(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を、チェーン式の無段変速機に適用した場合を例に挙げて説明する。
図1は、チェーン式の無段変速機1のバリエータ2周りを説明する図である。
図2は、
図1の要部拡大図であって、チェーンガイド支持部材7を説明する図である。
【0009】
図1に示すように、車両用のチェーン式の無段変速機1のバリエータ2は、一対のプーリ(プライマリプーリ3、セカンダリプーリ4)と、一対のプーリに巻き掛けられた無端状のチェーン5(無端状部材)と、を有している。
【0010】
プライマリプーリ3は、固定プーリ31と、可動プーリ32とを有している。
固定プーリ31は、回転軸X1に沿って配置された軸部311と、軸部311の外周から径方向外側に延びるシーブ部312とを、有している。
【0011】
可動プーリ32は、固定プーリ31の軸部311に外挿された環状基部321と、環状基部321の外周から径方向外側に延びるシーブ部322と、を有している。
可動プーリ32は、固定プーリ31との相対回転が規制された状態で、軸部311の軸方向(回転軸X1方向)に移動可能に設けられている。
【0012】
固定プーリ31のシーブ部312と、可動プーリ32のシーブ部322は、回転軸X1方向で間隔をあけて対向している。
固定プーリ31のシーブ部312と、可動プーリ32のシーブ部322は、互いの対向面が、回転軸X1に対して所定角度傾斜したシーブ面312a、322aとなっている。
【0013】
プライマリプーリ3では、固定プーリ31のシーブ面312aと、可動プーリ32のシーブ面322aの間に、チェーン5が巻き掛けられるV溝33が形成されている。
【0014】
プライマリプーリ3では、可動プーリ32に付設された油室R1への供給圧を調節することで、可動プーリ32が回転軸X1方向に変位する。これにより、シーブ面312a、322aの間のV溝33の溝幅が、供給圧に応じて変更されて、プライマリプーリ3におけるチェーン5の巻き掛け半径が変更される。
【0015】
固定プーリ31の軸部311には、回転軸X1方向の一端部311aと他端部311bに、ベアリング34、35が外挿されている。他端部311bに外挿されたベアリング35は、軸部311の外周に螺合されたナットNにより、回転軸X1方向の位置決めがされている。
【0016】
回転軸X1方向における軸部311の一端部311aは、ベアリング34を介して、変速機ケース10側の支持壁111で回転可能に支持されている。
回転軸X1方向における軸部311の他端部311bは、ベアリング35を介して、サイドカバー15で回転可能に支持されている。
【0017】
サイドカバー15は、変速機ケース10にボルト(図示せず)で固定されており、変速機ケース10の開口が、サイドカバー15により封止されている。
サイドカバー15では、変速機ケース10との対向部に、ベアリング35の支持孔16が開口している。回転軸方向から見て支持孔16の中央部には、固定プーリ31の軸部311との干渉を避けるための凹部161が形成されており、この凹部161には、後記する潤滑油の潤滑油路18が開口している。
【0018】
セカンダリプーリ4は、固定プーリ41と、可動プーリ42とを有している。
固定プーリ41は、回転軸X2に沿って配置された軸部411と、軸部411の外周から径方向外側に延びるシーブ部412とを、有している。
可動プーリ42は、固定プーリ41の軸部411に外挿された環状基部421と、環状基部421の外周から径方向外側に延びるシーブ部422と、を有している。
可動プーリ42は、固定プーリ41との相対回転が規制された状態で、軸部411の軸方向(回転軸X2方向)に移動可能に設けられている。
【0019】
固定プーリ41のシーブ部412と、可動プーリ42のシーブ部422は、回転軸X2方向で間隔をあけて対向している。
固定プーリ41のシーブ部412と、可動プーリ42のシーブ部422は、互いの対向面が、回転軸X2に対して所定角度傾斜したシーブ面412a、422aとなっている。
【0020】
