【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の一実施例に係る実施例1の鉄道設備モニタリングシステムの全体概略構成図である。
図1に示すように、鉄道設備モニタリングシステム100は、鉄道設備モニタリング装置1、運行管理センター等の地上設備に設置される電子端末2或いはサーバ、及びこれらを相互に通信可能に接続する通信ネットワーク3より構成される。
図1では説明の便宜上、一つの鉄道設備モニタリング装置1が通信ネットワーク3を介して電子端末2と通信可能に接続される例を示しているが、詳細後述する鉄道設備モニタリング装置1は1編成を構成する複数の電車車両の各車両に設置されるものであって、また、電子端末2或いはサーバが設置される運行管理センター等の地上設備は、通信ネットワーク3を介して複数編成と相互に通信可能に接続されるものである。なお、通信ネットワーク3は有線であるか無線であるかを問わない。
【0012】
<鉄道設備モニタリング装置1の構成>
図1に示すように、鉄道設備モニタリング装置1は、「2つのカメラの光軸が平行」且つ「2つのカメラの位置が水平」なステレオカメラ11、ステレオカメラ11を搭載し回転可能に保持するカメラ回転保持部12、制御演算部10、画像表示部16、及び入力部19を備える。また、鉄道設備モニタリング装置1には、外部環境条件(天候、日射量、昼/夜等)を測定するための照度計20、及び、電車車両の位置情報を計測する位置情報通知モジュール30が接続されている。ここで、位置情報通知モジュール30として、例えば、GPS(Global Positioning System)が用いられる。
制御演算部10は、ステレオカメラ11で撮像された原画像を入力とする三角測量に基づくステレオ法で測距を施して距離画像を生成するステレオ処理部13、ステレオ処理部13による距離画像とステレオカメラ11で撮像された原画像に基づき対象物であるパンタグラフのみが抽出された画像を生成する対象物抽出部14、対象物抽出部14によるパンタグラフのみが抽出された画像を回転補正する回転補正部15、記憶部17、及び、通信ネットワーク3を介して電子端末2へ回転補正後のパンタグラフのみが抽出された画像を送信するための通信制御部18を備える。ステレオ処理部13、対象物抽出部14、回転補正部15、及び通信制御部18は、例えば、CPU等のプロセッサ、プログラムを格納するROM、ROMより読み出されたプログラムをプロセッサが実行する過程のデータ等を一時的に格納するRAM等の記憶装置にて実現される。
【0013】
図2は、
図1に示すステレオカメラ11とパンタグラフとの位置関係、及びパンタグラフ存在範囲を示す概略図であり、
図3は、ステレオカメラで撮像されたパンタグラフの原画像の一例を示す図である。鉄道設備モニタリング装置1は、
図2に示すように、ステレオカメラ11及びステレオカメラ11を搭載し回転可能に保持するするカメラ回転保持部12(
図2では、図示せず)は、電車車両の上部である屋根構体に設置され、電車車両のパンタグラフ9がトロリ線(
図2では、図示せず)に接触している状態を撮像可能にパンタグラフ9に対向し所定の距離だけ離間し設置されている。電車車両のパンタグラフ9がトロリ線に接触している状態では、ステレオカメラ11は、
図3に示すようにパンタグラフ9(
図3においても、トロリ線を図示せず)の原画像を取得する。
なお、鉄道設備モニタリング装置1を構成する、制御演算部10、画像表示部16、及び入力部19は、電車車両の車内に設置されている。
【0014】
以下、各部の詳細構成について説明する。
【0015】
[カメラ回転保持部12]
図4は、
図1に示すステレオカメラ11とステレオカメラ11を搭載するカメラ回転保持部12の側面図である。
