(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば東南アジアやアフリカ、中東地域などの乾燥、準乾燥地域では、モンモリロナイト等の膨張性の粘土鉱物を含む膨張土が堆積し、雨期に浸水・吸水に伴って膨張、乾期に排水・乾燥に伴って収縮する膨張土(膨張性を示す地盤)が広範囲に存在している。
【0003】
このような膨張土の上に住宅や工場などの構造物を構築した場合には、雨期と乾期の膨張土の膨張と収縮による地盤変形に伴って、構造物に不同浮上りや不同沈下が生じ、構造物の壁や床スラブにひび割れが生じるなどの被害が多々発生してしまう。
【0004】
このため、従来、以下の3つの手法を単独あるいは組み合わせ、膨張土対策を講じた上で、構造物を構築するようにしている。
【0005】
第一に、構造物下方の膨張性を示す地盤をすべて良質土に置換した後、構造物を直接基礎支持形式で構築する。あるいは、膨張性を示す地盤をすべてセメント又は石灰によって固化処理した後、構造物を直接基礎支持形式で構築する。
【0006】
第二に、膨張性を示さない良質な地盤の支持層まで杭を打設し、この杭によって地盤の膨張時の浮上り力に抵抗することで、構造物に有害な変形が生じないようにする(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
第三に、地盤が膨張した際に浮上った地表部の土を空隙部分に貫入(収容)させ、膨張力が構造物に直接作用しないように緩衝する治具を地表部に敷設しておき、この治具の上に構造物を直接基礎支持形式で構築する。
【0008】
しかしながら、上記の第一の膨張土対策においては、その地層の全てを良質土に置換、あるいはセメントや石灰を撹拌混合して固化処理するため、膨張性を示す地層の厚さが大きくなるほどに工期が長期化し、高コスト化する。例えば、平面的に大規模な工場などを構築する際に、3m以上の膨張性を示す地層を処理する必要が生じると、工期が非常に長期化し、且つ莫大なコストが必要になってしまう。
【0009】
また、上記の第二の膨張土対策においては、構造物全体を杭で支持することで、膨張土の膨張・収縮による構造物の浮上りや沈下を効果的に防止することが可能である反面、大掛かりな対策であるが故に、杭に依らない直接基礎形式と比較し、やはり工期やコストが大幅に増大する。このため、中小規模の建物などの構造物への適用は事実上不可能になってしまう。
【0010】
さらに、上記の第三の膨張土対策においては、専用治具が高コストであり、且つ構造物を構築する現場、地域、特に発展途上国によっては容易に専用治具を入手することができず、適用できない場合が多い。また、専用治具を全面に設置することは多大な労力と手間が必要になるため、平面的に大規模な工場などへの適用が難しい。
【0011】
これに対し、本願の出願人は、膨張性地盤上に礫等を敷き均し、また、膨張性地盤に溝(凹所)を形成して礫等を充填して緩衝層/膨張抑制層を設けてなる膨張性地盤対策用基礎構造に関する特許出願を既に行っている。この膨張性地盤対策用基礎構造によれば、従来と比較し、安価に構造物の膨張土対策を講じることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1から
図4を参照し、本発明の第1実施形態に係る膨張性地盤対策用基礎構造の効果確認方法について説明する。
【0021】
ここで、本実施形態は、東南アジアやアフリカ、中東地域などの乾燥、準乾燥地域で広範囲に存在するモンモリロナイト等の膨張性の粘土鉱物を含む膨張土(膨張性を示す地盤)の上に、建物などの構造物を構築するための膨張性地盤対策用の基礎の構造に関し、特にこの膨張性地盤対策用の基礎構造の効果を確認する方法に関するものである。
【0022】
また、本実施形態は、
図1に示すように、膨張性地盤1の表面をライムストーンなどの砕石(粒状体)2aで置換して緩衝層2(及びコンクリート層などの膨張抑制層3)を形成し、膨張性地盤1が床スラブなどに及ぼす影響を低減する膨張性地盤対策用基礎構造Aの効果を確認する方法に関するものである。
【0023】
なお、本実施形態の膨張性地盤対策用基礎構造Aにおいては、膨張性地盤1に膨張が生じるとともに、膨張圧を緩衝層2(及び膨張抑制層3)で吸収、低減でき、基礎構造Aで支持した上部構造に膨張圧が作用することを防止できる。