セカンダリプーリ4では、固定プーリ41のシーブ面412aと、可動プーリ42のシーブ面422aとの間に、チェーン5が巻き掛けられるV溝43が形成されている。
【0021】
セカンダリプーリ4では、可動プーリ42に付設された油室R2への供給圧を調節することで、可動プーリ42が回転軸X2方向に変位する。これにより、シーブ面412a、422aの間のV溝43の溝幅が、供給圧に応じて変更されて、セカンダリプーリ4におけるチェーン5の巻き掛け半径が変更される。
【0022】
固定プーリ41の軸部411には、回転軸X1方向の一端部411aと他端部411bに、ベアリング44、45が外挿されている。一端部411aに外挿されたベアリング44は、軸部411の外周に螺合されたナットNにより、回転軸X2方向の位置決めがされている。
【0023】
回転軸X2方向における軸部411の他端部411bは、ベアリング45を介して、変速機ケース10側の支持壁112で回転可能に支持されている。
回転軸X2方向における軸部411の一端部411aは、ベアリング44を介して、サイドカバー15で回転可能に支持されている。
【0024】
軸部411内には、油孔413が設けられている。この油孔413は、軸部411の中心を通る回転軸X2に沿って、軸部411の一端部411aから他端部411b側に及ぶ範囲に設けられている。
【0025】
サイドカバー15では、変速機ケース10との対向部に、ベアリング44の支持孔17が開口している。回転軸X2方向から見て支持孔17の中央部には、固定プーリ41の軸部411との干渉を避けるための凹部171が形成されている。この凹部171には、前記した潤滑油路18が開口しており、セカンダリプーリ4側の凹部171は、潤滑油路18を介して、前記したプライマリプーリ3側の凹部161に連絡している。
【0026】
セカンダリプーリ4側の凹部171の中央部には、油孔172を囲む環状壁部173が設けられている。環状壁部173の外周には、軸部411の一端部411a側が外挿されている。この状態において、軸部411の一端部411a側は、環状壁部173で回転可能に支持されている。
油孔172は、図示しない油圧制御回路に連絡しており、油圧制御回路側から供給された作動油が、油孔172を通って、固定プーリ41の油孔413内に供給されたのち、セカンダリプーリ4側の油室R2に供給される。
【0027】
この際に、油孔413内に供給される作動油の一部が、環状壁部173と軸部411の一端部411aとの間の隙間を通って、凹部171内に漏出する。
この凹部171に漏出した作動油は、支持孔17で支持されたベアリング44を潤滑する潤滑油として機能する。
【0028】
さらに、凹部171に漏出した作動油の一部が、潤滑油路18を通って、プライマリプーリ3側の凹部161に供給される。
この凹部161に漏出した作動油は、支持孔16で支持されたベアリング35を潤滑する潤滑油として機能する。
【0029】
図3は、バリエータ2におけるチェーンガイド9(9A、9B)の配置を説明する図であり、
図2におけるA−A矢視方向から、バリエータ2の全体を見た状態を示している。なお、
図3では、説明の便宜上、一方のチェーンガイド9Aを断面で示すと共に、他方のチェーンガイド9Bを側面で示している。また、チェーン5を簡略的に標記している。
図4は、チェーンガイド9Aを説明する斜視図であり、
図2におけるB−B矢視方向から、チェーンガイド9Aを見た状態を示している。
図5は、チェーンガイド支持部材7(7A、7B)の配置を説明する図であり、
図3におけるA−A線に沿う断面図である。
【0030】
図3に示すように、無段変速機1では、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ4とにチェーン5が巻き掛けられており、チェーン5は、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ4のV溝33、43(
図1参照)で支持されている。
そのため、無段変速機1の駆動時には、チェーン5におけるプライマリプーリ3とセカンダリプーリ4との間の領域(巻き掛けられていない領域)に、撓みや振動などの動きが生じる。
【0031】
