特許第6873821号(P6873821)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873821
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】汚泥処理システムおよび汚泥処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/00 20060101AFI20210510BHJP
   C02F 11/143 20190101ALI20210510BHJP
   C02F 11/04 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   C02F11/00 CZAB
   C02F11/143
   C02F11/04
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-104636(P2017-104636)
(22)【出願日】2017年5月26日
(65)【公開番号】特開2018-199101(P2018-199101A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2020年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永森 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】小原 卓巳
(72)【発明者】
【氏名】毛受 卓
(72)【発明者】
【氏名】茂庭 忍
(72)【発明者】
【氏名】木内 智明
(72)【発明者】
【氏名】大月 伸浩
(72)【発明者】
【氏名】平岩 良太
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−063600(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0347630(US,A1)
【文献】 特開2005−238103(JP,A)
【文献】 特開2006−026542(JP,A)
【文献】 特開2015−020160(JP,A)
【文献】 特開平11−197694(JP,A)
【文献】 特開2006−122799(JP,A)
【文献】 特開昭62−266200(JP,A)
【文献】 特開2017−159216(JP,A)
【文献】 特開2013−215681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00−11/20
C02F 3/28− 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物を消化処理して消化汚泥を得る消化槽と、
前記消化汚泥または可溶化処理した前記消化汚泥、並びにマグネシウム源を混合して、MAPおよび脱リン処理物を得るMAP生成槽と、
前記MAP生成槽にマグネシウム源を供給するマグネシウム源供給装置と、
前記MAP生成槽内の前記消化汚泥または可溶化処理した前記消化汚泥に二酸化炭素を散気する二酸化炭素散気装置と、を備え、
前記MAP生成槽において、前記消化汚泥または可溶化処理した前記消化汚泥に二酸化炭素を散気してからマグネシウム源を供給するように動作する汚泥処理システム。
【請求項2】
前記脱リン処理物を脱水して脱水汚泥および脱離液を得る脱水装置と、
前記脱水装置内の前記脱リン処理物に凝集剤を添加する凝集剤供給装置と、
を備える請求項1に記載の汚泥処理システム。
【請求項3】
前記消化槽と前記MAP生成槽との間に、前記消化汚泥を可溶化処理する可溶化処理槽を備える請求項1または請求項2に記載の汚泥処理システム。
【請求項4】
前記消化汚泥を可溶化処理する可溶化処理槽と、
前記消化槽から前記消化汚泥を前記可溶化処理槽に送る送泥手段と、
前記可溶化処理槽から可溶化処理した前記消化汚泥を前記消化槽に送る返送手段と、
を備える請求項1または請求項2に記載の汚泥処理システム。
【請求項5】
有機性廃棄物を消化処理して消化汚泥を得る消化処理工程と、
前記消化汚泥または可溶化処理した前記消化汚泥に二酸化炭素を散気した後、前記消化汚泥または可溶化処理した前記消化汚泥とマグネシウム源とを撹拌混合してMAPおよび脱リン処理物を得るMAP生成工程と、
備える汚泥処理方法。
【請求項6】
前記脱リン処理物に凝集剤を添加した後、脱水して脱水汚泥および脱離液を得る脱水工程を備える請求項5に記載の汚泥処理方法。
【請求項7】
前記消化処理工程の後に、前記消化処理工程で生じた前記消化汚泥を可溶化処理する可溶化処理工程を備える請求項5または請求項6に記載の汚泥処理方法。
【請求項8】
前記消化処理工程で生じた前記消化汚泥の一部を可溶化処理する可溶化処理工程と、
可溶化処理した前記消化汚泥を前記消化処理工程に返送する返送工程と、
を備える請求項5または請求項6に記載の汚泥処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、汚泥処理システムおよび汚泥処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水処理施設において、被処理液中のリンを回収・除去する方法の一例として、嫌気好気法(AO法)がある。このAO法では、まず、嫌気槽内にて、微生物が被処理液中にリン酸を放出する。その後、被処理液は微生物と共に好気槽に送られて、好気処理される。このとき、好気槽に送られた微生物は、嫌気槽にて放出したリン酸量以上のリンを、ポリリン酸として摂取する。そのため、好気槽で過剰に増殖した微生物である余剰汚泥には、リンが多量に含まれている。この余剰汚泥は、下水汚泥として汚泥処理施設に送られて処理される。
