特許第6873826号(P6873826)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873826
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】粒子線医療装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/01 20060101AFI20210510BHJP
【FI】
   A61N5/01 A
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-107399(P2017-107399)
(22)【出願日】2017年5月31日
(65)【公開番号】特開2018-201638(P2018-201638A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】衣笠 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】北川 希代彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 英夫
(72)【発明者】
【氏名】笠井 茂
(72)【発明者】
【氏名】前田 和孝
(72)【発明者】
【氏名】長本 義史
【審査官】 和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−165397(JP,A)
【文献】 特開2001−353228(JP,A)
【文献】 特開2017−012374(JP,A)
【文献】 特開2011−156263(JP,A)
【文献】 特開2001−129103(JP,A)
【文献】 特開平11−047287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/00 − 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止系に固定されたベッドを内側に配置させ、ビームの照射ポートを胴体に固定させた状態で軸回転する回転ガントリと、
少なくとも水平床面を有し、前記ベッドの少なくとも一部が収容される内部空間を有するトンネル構造体と、
前記回転ガントリの内側面に対し前記トンネル構造体を回転変位させることにより、前記回転ガントリの軸回転とは無関係に、前記静止系において前記トンネル構造体を静止させる回転支持部と、
複数の板材を相互に屈曲自在に結合させて成り、前記トンネル構造体から前記内部空間が連続するように環状に形成され、前記照射ポートを貫通させた状態で前記回転ガントリとともに周回転する移動床と、を備え、
前記移動床は、前記静止系に支持され前記トンネル構造体の垂直断面形状に略一致する閉軌道を有する第1レールに一端が係合され、
この移動床の他端は前記照射ポートを挟むように前記第1レールに対向配置された第2レールに係合されおり、
前記移動床は、前記照射ポートが貫通する箇所の前記板材の結合が分断された、少なくとも二つの分割体からなり、
各々の前記分割体は、前記閉軌道を互いに独立に走行するための走行手段を有し、
さらに、シートが巻回されるとともに巻取り方向に回転付勢されたロールが、前記照射ポート及びこれに近接する前記分割体のエッジ部のいずれか一方に設けられ、巻回された前記シートの先端が他方に接続され、前記照射ポート及び前記分割体の間に形成されている隙間を遮蔽することを特徴とする粒子線医療装置。
【請求項2】
請求項1に記載の粒子線医療装置において、
隣接する二つの前記板材を結合させる結合部材と、
それぞれの前記板材のエッジに設けられた切欠部において、前記結合部材の両端を、回動自在に支える軸支部と、
前記結合部材の回動に関し、前記ベッド側への前記板材の屈曲を許容し、その反対側への屈曲を規制する規制部材と、を備えることを特徴とする粒子線医療装置。
【請求項3】
静止系に固定されたベッドを内側に配置させ、ビームの照射ポートを胴体に固定させた状態で軸回転する回転ガントリと、
少なくとも水平床面を有し、前記ベッドの少なくとも一部が収容される内部空間を有するトンネル構造体と、
前記回転ガントリの内側面に対し前記トンネル構造体を回転変位させることにより、前記回転ガントリの軸回転とは無関係に、前記静止系において前記トンネル構造体を静止させる回転支持部と、
複数の板材を相互に屈曲自在に結合させて成り、前記トンネル構造体から前記内部空間が連続するように環状に形成され、前記照射ポートを貫通させた状態で前記回転ガントリとともに周回転する移動床とを、備え、
