(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
台車と車体との間に左右に対となる空気バネと左右に対となるアクチュエータとが介設され、前記空気バネ及びアクチュエータを制御することで前記車体を傾斜させる鉄道車両の車体傾斜制御装置であって、
前記車両の曲線区間の通過時に前記車体が目標傾斜角となるように前記空気バネの高さを検出しながら前記空気バネの給排気弁を制御する第1車体傾斜制御を実行する空気バネ制御器と、
前記車両の曲線区間の通過時に前記車体が前記目標傾斜角となるように前記空気バネの高さを検出しながら前記アクチュエータの推力を制御する第2車体傾斜制御を実行するアクチュエータ制御器と、
前記空気バネ制御器及び前記アクチュエータ制御器の各制御の重み付けを決定する重み付け決定器と、を備え、
前記アクチュエータ制御器は、前記アクチュエータの温度が上限値を超えると、前記第2車体傾斜制御からフェールセーフ制御に移行するように構成されており、
前記重み付け決定器は、軌道の曲線情報を含む軌道情報と前記車両の走行位置及び走行速度と前記アクチュエータの温度とを含む入力データに基づいて、前記曲線区間の通過中に前記アクチュエータの温度が前記上限値よりも低い状態が保たれるように、前記第1車体傾斜制御と前記第2車体傾斜制御との重み付けを決定する、鉄道車両の車体傾斜制御装置。
前記重み付け決定器は、前記第1車体傾斜制御と前記第2車体傾斜制御との重み付けを前記曲線区間の通過中に変更する、請求項1に記載の鉄道車両の車体傾斜制御装置。
前記重み付け決定器は、前記車両が前記曲線区間に進入開始してから前記車体が前記曲線区間中の最大目標傾斜角に達するまでの前記アクチュエータの推力の増加量が、前記車両が前記曲線区間に進入開始してから前記車体が前記最大目標傾斜角に達するまでの前記空気バネの圧力による発生力の増加量よりも大きくなるように前記第1車体傾斜制御と前記第2車体傾斜制御との重み付けを決定する、請求項1又は2に記載の鉄道車両の車体傾斜制御装置。
前記重み付け決定器は、前記車体が前記曲線区間中の最大目標傾斜角に達した後に、前記車体が前記最大目標傾斜角に達した状態を維持しながら前記第1車体傾斜制御に対して前記第2車体傾斜制御の重みを減少させる、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の鉄道車両の車体傾斜制御装置。
前記重み付け決定器は、前記車体が前記最大目標傾斜角に達した後に、前記空気バネの圧力を増加させると同時に前記アクチュエータの推力を減少させる、請求項4に記載の鉄道車両の車体傾斜制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の構成では、空気バネの制御とアクチュエータの制御とが互いに独立している。アクチュエータがアシスト力を発揮することを前提として空気バネの制御能力を低く設定したにも関わらず、アクチュエータによるアシスト力が弱い場合、
図6に示すように、アクチュエータに定格推力を発生させただけでは、アクチュエータによるアシスト力が弱いために車体の目標傾斜角への到達が遅れ、曲線区間の初期段階で乗り心地が悪くなってしまう問題がある。他方、
図7に示すように、曲線区間進入時に車体を目標傾斜角に素早く到達させようとしてアクチュエータに大きな推力を発生させると、アクチュエータの温度が上限値を超えてフェールセーフ機能が働き、アクチュエータによるアシストが続行できなくなる問題がある。また、空気バネ制御の能力を高くするために空気タンクや当該空気タンクに空気を充填するためのコンプレッサを増加又は大型化したり、フェールセーフ機能が働かない範囲でアシスト力を強くするためにアクチュエータを増加又は大型化することは、コストや搭載スペースの観点から望ましくないという事情もある。
【0005】