無段変速機1は、このチェーン5の動きを規制するためのチェーンガイド9(9A、9B)を有している。チェーンガイド9(9A、9B)は、チェーン5におけるプライマリプーリ3とセカンダリプーリ4の外周に巻き掛けられていない領域に設けられている。
【0032】
チェーンガイド9A、9Bは、プライマリプーリ3の回転軸X1と、セカンダリプーリ4の回転軸X2とを結ぶ線分Lmを挟んで対称となる位置関係で設けられている。
チェーンガイド9Aとチェーンガイド9Bは、無段変速機1の車両への搭載状態を基準とした鉛直線方向で、上側と下側にそれぞれ設けられている。
【0033】
図5に示すように、チェーンガイド9Aは、変速機ケース10とサイドカバー15とに跨がって配置されたチェーンガイド支持部材7Aで揺動可能に支持されている。
チェーンガイド9Bもまた、変速機ケース10とサイドカバー15とに跨がって配置されたチェーンガイド支持部材7Bで揺動可能に支持されている。
【0034】
図3に示すように、回転軸X1、X2方向から見て、チェーンガイド支持部材7(7A、7B)は、チェーン5の内側で、回転軸X1、X2に沿う向きで設けられている。
チェーンガイド支持部材7(7A、7B)もまた、線分Lmを挟んで対称となる位置関係で設けられている。
【0035】
チェーン5におけるチェーンガイド9A、9Bが設けられた領域は、チェーン5が、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ4とに跨がる接線L1、L2に沿って配置された領域である。チェーンガイド支持部材7A、7Bは、接線L1、L2よりも線分Lm側に設けられている。
【0036】
チェーンガイド9A、9Bは、同一の形状を有している。以下においては、これらチェーンガイド9A、9Bを区別しない場合には、単純にチェーンガイド9と標記する。チェーンガイド支持部材7A、7Bは、基本的な形状が同一である。よって、以下においては、これらチェーンガイド支持部材7A、7Bを区別しない場合には、単純にチェーンガイド支持部材7と標記する。
【0037】
図4に示すように、チェーンガイド9Aは、同一形状のガイド部材91、91を、中心軸X方向で組み付けて形成される。
ガイド部材91は、チェーン5の厚み方向の一方側と他方側に配置されるガイド部910、910と、チェーン5の側方に配置されて、一対のガイド部910、910同士を接続する接続部911と、を有している。ガイド部910、910と接続部911は、同一の材料から一体に形成されている。
【0038】
ガイド部910、910は、チェーン5の長手方向に沿って配置された板状部材であり、接続部911は、ガイド部910、910の長手方向の中央部同士を接続している。
一方のガイド部910では、当該ガイド部910の長手方向における接続部911と重なる位置に、チェーンガイド支持部材7との連結部912が設けられている。連結部912もまた、ガイド部910と一体に形成されている。
【0039】
ガイド部材91、91を組み付けて形成したチェーンガイド9では、ガイド部910、910が、当該ガイド部910の長手方向の全長に亘って接触した状態で組み付けられている。
図5に示すように、チェーンガイド9Aの連結部912は、チェーンガイド支持部材7A側に設けられた一対の支持板部702、702の間で、揺動可能に支持されている。
チェーンガイド9Bの連結部912もまた、チェーンガイド支持部材7B側に設けられた一対の支持板部702、702の間で、揺動可能に支持されている。
【0040】
図2に示すように、チェーンガイド支持部材7Aは、潤滑油供給部材70と、パイプ状部材71と、を直列に並べて一体に形成したものである。
潤滑油供給部材70は、円筒状の基部701を有している。基部701の外周には、フランジ状の支持板部702、702が、基部701の中心軸X方向に間隔をあけて設けられている。
支持板部702、702は、基部701の外周から、中心軸Xの径方向外側に延出している。支持板部702、702は、中心軸X周りの周方向の全周に亘って設けられている。支持板部702、702は、同一の外径D3で設けられている。
【0041】