前記移動床は、
隣接する二つの前記板材を結合させる結合部材と、
それぞれの前記板材のエッジに設けられた切欠部において、前記結合部材の両端を、回動自在に支える軸支部と、
前記結合部材の回動に関し、前記ベッド側への前記板材の屈曲を許容し、その反対側への屈曲を規制する規制部材と、を有することを特徴とする粒子線医療装置。
【請求項4】
請求項3に記載の粒子線医療装置において、
前記移動床は、前記静止系に支持され前記トンネル構造体の垂直断面形状に略一致する閉軌道を有する第1レールに一端が係合され、
この移動床の他端は前記照射ポートを挟むように前記第1レールに対向配置された第2レールに係合されていることを特徴とする粒子線医療装置。
【請求項5】
請求項4に記載の粒子線医療装置において、
前記移動床は、前記照射ポートが貫通する箇所の前記板材の結合が分断された、少なくとも二つの分割体からなり、
各々の前記分割体は、前記閉軌道を互いに独立に走行するための走行手段を備えることを特徴とする粒子線医療装置。
【請求項6】
請求項5に記載の粒子線医療装置において、
シートが巻回されるとともに巻取り方向に回転付勢されたロールが、前記照射ポート及びこれに近接する前記分割体のエッジ部のいずれか一方に設けられ、巻回された前記シートの先端が他方に接続され、
前記照射ポート及び前記分割体の間に形成されている隙間を遮蔽することを特徴とする粒子線医療装置。
【請求項7】
請求項1,2,6のいずれか1項に記載の粒子線医療装置において、
互いに近接しあう二つの前記分割体のエッジ部のいずれか一方に前記ロールが設けられ、他方に前記シートの先端が接続され、
二つの前記分割体のエッジ部の間に形成されている隙間を遮蔽することを特徴とする粒子線医療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転ガントリを有する粒子線医療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
陽子、炭素イオン等の粒子線ビームを患者の患部(がん)に照射して治療を行う粒子線治療が広く実施されている。このような粒子線治療の一つとして、大型回転機構(以下、回転ガントリと称す)に内部形成された治療室内において、治療ベッド上に横臥させた患者を位置決めし、粒子線ビームを照射するというものがある。
【0003】
このような回転ガントリを備えた粒子線医療装置は、回転ガントリに固定された照射ポートを回転させたり治療室内で治療ベッドを変位させたりすることにより、患者の患部に任意の方向から粒子線ビームを照射させる。
そして、回転ガントリ内部に形成される治療室は、回転ガントリの回転位置とは無関係に、床面が水平フラット状でその他の面が回転ガントリの内周に沿うアーチ状をとる移動床により形成されている。
【0004】
さらに、照射ポートは移動床の開口部を貫通して、ガントリの回転に同期させて、移動床も全周回転させる。そして、この照射ポートの回転位置に対応して、移動床の開口部の大きさを調節し、貫通する照射ポートとの隙間を埋める機能が設けられている。この隙間が大きいと、技師のベッドへのアクセスが困難になり、治療室の外側に用具等が落下する危険性が高まるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−47287号公報
【特許文献2】特開2001−353228号公報
【特許文献3】特開2011−156263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
全周回転しながら水平フラット床面とアーチ面を維持する移動床で治療室が形成されることにより、この治療室の内部空間における技師の作業性の向上や、治療ベッドに横臥する患者の精神的圧迫感の低減が図られる。
しかし、そのような移動床で治療室を形成する場合、移動床の機械剛性確保のため、治療室の特に回転軸方向の空間を広くとることができない。このために、技師の作業性の向上や、患者の精神的圧迫感の低減も、達成度が不十分となる。
【0007】
また、移動床の開口部の大きさを調節する機能に関しても、従来技術では、採用されるスライド連結機構の接触面の擦れにより騒音が発生したり、適用に制限が存在したりする課題があった。
