(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下記イオン性不純物を含む、0.1〜40重量%ナノダイヤモンド水分散液(pH1.0以下)をクロスフロー方式による膜濾過に付して、前記イオン性不純物を透過液と共に分離除去し、膜濾過後のナノダイヤモンド水分散液に水を加えてナノダイヤモンド濃度を上記範囲に調整し、再びクロスフロー方式による膜濾過に付す操作を透過液のpHが2.0〜7.0となるまで繰り返す、イオン性不純物除去工程を含むナノダイヤモンド水分散液の製造方法。
イオン性不純物:硫酸、硝酸、クロム酸、無水クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種に由来するカチオン及び/又はアニオンを含む
下記イオン性不純物を含む、0.1〜40重量%ナノダイヤモンド水分散液(pH1.0以下)をクロスフロー方式による膜濾過に付して、前記イオン性不純物を透過液と共に分離除去し、膜濾過後のナノダイヤモンド水分散液に水を加えてナノダイヤモンド濃度を上記範囲に調整し、再びクロスフロー方式による膜濾過に付す操作を透過液の電気伝導度が100μS/cm以下となるまで繰り返す、イオン性不純物除去工程を含むナノダイヤモンド水分散液の製造方法。
イオン性不純物:硫酸、硝酸、クロム酸、無水クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種に由来するカチオン及び/又はアニオンを含む
イオン性不純物除去工程に加え、イオン性不純物除去工程終了後のナノダイヤモンド水分散液をクロスフロー方式による膜濾過に付して、ナノダイヤモンド水分散液中の水分を透過液として分離除去する濃縮工程を含む、請求項1又は2に記載のナノダイヤモンド水分散液の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[ナノダイヤモンド水分散液の製造方法]
本発明のナノダイヤモンド水分散液の製造方法は、下記イオン性不純物を含む、0.1〜40重量%ナノダイヤモンド水分散液(pH1.0以下)をクロスフロー方式による膜濾過に付して、前記イオン性不純物を透過液と共に分離除去し、膜濾過後のナノダイヤモンド水分散液に水を加えてナノダイヤモンド濃度を上記範囲に調整し、再びクロスフロー方式による膜濾過に付す操作を透過液のpHが2.0以上となるまで繰り返す、循環クロスフロー膜濾過方式による、イオン性不純物除去工程を含む。
イオン性不純物:硫酸、硝酸、クロム酸、無水クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種に由来するカチオン及び/又はアニオンを含む
【0018】
(イオン性不純物除去工程)
本発明におけるイオン性不純物除去工程において除去されるイオン性不純物には、後述の(2)酸処理工程や(3)酸化処理工程において用いられる、酸(例えば、硫酸、硝酸)由来のカチオン、前記酸の塩(例えば、硫酸のアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩やカリウム塩等))由来のアニオンとカチオン、酸化剤(例えば、クロム酸、無水クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸、及びこれらの塩(例えば、アルカリ金属塩))由来のアニオンとカチオンからなる群より選択される少なくとも1種が含まれる。
【0019】
本発明におけるイオン性不純物には、上記の他に、例えば、反応容器(特に、金属製反応容器)に由来するカチオン(反応容器の形成材料に由来するカチオンであり、例えば、鉄イオン、アルミニウムイオン、ケイ素イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、クロムイオン、モリブデンイオン等が挙げられる)を含んでいても良い。
【0020】
本発明におけるイオン性不純物の好ましい態様は、硫酸イオン、硝酸イオン、クロム酸イオン、二クロム酸イオン、アルミニウムイオン、ケイ素イオン、及び過マンガン酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0021】
