(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
非圧縮性流体が封入された受圧室と平衡室がオリフィス通路で相互に連通されていると共に、衝撃的荷重の入力で該受圧室に発生する負圧の作用により短絡通路を開いて該受圧室を該平衡室に連通させることでキャビテーションを抑えるリリーフ機構が設けられた流体封入式防振装置において、
前記リリーフ機構における前記短絡通路部分には、該短絡通路が開かれていない状態でも前記オリフィス通路よりも小さな通路断面で前記受圧室と前記平衡室の連通状態を維持するリーク通路が設けられており、且つ、
該受圧室と該平衡室を仕切る仕切部材が配設されて、該仕切部材に前記短絡通路が形成されていると共に、該仕切部材に弾性的に押し当てられて該短絡通路を塞ぐ弁体が設けられており、衝撃的荷重の入力で該受圧室に発生する負圧の作用により該弁体の該仕切部材への押当てが解除されることで該短絡通路を開いて該受圧室を該平衡室に連通させてキャビテーションを抑える前記リリーフ機構が設けられている一方、
該仕切部材における該弁体が押し当てられる面に開口する溝形状で前記リーク通路が形成されていることを特徴とする流体封入式防振装置。
前記短絡通路上に配設された前記弁体を前記受圧室側から前記平衡室側に向けて付勢することで該弁体を前記仕切部材に弾性的に押し当てて該短絡通路を該弁体によって閉塞させる付勢手段が設けられていると共に、該仕切部材における該弁体が押し当てられる面には該短絡通路の開口から該弁体よりも外周まで延びる溝状の前記リーク通路が形成されている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
前記弁体および前記付勢手段を収容する収容空所が前記仕切部材に設けられており、該収容空所の内周面には内周側へ向けて突出する保持突部が形成されて、該弁体の外周面と該保持突部の突出先端との当接により該弁体が該収容空所内で位置決めされていると共に、前記リーク通路が該収容空所の壁内面における該保持突部を周方向で外れた部分に形成されている請求項2に記載の流体封入式防振装置。
弾性体で形成された前記弁体が前記短絡通路の通路内面に押し当てられて該短絡通路が該弁体で塞がれると共に、該短絡通路の通路内面には該短絡通路の長さ方向で該弁体が押し当てられる部分よりも外側まで延びる溝状の前記リーク通路が形成されている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
前記リーク通路の通路断面積が前記オリフィス通路の通路断面積の1/2倍以下とされていると共に、該リーク通路を通じて流動する流体の共振周波数が該オリフィス通路を通じて流動する流体の共振周波数よりも高周波に設定されている請求項1〜5の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、簡単且つコンパクトな構造によってより優れた防振性能を実現することができる、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0009】
すなわち、本発明の第一の態様は、非圧縮性流体が封入された受圧室と平衡室がオリフィス通路で相互に連通されていると共に、衝撃的荷重の入力で該受圧室に発生する負圧の作用により短絡通路を開いて該受圧室を該平衡室に連通させることでキャビテーションを抑えるリリーフ機構が設けられた流体封入式防振装置において、前記リリーフ機構における前記短絡通路部分には、該短絡通路が開かれていない状態でも前記オリフィス通路よりも小さな通路断面で前記受圧室と前記平衡室の連通状態を維持するリーク通路が設けられて
おり、且つ、該受圧室と該平衡室を仕切る仕切部材が配設されて、該仕切部材に前記短絡通路が形成されていると共に、該仕切部材に弾性的に押し当てられて該短絡通路を塞ぐ弁体が設けられており、衝撃的荷重の入力で該受圧室に発生する負圧の作用により該弁体の該仕切部材への押当てが解除されることで該短絡通路を開いて該受圧室を該平衡室に連通させてキャビテーションを抑える前記リリーフ機構が設けられている一方、該仕切部材における該弁体が押し当てられる面に開口する溝形状で前記リーク通路が形成されていることを、特徴とする。
【0010】
このような第一の態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、オリフィス通路が実質的に遮断された状態においても、受圧室と平衡室がリーク通路を通じて連通状態に維持されることから、低動ばね化による防振効果を有効に得ることができる。しかも、リーク通路は、通路断面積がオリフィス通路よりも小さくされていることから、オリフィス通路がチューニングされた周波数の振動入力時に、オリフィス通路を通じた流体流動がリーク通路を通じた流体流動よりも積極的に生ぜしめられて、流体の流動作用に基づく防振効果が有効に発揮される。
【0011】
さらに、リーク通路はリリーフ機構における短絡通路部分に設けられていることから、リリーフ機構とリーク通路の両方を備える流体封入式防振装置をコンパクトに実現できると共に、構造の簡略化なども図ることができる。
加えて、本態様によれば、仕切部材においてリリーフ機構の弁体が押し当てられる面に開口する溝形状でリーク通路を形成することによって、弁体の開閉に関係なく受圧室と平衡室を連通状態に維持するリーク通路を、簡単な構造で形成することができると共に、リーク通路を形成するために特別なスペースを要することがなく、コンパクトな構造を実現することができる。
【0014】
本発明の第
二の態様は、第
一の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記短絡通路上に配設された前記弁体を前記受圧室側から前記平衡室側に向けて付勢することで該弁体を前記仕切部材に弾性的に押し当てて該短絡通路を該弁体によって閉塞させる付勢手段が設けられていると共に、該仕切部材における該弁体が押し当てられる面には該短絡通路の開口から該弁体よりも外周まで延びる溝状の前記リーク通路が形成されているものである。
【0015】
第