【0024】
このような膨張性地盤対策の効果を確認する本実施形態の膨張性地盤対策用基礎構造Aの効果確認方法は、膨張性地盤1から採取した実際の膨張土と、砕石(粒状体)を模擬したガラスビーズとを用いる室内試験方法であり、試験により得られる膨張量と膨張圧から床や基礎に与える影響を把握するためのものである。
【0025】
具体的に、本実施形態の膨張性地盤対策用基礎構造Aの効果確認方法においては、まず、膨張性地盤1の膨張特性(膨張量と膨張圧)を、ASTM D4546-96(Standard Test Methods for One-Dimensional Swell or Settlement Potential of Cohesive Soils, Method A)に従って取得する。
【0026】
この膨張性地盤の膨張特性取得工程では、実際の膨張性地盤1から採取したサンプル(乱さずに採取した試料)から所定の大きさ、例えば直径5cm、高さ2cmの試験体を切り出す。なお、後工程で使用する試験体も同様に切り出す。
【0027】
図2(a)に示すように、試験体4を側方が拘束できる金属製で円筒状の収容器5内にセットするとともに、この収容器5を容器状のセル6内に設置する。そして、収容器5内の試験体4の上部に、例えば載荷板、ピストンなどを備えた載荷手段7を設置し、この載荷手段7によって試験体4に非常に小さい荷重(例えば5kPa程度)P1を載荷する。
【0028】
図2(b)に示すように、荷重P1が変わらない状態を保ちつつ、セル6に水Wを入れて収容器5とともに試験体4を水Wに浸漬させ、膨張土1の試験体4の膨張を促し、同時に載荷手段7の変位測定点の変位を読みとる。これにより、極低圧での膨張量(Free Swell)(%)を取得する。
【0029】
図2(c)に示すように、載荷手段7によって段階的に荷重P1、P2、P3・・・を増加してゆく。このとき、膨張土の試験体4は圧密により収縮し、高さが減少する。試験体4の高さが初期高さより低くなるまで、載荷圧を段階的に付加し、試験体4の高さが初期高さと同じになる載荷圧を求め、この載荷圧を膨張圧(Swelling Pressure)とする。
【0030】
次に、
図3(a)に示すように、別の試験体4を側方が拘束できる金属製で円筒状の収容器5内にセットするとともに、砕石(粒状体)2aを模擬したガラスビーズ8aを収容器5内に入れ、試験体4の上にガラスビーズ層8を積層する。そして、収容器5内のガラスビーズ層8の上部に載荷手段7を設置し、この載荷手段7によってガラスビーズ層8及び試験体4に非常に小さい荷重(例えば5kPa程度)P1を載荷する。
【0031】
図3(b)に示すように、荷重P1が変わらない状態を保ちつつ、セル6に水Wを入れて収容器5とともにガラスビーズ層8及び試験体4を水Wに浸漬させ、膨張土1の試験体4の膨張を促し、同時に載荷手段7の変位測定点の変位を読みとる。これにより、極低圧での膨張量(Free Swell)(%)を取得する。
【0032】
図3(c)に示すように、載荷手段7によって段階的に荷重P1、P2、P3・・・を増加してゆく。このとき、膨張土の試験体4及びガラスビーズ層8は圧密により収縮し、高さが減少する。試験体4及びガラスビーズ層8からなる供試体(試験体)9の高さが初期高さより低くなるまで、載荷圧を段階的に付加し、供試体9の高さが初期高さと同じになる載荷圧を求め、この載荷圧を膨張圧(Swelling Pressure)とする。
【0033】
また、砕石2aの大きさの効果と緩衝層2の厚さの効果を確認するために、ガラスビーズ8aの径とガラスビーズ層8の厚さをパラメータとして上記の載荷試験を実施する。本実施形態では、例えば、径が1mm、2mm、3mm(3水準)のガラスビーズ8aを用い、さらに10mm、20mm、30mm(3水準)とガラスビーズ層8の厚さを変えて繰り返し上記の載荷試験を実施し、それぞれの試験ケースでの載荷圧(膨張圧)を求める。
【0034】
そして、ガラスビーズ8aの径を変えた場合と、ガラスビーズ層8の厚さを変えた場合の極低圧での膨張量(Free Swell)と、載荷試験で得られた膨張圧(Swelling Pressure)の関係を求める。この関係によって、本実施形態の膨張性地盤対策用基礎構造Aの効果を定量化し、確認することが可能になる。言い換えれば、試験結果に基づいて膨張性地盤対策用基礎構造Aの仕様を決めることが可能になる。