本発明は、イオン性不純物除去工程において、pH1.0以下(例えば−0.5〜1.0、好ましくは−0.3〜1.0、特に好ましくは−0.1〜1.0)のナノダイヤモンド水分散液を、クロスフロー方式による膜濾過に付すことを特徴とする。それにより、濾過膜面への付着物質の堆積を抑制することができ、付着物質の堆積による流量の低下を抑制して効率よくナノダイヤモンド水分散液の精製処理を行うことができる。前記付着物質の堆積を抑制する効果は、pHが1.0以下であるナノダイヤモンド水分散液を膜濾過に付すと、ナノダイヤモンド表面及び濾過膜表面はいずれもマイナスに帯電するため、互いに反発し合うことにより濾過膜へのナノダイヤモンドの付着が抑制されるためと考えられる。
【0022】
イオン性不純物除去工程に付すナノダイヤモンド水分散液のpHが1.0超である場合は、pH調整剤として酸(例えば、濃硫酸等)を添加することにより、pHを1.0以下に調整することができる。
【0023】
クロスフロー方式による膜濾過を終了する時点は、透過液のpHを測定することにより決定することができ、本発明では、透過液のpHが2.0以上(例えば2.0〜7.0、好ましくは3.0〜7.0、特に好ましくは3.5〜7.0)となるまで膜濾過する操作を繰り返し行うことを特徴とする。透過液のpHが上記範囲になるまで膜濾過を繰り返し行わないと、不純物の除去処理が未だ不十分である場合があり、好ましくない。
【0024】
また、クロスフロー方式による膜濾過を終了する時点は、透過液の電気伝導度を測定することでも決定することができ、本発明では、透過液の電気伝導度が3000μS/cm以下(好ましくは2000μS/cm以下、より好ましくは1000μS/cm以下、更に好ましくは500μS/cm以下、特に好ましくは100μS/cm以下、最も好ましくは50μS/cm以下)となるまで膜濾過する操作を繰り返し行うことを特徴とする。透過液の電気伝導度が上記範囲になるまで膜濾過を繰り返し行わないと、不純物の除去処理が未だ不十分である場合があり、好ましくない。
【0025】
膜濾過に付すナノダイヤモンド水分散液の、ナノダイヤモンド濃度は0.1〜40重量%(好ましくは0.1〜20重量%、特に好ましくは0.1〜10重量%、最も好ましくは0.1〜5重量%)である。ナノダイヤモンド濃度が上記範囲を外れると、不純物の除去効率が低下する傾向がある。また、ナノダイヤモンド濃度が上記範囲を上回る場合は、粘度が高くなりすぎ、濾過膜が詰まり易くなる傾向がある。
【0026】
また、本発明におけるイオン性不純物除去工程では、膜濾過処理により、不純物と共に水が透過液として分離されるため、膜濾過後のナノダイヤモンド水分散液(環流液)中のナノダイヤモンド濃度は、膜濾過前に比べて、例えば、1倍を超え、400倍以下程度(なかでも1倍を超え、20倍以下、特に1倍を超え、10倍以下)に上昇する。そのため、本発明においては、水(例えば、精製水、蒸留水、純水、イオン交換水等)で希釈することにより、ナノダイヤモンド水分散液の濃度を上記範囲に調整した後、再び膜濾過処理に付すことを行う。それにより、濾過膜の詰まりを抑制して、不純物の分離効率を向上させることができ、濾過膜の負荷軽減により濾過膜の寿命を向上させることができる。
【0027】
図1は、本発明におけるクロスフロー方式による膜濾過の一例を示す概略図である。仕込みタンクに仕込まれたナノダイヤモンド水分散液を含む供給液は、クロスフロー濾過方式で膜濾過され、透過液が除去される。膜濾過後のナノダイヤモンド水分散液(環流液)は、再度、仕込みタンクへ循環し、希釈用の水(希釈用水)で希釈され、再びクロスフロー濾過方式で膜濾過される。
【0028】
クロスフロー濾過方式とは、濾過膜面に平行に被処理水を流し、濾滓の沈着による濾過膜汚染を防ぎながら被処理水の一部を、被処理水の流れの側方で濾過する方式である。
【0029】
前記膜濾過に使用する濾過膜としては、例えば、限外濾過膜、精密濾過膜、ナノフィルター、逆浸透膜等を挙げることができる。
【0030】
