特許第6873859号(P6873859)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873859
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】溶接装置および溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20210510BHJP
   B23K 10/02 20060101ALI20210510BHJP
   B23K 10/00 20060101ALI20210510BHJP
   H05H 1/44 20060101ALI20210510BHJP
   H05H 1/42 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   B23K9/04 Q
   B23K10/02 501A
   B23K10/00 504
   H05H1/44
   H05H1/42
   B23K9/04 B
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-148438(P2017-148438)
(22)【出願日】2017年7月31日
(65)【公開番号】特開2019-25528(P2019-25528A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕平
【審査官】 正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−518727(JP,A)
【文献】 特開平03−177514(JP,A)
【文献】 特開平01−218772(JP,A)
【文献】 特開昭46−000404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B23K 10/00
B23K 10/02
H05H 1/42
H05H 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接対象体の円筒表面に肉盛溶接を行う溶接装置であって、
溶接トーチと、
前記溶接対象体を回転させる回転駆動部と、
前記円筒表面の中心軸線に沿う方向に前記溶接トーチを移動させるトーチ駆動部と、
制御部と、を備え、
前記溶接トーチは、
ステム部と、
前記ステム部の先端部に設けられたヘッド部と、を備え、
前記ヘッド部は、各々がアークを発生させる複数のアーク発生部を有し、
複数の前記アーク発生部は、前記溶接トーチの移動方向において互いに異なる位置に配置され、
前記制御部は、まず、前記溶接トーチの各々の前記アーク発生部により前記アークを発生させながら前記溶接対象体を1回転させて、前記溶接対象体の前記円筒表面に円周方向に1周する第1メインビードを形成し、次に、前記溶接トーチを前記円筒表面の前記中心軸線に沿う方向に移動させて、その後、前記溶接トーチの各々の前記アーク発生部により前記アークを発生させながら前記溶接対象体を1回転させて、前記第1メインビードに対して、前記中心軸線に沿う方向において前記円筒表面の異なる位置に円周方向に1周する第2メインビードを形成するように、前記回転駆動部および前記トーチ駆動部を制御し、
前記制御部は、前記溶接トーチの移動距離が、前記溶接トーチの複数の前記アーク発生部のうち、前記溶接トーチの移動方向における両端部に位置する一対の前記アーク発生部のピッチ寸法となるように、前記トーチ駆動部を制御する、溶接装置。
【請求項2】
溶接対象体の円筒表面に肉盛溶接を行う溶接装置であって、
一対の溶接トーチと、
前記溶接対象体を回転させる回転駆動部と、
前記円筒表面の中心軸線に沿う方向に、対応する前記溶接トーチを移動させる一対のトーチ駆動部と、
制御部と、を備え、
前記溶接トーチは、
ステム部と、
前記ステム部の先端部に設けられたヘッド部と、を備え、
前記ヘッド部は、各々がアークを発生させる複数のアーク発生部を有し、
複数の前記アーク発生部は、前記溶接トーチの移動方向において互いに異なる位置に配置され、
前記制御部は、一方の前記溶接トーチを、前記円筒表面に対して行われる肉盛溶接の領域のうち前記中心軸線に沿う方向における一方に配置された第1端部領域から、他方に配置された第2端部領域に向かって前記中心軸線に沿う方向に移動させ、他方の前記溶接トーチを、前記第2端部領域から前記第1端部領域に向かって前記中心軸線に沿う方向に移動させるように、一対の前記トーチ駆動部を制御し、
前記円筒表面の前記中心軸線に沿う方向で見たときに、各々の前記溶接トーチの前記アーク発生部と前記中心軸線とを通る直線の、鉛直線に対するトーチ角度が、45度未満であり、
一方の前記溶接トーチについての前記トーチ角度が、他方の前記溶接トーチについての前記トーチ角度よりも小さくなっており、当該他方の溶接トーチの各々の前記アーク発生部に供給される電流の値が、当該一方の溶接トーチの各々の前記アーク発生部に供給される電流の値よりも大きい、溶接装置。
【請求項3】
前記ヘッド部は、前記アーク発生部により発生した前記アークの周囲にシールドガスを供給するシールドガス供給孔を更に有し、
前記シールドガス供給孔の内側に、複数の前記アーク発生部が配置されている、請求項1または2に記載の溶接装置
【請求項4】
前記アーク発生部は、前記アークとしてプラズマアークを発生させ、
前記アーク発生部は、前記プラズマアークを噴出するアーク噴出孔と、対応する前記アーク噴出孔から噴出された前記プラズマアークに粉体を供給する複数の粉体供給孔と、を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶接装置
【請求項5】
溶接トーチを用いて溶接対象体の円筒表面に肉盛溶接を行う溶接方法であって、
前記溶接トーチは、ステム部と、前記ステム部の先端部に設けられたヘッド部と、を備え、前記ヘッド部は、各々がアークを発生させる複数のアーク発生部を有し、複数の前記アーク発生部は、前記溶接トーチの移動方向において互いに異なる位置に配置され、
前記溶接方法は、
前記溶接トーチの各々の前記アーク発生部により前記アークを発生させて、前記溶接対象体の前記円筒表面に円周方向に1周する第1メインビードを形成する第1メインビード形成工程と、