【0003】
汚泥処理施設では、排水処理施設から送られた下水汚泥、食品産業から送られた排水等を含む有機性廃棄物の処理が行われる。汚泥処理施設に送られた有機性廃棄物は、消化槽で嫌気性処理(消化処理)されて消化汚泥とバイオガスとを生成する。このとき、上述したリンを多量に含む微生物が、消化汚泥中にリン酸を放出する。そのため、消化汚泥を脱水して得た脱離液は、多量のリンを含む。この脱離液は、排水処理施設に返送されて排水処理される。しかし、多量のリンを含む脱離液を排水処理施設に送ると、排水処理施設のリン負荷が増大する。そのため、消化汚泥または脱離液中のリンを除去することが行われている。
【0004】
汚泥処理におけるリンの回収方法として、MAP(Magnesium Ammonium Phosphate)法が知られている。MAP法では、リンの回収効率を向上させるために、被処理液のpHをアルカリ性に調整することで、リンを含む結晶を晶析・成長させ、この結晶を回収することにより、被処理液中のリンを回収・除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−20160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、薬剤を使用することなく、消化汚泥中のリンを効率的に回収・除去できる汚泥処理システムおよび汚泥処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の汚泥処理システムは、消化槽と、MAP生成槽と、二酸化炭素散気装置と、マグネシウム源供給装置と、を持つ。
前記消化槽は、有機性廃棄物を消化処理して消化汚泥およびバイオガスを得る。
前記MAP生成槽は、前記消化汚泥または可溶化処理した前記消化汚泥とマグネシウム源とを撹拌混合してリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)および脱リン処理物を得る。
前記二酸化炭素散気装置は、前記MAP生成槽内の前記消化汚泥または可溶化処理した前記消化汚泥に二酸化炭素を散気する。
マグネシウム源供給装置は、前記MAP生成槽にマグネシウム源を供給する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態である汚泥処理システムの概要図。
図2】第2の実施形態である汚泥処理システムの概要図。
図3】第3の実施形態である汚泥処理システムの概要図。
図4】消化汚泥および水道水のpHと二酸化炭素の散気時間との関係を示す図。
図5】消化汚泥中のリン酸態リン濃度と、マグネシウム源添加後の撹拌時間との関係を示す図。
図6】実施例1−2の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の汚泥処理システムおよび汚泥処理方法を、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態の汚泥処理システムを示す図である。
本実施形態の汚泥処理システム100は、消化槽1と、MAP生成槽2と、二酸化炭素散気装置4と、マグネシウム源供給装置5と、を備える。
また、汚泥処理システム100は、図1に示すように、脱水装置3と、pH計6と、凝集剤供給装置7と、を備えていてもよい。
【0011】
消化槽1は、図示略の排水処理施設から有機性廃棄物流入ラインを介して送られた有機性廃棄物を嫌気性微生物によって消化処理して、二酸化炭素、メタンおよびアンモニア並びに消化汚泥に分解する、消化処理を行う槽である。消化槽1に送られる有機性廃棄物には下水汚泥が含まれており、この下水汚泥は余剰汚泥を含む。
消化槽1は、消化汚泥送泥ラインを介してMAP生成槽2と接続されている。また、消化槽1は、図示略のバイオガス送気ラインを介して、消化槽1外へバイオガスを排出できるようになっている。
【0012】
MAP生成槽2は、消化槽1から送られた消化汚泥とマグネシウム源とを撹拌混合して、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)を生成させ、MAPおよび脱リン処理物を得る槽である。なお、本実施形態において脱リン処理物とは、MAP生成槽2でリンが除去された後の消化汚泥のことをいう。MAP生成槽2は、図示略の撹拌手段を備えている。
【0013】
MAP生成槽2は、脱リン処理物送泥ラインを介して脱水装置3と接続されている。また、MAP生成槽2は、MAP排出ラインを介して、MAP生成槽2外部にMAPを排出できるようになっている。
【0014】
二酸化炭素散気装置4は、MAP生成槽2内の消化汚泥に二酸化炭素を散気する装置である。二酸化炭素散気装置4が散気する二酸化炭素としては、例えば、市販の二酸化炭素ボンベ中の二酸化炭素、大気中の二酸化炭素、消化槽1で生成したバイオガス中の二酸化炭素、消化槽1で生成したバイオガスを焼成して得られた二酸化炭素等が挙げられる。
