特許第6873852号(P6873852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873852
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】医用画像処理装置及び医用画像診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20210510BHJP
【FI】
   A61B6/03 350K
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-138285(P2017-138285)
(22)【出願日】2017年7月14日
(65)【公開番号】特開2018-8061(P2018-8061A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2020年5月29日
(31)【優先権主張番号】15/210,657
(32)【優先日】2016年7月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】ユジエ リュウ
(72)【発明者】
【氏名】ユー ジョウ
(72)【発明者】
【氏名】シャオラン ワン
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ ユウ
(72)【発明者】
【氏名】リチャード トンプソン
【審査官】 伊知地 和之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−083234(JP,A)
【文献】 特開2015−043959(JP,A)
【文献】 特表2007−531566(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0259282(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0282181(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 − 6/14
A61N 5/00 − 5/10
G01T 1/00 − 1/16
G01T 1/167 − 7/12
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を透過した透過X線を検出した検出データを取得し、前記被検体内の空間分布を示す被検体モデル情報を取得する取得部と、
前記透過X線の検出に用いられたX線検出器が検出する散乱X線の強度を示す散乱X線データを積分型RTEにより決定する決定部と、
を備え、
前記決定部は、前記散乱X線データを、X線源から前記X線検出器の所定検出位置まで又は第1の散乱位置までの減衰値を積分してプライマリX線束データを取得し、散乱断面積について前記第1の散乱位置における前記プライマリX線束データを積分して、球面調和関数の成分を含む第1の散乱X線束データを決定する
医用画像処理装置。
【請求項2】
前記決定部は、多重散乱球面調和の複数の成分へと分解される、多重散乱X線束データを逐次的にアップデートすることで、前記散乱X線束データを決定する請求項1記載の医用画像処理装置。
【請求項3】
前記決定部は、前回の逐次の前記散乱位置で前記多重散乱X線束データの前記前回の逐次の個々の球面調和成分と前記次回の逐次の散乱位置で前記予め決められた散乱断面積の対応する球面調和成分との積を積分することにより、次回の逐次の前記多重散乱X線束データを決定し、
第一の逐次の前記多重散乱X線束データは前記第1の散乱X線束データであり、
前記第1の逐次の散乱位置は前記第1の散乱位置である請求項2記載の医用画像処理装置。
【請求項4】
前記決定部は、前記予め決められた散乱断面積を拡張させるために、ルジャンドル多項式を使用することで取得され且つ前記予め決められた散乱断面積の球面調和成分を使用し、前記多重散乱X線束データの前記逐次的なアップデートにより、前記散乱X線束データを計算するようさらに構成された請求項2又は3記載の医用画像処理装置。
【請求項5】
前記決定部は、前記前回の逐次の前記散乱位置から前記次回の逐次の前記散乱位置までの減衰を積分することを含み、前記多重散乱X線束データの前記アップデートにより前記散乱X線束データを計算するようさらに構成された請求項2記載の医用画像処理装置。
【請求項6】
前記決定部は、前記減衰の複数の物質成分への物質分解を含み、前記X線源から前記検出位置または前記第一の散乱位置までの前記減衰の前記積分により前記散乱X線束データを計算するようさらに構成された請求項1記載の医用画像処理装置。
【請求項7】
前記決定部は、前記複数の物質減衰成分を前もって計算し、前記複数の物質減衰成分をメモリ中に格納し、前記X線源から前記検出位置または前記第一の散乱位置までの前記減衰の前記積分することで、前記散乱X線束データを計算するようさらに構成された請求項5記載の医用画像処理装置。
