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、メチレン受容体およびメチレン供与体、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、有機過酸化物、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤が挙げられる。
【0039】
硫黄系加硫剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。本発明に係るタイヤ部材における硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.3〜6.5質量部であることが好ましい。硫黄の含有量が0.3質量部未満であると、加硫ゴムの架橋密度が不足してゴム強度などが低下し、6.5質量部を超えると、特に耐熱性および耐久性の両方が悪化する。加硫ゴムのゴム強度を良好に確保し、耐熱性と耐久性をより向上するためには、硫黄の含有量がゴム成分100質量部に対して1.5〜5.5質量部であることがより好ましい。
【0040】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して1〜5質量部であることが好ましい。
【0041】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン−ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して1〜5質量部であることが好ましい。
【0042】
本発明に係る製造方法により製造されたタイヤ部材は、長期保管しても劣化が抑制されているため、これらを原料として製造された加硫ゴムは物性低下が抑制されている。このため、本発明に係る製造方法は、必要に応じて長期保管を経て使用されるタイヤ部材の製造方法として特に有用である。
【実施例】
【0043】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。
【0044】
(使用原料)
a)カーボンブラック
カーボンブラック「N399」;「シーストKH」(東海カーボン社製)
b)分散溶媒 水
c)ゴムラテックス溶液
天然ゴムラテックス溶液(NRフィールドラテックス);Golden Hope社製(DRC=31.2%)
d)式(I)に記載の化合物
(2Z)−4−[(4−アミノフェニル)アミノ]−4−オキソ−2−ブテン酸ナトリウム(住友化学株式会社製)
e)凝固剤 ギ酸(一級85%、10%溶液を希釈して、pH1.2に調整したもの)、「ナカライテスク社製」
f)亜鉛華 亜鉛華1種(三井金属社製)
g)ステアリン酸;「ルナックS−20」(花王株式会社製)
h)ワックス;「OZOACE0355」(日本精蝋社製)
i)老化防止剤
(A)N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン「6PPD」(モンサント社製)
(B)2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体「RD」(大内新興化学社製)
j)硫黄 「5%油入微粉末硫黄」(鶴見化学工業社製)
k)加硫促進剤
(A)「CBS」(三新化学工業社製)
(B)1,3−ジフェニルグアニジン「ノクセラーD」(大内新興化学社製)
l)天然ゴム(NR) 「RSS#3」
m)しゃくかい剤 「ノクタイザーSD」(大内新興化学社製)
【0045】
実施例1〜2
濃度0.52質量%に調整した天然ゴム希薄ラテックス水溶液に、表1に記載の配合量となるようにカーボンブラックを添加し(水に対するカーボンブラックの濃度は5質量%)、これにPRIMIX社製ロボミックスを使用してカーボンブラックを分散させることにより(該ロボミックスの条件:9000rpm、30分)、表1に記載の天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液を製造した(工程(i)−(a))。次に、工程(i−(a))で製造された天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液に、天然ゴムラテックス溶液(28質量%)を、表1に記載の配合量となるように添加し、次いでSANYO社製家庭用ミキサーSM−L56型を使用して混合し(ミキサー条件11300rpm、30分)、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造した(工程(i))。
【0046】
工程(i)で製造された天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液に、凝固剤としての蟻酸を溶液全体がpH4となるまで添加し、カーボンブラック含有天然ゴム凝固物を製造した(工程(ii))。得られたカーボンブラック含有天然ゴム凝固物に対し、必要に応じて固液分離工程を実施することにより、表1に記載の水分量となるように調整したカーボンブラック含有天然ゴム凝固物、しゃくかい剤および式(I)に記載の化合物をスエヒロEPM社製スクリュープレスV−01型に投入し、カーボンブラック含有天然ゴム凝固物中、式(I)に記載の化合物を分散させつつ、カーボンブラック含有天然ゴム凝固物を脱水して、タイヤ部材を製造した(工程(iii))。工程(iii)における、Wa/Wbの値を表1に示す。
【0047】
実施例1〜2で得られたタイヤ部材に表1に記載の各種配合剤をバンバリーミキサーを用いて乾式混合した(工程(iv))。なお、表1中の配合比率は、ゴム成分の全量を100質量部としたときの質量部(phr)で示す。
【0048】
比較例1〜3
ゴム成分、カーボンブラックおよび表1に記載の各種配合剤をバンバリーミキサーを用いて、完全に乾燥した状態で乾式混合することによりタイヤ部材を製造した。
【0049】
比較例4
工程(iii)において、充填材含有ゴム凝固物にしゃくかい剤および式(I)に記載の化合物を添加しなかったこと以外は、実施例1〜3と同様の方法によりタイヤ部材を製造した。
【0050】
比較例5
工程(iii)において、充填材含有ゴム凝固物を完全に乾燥した段階で式(I)に記載の化合物を添加し、しゃくかい剤を添加しなかったこと以外は、実施例1〜3と同様の方法によりタイヤ部材を製造した。
【0051】
比較例6
工程(iii)において、充填材含有ゴム凝固物に式(I)に記載の化合物を添加しないで、しゃくかい剤を添加したこと以外は、実施例1〜3と同様の方法によりタイヤ部材を製造した。
【0052】
得られたタイヤ部材の加工性を、ムーニー粘度を基準に評価した。具体的には、各実施例および比較例で製造したタイヤ部材の製造直後のムーニー粘度をJIS K−6300−1に準拠して測定した。評価は、比較例1で得られたタイヤ部材のムーニー粘度を100として指数評価し、値が低いほど、タイヤ部材の加工性に優れることを意味する。結果を表1に示す。
【0053】
得られたタイヤ部材の加硫ゴムの低発熱性を、加硫ゴムのtanδを基準に評価した。各実施例および比較例で製造した、製造直後のタイヤ部材を150℃30分間加硫して得られた加硫ゴムサンプルのtanδをJIS K6265に準じて評価した。具体的には、UBM社製レオスペクトロメーターE4000を使用し、温度60℃、周波数10Hz、初期歪み15%、動的歪み±2.5%の条件で測定し、比較例1を100として指数評価を行った。値が低いほど、低発熱性に優れることを意味する。結果を表1に示す。
【0054】
得られたタイヤ部材の加硫ゴムの破断強度をJIS K6251に準拠し、ダンベル状3号形にてサンプルを製造し、比較例1を100として指数評価を行った。値が高いほど、破断強度に優れることを意味する。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】