二酸化炭素散気装置4は、二酸化炭素送気ラインを介してMAP生成槽2と接続されている。
【0015】
マグネシウム源供給装置5は、MAP生成槽2内に種晶となるマグネシウム源を供給する装置である。マグネシウム源としては、例えば、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
マグネシウム源供給装置5は、マグネシウム源供給ラインを介してMAP生成槽2と接続されている。
【0016】
pH計6は、MAP生成槽2内の消化汚泥のpHを計測する計測器である。
【0017】
脱水装置3は、MAP生成槽2から送られた脱リン処理物を脱水して脱水汚泥および脱離液を得る装置である。脱水装置3としては、例えば、ベルトプレス脱水機、フィルタープレス脱水機、ロータリープレス脱水機、スクリュープレス脱水機、遠心分離脱水機、多重円盤脱水機等が挙げられる。
【0018】
脱水装置3は、脱水汚泥送泥ラインを介して図示略の乾燥装置と接続されている。また、脱水装置3は、脱離液送液ラインを介して図示略の排水処理施設と接続されている。更に、脱水装置3は、凝集剤供給ラインを介して凝集剤供給装置7と接続されている。
【0019】
凝集剤供給装置7は、脱水装置3に凝集剤を供給する装置である。凝集剤供給装置7が供給する凝集剤としては、例えば、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、ケイ酸ナトリウム溶液、ポリシリカ鉄等の無機系凝集剤や有機系高分子凝集剤等の有機系凝集剤が挙げられる。
【0020】
次に、本実施形態の汚泥処理システム100のそれぞれの構成要素の作用を説明すると共に、当該汚泥処理システム100を用いた汚泥処理方法について説明する。
【0021】
本実施形態の汚泥処理方法は、有機性廃棄物を消化処理して消化汚泥を得る消化処理工程と、前記消化汚泥に二酸化炭素を散気した後、前記消化汚泥とマグネシウム源とを撹拌混合してリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)および脱リン処理物を得るMAP生成工程と、から構成される。
【0022】
また、本実施形態の汚泥処理方法は、MAP生成槽2から脱水装置3に送られた脱リン処理物に、凝集剤供給装置7から凝集剤を添加した後、脱水して脱離液および脱水汚泥を得る脱水工程を有していてもよい。
以下、各工程について説明する。
【0023】
まず、消化処理工程について説明する。消化処理工程では、消化槽1により、排水処理施設から送られた有機性廃棄物を消化処理することで、二酸化炭素、メタンおよびアンモニア並びに消化汚泥を得る。また、消化処理工程では、有機性廃棄物中の余剰汚泥がリン酸の形態でリンを放出する。余剰汚泥が放出したリン酸は、消化汚泥に含まれる水分に溶解する。
【0024】
また、消化処理工程で生じたアンモニアの一部は、一部の二酸化炭素およびメタンと共にバイオガスとなる。残部のアンモニアおよび二酸化炭素は、消化汚泥に含まれる水分に溶解し、消化汚泥に含まれる状態となる。すなわち、消化処理工程で生じた消化汚泥中の水分には、リン酸、アンモニアおよび二酸化炭素が含まれる。
消化汚泥における水分以外の成分は、嫌気性微生物が分解しきれなかった有機性廃棄物(有機物)の残渣および嫌気性微生物である。
【0025】
消化槽1で得られたバイオガスは、図示略のバイオガス送気ラインを介して消化槽1外へ排出される。一方、消化槽1で生じた消化汚泥は、消化汚泥送泥ラインを介してMAP生成槽2に送られる。
【0026】
次に、MAP生成工程について説明する。MAP生成工程では、消化槽1からMAP生成槽2に送られた消化汚泥に二酸化炭素を散気した後、消化汚泥にマグネシウム源を供給して撹拌混合することで、脱リン処理物とMAPとを得る。
【0027】
MAP生成工程では、MAP法によるリンの回収・除去を行う。MAP法とは、リン酸、アンモニアが多く含まれる消化汚泥に液体のマグネシウム源または種晶となる固体のマグネシウム源を添加して、リン酸マグネシウムアンモニウム6水和物(MgNHPO・6HO)の結晶を晶析・成長させる方法である。リンを多く含む結晶(固形物)を回収することで、消化汚泥からリンおよびアンモニアを回収・除去することができる。
【0028】
本発明者らは、上記MAP法において、MAPの飽和溶解度となる消化汚泥のpHが6.23であることを知見した。すなわち、消化汚泥のpHが6.23未満の領域では、MAPが晶析しないことを知見した。また、被処理液のpHが6.23以上の領域では、pHが上昇するにつれて、MAPが晶析せず、種晶を成長させる形でMAPが生成する過飽和領域と、微細なMAPが多量に晶析する領域とが存在することを知見した。消化汚泥のpHが高く、微細なMAPが多量に晶析する領域である場合には、微細に晶析したMAPが沈降せず、消化汚泥と共に後段の脱水装置に送られてしまい、消化汚泥からリンを回収・除去できない場合がある。消化処理工程を経た消化汚泥のpHは7.5〜8.5であり、このままMAP法によるリン回収を行うと、微細なMAPが多量に晶析する。したがって、消化汚泥中のリンを効率的に回収するためには、消化汚泥のpHを低下させて、消化汚泥のpHをMAPが晶析しないpHである6.23以上かつ、種晶を成長させる形でMAPが生成するpHである上記過飽和領域の範囲にすることが重要である。
【0029】