前記第1メインビード形成工程の後、前記溶接トーチを前記円筒表面の中心軸線に沿う方向に移動させるトーチ移動工程と、
前記トーチ移動工程の後、前記溶接トーチの各々の前記アーク発生部により前記アークを発生させて、前記第1メインビードに対して、前記中心軸線に沿う方向において前記円筒表面の異なる位置に円周方向に1周する第2メインビードを形成する第2メインビード形成工程と、を備え、
前記トーチ移動工程において、前記溶接トーチの移動距離は、前記溶接トーチの複数の前記アーク発生部のうち、前記溶接トーチの移動方向における両端部に位置する一対の前記アーク発生部のピッチ寸法である、溶接方法。
【請求項6】
一対の前記溶接トーチを用いて、前記溶接対象体の前記円筒表面に肉盛溶接が行われ、 前記トーチ移動工程において、一方の前記溶接トーチは、前記円筒表面に対して行われる肉盛溶接の領域のうち前記中心軸線に沿う方向における一方に配置された第1端部領域から、他方に配置された第2端部領域に向かって前記中心軸線に沿う方向に移動し、他方の前記溶接トーチは、前記第2端部領域から前記第1端部領域に向かって前記中心軸線に沿う方向に移動する、請求項に記載の溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、溶接トーチ、溶接装置および溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所などに設置された蒸気タービン用の蒸気弁で用いられているシート部や摺動部等の部品には、摺動によって生じる摩耗や、酸化スケールの付着を防止することを目的として、母材に対してステライトの肉盛溶接が行われている。例えば、再熱弁のガイドスリーブや、弁棒ブッシュ等の円筒形の部品では、母材となる部品の円筒表面に螺旋状の溶接ビードが形成されるようにステライトが肉盛りされている。
【0003】
このような蒸気弁の部品は、素材焼きなまし工程、溶接前加工工程、肉盛溶接を行う溶接工程、焼鈍工程、非破壊検査工程、仕上げ機械加工工程といった工程を経て製造されている。その中でも溶接工程の占める時間が多くなっている。特に、近年では、主蒸気が600℃を超える蒸気タービンが製造されており、この場合には、高出力化のために蒸気弁の容量も大きくなる。このことにより、ガイドスリーブなどの部品も大型化され、これに伴って溶接時間も長くなっている。
【0004】
ここで、一般的な肉盛溶接を行う方法について、図9を用いて説明する。図9に示すように、一般的な溶接トーチ100のヘッド部101には、1つのアーク発生部102が設けられている。このような溶接トーチ100を用いて肉盛溶接を行う場合、溶接対象の部品を連続回転させながら、溶接トーチ100を、円筒表面103の中心軸線に沿う方向に連続的に移動させる。この際、アーク発生部102は、ウィービングしながらアークを発生させる。このことにより、アークによって形成される溶接ビード104は、円筒表面103に螺旋状に形成される。溶接ビード104は、一方の端部から他方の端部まで、連続して螺旋状の溶接ビード104が形成される。このため、肉盛溶接に多くの時間が費やされていた。更に言えば、互いに隣り合う溶接ビード104の間に溶け込み不良が発生することを防止するために、溶接ビード104は、直前の溶接ビード104に部分的に重なるように形成され、この点も、溶接時間を長くさせている原因となっている。
【0005】
このようにして肉盛溶接に多くの時間が費やされると、結果として部品の製造時間も長くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−130934号公報
【特許文献2】特開2009−078274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、溶接対象体の円筒表面に肉盛溶接を行うための溶接時間を短縮させることができる溶接トーチ、溶接装置および溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施の形態による溶接トーチは、溶接対象体の円筒表面の中心軸線に沿う方向に移動して、円筒表面に肉盛溶接を行う溶接トーチである。この溶接トーチは、ステム部と、ステム部の先端部に設けられたヘッド部と、を備えている。ヘッド部は、各々がアークを発生させる複数のアーク発生部を有している。複数のアーク発生部は、溶接トーチの移動方向において互いに異なる位置に配置されている。
【0009】
また、実施の形態による溶接装置は、溶接対象体の円筒表面に肉盛溶接を行う溶接装置である。この溶接装置は、上述した溶接トーチと、溶接対象体を回転させる回転駆動部と、円筒表面の中心軸線に沿う方向に溶接トーチを移動させるトーチ駆動部と、を備えている。
【0010】
また、実施の形態による溶接装置は、溶接対象体の円筒表面に肉盛溶接を行う溶接装置である。この溶接装置は、各々がアークを発生させるアーク発生部を有する一対の溶接トーチと、溶接対象体を回転させる回転駆動部と、円筒表面の中心軸線に沿う方向に、対応する溶接トーチを移動させる一対のトーチ駆動部と、制御部と、を備えている。円制御部は、一方の溶接トーチを、円筒表面に対して行われる肉盛溶接の領域のうち中心軸線に沿う方向における一方に配置された第1端部領域から、他方に配置された第2端部領域に向かって中心軸線に沿う方向に移動させ、他方の溶接トーチを、第2端部領域から第1端部領域に向かって中心軸線に沿う方向に移動させるように、一対のトーチ駆動部を制御する。
【0011】
また、実施の形態による溶接方法は、上述した溶接トーチを用いて溶接対象体の円筒表面に肉盛溶接を行う溶接方法である。この溶接方法においては、まず、溶接トーチの各々のアーク発生部によりアークを発生させて、溶接対象体の円筒表面に円周方向に1周する第1メインビードが形成される。続いて、溶接トーチを円筒表面の中心軸線に沿う方向に移動させる。その後、溶接トーチの各々のアーク発生部によりアークを発生させて、第1メインビードに対して、中心軸線に沿う方向において円筒表面の異なる位置に円周方向に1周する第2メインビードが形成される。
【0012】