そこで本発明は、アクチュエータによる目標傾斜角への迅速な到達を図りつつ、フェールセーフに陥ることなく車体傾斜時の空気消費量を安定的に低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る鉄道車両の車体傾斜制御装置は、台車と車体との間に左右に対となる空気バネと左右に対となるアクチュエータとが介設され、前記空気バネ及びアクチュエータを制御することで前記車体を傾斜させる鉄道車両の車体傾斜制御装置であって、前記車両の曲線区間の通過時に前記車体が目標傾斜角となるように前記空気バネの高さを検出しながら前記空気バネの給排気弁を制御する第1車体傾斜制御を実行する空気バネ制御器と、前記車両の曲線区間の通過時に前記車体が前記目標傾斜角となるように前記空気バネの高さを検出しながら前記アクチュエータの推力を制御する第2車体傾斜制御を実行するアクチュエータ制御器と、前記空気バネ制御器及び前記アクチュエータ制御器の各制御の重み付けを決定する重み付け決定器と、を備え、前記アクチュエータ制御器は、前記アクチュエータの温度が上限値を超えると、前記第2車体傾斜制御からフェールセーフ制御に移行するように構成されており、前記重み付け決定器は、軌道の曲線情報を含む軌道情報と前記車両の走行位置及び走行速度と前記アクチュエータの温度とを含む入力データに基づいて、前記曲線区間の通過中に前記アクチュエータの温度が前記上限値よりも低い状態が保たれるように、前記第1車体傾斜制御と前記第2車体傾斜制御との重み付けを決定する。
【0007】
前記構成によれば、軌道の曲線情報と車両の走行位置及び走行速度とを参照することで、対象となる曲線区間を通過する際のアクチュエータの昇温傾向を事前に把握できるため、現在のアクチュエータの温度を考慮して第1車体傾斜制御と第2車体傾斜制御との重み付けを調節することで、曲線区間通過中にアクチュエータの温度が上限値よりも低い状態に保たれるように車体傾斜制御を実施できる。よって、アクチュエータによる目標傾斜角への迅速な到達を図ることができると共に、フェールセーフに陥ることなく車体傾斜時の空気消費量を安定的に低減することができる。
【0008】
前記重み付け決定器は、前記第1車体傾斜制御と前記第2車体傾斜制御との重み付けを前記曲線区間の通過中に変更してもよい。
【0009】
前記構成によれば、曲線区間の全体にわたって重み付けの最適化を図ることができ、目標傾斜角への迅速な到達と空気消費量の低減とを高いレベルで両立できる。
【0010】
前記重み付け決定器は、前記車両が前記曲線区間に進入開始してから前記車体が前記曲線区間中の最大目標傾斜角に達するまでの前記アクチュエータの推力の増加量が、前記車両が前記曲線区間に進入開始してから前記車体が前記曲線区間中の最大目標傾斜角に達するまでの前記空気バネの圧力による発生力の増加量よりも大きくなるように前記第1車体傾斜制御と前記第2車体傾斜制御との重み付けを決定してもよい。
【0011】
前記構成によれば、車体傾斜の初期段階において車体傾斜に対するアクチュエータの貢献度が相対的に高く、車体を目標傾斜角に迅速に到達させることできる。
【0012】
前記重み付け決定器は、前記車体が前記曲線区間中の最大目標傾斜角に達した後に、前記車体が前記最大目標傾斜角に達した状態を維持しながら前記第1車体傾斜制御に対して前記第2車体傾斜制御の重みを減少させてもよい。
【0013】
前記構成によれば、車体が最大目標傾斜角に達した状態を維持しながらもアクチュエータの昇温を抑制できる。
【0014】
前記重み付け決定器は、前記車体が前記最大目標傾斜角に達した後に、前記空気バネの圧力を増加させると同時に前記アクチュエータの推力を減少させてもよい。
【0015】
前記構成によれば、車体が最大目標傾斜角に達した状態を維持しながらもアクチュエータの昇温を抑制できる。
【0016】
前記入力データは、前記空気バネに圧縮空気を供給する空気タンクの圧力を更に含み、前記重み付け決定器は、前記入力データに基づいて、前記曲線区間の通過中に前記空気タンクの圧力が下限値よりも高い状態が保たれるように、前記第1車体傾斜制御と前記第2車体傾斜制御との重み付けを決定してもよい。
【0017】