二の態様によれば、弁体が付勢手段で付勢されて仕切部材に押し当てられることにより短絡通路が弁体で遮断されると共に、受圧室に発生する負圧の作用によって弁体が付勢手段の付勢力に抗して受圧室側へ移動することで、短絡通路の弁体による遮断が解除されて、短絡通路が連通状態に切り替えられる構造のリリーフ機構において、リーク通路を簡単な構造と優れたスペース効率で設けることができる。
【0016】
本発明の第
三の態様は、第
二の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記弁体および前記付勢手段を収容する収容空所が前記仕切部材に設けられており、該収容空所の内周面には内周側へ向けて突出する保持突部が形成されて、該弁体の外周面と該保持突部の突出先端との当接により該弁体が該収容空所内で位置決めされていると共に、前記リーク通路が該収容空所の壁内面における該保持突部を周方向で外れた部分に形成されているものである。
【0017】
第
三の態様によれば、収容空所内の弁体が保持突部によって付勢手段による付勢方向と略直交する方向で位置決めされていると共に、リーク通路が保持突部を周方向で外れた部分に設けられていることから、リーク通路の外周端部が弁体によって覆われることなく、弁体よりも外周側で安定して開口せしめられて、受圧室と平衡室の連通状態がリーク通路によって安定して維持される。
【0018】
本発明の第
四の態様は、第
二又は第
三の態様に記載された流体封入式防振装置において、複数の前記リーク通路が前記短絡通路の開口から外周へ向けて放射状に形成されているものである。
【0019】
第
四の態様によれば、リーク通路の数を調節することによって、各リーク通路の通路断面積をオリフィス通路よりも小さくして、オリフィス通路による防振効果を有効に得ながら、オリフィス通路が実質的に遮断された状態でのばね特性を調節することができる。
【0020】
本発明の第
五の態様は、第
一の態様に記載された流体封入式防振装置において、弾性体で形成された前記弁体が前記短絡通路の通路内面に押し当てられて該短絡通路が該弁体で塞がれると共に、該短絡通路の通路内面には該短絡通路の長さ方向で該弁体が押し当てられる部分よりも外側まで延びる溝状の前記リーク通路が形成されているものである。
【0021】
第
五の態様によれば、弁体がそれ自体の弾性に基づいて短絡通路の通路内面に押し当てられることにより、短絡通路が弁体によって遮断されると共に、受圧室に発生する負圧の作用によって弁体が弾性変形して短絡通路の通路内面から離れることで、短絡通路の弁体による遮断が解除されて、短絡通路が連通状態に切り替えられる構造のリリーフ機構において、リーク通路を簡単な構造と優れたスペース効率で設けることができる。
【0022】
本発明の第
六の態様は、第一〜第
五の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記リーク通路の通路断面積が前記オリフィス通路の通路断面積の1/2倍以下とされていると共に、該リーク通路を通じて流動する流体の共振周波数が該オリフィス通路を通じて流動する流体の共振周波数よりも高周波に設定されているものである。
【0023】
第
六の態様によれば、リーク通路の通路断面積がオリフィス通路の通路断面積に対して十分に小さくされていることにより、オリフィス通路がチューニングされた周波数の振動入力時に、オリフィス通路を通じた流体流動がより支配的に生ぜしめられて、流体の流動作用に基づく防振効果が有効に発揮される。
【0024】
さらに、オリフィス通路を通じて流動する流体の共振周波数(チューニング周波数)よりも高周波の振動入力に対しては、オリフィス通路よりも高周波にチューニングされたリーク通路によって受圧室と平衡室の連通状態が維持されることから、オリフィス通路の反共振による高動ばね化が防止されて、低動ばね特性による防振効果を有効に得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、リリーフ機構を備える流体封入式防振装置において、リリーフ機構における短絡通路部分に受圧室と平衡室の連通状態を維持するリーク通路が設けられていることから、オリフィス通路が実質的に遮断された状態においても、受圧室と平衡室がリーク通路を通じて連通状態に維持されて、低動ばね化による防振効果を有効に得ることができる。更に、リーク通路がリリーフ機構における短絡通路部分に設けられていることから、リリーフ機構とリーク通路の両方を備える流体封入式防振装置をコンパクトに実現できると共に、構造の簡略化なども図られ得る。また、リーク通路の通路断面積がオリフィス通路よりも小さくされていることから、オリフィス通路がチューニングされた周波数の振動入力時に、オリフィス通路を通じた流体流動がリーク通路を通じた流体流動よりも積極的に生ぜしめられて、流体の流動作用に基づく防振効果が有効に発揮される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0028】
図1には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結された構造を有している。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、マウント中心軸方向である
図1中の上下方向を言う。
【0029】
より詳細には、第一の取付部材12は、金属や合成樹脂で形成された高剛性の部材であって、全体として略円柱形状とされていると共に、中心軸上を上下に延びて上面に開口するねじ穴18を備えている。
【0030】
第二の取付部材14は、
図1に示すように、第一の取付部材12と同様に高剛性の部材であって、薄肉大径の略円筒形状を有している。この第二の取付部材14は、第一の取付部材12に対して同一中心軸上で下方に配置されており、それら第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結されている。
【0031】
本体ゴム弾性体16は、全体として略円錐台形状を有しており、小径側の端部に第一の取付部材12が固着されていると共に、大径側の端部に第二の取付部材14が固着されている。本実施形態の本体ゴム弾性体16は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を備える一体加硫成形品として形成されている。更に、本体ゴム弾性体16には、逆向きのすり鉢形状を呈して下面に開口する凹所20が形成されている。