【請求項8】
前記決定部は、前記被検体モデル情報により表された前記被検体の前記物質成分の前記空間的分布上の対応する散乱位置と、前記被検体の前記物質成分の予め決められた散乱断面積と、を使用して、前記多重散乱X線束データの前記逐次的なアップデートの前記逐次の個々の散乱位置で、前記予め定めた散乱断面積を決定するようさらに構成された請求項1記載の医用画像処理装置。
【請求項9】
前記決定部は、
補正された投影データを生成するためにカーネルに基づく方法を使用して、前記投影データにおける散乱を補正することと、
前記被検体の前記被検体モデル情報を生成するために前記被検体のコンピュータ断層画像を再構成することと、
前記被検体モデル情報に対する前記被検体の前記物質成分を生成するために、物質分解を実行することと、
により、前記被検体モデル情報を収集するようにさらに構成された請求項1記載の医用画像処理装置。
【請求項10】
前記決定部は、
散乱防止グリッドの効果を占める前記複数の検出器素子で、前記第一の散乱X線束データを補正することと、
前記散乱防止グリッドの前記効果を占める前記複数の検出器素子で、前記多重散乱X線束データを補正することと、
によって、前記散乱X線束データを計算するようさらに構成された請求項2記載の医用画像処理装置。
【請求項11】
放射線発生部と、
前記放射線発生部から照射され被検体を透過した放射線を検出する放射線検出器と、
前記被検体内の空間分布を示す被検体モデル情報を取得する取得部と、
前記透過した放射線の検出に用いられた放射線検出器が検出する散乱放射線の強度を示す散乱放射線データを積分型RTEにより決定する決定部と、
を備え、
前記決定部は、前記散乱放射線データを、放射線発生部から前記放射線検出器の所定検出位置まで又は第1の散乱位置までの減衰値を積分してプライマリ放射線束データを取得し、散乱断面積について前記第1の散乱位置における前記プライマリX線束データを積分して、球面調和関数の成分を含む第1の散乱放射線束データを決定する
医用画像診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、医用画像処理装置及び医用画像診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、X線投影画像は、散乱した放射線成分を多く含む。この散乱した放射線は、二次元検出器を使用する三次元撮像に対するコンピュータ断層撮影(CT)投影の確度を落としかねない。X線診断装置において使用されるフラットパネル検出器のような二次元検出器は、散乱した放射線を抑制するための散乱放射線除去グリッド(例えば、反散乱グリッド)を使用することができる。散乱した放射線の抑制は、散乱補正アルゴリズムを使用する投影データを後処理することで、さらに改善することができる。散乱した放射線補正は、二次元検出器を使用する三次元撮像を使用することで、例えば柔組織の撮像に対するなど、低コントラスト情報を抽出するのに好都合になり得る。
【0003】
散乱体の存在下におけるX線ビームは、プライマリX線ビームP(x,y)および散乱X線ビームS(x,y)としてモデルにされてもよく、投影データT(x,y)は、これら二つのビームの合成物である。
【0004】
【数1】
【0005】
散乱を補正するために、カーネルに基づく方法が使用することが出来る。代わりに、散乱の原因となる介在物の情報に基づいた散乱を計算するために、散乱シミュレーションを使用することが出来る。シミュレーションされた散乱を考えると、計測された投影データは、シミュレーションされた散乱を差し引きし、画像のCT再構成に対するプライマリビームを残すことで、補正することができる。
【0006】
非効率な散乱シミュレーションや補償は、CT投影データにおける不十分な画像コントラスト、アーチファクト、重大なエラーなどを含む画質に著しく影響する。幅の広いビームジオメトリを伴うコーンビームCTにおいて、散乱補正は、高画質な画像を再構成するためになおさら重要になる可能性がある。反散乱グリッドまたは空隙など、ハードウェアに基づく散乱阻止に加え、経験的なパラメータキャリブレーションを伴う近似した畳み込みモデルは、現在の商用CTにおいて普及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公報2006/0259282A1号明細書
【特許文献2】米国特許出願公報2001/0032053A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、実際の臨床的応用に対しては、近似した畳み込みモデルを使用する散乱補正を実行すると、顕著なエラー(典型的な20−40HU)が残ってしまう。従って、X線CTにおける散乱補正手法において、さらなる改善が求められる。