図4に示すように、カメラ回転保持部12は、ステレオカメラ11を搭載可能とするマウント部材121、マウント部材121に設置されたステレオカメラ11を後述するベースラインの中心を回転軸としてステレオカメラ11を所定角度回転させた姿勢で保持する回転制御機構122、及び信号線L31を介して回転制御機構122へ所定の回転角度指令である信号を出力する回転情報記録部123を有する。マウント部材121は、例えば、ステンレス鋼製であり、ステレオカメラ11を構成する2つのカメラを水平且つ光軸が平行となるよう収容する図示しない筐体と、例えば、ボルト締結により固定される。回転制御機構122は、回転情報記録部123からの信号により指定されたロール角方向に、回転制御機構122を構成する例えば、図示しないサーボモータ等によりマウント部材121を所定の回転角度に回転させ、その姿勢を保持する。また、回転情報記録部123は、例えば、CPU等のプロセッサ、プログラムを格納するROM、ROMより読み出されたプログラムをプロセッサが実行する過程のデータ等を一時的に格納するRAM等の記憶装置にて実現される。
図5は、
図1に示すステレオカメラ11とステレオカメラ11を搭載するカメラ回転保持部12の正面図である。
図5の上図は回転角度θが0°の状態を示している。
図5の上図に示すように、右カメラ11a及び左カメラ11bの中心はベースライン(2つのカメラの中心間を結ぶ線)上に位置、すなわち、右カメラ11a及び左カメラ11bは水平に位置し、それぞれの光軸は相互に平行である。なお、パンタグラフ9がトロリ線に接触しているものとした場合、鉄道設備モニタリング装置1の起動直後では、
図5の上図に示すように、カメラ回転角度θ=0°となっている。
図5の下図は、マウント部材121がベースラインの中心を回転軸として時計回りにロール回転角θだけ回転し、保持された状態を示している。このように、マウント部材121は、回転制御機構122によりベースラインの中心を回転軸として任意のロール回転角方向に回転可能で、ステレオカメラ11を所定の回転角度θだけ回転させた姿勢で保持される。なお、パンタグラフ9がトロリ線に接触しているものとした場合、鉄道設備モニタリング装置1が起動してから所定時間経過後においては、
図5の下図に示すように、カメラ回転角度θ≠0°となる。
なお、回転情報記録部123は、回転制御機構122へ信号線L31を介して所定の回転角度指令である信号を出力することに加え、少なくともステレオカメラ11の回転角度毎に詳細後述する測距可能な画素数を記録する機能を有し、当該カメラ回転角度毎に測距可能な画素数を、信号線L10(
図1)を介して制御演算部10を構成する記憶部17の所定の記憶領域に格納する。なお、記憶部17は、少なくとも1つ以上の記憶媒体にて構成されている。
また、カメラ回転保持部12を構成するマウント部材121に搭載されるステレオカメラ11は、所定の周期にて右カメラ11a及び左カメラ11bにて撮像し、撮像した2つの原画像を、
図1及び
図4に示すように、信号線L1を介してステレオ処理部13へ、信号線L2を介して対象物抽出部14へ、及び信号線L8を介してカメラ回転保持部12を構成する回転情報記録部123へ出力する。
【0016】
[ステレオ処理部13]
図1に示すように、制御演算部10を構成するステレオ処理部13は、所定の回転角度にて回転させた姿勢にてカメラ回転保持部12により保持されるステレオカメラ11により撮像された原画像(ステレオ原画像)を、信号線L1を介して入力する。そして、ステレオ処理部13は、入力された原画像(ステレオ原画像)へ三角測量に基づくステレオ法で測距を施して距離画像を生成し、信号線L3を介して生成した距離画像を対象物抽出部14へ出力する。ここで距離画像の一例について説明する。
図6は、
図1に示すステレオ処理部13により生成される、パンタグラフの距離データをグレースケールで表現した距離画像の一例を示す図である。
図6に示すように、距離画像(パンタグラフ距離画像)は、ステレオカメラ11から近い部分は明るく(輝度が高い)、離れるにつれて暗く(輝度が低い)表示されるグレースケール画像として生成される。
図3に示した原画像(パンタグラフ原画像)と比較すると分かるように、グレースケール画像として生成される距離画像(パンタグラフ距離画像)は、上述の
図2に示したステレオカメラ11とパンタグラフ9との間の距離を反映した画像となっている。
【0017】