基部701の内側には、中心軸X方向に直線状に延びる油路72が設けられている。この油路72は、潤滑油供給部材70を中心X方向に貫通して、パイプ状部材71の先端71aの近傍まで及んでいる。
【0042】
潤滑油供給部材70の油路72には、パイプ状部材71とは反対側(
図2における右側)から、潤滑油チューブ75の一端75a側が挿入されている。
潤滑油チューブ75の他端75b側は、変速機ケース10に設けた油圧供給路12(
図5参照)に挿入されている。
【0043】
潤滑油チューブ75の他端75b側には、板状部材76の一端側が外挿されており、この板状部材76は、潤滑油チューブ75の外周に固定されている。
板状部材76の他端側は、変速機ケース10の支持壁部115に、ボルトBで固定されている。潤滑油チューブ75の油圧供給路12からの脱落が、板状部材76とボルトBにより阻止されている。
【0044】
図2に示すように、潤滑油供給部材70の基部701では、中心軸X方向における支持板部702と支持板部702との間の領域に、噴射孔703が設けられている。
噴射孔703は、円筒状の基部701を直径線方向に貫通して設けられている。無段変速機1において潤滑油供給部材70は、噴射孔703、703のうちの一方を、プライマリプーリ3に対向させると共に、他方をセカンダリプーリ4に対向させて設けられている(
図3、拡大図参照)。
【0045】
潤滑油供給部材70の油路72には、油圧供給路12に接続された潤滑油チューブ75を介して潤滑油OLが供給される。
そのため、油路72に供給された潤滑油OLは、噴射孔703、703から、プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ4に向けて吹き出されるようになっている。
これにより、バリエータ2(プライマリプーリ3、セカンダリプーリ4、チェーン5)が潤滑油される。
油圧供給路12から油路72に供給される潤滑油OLは、無段変速機1が備える油圧制御回路において、作動油圧の調圧過程で生じたリーク油である。なお、バリエータ2の潤滑用に調圧された作動油であってもよい。
【0046】
図2に示すように、潤滑油供給部材70と一体に形成されたパイプ状部材71は、大径部711と、小径部712とを有している。
大径部711は、潤滑油供給部材70の基部701と同一の外径D1で形成された円筒状の部材であり、小径部712は、大径部711よりも小さい外径D2で形成された円筒状の部材である。
【0047】
大径部711と小径部712は、中心軸X方向で直列に並んで一体に形成されている。
前記した潤滑油供給部材70の油路72は、大径部711を中心軸X方向に貫通して、パイプ状部材71の先端71aの近傍まで及んでいる。
小径部712は、中心軸X方向の先端が、底壁部713で封止されている。底壁部713の中央には、底壁部713を中心軸X方向に貫通して潤滑孔713aが形成されている。
【0048】
潤滑孔713aは、前記した潤滑油供給部材70側の噴射孔703の内径r1(開口面積)よりも小さい内径r2(開口面積)で形成されている。
潤滑油チューブ75を介して油路72に供給された潤滑油OLのうち、噴射孔703から噴射される潤滑油OLのほうが、潤滑孔713aから漏出する潤滑油OLよりも多くなるように設定されている。
【0049】
パイプ状部材71の小径部712は、サイドカバー15に設けた挿入孔151に、中心軸X方向から挿入されている。
【0050】
サイドカバー15では、変速機ケース10との対向部に、挿入孔151、151が設けられている。挿入孔151、151は、パイプ状部材71の小径部712の外径D2と整合する内径(小径部712の外径よりも僅かに大きい内径)で形成されている。
【0051】
パイプ状部材71は、大径部711が挿入孔151の周縁部151aに当接する位置まで、挿入孔151に小径部712を挿入して設けられている。
パイプ状部材71の小径部712は、中心軸Xの方向の長さLaが、挿入孔151の中心軸X方向の長さLbよりも短くなっている。
【0052】
そのため、パイプ状部材71の先端71aは、挿入孔151の底壁部151bとの間に、中心軸X方向の隙間Waをあけて配置されている。