本発明においては、なかでも、孔サイズが1〜20nm(好ましくは、1〜10nm)であり、分画分子量が1000〜300000の物質(分子サイズとしては1〜10nm程度)[好ましくは、分子量1000〜50000(分子サイズとして1〜10nm)]を分離対象とする濾過膜(特に、限外濾過膜)を使用することが好ましい。
【0031】
限外濾過膜の膜形状としては、例えば、中空糸型濾過膜、チューブラー膜、スパイラル膜、平膜等の何れであっても良いが、洗浄が比較的容易である点において、中空糸型濾過膜、又はチューブラー膜が好ましい。
【0032】
中空糸型濾過膜における中空糸膜の内径は、汚染物質の閉塞の防止、膜モジュールへの中空糸充填率の向上という観点から、0.1〜2.0mmの範囲が好ましく、0.5〜1.0mmの範囲がさらに好ましい。
【0033】
濾過膜の材質としては、例えば、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、セラミックなどの一般的な材質を特に制限されることなく使用することができる。本発明においては、なかでも、酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリアミドが好ましい。
【0034】
中空糸膜としては、例えば、酢酸セルロース系中空糸膜、ポリスルホン系中空糸膜、ポリアクリロニトリル系中空糸膜、ポリフッ化ビニリデン中空糸膜、ポリエーテルスルホン系中空糸膜等を挙げることができるが、これらの中でも、酸に対する耐性が高いことから、ポリエーテルスルホン系中空糸膜又はポリスルホン系中空糸膜が好ましい。
【0035】
中空糸型濾過膜を使用する場合、ナノダイヤモンド水分散液を流す方法(濾過方式)としては、内側(中空糸膜の内側)にナノダイヤモンド水分散液を含む供給液を流し、外側(中空糸膜の外側)に透過水を流す方式(内圧濾過方式)と、その逆に外側にナノダイヤモンド水分散液を含む供給液を流し、内側に向けて透過水が流れる方式(外圧濾過方式)が挙げられる。本発明においては、なかでも、膜面流速を高く維持できる点で内圧濾過方式が好ましい。
【0036】
クロスフロー方式による膜濾過における濃縮倍率としては、1倍を超え、400倍以下程度(なかでも1倍を超え、20倍以下、特に1倍を超え、10倍以下)が好ましい。濃縮倍率が上記範囲を上回ると、膜面への付着物質の堆積抑制が困難となり、濾過速度及び膜寿命が低下し易くなる傾向がある。一方、濃縮倍率が上記範囲を下回ると、不純物の分離効率が低下し、洗浄水の使用量が増加する傾向がある。
【0037】
クロスフロー方式による膜濾過における濃縮倍率は、例えば、濾過圧力、ナノダイヤモンド水分散液の膜面線速(クロスフロー速度)等をコントロールすることにより調整することができる。濾過圧力は、例えば0.001〜5.0MPa程度であり、好ましくは0.005〜3MPa、特に好ましくは0.01〜2.0MPaである。
【0038】
また、ナノダイヤモンド水分散液を含む供給液の膜面線速が大きいほど膜面への付着物質の堆積が抑制されるので高い濾過流束(フラックス)が得られ、例えば、膜面線速(クロスフロー速度)は、例えば0.02m/s以上、3m/s未満であり、好ましくは0.05m/s以上、1.5m/s未満である。
【0039】
本発明に係るナノダイヤモンド水分散液の製造方法では、pH1.0以下のナノダイヤモンド水分散液をクロスフロー方式による膜濾過に付すため、濾過膜面への付着物質の堆積が抑制される。従って、頻度を低減することはできるが、定期的に洗浄(特に、逆洗浄)を行って濾過膜面への付着物質を除去することが、濾過膜への負担を軽減し、長期間の膜濾過運転を可能とする点で好ましい。逆洗浄は圧力及び流速を制御しつつ行うことが好ましい。
【0040】
逆洗浄の圧力としては、例えば0.01〜3.0MPa程度であり、好ましくは0.01〜2.0MPa、特に好ましくは0.01〜1.0MPa、最も好ましくは0.01〜0.5MPa、さらに好ましくは0.05〜0.5MPaである。また、逆洗浄の流速としては、例えば0.01〜10kg/mim程度、好ましくは0.05〜5kg/mim、特に好ましくは0.1〜5kg/mim[或いは、例えば1×10
-7〜2×10
-4m/sec程度、好ましくは8×10
-7〜9×10
-5m/sec、特に好ましくは1×10
-6〜9×10