ステレオ処理部13が生成する距離画像について、更に詳細に説明する。2つの水平且つ光軸が平行なステレオカメラ11(右カメラ11a及び左カメラ11b)より取得されるそれぞれの画像(ステレオ原画像)には、視差が生ずる。この視差によるずれ量(画像データにおける画素数)に基づき、ステレオカメラ11と対象物体であるパンタグラフ9との距離が測定される。従って、距離画像(パンタグラフ距離画像)とは、測定された距離の情報を含む画像である。ステレオ処理部13は、
図1に示すように、ステレオカメラ11より信号線L1を介して入力される、右カメラ11aにより撮像された原画像及び左カメラ11bにより撮像された原画像から特徴点を抽出し、視差計算と称される特徴点の対応付けを行う。ステレオカメラ11は「2つのカメラ(右カメラ11a及び左カメラ11b)の位置が水平」かつ「2つのカメラ(右カメラ11a及び左カメラ11b)の光軸が平行」であるため、特徴点の対応付けでは、右カメラ11aにより撮像された原画像及び左カメラ11bにより撮像された原画像における各特徴点画素が存在する水平座標の差(視差)を算出することにより、視差画像が得られる。この視差画像内の各画素値(視差値)とステレオカメラ11の仕様(ベースライン長、焦点距離)を用いる三角測量の原理に基づき、ステレオカメラ11の前方に存在する対象物体までの距離を示す距離画像を取得できる。
【0018】
なお、上述の距離画像(パンタグラフ距離画像)は、グレースケール画像に限られるものではない。例えば、ステレオカメラ11から近い部分は「赤色」、遠くなるにつれて「青色」又は「黒色」等の色のグラデーションとして表されるカラーグラデーション画像として、距離画像(パンタグラフ距離画像)を生成する構成としても良い。
【0019】
[対象物抽出部14]
図1に示すように、制御演算部10を構成する対象物抽出部14は、所望の値を設定可能な対象物体の存在範囲以外をマスクする距離フィルタを、ステレオ処理部13で生成された距離画像(パンタグラフ距離画像)に適用して対象物体の距離情報が存在する画素の座標を抽出し、対象物体存在領域から構成される2値の対象物存在領域画像(白で存在領域を表現)と信号線L2を介してステレオカメラ11より入力される原画像との乗算を実行して対象物体のみが抽出された画像を生成する。
【0020】
更に詳細に説明すると、対象物抽出部14は、
図1に示すように、信号線L3を介してステレオ処理部13から入力された距離画像に対し、
図2に示すパンタグラフ9の存在領域以外をマスク処理する距離フィルタ(near〜far間の距離情報のみ有効)を適用する。すなわち、「距離フィルタ」とは、
図2に示す[near]から[far]の奥行きの範囲内の画像データのみを抽出するフィルタである。なお、距離フィルタにおける[near]及び[far]の位置は、
図1に示す入力部19を介して適宜所望の値に設定可能であり、設定された距離フィルタにおける[near]及び[far]の位置に関する情報は信号線L11を介して記憶部17の所定の記憶領域に格納される。従って、対象物抽出部14は、距離フィルタを適用する際、図示しない信号線を介して記憶部17に格納される[near]及び[far]の位置に関する情報を読み出す。
図7は、
図1に示す対象物抽出部14により生成される、パンタグラフの存在範囲外を距離フィルタでマスク処理したパンタグラフ距離画像の一例を示す図である。対象物抽出部14が、上述のステレオ処理部13から入力された距離画像に対し、
図2に示すパンタグラフ9の存在領域以外をマスク処理する距離フィルタを適用することで、
図7に示すような、ステレオカメラ11からパンタグラフ9までの距離を示す画素から成る距離フィルタ適用済みの距離画像が得られる。
【0021】
この後、対象物抽出部14は、距離フィルタ適用済みの距離画像(
図7)へ2値化処理を施すことにより、
図8に示すような、パンタグラフ存在領域内の物体のシルエット画像を生成する。ここで2値化処理は、距離フィルタ適用済みの距離画像(距離画像データ)内において、有効な距離値が存在する画素に「1」(白)、有効な距離値が存在しない画素に「0」(黒)を割り当てる。なお、距離値に閾値を設けても良い。
対象物抽出部14は、