本実施形態の汚泥処理方法では、MAP生成槽2内の消化汚泥に、二酸化炭素散気装置4によって二酸化炭素を散気することによって、消化汚泥のpHを低下させる。消化汚泥に散気した二酸化炭素(CO)は、水(HO)と結合して炭酸(HCO)を形成する。この炭酸(HCO)が、水素イオン(H)と炭酸イオン(HCO)とに分離することによって、消化汚泥中の水素イオン濃度が高くなり、消化汚泥のpHが低下する。
【0030】
また、本発明者らは、消化汚泥に二酸化炭素を散気し続けても、消化汚泥のpHが略7までしか低下しないことを知見した。更に、このpHが上記過飽和領域の範囲内であるため、二酸化炭素を散気してpHを低下させた消化汚泥は、MAP法に好適に用いることができることを知見した。
消化汚泥に二酸化炭素を散気し続けても消化汚泥のpHが略7まで低下しないのは、消化処理により生じた二酸化炭素が消化汚泥にすでに溶存しており、この消化汚泥に二酸化炭素を散気してもある程度の量の二酸化炭素しか溶解しないためだと考えられる。
【0031】
消化汚泥に二酸化炭素を散気する時間の下限は、消化汚泥のpHを上記過飽和領域のpHまで低下させるために、15分以上とすることが好ましく、30分以上とすることがより好ましい。消化汚泥に二酸化炭素を散気する時間の上限は、MAP生成槽2における処理時間の短縮の観点から、例えば、1時間以下とするとよい。
【0032】
次に、二酸化炭素を散気してpHを低下した消化汚泥と、マグネシウム源供給装置5から供給したマグネシウム源とを撹拌混合する。マグネシウム源の供給量は、消化汚泥中のリン濃度に応じて、適宜調整するとよい。
上述したように二酸化炭素を散気した消化汚泥のpHは、MAPが晶析せず、種晶であるマグネシウム源を成長させる形でMAPが生成される過飽和領域のpHである。そのため、種晶となるマグネシウム源と消化汚泥とを撹拌混合すると、消化汚泥中のリン酸およびアンモニアは、微細なMAPとして多量に晶析することはないが、種晶であるマグネシウム源を成長させる形でMAPの結晶となる。
【0033】
成長したMAPの結晶は、MAP生成槽2の下層に沈降する。沈降したMAPは、MAP排出ラインを介してMAP生成槽2外へ排出される。一方、リンを除去された後の脱リン処理物は、脱リン処理物送泥ラインを介して脱水装置3に送られる。なお、この脱リン処理物のpHは、消化汚泥のpHと同じであり、pHが略7である。
【0034】
次に、MAP生成槽2から脱水装置3に送られた脱リン汚泥に凝集剤を添加した後、脱水装置により脱水して、脱水汚泥および脱離液を得る(脱水工程)。
脱水工程では、凝集剤供給装置7から、脱水装置3内の脱リン処理物に凝集剤を添加する。脱リン汚泥に凝集剤が添加されると、脱リン汚泥中の固形物が高分子化される。
【0035】
凝集剤を添加した後、脱リン処理物を脱水装置3によって脱水する。脱リン処理物を脱水することで得られた脱水汚泥は、脱水汚泥送泥ラインを介して図示略の乾燥装置に送られる。乾燥装置に送られた脱水汚泥は、乾燥された後、廃棄される。一方、脱離液は、脱離液送液ラインを介して図示略の排水処理施設に送られて処理される。
【0036】
なお、本実施形態の汚泥処理システム100は、MAP生成槽2において、消化汚泥に二酸化炭素を散気してからマグネシウム源を供給するように動作する。すなわち、MAP生成槽2において、二酸化炭素散気装置4が消化汚泥に二酸化炭素を散気して、消化汚泥のpHが低下されてから、マグネシウム源供給装置5がマグネシウム源を供給するように動作する。
MAP生成槽2内の消化汚泥にマグネシウム源を添加するタイミングは、タイマーによって時間を計測して、ある一定時間経過後に手動で添加してもよく、MAP生成槽2内の消化汚泥のpHを計測して、消化汚泥のpHが低下したことを確認してから手動で添加してもよく、これらのいずれかを制御装置により自動で行ってもよい。
【0037】
以上の構成によれば、消化汚泥に二酸化炭素を散気することによって、薬剤を使用することなく消化汚泥のpHを低下させることができ、消化汚泥のpHを過飽和領域のpHとすることができる。そのため、MAP生成槽2において、微細なMAPが晶析することなく、粗大なMAPを成長させることができる。粗大に成長したMAPは沈降しやすいため、MAP生成槽2内に容易に沈降して、回収することができる。これにより、消化汚泥中のリンを効率的に回収・除去することができる。また、脱リン処理物を脱水して得られる脱離液中のリン濃度を低減でき、この脱離液を排水処理施設に送った場合に、排水処理施設におけるリン負荷を低減できる。これにより、排水処理施設におけるリン除去に要する曝気等の運転コストを削減できる。
【0038】
また、消化汚泥に二酸化炭素を散気することによって、薬剤を使用することなく消化汚泥のpHを低下させることができるため、脱リン処理物を脱水して得られる脱水汚泥および脱離液中に薬剤が残存することがない。そのため、脱水汚泥を乾燥して得られる乾燥汚泥を埋め立て等の方法により廃棄する場合に、環境への負荷を考慮する必要がない。更に、脱離液を排水処理施設に送って処理する場合に、排水処理施設における生物処理に悪影響を及ぼすことがない。
【0039】