前記構成によれば、曲線区間通過中にアクチュエータの温度を上限値よりも低い状態に保ちながら空気タンクの圧力の過剰な低下も確実に防止できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アクチュエータによる目標傾斜角への迅速な到達を図ることができると共に、フェールセーフに陥ることなく車体傾斜時の空気消費量を安定的に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。なお、以下の説明では、鉄道車両が走行する方向であって車体が延びる方向が車両長手方向(前後方向)であり、それに直交する横方向が車幅方向(左右方向)である。
【0021】
図1は、実施形態に係る車体傾斜制御装置を含む鉄道車両のシステムの全体図である。
図1に示すように、鉄道車両1は、客室を有する車体2と、車体2を支持する台車3と、車体2と台車3との間に介設された一対の第1空気バネ4及び第2空気バネ5(二次サスペンション)とを備える。第1空気バネ4は車体2の右側に配置され、第2空気バネ5は車体2の左側に配置されている。台車3は、台車枠3aと、輪軸3bと、台車枠3aと輪軸3bとの間に介設された一次サスペンション3c(例えば、コイルバネ又は板バネ)とを有する。
【0022】
第1及び第2空気バネ4,5には、空気配管6及び電磁弁装置7を介して空気タンク8が接続されている。空気タンク8は、コンプレッサ9から供給される圧縮空気を貯留する。電磁弁装置7により第1及び第2空気バネ4,5に対する給排気がそれぞれ調節される。即ち、電磁弁装置7の制御により、第1空気バネ4の内部圧力と第2空気バネ5の内部圧力とを異ならせることで、第1空気バネ4の高さと第2空気バネ5の高さとを異ならせることができる。
【0023】
車体2と台車3との間には、直動式で推力を発生する一対の第1アクチュエータ11及び第2アクチュエータ12が介設されている。第1アクチュエータ11は車体2の右側に配置され、第2アクチュエータ12は車体2の左側に配置されている。第1及び第2アクチュエータ11,12の推力によって車体2が台車3に対して鉛直方向に相対変位可能である。第1アクチュエータ11の推力と第2アクチュエータ12の推力とを異ならせれば、車体2が台車枠3aに対して車幅方向に傾斜する(ロール方向に回転する)。第1及び第2アクチュエータ11,12には、例えば、電磁式アクチュエータが用いられるが、他の方式(例えば、油圧式又は空気圧式)のアクチュエータが用いられてもよい。
【0024】
第1空気バネ4には、第1空気バネ4の高さH1を検出する第1空気バネ高さセンサ21が設けられている。第2空気バネ5には、第2空気バネ5の高さH2を検出する第2空気バネ高さセンサ22が設けられている。車両1には、車両1の走行位置Dを検出する走行位置センサ23が設けられている。走行位置センサ23は、例えばGPSセンサである。車両1には、車両1の走行速度Vを検出する走行速度センサ24が設けられている。走行速度センサ24は、例えば車輪回転数センサである。
【0025】
第1アクチュエータ11には、第1アクチュエータ11の温度T1を検出する第1アクチュエータ温度センサ25が設けられている。第2アクチュエータ12には、第2アクチュエータ12の温度T2を検出する第2アクチュエータ温度センサ26が設けられている。空気タンク8には、空気タンク8の内部圧力Pを検出する空気タンク圧力センサ27が設けられている。車体2の右側部分には、車体2の右側部分の上下加速度A1を検出する第1加速度センサ28が設けられている。車体2の左側部分には、車体2の左側部分の上下加速度A2を検出する第2加速度センサ29が設けられている。
【0026】
車両1には、第1及び第2空気バネ4,5用の電磁弁装置7と第1及び第2アクチュエータ11,12とを制御する統合制御装置30が搭載されている。統合制御装置30は、ハードウェア面において、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ及びI/Oインターフェース等を備える。統合制御装置30は、機能面において、車体傾斜制御装置31及び振動制御装置32を備える。車体傾斜制御装置31には、軌道の曲線情報を含む軌道情報が記憶された記憶装置33が接続されている。
【0027】
車体傾斜制御装置31は、