この状態においてチェーンガイド支持部材7Aは、パイプ状部材71の先端71aと、挿入孔151の底壁部151bとの干渉を避けた状態で、挿入孔151で位置決めされている。
【0053】
チェーンガイド支持部材7A側の挿入孔151では、油路19が開口している。この油路19は、挿入孔151の底壁部151bに開口しており、サイドカバー15において油路19は、挿入孔151と潤滑油路18とを接続している。
【0054】
前記したように潤滑油路18は、プライマリプーリ3側の凹部161と、セカンダリプーリ4側の凹部171とを連絡させている。そして、挿入孔151には、潤滑油供給部材70の油路72に設けた潤滑孔713aから、潤滑油OLが排出される。
【0055】
そのため、潤滑孔713aから排出された潤滑油OLが、油路19と潤滑油路18とを通って、プライマリプーリ3側の凹部161と、セカンダリプーリ4側の凹部171とに供給される。
これにより、プライマリプーリ3側のベアリング35と、セカンダリプーリ4側のベアリング44とが、プライマリプーリ3側の凹部161と、セカンダリプーリ4側の凹部171に供給された潤滑油OLで潤滑される。
【0056】
図5に示すように、チェーンガイド支持部材7Bは、潤滑油供給部材70と、パイプ状部材71と、を直列に並べて一体に形成したものである。チェーンガイド支持部材7Bは、前記したチェーンガイド支持部材7Aとは異なり、チェーンガイド9Bを支持する機能のみを有している。
【0057】
したがって、チェーンガイド支持部材7Bは、以下の点において、前記したチェーンガイド支持部材7Aと相違する。
(a)油路72’が、潤滑油供給部材70において、潤滑油チューブ75の一端75a側との係合に必要な長さで形成されている。すなわち、チェーンガイド支持部材7Aのように、潤滑油供給部材70からパイプ状部材71まで及んで油路72が設けられていない。
(b)潤滑油供給部材70には、チェーンガイド支持部材7Aが備える噴射孔703が設けられていない。
【0058】
そのため、サイドカバー15では、チェーンガイド支持部材7B側の挿入孔151に、挿入孔151と潤滑油路18とを接続する油路19が設けられていない。
さらに、変速機ケース10では、潤滑油チューブ75の他端75b側が挿入される挿入孔13が、無段変速機1が備える油圧制御回路に連絡していない支持孔となっている。
【0059】
以下、かかる構成を有する無段変速機1の作用を説明する。
無段変速機1の駆動時には、チェーンガイド支持部材7Aの潤滑油供給部材70が備える油路72に、潤滑油チューブ75を介して潤滑油OLが供給される。
油路72に供給された潤滑油OLは、噴射孔703、703から、プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ4に向けて吹き出して、バリエータ2(プライマリプーリ3、セカンダリプーリ4、チェーン5)が潤滑油される。
【0060】
潤滑油供給部材70に隣接するパイプ状部材71は、小径部712をサイドカバー15の挿入孔151に挿入して設けられている。
パイプ状部材71の先端71aは、挿入孔151の底壁部151bとの間に隙間Waをあけて設けられており、パイプ状部材71の底壁部713には、潤滑孔713aが設けられている。
【0061】
そのため、チェーンガイド支持部材7Aにおいて、パイプ状部材71側の油路72に流入した潤滑油OLは、潤滑孔713aを通って、挿入孔151内に流入する。
そして、挿入孔151内に流入した潤滑油OLは、挿入孔151に開口する油路19を通って、プライマリプーリ3側の凹部161とセカンダリプーリ4側の凹部171とを連絡させる潤滑油路18に供給される。
【0062】
これにより、潤滑油路18に供給された潤滑油OLが、プライマリプーリ3側の凹部161と、セカンダリプーリ4側の凹部171とに供給されて、最終的にプライマリプーリ3側のベアリング35と、セカンダリプーリ4側のベアリング44とが潤滑される。
【0063】
このように、バリエータ2の潤滑に用いられる潤滑油OLの既存の油路72を流用することで、ベアリング35とベアリング44を、バリエータ2の潤滑に用いられる潤滑油OLの一部を用いて潤滑される。