【0009】
本実施形態は、上記事情に鑑み、X線投影データの散乱補正に関するものであり、プライマリX線束データ、第一の散乱X線束データ、多重散乱X線束データを、従来に比して迅速且つ簡単に決定することができる医用画像処理装置及び医用画像診断装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態に係る医用画像処理装置は、被検体を透過した透過X線を検出した検出データを取得し、前記被検体内の空間分布を示す被検体モデル情報を取得する取得部と、透過X線の検出に用いられたX線検出器が検出する散乱X線の強度を示す散乱X線データを積分型RTEにより決定する決定部と、を備え、決定部は、散乱X線データを、X線源からX線検出器の所定検出位置まで又は第1の散乱位置までの減衰値を積分してプライマリX線束データを取得し、散乱断面積について第1の散乱位置におけるプライマリX線束データを積分して、球面調和関数の成分を含む第1の散乱X線束データを決定するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、一実行に従う、球面調和拡張を使用する放射伝達のための三段階の積分方法を使用する、散乱を決定するための方法のフロー概要図を描いている。
図2図2は、一実行に従う、検出器で検出された第一の散乱X線および多重散乱X線との概要を示す。
図3図3は、X線CT装置の実行の概要を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態において述べられる医用画像処理方法およびX線コンピュータ断層撮影装置(X線CT装置)、医用画像処理装置は、プライマリフラックス、第一の散乱フラックスおよび多重散乱フラックスの三段階に分割し、散乱フラックスについて、積分化された放射輸送方程式(又は決定性放射伝達方程式:RTE)を適用し、球面調和関数を用いて解析的に散乱シミュレーションする。なお、以下の説明においては、「フラックス」はX線束データと同義である。また、「プライマリフラックス」とは、X線源から照射され、被検体との散乱なしでX線検出器に入射するフラックスを意味する。
【0013】
図1は球面調和を伴うRTEの三段階の積分公式化を使用する、散乱をシミュレーションするための方法100のフロー図を示す。図2は、プライマリフラックスが被検体を通り抜けて減衰を伴って伝播し、検出器で検出された、散乱処理のダイヤグラムを示す。なお、図においては、同一参照番号は、同一のまたは対応する部分を指し示す。
【0014】
図2に示されるように、対象物はファントムでもよいし、または臨床応用においては、被検体は患者であってもよい。プライマリフラックスは、散乱しないX線を含む。プライマリフラックスに加え、検出器は、一回散乱事象を経験してきたX線を含む第一の散乱フラックスも検出する。さらに、検出器は、複数回散乱してきたX線を含む多重散乱フラックスも検出する。
【0015】
散乱は、確度の高い物理的モデルを表すために、図2において示される第一の散乱フラックスと多重散乱フラックスとの両方を含むことにより、高確度でシミュレーションできる。この物理的モデルは、放射伝達方程式(RTE)を使用して、以下の式(2)ように表すことが出来る。
【0016】
【数2】
【0017】
なお、境界条件は、式(3)のようになる。
【0018】
【数3】
【0019】
ここでΨは点rでの光子フラックスの特定の強度であり、Eはエネルギー、そしてΩは光子フラックスに対する伝播の方向における単位ベクトルである。境界条件においては、強度ΨはX線源に依存し、仮にボウタイフィルタがX線源へのコリメータとして使用されたら、強度はボウタイ散乱に依存するということである。さらに、ベクトルrは被検体の表面上の点を示し、nは境界面への法線ベクトルであり、そしてfは散乱断面積であり、X線CTに対するコンプトン散乱とレイリー散乱との両方を含む。最後に、変数μは、点rおよびエネルギーEでのX線に対する全減衰係数を表す。
【0020】
本開示に述べられる方法は、正確な散乱解を収集するために、CT散乱を補償して上のRTEを解く。これは、RTEを積分方程式として第一に表すことで達成され、以下の式(4)の様に示される。
【0021】
【数4】
【0022】
図2に示されているように、フラックスは、(i)プライマリフラックス、(ii)第一の散乱フラックス、(iii)多重散乱フラックス、と3つの成分にグループ分け出来る。方法100は、上で特定した3つそれぞれのフラックス成分に対応するステップにおいて、RTEの積分方程式表現を解くために系統立てられる。
【0023】