また、実施の形態による溶接方法は、各々がアークを発生させるアーク発生部を有する一対の溶接トーチを用いて溶接対象体の円筒表面に肉盛溶接を行う溶接方法である。この溶接方法は、一方の溶接トーチを、円筒表面に対して行われる肉盛溶接の領域のうち円筒表面の中心軸線に沿う方向における一方に配置された第1端部領域から、他方に配置された第2端部領域に向かって中心軸線に沿う方向に移動させるともに、当該一方の溶接トーチのアーク発生部によりアークを発生させて、溶接対象体の円筒表面に溶接ビードを形成する工程を備えている。また、この溶接方法は、他方の溶接トーチを、第2端部領域から第1端部領域に向かって中心軸線に沿う方向に移動させるとともに、当該他方の溶接トーチのアーク発生部によりアークを発生させて、溶接対象体の円筒表面に他の溶接ビードを形成する工程を備えている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、溶接対象体の円筒表面に肉盛溶接を行うための溶接時間を短縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、第1の実施の形態における溶接装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、図1に示す溶接トーチのヘッド部を溶接対象体から見た平面図である。
図3図3は、図1に示す溶接トーチのヘッド部の概略構成を示す断面図である。
図4図4は、第1の実施の形態における溶接方法において、始端ビード形成工程を説明するための図である。
図5図5は、第1の実施の形態における溶接方法において、第1メインビード形成工程を説明するための図である。
図6図6は、第1の実施の形態における溶接方法において、第2メインビード形成工程を説明するための図である。
図7図7は、第2の実施の形態における溶接装置の概略構成を示す図である。
図8図8は、図7に示す溶接トーチを、円筒表面の中心軸線に沿う方向で、図7の左側から見た図である。
図9図9は、一般的な溶接トーチを用いた溶接方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態における溶接トーチ、溶接装置および溶接方法について説明する。
【0016】
(第1の実施の形態)
図1図7を用いて、本発明の第1の実施の形態における溶接トーチ、溶接装置および溶接方法について説明する。ここで、本実施の形態における溶接トーチおよびこれを備えた溶接装置は、蒸気タービン用の蒸気弁を構成するガイドスリーブや弁棒ブッシュ等の円筒形の部品(以下、溶接対象体と記す)の円筒表面に肉盛溶接を行うためのものである。
【0017】
図1に示すように、溶接装置10は、肉盛溶接を行うためのアークを発生させる溶接トーチ20と、溶接対象体1を回転させるポジショナー11(回転駆動部)と、溶接トーチ20を移動させるトーチ駆動部12と、制御部14と、を備えている。このうち溶接トーチ20は、円筒表面2の上方、とりわけ、当該円筒表面2の中心軸線3の真上に配置されている。
【0018】
ポジショナー11は、円筒表面2の中心軸線3に沿う方向における一端部を保持し、溶接対象体1を、中心軸線3を中心にして回転させるように構成されている。溶接対象体1は、図1の左側から見たときに時計回りの方向に回転する。ポジショナー11の反対側にはサポート13が設けられている。このサポート13は、溶接対象体1の他端部を回転可能に支持している。溶接対象体1の円筒表面2は、ポジショナー11およびサポート13によって、中心軸線3が水平になるように溶接装置10に取り付けられる。
【0019】
トーチ駆動部12は、円筒表面2に対して、その中心軸線3に沿う方向(平行な方向)に溶接トーチ20を移動させるように構成されている。このようにして、円筒表面2に対する所望の領域に、肉盛溶接を行うことが可能になっている。この肉盛溶接を行う領域を溶接領域4と称することにする。溶接領域4は、円筒表面2の中心軸線3に沿う方向における一方(図1における左側)に配置された第1端部領域5と、他方(図1における右側)に配置された第2端部領域6と、を有している。すなわち、第1端部領域5から第2端部領域6にわたって、肉盛溶接が行われる。
【0020】
次に、溶接トーチ20について、より詳細に説明する。
【0021】
図1に示すように、溶接トーチ20は、ステム部21と、ステム部21の先端部に設けられたヘッド部22と、を備えている。このうちステム部21は、トーチ駆動部12に連結されており、トーチ駆動部12によって、溶接トーチ20が移動するようになっている。図1等に示すステム部21は、長手方向を有しており、溶接装置10においては、この長手方向が溶接トーチ20の移動方向に沿うようになっている。
【0022】
図1図3に示すように、ヘッド部22は、各々がアークを発生させる複数(本実施の形態では3つ)のアーク発生部23A〜23Cと、シールドガス供給孔24と、を有している。3つのアーク発生部23A〜23Cは、所定の方向、すなわち溶接トーチ20の移動方向(溶接トーチ20の長手方向)において互いに異なる位置に配置されている。ここでは、溶接トーチ20の移動方向に沿って(図1における左側から右側に向かって)第1アーク発生部23A、第2アーク発生部23Bおよび第3アーク発生部23Cがこの順番で配置されている例について説明する。すなわち、第1アーク発生部23Aは、溶接トーチ20の移動方向とは反対側に位置しており、第3アーク発生部23Cは、溶接トーチ20の移動方向の側に位置している。第2アーク発生部23Bは、第1アーク発生部23Aと第3アーク発生部23Cとの間に位置している。
【0023】
本実施の形態では、各アーク発生部23A〜23Cは、プラズマアークAを発生させるように構成されている。すなわち、アーク発生部23A〜23Cは、プラズマアークAを噴出するアーク噴出孔25A〜25Cと、対応するアーク噴出孔25A〜25Cから噴出されたプラズマアークAに粉体Pを供給する複数の粉体供給孔32A〜32Cと、を含んでいる。より具体的には、第1アーク発生部23Aは、アーク噴出孔25Aと粉体供給孔32Aとを含んでおり、第2アーク発生部23Bは、アーク噴出孔25Bと粉体供給孔32Bとを含んでおり、第3アーク発生部23Cは、アーク噴出孔25Cと粉体供給孔32Cとを含んでいる。
【0024】