【0032】
また、第二の取付部材14には、可撓性膜22が取り付けられている。可撓性膜22は、薄肉の略円形ドーム形状を有するゴム膜であって、容易に変形可能とされていると共に、上下の弛みを有している。この可撓性膜22の外周端部には、嵌着筒部材24が固着されている。嵌着筒部材24は、略円筒形状とされており、上下方向の中間部分に段差26が形成されて、段差26よりも上側が大径筒部28とされていると共に、下側が小径筒部30とされている。そして、内周側へ突出する嵌着筒部材24の下端部に対して、可撓性膜22の外周端部が加硫接着されており、嵌着筒部材24の下開口部が可撓性膜22によって流体密に塞がれている。
【0033】
この嵌着筒部材24は、大径筒部28が第二の取付部材14に外挿された状態で八方絞りなどの縮径加工を施されることにより、大径筒部28において第二の取付部材14に嵌着されている。これにより、嵌着筒部材24に固着された可撓性膜22が第二の取付部材14に取り付けられており、第二の取付部材14の下開口が可撓性膜22によって塞がれている。なお、嵌着筒部材24の大径筒部28には、第一のシールゴム層32が内周面の略全体を覆うように固着されており、第二の取付部材14と大径筒部28が第一のシールゴム層32を介して嵌着されることにより、第二の取付部材14と大径筒部28の間が流体密にシールされている。更に、嵌着筒部材24の小径筒部30には、可撓性膜22と一体形成された第二のシールゴム層34が内周面の略全体を覆うように固着されている。
【0034】
このような可撓性膜22の第二の取付部材14への装着状態において、本体ゴム弾性体16と可撓性膜22の間には、外部から流体密に隔てられた流体室36が形成されており、流体室36に非圧縮性流体が封入されている。流体室36に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、水やエチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液などの液体が好適に採用される。また、後述する流体の流動作用に基づく防振効果を効率的に得るためには、流体室36に封入される非圧縮性流体として、0.1Pa・s以下の低粘性流体を採用することが望ましい。
【0035】
また、流体室36には、仕切部材38が配設されている。仕切部材38は、
図2〜4に示すように、全体として略円板形状を有しており、仕切部材本体40の上面に蓋板部材42が重ね合わされた構造を有している。
【0036】
仕切部材本体40は、金属や合成樹脂で形成された硬質の部材であって、
図5,6にも示すように、厚肉の略円板形状を有している。更に、仕切部材本体40の外周端部には、外周面に開口しながら周方向へ二周未満の長さで螺旋状に延びる周溝44が形成されている。更にまた、仕切部材本体40の径方向中間部分には、それぞれ小径の略円柱形状を有する複数の嵌合ピン46が上面に突設されている。
【0037】
さらに、仕切部材本体40の径方向中央部分には、上面に開口する略円形断面の収容凹所48が形成されている。この収容凹所48には、底壁部を上下に貫通する二つの下短絡孔50,50が形成されていると共に、周壁内面に複数の保持突部52が突出形成されている。保持突部52は、内周側へ突出すると共に、収容凹所48の上下中央から下端にかけて連続的に延びている。なお、複数の保持突部52の内周端は、略同一円周上に位置しており、その円周の直径が後述する弁体64の下部の外径に対して略同じか僅かに大きくされている。
【0038】
本実施形態では、三つの保持突部52,52,52が周方向で略均等に配置されているが、保持突部52の形成数や配置などは適宜に変更され得る。また、保持突部52の具体的な形状も特に限定されるものではないが、後述する弁体64が上下に変位しても弁体64を軸直角方向で位置決め可能となるように、好適には上下に連続的に延びている。更に、弁体64と接触する保持突部52の突出先端面は、弁体64との接触時に弁体64を傷付け難く、且つ弁体64との間に作用する摩擦抵抗が小さくなるように、突出先端側である収容凹所48の内周側へ向けて凸となる湾曲面とされていることが望ましい。
【0039】
蓋板部材42は、仕切部材本体40に対応する略円板形状を有する薄肉の部材であって、本実施形態では、径方向中央部分が下方に向けて凹となる位置決め凹部54を備えていると共に、位置決め凹部54の上底壁部には、二つの上短絡孔56,56が貫通形成されている。また、蓋板部材42の径方向中間部分には、上下に貫通する複数のピン挿通孔58が形成されており、それらピン挿通孔58が仕切部材本体40の嵌合ピン46に対応する円形断面を有している。
【0040】
そして、仕切部材本体40の上面に蓋板部材42が重ね合わされて、仕切部材本体40の嵌合ピン46が蓋板部材42のピン挿通孔58に挿通されていると共に、ピン挿通孔58に挿通された嵌合ピン46の先端部分に環状の嵌合リング59が嵌着されている。これにより、仕切部材本体40と蓋板部材42が相互に固定されており、仕切部材本体40の上方が蓋板部材42で覆われている。なお、仕切部材本体40と蓋板部材42の固定手段は、限定されるものではなく、例えば、ピン挿通孔58に挿通された嵌合ピン46の先端部分を押し潰すなどして拡径させることにより、嵌合ピン46を蓋板部材42におけるピン挿通孔58の開口周縁部に係合させることで、仕切部材本体40と蓋板部材42を相互に固定することができる。
【0041】
さらに、仕切部材本体40に形成された収容凹所48の上開口が蓋板部材42で覆われることにより、それら仕切部材本体40と蓋板部材42の間に収容空所60が形成されており、この収容空所60にはリリーフ機構62が設けられている。本実施形態のリリーフ機構62は、弁体64と付勢手段としてのコイルスプリング66を含んで構成されている。
【0042】