プライマリフラックスに対応するRTEの部分は、散乱に対応する部分から別々に計算することができる。さらに、プライマリフラックス(散乱なし)に対応するRTEの部分は、プライマリフラックスに異方性の傾向があるため、球面調和の観点から拡張するのが難しい一方で、散乱に対応するRTEの部分は、それ自身を球面調和の適用に割り当てる。例えば、X線ビームのジオメトリによっては、X線ビームは局所的に平面波に似るかもしれない。幸運にも、散乱シミュレーションを実行しているときに、プライマリフラックスを散乱フラックスと同時に計算する必要はない。従って、RTEは少なくとも2つの成分(つまり、散乱とプライマリ)に分離することが出来、RTEの散乱フラックスは、以下の式(5)によって計算することが出来る。
【0024】
【数5】
【0025】
ここでプライマリフラックスは、以下の式(6)の様に計算することが出来る。
【0026】
【数6】
【0027】
ここでΨはプライマリフラックスであり、ΨSは散乱フラックスの強度である。散乱フラックスに対する表現は、閉形式の表現(closed―form expression)はないが、散乱フラックスは、以下に説明されるように、収束するまで逐次的に計算することが出来る。
【0028】
方法100のステップ110で、ローCT投影データが収集される。さらに、X線源スペクトラム、CTジオメトリ、ボクセルに基づいたファントム/組織ジオメトリ情報、そして散乱断面積と異なる物質の全減衰を含む、その他様々なパラメータが収集される。例えば、ボクセルに基づいたファントム/組織ジオメトリ情報は、補正されていない投影データを使用して、再構成されたCT画像から導出することができる。散乱断面積や異なる物質の全減衰など、その他様々な入力パラメータは、再構成された画像と画像化された被検体についての予備知識(例えば、画像化された被検体は、ファントム、または患者の一部でよい)の組み合わせから、導出されるまたは補外することが出来る。さらに、X線源スペクトラムやCTジオメトリなど、特定のパラメータは、キャリブレーション中に事前に計測することが出来るし、またはCT装置の公知の仕様から収集することも出来る。
【0029】
方法100のステップ120において、第一の散乱フラックスが計算される。プライマリフラックス計算と同様、第一の散乱フラックスもCTシステムから直接収集され、そしてそのため、球面調和拡張を使用する第一の散乱フラックスの計算も難しい。にもかかわらず、第一の散乱フラックスは、離散化した積分公式によって、計算することが出来、以下の式(7)のように与えられる。
【0030】
【数7】
【0031】
ここでY*lmは角度lとオーダーmとの球面調和関数の複素共役であり、Ψは球面調和ドメインにおける第一の散乱フラックスの強度である。
【0032】
球面調和は、以下のように与えられる。
【0033】
【数8】
【0034】
ここでYlmは角度lとオーダーmとの球面調和関数であり、Pは関連するルジャンドル多項式、Nは規格化定数、そしてθおよびφはそれぞれ、余緯度と経度である。第一の散乱フラックスを近似するために使用される球面調和の数は、地点r´での物質成分と散乱断面積とに依存してもよいし、散乱のタイプ(例えば、コンプトン散乱やレイリー散乱)に依存してもよい。
【0035】
骨と水など異なる物質は、散乱断面積の原子的構成物質に依存するため、異なる角度依存を伴う異なる散乱断面積を有する。また、散乱断面積の大きさは、地点r´での物質成分の密度によって決まる可能性がある。従って、物理的モデルは図2に物理的モデルとして示されているように、位置の関数として様々な物質成分の密度を決定するために、物質分解を使用して物質成分へと分解することが出来、位置依存散乱断面積は、物質成分の空間的な密度マップから収集することが出来る。位置依存断面は、物質成分の係数と物質成分に対する前もって計算され規格化された散乱断面積とを線形重畳したものとして、収集することが出来る。物質分解は、デュアルエネルギーCTを使用して、またはボクセルの減衰により物質成分に対応する領域を暗示する(例えば、ハウンズフィールドユニットにおいて、予め定めたしきい値を上回る減衰値を有するボクセルは、骨と決定される)、しきい値および領域成長法による方法を使用して、実行され得る。
【0036】
X線散乱は、レイリー散乱など、その他散乱メカニズムよりも、さらに等方性の傾向が強い、コンプトン散乱に独占されている。そのため、骨や水などの一般的な物質に対して、X線のコンプトン散乱への確度の高い近似は、比較的数少ない球面調和をもって達成することができる。方法100において適用された球面調和の数は、経験的に予め定めることが出来るし、または近似の確度に対する収束基準を使用する方法100の実行の間に決定されてもよい。
【0037】
方法100のステップ130において、高次散乱項が計算される。第一の散乱フラックスが一回散乱してきたX線光子のみを含む一方で、k番目のオーダーの散乱項はk回散乱してきたX線光子を含む。第一の散乱フラックスが計算された後、多重散乱のフラックスが以下に示されるような離散化積分球面調和公式を使用して、以下の式(9)にて計算することが出来る。