図3に示すように、アーク噴出孔25A〜25Cには、パイロットガス供給路26が連通しており、図示しないパイロットガス供給源からパイロットガスが供給されるように構成されている。パイロットガスの供給は、後述する制御部14によって制御される。また、アーク噴出孔25A〜25C内に、アーク電極27が設けられている。このアーク電極27は、アーク電源28の正極に接続されている。アーク電源28の負極は、溶接対象体1に接続されている。
【0025】
アーク電極27の周囲には、パイロットガスノズル29が形成されている。このパイロットガスノズル29は、上述したパイロットガス供給路26を画定している。上述したアーク噴出孔25A〜25Cは、パイロットガスノズル29の先端部に形成されている。また、パイロットガスノズル29内には、冷却水流路30が設けられており、パイロットガスノズル29(とりわけ、その先端部)が、冷却水流路30を流れる冷却水によって冷却される。パイロットガスノズル29は、パイロット電源31の負極に接続されている。パイロット電源31の正極は、上述したアーク電極27に接続されている。
【0026】
各粉体供給孔32A〜32Cには、図示しない粉体供給源および図示しないキャリアガス供給源が接続されており、キャリアガスに同伴して粉体Pが供給されるように構成されている。粉体Pは、溶接対象体1の円筒表面2に形成される肉盛の材料であり、例えば、ステライトが好適に用いられる。供給された粉体Pは、対応するアーク噴出孔25A〜25Cから噴出されるプラズマアークAに向かって傾斜する方向に噴出される。粉体Pの供給とキャリアガスの供給は、後述する制御部14によって制御される。
【0027】
図2に示すように、粉体供給孔32A〜32Cは、パイロットガスノズル29の周囲に配置されている。本実施の形態では、1つのアーク噴出孔25A〜25Cの周囲に、4つの粉体供給孔32A〜32Cが設けられている。すなわち、4つの粉体供給孔32Aは、第1アーク発生部23Aのアーク噴出孔25Aの周囲に設けられ、4つの粉体供給孔32Bは、第2アーク発生部23Bのアーク噴出孔25Bの周囲に設けられ、4つの粉体供給孔32Cは、第3アーク発生部23Cのアーク噴出孔25Cの周囲に設けられている。各粉体供給孔32A〜32Cは、対応するアーク噴出孔25A〜25Cの周方向に均等に配置されている。
【0028】
図2および図3に示すように、各アーク発生部23A〜23Cのアーク噴出孔25A〜25Cが、溶接トーチ20の移動方向において互いに異なる位置に配置されている。本実施の形態では、3つのアーク噴出孔25A〜25Cが、溶接トーチ20の移動方向に平行に直線状に配列されている。
【0029】
上述したシールドガス供給孔24は、アーク発生部23A〜23Cにより発生したプラズマアークAの周囲にシールドガスを供給するように構成されている。図2および図3に示すように、シールドガス供給孔24は、3つのアーク発生部23A〜23Cを囲むように設けられている。言い換えると、シールドガス供給孔24の内側に、3つのアーク発生部23A〜23Cを構成するアーク噴出孔25A〜25Cおよび粉体供給孔32A〜32Cが配置されている。
【0030】
図1に示す制御部14は、上述したポジショナー11およびトーチ駆動部12を制御する。制御部14は、第1端部領域5に溶接トーチ20を位置付けた後、始端ビード形成工程と、第1メインビード形成工程と、トーチ移動工程と、第2メインビード形成工程と、終端ビード形成工程とを行うように構成されている。
【0031】
始端ビード形成工程における制御部14は、第1端部領域5に位置付けられた溶接トーチ20の3つのアーク発生部23A〜23Cのうち第1アーク発生部23AによりプラズマアークAを発生させながら、溶接対象体1を1回転させて円筒表面2に円周方向に1周する始端ビード40を形成するように、ポジショナー11を制御する。この間、トーチ駆動部12による溶接トーチ20の移動は行われない。また、この間、残りの2つのアーク発生部23B、23Cからはアークは発生させないことが好適である。始端ビード形成工程の後、溶接トーチ20を移動させることなく、第1メインビード形成工程が行われる。
【0032】
第1メインビード形成工程における制御部14は、溶接トーチ20の各アーク発生部23A〜23CによりプラズマアークAを発生させながら溶接対象体1を1回転させて、溶接対象体1の円筒表面2に円周方向に1周する第1メインビード41を形成するように、ポジショナー11を制御する。この間、トーチ駆動部12による溶接トーチ20の移動は行われない。
【0033】
続いて、トーチ移動工程として、制御部14は、トーチ駆動部12を制御して、溶接トーチ20を円筒表面2の中心軸線3に沿う方向に移動させる。その後、制御部14は、第2メインビード形成工程として、溶接トーチ20の各アーク発生部23A〜23CによりプラズマアークAを発生させながら溶接対象体1を1回転させて円周方向に1周する第2メインビード42を形成するように、ポジショナー11を制御する。第1メインビード41に対して、中心軸線3に沿う方向において円筒表面2の異なる位置に第2メインビード42が形成される。この間、トーチ駆動部12による溶接トーチ20の移動は行われない。
【0034】
ところで、制御部14は、上述したトーチ移動工程における溶接トーチ20の移動距離を、溶接トーチ20の3つのアーク発生部23A〜23Cのうち第1アーク発生部23Aと第3アーク発生部23Cとの間のピッチ寸法D(図2参照)とする。
【0035】
また、制御部14は、入力部と、アーク発生部選定部と、を有していてもよい。このうち入力部は、溶接領域4の中心軸線3に沿う方向の領域長さL(図1参照)と、溶接トーチ20の移動距離(すなわち、図2に示すピッチ寸法D)とを入力するように構成されている。アーク発生部選定部は、入力部に入力された領域長さLと移動距離とに基づいて、後述する終端ビード(図示せず)を形成する場合にアークを発生させるべきアーク発生部を選定するように構成されている。
【0036】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について説明する。ここでは、上述した溶接装置10を用いた溶接方法について説明する。
【0037】
まず、図4に示すように、溶接対象体1の一端部が、溶接装置10のポジショナー11に保持されるとともに、溶接対象体1の他端部が、サポート13(図1参照)に支持される。
【0038】