また、二酸化炭素を散気することにより消化汚泥のpHを低下しているため、薬剤によってpHを調整した場合と比べて、消化汚泥のpHを容易に過飽和領域のpHとすることができる。過飽和領域のpHは中性域であり、有機酸や無機酸等の薬剤を使用してpHを中性域に調整するのは非常に困難である。しかし、上述した実施形態では、消化汚泥に二酸化炭素を散気し続けても、pHが略7までしか低下しないため、pHを過飽和領域とすることが容易である。
【0040】
また、MAP生成槽2から脱水装置3に送られる脱リン処理物はpHが低いため、凝集剤による凝集効果を向上できる。これにより、脱水装置3における脱水効率を向上できる。更に、脱リン処理物に添加する凝集剤の添加量を少なくすることができる。
【0041】
(第2の実施形態)
図2に示す本実施形態の汚泥処理システム200は、第1の実施形態の汚泥処理システム100と同様に、消化槽1と、MAP生成槽2と、二酸化炭素散気装置4と、マグネシウム源供給装置5と、を備える。
また、本実施形態の汚泥処理システム200は、消化槽1とMAP生成槽2との間に、可溶化処理槽8を備える。
また、本実施形態の汚泥処理システム200は、図2に示すように、脱水装置3と、pH計6と、凝集剤供給装置7と、を備えていてもよい。図2に示す汚泥処理システム200の構成要素のうち、第1の実施形態の汚泥処理システム100の構成要素と同一の構成要素には、図1と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0042】
可溶化処理槽8は、消化槽1から消化汚泥送泥ラインを介して送られた消化汚泥を可溶化処理する槽である。可溶化処理槽8は、消化汚泥送泥ラインを介して消化槽1と接続されており、消化汚泥を受け入れるようになっている。また、可溶化処理槽8は、可溶化処理物送泥ラインを介してMAP生成槽2と接続されている。
【0043】
次に、本実施形態の汚泥処理システム200のそれぞれの構成要素の作用を説明すると共に、当該汚泥処理システムを用いた汚泥処理方法について説明する。
【0044】
本実施形態の汚泥処理方法は、有機性廃棄物を消化処理して消化汚泥を得る消化処理工程と、消化汚泥を可溶化処理する可溶化処理工程と、可溶化処理した消化汚泥に二酸化炭素を散気した後、可溶化処理した消化汚泥とマグネシウム源とを撹拌混合して脱リン処理物およびリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)を得るMAP生成工程と、から構成される。
【0045】
また、本実施形態の汚泥処理方法は、MAP生成槽2から脱水装置3に送られた脱リン処理物に、凝集剤供給装置7から凝集剤を添加した後、脱水して脱離液および脱水汚泥を得る脱水工程を有していてもよい。
以下、それぞれの工程のうち、第1の実施形態と同じものについては、説明を省略または簡略する。
【0046】
まず、消化槽1により、排水処理施設から送られた有機性廃棄物を消化処理することで、二酸化炭素、メタンおよびアンモニア並びに消化汚泥を得る(消化処理工程)。消化処理工程で得られる消化汚泥中の水分には、余剰汚泥が放出したリン酸、消化処理により生じた二酸化炭素およびアンモニアが含まれる。
消化槽1で生じた消化汚泥は、消化汚泥送泥ラインを介して可溶化処理槽8に送られる。
【0047】
次に、消化槽1から可溶化処理槽8に送られた消化汚泥を可溶化処理する(可溶化処理工程)。なお、可溶化処理の方法としては、例えば、オゾンや薬剤を使用する化学的方法、熱処理やマイクロ波加熱を利用する物理化学的方法、超音波やビーズミルを用いて破砕処理する力学的方法、電気分解による電気化学的方法、酵素を利用した酵素反応方法等を用いることができる。
【0048】
消化汚泥を可溶化処理すると、消化汚泥中の難分解性有機物が低分子化されて易分解性有機物となる。この易分解性有機物は水分に溶解し易い。そのため、難分解性有機物が低分子化されて生じた易分解性有機物は、消化汚泥中の水分に溶解する。すると、消化汚泥中の固形物量が減少する。また、難分解性有機物に含まれていたリンが、可溶化処理により低分子化され、リン酸として消化汚泥中の水分に溶解する。すると、消化汚泥中のリン濃度が上昇する。
可溶化処理された消化汚泥は、可溶化処理物送泥ラインを介してMAP生成槽2に送られる。
【0049】
次に、MAP生成槽2に送られた可溶化処理後の消化汚泥中のリンを回収・除去する(MAP生成工程)。その後、リンを除去した脱リン処理物を脱水装置3に送り、脱離液と脱水汚泥とに分離する(脱水工程)。脱リン処理物を脱水して得られた脱水汚泥は、脱水汚泥送泥ラインを介して図示略の乾燥装置に送られる。一方、脱離液は、脱離液送液ラインを介して図示略の排水処理施設に送られ、排水処理される。
【0050】
以上の構成によれば、消化汚泥に二酸化炭素を散気することによって、薬剤を使用することなく消化汚泥のpHを低下させることができ、消化汚泥のpHを過飽和領域のpHとすることができる。そのため、MAP生成槽2において、微細なMAPが晶析することなく、粗大なMAPを成長させることができる。これにより、消化汚泥中のリンを効率的に回収・除去することができる。また、脱リン処理物を脱水して得られる脱離液中のリン濃度が低減し、この脱離液を排水処理施設に送った場合に、排水処理施設におけるリン負荷が低減できる。これにより、排水処理施設におけるリン除去に要する曝気等の運転コストを削減できる。
【0051】
また、消化汚泥に二酸化炭素を散気することによって、薬剤を使用することなく消化汚泥のpHを低下させることができるため、脱リン処理物を脱水して得られる脱水汚泥および脱離液中に薬剤が残存することがない。