-5m/sec]である。逆洗浄の頻度としては、例えば1か月に1回程度行うことが好ましい。また、逆洗浄の時間は0.5分以上が好ましい。
【0041】
なお、逆洗浄に用いる洗浄水としては、水(例えば、精製水、蒸留水、純水、イオン交換水等)を使用することが好ましい。また、逆洗浄により膜通過した洗浄水は、濃縮されたナノダイヤモンド水分散液の希釈用の水として再利用することができる(
図2参照)。
【0042】
また、本発明のナノダイヤモンド水分散液の製造方法では、イオン性不純物除去工程を経て得られたナノダイヤモンド水分散液を濃縮することが求められる場合は、イオン性不純物除去工程の後に濃縮工程を設けることが好ましく、特に、クロスフロー方式による膜濾過を利用した濃縮工程を設けることが好ましい。
【0043】
前記クロスフロー方式による膜濾過を利用した濃縮工程とは、より詳細には、イオン性不純物除去工程終了後のナノダイヤモンド水分散液を、水を添加すること無く、クロスフロー方式による膜濾過に付して、ナノダイヤモンド水分散液中の水分を透過液として分離除去することで濃縮されたナノダイヤモンド水分散液を得る工程である。そして、所望の濃度に濃縮されたナノダイヤモンド水分散液が得られるまで、膜濾過後のナノダイヤモンド水分散液を、水を添加すること無く、再びクロスフロー方式による膜濾過に付す操作を繰り返し行うことが好ましい。
【0044】
クロスフロー方式による膜濾過を利用した濃縮によれば、ナノダイヤモンドを圧密化すること無く、水分を除去することができ、ナノダイヤモンドを高分散状態で含有する、高濃度(例えば、ナノダイヤモンド濃度が1.0重量%以上、好ましくは3.0重量%以上、特に好ましくは5.0重量%以上。ナノダイヤモンド濃度の上限は、例えば40重量%、好ましくは20重量%、特に好ましくは10重量%)のナノダイヤモンド水分散液を得ることができる。
【0045】
前記濃縮工程におけるクロスフロー方式による膜濾過は、上記イオン性不純物除去工程におけるクロスフロー方式による膜濾過と同様の方法で行うことができる。
【0046】
本発明のナノダイヤモンド水分散液の製造方法において、上記イオン性不純物除去工程(好ましくはイオン性不純物除去工程、及び濃縮工程)に付すナノダイヤモンド水分散液は、例えば、(1)生成工程、(2)酸処理工程及び/又は(3)酸化処理工程を経て製造することができる。
【0047】
すなわち、本発明のナノダイヤモンド水分散液の製造方法は、(1)生成工程、(2)酸処理工程及び/又は(3)酸化処理工程を経てイオン性不純物を含むナノダイヤモンドを得、これをイオン性不純物除去工程に付すことが好ましい。
【0048】
また、本発明のナノダイヤモンド水分散液の製造方法は、上記工程以外にも、更に他の工程、例えば、(4)化学的解砕工程を有していてもよい。
【0049】
(1)生成工程
ナノダイヤモンド水分散液に含まれるナノダイヤモンドは、例えば爆轟法によって製造することができる。前記爆轟法には、空冷式爆轟法と水冷式爆轟法が含まれる。本発明においては、なかでも、一次粒子が小さいナノダイヤモンドを得ることができるうえで空冷式爆轟法が好ましく、特に、空冷式大気共存下爆轟法、すなわち空冷式であって大気組成の気体が共存する条件下での爆轟法が、官能基量のより多いナノダイヤモンドを得ることができるうえで好ましい。従って、本発明におけるナノダイヤモンドは、爆轟法ナノダイヤモンド、すなわち爆轟法によって生成したナノダイヤモンドが好ましく、より好ましくは空冷式爆轟法ナノダイヤモンドであり、特に好ましくは空冷式大気共存下爆轟法ナノダイヤモンドである。
【0050】
空冷式大気共存下爆轟法では、まず、成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置し、容器内において大気組成の常圧の気体が使用爆薬と共存する状態で容器を密閉する。容器としては、例えば鉄製等の金属製容器が使用される。容器の容積は、例えば0.5〜40m
3であり、好ましくは2〜30m
3である。爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)とシクロトリメチレントリニトロアミンすなわちヘキソーゲン(RDX)との混合物を使用することができる。TNTとRDXの重量比(TNT/RDX)は、例えば40/60〜60/40の範囲とされる。