続いて、溶接トーチ20が、第1端部領域5に位置付けられる。
【0039】
次に、始端ビード形成工程として、始端ビード40が形成される。この場合、第1端部領域5に位置付けられた溶接トーチ20の第1アーク発生部23Aのアーク噴出孔25AからプラズマアークAが噴出される。この間、この噴出されたプラズマアークAに向かって粉体供給孔32Aから粉体Pが供給される。このことにより、粉体PがプラズマアークA内で溶融し、溶融した粉体材料が、溶接対象体1の円筒表面2に吹き付けられる。溶融した粉体材料が吹き付けられた円筒表面2においては、溶接対象体1の母材が部分的に溶融し、粉体材料と母材とが混合した溶融プール(図示せず)が形成される。また、プラズマアークAを噴出させている間、ポジショナー11を駆動して、溶接対象体1を1回転させる。この溶接対象体1の回転に伴い、円筒表面2に形成された溶融プールのうちプラズマアークAから離れた部分では、溶融していた材料が凝固する。溶接対象体1が1回転すると、溶接対象体1の円筒表面2に、円周方向に1周する始端ビード40が形成される。この始端ビード40は、アーク噴出孔25Aから噴出されたプラズマアークAによって形成される溶接ビードである。
【0040】
始端ビード形成工程の後、図5に示すように、溶接トーチ20を移動させることなく、第1メインビード形成工程が行われて第1メインビード41が形成される。この場合、依然として第1端部領域5に位置付けられている溶接トーチ20の3つのアーク噴出孔25A〜25CからプラズマアークAがそれぞれ噴出されるとともに、この噴出されたプラズマアークAに向かって対応する粉体供給孔32A〜32Cから粉体Pが供給される。プラズマアークAを噴出させている間、ポジショナー11を駆動して、溶接対象体1を1回転させる。このことにより、溶接対象体1の円筒表面2に、円周方向に1周する第1メインビード41が形成される。この第1メインビード41は、3つのアーク噴出孔25A〜25Cから噴出されたプラズマアークAによって形成される溶接ビードであり、第1メインビード41の幅W1(中心軸線3に沿う方向の寸法)は、図4に示す始端ビード40の幅W0よりも大きくなっている。
【0041】
ところで、各アーク発生部23A〜23Cのアーク噴出孔25A〜25Cから噴出されたプラズマアークAは、ジェット噴流のように、円筒表面2に近づくにつれて拡散する。ここでは、アーク噴出孔25Aから噴出されたプラズマアークAの一部と、アーク噴出孔25Bから噴出されたプラズマアークAの一部が、互いに重なって円筒表面2に達する。同様に、アーク噴出孔25Bから噴出されたプラズマアークAの一部と、アーク噴出孔25Cから噴出されたプラズマアークAの一部が、互いに重なって円筒表面2に達する。すなわち、互いに隣り合うアーク発生部23A〜23Cにより発生したプラズマアークAが、円筒表面2において部分的に重なるように、溶接トーチ20と円筒表面2との距離が設定されている。このようにして、第1メインビード41を連続的な溶接ビードとして、第1メインビード41内に、溶け込み不良となる部分が形成されることが防止されている。
【0042】
また、第1メインビード41のうちの一部は、始端ビード40に重なる。すなわち、上述したように、始端ビード40が形成された後、溶接トーチ20を移動させることなく第1メインビード41が形成されている。このことにより、第1メインビード形成工程において、アーク噴出孔25Aは、始端ビード形成工程時にプラズマアークAを噴出していた位置に位置付けられている。このため、始端ビード40が、第1メインビード41のうちアーク噴出孔25Aから噴出されたプラズマアークAによって溶融した粉体Pが供給されながら再び溶融して、第1メインビード41の一部として凝固される。このようにして、第1端部領域5における肉盛の厚さを確保し、肉盛溶接後の仕上げ機械加工時の加工代が確保されている。なお、上述した始端ビード40は、土手盛りと呼ばれることもある。
【0043】
第1メインビード形成工程の後、トーチ移動工程が行われて、図6に示すように、溶接トーチ20が移動する。この場合、溶接トーチ20は、溶接対象体1の円筒表面2の中心軸線3に沿う方向に移動する。トーチ移動工程における溶接トーチ20の移動距離は、溶接トーチ20の3つのアーク噴出孔25A〜25Cのうちアーク噴出孔25Aとアーク噴出孔25Cとのピッチ寸法D(図2参照)となっている。このため、トーチ移動工程後のアーク噴出孔25Aは、トーチ移動工程前のアーク噴出孔25Cの位置に位置付けられる。
【0044】
トーチ移動工程の後、図6に示すように、第2メインビード形成工程が行われて第2メインビード42が形成される。この場合、溶接トーチ20の3つのアーク噴出孔25A〜25CからプラズマアークAがそれぞれ噴出されるとともに、この噴出されたプラズマアークAに向かって対応する粉体供給孔32A〜32Cから粉体Pが供給される。プラズマアークAを噴出させている間、ポジショナー11を駆動して、溶接対象体1を1回転させる。このことにより、溶接対象体1の円筒表面2に、円周方向に1周する第2メインビード42が形成される。この第2メインビード42は、第1メインビード41よりも溶接トーチ20の移動方向に進んだ位置に形成される。第2メインビード42は、3つのアーク噴出孔25A〜25Cから噴出されたプラズマアークAによって形成される溶接ビードであり、図5に示す第1メインビード41の幅W1とほぼ同一の幅になる。なお、第2メインビード42は、第1メインビード41と同様に、内部に溶け込み不良となる部分が形成されることを防止するために、互いに隣り合うアーク噴出孔25A〜25Cから噴出されたプラズマアークAは、円筒表面2において部分的に重なるようになっている。
【0045】

ところで、第2メインビード42のうちの一部は、第1メインビード41に重なる。すなわち、第2メインビード形成工程におけるアーク噴出孔25Aが、第1メインビード形成工程時におけるアーク噴出孔25Cの位置に位置付けられている。このため、第1メインビード41のうちアーク噴出孔25Cから噴出されたプラズマアークAによって形成された部分が、第2メインビード42のうちアーク噴出孔25Aから噴出されたプラズマアークAによって溶融した粉体Pが供給されながら再び溶融して、第2メインビード42の一部として凝固される。このようにして、第1メインビード41と第2メインビード42との間に、溶け込み不良となる部分が形成されることが防止されている。