弁体64は、ゴム弾性体で形成されて、全体として略円形ブロック状とされており、下部が上部よりも大径とされていると共に、下面の外周端部には下方に向けて突出する環状のシールリップ68が一体形成されている。そして、コイルスプリング66の上端部が蓋板部材42の位置決め凹部54に差し入れられていると共に、コイルスプリング66の下端部が弁体64に対して外挿状態で装着されており、コイルスプリング66が蓋板部材42と弁体64の下部との間で上下に圧縮状態とされている。これにより、弁体64がコイルスプリング66の弾性に基づいて下向きに付勢されており、弁体64のシールリップ68が収容空所60の下壁内面に弾性的に押し当てられている。
【0043】
弁体64は、複数の保持突部52よりも内周に配設されていることによって、保持突部52との当接によって収容空所60内で軸直角方向の略中央に位置決めされており、弁体64のシールリップ68が二つの下短絡孔50,50よりも外周側に配置されて、シールリップ68が下短絡孔50,50の外周側を囲む位置で収容空所60の底壁内面に押し当てられている。これにより、振動が入力されていないエンジンマウント10の静置状態において、下短絡孔50,50は弁体64によって実質的に遮断されている。
【0044】
かくの如き構造を有する仕切部材38は、
図1に示すように、嵌着筒部材24の小径筒部30に差し入れられて、本体ゴム弾性体16と可撓性膜22の間に配設されている。本実施形態では、嵌着筒部材24の小径筒部30が縮径加工されることにより、仕切部材38が嵌着筒部材24に取り付けられている。なお、仕切部材38の上端部は、第二の取付部材14に内挿されていると共に、本体ゴム弾性体16の外周端部の下面に押し当てられている。また、嵌着筒部材24の小径筒部30と仕切部材38の間に第二のシールゴム層34が配されており、小径筒部30の内周面と仕切部材38の外周面との間が第二のシールゴム層34によって流体密にシールされている。
【0045】
そして、仕切部材38が本体ゴム弾性体16と可撓性膜22の間に配設されることにより、流体室36が仕切部材38を挟んで上下に二分されている。即ち、仕切部材38の上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて振動入力時に内圧変動が惹起される受圧室70が形成されている。一方、仕切部材38の下側には、壁部の一部が可撓性膜22で構成されて容積変化が容易に許容される平衡室72が形成されている。なお、それら受圧室70と平衡室72には、流体室36に封入された非圧縮性流体がそれぞれ封入されている。
【0046】
さらに、受圧室70と平衡室72は、仕切部材38に形成されたオリフィス通路74によって相互に連通されている。オリフィス通路74は、仕切部材本体40に形成された周溝44の外周開口が、第二のシールゴム層34を介して、嵌着筒部材24で流体密に覆われることにより、周方向に二周未満の長さで延びるように形成されており、一端が上連通孔75を通じて受圧室70に連通されていると共に、他端が下連通孔76を通じて平衡室72に連通されている。なお、本実施形態では、
図2に示すように、上連通孔75と下連通孔76が周溝44の周方向中間部分に形成されており、周溝44がオリフィス通路74の通路長方向で上連通孔75および下連通孔76よりも外側まで延びていることから、仕切部材38の軽量化が図られている。
【0047】
このオリフィス通路74は、流体室36の壁ばね剛性を考慮しながら通路断面積と通路長の比を調節することで、流動流体の共振周波数であるチューニング周波数が適宜に設定されており、本実施形態では、チューニング周波数がエンジンシェイクに相当する5〜20Hz程度の低周波数に設定されている。
【0048】
更にまた、仕切部材38の径方向中央部分には、受圧室70と平衡室72を相互に連通する短絡通路77が形成されている。短絡通路77は上短絡孔56,56と収容空所60と下短絡孔50,50によって構成されており、エンジンマウント10の静置状態では、下短絡孔50の上開口が収容空所60に配設された弁体64によって覆われていることで、短絡通路77が遮断状態とされている。なお、弁体64はコイルスプリング66で下向きに付勢されており、弁体64のシールリップ68が短絡通路77を構成する下短絡孔50の外周側で収容空所60の下壁内面に押し当てられることによって、短絡通路77が弁体64によって実質的に塞がれる。
【0049】
ここにおいて、仕切部材本体40における短絡通路77の形成部分には、リーク通路78が設けられている。リーク通路78は、
図6〜8に示すように、弁体64が押し当てられる収容空所60の底壁内面に開口して径方向に延びる凹溝で構成されて、内周端が一方の下短絡孔50に連通されていると共に、外周端が弁体64のシールリップ68よりも外周側に位置しており、本実施形態では弁体64よりも外周側に位置して収容空所60の外周端まで達している。更に、リーク通路78は、複数の保持突部52を周方向で外れた部分に設けられて、外周端が保持突部52の内周先端よりも外周に配されていることにより、外周端が弁体64よりも外周に配されている。これにより、リーク通路78は、弁体64によって遮断されることなく、常時開放された状態で設けられている。なお、
図7中では、弁体64が二点鎖線で示されている。
【0050】
このリーク通路78は、通路断面積がオリフィス通路74の通路断面積よりも小さくされており、好適にはオリフィス通路74の通路断面積の1/2倍以下、より好適には1/10倍以下とされている。更に、リーク通路78の通路断面積と通路長の比は、オリフィス通路74の通路断面積と通路長の比よりも大きくされており、リーク通路78を流動する流体の共振周波数(リーク通路78のチューニング周波数)が、オリフィス通路74を流動する流体の共振周波数(オリフィス通路74のチューニング周波数)よりも高周波に設定されている。具体的には、例えば、リーク通路78のチューニング周波数は、アイドリング振動に相当する20〜40Hz程度の周波数域や、走行こもり音に相当する50Hz以上の周波数域などにチューニングされ得る。
【0051】
そして、リーク通路78は、収容空所60と上短絡孔56,56を通じて受圧室70に連通されていると共に、下短絡孔50,50を通じて平衡室72に連通されており、短絡通路77が開かれていない遮断状態でも、受圧室70と平衡室72の連通状態がリーク通路78によって維持されるようになっている。
【0052】