図2等を用いて後述する。振動制御装置32は、第1加速度センサ28で検出される上下加速度A1と第2加速度センサ29で検出される上下加速度とを参照し、公知のスカイフック制御によって車体2の上下振動及びロール振動を防止するように第1及び第2アクチュエータ11,12に指令する動揺防止力を演算する。振動制御装置32から出力された動揺防止力の指令値は、車体傾斜制御装置31から出力されるアシスト力の指令値に加算されてアクチュエータ推力指令値として第1及び第2アクチュエータ11,12に送信される。
【0028】
図2は、
図1に示す車体傾斜制御装置31のブロック図である。
図2に示すように、車体傾斜制御装置31は、目標傾斜角演算部41、空気バネ制御部42、アクチュエータ制御部43、及び重み付け決定部44を備える。車体傾斜制御装置31の各部41〜44は、前記不揮発性メモリに保存されたプログラムに基づいて前記プロセッサが前記揮発性メモリを用いて演算処理することで実現される。
【0029】
目標傾斜角演算部41は、走行位置センサ23で検出される車両1の走行位置Dと、走行速度センサ24で検出される車両1の走行速度Vと、記憶装置33から読み出される軌道情報とに基づいて車体2の目標傾斜角θ
Tを演算する。当該軌道情報は、軌道の曲線区間のロケーション、曲率、カント等の情報を含む。即ち、目標傾斜角演算部41は、走行位置D及び軌道情報により現在時点における曲線情報(曲率及びカント)を把握し、その曲線情報及び走行速度Vにより車体2に生じる超過遠心力を抑制するのに必要な車体傾斜角(目標車体傾斜角θ
T)を算出する。
【0030】
空気バネ制御部42は、車両1の曲線区間の通過時に車体2が目標車体傾斜角θ
Tとなるように、第1及び第2空気バネ4,5の高さH1,H2を検出しながら第1及び第2空気バネ4,5の電磁弁装置7を制御する第1車体傾斜制御を実行する。即ち、空気バネ制御部42は、車両1の曲線通過時において、第1空気バネ高さセンサ21で検出された第1空気バネ4の高さH1と第2空気バネ高さセンサ22で検出された第2空気バネ5の高さH2とから車体2の現在の車体傾斜角θを算出し、目標傾斜角演算部41で算出された目標車体傾斜角θ
Tと現在の車体傾斜角θとの偏差Δθを減らすように空気バネ給排気指令を求めて電磁弁装置7に指令する。
【0031】
アクチュエータ制御部43は、車両1の曲線区間の通過時に車体2が目標車体傾斜角θ
Tとなるように、第1及び第2空気バネ4,5の高さH1,H2の高さを検出しながら第1及び第2アクチュエータ11,12の推力を制御する第2車体傾斜制御を実行する。即ち、アクチュエータ制御部43は、車両1の曲線通過時において、第1空気バネ高さセンサ21で検出された第1空気バネ4の高さH1と第2空気バネ高さセンサ22で検出された第2空気バネ5の高さH2とから車体2の現在の車体傾斜角θを算出し、目標傾斜角演算部41で算出された目標車体傾斜角θ
Tと現在の車体傾斜角θとの偏差Δθを減らすように第1及び第2アクチュエータ11,12の推力(アシスト力)を算出して出力する。
【0032】
また、アクチュエータ制御部43は、第1及び第2アクチュエータ11,12の何れかの温度T1,T2が上限値T
Uを超えると、前記第2車体傾斜制御からフェールセーフ制御に移行する。フェールセーフ制御は、前記第2車体傾斜制御で算出される推力よりも第1及び第2アクチュエータ11,12の推力を強制的に小さくする制御である。例えば、フェールセーフ制御は、第1及び第2アクチュエータ11,12の推力を強制的に定格推力未満に低減する制御とすることができる。
【0033】
重み付け決定部44は、空気バネ制御部42及びアクチュエータ制御部43の各制御の重み付けを決定する。重み付け決定部44には、記憶装置33から読み出される軌道情報と、走行位置センサ23で検出される走行位置Dと、走行速度センサ24で検出される走行速度Vと、第1アクチュエータ温度センサ25で検出される第1アクチュエータ11の温度T1と、第2アクチュエータ温度センサ26で検出される第2アクチュエータ12の温度T2と、空気タンク圧力センサ27で検出される空気タンク8の圧力Pとが、入力データとして入力される。