【0051】
生成工程では、次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させる。爆轟とは、化学反応に伴う爆発のうち反応の生じる火炎面が音速を超えた高速で移動するものをいう。爆轟の際、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素を原料として、爆発で生じた衝撃波の圧力とエネルギーの作用によってナノダイヤモンドが生成する。
【0052】
生成工程では、次に、室温での24時間の放置により、容器およびその内部を降温させる。この放冷の後、容器の内壁に付着している粗ナノダイヤモンド(ナノダイヤモンドと不純物を含む)をヘラで掻き取る作業を行い、粗ナノダイヤモンドを回収する。回収された粗ナノダイヤモンドは、隣接する一次粒子ないし結晶子の間がファンデルワールス力の作用に加えて結晶面間クーロン相互作用が寄与して非常に強固に集成し、凝着体をなす。
【0053】
回収された粗ナノダイヤモンドを水中に分散することにより粗ナノダイヤモンド水分散液が得られる。粗ナノダイヤモンド水分散液には、反応に用いた容器等に含まれるAl、Fe、Co、Cr、Ni等の金属の酸化物(例えば、Fe
2O
3、Fe
3O
4、Co
2O
3、Co
3O
4、NiO、Ni
2O
3等)が金属性不純物として含まれ、前記金属性不純物はナノダイヤモンドの凝集の原因となる。また、グラファイト等の副生物が含まれる場合もあり、これもナノダイヤモンドの凝集の原因となる。
【0054】
(2)酸処理工程
酸処理工程は、生成工程を経て得られた粗ナノダイヤモンド水分散液に、酸を添加して金属性不純物を除去する工程である。そして、粗ナノダイヤモンド水分散液に酸を添加することにより、粗ナノダイヤモンドに含まれる前記金属性不純物を溶解し、除去することができる。この酸処理に用いられる酸(特に、強酸)としては鉱酸が好ましく、例えば、硫酸、硝酸、及びこれらの塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。酸処理に使用される酸の濃度は例えば1〜50重量%である。酸処理温度は例えば70〜150℃である。酸処理時間は例えば0.1〜24時間である。また、酸処理は、減圧下、常圧下、または加圧下で行うことが可能である。酸処理後は、例えばデカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンドを含む)の水洗を行うことが好ましく、特に、沈殿液のpHが例えば2〜3に至るまで、水洗を反復して行うのが好ましい。
【0055】
(3)酸化処理工程
酸化処理工程は、生成工程を経て得られた粗ナノダイヤモンド水分散液に、酸化剤を添加して、グラファイト(黒鉛)を除去する工程である。爆轟法で得られる粗ナノダイヤモンドには不純物としてグラファイトが含まれる場合があり、このグラファイトは、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素のうちナノダイヤモンド結晶を形成しなかった炭素に由来する。例えば上記(2)酸処理工程の後に、所定の酸化剤を作用させることにより、粗ナノダイヤモンドからグラファイトを除去することができる。この酸化処理に用いられる酸化剤としては、例えば、クロム酸、無水クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸、及びこれらの塩が挙げられる。これらは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。酸化処理で使用される酸化剤の濃度は例えば3〜50重量%である。酸化処理における酸化剤の使用量は、酸化処理に付される粗ナノダイヤモンド100重量部に対して例えば300〜500重量部である。酸化処理温度は例えば100〜200℃である。酸化処理時間は例えば1〜24時間である。酸化処理は、減圧下、常圧下、または加圧下で行うことが可能である。また、酸化処理は、グラファイトの除去効率向上の観点から、酸(特に、鉱酸。酸処理工程で使用の鉱酸と同様の例を挙げることができる)の共存下で行うのが好ましい。酸化処理に酸を用いる場合、酸の濃度は例えば5〜80重量%である。このような酸化処理の後、例えばデカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行う。水洗当初の上澄み液は着色しているところ、上澄み液が目視で透明になるまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行うのが好ましい。