【0038】
【数9】
【0039】
ここでΨk+1およびΨは、それぞれオーダーk+1そしてオーダーkまでの全ての散乱現象を含む多重散乱に対するフラックスの強度であり、fは、散乱断面積がルジャンドル多項式を使用して拡張された際のl番目の係数である。
以下の式(10)のように定義する。
【0040】
【数10】
【0041】
上に定義された逐次公式は、以下の式(11)ようにしてさらに簡潔に表すことが出来る。
【0042】
【数11】
【0043】
方法100のステップ140において、停止基準はオーダーkまでの近似が十分正確かどうか、つまり、オーダーkまで計算された上記定義による逐次多重散乱計算により明らかとなった散乱が、散乱の描写を十分適切に供給するかどうか、を決定するために評価される。すなわち、式(11)に従って、Ψは逐次アップデートされ、散乱X線束データが決定される。なお、停止基準は、例えば以下となったら満たすとする。
【0044】
【数12】
【0045】
ここで、式(12)の右辺は、予め定めたしきい値である。さらに、停止基準はkに対する最大値に達したら、満たすとしてもよい。停止基準が満たされた場合に、方法100はステップ140からステップ150へと進む。そうでなければ、ステップ130は、多重散乱の次のより高いオーダーに対して、繰り返される。
【0046】
方法100のステップ150において、検出器でのフラックスが決定される。特定の実行において、検出器上の入射フラックスは、検出器で検出されたX線が、入射フラックスと実際には異なるように、反散乱グリッドによって影響される。従って、ステップ150において、第一の散乱フラックスおよび多重散乱フラックス上の反散乱グリッドの効果が決定される。反散乱グリッドは、散乱が検出器に到達することを制限する、または妨げるために、出来る限り準備される。それによって、適切に準備された、入射散乱フラックス上の反散乱グリッドの効果が意味のあるものになり得る。
【0047】
多重散乱のフラックスを計算した後、検出器上の散乱フラックス強度Φは、以下の式(13)のように計算することが出来る。
【0048】
【数13】
【0049】
ここでRASGは反散乱グリッドの効果を占める要因である。RASGは、反散乱グリッドの配置または構成にのみ依存し、そして、それによって反散乱グリッドの配置に対して前もって計算されて格納することが出来る。RASGは、任意の解析的アプローチ、モンテカルロ法、RTE法を含む、任意の公知の方法を使用して前もって計算することが出来る。反散乱グリッドが何も使用されない場合、RASGは一つの一定値により、置き換えることが出来る。
【0050】
特定の実施において、次の式(14)によって表される減衰積分は、第一および第二の物質成分のために減衰を計算するための物質分解を使用して、より素早く計算され得る。
【0051】
【数14】
【0052】
これは、ボクセル(つまり式(14))間のエネルギー依存減衰を計算するために必要とされる計算リソースによって、方法100をより効率的にする。計算リソースは、多重散乱のフラックスを計算する際に、かなりの計算リソースや時間を使用する可能性がある。物質分解方法によると、物理的モデルにおけるそれぞれ位置での減衰係数は、構成物質成分に対応する多重減衰係数へと分けることができる。例えば、減衰係数は、以下の式(15)ように分けることが出来る。
【0053】
【数15】
【0054】
ここでcおよびcは、水(μ)および骨(μ)に対応する、分解された係数である。このようにして、減衰計算は以下の式(16)を生み出すために物質成分を使用して、低減することが出来る。
【0055】
【数16】
【0056】
減衰計算の上記の物質分解公式を使用して、減衰計算は、任意のエネルギーでの線積分を収集するための二つの基本的な線積分のみを使うことで、計算することが出来る。加えて、cの積分およびcの積分は、一度に計算することが出来、様々なレイに沿った減衰の今後の計算をさらに速くするために、ルックアップテーブルが生成することが出来る。
【0057】
本開示に述べられる方法は、CTの散乱シミュレーションのための放射伝達方程式を解く。散乱をシミュレーションするその他の方法と比べて、本開示に述べられる方法は、その他の方法よりもいくつか利点がある。例えば、モンテカルロに基づく方法に比べると、モンテカルロ法の統計的性質から、本開示に述べられる方法は、ノイズフリーな解決法を提供することができる。そのため、正確さを犠牲にしたりノイズを増やしたりすることなく、本開示に述べられる方法は、散乱補正のための素早いシミュレーションアルゴリズムを提供する。
【0058】