【0035】
ここで、膨張性地盤1から採取した膨張土サンプルから18個の試験体4を作製し、9個を対策なしの状態、残りの9個を対策工あり(本実施形態の膨張性地盤対策用基礎構造A)の状態の膨張特性を取得し、対策工の効果を確認した結果について説明する。
【0036】
図4は試験結果を示している。
この図では、縦軸を試験により取得した膨張量とし、横軸を膨張圧として示したものである。また、1つのプロットが1つの試験体4から得られた結果の組であり、塗り潰したマークは対策工なしの場合、白抜きのマークは対策工ありの場合の膨張特性を示している。
【0037】
まず、使用した膨張性地盤1の膨張特性が膨張量で2.5〜4%程度、膨張圧で55〜125kPa程度であるのに対し、ガラスビーズ8を用いて上部置換タイプの対策工を模擬した試験方法(本実施形態の膨張性地盤対策用基礎構造の効果確認方法)によって得られた値は膨張量0〜2.5%、膨張圧10〜75kPaであり、十分に対策工による効果を確認できることが実証された。
【0038】
図4(a)からガラスビーズ径の対策効果に与える影響を確認できる。
すなわち、ガラスビーズ径が大きいほど、膨張率、膨張圧ともに小さい値が得られており、砕石(粒状体)の径は大きいほど効果的であることが実証された。
【0039】
図4(b)は同じデータをガラスビーズ厚で比較した結果を示している。
この図からガラスビーズ厚さが10mm、20mm、30mmと異なっていても、膨張特性に有意な違いが得られないことが確認され、緩衝層2を厚くしても効果が大きくならないことが確認された。すなわち、緩衝層8は粒径の数倍の厚さがあれば効果を発揮すると言える。
【0040】
このように、本実施形態の膨張性地盤対策用基礎構造の効果確認方法を用い、ガラスビーズ8aの径を変えた場合と、ガラスビーズ層8の厚さを変えた場合の極低圧での膨張量(Free Swell)と、載荷試験で得られた膨張圧(Swelling Pressure)の関係を求めることにより、膨張性地盤対策用基礎構造Aの効果を定量化し、確認することができるとともに、試験結果に基づいて膨張性地盤対策用基礎構造Aの仕様を決められることが実証された。
【0041】
したがって、本実施形態の膨張性地盤対策用基礎構造の効果確認方法によれば、上部置換タイプの膨張性地盤対策の効果を試験的に確認することができ、信頼性の高い膨張性地盤対策を実現することが可能になる。
【0042】
次に、
図5から
図8を参照し、本発明の第2実施形態に係る膨張性地盤対策用基礎構造の効果確認方法について説明する。
【0043】
ここで、本実施形態は、
図5に示すように、膨張性地盤1に溝(凹所)10を設け、この溝にライムストーンなどの砕石(粒状体)2aを充填して緩衝層2(及びコンクリート層などの膨張抑制層3)を形成し、膨張性地盤1が床スラブなどに及ぼす影響を低減する膨張性地盤対策用基礎構造Bの効果を確認する方法に関するものである。
【0044】
なお、本実施形態の膨張性地盤対策用基礎構造Bにおいては、膨張性地盤1に膨張が生じるとともに、膨張圧を緩衝層2(及び膨張抑制層3)で吸収、低減でき、基礎構造Bで支持した上部構造に膨張圧が作用することを防止できる。
【0045】
このような膨張性地盤対策の効果を確認する本実施形態の膨張性地盤対策用基礎構造Bの効果確認方法は、第1実施形態と同様、膨張性地盤1から採取した実際の膨張土と、砕石(粒状体)を模擬したガラスビーズとを用いる室内試験方法であり、試験により得られる膨張量と膨張圧から床や基礎に与える影響を把握するためのものである。よって、本実施形態では、第1実施形態と同様の構成に対して同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0046】
本実施形態の膨張性地盤対策用基礎構造Bの効果確認方法においては、
図6に示すように、円筒状の成形容器11に膨張土を入れて円盤状に成形した後、円盤状の膨張土の成形体12を成形容器11から取り出し、その中央部分を所定の幅寸法で直径方向に切断する。
【0047】
切断部13を除去し、平面視略半円状の一対の試験片14、15を形成し、中央に溝(凹所)16が形成されるようにして成形容器11の中に戻す。
【0048】