【0008】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、治療空間が広く形成されるとともに、汎用性及びロバスト性の高い粒子線医療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係る粒子線医療装置において、静止系に固定されたベッドを内側に配置させビームの照射ポートを胴体に固定させた状態で軸回転する回転ガントリと、少なくとも水平床面を有し前記ベッドの少なくとも一部が収容される内部空間を有するトンネル構造体と、前記回転ガントリの内側面に対し前記トンネル構造体を回転変位させることにより前記回転ガントリの軸回転とは無関係に前記静止系において前記トンネル構造体を静止させる回転支持部と、複数の板材を相互に屈曲自在に結合させて成り、前記トンネル構造体から前記内部空間が連続するように環状に形成され、前記照射ポートを貫通させた状態で前記回転ガントリとともに周回転する移動床と、を備え、前記移動床は、前記静止系に支持され前記トンネル構造体の垂直断面形状に略一致する閉軌道を有する第1レールに一端が係合されこの移動床の他端は前記照射ポートを挟むように前記第1レールに対向配置された第2レールに係合されおり、前記移動床は、前記照射ポートが貫通する箇所の前記板材の結合が分断された少なくとも二つの分割体からなり、各々の前記分割体は前記閉軌道を互いに独立に走行するための走行手段を有し、さらに、シートが巻回されるとともに巻取り方向に回転付勢されたロールが前記照射ポート及びこれに近接する前記分割体のエッジ部のいずれか一方に設けられ、巻回された前記シートの先端が他方に接続され、前記照射ポート及び前記分割体の間に形成されている隙間を遮蔽することを特徴とする。
実施形態に係る粒子線医療装置において、静止系に固定されたベッドを内側に配置させビームの照射ポートを胴体に固定させた状態で軸回転する回転ガントリと、少なくとも水平床面を有し前記ベッドの少なくとも一部が収容される内部空間を有するトンネル構造体と、前記回転ガントリの内側面に対し前記トンネル構造体を回転変位させることにより前記回転ガントリの軸回転とは無関係に前記静止系において前記トンネル構造体を静止させる回転支持部と、複数の板材を相互に屈曲自在に結合させて成り、前記トンネル構造体から前記内部空間が連続するように環状に形成され、前記照射ポートを貫通させた状態で前記回転ガントリとともに周回転する移動床とを、備え、前記移動床は、隣接する二つの前記板材を結合させる結合部材と、それぞれの前記板材のエッジに設けられた切欠部において前記結合部材の両端を回動自在に支える軸支部と、前記結合部材の回動に関し前記ベッド側への前記板材の屈曲を許容しその反対側への屈曲を規制する規制部材と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態により、治療空間が広く形成されるとともに、汎用性及びロバスト性の高い粒子線医療装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(A)本発明の第1実施形態に係る粒子線医療装置のX−Y断面図、(B)そのY−Z断面図。
図2】(A)各実施形態に係る粒子線医療装置の外観を示す斜視図、(B)移動床及びトンネル構造体の部分の全体斜視図。
図3】(A)(B)第2実施形態に適用される移動床の動作説明図。
図4】(C)(D)第2実施形態に適用される移動床の動作説明図。
図5】(A)第3実施形態に適用される移動床の板材の連結部を示す側面図、(B)上面図、(C)屈曲した移動床の板材の連結部を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1(A)は第1実施形態に係る粒子線医療装置10のX−Y断面図、(B)はそのY−Z断面図を示している。図2(A)は粒子線医療装置10の外観を示している。
【0013】
このように、粒子線医療装置10は、静止系に固定されたベッド24を内側に配置させビーム19の照射ポート18を胴体に固定させた状態で軸回転する回転ガントリ15と、水平床面及びアーチ天井を有しベッド24の少なくとも一部が収容される内部空間を有するトンネル構造体16と、回転ガントリの内側面15aに対しトンネル構造体16を回転変位させることにより回転ガントリ15の軸回転とは無関係に静止系においてトンネル構造体16を静止させる回転支持部57と、を備えている。
【0014】
さらに粒子線医療装置10は、複数の板材11(図2(B))を相互に屈曲自在に結合させて成りトンネル構造体16から前記内部空間が連続するように環状に形成され照射ポート18を貫通させた状態で回転ガントリ15とともに周回転する移動床12を、さらに備えている。