RTE問題を三部分(つまり、プライマリフラックス、第一の散乱フラックス、多重散乱フラックス)に分けることによりRTE問題を解かない方法に比べると、本開示に述べられる方法はRTE問題を、球面調和を使用する解に従順なサブ問題と、そうでないサブ問題とに都合よく分離する。X線源からのX線は、X線の異方性性質のために、球面調和の観点による拡張については従順ではない。このため、その他の方法に比べて、本開示に述べられる方法の三段階シミュレーション枠組みは、X線源の直接球面調和拡張を回避するが、このような拡張が有利に働く(provides advantages)箇所では、多重散乱フラックスに対する球面調和拡張を使う。それにより、計算精度および効率が改善される。
【0059】
さらに、本開示に説明された方法は、その他の方法においても改善点となる。その理由は、離散的縦座標方法において発生するレイ効果を、球面調和方法の使用で効果的に回避することができるからである。さらに、X線CTスペクトラムにおいて、散乱はコンプトン散乱によって支配されていて、上述の通り、電磁気スペクトラムのその他の部分と対照的に、散乱断面積は比較的等方的である。そのため、正確な解を伴う素早いシミュレーションは、球面調和が球面調和の比較的数の少ないオーダーで表現されるために、収集され得る。
【0060】
その上、通常は明示的なマトリックス格納を必要とする有限要素法と対照的に、本開示に述べられる方法は、並列計算プロセッサを使用して実行することが可能である。有限要素法を使用する、RTEシミュレーションにおける未知の変数の次元は、フラックスが空間、角度、そしてエネルギーの関数であるから、非常に大きくなる。結果的に、RTEシミュレーションの加速化は、非常に大きな次元を伴う明示的なマトリックス格納のために、制限される。対照的に、本開示で説明された積分球面調和形式は、明示的なマトリックス格納を必要としない。それによって、本開示に説明された方法は、沢山のコアプロセッサを使用することで、計算加速化を達成する可能性を大いに秘めているかもしれない。
【0061】
最後に、物理的散乱シミュレーションを実行する上での課題としては、シミュレーションがかなりの計算リソースと時間を必要とする可能性があるということだ。従って、本開示に説明された方法は、散乱シミュレーションを実行したら、コンピュータの機能を改善するために減衰係数上に、物質分解を使用する。さらに、物質分解された減衰係数の提案されたルックアップテーブルは、多重散乱計算のそれぞれ逐次に対する繰り返された減衰計算を除去することによって、シミュレーションをさらに加速することができる。
【0062】
図3は、CT装置またはCTスキャナに含まれる放射線ガントリの実装を描いている。図3に図示されるように、放射線ガントリ500は側面から見て描かれており、X線管501、環状フレーム502、そして多列または2次元アレイ型X線検出器503をさらに含む。X線管501およびX線検出器503は、環状フレーム502上に被検体OBJを横切って正反対に取り付けられ、環状フレーム502は、回転軸RAの回りに回転可能に支持される。被検体OBJが図示された頁の奥の方向または手前の方向の軸RAに沿って移動されながら、回転ユニット507は環状フレーム502を0.4秒/回転もの高速で回転させる。
【0063】
本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影(CT)装置の第一の実施形態は、付随する図面を参照しながら以下に説明される。X線CT装置は、様々なタイプの装置を含んでいることに留意されたい。具体的には、X線管とX線検出器とが検査される予定の被検体の周辺を一緒に回る回転/回転型機構と、そして多数の検出器素子がリング状または水平状に配置されており、X線管のみが検査される予定の被検体の周辺を回る固定/回転型機構とがある。本開示は、いずれのタイプにも適用可能である。今回は、現在の主流である回転/回転型機構が例示される。
【0064】
マルチスライスX線CT装置は高電圧発生器509をさらに含み、X線管501がX線を生成するように、スリップリング508を通して、高電圧発生器509はX線管501に印加される管電圧を生成する。X線は、被検体OBJに向かって照射され、被検体OBJの断面領域が円で表される。例えば、第一のスキャン中に平均的なX線エネルギーを有するX線管501は、第二のスキャン中の平均的なX線エネルギーよりもエネルギーが小さい。このようにして、二回以上のスキャンが、異なるX線エネルギーに対応して収集することが出来る。X線検出器503は、被検体OBJを通り抜けて伝播してきた照射X線を検出するために、被検体OBJを挟んでX線管501から反対側に位置する。X線検出器503は、個々の検出器素子または検出器ユニットをさらに含む。
【0065】
X線CT装置は、X線検出器503から検出された信号を処理するための、その他のデバイスをさらに含む。データ収集回路またはデータ収集システム(DAS)504は、それぞれのチャンネルに対するX線検出器503からの出力信号を電圧信号に変換し、その電圧信号を増幅し、さらにその電圧信号をデジタル信号へと変換する。X線検出器503およびDAS504は、1回転当たりの所定全投影数(TPPR)を処理するように構成されている。