このような構造とされた本実施形態に従う構造のエンジンマウント10は、第一の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付部材14および嵌着筒部材24が同じく図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、車両に装着されている。なお、第一の取付部材12が図示しないインナブラケットを介してパワーユニットに取り付けられていても良いし、第二の取付部材14および嵌着筒部材24が図示しないアウタブラケットを介して車両ボデーに取り付けられていても良い。
【0053】
かかるエンジンマウント10の車両への装着状態において、エンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が第一の取付部材12と第二の取付部材14の間に上下方向で入力されると、受圧室70に内圧変動が惹起されて、受圧室70と平衡室72の間でオリフィス通路74を通じた流体流動が共振状態で積極的に生ぜしめられる。これにより、流体の流動作用に基づいて振動が減衰されて、目的とする防振効果が発揮される。
【0054】
このようなオリフィス通路74がチューニングされた周波数の振動入力時には、リーク通路78よりも通路断面積の十分に大きなオリフィス通路74を通じた流体流動が、リーク通路78を通じた流体流動に比して効率的に生ぜしめられて、目的とする防振効果を有利に得ることができる。特に、リーク通路78は、常時開放状態とされていることから、リーク通路78を弁などで開閉する構造に比して、オリフィス通路74による防振効果が弁の開閉の度合いによって変化することなく安定して発揮される。
【0055】
また、衝撃的荷重の入力で受圧室70に大きな負圧が発生すると、リリーフ機構62において、弁体64が負圧の作用によってコイルスプリング66の弾性に抗して上方へ変位せしめられることから、弁体64のシールリップ68が収容空所60の底壁内面から離れることで、下短絡孔50の弁体64による遮断が解除される。これにより、短絡通路77が連通状態に切り替えられて、受圧室70と平衡室72が短絡通路77によってオリフィス通路74よりも短い通路長で相互に連通される。その結果、平衡室72から受圧室70への短絡通路77を通じた流体の移動によって、受圧室70の負圧が可及的速やかに低減乃至は解消されて、キャビテーションに起因する異音などが防止される。
【0056】
また、オリフィス通路74のチューニング周波数よりも高周波の振動入力時には、リーク通路78を通じた流体の流動によって、防振効果が発揮される。即ち、アイドリング振動や走行こもり音のようなオリフィス通路74のチューニング周波数よりも高周波の振動入力時には、オリフィス通路74が反共振によって実質的に遮断される。ここにおいて、受圧室70と平衡室72は、オリフィス通路74が実質的に遮断された状態において、リーク通路78によって連通状態が維持されることから、受圧室70の密閉による高動ばね化が防止されて、低動ばねによる防振効果(振動絶縁効果)が発揮される。
【0057】
本実施形態では、リリーフ機構62が弁体64とコイルスプリング66を備えた構造とされている。即ち、本実施形態のリリーフ機構62は、弁体64がコイルスプリング66で付勢されて短絡通路77の開口周縁部で仕切部材本体40に押し当てられることにより、短絡通路77が弁体64によって遮断されると共に、受圧室70に発生する負圧の作用によって弁体64がコイルスプリング66の付勢力に抗して受圧室70側へ移動することで、短絡通路77が連通状態に切り替えられるようになっている。そして、仕切部材本体40における弁体64の重ね合わせ面に溝状のリーク通路78が設けられていることにより、受圧室70と平衡室72の連通状態が維持されている。これにより、リリーフ機構62とリーク通路78を備えたエンジンマウント10を、簡単な構造でコンパクトに実現することができる。
【0058】
さらに、弁体64は、その外周面が収容空所60の周壁内面に突出する保持突部52に当接することにより、仕切部材38に対して軸直角方向で位置決めされている。それ故、弁体64の収容空所60内での軸直角方向への相対変位量が制限されており、リーク通路78の外周側の端部が弁体64で覆われることなく、常に開放されている。これにより、受圧室70と平衡室72の連通状態が、リーク通路78によって安定して維持される。
【0059】
また、リーク通路78の通路断面積は、オリフィス通路74の1/2倍以下、好適にはオリフィス通路74の1/10以下とされていることから、オリフィス通路74がチューニングされた周波数の振動入力時において、リーク通路78を通じた受圧室70と平衡室72の間での流体の流動量が小さくされている。これにより、リーク通路78を通じた流体の移動によって受圧室70の内圧変動が低減され難く、オリフィス通路74を通じた流体流動が支配的に生ぜしめられることから、オリフィス通路74による防振効果が有効に発揮される。
【0060】
さらに、リーク通路78を通じて流動する流体の共振周波数(リーク通路78のチューニング周波数)が、オリフィス通路74を通じて流動する流体の共振周波数(オリフィス通路74のチューニング周波数)よりも高周波に設定されていることから、オリフィス通路74が反共振によって実質的に閉塞する周波数の振動入力に対しても、受圧室70と平衡室72の連通状態がリーク通路78によって維持される。それ故、オリフィス通路74のチューニング周波数よりも高周波の振動入力に対して、低動ばね化による防振効果を有効に得ることができる。
【0061】
図9には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第二の実施形態として、自動車用のエンジンマウント80が示されている。以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
【0062】
即ち、エンジンマウント80は、第一の取付部材12と第二の取付部材82が本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結された構造を有している。第二の取付部材82は、第一の実施形態の嵌着筒部材24と同様の段付き円筒形状を有しており、大径筒部28の内周面に本体ゴム弾性体16が加硫接着されていると共に、小径筒部30の内周面には本体ゴム弾性体16と一体形成されたシールゴム層84が加硫接着されている。