また、二酸化炭素を散気することにより消化汚泥のpHを低下しているため、薬剤によってpHを調整した場合と比べて、容易に過飽和領域のpHとすることができる。
【0052】
また、MAP生成槽2から脱水装置3に送られる脱リン処理物はpHが低いため、凝集剤による凝集効果を向上できる。これにより、脱水装置3における脱水効率を向上でき、脱リン処理物に添加する凝集剤の添加量を少なくすることができる。
【0053】
また、消化槽1で生じた消化汚泥を可溶化処理するため、消化汚泥中の有機物を低分子化でき、消化汚泥中の固形物量を低減できる。そのため、脱リン処理物を脱水して得られる脱水汚泥量を低減することができ、最終処分する乾燥汚泥の量を低減できる。これにより、乾燥汚泥を埋め立て、焼却等する場合の廃棄に要するコストを低減できる。さらに、消化汚泥を可溶化処理することで、可溶化処理した消化汚泥中の水分に多量のリンを溶解させることができ、MAP生成槽2におけるリンの回収効率を向上できる。
【0054】
また、可溶化処理槽8で、消化汚泥を可溶化処理しているため、有機性廃棄物を可溶化処理した場合と比べて可溶化処理効率を向上できる。有機性廃棄物を可溶化処理すると、消化槽1内の嫌気性微生物が分解することができる有機物まで低分子化してしまう。すると、可溶化処理に要する薬剤やエネルギーが多くなる場合がある。しかし、上述のように本実施形態では、消化汚泥を可溶化処理している。そのため、主に嫌気性微生物が分解しきれなかった有機物を可溶化処理することになり、可溶化処理に要する薬剤やエネルギーを低減できる。
【0055】
(第3の実施形態)
図3に示す本実施形態の汚泥処理システム300は、第1の実施形態の汚泥処理システム100と同様に、消化槽1と、MAP生成槽2と、二酸化炭素散気装置4と、マグネシウム源供給装置5と、を備える。
また、本実施形態の汚泥処理システム300は、可溶化処理槽8と、送泥手段10と、返送手段11と、を備えている。
また、本実施形態の汚泥処理システム300は、図3に示すように、脱水装置3と、pH計6と、凝集剤供給装置7と、を備えていてもよい。図3に示す汚泥処理システム300の構成要素のうち、第1の実施形態の汚泥処理システム100の構成要素と同一の構成要素には、図1と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0056】
送泥手段10は、消化槽1で生じた消化汚泥の一部を可溶化処理槽8に送る手段である。送泥手段10としては、例えば、ポンプを有する配管が挙げられる。
【0057】
可溶化処理槽8は、消化槽1から送泥手段10によって送られた消化汚泥を可溶化処理する槽である。
可溶化処理槽8は、送泥手段10を介して消化槽1と接続されている。また、可溶化処理槽8は、返送手段11を介して消化槽1に接続されている。
【0058】
返送手段11は、可溶化処理槽8で可溶化処理された消化汚泥を、消化槽1に送る手段である。返送手段11としては、例えば、ポンプを有する配管が挙げられる。
【0059】
次に、本実施形態の汚泥処理システム300のそれぞれの構成要素の作用を説明すると共に、当該汚泥処理システムを用いた汚泥処理方法について説明する。
【0060】
本実施形態の汚泥処理方法は、有機性廃棄物を消化処理して消化汚泥を得る消化処理工程と、消化汚泥の一部を可溶化処理する可溶化処理工程と、可溶化処理した消化汚泥を消化槽1に送る返送工程と、消化槽1から送られた消化汚泥に二酸化炭素を散気した後、消化汚泥とマグネシウム源とを撹拌混合して脱リン処理物およびリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)を得るMAP生成工程と、から構成される。
【0061】
また、本実施形態の汚泥処理方法は、MAP生成槽2から脱水装置3に送られた脱リン処理物に、凝集剤供給装置7から凝集剤を添加した後、脱水して脱離液および脱水汚泥を得る脱水工程を有していてもよい。
以下、それぞれの工程のうち、第1の実施形態と同じものについては、説明を省略または簡略する。なお、本実施形態では、消化槽1からMAP生成槽2に送られる汚泥を消化汚泥と記載する。すなわち、消化槽1により、有機性廃棄物を消化処理して生じた汚泥と、可溶化処理した消化汚泥を消化処理して生じた汚泥とを、消化汚泥と記載する。
【0062】
まず、消化槽1により、排水処理施設から送られた有機性廃棄物を消化処理することで、二酸化炭素、メタンおよびアンモニア並びに消化汚泥を得る(消化処理工程)。消化処理工程で得られる消化汚泥中の水分には、余剰汚泥が放出したリン酸、消化処理により生じた二酸化炭素およびアンモニアが含まれる。
消化槽1で生じた消化汚泥の一部は、消化汚泥送泥ラインを介してMAP生成槽2に送られる。消化汚泥の残部は、送泥手段10によって可溶化処理槽8に送られる。
【0063】
次に、消化槽1から送泥手段10によって送られた消化汚泥を可溶化処理する(可溶化処理工程)。可溶化処理の方法としては、例えば、オゾンや薬剤を使用する化学的方法、熱処理やマイクロ波加熱を利用する物理化学的方法、超音波やビーズミルを用いて破砕処理する力学的方法、電気分解による電気化学的方法、酵素を利用した酵素反応方法等を用いることができる。消化汚泥を可溶化処理すると、消化汚泥中の難分解性有機物が低分子化されて易分解性有機物となる。この易分解性有機物は水分に溶解し易い。そのため、難分解性有機物が低分子化されて生じた易分解性有機物は、消化汚泥中の水分に溶解する。すると、消化汚泥中の固形物量が減少する。また、難分解性有機物に含まれていたリンが、可溶化処理により低分子化され、リン酸として消化汚泥中の水分に溶解する。すると、消化汚泥中のリン濃度が上昇する。