【0015】
図2(A)に示すように回転ガントリ15は、一般に円筒形状を有する大型構造物であり、その両縁端の外周面に外接する複数の回転駆動部23の回転駆動により、回転軸(Z軸)周りに回転する。そして回転ガントリ15は、回転駆動部23を介して、基礎21(静止系)によりその重量が支えられている。
回転ガントリ15は、静止系に固定されたベッド24を内側に配置させビーム19の照射ポート18を胴体に固定させた状態で軸回転する。
【0016】
この回転ガントリ15には、粒子線ビーム19の照射ポート18の他に、ビーム輸送系27、ビームの偏向電磁石28、その他の制御機器や構造物が、多数設けられている。
粒子線ビーム19は、図示略のイオン源で発生したイオン(重粒子あるいは陽子イオン)を直線加速器で加速し、さらに円形加速器(図示略)に入射して設定エネルギーまでに高めることにより生成される。
【0017】
そして、円形加速器から出力された粒子線ビームは、回転ガントリ15と一体回転するように設けられたビーム輸送系(図示略)の回転軸Zの延長線上から入射する。
照射ポート18は、回転ガントリ15の内側に向かって挿入され、この回転ガントリ15と共にベッド24の周囲を±180度回転する。
このようにビーム輸送系に入射した粒子線ビームは、その軌道が偏向電磁石28により曲げられて、照射ポート18からベッド24に横臥する患者に、360度の任意の方向から照射される。
【0018】
このベッド24は、建屋側の基礎(静止系)に土台が固定されており、回転ガントリ15の内部を移動し、粒子線ビーム19の照射位置に、患者の患部を位置決めする。
粒子線ビーム19が患部に向かって照射されると、患者の体内を通過する際に運動エネルギーを失って速度を低下させるとともに、速度の二乗にほぼ反比例する抵抗を受けてある一定の速度まで低下すると急激に停止する。
そして、粒子線ビーム19の停止点近傍では、ブラッグピークと呼ばれる高エネルギーが放出される。このブラッグピークの放出位置が患部に一致するようベッド24の位置決めがなされているために、患部組織のみを死滅させ正常組織の障害が少ない治療が実行される。
【0019】
図2(B)は、移動床12及びトンネル構造体16の部分を抽出して示す図である。移動床12を構成する板材11の各々は、長手方向におけるたわみ剛性が大きくかつ軽量であることが望まれる。そして複数の板材11が、その側縁部において屈曲自在に相互結合している。
【0020】
そして移動床12は、その一部に設けた開口に、照射ポート18を貫通させることにより、回転ガントリ15の回転に同期して移動床12を回転させることができる。
なお移動床12の形態としては、一枚のシートを環状にして形成する場合の他に、第2実施形態で後述するように、複数の分離体のシートを環状に組み合わせて形成する場合もある。
【0021】
この環状に形成された移動床12の両端には、円弧及び直線からなる閉軌道を有する第1レール13A及び第2レール13Bが、摺動自在に係合している。
これにより、移動床12の内部空間は、フラット水平床とアーチで囲まれたトンネル形状を形成し、この移動床12は、トンネル形状を静止させたまま回転軸Z周りに回転することが可能になる。
【0022】
この移動床12は、後述するトンネル構造体16の存在により、治療室の空間が十分に確保されるので、回転軸方向(Z軸方向)に広くとる必要はない。このために、軽量でかつ機械剛性を高く設計できるので、移動床12の回転運動をスムーズにかつ静音性を維持した状態で実施することができる。
【0023】
第1レール13Aは、ベッド24を固定した基礎21の垂直壁面(静止系)60の開口に一端が接続された空洞体53の他端に、支持されている。
なお、第1レール13Aの基礎21からの支持は、図示した方法に限定されることはない。例えば、回転ガントリ15の内周面に対し回転自在に設けられた支持部(図示略)に第1レール13Aを固定し、この支持部が基礎21の垂直壁面(静止系)60に支持されることにより、第1レール13Aが間接的に静止系に支持されるようにしてもよい。
【0024】
第2レール13Bは、断面形状がこの第2レール13Bの形状に略一致するトンネル構造体16の周縁に固定されている。そして2レール13Bは、照射ポート18を挟むように第1レール13Aに対向配置され移動床12の他端に係合している。
第1レール13Aと第2レール13Bの間隔は、両者に挟まれる照射ポート18の幅よりも若干広めであればよい。