【0063】
また、第二の取付部材82の小径筒部30の下端部には、可撓性膜22が取り付けられている。この可撓性膜22の外周端部には、環状の固定部材86が全周に亘って固着されており、固定部材86が第二の取付部材82の下端部に差し入れられた状態で、第二の取付部材82が縮径加工されることにより、可撓性膜22が第二の取付部材82に取り付けられている。
【0064】
また、本体ゴム弾性体16と可撓性膜22の間に形成された流体室36には、仕切部材88が配設されている。仕切部材88は、全体として略円板形状とされており、仕切部材本体90と底板部材92が上下に重ね合わされた構造を有している。
【0065】
仕切部材本体90は、金属や合成樹脂などで形成された硬質の部材であって、径方向中央部分に上下に貫通する上透孔94を備えて、全体として略円環板形状を有しており、外周部分が厚肉とされて周方向に一周弱の長さで延びる周溝96を備えていると共に、内周部分が外周部分よりも上下で薄肉とされて、内周端部には下方へ突出する環状の上挟持部98が設けられている。また、仕切部材本体90における薄肉の内周部分には、上挟持部98よりも外周側を上下に貫通する上短絡孔100が、周方向の複数箇所にそれぞれ形成されている。
【0066】
底板部材92は、例えばプレス金具で形成された薄肉の略円環板形状の部材であって、径方向中央部分に上下に貫通する下透孔102を備えている。更に、本実施形態の底板部材92は、径方向中間部分に形成された段差よりも内周側が外周側よりも上方に位置する下挟持部104とされていると共に、段差よりも外周には上下に貫通する下短絡孔106が形成されている。
【0067】
そして、底板部材92の外周部分が、仕切部材本体90の外周部分に下方から重ね合わされている。また、仕切部材本体90の上短絡孔100と底板部材92の下短絡孔106が上下に接続されており、それら上短絡孔100と下短絡孔106によって仕切部材88を上下に貫通する短絡通路108が形成されている。
【0068】
また、上下に重ね合わされた仕切部材本体90と底板部材92の間には、可動部材110が配設されている。可動部材110は、ゴム弾性体で形成されて略円板形状を有しており、径方向中間部分に環状の被挟持部112が設けられて、被挟持部112の内周側が円板状の可動膜部114とされていると共に、被挟持部112の外周側が弁体としての弁体部116とされている。弁体部116は、上方へ傾斜しながら外周側へ突出しており、突出先端に向けて次第に薄肉となる断面形状を有している。
【0069】
この可動部材110は、仕切部材本体90と底板部材92の上下間に配されており、被挟持部112が仕切部材本体90の上挟持部98と底板部材92の下挟持部104との間で上下に挟持されている。かかる可動部材110の配設状態において、内周部分である可動膜部114が、仕切部材本体90の上透孔94と底板部材92の下透孔102の開口を塞ぐように設けられて、それら上透孔94と下透孔102を隔てていると共に、外周端部に設けられた弁体部116が短絡通路108の外周側の通路内面118に押し当てられて、短絡通路108が弁体部116によって実質的に遮断されている。
【0070】
このような構造とされた仕切部材88は、第二の取付部材82の小径筒部30に差し入れられて、第二の取付部材82に縮径加工が施されることにより、第二の取付部材82の小径筒部30の内周側で流体室36に配設されている。これにより、流体室36は、仕切部材88よりも上側の受圧室70と下側の平衡室72に二分されている。
【0071】
本実施形態のリリーフ機構120は、可動部材110の弁体部116を有する構造とされている。即ち、受圧室70と平衡室72を連通する短絡通路108は、弁体部116が短絡通路108の通路内面118に押し当てられるように配されることで、弁体部116によって遮断状態とされる一方、受圧室70に発生する負圧の作用によって、弁体部116が弾性変形せしめられて、短絡通路108の通路内面118から離れることで、短絡通路108が遮断状態から連通状態に切り替えられる。そして、受圧室70にキャビテーションが発生するほどの負圧が作用せしめられると、リリーフ機構120によって短絡通路108が連通状態とされて、受圧室70と平衡室72が短絡通路108を通じて相互に連通されることにより、受圧室70の負圧が可及的速やかに低減される。
【0072】
ここにおいて、短絡通路108の外周側の通路内面118には、
図9,10に示すように、リーク通路122が形成されている。リーク通路122は、短絡通路108の通路内面118に開口しながら短絡通路108の通路長方向である上下方向に延びる溝状であって、短絡通路108の通路内面118における弁体部116の当接部分よりも上下外側まで延びており、本実施形態では、仕切部材本体90の上下全長に亘って延びている。これにより、リーク通路122は、弁体部116で覆われることがなく、受圧室70と平衡室72がリーク通路122を通じて連通状態に維持されている。
【0073】
なお、リーク通路122の通路断面積は、第一の実施形態のリーク通路78と同様に、オリフィス通路74の通路断面積よりも小さくされており、好適にはオリフィス通路74の通路断面積の1/2倍以下、より好適にはオリフィス通路74の通路断面積の1/10倍以下とされている。また、リーク通路122のチューニング周波数は、オリフィス通路74のチューニング周波数よりも高周波に設定されている。なお、本実施形態のオリフィス通路74は、一周弱の長さで延びる周溝96によって形成されているが、通路断面積を調節することでエンジンシェイクに相当する低周波振動にチューニングされている。
【0074】
このようなリーク通路122が設けられていることにより、オリフィス通路74のチューニング周波数よりも高周波の振動が入力される際に、オリフィス通路74が反共振によって実質的に遮断された状態となっても、受圧室70と平衡室72がリーク通路122を通じて相互に連通された状態に維持される。これにより、オリフィス通路74が実質的に遮断された状態において、低動ばね化が図られて、目的とする防振効果を得ることができる。更に、リーク通路122がリリーフ機構120の短絡通路108の形成部分に設けられていることから、リリーフ機構120とリーク通路122の両方を備えるエンジンマウント80を簡単な構造でコンパクトに実現することができる。