【0064】
次に、可溶化処理槽8で可溶化処理された消化汚泥を返送手段11によって消化槽1に送る(返送工程)。消化槽1に送られた可溶化処理後の消化汚泥は、消化槽1によって、有機性廃棄物とともに消化処理される。可溶化処理後の消化汚泥中の有機物は、消化槽1内の嫌気性微生物が分解し易い形態となっているため、嫌気性微生物による消化処理が効率的に行われる。有機性廃棄物と可溶化処理後の消化汚泥とを消化処理して生じた消化汚泥は、一部が消化汚泥送泥ラインを介してMAP生成槽2に送られ、残部が送泥手段10によって可溶化処理槽8に送られる。
【0065】
次に、消化槽1からMAP生成槽2に送られた消化汚泥中のリンを回収・除去する(MAP生成工程)。消化槽1から送られる消化汚泥には、可溶化処理槽8で可溶化処理された消化汚泥も含まれており、固液物の量が少ない一方、リン濃度が高い消化汚泥となっている。
【0066】
次に、MAP生成工程後のリンが除去された脱リン処理物は、脱水装置3に送られ、脱水工程に供される。脱水工程では、脱リン処理物を脱水装置3により脱水して、脱離液と脱水汚泥とに分離する。脱リン処理物を脱水して得られた脱水汚泥は、脱水汚泥送泥ラインを介して図示略の乾燥装置に送る。一方、脱離液は、脱離液送液ラインを介して図示略の排水処理施設に送り、排水処理する。
【0067】
以上の構成によれば、消化汚泥に二酸化炭素を散気することによって、薬剤を使用することなく消化汚泥のpHを低下させることができ、消化汚泥のpHを過飽和領域のpHとすることができる。そのため、MAP生成槽2において、微細なMAPが晶析することなく、粗大なMAPを成長させることができる。これにより、消化汚泥中のリンを効率的に回収・除去することができる。また、脱リン処理物を脱水して得られる脱離液中のリン濃度が低減し、この脱離液を排水処理施設に送った場合に、排水処理施設におけるリン負荷を低減できる。これにより、排水処理施設におけるリン除去に要する曝気等の運転コストを削減できる。
【0068】
また、消化汚泥に二酸化炭素を散気することによって、薬剤を使用することなく消化汚泥のpHを低下させることができるため、脱リン処理物を脱水して得られる脱水汚泥および脱離液中に薬剤が残存することがない。
また、二酸化炭素を散気することにより消化汚泥のpHを低下しているため、薬剤によってpHを調整した場合と比べて、容易に過飽和領域のpHとすることができる。
【0069】
また、MAP生成槽2から脱水装置3に送られる脱リン処理物はpHが低いため、凝集剤による凝集効果を向上できる。これにより、脱水装置3における脱水効率を向上でき、脱リン処理物に添加する凝集剤の添加量を少なくすることができる。
【0070】
また、可溶化処理槽8により、消化槽1で生じた消化汚泥を可溶化処理するため、消化汚泥中の有機物を低分子化できる。また、返送手段11により、消化汚泥中の有機物が、嫌気性微生物が分解し易い形態である可溶化処理した消化汚泥を消化槽1に返送することで、消化槽1における消化処理効率を向上できる。これにより、消化槽1におけるバイオガス発生量を増加できるとともに、消化汚泥中の固形物量を低減できる。消化汚泥中の固形物量を低減できるため、脱リン処理物を脱水して得られる脱水汚泥量を低減することができ、最終処分する乾燥汚泥の量が低減できる。これにより、乾燥汚泥を埋め立て、焼却等する場合の廃棄に要するコストを低減できる。さらに、消化汚泥を可溶化処理することで、可溶化処理した消化汚泥中の水分に多量のリンを溶解させることができ、MAP生成槽2におけるリンの回収効率を向上できる。
【0071】
以上に述べた少なくとも一つの実施形態によれば、消化汚泥に二酸化炭素を散気することによって、薬剤を使用することなく消化汚泥のpHを低下させることができ、消化汚泥のpHを過飽和領域のpHとすることができる。これにより、消化汚泥中のリンを効率的に回収・除去することができる。また、脱リン処理物を脱水して得られる脱離液中のリン濃度が低減し、この脱離液を排水処理施設に送った場合に、排水処理施設におけるリン負荷を低減できる。これにより、排水処理施設におけるリン除去に要する曝気等の運転コストを削減できる。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0073】
(実施例1−1)
消化汚泥に二酸化炭素を散気して、二酸化炭素の散気時間と消化汚泥のpHとの関係を、以下の方法により調べた。
pHが異なる3種の消化汚泥に二酸化炭素を散気して、それぞれの消化汚泥のpHの経時変化を観察した。二酸化炭素を散気する前の消化汚泥のpHはそれぞれ、7.5、7.6、8.1であった。また、比較のため、水道水に二酸化炭素を散気して、水道水のpHの経時変化を観察した。二酸化炭素を散気する前の水道水のpHは、7.2であった。
結果を図4に示す。なお、図4は、消化汚泥および水道水のpHと、二酸化炭素散気時間との関係を示す図である。
【0074】