【0066】
上述のデータは、非接触データ送信装置505を通して、放射線ガントリ500外部のコンソール内に収容された、前処理部506に送信される。前処理部506は、ローデータに関する感度補正など、特定の補正を実行する。メモリ512は、再構成処理直前のステージで投影データとも呼ばれる、結果データを格納する。メモリ512は、再構成部514、入力部515、ディスプレイ516と共に、データ/制御バス511を通して、システムコントローラ510に接続されている。システムコントローラ510は、CTシステムを駆動させるのに十分なレベルに達するまで電流を制限する、電流調整器513を制御する。
【0067】
検出器は、どんな世代のCTスキャナシステムであっても、患者に対して回転されるおよび/または固定される。一実行において、上述のCTシステムは、第三世代ジオメトリシステムと第四世代ジオメトリシステムとが組み合わせられた例であってもよい。第三世代ジオメトリシステムにおいて、X線管501とX線検出器503とは、環状フレーム502上に正反対に取り付けられ、環状フレーム502が回転軸RAの周りを回転する時に、被検体OBJの周りを回転する。第四世代ジオメトリシステムにおいて、検出器は患者の周辺に固定して取り付けられており、X線管は患者の周辺を回る。代替的な実施形態において、放射線ガントリ500は、Cアームおよびスタンドによって支持されている、環状フレーム502上に配置された多数の検出器を有する。
【0068】
メモリ512は、X線検出器503でX線照射量を示す計測値を格納することが出来る。さらに、メモリ512は、CT画像再構成、物質分解、そして本開示で説明された方法100を含む散乱予測や補正方法を実行するための専用プログラムを格納していてもよい。
【0069】
再構成部514は、本実施形態において説明された医用画像処理方法を実行することができる。また、再構成部514は、カーネルに基づく散乱補正方法を使用することが出来る。さらに、再構成部514は、必要に応じボリュームレンダリング処理や画像差分処理など、前再構成画像処理を実行することができる。
【0070】
前処理部506によって実行された投影データの前再構成処理は、例えば検出器キャリブレーション、検出器非直線性、極性効果に対する補正を含むことが出来る。
【0071】
再構成部514によって実行される後再構成処理は、画像フィルタリングや画像スムージング、ボリュームレンダリング処理、そして画像差分処理を、必要に応じて含む可能性がある。画像再構成処理は、フィルタ逆投影、逐次画像再構成法、確率論的画像再構成法を使用して、実行されてよい。再構成部514は、メモリを使って、例えば投影データ、再構成画像、キャリブレーションデータやパラメータ、そしてコンピュータプログラムを格納することが出来る。
【0072】
再構成部514は、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、または複合プログラマブル論理デバイス(CPLD)など、個々の論理ゲートとして実行可能なCPU(処理回路)を含むことができる。FPGAまたはCPLD実行は、VHDL、ベリログ、またはその他ハードウェア記述言語でコード化されていてもよく、そしてそのコードはFPGAまたはCPLDにおいて直接電子メモリ内に格納されてもよいし、あるいは個別の電子メモリとして格納されてもよい。さらに、メモリ512は、ROM、EPROM、EEPROM(登録商標)、またはFLASHメモリなど、不揮発性メモリであってもよい。メモリ512は、静的または動的RAMなど揮発性で、マイクロコントローラやマイクロプロセッサなどプロセッサ(処理回路)であってもよく、FPGAまたはCPLDと、メモリとの間の相互作用と同様、電子メモリを管理するために提供されていてもよい。
【0073】
代替的に、再構成部514におけるCPUは、本開示で説明された機能を実行する一連のコンピュータ可読指示を含んでいるコンピュータプログラムを実行することが出来、そのコンピュータプログラムは、任意の上述の非一時的電子メモリおよび/またはハードディスクドライブ、CD、DVD、FLASHドライブ、またはその他任意の公知の格納媒体に格納されている。さらに、コンピュータ可読指示は、ユーティリティアプリケーション、バックグラウンドデーモン、またはオペレーティングシステムの構成要素、またはそれらの組み合わせで提供されてもよく、所定のオペレーティングシステムや、当業者には公知のその他オペレーティングシステムがプロセッサと一体となって実行する。さらに、CPUは、指示を実行するために並行して協同的に動く、マルチプルプロセッサとして実行されてもよい。