【0046】
上述したトーチ移動工程と、第2メインビード形成工程とは、溶接領域4の領域長さLに応じて、複数回、繰り返し行われる。このことにより、中心軸線3に沿う方向において互いに異なる位置に複数の第2メインビード42が形成され、溶接領域4の全体にわたって連続状の溶接ビードが形成される。
【0047】
溶接トーチ20が、第2端部領域6に達した場合には、終端ビード形成工程が行われる。この場合、制御部14のアーク発生部選定部により、プラズマアークAを発生させるべきアーク発生部が選定される。より具体的には、制御部14の入力部に、溶接領域4の中心軸線3に沿う方向の領域長さLと、溶接トーチ20の移動距離とが予め入力されており、領域長さLと移動距離とに基づいて、アーク発生部が選定される。例えば、領域長さLを移動距離で除して得られた余りの数値(残存距離)以上の幅を有する溶接ビードを形成することが可能なようにアーク発生部が選定される。ここで、残存距離が、1つのアーク発生部からのプラズマアークAで形成可能な溶接ビードの幅以下であれば、アークを発生すべきアーク発生部として第2アーク発生部23Bおよび第3アーク発生部23Cが選定される。また、残存距離が、1つのアーク発生部からのプラズマアークAで形成可能な溶接ビードの幅よりも大きければ、アークを発生すべきアーク発生部として第1アーク発生部23A、第2アーク発生部23Bおよび第3アーク発生部23Cが選定される。
【0048】
上述のようにして選定されたアーク発生部によりプラズマアークAを発生させることにより、終端ビードが形成される。形成された終端ビードは、直前に形成された第2メインビード42のうち、少なくともアーク噴出孔25Cから噴出されたプラズマアークAによって形成された部分に重なるように形成される。このようにして、第2端部領域6における肉盛に、溶け込み不良となる部分が形成されることが防止されている。
【0049】
このようにして、溶接領域4の全体にわたって連続状の溶接ビードが形成され、肉盛溶接作業が完了する。
【0050】
このように本実施の形態によれば、溶接トーチ20のヘッド部22に、3つのアーク発生部23A〜23Cが設けられており、3つのアーク発生部23A〜23Cが、溶接トーチ20の移動方向において互いに異なる位置に配置されている。このことにより、3つのプラズマアークAを発生させることができ、溶接対象体1の円筒表面2に形成される溶接ビード(第1メインビード41、第2メインビード42)の幅を広くすることができる。このため、溶接対象体1の円筒表面2に肉盛溶接を行うための溶接時間を短縮することができる。この場合、溶接対象体1の製造時間の短縮化を図ることもできる。
【0051】
また、本実施の形態によれば、溶接トーチ20のヘッド部22に、3つのアーク発生部23A〜23Cが内側に配置されるようにシールドガス供給孔24が設けられている。このことにより、3つのアーク発生部23A〜23Cにより発生したプラズマアークAの周囲にシールドガスを供給することができ、3つのプラズマアークAを発生させた場合においても、各プラズマアークAと空気との接触を遮断することができる。このため、溶接品質を向上させることができる。
【0052】
また、本実施の形態によれば、まず、3つのアーク発生部23A〜23CによりプラズマアークAを発生させて、円筒表面2に円周方向に1周する第1メインビード41が形成され、続いて、溶接トーチ20を円筒表面2の中心軸線3に沿う方向に移動させて、その後、3つのアーク発生部23A〜23CによりプラズマアークAを発生させて、円筒表面2に円周方向に1周する第2メインビード42が形成される。このことにより、第2メインビード42を、第1メインビード41よりも溶接トーチ20の移動方向に進んだ位置に形成することができる。このため、溶接対象体1の円筒表面2に肉盛溶接を行うための溶接時間を短縮することができる。
【0053】
また、本実施の形態によれば、溶接トーチ20の移動距離が、3つのアーク発生部23A〜23Cのうち、溶接トーチ20の移動方向における両端部に位置する第1アーク発生部23Aと第3アーク発生部23Cとの間のピッチ寸法Dとなっている。このことにより、第1メインビード41のうち第3アーク発生部23Cにより発生したプラズマアークAによって形成された部分に、第2メインビード42のうち第1アーク発生部23Aにより発生したプラズマアークAによって形成された部分が重なるように形成される。このことにより、第1メインビード41と第2メインビード42との間に、溶け込み不良となる部分が形成されることを防止できる。このため、溶接品質を向上させることができる。
【0054】
なお、上述した本実施の形態においては、トーチ移動工程における溶接トーチ20の移動距離が、第1アーク発生部23Aと第3アーク発生部23Cとの間のピッチ寸法Dとしている例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、溶け込み不良の発生を防止することができれば、第1メインビード41と第2メインビード42とが部分的に重なる範囲内で、溶接トーチ20の移動距離は任意とすることができる。
【0055】
また、上述した本実施の形態においては、始端ビード形成工程において、第1アーク発生部23AによりプラズマアークAを発生させて始端ビード40を形成する例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、始端ビード40を形成する際に、第2アーク発生部23BによりプラズマアークAを発生させてもよい。また、肉盛溶接後の仕上げ機械加工の加工代を確保することができれば、始端ビード形成工程は行われなくてもよい。
【0056】
また、上述した本実施の形態においては、溶接トーチ20のヘッド部22に、3つのアーク発生部23A〜23Cが設けられている例について説明した。しかしながら、アーク発生部の個数は任意である。
【0057】