【0064】
そのため、環状壁部173と、セカンダリプーリ4の軸部411(一端部411a)との間の隙間を通ってサイドカバー15の凹部171内に漏出した作動油の一部を用いて、ベアリング35とベアリング44を潤滑する場合よりも、ベアリング35とベアリング44を積極的に潤滑できるようになっている。
また、バリエータ2の潤滑に用いられる潤滑油OLの流量のほうが、凹部171内に漏出した作動油の流量よりも制御が可能である。よって、漏出した作動油を用いる場合よりも、ベアリング35とベアリング44を適切に潤滑できる。
【0065】
以上のとおり、実施形態にかかる無段変速機1(自動変速機)は、以下の構成を有している。
(1)無段変速機1は、
プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ4(一対のプーリ)と、
プライマリプーリ3とセカンダリプーリ4とに巻き掛けられたチェーン5(無端状部材)と、
挿入孔151と、挿入孔151に油路19を介して連通する潤滑油路18を有するサイドカバー15(カバー)と、
挿入孔151に挿入されたパイプ状部材71を有する潤滑油供給部材70と、を有する。
潤滑油供給部材70には、潤滑油OLを少なくともチェーン5に向けて噴射する噴射孔703が設けられている。
パイプ状部材71には、挿入孔151内に位置する潤滑孔713aが設けられている。
【0066】
このように構成すると、サイドカバー15に潤滑油路18と連通する挿入孔151を設けると共に、パイプ状部材71に潤滑孔713aを設けるだけで、潤滑油路18に潤滑油OLを供給できる。
潤滑油路18に潤滑油OLを供給できるようにするために、新たな部品を別途用意する必要がない。よって、部品点数を増やすことなく、潤滑油路18に潤滑油OLを供給することができる。
【0067】
無段変速機1は、以下の構成を有している。
(2)パイプ状部材71は、挿入孔151の内径よりも小さい外径D2の小径部712と、挿入孔151の内径よりも大きい外径D1の大径部711とを有している。
パイプ状部材71は、大径部711が挿入孔151の周縁部151aに当接する位置まで、小径部712を挿入孔151に挿入して設けられている。
【0068】
このように構成すると、挿入孔151の周縁部151aに当接する大径部711をストッパとして用いることで、挿入孔151への小径部712の挿入長を常に同じにできる。
これにより、挿入孔151に開口する油路19が小径部712により塞がれることを、好適に防止できる。よって、潤滑孔713aから挿入孔151に供給される潤滑油OLが、油路19が小径部712により塞がれて潤滑油路18側に供給されなくなくなる事態の発生を好適に防止できる。
【0069】
(3)噴射孔703の開口面積は、潤滑孔713aの開口面積よりも大きい。
【0070】
油路72に連通する孔が複数設けられている場合には、潤滑配分の関係により、面積の大きい孔に多くの流量が分配される。
バリエータ2に向けて潤滑油OLを噴出させる噴射孔703のほうが、ベアリング35、44に潤滑油OLを供給する潤滑孔713aよりも、潤滑油OLを、離れた位置まで飛ばす必要がある。よって、噴射孔703の開口面積は、潤滑孔713aの開口面積よりも大きくすることで、バリエータ2を適切に潤滑できる。
また、潤滑孔713aの開口面積が大きいと、ベアリング35、44への潤滑油OLの供給量が過多になり、潤滑油OLがベアリング35、44の回転に対する抵抗になる。
そのため、潤滑孔713aの開口面積を、噴射孔703の開口面積よりも小さくすることで、潤滑に必要な量以上の潤滑油OLが、ベアリング35、44に供給されないようにできる。
【0071】
無段変速機1は、以下の構成を有している。
(4)チェーン5の移動を規制するチェーンガイド9(9A、9B)と、
前記チェーンガイド9A、9Bを支持するチェーンガイド支持部材7(7A、7B)と、を有する。
チェーンガイド支持部材7(7A、7B)は、潤滑油供給部材70とパイプ状部材71とを直列に並べて一体に形成したものである。
チェーンガイド支持部材7Aは、潤滑油供給部材70からパイプ状部材71まで及ぶ油路72を有している。
