【実施例】
【0018】
以下に、本発明で使用した材料を示す。
水 :地下水(千葉県四街道市)
スラグ微粉末 :エスメント4000石膏添加品(エスメント関東株式会社製)
消石灰 :特号消石灰(奥多摩工業株式会社製)
膨張材 :太平洋N−EX(太平洋マテリアル株式会社製)
細骨材 :普通砂 (茨城県)表乾密度2.61g/cm
3、吸水率0.79%
粗骨材 :普通砕石(茨城県)表乾密度2.65g/cm
3、吸水率0.64%
混和材 :マスターグレニウム8000E(BASFジャパン株式会社製)
【0019】
「実験1」結合材水比の影響
下記表1に示す配合(重量部)で、各材料を練り混ぜ、φ100mm×200mmの供試体をそれぞれ3個ずつ作製した。なお、表1〜3において、結合材であるスラグ微粉末、消石灰、セメント、膨張材の総重量部が100となるように表す。
【0020】
【表1】
【0021】
各供試体は、(1)20℃で2時間の前養生、35℃で8時間の蒸気養生(本養生)、水中(標準養生水槽)3日+気中(屋内20℃恒温室)24日の後養生、(2)20℃で2時間の前養生、60℃で2.5時間の蒸気養生(本養生)、水中(標準養生水槽)3日+気中(屋内20℃恒温室)24日の後養生、(3)標準水中養生28日をそれぞれ行った。
養生28日後に、JIS A1108に従って、万能試験機(株式会社東京衝機製、装置名:RU−30)を用いて圧縮強度測定を行った。
図1に結合材水比と圧縮強度の関係を示す。
【0022】
図1から、本発明の地中構造物用プレキャスト部材において、結合材水比(B/W)と圧縮強度とが比例関係にあることが確認できた。また、材齢28日の圧縮強度は、蒸気養生した方が、標準水中養生したものより強度が高くなり、60℃で2.5時間蒸気養生したものが最も強度が高くなった。
【0023】
「実験2」構造性能の確認
下記表2に示す配合で、幅1350mm、弦長2386mm、厚さ200mmで、円周方向にSD345のD13を上下二段にそれぞれ6本、計12本配筋した実大プレキャスト試験体を作製した。また、JIS A1132「コンクリートの強度試験用供試体の作り方」に従って、φ100mm×200mmの圧縮試験用供試体を作成した。各供試体は、60℃2.5時間の蒸気養生を行った。実施例4、比較例1は、いずれも圧縮強度が60N/mm
2程度の配合であり、比較例1の配合は、高炉セメントB種の配合である。
【0024】
【表2】
【0025】
実大プレキャスト試験体には、内側中心部に600mmの間隔で接触型の変位計を表面の2箇所に取り付け、
図2に示す装置を用い、載荷実験を行った。荷重と変位との関係を
図3に示す。変位は、実大プレキャスト試験体供試体下面の2点の計測点での値の平均である。
なお、圧縮試験用供試体の載荷試験時のコンクリートの圧縮強度は、実施例4が60.8N/mm
2、比較例1が58.0N/mm
2であった。
【0026】
実施例4の実大プレキャスト試験体の載荷実験での実測値は、ひび割れ発生荷重95kN、終局荷重212kNであった。実大プレキャスト試験体の設計荷重は34.9kN、その他の設計上の荷重は、ひび割れ発生荷重59.9kN、鉄筋降伏荷重69.7kN、終局荷重98.3kNであり、設計上の荷重を十分に上回る耐荷性が確認できた。なお、終局荷重は変位計を取り外して測定したため、
図3の範囲には記載されていない。
図3より、本発明の地中構造物用プレキャスト部材は、高炉セメントB種配合と圧縮強度がほぼ同じであれば、荷重−変位関係も同じ挙動を示し、同等の耐荷性を有することが確認できた。
【0027】
「実験3」耐久性試験
下記表3に示す配合について、φ100mm×400mm、φ100mm×200mmの供試体をそれぞれ3個ずつ作製した。
【0028】
【表3】
【0029】
実施例5、6は、それぞれ圧縮強度が60N/mm
2程度、40N/mm
2程度発現する配合として選定したものである。実施例7は、実施例5の膨張材を普通ポルトランドセメントに変えた配合である。比較例2は、上記実験2の比較例1と同じ配合であり、高炉セメントB種の配合である。
各供試体は、20℃で2時間の前養生、35℃で8時間の蒸気養生(本養生)を行った後、水中(標準養生水槽)3日+気中(屋内20℃恒温室)で所定材齢まで放置した。