図8に示す2値化処理を施して得られたパンタグラフ存在領域内の物体のシルエット画像を、
図1及び
図4に示すように信号線L4を介してカメラ回転保持部12を構成する回転情報記録部123へ出力する。回転情報記録部123は、信号線L4を介して入力されたパンタグラフ存在領域内の物体のシルエット画像内に存在する有効画素(「1」(白)が有効画素で、「0」(黒)が無効画素)を集計し、集計値(測距可能画素数)と対応するカメラ回転角度の情報を、信号線L10を介して制御演算部10の記憶部17の所定領域に格納される。
図9は、
図1に示す記憶部17に格納される、カメラ回転角度と測距可能画素数とを対応付けるデータ構造の一例を示す図である。
図9に示すように、記憶部17は、カメラ回転角度θ[°]と測距可能画素数とを対応付けて(紐づけて)格納する。例えば、「カメラ回転角度θ[°]」が「0」のとき「測距可能画素数」は「625」であり、「カメラ回転角度θ[°]」が「15」のとき「測距可能画素数」は「777」であり、「カメラ回転角度θ[°]」が「30」のとき「測距可能画素数」は「900」であり、「カメラ回転角度θ[°]」が「45」のとき「測距可能画素数」は「625」である。また、「カメラ回転角度θ[°]」が「60」のとき「測距可能画素数」は「888」であり、「カメラ回転角度θ[°]」が「75」のとき「測距可能画素数」は「800」であり、「カメラ回転角度θ[°]」が「90」のとき「測距可能画素数」は「700」である。このように、所定の回転角度15°毎(粒度)にステレオカメラ11の回転角度を順次変化させた場合の測距可能画素数が紐づけて格納される。なお、仮に外部環境条件に変化がない場合においては、一般的には45°がステレオカメラ11の最適なカメラ回転角度となる。しかしながら、実際には外部環境条件の変化に応じて、最適なステレオカメラ11のカメラ回転角度は、45°からずれる。そのため、粒度を15°として、ステレオカメラ11のカメラ回転角度を変化させ測距可能画素数を集計する構成としている。なお、粒度は15°に限られるものではなく、例えば粒度を5°に設定しても良い。
【0022】
図10は、
図1に示す対象物抽出部14により、パンタグラフ9のみが抽出された画像を得る処理の概念図である。パンタグラフ存在領域内の物体のシルエット画像を生成した後、対象物抽出部14は、信号線L2を介して入力されたステレオカメラ11にて撮像されたパンタグラフ9の原画像(
図3)とシルエット画像とを乗算することにより、
図10に示すようにパンタグラフ9のみが抽出された画像を生成する。これは上述のようにシルエット画像では、パンタグラフ9の領域に対応する画素には「1」(白)が割り当てられ、パンタグラフ9以外の領域に対応する画素には「0」(黒)が割り当てられていることから、シルエット画像と原画像とを乗算することによりパンタグラフ9以外の領域に対応する画素が「0」となることから、パンタグラフ9のみが抽出された画像が得られる。対象物抽出部14は、
図10に示すパンタグラフ9のみが抽出された画像を、回転補正部15へ信号線L5を介して出力する。
【0023】
[回転補正部15]
図1に示すように、制御演算部10を構成する回転補正部15は、ステレオカメラ11を所定の回転角度だけ回転させた姿勢で対象物体を撮像した場合、対象物体のみ抽出された画像に対して、撮像時におけるステレオカメラ11の回転角度の逆回転補正処理を適用し、ステレオカメラ11が無回転の状態で撮影した場合と同一姿勢の対象物体のみ抽出された逆回転補正後の画像を生成する。
具体的には、回転補正部15は、信号線L5を介して対象物抽出部14にて生成されたパンタグラフ9のみが抽出された画像(パンタグラフ抽出画像)を入力すると共に、信号線L6を介してカメラ回転保持部12を構成する回転情報記録部123よりステレオカメラ11のカメラ回転角度θを入力する。回転補正部15は、入力されたカメラ回転角度θがゼロではない場合、当該カメラ回転角度θだけパンタグラフ抽出画像に対し逆回転補正処理を施すことにより、監視員に見易い画像を生成する。ここで、逆回転補正処理として、例えば、アフィン変換等の処理が用いられる。なお、仮に、カメラ回転角度θ=0の場合、回転補正部15は、逆回転補正処理を実行しない。