油路72には、バリエータ2(プライマリプーリ3、セカンダリプーリ4、チェーン5)を潤滑するための潤滑油OLが供給される。
サイドカバー15には、変速機ケース10との対向部に、ベアリング35,44の支持孔16、17を有している。
プライマリプーリ3の固定プーリ31の他端部311bは、ベアリング35を介してサイドカバー15で回転可能に支持されている。
セカンダリプーリ4の固定プーリ41の一端部411aは、ベアリング44を介してサイドカバー15で回転可能に支持されている。
ベアリング35の支持孔16とベアリング44の支持孔17は、潤滑油路18を介して互いに連絡している。
油路72と挿入孔151は、潤滑孔713aを介して連絡している。
プライマリプーリ3側の挿入孔151は、油路19を介して潤滑油路18に連絡している。
【0072】
このように構成すると、バリエータ2を潤滑するための潤滑油OLの一部が、潤滑孔713aから挿入孔151内に供給される。挿入孔151内に供給された潤滑油OLは、油路19と潤滑油路18を通って、ベアリング35、44の支持孔16、17に供給されて、ベアリング35、44が潤滑される。
【0073】
すなわち、既存のチェーンガイド支持部材7Aの油路72を延長すると共に、チェーンガイド支持部材7Aの挿入孔151と既存の潤滑油路18とを、サイドカバー15内に新たに設けた油路19で連絡させることで、ベアリング35、44を潤滑できる。
これにより、新たに部品を追加することなく、追加の加工を施すだけで、ベアリング35、44を適切に潤滑できる。
【0074】
バリエータ2の潤滑油OLは、油圧供給路12を介して供給されるので、油圧制御回路のリーク油を用いてベアリング35、55を潤滑する場合よりも、ベアリング35、44に供給される潤滑油OLの量を適切に調節できる。
これにより、ベアリング35、44の潤滑不足と、潤滑過多を好適に防止できる。
ベアリング35、44の潤滑過多の場合には、過剰に供給された潤滑油OLが、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ4の回転に対する抵抗となり、無段変速機1を搭載した車両の燃費が悪化する可能性がある。上記の通り、ベアリング35、44の潤滑過多を好適に防止できるので、かかる事態の発生を好適に防止できる。
【0075】
無段変速機1は、以下の構成を有している。
(5)ベアリング44の支持孔17には、セカンダリプーリ4の作動用の油圧(作動油)の一部が漏出する。
支持孔17に漏出した作動油(リーク油)の一部が、潤滑油路18を介してベアリング35の支持孔16に供給される。
支持孔17に漏出した作動油(リーク油)により、ベアリング35、44が潤滑される。
【0076】
このように構成すると、ベアリング35の支持孔16とベアリング44の支持孔17とにリーク油を供給するための既存の潤滑油路18を利用して、バリエータ2の潤滑用の潤滑油OLを、支持孔16、17に供給できる。
よって、サイドカバーの設計を大きく変更することなく、バリエータ2の潤滑用の潤滑油OLを、支持孔16、17に供給できる。
【0077】
また、セカンダリプーリ4の作動用の油圧の一部(支持孔17に漏出したリーク油)のみを用いてベアリング35、55を潤滑する場合、セカンダリプーリ4の作動用の油圧が高くなると、ベアリング35、55に供給される潤滑油OLの量が多くなる。この場合には、ベアリング35、55が潤滑過多になる。
バリエータ2(プライマリプーリ3、セカンダリプーリ4、チェーン5)を潤滑するための潤滑油OLの一部をベアリング35、55の潤滑に用いることで、ベアリング35、55が潤滑過多になること防止できる。また、油路72に供給された潤滑油OLの一部を、ベアリング35、55の潤滑に用いることで、油圧制御回路の調圧弁から下流側に回す油量が増えるので、ライン圧の安定化が期待できる。
【0078】
無段変速機1は、以下の構成を有している。
(6)パイプ状部材71は、大径部711と小径部712とを、中心軸X方向で直列に並べて一体に形成したものである。
大径部711は、サイドカバー15の挿入孔151内径よりも大きい外径D1を有している。