また、上述した本実施の形態においては、各アーク発生部23A〜23Cが、プラズマアークAを発生させる例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、各アーク発生部23A〜23Cは、マグ溶接またはミグ溶接を行うように構成されていてもよい。この場合には、アーク発生部23A〜23Cは、ワイヤを導出するワイヤ導出部(図示せず)として構成され、ワイヤの先端からアークが発生し、アークに溶出されたワイヤ材料が円筒表面2に吹き付けられて溶融プールが形成され、溶接ビードが形成される。
【0058】
(第2の実施の形態)
次に、図7および図8を用いて、本発明の第2の実施の形態における溶接トーチ、溶接装置および溶接方法について説明する。
【0059】
図7および図8に示す第2の実施の形態においては、一対の溶接トーチを用いて肉盛溶接が行われ、一方の溶接トーチが第1端部領域から第2端部領域に向かって移動し、他方の溶接トーチが第2端部領域から第1端部領域に向かって移動する点が主に異なり、他の構成は、図1図6に示す第1の実施の形態と略同一である。なお、図7および図8において、図1図6に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0060】
本実施の形態における溶接装置10は、図7に示すように、一対の溶接トーチ(第1溶接トーチ20Aおよび第2溶接トーチ20B)と、一対のトーチ駆動部(第1トーチ駆動部12Aおよび第2トーチ駆動部12B)と、を備えている。このうち第1トーチ駆動部12Aが、円筒表面2の中心軸線3に沿う方向に第1溶接トーチ20Aを移動させ、第2トーチ駆動部12Bが、円筒表面2の中心軸線3に沿う方向に第2溶接トーチ20Bを移動させる。なお、第1溶接トーチ20Aおよび第2溶接トーチ20Bは、第1の実施の形態における溶接トーチ20と同様の構成を有している。
【0061】
図8に示すように、円筒表面2の中心軸線3に沿う方向で見たときに、第1溶接トーチ20Aのアーク発生部23A〜23Cと中心軸線3とを通る直線L1の、鉛直線(中心軸線3を通る鉛直線)に対するトーチ角度θが、45度未満になっている。同様に、第2溶接トーチ20Bのアーク発生部23A〜23Cと中心軸線3とを通る直線L2の、鉛直線に対するトーチ角度θが、45度未満になっている。本実施の形態では、第1溶接トーチ20Aについてのトーチ角度θが、第2溶接トーチ20Bについてのトーチ角度θよりも小さくなっており、図8に示す形態では、第1溶接トーチ20Aについてのトーチ角度θは、0度となっている。すなわち、第1の実施の形態における溶接トーチ20と同様に、第1溶接トーチ20Aは、円筒表面2の中心軸線3の真上に配置されている。
【0062】
第2溶接トーチ20Bの各々のアーク発生部23A〜23Cのアーク電極27に供給される電流の値は、第1溶接トーチ20Aの各々のアーク発生部23A〜23Cのアーク電極27に供給される電流の値よりも大きくなっている。第1溶接トーチ20Aの各アーク電極27に電流を供給するアーク電源28と、第2溶接トーチ20Bの各アーク電極27に電流を供給するアーク電源28とは、別々に構成されていてもよい。あるいは、図示しない電気回路を用いて、同一のアーク電源28から、第1溶接トーチ20Aの各アーク電極27と、第2溶接トーチ20Bの各アーク電極27とに、所望の値の電流をそれぞれ供給するようにしてもよい。
【0063】
図7に示すように、制御部14は、第1溶接トーチ20Aを、第1端部領域5から第2端部領域6に向かって中心軸線3に沿う方向に移動させるように、第1トーチ駆動部12Aを制御する。同様に制御部14は、第2溶接トーチ20Bを、第2端部領域6から第1端部領域5に向かって中心軸線3に沿う方向に移動させるように、第2トーチ駆動部12Bを制御する。
【0064】
本実施の形態による溶接装置10を用いて肉盛溶接を行う場合、第1溶接トーチ20Aについては、第1の実施の形態における溶接トーチ20と同様にして、始端ビード形成工程、第1メインビード形成工程、トーチ移動工程および第2メインビード形成工程が行われる。このうち始端ビード形成工程では、第1端部領域5に始端ビード40が形成され、トーチ移動工程においては、第1溶接トーチ20Aを第1端部領域5から第2端部領域6に向かう方向に移動する。トーチ移動工程と第2メインビード形成工程とは、複数回、繰り返し行われる。このようにして、第1溶接トーチ20Aが第1端部領域5から出発して中央領域に向かって移動しながら、連続状の溶接ビードが形成される。
【0065】
一方、第2溶接トーチ20Bについては、第1の実施の形態における溶接トーチ20と第2溶接トーチ20Bの移動方向が反対になること以外では同様にして、始端ビード形成工程、第1メインビード形成工程、トーチ移動工程および第2メインビード形成工程が行われる。このうち始端ビード形成工程では、第2端部領域6に始端ビード40が形成され、トーチ移動工程においては、第2溶接トーチ20Bを第2端部領域6から第1端部領域5に向かう方向に移動する。トーチ移動工程と第2メインビード形成工程とは、複数回、繰り返し行われる。このようにして、第2溶接トーチ20Bが第2端部領域6から出発して中央領域に向かって移動しながら、連続状の溶接ビードが形成される。
【0066】
図8に示すように、第2溶接トーチ20Bのアーク発生部23A〜23Cにより発生したプラズマアークAは、鉛直線に対して傾斜する方向、すなわち、アーク発生部23A〜23Cと中心軸線3とを通る直線L2に沿う方向に噴出される。この場合、プラズマアークAの噴出方向が、鉛直線に対してトーチ角度θで傾斜しているため、噴出されたプラズマアークAは、重力の影響を受けて下方に偏心し得る。そして、円筒表面2に形成される溶融プールは、重力の影響を受けて下方に偏心する可能性がある。しかしながら、本実施の形態では、上述したように、第2溶接トーチ20Bのアーク発生部23A〜23Cのアーク電極27に供給される電流の値が高められているため、第1溶接トーチ20Aのアーク発生部23A〜23Cにより発生するプラズマアークAよりも多くのエネルギが円筒表面2に供給される。このため、プラズマアークAが吹き付けられる領域が上方に拡げられ、溶融プールが形成される領域が上方に拡げられる。
【0067】
第1溶接トーチ20Aについての各工程と、第2溶接トーチ20Bについての各工程は、並行して行われる。このことにより、第1溶接トーチ20Aによるメインビード41、42と、第2溶接トーチ20Bによるメインビード41、42とは、並行して形成される。
【0068】