そして、一対の試験片14、15の間に形成された溝16にガラスビーズ8aを詰めることにより、膨張土でガラスビーズ層8を挟み込んだ形の本実施形態の溝掘り置換タイプの膨張性地盤対策用基礎構造Bの試験体17を製作する。
【0049】
次に、
図7(a)に示すように、試験体17を側方が拘束できる金属製で円筒状の収容器5内にセットする。そして、収容器5内の試験体17の上部に載荷手段7を設置し、この載荷手段7によって試験体17に非常に小さい荷重(例えば5kPa程度)P1を載荷する。
【0050】
図7(b)に示すように、荷重P1が変わらない状態を保ちつつ、セル6に水Wを入れて収容器5とともに試験体17を水Wに浸漬させ、試験体17の膨張土の膨張を促し、同時に載荷手段7の変位測定点の変位を読みとる。これにより、極低圧での膨張量(Free Swell)(%)を取得する。
【0051】
図7(c)に示すように、載荷手段7によって段階的に荷重P1、P2、P3・・・を増加してゆく。このとき、試験体17は圧密により収縮し、高さが減少する。試験体17の高さが初期高さより低くなるまで、載荷圧を段階的に付加し、試験体17の高さが初期高さと同じになる載荷圧を求め、この載荷圧を膨張圧(Swelling Pressure)とする。
【0052】
また、砕石2aの大きさの効果と緩衝層2の厚さの効果を確認するために、ガラスビーズ8aの径とガラスビーズ層8の厚さをパラメータとして上記の載荷試験を実施する。本実施形態では、例えば、径が1mm、2mm、3mm(3水準)のガラスビーズ8aを用い、さらに5mm、10mm、15mm(3水準)と溝幅(ガラスビーズ層8の幅)を変えて繰り返し上記の載荷試験を実施し、それぞれの試験ケースでの載荷圧(膨張圧)を求める。
【0053】
そして、ガラスビーズ8aの径を変えた場合と、ガラスビーズ層8の溝幅を変えた場合の極低圧での膨張量(Free Swell)と、載荷試験で得られた膨張圧(Swelling Pressure)の関係を求める。この関係によって、本実施形態の膨張性地盤対策用基礎構造Bの効果を定量化し、確認することが可能になる。言い換えれば、試験結果に基づいて膨張性地盤対策用基礎構造Bの仕様を決めることが可能になる。
【0054】
ここで、膨張性地盤1から採取した膨張土サンプルから23個の試験体を作製し、14個を対策なしの状態、残りの9個を対策工あり(本実施形態の膨張性地盤対策用基礎構造B)の状態の膨張特性を取得し、対策工の効果を確認した結果について説明する。
【0055】
図8は試験結果を示している。
この図では、縦軸を試験により取得した膨張量とし、横軸を膨張圧として示したものである。また、1つのプロットが1つの試験体から得られた結果の組であり、塗り潰したマークは対策工なしの場合、白抜きのマークは対策工ありの場合の膨張特性を示している。
【0056】
まず、使用した膨張性地盤1の膨張特性が膨張量で3〜5%程度、膨張圧で100〜175kPa程度であるのに対し、ガラスビーズ8を用いて溝部置換タイプの対策工を模擬した試験方法(本実施形態の膨張性地盤対策用基礎構造の効果確認方法)によって得られた値は膨張量2〜3.5%、膨張圧20〜115kPaであり、十分に対策工による効果を確認できることが実証された。
【0057】
図8(a)からガラスビーズ径の対策効果に与える影響は確認できなかった。
【0058】
図8(b)は溝の幅を変えた場合の結果を示している。
この図から溝の幅が対策効果に与える影響も明確には認められない。すなわち、水平方向へ若干の膨張を許すことができれば、鉛直方向の床などへの影響を低減することができると言える。
【0059】
このように、本実施形態の膨張性地盤対策用基礎構造の効果確認方法を用い、ガラスビーズ8aの径を変えた場合と、溝の幅を変えた場合の極低圧での膨張量(Free Swell)と、載荷試験で得られた膨張圧(Swelling Pressure)の関係を求めることにより、膨張性地盤対策用基礎構造Bの効果を確認することができることが実証された。
【0060】
したがって、本実施形態の膨張性地盤対策用基礎構造の効果確認方法によれば、溝掘り置換タイプの膨張性地盤対策の効果を試験的に確認することができ、信頼性の高い膨張性地盤対策を実現することが可能になる。
【0061】
以上、本発明に係る膨張性地盤対策用基礎構造の効果確認方法の第1、第2実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。