【0034】
重み付け決定部44は、軌道情報、走行位置D、走行速度V、アクチュエータ温度T1,T2及び空気タンク圧力Pを含む入力データに基づいて、第1及び第2アクチュエータ11,12の温度T1,T2が上限値T
Uよりも低い状態が保たれ且つ空気タンク8の圧力Pが下限値P
Lよりも高い状態が保たれるように、車両1の曲線区間の通過中に前記第1車体傾斜制御と前記第2車体傾斜制御との重み付けを調節(変更)する。
【0035】
即ち、軌道情報(曲線情報)、走行位置D及び走行速度Vが分かれば曲線区間の曲率、カント、通過時間等から第1及び第2アクチュエータ11,12の昇温パターンが予測でき、現在のアクチュエータ温度T1,T2が分かればアクチュエータ温度T1,T2が上限値T
Uをどの程度超えるかも予測できる。よって、重み付け決定部44は、車両1の曲線通過時における第1及び第2車体傾斜制御の実行中に、アクチュエータ温度T1,T2が上限値T
Uを超えない範囲で第1及び第2アクチュエータ11,12の推力を有効利用して第1及び第2空気バネ4,5の給排気量を極力低減するように演算する。
【0036】
なお、重み付け決定部44は、前記第1車体傾斜制御と前記第2車体傾斜制御との重み付けの最適化演算を曲線通過前に行ってもよいし、曲線通過中に最適化演算を逐次行ってもよい。また、最適化演算は、一つの曲線に対して行ってもよいし、複数の曲線に対して行ってもよいし、営業走行区間全線の曲線に対して行ってもよい。また、重み付け決定部44は、曲線情報、走行位置D、走行速度V及びアクチュエータ温度T1,T2の複数の条件に対応した複数の最適重み付けパターンから最も条件の近い最適重み付けパターンを選択することで各重み付けを決定してもよい。
【0037】
図3は、
図2に示す車体傾斜制御装置31による車体傾斜角θ及びその他の経時的変化の一例を示すタイミングチャートである。なお、
図3乃至5では、アクチュエータ推力は、第1及び第2アクチュエータ11,12のうち曲線通過時の外軌側のアクチュエータの推力(アシスト力)を示し、空気バネ圧力は、第1及び第2空気バネ4,5のうち曲線通過時の外軌側の空気バネの圧力を示している。なお、
図3では、アシスト力の1目盛分のアクチュエータ推力は空気バネ圧力の1目盛分の圧力上昇による空気バネの発生力と等しいものとしてグラフを描画している。よって、アクチュエータ推力と空気バネ発生力とを加算したものが車体を傾斜させる力となるため、
図3の例では、アクチュエータ推力と空気バネ発生力とを合計した3目盛分の力で車体が最大目標傾斜角に達する。
【0038】
図3の例では、車体傾斜制御装置31の重み付け決定部44は、車両1が曲線区間に進入開始してから車体2が曲線区間中の最大目標傾斜角に達するまでのアクチュエータ推力の増加量(即ち、時刻t
0から時刻t
1までのアクチュエータ推力の増加量)が、車両1が曲線区間に進入開始してから車体2が曲線区間中の最大目標傾斜角に達するまでの空気バネ圧力による発生力の増加量(即ち、時刻t
0から時刻t
1までの空気バネ圧力による発生力の増加量)よりも大きくなるように空気バネ制御部42の第1車体傾斜制御とアクチュエータ制御部43の第2車体傾斜制御との重み付けを決定している。そして、重み付け決定部44は、車両1が曲線区間に進入開始してからアクチュエータ推力がピークに達するまでの時間(即ち、時刻t
0から時刻t
1までの時間)が、車両1が曲線区間に進入開始してから空気バネ圧力がピークに達するまでの時間(即ち、時刻t
0から時刻t
2までの時間)よりも短くなるように空気バネ制御部42の第1車体傾斜制御とアクチュエータ制御部43の第2車体傾斜制御との重み付けを決定している。このように、車体傾斜制御の初期段階において車体傾斜に対するアクチュエータ推力の貢献度が相対的に高くすることで、空気タンク8の空気消費量を抑えながら車体2が目標傾斜角に迅速に到達できることになる。
【0039】
そして、重み付け決定部44は、車体2が最大目標傾斜角に達すると(時刻t