【0075】
本実施形態では、オリフィス通路74のチューニング周波数よりも高周波の振動入力に対して、可動部材110の可動膜部114の変形によって、低動ばね化による防振効果が発揮されるようになっている。なお、オリフィス通路74がチューニングされた低周波大振幅振動の入力時には、可動膜部114の変形によって受圧室70と平衡室72の間で液圧を伝達する作用が制限されることから、オリフィス通路74を通じた流体流動が効率的に生ぜしめられる。また、可動膜部114は、例えば、オリフィス通路74のチューニング周波数よりも高周波且つリーク通路122のチューニング周波数よりも低周波の振動入力に対して、共振状態で積極的に変形して液圧の伝達作用が効率的に発揮されるようになっている。具体的には、例えば、可動膜部114の共振周波数がアイドリング振動に相当する周波数に設定されると共に、リーク通路122のチューニング周波数が走行こもり音などのより高周波に設定される。
【0076】
図11には、本発明の第三の実施形態としての流体封入式防振装置を構成する仕切部材本体130の要部が示されている。仕切部材本体130の収容凹所48には、底面に開口する二つのリーク通路132,132が設けられている。要するに、複数のリーク通路132が下短絡孔50,50から外周側へ向けて放射状に延びており、本実施形態では、二つのリーク通路132,132が、二つの下短絡孔50,50の各一方から外周側へ向けて相互に反対向きに延びている。
【0077】
このように複数のリーク通路132を形成すれば、各リーク通路132の通路断面積を大きくすることなく、複数のリーク通路132の通路断面積の合計を調節することができて、複数のリーク通路132によって発揮される防振性能の特性を容易にチューニングすることができる。
【0078】
図12には、本発明の第四の実施形態としての流体封入式防振装置の要部が示されている。この流体封入式防振装置を構成する仕切部材140の仕切部材本体142には、リリーフ機構62の短絡通路77が設けられた部分にリーク通路144が設けられている。このリーク通路144は、
図12,13に示すように、下短絡孔50の開口周縁部から外周側へ径方向に延びる横溝146と、収容凹所48の周壁内面に形成されて上下に延びる縦溝148とが、直列的に連続して設けられた構造とされている。
【0079】
本実施形態では、収容凹所48の周壁内面に第一の実施形態のような保持突部が形成されていないと共に、収容凹所48に配設される弁体64の下部が収容凹所48の内径よりも僅かに小さい外径で形成されている。これにより、弁体64の軸直角方向の移動が弁体64の外周面と収容凹所48の周壁内面との当接によって制限されるようになっていると共に、弁体64が収容凹所48内で軸直角方向に移動すると、リーク通路144の横溝146の全体が弁体64によって覆われ得るようになっている。なお、
図13中では、弁体64が二点鎖線で示されている。
【0080】
ここにおいて、リーク通路144の縦溝148は、
図12に示すように、大径とされた弁体64の下部の上下寸法よりも上下の長さが長くされており、弁体64がコイルスプリング66の付勢力に抗して上下に移動しても、リーク通路144の縦溝148の上端が開放状態に維持されるようになっている。従って、受圧室70と平衡室72は、弁体64の位置に関係なくリーク通路144によって連通状態に維持される。
【0081】
このような本実施形態によれば、保持突部がなく、リーク通路144の横溝146の全体が弁体64で覆われ得る構造であっても、リーク通路144が横溝146と連続する縦溝148を備えていることにより、受圧室70と平衡室72がリーク通路144によって連通状態に維持される。このように、受圧室70と平衡室72がリーク通路144によって連通状態に維持されるようになっていれば、保持突部は必須ではない。
【0082】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、オリフィス通路74とリーク通路78のチューニング周波数は、あくまでも例示であって、要求される防振特性などに応じて適宜に変更され得る。
【0083】
また、リーク通路78の形成数やリーク通路78の配置などは、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、
図14に示すように、仕切部材本体40の収容凹所48の下壁部を上下に貫通する孔形状のリーク通路150が、短絡通路77の形成部分において下短絡孔50,50を外周側に外れた位置で形成されていても良い。
【0084】
また、第一の実施形態では、弁体64が短絡通路77の通路長方向の中間に配設された構造を例示したが、弁体64は、例えば、短絡通路77の延長上に配されて、短絡通路77の端部開口が弁体64によって開閉されるようにもできる。要するに、弁体64が配設される短絡通路77上とは、短絡通路77の通路長方向の中間だけでなく、短絡通路77の延長上を含む。
【0085】
前記実施形態では、所謂お椀形の流体封入式防振装置を例示したが、本発明は、内外挿状態で配されたインナ軸部材とアウタ筒部材が、本体ゴム弾性体によって相互に弾性連結された構造を有する、筒形の流体封入式防振装置にも適用され得る。
【0086】
本発明の適用範囲は、エンジンマウントに限定されるものではなく、サブフレームマウントやデフマウント、ボデーマウント、サスブッシュなどの各種の流体封入式防振装置に適用され得る。また、本発明は、自動車用の流体封入式防振装置にのみ適用されるものではなく、自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両などに用いられる流体封入式防振装置にも好適に適用可能である。
また、本発明は、もともと以下に記載の発明を含むものであり、その構成および作用効果に関して、付記しておく。
本発明は、