【0056】
(4)化学的解砕工程
(2)酸処理工程及び/又は(3)酸化処理工程を経ても、尚、ナノダイヤモンドは、一次粒子間が非常に強く相互作用して集成している凝着体(二次粒子)の形態をとる場合があり、そのような場合は化学的解砕処理を施して、ナノダイヤモンドの凝着体を解砕して一次粒子化することが好ましい。化学的解砕処理は、例えば、アルカリおよび過酸化水素を作用させることにより行うことができる。前記アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリの濃度は、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.2〜8重量%、更に好ましくは0.5〜5重量%である。過酸化水素の濃度は、好ましくは1〜15重量%、より好ましくは2〜10重量%、更に好ましくは4〜8重量%である。処理温度は例えば40〜95℃であり、処理時間は例えば0.5〜5時間である。また、化学的解砕処理は、減圧下、常圧下、または加圧下で行うことが可能である。このような化学的解砕処理の後、デカンテーションによって上澄みが除かれる。
【0057】
本発明のナノダイヤモンド水分散液の製造方法では、イオン性不純物の除去を、遠心分離ではなく、クロスフロー方式による膜濾過により行うため、また、ナノダイヤモンド水分散液の濃縮が所望される場合は、クロスフロー方式による膜濾過を利用して濃縮するため、ナノダイヤモンドの圧密化を抑制することができる。
【0058】
そのため、本発明の製造方法により得られるナノダイヤモンド水分散液は、ナノダイヤモンドの凝集が抑制され、ナノダイヤモンドを高分散して含有する。
【0059】
イオン性不純物除去工程を経て得られるナノダイヤモンド水分散液(イオン性不純物除去工程終了後に、クロスフロー方式による膜濾過を利用した濃縮工程を設ける場合は、濃縮工程を経て得られるナノダイヤモンド水分散液)に含まれるナノダイヤモンドは、粒径D50(メディアン径)が1μm以下のナノダイヤモンド二次粒子であり、水分散液中においては、互いに離隔してコロイド粒子として分散している。ナノダイヤモンドの粒径D50は、好ましくは800nm以下、より好ましくは600nm以下、特に好ましくは450nm以下、最も好ましくは350nm以下である。尚、ナノダイヤモンドの粒径D50の下限は、例えば100nmである。尚、粒径D50は、いわゆる動的光散乱法によって測定できる。
【0060】
また、イオン性不純物除去工程を経て得られるナノダイヤモンド水分散液に含まれるナノダイヤモンド(イオン性不純物除去工程終了後に、クロスフロー方式による膜濾過を利用した濃縮工程を設ける場合は、濃縮工程を経て得られるナノダイヤモンド水分散液に含まれるナノダイヤモンド)の比表面積は、例えば200m
2/g以上、好ましくは250m
2/g以上、特に好ましくは280m
2/g、最も好ましくは300m
2/g以上である。ナノダイヤモンドの比表面積の上限は、例えば500m
2/g、好ましくは400m
2/gである。尚、ナノダイヤモンドの比表面積は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0061】
イオン性不純物除去工程を経て得られるナノダイヤモンド水分散液(イオン性不純物除去工程終了後に、クロスフロー方式による膜濾過を利用した濃縮工程を設ける場合は、濃縮工程を経て得られるナノダイヤモンド水分散液)に含まれるナノダイヤモンドは、その後、超音波分散機等を用いて軽度の分散処理を施すことにより、含有するナノダイヤモンドを容易に一次粒子にまで分散させることができ、分散性に優れ、比表面積が極めて大きいナノダイヤモンドを含む水分散液が得られる。