φ100mm×400mmの供試体を、促進中性化試験、凍結融解試験に、φ100mm×200mmの供試体を、圧縮強度試験、塩水浸漬試験、硫酸ナトリウム水溶液浸漬試験、硫酸浸漬試験に用いた。
【0030】
養生28日後に、JIS A1108に従って、万能試験機(株式会社東京衝機製、装置名:RU−30)を用いて圧縮強度測定を行った。
実施例5〜7、比較例2で作製した供試体の圧縮強度は、それぞれ55.0、36.7、51.6、58.6(N/mm
2)であり、コンクリート練上り時の空気量は、それぞれ1.5、2.3、2.3、2.2(%)であった。
【0031】
「促進中性化試験」
JIS A1153「コンクリートの促進中性化試験方法」に従って、促進中性化試験を行った。
図4に、促進中性化試験の結果を示す。
本発明の地中構造物用プレキャスト部材は、高炉セメントB種相当の配合である比較例2に比べて中性化の進行が早かった。これは、環境配慮型配合である本発明の地中構造物用プレキャスト部材は、高炉スラグ微粉末を多く使用しており、消石灰などに由来する水酸化カルシウムが消費され、コンクリートのpHが低いためと考えられる。
【0032】
「凍結融解試験」
JIS A1148「コンクリートの凍結融解試験方法」にしたがって、凍結融解試験を行った。
図5に凍結融解試験の結果を示す。
比較例2は、non−AEコンクリートであるのにも拘わらず、相対動弾性係数や質量に変化が見られず、高い凍結融解抵抗性を有している。
一方、本発明の地中構造物用プレキャスト部材は、60〜90サイクルまでに相対動弾性係数が60%を下回っており、また、質量はひび割れの進展に伴って最初は増加し、最終的には破断して大きく減少しており、凍結融解抵抗性が極めて低かった。これは、本実験で使用した地中構造物用プレキャスト部材がnon−AEコンクリートであるためと推測されるが、同じくnon−AEコンクリートである比較例2では著しい劣化が見られないことから、セメント硬化体の組織の影響を受けている可能性が考えられる。
【0033】
「塩水浸漬試験」
JSCE−G572「浸せきによるコンクリート中の塩化物イオンの見掛けの拡散係数試験方法(案)」に従って、塩水浸漬試験を行った。
図6、7に、塩水浸漬試験の26週、52週の結果を示す。
見掛けの拡散係数は、26週で0.50〜0.67cm
2/年、52週で0.33〜0.39cm
2/年と同じ浸漬期間では配合による大きなきな違いは見られず、また、26週に比べて52週では見掛けの拡散係数が小さくなるが、いずれの浸漬期間でも、環境配慮型配合が高炉セメントB種配合と同程度以上の遮塩性を有していることが確かめられた。ただし、表面付近の塩化物イオン濃度は、本発明の地中構造物用プレキャスト部材の方が高炉セメントB種配合よりも低い。これは、表面付近での塩化物イオンの固定化量の違いなどが考えられる。
【0034】
「硫酸ナトリウム水溶液浸漬試験」
JIS原案「コンクリートの溶液浸漬による耐薬品性試験方法(案)」に従って、硫酸ナトリウム水溶液浸漬試験を行った。
図8に硫酸ナトリウム水溶液浸漬試験の結果を示す。
この試験では、乾燥3週+浸漬1週を1サイクルとして、乾湿を繰り返した。その結果、いずれの配合でも質量が徐々に増加する傾向が見られた。これは、コンクリート内部に硫酸ナトリウムが浸透しているためと考えられ、乾燥過程で硫酸ナトリウムの結晶化により膨張し、微細なひび割れが進展する可能性が考えられた。そのため、1、3、13サイクルで圧縮強度を測定したところ、実施例5〜7、比較例2は、それぞれ1サイクルで、61.8、44.6、60.8、68.5(N/mm
2)、3サイクルで67.9、47.4、66.6、70.2(N/mm
2)、13サイクルで72.9、50.1、74.6、73.0、(N/mm
2)と、むしろ強度は増加しており、圧縮強度への影響は見られなかった。
【0035】
「硫酸浸漬試験」
日本下水道事業団「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル」に従って、硫酸浸漬試験を行った。
図9に硫酸浸漬試験の結果を示す。
いずれの配合でも、浸漬開始から4週までは質量の減少は見られなかったが、4週以降は一定の速度で質量が減少した。また、浸漬16週後の残存断面での中性化深さはいずれも10mm程度であることから、本発明の地中構造物用プレキャスト部材の硫酸抵抗性は、高炉セメントB種配合のコンクリートと変わらないことが確かめられた。