1)、車体2が最大目標傾斜角に達した状態を維持しながら空気バネ圧力による発生力に対するアクチュエータ推力の割合を減少させるように空気バネ制御部42及びアクチュエータ制御部43に指令する(時刻t
1から時刻t
2)。即ち、重み付け決定部44は、車体2が最大目標傾斜角に達すると(時刻t
1)、空気バネ制御部42の第1車体傾斜制御に対してアクチュエータ制御部43の第2車体傾斜制御の重みを減少させる。
【0040】
具体的には、重み付け決定部44は、車体2が最大目標傾斜角に達したら、その車体傾斜角を維持しながら、空気バネ圧力を継続して徐々に増加させると同時にアクチュエータ推力を徐々に減少させる(時刻t
1から時刻t
2)。こうすることで、車体2が最大目標傾斜角に達した状態を維持しながらもアクチュエータの昇温が抑制され、アクチュエータ温度が上限値T
U未満に保たれる。
【0041】
そして、重み付け決定部44は、減少していたアクチュエータ推力が定格推力に到達したら(時刻t
2)、その後は曲線区間の終わりまで空気バネ制御部42の第1車体傾斜制御とアクチュエータ制御部43の第2車体傾斜制御との重みを一定に保つ(時刻t
2から時刻t
3)。
【0042】
図4は、
図2に示す車体傾斜制御装置31による車体傾斜角及びその他の経時的変化の他例を示すタイミングチャートである。
図4の例では、車両1が曲線区間に進入開始してからアクチュエータ推力がピークに達するまでの制御は
図3の例と同じである(時刻t
0から時刻t
1)。そして、重み付け決定部44は、車体2が最大目標傾斜角に達すると(時刻t
1)、車体2が最大目標傾斜角に達した状態を維持しながら空気バネ圧力による発生力に対するアクチュエータ推力の割合を減少させるが、
図3の例よりも当該割合を緩やかに減少させる。
【0043】
そして、重み付け決定部44は、減少していたアクチュエータ推力が所定値F
Pに到達したら(時刻t
2)、その後は曲線区間の終わりまで空気バネ制御部42の第1車体傾斜制御とアクチュエータ制御部43の第2車体傾斜制御との重みを一定に保つ(時刻t
1から時刻t
3)。所定値F
Pは、定格推力よりも大きい値であり、且つ、アクチュエータ温度が上限値T
U未満に継続して維持される値である。このようにすれば、
図3の例に比べて、更に空気タンク8の空気消費量が抑えられることになる。なお、重み付け決定部44は、減少していたアクチュエータ推力が所定値F
Pに到達したら(時刻t
2)、その後は曲線区間の終わりまで空気バネ制御部42の第1車体傾斜制御とアクチュエータ制御部43の第2車体傾斜制御との重みを一定に保つ(時刻t
2から時刻t
3)。
【0044】
図5は、
図2に示す車体傾斜制御装置31による車体傾斜角及びその他の経時的変化の更に他例を示すタイミングチャートである。
図5の例では、
図3及び4の例よりも空気バネ制御の能力が高い。そのため、車両1が曲線区間に進入開始してからアクチュエータ推力がピークに達するまでの期間において(時刻t
0から時刻t
1)、重み付け決定部44は、アクチュエータ推力に対する空気バネ圧力による発生力の割合が大きくなるように、空気バネ制御部42の第1車体傾斜制御とアクチュエータ制御部43の第2車体傾斜制御との重みを決定する。そして、重み付け決定部44は、車体2が最大目標傾斜角に達すると(時刻t
1)、車体2が最大目標傾斜角に達した状態を維持しながら空気バネ圧力による発生力とアクチュエータ推力とを一定に保つ。
【0045】
以上に説明した車体傾斜制御装置31によれば、軌道の曲線情報と車両1の走行位置D及び走行速度Vとを参照することで、対象となる曲線区間を通過する際の第1及び第2アクチュエータ11,12の昇温傾向を事前に把握できるため、現在の第1及び第2アクチュエータ11,12の温度T1,T2を考慮して第1車体傾斜制御と第2車体傾斜制御との重み付けを調節することで、曲線区間通過中に第1及び第2アクチュエータ11,12の温度T1,T2が上限値T
Uよりも低い状態に保たれるように車体傾斜制御を実施できる。よって、第1及び第2アクチュエータ11,12による目標傾斜角への迅速な到達を図ることができると共に、フェールセーフに陥ることなく車体傾斜時の空気消費量を安定的に低減することができる。