【0062】
本発明の製造方法により得られるナノダイヤモンド水分散液は、上述の通りナノダイヤモンドを高分散した状態で含有するため、ナノダイヤモンドの特性(高い機械的強度、電気絶縁性、優れた熱伝導性、消臭効果、抗菌効果)を高度に発現することができ、研磨材、導電性付与材、絶縁材料、消臭剤、抗菌剤等として好適に使用される。例えば、本発明の製造方法により得られるナノダイヤモンド水分散液を樹脂に添加して使用する場合は、少量の添加により前記の優れた特性を樹脂に付与することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。尚、pHは、pH計(商品名「ラコムテスター PH110」、ニッコー・ハンセン(株)製)を使用して測定し、比表面積は自動比表面積/細孔分布測定装置(商品名「BELSORP−max」、日本ベル(株)製)を使用してBET法により測定した。
【0064】
実施例1
(生成工程)
まず、ナノダイヤモンドを得るための生成工程を行った。具体的には、まず、爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置し、容器内において大気組成の常圧の気体が使用爆薬と共存する状態で容器を密閉した。容器は鉄製で、容器の容積は15m
3である。爆薬としては、TNTとRDXとの混合物(TNT/RDX(重量比)=50/50)0.50kgを使用した。次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させた。次に、室温での24時間の放置により、容器およびその内部を降温させた。この放冷の後、容器の内壁に付着しているナノダイヤモンド(爆轟法で生成したナノダイヤモンドの凝着体と煤を含む)をヘラで掻き取って回収した。ナノダイヤモンドの回収量は0.025kgであった。
【0065】
(酸処理工程)
次に、上述のような生成工程を複数回行うことによって取得されたナノダイヤモンドに対して酸処理を行った。具体的には、当該ナノダイヤモンド200gに濃硫酸1Lを加え、常圧条件下、85〜100℃の温度で1時間の加熱処理を行った。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンドと煤を含む)の水洗を行った。沈殿液のpHが低pH側から2に至るまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。
【0066】
(酸化処理工程)
次に、酸化処理を行った。具体的には、デカンテーション後の沈殿液に、60重量%硫酸水溶液5Lと60重量%クロム酸水溶液2Lとを加えて粗ナノダイヤモンド水分散液とした後、この水分散液に対し、常圧条件での還流下、120〜140℃の温度で5時間の加熱処理を行った。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンドを含む)の水洗を行った。水洗当初の上澄み液は着色しているところ、上澄み液が目視で透明になるまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。
【0067】
(化学的解砕工程)
次に、化学的解砕を行った。具体的には、デカンテーション後の沈殿液に、10重量%水酸化ナトリウム水溶液1Lと30重量%過酸化水素水溶液1Lとを加え、常圧条件での還流下、50〜105℃の温度で1時間の加熱処理を行った(化学的解砕処理)。次に、冷却後、デカンテーションによって上澄みを除いた。
【0068】
(pH調整工程)
次に、pH調整を行った。具体的には、化学的解砕処理後のデカンテーションによって得られた沈殿液に濃硫酸を加えて、pH0.5のナノダイヤモンド水分散液(1)を得た。得られたナノダイヤモンド水分散液(1)は、ナノダイヤモンドが水中で良好に分散しておらず、沈降物が見られた。水中に分散しているナノダイヤモンドの比表面積は330m
2/gであった。
【0069】
(イオン性不純物除去工程)