回転補正部15は、逆回転補正処理後の画像(逆回転補正後画像)を、信号線L9を介して記憶部17の所定の記憶領域に格納すると共に、信号線L7を介して画像表示部16及び通信制御部18へそれぞれ出力する。
【0024】
[画像表示部16]
画像表示部16は、信号線L7を介して回転補正部15より入力された逆回転補正後画像を画面上に表示する。これにより、電車車両の乗務員は、容易にパンタグラフ9の状態を把握することが可能となる。
【0025】
[通信制御部18]
図1に示すように、制御演算部10を構成する通信制御部18は、信号線L7を介して回転補正部15より入力された逆回転補正後画像を、位置情報通知モジュール30より得られる当該電車車両の位置情報と共に、通信ネットワーク3を介して、運行管理センター等の地上設備に設置される電子端末2或いはサーバへ送信する。これにより、運行管理センター等の地上設備内の監視員は、容易にパンタグラフ9の状態を把握することが可能となる。
<鉄道設備モニタリング装置1の動作>
以下に鉄道設備モニタリング装置1の動作を説明する。特に、環境条件の変化による影響を抑制し得るステレオカメラ11のカメラ回転角度の最適値の探索処理を含め、鉄道設備モニタリング装置1による全体処理及び動作について説明する。
図11は、
図1に示す鉄道設備モニタリング装置1により実行される処理フローを示すフローチャートであって、電車起動直後にカメラ回転角度θを最適値に設定するフローチャートである。
図11に示すように、ステップS11では、車庫にて鉄道設備モニタリング装置1を搭載する電車を起動する。
ステップS12では、鉄道設備モニタリング装置1の起動の際、ステレオカメラ11のカメラ回転角度θは0°となっている。この状態において、カメラ回転保持部12を構成する回転情報記録部123は、上述のシルエット画像内に存在する有効画素を集計し、集計値を測距可能画素数の最適値の初期値として記録する。
【0026】
ステップS13では、カメラ回転保持部12を構成する回転情報記録部123は、所定のカメラ回転角度(ここでは、+15°)だけロール角方向にマウント部材121を回転させるための信号を、信号線L31を介してカメラ回転保持部12を構成する回転制御機構122へ出力する。そして、回転情報記録部123は、上述のシルエット画像内に存在する有効画素を集計し、集計値を測距可能画素数としてカメラ回転角度θと対応付けて記録すると共に、信号線L10を介して制御演算部10の記憶部17の所定の記憶領域に格納する。また、回転情報記録部123は、信号線L6を介して回転補正部15へカメラ回転角度θを出力する。
【0027】
ステップS14では、カメラ回転角度θが90°に達したか否かを判定し、90°に達していない場合にはステップS13に戻り更に所定のカメラ回転角度(15°)を加算し同様の処理を繰り返す。一方、カメラ回転角度θが90°に達した場合ステップS15に進む。
ステップS15では、回転情報記録部123は、集計値である測距可能画素数が最大となるカメラ回転角度θを決定する。そして、回転情報記録部123は、最適値(測距可能画素数が最大)に基づくステレオカメラ11のカメラ回転角度θを決定した後、集計値(測距可能画素数)が最大となるカメラ回転角度θにマウント部材121を保持させるための信号を、回転制御機構122へ信号線L31を介して出力する。
【0028】
ステップS16では、回転制御機構122は、信号線L31を介して回転情報記録部123より入力されるステップS15にて決定されたカメラ回転角度θとなるようロール角方向にマウント部材121を回転させステレオカメラ11の姿勢を保持する。このとき、
図1に示す照度計20による計測値を走行照度値として記憶部17に格納する。
【0029】
ステップS18では、車庫を出発した電車は始発駅に移動し後述するステップS21へ進む。
図12は、
図1に示す鉄道設備モニタリング装置1により実行される処理フローを示すフローチャートであって、走行中に照度が変化した場合にカメラ回転角度θを最適値に変更させるフローチャートである。以下では、