第1溶接トーチ20Aおよび第2溶接トーチ20Bが中央領域に達した後、第1溶接トーチ20Aにより形成された直前の第2メインビード42と、第2溶接トーチ20Bにより形成された直前の第2メインビード42との間の残存距離が、第1溶接トーチ20Aおよび第2溶接トーチ20Bのいずれか一方で形成可能な第2メインビード42の幅以下であれば、いずれか一方の溶接トーチの3つのアーク発生部23A〜23CによりプラズマアークAを発生させて、繋ぎビード(図示せず)が形成される。この場合においても、繋ぎビードは、第1溶接トーチ20Aにより直前に形成された第2メインビード42のうち第3アーク発生部23Cのアーク噴出孔25Cから噴出されたプラズマアークAによって形成された部分と、第2溶接トーチ20Bにより直前に形成された第2メインビードのうち第3アーク発生部23Cのアーク噴出孔25Cから噴出されたプラズマアークAによって形成された部分とに重なるように形成される。残存距離に応じて、繋ぎビードは、複数回に分けて形成してもよい。
【0069】
このようにして、溶接領域4の全体にわたって連続状の溶接ビードが形成され、肉盛溶接作業が完了する。
【0070】
このように本実施の形態によれば、溶接トーチ20A、20Bのヘッド部22に、3つのアーク発生部23A〜23Cが設けられており、3つのアーク発生部23A〜23Cが、溶接トーチ20A、20Bの移動方向において互いに異なる位置に配置されている。このことにより、各溶接トーチ20A、20Bにより、3つのプラズマアークAを発生させることができ、溶接対象体1の円筒表面2に形成される溶接ビード(第1メインビード41、第2メインビード42)の幅を広くすることができる。このため、溶接対象体1の円筒表面2に肉盛溶接を行うための溶接時間を短縮することができる。この場合、溶接対象体1の製造時間の短縮化を図ることもできる。
【0071】
また、本実施の形態によれば、第1溶接トーチ20Aが第1端部領域5から第2端部領域6に向かって移動しながら、第1メインビード41および第2メインビード42が形成されるとともに、第2溶接トーチ20Bが第2端部領域6から第1端部領域5に向かって移動しながら、第1メインビード41および第2メインビード42が形成される。このことにより、2つの溶接トーチ20A、20Bによって、溶接領域4の第1端部領域5および第2端部領域6から中央領域に向かって連続状の溶接ビードをそれぞれ形成することができる。このため、溶接対象体1の円筒表面2に肉盛溶接を行うための溶接時間をより一層短縮することができる。
【0072】
また、本実施の形態によれば、円筒表面2の中心軸線3に沿う方向で見たときに、第1溶接トーチ20Aのアーク発生部23A〜23Cと中心軸線3とを通る直線L1の、鉛直線に対するトーチ角度θと、第2溶接トーチ20Bのアーク発生部23A〜23Cと中心軸線3とを通る直線L2の、鉛直線に対するトーチ角度θが、45度未満になっている。このことにより、アーク発生部23A〜23Cにより発生したプラズマアークAによって形成される溶融プールが、重力の影響を受けて下方に偏心することを抑制できる。このため、円筒表面2に形成された溶融プールのうちプラズマアークAから離れた部分が、凝固する前に重力の影響を受けて下方に移動することを防止でき、溶接ビードを円周方向に均等化して形成することができる。
【0073】
また、本実施の形態によれば、第1溶接トーチ20Aについてのトーチ角度θが、第2溶接トーチ20Bについてのトーチ角度θよりも小さくなっており、第2溶接トーチ20Bの各々のアーク発生部23A〜23Cのアーク電極27に供給される電流の値が、第1溶接トーチ20Aの各々のアーク発生部23A〜23Cのアーク電極27に供給される電流の値よりも大きくなっている。このため、第2溶接トーチ20Bのアーク発生部23A〜23Cにより発生するプラズマアークAのエネルギを高めることができ、プラズマアークAが吹き付けられる領域を上方に拡げることができる。このため、溶融プールを上方に拡げることができ、溶け込み不良となる部分が形成されることを防止して、溶接品質を向上させることができる。
【0074】
なお、上述した本実施の形態においては、第1溶接トーチ20Aおよび第2溶接トーチ20Bが、複数のアーク発生部23A〜23Cをそれぞれ有している例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、第1溶接トーチ20Aおよび第2溶接トーチ20Bは、図9に示すように1つだけのアーク発生部を有するようにしてもよい。この場合においても、第1溶接トーチ20Aが第1端部領域5から第2端部領域6に向かって移動しながら、溶接ビードが形成されるとともに、第2溶接トーチ20Bが第2端部領域6から第1端部領域5に向かって移動しながら、溶接ビードが形成される。このことにより、2つの溶接トーチ20A、20Bによって、溶接領域4の第1端部領域5および第2端部領域6から連続状の溶接ビードをそれぞれ形成することができ、溶接対象体1の円筒表面2に肉盛溶接を行うための溶接時間を短縮することができる。なお、この場合、溶接対象体1を連続回転させながら、各溶接トーチ20A、20Bを連続的に移動させて、溶接ビードが、円筒表面2に螺旋状に形成されることが好適である。
【0075】
以上述べた実施の形態によれば、溶接対象体の円筒表面に肉盛溶接を行うための溶接時間を短縮させることができる。
【0076】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0077】
1:溶接対象体、2:円筒表面、3:中心軸線、4:溶接領域、5:第1端部領域、6:第2端部領域、10:溶接装置、11:ポジショナー、12:トーチ駆動部、12A:第1トーチ駆動部、12B:第2トーチ駆動部、14:制御部、20:溶接トーチ、20A:第1溶接トーチ、20B:第2溶接トーチ、21:ステム部、22:ヘッド部、23A〜23C:アーク発生部、24:シールドガス供給孔、25A〜25C:アーク噴出孔、32A〜32C:粉体供給孔、41:第1メインビード、42:第2メインビード、A:プラズマアーク、D:ピッチ寸法、L1、L2:直線、P:粉体、θ:トーチ角度、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9