(i)非圧縮性流体が封入された受圧室と平衡室がオリフィス通路で相互に連通されていると共に、衝撃的荷重の入力で該受圧室に発生する負圧の作用により短絡通路を開いて該受圧室を該平衡室に連通させることでキャビテーションを抑えるリリーフ機構が設けられた流体封入式防振装置において、前記リリーフ機構における前記短絡通路部分には、該短絡通路が開かれていない状態でも前記オリフィス通路よりも小さな通路断面で前記受圧室と前記平衡室の連通状態を維持するリーク通路が設けられていることを特徴とする流体封入式防振装置、
(ii) 前記受圧室と前記平衡室を仕切る仕切部材が配設されて、該仕切部材に前記短絡通路が形成されていると共に、該仕切部材に弾性的に押し当てられて該短絡通路を塞ぐ弁体が設けられており、衝撃的荷重の入力で該受圧室に発生する負圧の作用により該弁体の該仕切部材への押当てが解除されることで該短絡通路を開いて該受圧室を該平衡室に連通させてキャビテーションを抑える前記リリーフ機構が設けられている一方、該仕切部材における該弁体が押し当てられる面に開口する溝形状で前記リーク通路が形成されている(i)に記載の流体封入式防振装置、
(iii) 前記短絡通路上に配設された前記弁体を前記受圧室側から前記平衡室側に向けて付勢することで該弁体を前記仕切部材に弾性的に押し当てて該短絡通路を該弁体によって閉塞させる付勢手段が設けられていると共に、該仕切部材における該弁体が押し当てられる面には該短絡通路の開口から該弁体よりも外周まで延びる溝状の前記リーク通路が形成されている(ii)に記載の流体封入式防振装置、
(iv) 前記弁体および前記付勢手段を収容する収容空所が前記仕切部材に設けられており、該収容空所の内周面には内周側へ向けて突出する保持突部が形成されて、該弁体の外周面と該保持突部の突出先端との当接により該弁体が該収容空所内で位置決めされていると共に、前記リーク通路が該収容空所の壁内面における該保持突部を周方向で外れた部分に形成されている(iii)に記載の流体封入式防振装置、
(v) 複数の前記リーク通路が前記短絡通路の開口から外周へ向けて放射状に形成されている(iii)又は(iv)に記載の流体封入式防振装置、
(vi) 弾性体で形成された前記弁体が前記短絡通路の通路内面に押し当てられて該短絡通路が該弁体で塞がれると共に、該短絡通路の通路内面には該短絡通路の長さ方向で該弁体が押し当てられる部分よりも外側まで延びる溝状の前記リーク通路が形成されている(ii)に記載の流体封入式防振装置、
(vii) 前記リーク通路の通路断面積が前記オリフィス通路の通路断面積の1/2倍以下とされていると共に、該リーク通路を通じて流動する流体の共振周波数が該オリフィス通路を通じて流動する流体の共振周波数よりも高周波に設定されている(i)〜(vi)の何れか一項に記載の流体封入式防振装置、
に関する発明を含む。
上記(i)に記載の発明では、オリフィス通路が実質的に遮断された状態においても、受圧室と平衡室がリーク通路を通じて連通状態に維持されることから、低動ばね化による防振効果を有効に得ることができる。しかも、リーク通路は、通路断面積がオリフィス通路よりも小さくされていることから、オリフィス通路がチューニングされた周波数の振動入力時に、オリフィス通路を通じた流体流動がリーク通路を通じた流体流動よりも積極的に生ぜしめられて、流体の流動作用に基づく防振効果が有効に発揮される。さらに、リーク通路はリリーフ機構における短絡通路部分に設けられていることから、リリーフ機構とリーク通路の両方を備える流体封入式防振装置をコンパクトに実現できると共に、構造の簡略化なども図ることができる。
上記(ii)に記載の発明では、仕切部材においてリリーフ機構の弁体が押し当てられる面に開口する溝形状でリーク通路を形成することによって、弁体の開閉に関係なく受圧室と平衡室を連通状態に維持するリーク通路を、簡単な構造で形成することができると共に、リーク通路を形成するために特別なスペースを要することがなく、コンパクトな構造を実現することができる。
上記(iii)に記載の発明では、弁体が付勢手段で付勢されて仕切部材に押し当てられることにより短絡通路が弁体で遮断されると共に、受圧室に発生する負圧の作用によって弁体が付勢手段の付勢力に抗して受圧室側へ移動することで、短絡通路の弁体による遮断が解除されて、短絡通路が連通状態に切り替えられる構造のリリーフ機構において、リーク通路を簡単な構造と優れたスペース効率で設けることができる。
上記(iv)に記載の発明では、収容空所内の弁体が保持突部によって付勢手段による付勢方向と略直交する方向で位置決めされていると共に、リーク通路が保持突部を周方向で外れた部分に設けられていることから、リーク通路の外周端部が弁体によって覆われることなく、弁体よりも外周側で安定して開口せしめられて、受圧室と平衡室の連通状態がリーク通路によって安定して維持される。
上記(v)に記載の発明では、リーク通路の数を調節することによって、各リーク通路の通路断面積をオリフィス通路よりも小さくして、オリフィス通路による防振効果を有効に得ながら、オリフィス通路が実質的に遮断された状態でのばね特性を調節することができる。
上記(vi)に記載の発明では、弁体がそれ自体の弾性に基づいて短絡通路の通路内面に押し当てられることにより、短絡通路が弁体によって遮断されると共に、受圧室に発生する負圧の作用によって弁体が弾性変形して短絡通路の通路内面から離れることで、短絡通路の弁体による遮断が解除されて、短絡通路が連通状態に切り替えられる構造のリリーフ機構において、リーク通路を簡単な構造と優れたスペース効率で設けることができる。
上記(vii)に記載の発明では、リーク通路の通路断面積がオリフィス通路の通路断面積に対して十分に小さくされていることにより、オリフィス通路がチューニングされた周波数の振動入力時に、オリフィス通路を通じた流体流動がより支配的に生ぜしめられて、流体の流動作用に基づく防振効果が有効に発揮される。さらに、オリフィス通路を通じて流動する流体の共振周波数(チューニング周波数)よりも高周波の振動入力に対しては、オリフィス通路よりも高周波にチューニングされたリーク通路によって受圧室と平衡室の連通状態が維持されることから、オリフィス通路の反共振による高動ばね化が防止されて、低動ばね特性による防振効果を有効に得ることができる。