これにより、回転ガントリ15とともに回転する移動床12において、回転軸(Z軸)方向の寸法を控えめにすることで、重量の削減と機械剛性の向上とを両立させることができる。
【0025】
さらに発展させ、照射ポート18をさらに小径に設計し、空洞体53とトンネル構造体16との隙間を、技師の往来に支障がない程度に小さくすることができる場合等は、移動床12を省略することも可能である。
また、トンネル構造体16は、水平床面及びアーチ天井を有するものが例示されているが、少なくとも水平床面とともにベッド24の少なくとも一部が収容される内部空間を有するものであればよい。
【0026】
トンネル構造体16において、第2レール13Bの反対側には、開口を塞ぐようにパネル51が設けられている。そしてこのパネル51は、回転ガントリ15の回転軸Zに一致して自在に回動する回転支持部57の回転軸52に支持されている。
【0027】
回転支持部57は、回転ガントリの内側面15aに固定されるスタンド56からトンネル構造体16を軸支する回転軸52を回転変位させる。これにより回転ガントリ15の回転変位に依存すること無く、フラットな床面が常に水平を保つように、トンネル構造体16は静止系に対し静止する。
【0028】
回転支持部57は、静止系においてその回転軸52が、回転ガントリ15とは逆方向に回転変位する。その結果、回転支持部57が回転ガントリ15の内側面15aに固定されることで、静止系から見て照射ポート18が周回している場合でも、トンネル構造体16を静止状態に保つことができる。
【0029】
さらに回転支持部57には、その自重を鉛直方向においてサポートするサポート部材26が設けられている。このサポート部材26の一端はトンネル構造体16又はパネル51に固定され、その他端は回転ガントリの内側面15aに無摩擦接触しその周方向に回転する。なお回転支持部57の回転軸52は、モータ等により駆動回転させる場合の他に、自由回転するものであってもよい。
本実施形態において回転支持部57は、回転軸52とスタンド56とから成るものを例示して説明したが、特に限定されるものでなく、回転ガントリの内側面15aに対しトンネル構造体16を回転変位させることができるものであれば、適宜採用される。
【0030】
以上述べたトンネル構造体16により、照射ポート18の回転位置に依存することなく、フラットで水平な床面を有し広さが十分である治療室を、回転ガントリ15の内部に形成することができる。これによりベッド24に横臥する患者にアクセスする技師の作業性を向上させることができる。
またこの広い治療室の大半をトンネル構造体16で担うことができるために、移動床12の回転軸方向長さを、機能上要求される最小限の長さである照射ポート18とほぼ同じ長さまで短尺化することが可能となる。その結果、移動床12を軽量かつ高剛性で作製することができ、もしくは移動床12を省略することができ、回転駆動機構の負荷を軽減させロバスト性の高い粒子線医療装置を提供することができる。
【0031】
(第2実施形態)
次に図3(A)(B)及び図4(C)(D)に基づいて本発明における第2実施形態について説明する。なお、図3及び図4において図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0032】
第2実施形態の粒子線医療装置10に適用される移動床12は、照射ポート18が貫通する箇所の板材11の結合が分断された、少なくとも二つの分割体17A,17Bからなる。そして各々の分割体17A,17Bは、レール13の閉軌道を互いに独立に走行するための走行手段25A,25Bを備えている。
【0033】
走行手段25A,25Bとしては、具体的にラック・アンド・ピニオン機構を採用することができる。この場合、ピニオンとよばれる小口径の円形歯車を回転させるモータが、分割体17の中心に配列する板材11に設けられている。そして、第1レール13A及び第2レール13Bの少なくとも一方に、歯切りをしたラックを設ける。このラックとピニオンを組み合わせピニオンに回転力を加えると、ラックの長手方向への直線力に変換され、移動床12の分割体17は、レール13の閉軌道に沿って移動することになる。
【0034】
走行手段25A,25Bとしては、ラック・アンド・ピニオン機構に限定されることはなく、分割体17A,17Bをレール13の閉軌道に対し、それぞれ独立に走行させることができるものであれば適宜採用することができる。
【0035】