図11の処理フローにより、駅を出発した電車のカメラ回転角度θの変更について説明する。
図12に示すように、ステップS21では、車庫を出発し始発駅に到着した電車は走行を開始する。
【0030】
ステップS22では、
図1に示す照度計20による計測値である走行照度値が、一定時間以上の間、所定値以上乖離するか否かを判定する。判定の結果、乖離しない場合にはステップS25へ進み走行を継続する。一方、判定の結果、走行照度値が所定値以上乖離する場合はステップS23へ進む。
【0031】
ステップS23では、
図1に示す位置情報通知モジュール30が示す位置情報に基づいてトンネルや地下、跨線橋を走行しているか否かを判定する。判定の結果、トンネルや地下、跨線橋を走行している場合には、ステップS24へ進み、電車のステレオカメラ11のカメラ回転角度θを変更することなくステップS25へ進み走行を継続する。ここで、ステレオカメラ11のカメラ回転角度θを変更しない理由は、電車がトンネルや地下を走行中にパンタグラフ9がトロリ線から離間した場合、アーク(火花の発生)が撮像可能であり、アークの記録によりトロリ線を保守すべき区間であることを判定できるためである。一方、トンネルや地下、跨線橋を走行していない場合にはステップS26へ進む。
【0032】
ステップS26では、電車走行を継続しながら、
図11に示した上述のステップS12〜ステップS16を実行する。
ステップS27では、制御演算部10を構成する記憶部17に格納された走行照度値を更新し、ステップS22へと戻り、同様の処理を繰り返し実行する。
鉄道設備モニタリング装置1が、上述の
図11及び
図12の処理フローを実行することにより、外部環境条件(天候、時間、日射量、昼/夜等)の変化に応じて、最適なステレオカメラ11のカメラ回転角度θを決定することが可能となり、外部環境条件の変化による影響を抑制し、パンタグラフ9の状態を監視員に見え易く表示することが可能となる。
【0033】
以上のとおり本実施例によれば、外部環境条件の変化による影響を抑制し、パンタグラフの状態を監視員に見え易く表示し得る鉄道設備モニタリング装置及び鉄道設備モニタリングシステムを提供することが可能となる。
【実施例2】
【0034】
図13は、本発明の他の実施例に係る実施例2の鉄道設備モニタリング装置を構成する記憶部に格納される、カメラ回転角度と、測距可能画素のパンタグラフに対する類似度とを対応付けるデータ構造の一例を示す図である。鉄道設備モニタリングシステム100及び鉄道設備モニタリング装置1の構成自体は上述の実施例1と同様であるが、制御演算部10を構成する記憶部17に格納されるデータ構造、及びカメラ回転保持部12を構成する回転情報記録部123の処理内容が実施例1と異なる。以下では実施例1と異なる点について説明する。
【0035】
本実施例におけるカメラ回転保持部12を構成する回転情報記録部123(
図4)は、号線L4を介して入力された制御演算部10を構成する対象物抽出部14により生成されたパンタグラフ存在領域内の物体のシルエット画像内に存在する有効画素の集計を行うことに代えて以下の処理を実行する。
本実施例の回転情報記録部123は、信号線L4を介して入力された制御演算部10を構成する対象物抽出部14により生成されたパンタグラフ存在領域内の物体のシルエット画像内に存在する有効画素の形状、すなわち、シルエット画像内のパンタグラフ9の形状と、
図1及び
図4に示す信号線L8を介してステレオカメラ11より入力される
図3に示すパンタグラフ9の原画像(カメラ回転角度θ=0で撮像された原画像)の形状とを比較する。比較の結果、パンタグラフ9の原画像に対するシルエット画像内に存在する有効画素の形状の類似度が最大となるカメラ回転角度θを、ステレオカメラ11の最適なカメラ回転角度θとして決定する。換言すれば、回転情報記録部123は、カメラ回転角度θが0°のときのステレオカメラ11にて撮像されたパンタグラフ9の原画像をテンプレートとし、各カメラ回転角度にて得られるシルエット画像内のパンタグラフ9の形状に対しパターンマッチング処理を実行し、パンタグラフに対する類似度をカメラ回転角度毎に求める。求めたカメラ回転角度毎のパンタグラフに対する類似度は、