図4から、pHが7.5〜8.1であった消化汚泥のpHが、二酸化炭素を散気してから15分で、6.9〜7.2となり、二酸化炭素を散気してから30分で、6.8〜7.0となっている。また、二酸化炭素を散気してから15分以降では、消化汚泥のpHが略横ばいで推移している。一方、二酸化炭素を散気した水道水は、pHが7付近であったpHが、二酸化炭素を散気して8分でpHが略5まで低下した。
【0075】
以上の結果から、二酸化炭素の散気時間を15分とすることで、7.5〜8.1であった消化汚泥のpHを6.9〜7.2まで低下でき、散気時間を30分とすることで、消化汚泥のpHを6.8〜7.0まで低下できることが分かる。また、二酸化炭素を散気してから15分経過した後は、水道水とは異なり、二酸化炭素を散気してもpHがほとんど低下せず、横ばいに推移することが分かる。そのため、二酸化炭素の散気が過剰になり、消化汚泥のpHが、MAPが晶析しないpH(6.23未満)まで低下しないことが分かる。よって、消化汚泥のpHを測定しつつ、二酸化炭素の散気量および散気時間を制御する必要がないことが分かる。
【0076】
(実施例1−2)
二酸化炭素を散気してpHを低下した消化汚泥を用いて、MAP法によるリンの回収率・除去を行った場合のリンの回収率・除去率について、以下の方法により調べた。
図5は、消化汚泥中のリン酸態リン濃度(PO3−−P)と撹拌時間との関係を示す図である。図5について、以下に詳細に説明する。
なお、本実施例では、実施例1−1において、二酸化炭素を30分間散気して、pHを7.0まで低下した消化汚泥を対象とした。この消化汚泥は、リン酸態リン濃度(PO3−−P)が200mg/Lであり、アンモニア態窒素濃度(NH−N)が700mg/Lであった。
【0077】
上記消化汚泥に、Mg/P比が1.5wt/wtとなるように、塩化マグネシウム溶液を添加して、撹拌混合した。そして、一定時間ごとに消化汚泥中のリン酸態リン濃度を測定した。図5に示すように、塩化マグネシウム溶液を添加してから1時間経過した時点で、リン酸態リン濃度はほとんど変化しなかった。
【0078】
これより、上記消化汚泥のpHは、MAPが晶析しないpHであることが分かる。すなわち、pHが7.0である消化汚泥中のリン酸およびアンモニアは、液体のマグネシウム源を添加しても、MAPとして晶析しないことが分かる。
【0079】
次に、上記消化汚泥に、種晶となる市販のMAPの結晶を添加し、撹拌混合した。図5に示すように、MAPの結晶を添加してからは、消化汚泥中のリン酸態リン濃度が徐々に減少した。MAPの結晶を添加してから5時間後には、消化汚泥中のリン酸態リン濃度が、30mg/Lとなった。すなわち、消化汚泥中のリン酸態リンのうち、全量の85%が除去されたことが分かる。言い換えると、消化汚泥中のリン酸態リンのうち、全量の85%がMAPの結晶となったことが分かる。
【0080】
これより、消化汚泥中のリン酸およびアンモニアは、MAPの結晶を添加したことで、種晶であるMAPの結晶を成長させる形でMAPとなったことが分かる。すなわち、pHが7.0である消化汚泥中のリン酸およびアンモニアは、微細なMAPとして晶析せず、種晶であるマグネシウム源を成長させる形でMAPとなることが分かる。よって、二酸化炭素を散気してpHが略7まで低下した消化汚泥は、MAP法によるリン除去に好適に用いることができることが分かる。
【0081】
次に、撹拌を止めて30分間静置して、MAPを沈降させた。その後、処理液(脱リン処理物)を排出して底部に沈降した固形物を回収した。回収した固形物を水ですすいだ後、45℃で恒量となるまで乾燥させた。乾燥させた後の乾燥物に対して、XRD分析を行った。XRD分析の結果、この乾燥物はMAP(MgNHPO・6HO)と同定された。
【0082】
上記乾燥物の重量から投入したMAP結晶の重量を引き、その差からリン量を計算した結果、乾燥物に含まれるリン量は、消化汚泥中のリン酸態リン濃度で150mg/Lに相当する量であった。すなわち、消化汚泥中のリン酸態リン量のうち、全量の75%がMAPの結晶として回収できたことが分かる。上述のように、MAPの結晶となった消化汚泥中のリン酸態リン量は、全量の85%であるため、回収できたリン酸態リンの量と10%の差がある。この差分である10%は、MAPの結晶が小さく、処理液(脱リン処理物)と共に排出されたものと推察された。
【0083】
以上説明したリン酸態リンの除去率・回収率に関する結果を、図6に示す。なお、図6は、実施例1−2における、消化汚泥中のリン除去率とMAP回収率との結果を示す図である。
【0084】
以上の結果から、pHが6.23〜7.0である消化汚泥中のリン酸およびアンモニアは、微細なMAPとして晶析せず、種晶であるマグネシウム源(MAP)を成長させる形でMAPとなることが分かる。よって、二酸化炭素を散気してpHが略7まで低下された消化汚泥は、MAP法によるリンの回収・除去に好適に用いることができることが分かる。また、pHが7.0である消化汚泥中に種晶となるMAPを添加した場合、消化汚泥中のリン酸態リンのうち、全量の75%をMAPとして回収できることが分かる。
【符号の説明】
【0085】
100,200,300…汚泥処理システム、1…消化槽、2…MAP生成槽、3…脱水装置、4…二酸化炭素散気装置、5…マグネシウム源供給装置、7…凝集剤供給装置、8…可溶化処理槽、10…送泥手段、11…返送手段。
図1
図2
図3
図4
図5
図6