回転する移動床12のフラット水平床面は、少なくとも隙間を発生させず、行き来する技師の安全を確保する必要がある。さらに、図4(C)(D)を比較して判るように、照射ポート18の回転位置によって、照射ポート18を貫通させるのに必要な移動床12の開口の大きさが異なり、分割体17A,17Bのエッジが当接する照射ポート18の側面位置も変化するという実情がある。
【0036】
そこで、分割体17A,17Bを移動させる走行手段25A,25Bの制御ポリシーは、フラット水平床面に分割体17A,17Bのエッジが位置する場合、このエッジが照射ポート18か、もしくはお互いに当接するように設定し、フラット水平床面に隙間が生じないようにする。その結果、反対のアーチ側に位置する分割体17A,17Bのエッジによる開口は許容され、照射ポート18の回転位置によって、その大きさも変化する。
【0037】
そして、照射ポート18及び分割体17A,17Bの間には、形成された隙間を遮蔽するための遮蔽部31Aが設けられている。
照射ポート18側の遮蔽部31Aは、シート33が巻回されるとともに巻取り方向に回転付勢されたロール34が、分割体17のエッジ部に設けられている。そして、巻回されたシート33の先端32が他方の照射ポート18に接続されている。なお、ロール34とシートの先端32との取り付け位置を逆にしても良い。
これにより、巻回されたシート33が、照射ポート18及び分割体17A,17Bの間に形成された隙間の大きさにあわせて伸縮し、その開口を遮蔽する。
【0038】
さらに分割体17A,17Bの突合せ状態にあるエッジ部の間にも、形成された隙間をその大きさに応じて遮蔽するための遮蔽部31Bが設けられている。
そして、互いに近接しあう二つの分割体17A,17Bのエッジ部のいずれか一方に、ロール34が設けられ、他方にシートの先端32が接続される。
なお、第2実施形態において、遮蔽部31A,31Bは必須の構成要素ではない。つまり、アーチ側に形成される移動床12の開口から回転ガントリ15の内側面15aが露見することにこだわらなければ、省略してもよい。
【0039】
図3(A)に示すように、回転ガントリ15の回転角度を+180度に設定し、照射ポート18をベッド24の真下に位置させる場合を検討する。このときは、照射ポート18と分割体17A,17Bのエッジ部とを当接させることで、照射ポート18の両側に開口を生じさせることなく、移動床12の水平フラット床面が形成される。
【0040】
このとき、照射ポート18側に設けられた遮蔽部31Aは、照射ポート18の付け根部分と分割体17A,17Bのエッジ部との間で、シート33が延びた状態を取る。
他方において、アーチ側の分割体17A,17Bの突合せ位置にある遮蔽部31Bは、形成された隙間を遮蔽するために、シート33が延びた状態を取る。
【0041】
次に、図3(B)に示すように、回転ガントリ15の回転角度を+135度に設定し、照射ポート18をベッド24の斜め下方に位置させる場合を検討する。このときは、図中右側の分割体17Aのエッジ部が照射ポート18の付け根部分に到達している。この際も、分割体17A,17Bのエッジ部を照射ポート18側に当接させることで、開口を生じさせることなく、移動床12の水平フラット床面が形成される。
【0042】
更に、図4(C)に示すように、回転ガントリ15の回転角度を+90度に設定し、照射ポート18をベッド24の真横に位置させる場合を検討する。このときは、両方の分割体17A,17Bのエッジ部が照射ポート18の付け根部分に到達している。この際も、分割体17A,17Bのエッジ部を照射ポート18側に当接させることで、開口を生じさせることなく、移動床12の水平フラット床面が形成される。
【0043】
このとき、照射ポート18側に設けられた遮蔽部31Aは、照射ポート18の付け根部分と分割体17A,17Bのエッジ部との間で、シート33が縮んだ状態を取る。
他方において、反対側の分割体17A,17Bの突合せ位置にある遮蔽部31Bは、形成された隙間を遮蔽するために、シート33が延びた状態を取る。
【0044】
また、図4(D)に示すように、回転ガントリ15の回転角度を0度に設定し、照射ポート18をベッド24の真上に位置させる場合を検討する。このときは、水平床面において分割体17A,17Bのエッジ部を互いに当接させることで、開口を生じさせることなく、移動床12の水平フラット床面が形成される。
【0045】
このとき、水平フラット床面に位置する遮蔽部31Bは、シート33が縮んだ状態を取る。他方において、アーチ側の照射ポート18に設けられた遮蔽部31Aは、生じた開口を遮蔽するために、照射ポート18の付け根部分と分割体17A,17Bのエッジ部との間で、シート33が延びた状態を取る。