図1に示す信号線L10を介して記憶部17の所定の記憶領域に格納される。
【0036】
図13に示すように、記憶部17は、カメラ回転角度θ[°]とパンタグラフに対する類似度とを対応付けて(紐づけて)格納する。例えば、「カメラ回転角度θ[°]」が「0」のとき「パンタグラフに対する類似度」は「0.625」であり、「カメラ回転角度θ[°]」が「15」のとき「パンタグラフに対する類似度」は「0.777」であり、「カメラ回転角度θ[°]」が「30」のとき「パンタグラフに対する類似度」は「0.9」であり、「カメラ回転角度θ[°]」が「45」のとき「パンタグラフに対する類似度」は「0.92」である。また、「カメラ回転角度θ[°]」が「60」のとき「パンタグラフに対する類似度」は「0.85」であり、「カメラ回転角度θ[°]」が「75」のとき「パンタグラフに対する類似度」は「0.8」であり、「カメラ回転角度θ[°]」が「90」のとき「パンタグラフに対する類似度」は「0.7」である。このように、所定の回転角度15°毎(粒度)にステレオカメラ11の回転角度を順次変化させた場合のパンタグラフに対する類似度が紐づけて格納される。
【0037】
なお、本実施例の鉄道設備モニタリング装置1の動作は、上述の実施例1にて説明した
図11における処理ステップにおいて、「測距可能画素数」を「パンタグラフに対する類似度」に置き換えて同様に実行される。また、上述の実施例1にて説明した
図12についても同様である。
【0038】
なお、予め類似度の閾値を設定し、上述の回転情報記録部123によるパターンマッチング処理の結果、得られた最大の「パンタグラフに対する類似度」が閾値未満であった場合、対象物体であるパンタグラフ9に破損或いは欠損が生じていると判定し、鉄道設備モニタリング装置1を構成する制御演算部10内の通信制御部18は、信号線L7を介して回転補正部15より入力された逆回転補正後画像を、位置情報通知モジュール30より得られる当該電車車両の位置情報と共に、通信ネットワーク3を介して、運行管理センター等の地上設備に設置される電子端末2或いはサーバへ送信すると共に、パンタグラフ9に破損或いは、欠損が生じている可能性がある旨の警告(メッセージ又はアラート)を地上運行管理センター等の地上設備に設置される電子端末2へ送信する。監視員は、当該警告により、電子端末12の画面上に表示されるパンタグラフ9の逆回転補正後画像を目視により確認することで、部品交換の必要性の判断、或いは、交換部品の準備とメンテナンス作業を行う作業員の手配等、迅速に対応することが可能となる。
なお、本実施例では、カメラ回転角度θが0°のときのステレオカメラ11にて撮像されたパンタグラフ9の原画像をテンプレートとしたがこれに限られるものではない。例えば、予め電車車両の屋根構体に設置される新品のパンタグラフ9を、所定のカメラ回転角度θ(例えば、15°)間隔にて順次ステレオカメラ11のカメラ回転角度を変化させ、ステレオカメラ11により撮像されたパンタグラフ9の原画像を、所定のカメラ回転角度θ毎のテンプレートとして用いても良い。この場合、所定のカメラ回転角度θ毎にテンプレートを対応付けて予め記憶部17に格納しておくことで、車両が運行中におけるステレオカメラ11のカメラ回転角度θに対応するテンプレートを記憶部17より読み出すことで、パターンマッチング処理が実行される。
【0039】
以上の通り本実施例によれば、実施例1の効果に加え、対象物体であるパンタグラフ9の破損或いは欠損の有無を、運行管理センター等の地上設備にて迅速に把握することが可能となり、前もって部品交換の手配或いはメンテナンススケジュール(作業員のアサイン等)の作成が可能となる。また、これまでは、所定の数か月ごとのメンテナンス作業(部品交換等)であったものが、対象物体であるパンタグラフ9の破損或いは欠損が生じた場合にのみ、メンテナンス作業(部品交換)を行う形態とすることが可能となり、保守におけるコストの低減が可能となる。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。