小径部712は、サイドカバー15の挿入孔151内径と整合する(内径よりも僅かに小さい)外径D2を有している。
小径部712の中心軸X方向の長さLaは、挿入孔151の中心軸X方向の長さLbよりも短い。
油路19が、挿入孔151の底壁部151bに開口している。
パイプ状部材71の先端71aは、挿入孔151の底壁部151bとの間に、中心軸X方向の隙間Waをあけて配置されている。
【0079】
このように構成すると、チェーンガイド支持部材7Aは、パイプ状部材71の先端71aと、挿入孔151の底壁部151bとの干渉を避けた状態で、挿入孔151で位置決めされている。
そのため、パイプ状部材71の先端71aは、挿入孔151の底壁部151bとの間に、中心軸X方向の隙間Waをあけて配置されている。
これにより、挿入孔151における油路19の開口が、挿入孔151に挿入された小径部712により、塞がれることや、狭められることがない。
よって、ベアリング35、44の潤滑に必要な量の潤滑油OLを、ベアリング35、44の支持孔16、17に供給できる。
【0080】
無段変速機1は、以下の構成を有している。
(7)チェーンガイド支持部材7Aにおいて、噴射孔703は、中心軸X径方向に開口しており、潤滑孔713aは、中心軸方向に開口している。
噴射孔703は、潤滑孔713aの内径r2(開口面積)よりも大きい内径r1(開口面積)で形成されている。
【0081】
このように構成すると、噴射孔703から噴射される潤滑油OLの量を、潤滑孔713aから排出される潤滑油OLの量よりも多くすることができる。
チェーンガイド支持部材7Aの油路72に供給された潤滑油OLを、本体の目的であるバリエータ2の潤滑に用いつつ、潤滑油OLの一部で、ベアリング35、44を潤滑できる。
【0082】
無段変速機1は、以下の構成を有している。
(8)サイドカバー15の挿入孔151は中心軸Xに沿う向きで設けられている。
チェーンガイド支持部材7Aの小径部712は、中心軸X方向から挿入孔151に挿入されている。
挿入孔151の底壁部に、油路19が開口している。
小径部712の潤滑孔713aと、油路19の開口は、中心軸X方向で隙間Waをあけて対向している。
【0083】
このように構成すると、潤滑孔713aから挿入孔151に排出された潤滑油OLを、油路19に速やかに流入させることができる。
これにより、挿入孔151に排出された潤滑油OLが、挿入孔151で滞留して、
ベアリング35、44側に供給されにくくなることを好適に防止できる。
【0084】
前記した実施形態では、バリエータ2が備える無端部材が、チェーン5であるチェーン式の無段変速機1である場合を例示した。本願発明は、ベルト式の無段変速機にも好適に適用可能である。
【0085】
前記した実施形態では、チェーンガイド支持部材7Aの油路72に連通する噴射孔703と潤滑孔713aの開口面積を異ならせることで、バリエータ2の潤滑に用いられる潤滑油OLの量が、ベアリング34、44の潤滑に用いられる潤滑油OLの量よりも多くなるようにした。
バリエータ2の潤滑に用いられる潤滑油OLの量と、ベアリング34、44の潤滑に用いられる潤滑油OLの量とを異ならせる方法は、この態様に限定される物ではない。
例えば、油路72におけるパイプ状部材71内に位置する領域の流路断面積を、油路72における潤滑油供給部材70内に位置する領域の流路断面積よりも小さくすることで、潤滑油OLの量を異ならせるようにしても良い。
このようにすることによっても、潤滑油量をコントローラブルにすることができる。
【0086】
前記した実施の形態では、チェーン式の無段変速機構の場合を例示したが、無段変速機の無端状部材は、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ4との間で回転を伝達可能なものであれば良い。
よって、無端状部材は、両側にスリットを有する板状のエレメントを積層して環状に配置し、エレメントの各々を、スリットを挿通させた環状リングで結束して構成されたベルトであっても良い。
【0087】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。