【0046】
なお、上述した、照射ポート18及び分割体17A,17Bの位置関係、並びに遮蔽部31A,31Bの伸縮関係は、例示的に示したものである。このためレール13の円弧軌道及び直線軌道の長さや照射ポート18の寸法によっても、これらの関係は適宜変更される。また、上述の例では、回転ガントリ15が+180度〜0度の範囲を回転する場合を述べたが、回転ガントリ15は、0度から−180度の範囲をも回転する。
回転ガントリ15及び照射ポート18は、鏡面対称形状をとるため、回転ガントリ15が0度〜−180度の範囲を回転する場合についても、分割体17A,17Bを適切に移動制御することで、移動床12の水平床面に開口が形成されることがない。
【0047】
なお第2実施形態に係る粒子線医療装置10は、移動床12が分割体17A,17Bで構成されることと、各々に走行手段25A,25Bが設けられていることと、が必須の構成要件である。このため、トンネル構造体16や、遮蔽部31A,31Bが設けられていない粒子線医療装置10も存在し得る。
【0048】
(第3実施形態)
次に図5(A)(B)(C)に基づいて本発明における第3実施形態について説明する。図5には、第3実施形態に適用される移動床12の板材11の連結部35の拡大図が示されている。なお、図5において図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0049】
図5に示すように連結部35は、隣接する二つの板材11を結合させる結合部材36と、それぞれの板材11のエッジに設けられた切欠部39において結合部材36の両端を回動自在に支える軸支部37と、結合部材36の回動に関しベッド側への板材11の屈曲を許容しその反対側への屈曲を規制する規制部材38と、を備えている。
【0050】
このように構成されることにより、図5(A)に示す応力Fが付与された板材11は、隣接する板材11に対して下側に変位しようとするが、この隣接する板材11に設けられた規制部材38がこの変位方向に回動しようとする結合部材36を反力fで抑止する。これにより、移動床12に高い機械剛性が付与されることとなり、技師や患者が乗っても水平床面が大きく撓むことがない。
【0051】
一方において、図5(C)に示すように、移動床12のトンネル形状の隅においては、軸支部37を中心にして、互いに隣接する板材11が屈曲することが可能である。同様にして、トンネル形状のアーチ部においてもストレスなく曲面を形成することができる。
図示において規制部材38は、板材11の切欠部39の下側に設けられたブロック材を例示しているが、特に限定はなく、板材11に対する結合部材36が、移動床12の外側に屈曲しないように規制するものであればよい。
【0052】
なお第3実施形態に係る粒子線医療装置10は、移動床12の結合部材36がベッド側への板材11の屈曲が許容されその反対側への屈曲が規制されることが必須の構成要件である。このため、トンネル構造体16設けられていない場合や、移動床12が分割体17A,17Bで構成されない場合や、移動床12に遮蔽部31A,31Bが設けられない場合の、粒子線医療装置10も存在し得る。
【0053】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の粒子線医療装置によれば、トンネル構造体を設けることにより治療空間が広く形成されるとともに、移動床の隙間を遮蔽したりその機械剛性を高めたりすることにより汎用性及びロバスト性を向上させることが可能となる。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0055】
10…粒子線医療装置、11…板材、12…移動床、13A(13)…第1レール(レール)、13B(13)…第2レール(レール)、15…回転ガントリ、15a…内側面、16…トンネル構造体、17…分割体、17A(17)…第1分割体(分割体)、17B(17)…第2分割体(分割体)、18…照射ポート、19…粒子線ビーム(ビーム)、21…基礎、23…回転駆動部、24…ベッド、25A…走行手段、26…サポート部材、27…ビーム輸送系、28…偏向電磁石、31A,31B…遮蔽部、32…先端、33…シート、34…ロール、35…連結部、36…結合部材、37…軸支部、38…規制部材、39…切欠部、51…パネル、52…回転軸、53…空洞体、56…スタンド、57…回転支持部、60…壁面。
図1
図2
図3
図4
図5