【0074】
上記実施形態において、再構成画像は、ディスプレイ516上に映し出されてよい。ディスプレイ516は、LCDディスプレイ、CRTディスプレイ、プラズマディスプレイ、OLED、LED、または当業者には公知のその他ディスプレイであってもよい。
【0075】
メモリ512は、ハードディスクドライブ、CD-ROMドライブ、DVDドライブ、FLASHドライブ、RAM、ROM、または当業者には公知のその他格納メディアであってもよい。
【0076】
上記実施形態においては、X線CT装置において、散乱X線束データを決定する場合を例示した。しかしながら、本実施形態に係る散乱X線束データの決定手法は、X線CT装置のみならず、医用画像処理装置(医用ワークステーション、パーソナルコンピュータ等)によって実現することも可能である。係る場合、当該医用画像処理装置は、例えば本実施形態に係るメモリ512、再構成部514等を具備する構成となる。
【0077】
さらに、本実施形態に係る散乱X線束データの決定手法は、X線CT装置のみならず、他の医用画像診断装置(例えば、X線診断装置、SET、SPECT等)においても適用可能である。
【0078】
以上述べた本実施形態に係るX線CT装置、医用画像処理装置、医用画像処理方法によれば、プライマリフラックス、第一の散乱フラックスおよび多重散乱フラックスの三段階に分割し、散乱フラックスについて、積分化された決定性放射伝達方程式(RTE)を適用し、球面調和関数を用いて解析的に散乱シミュレーションしている。
【0079】
すなわち、放射伝達方程式の積分公式化を使用し、また球面調和拡張を使用し、プライマリフラックス、第一の散乱フラックス、多重散乱フラックスを決定するための方法を使用する散乱を計算する。プライマリフラックスに対する積分は、球面調和拡張を含まない。第一の散乱フラックスに対する積分は、角度依存散乱断面積を含む。多重散乱フラックスに対する積分は、逐次的に実行され、球面調和を含み、またルジャンドル多項式を使用して拡張された散乱断面積を含む。伝播レイに沿った減衰の積分は、減衰係数の物質分解を使用して加速することが出来る。X線の検出に先立って、フラックス上の散乱防止グリッドの効果を明らかにするために、散乱防止グリッド項を積分に含むことが出来る。これにより、従来に比して、ノイズのない散乱解を迅速且つ簡単に取得することができる。
【0080】
これに比して、従来の装置における、例えばモンテカルロ法を使用する散乱の物理的な処理の正確なシミュレーションを伴う散乱補正は、CT投影データから再構成された画像におけるアーチファクトを軽減することで、補正されたコンピュータ断層撮影(CT)投影データにおけるエラーを減らすことができる。しかしながら、モンテカルロ法は、かなりの計算リソースや時間を必要とするので、実際の散乱補正に適用するには、とても困難である。加えて、モンテカルロ法は、シミュレーションされた光子数を減らし、シミュレーションされたデータを適合させることで、迅速化することが可能ではあるが、不連続なノイズは(noise from the discrete)、連続的なノイズとは対照的に、モンテカルロシミュレーションの性質により、散乱補正にマイナスの影響を与える可能性がある。
【0081】
なお、決定性放射伝達方程式(RTE)を使用する散乱シミュレーションは、散乱補償に対する速いシミュレーション速度でのノイズフリー解決法を提供する可能性がある。RTEを使用する散乱シミュレーションは、GPU促進を使用して数秒のうちに実行できるが、RTEを使用する離散的縦座標実行は、モンテカルロ法のノイズのように、シミュレーションの精度に悪影響を与えるレイ効果を生じさせてしまうかもしれない。さらに、最新の多くのコアプロセッサにおいて、メモリ帯域幅のボトルネックは、並列化によって達成可能なシミュレーションの促進を制限する可能性がある。例えば、非常に大規模に明示的なマトリクスを伴う有限要素インプルメントを使用してRTEがシミュレーションされたら、促進は制限される可能性がある。
【0082】
特定の実施形態が本開示で述べられてきた一方で、これらの実施形態は実例の方法のみで提示されており、開示の範囲を限定する意図はない。実に、本開示における示唆を使用して、当業者は、開示の精神から乖離することなく、本開示に説明された実施形態の形において、様々な方法で省略をしたり、置き換えたり、変更をして開示を改良し適応してよい。
【符号の説明】
【0083】
500…放射線ガントリ、501…X線管、502…環状フレーム、503…X線検出器、
504…データ収集システム、505…非接触データ送信装置、506…前処理部、507…回転ユニット、508…スリップリング、509…高電圧発生器、510…システムコントローラ、511…データ/制御バス、512…メモリ、513…電流調整器、514…再構成部、515…入力部、516…ディスプレイ
図1
図2
図3