得られたナノダイヤモンド水分散液(1)(250g)を、室温(25℃)にて、限外濾過膜(中空糸型限外濾過膜、中空糸膜材質:ポリエーテルスルホン、分画分子量:30000、ダイセン・メンブレン・システムズ(株)製)を用いて、透過液量と同量の純水を加えながらクロスフロー方式による濾過処理を、透過液のpHが3.5、透過液の電気伝導度が33μs/cmになるまで繰返し行って、ナノダイヤモンド水分散液(2)(200g)(ナノダイヤモンド回収率:97.6%)を得た。濾過処理後の濾過膜には付着物がなく、経時的な流量の低下はみられなかった。また、ナノダイヤモンド水分散液(2)は、ナノダイヤモンドの分散性に優れ、沈降物は確認されなかった。また、ナノダイヤモンド水分散液(2)に含まれるナノダイヤモンドの比表面積は330m
2/gであった。
【0070】
(濃縮工程)
その後、ナノダイヤモンド水分散液(2)を、純水の添加を行わずに、クロスフロー方式による濾過処理に付し、透過水を除去して、ナノダイヤモンドを6.2重量%まで濃縮させて、ナノダイヤモンド水分散液(3)を得た。また、ナノダイヤモンド水分散液(3)に含まれるナノダイヤモンドの比表面積は330m
2/gであった。
【0071】
実施例2
(生成工程)〜(pH調整工程)
実施例1と同様にして、pH0.5のナノダイヤモンド水分散液(1)を得た。
【0072】
(イオン性不純物除去工程)
得られたナノダイヤモンド水分散液(1)について、透過液のpHが6.0、透過液の電気伝導度が6μs/cmになるまで繰返し行った以外は、実施例1と同様に行って、ナノダイヤモンド水分散液(4)(ナノダイヤモンド回収率:98.6%)を得た。濾過処理後の濾過膜には付着物がなく、経時的な流量の低下はみられなかった。また、ナノダイヤモンド水分散液(4)は、ナノダイヤモンドの分散性に優れ、沈降物は確認されなかった。また、ナノダイヤモンド水分散液(4)中のナノダイヤモンドの比表面積は330m
2/gであった。
【0073】
(濃縮工程)
その後、ナノダイヤモンド水分散液(4)を、純水の添加を行わずに、クロスフロー方式による濾過処理に付し、透過水を除去して、ナノダイヤモンドを6.0重量%まで濃縮させて、ナノダイヤモンド水分散液(5)を得た。また、ナノダイヤモンド水分散液(5)中のナノダイヤモンドの比表面積は330m
2/gであった。
【0074】
実施例3
(生成工程)〜(pH調整工程)
pH調整工程において濃硫酸の添加量を変更した以外は実施例1と同様にして、pH−0.1のナノダイヤモンド水分散液(6)を得た。
【0075】
(イオン性不純物除去工程)
得られたナノダイヤモンド水分散液(6)について、透過液のpHが4.0、透過液の電気伝導度が15μs/cmになるまで繰返し行った以外は実施例1と同様に行って、ナノダイヤモンド水分散液(7)(ナノダイヤモンド回収率:98.8%)を得た。濾過処理後の濾過膜には付着物がなく、経時的な流量の低下はみられなかった。また、ナノダイヤモンド水分散液(7)は、ナノダイヤモンドの分散性に優れ、沈降物は確認されなかった。また、ナノダイヤモンド水分散液(7)中のナノダイヤモンドの比表面積は320m
2/gであった。
【0076】
(濃縮工程)
その後、ナノダイヤモンド水分散液(7)を、純水の添加を行わずに、クロスフロー方式による濾過処理に付し、透過水を除去して、ナノダイヤモンドを5.8重量%まで濃縮させて、ナノダイヤモンド水分散液(8)を得た。また、ナノダイヤモンド水分散液(8)中のナノダイヤモンドの比表面積は320m
2/gであった。
【0077】
比較例1
実施例1と同様に(生成工程)〜(pH調整工程)を行って、pH0.5のナノダイヤモンド水分散液(1)を得た。
得られたナノダイヤモンド水分散液(1)(ナノダイヤモンドの濃度:2.4重量%)50gを、純水100mL中に拡散し、高速遠心分離機を使用して、20000Gにて、固液分離を行った。しかし、十分に固液分離を行うことができず、液層部分にはナノダイヤモンドが含まれており、灰色〜黒色に濁っていた。また、固層部分でのナノダイヤモンド回収率は50%と低く、精製したナノダイヤモンドを効率良く得ることができなかった。また、不純物の除去も十分でなく、固層部分に100mLの純水を投入し、超音波を使用して分散処理を行ったが、分散処理後も沈降物が確認された。