特許第6873870号(P6873870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6873870回転軸装置における軸受の潤滑状態診断装置及び潤滑状態診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873870
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】回転軸装置における軸受の潤滑状態診断装置及び潤滑状態診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/04 20190101AFI20210510BHJP
【FI】
   G01M13/04
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-167473(P2017-167473)
(22)【出願日】2017年8月31日
(65)【公開番号】特開2019-45259(P2019-45259A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 拓
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−259397(JP,A)
【文献】 特開2017−053649(JP,A)
【文献】 特開2016−217726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的に吐出される潤滑剤が圧縮空気により搬送されることで潤滑される軸受に支持された回転軸を有する回転軸装置において、前記軸受の潤滑状態を診断する装置であって、
前記回転軸の回転抵抗の大きさを代表する特徴量を、前記軸受の転走面に存在する潤滑剤の量が減少する区間である潤滑剤減少区間の中で互いに異なるタイミングで取得した情報に基づいて複数算出する特徴量算出手段と、
前記特徴量を算出する際に用いる前記情報を取得した前記タイミングである代表時刻が潤滑剤の吐出周期のどのタイミングであるかを示す特徴量算出時潤滑位相をそれぞれ算出する潤滑位相算出手段と、
前記特徴量算出時潤滑位相が異なる複数の前記特徴量により前記軸受の潤滑状態の判定を行う潤滑状態判定手段と、
を備えたことを特徴とする回転軸装置における軸受の潤滑状態診断装置。
【請求項2】
前記潤滑状態判定手段は、前記複数の特徴量から前記潤滑剤減少区間において回転抵抗が増加しているか否かを表わす指標を算出し、前記指標が基準値を超過した場合に潤滑不足と判断することを特徴とする請求項に記載の回転軸装置における軸受の潤滑状態診断装置。
【請求項3】
周期的に吐出される潤滑剤が圧縮空気により搬送されることで潤滑される軸受に支持された回転軸を有する回転軸装置において、前記軸受の潤滑状態を診断する装置であって、
前記回転軸の回転抵抗の大きさを代表する特徴量を、前記軸受の転走面に存在する潤滑剤の量が減少する区間である潤滑剤減少区間の中で互いに異なるタイミングで取得した情報に基づいて複数算出する特徴量算出手段と、
各前記特徴量を算出する際に用いる前記情報を取得した前記タイミングである代表時刻が、潤滑剤の吐出周期のどのタイミングであるかを示す特徴量算出時潤滑位相をそれぞれ算出する潤滑位相算出手段と、
前記特徴量と前記特徴量算出時潤滑位相とのいずれかの一方を縦軸、他方を横軸に持つグラフを表示する表示部と、
を備えたことを特徴とする回転軸装置における軸受の潤滑状態診断装置。
【請求項4】
前記回転軸の慣性運転を実行する慣性運転手段と、
前記回転軸の回転速度を検出する回転速度検出手段と、を備え、
前記特徴量算出手段は、前記慣性運転時の前記回転速度の変化様態に基づいて特徴量を算出することを特徴とする請求項1乃至の何れかに記載の回転軸装置における軸受の潤滑状態診断装置。
【請求項5】
前記慣性運転における慣性運転開始から終了までの回転速度範囲は、慣性運転中の前記回転速度範囲における前記特徴量の変動が基準値以下となるように決定することを特徴とする請求項に記載の回転軸装置における軸受の潤滑状態診断装置。
【請求項6】
周期的に吐出される潤滑剤が圧縮空気により搬送されることで潤滑される軸受に支持された回転軸を有する回転軸装置において、前記軸受の潤滑状態を診断する方法であって、
前記回転軸の回転抵抗の大きさを代表する特徴量を、前記軸受の転走面に存在する潤滑剤の量が減少する区間である潤滑剤減少区間の中で互いに異なるタイミングで取得した情報に基づいて複数算出する特徴量算出ステップと、
前記特徴量を算出する際に用いる前記情報を取得した前記タイミングである代表時刻が潤滑剤の吐出周期のどのタイミングであるかを示す特徴量算出時潤滑位相をそれぞれ算出する潤滑位相算出ステップと、
前記特徴量算出時潤滑位相が異なる複数の前記特徴量により前記軸受の潤滑状態の判定を行う潤滑状態判定ステップと、
を実行することを特徴とする回転軸装置における軸受の潤滑状態診断方法。
【請求項7】
周期的に吐出される潤滑剤が圧縮空気により搬送されることで潤滑される軸受に支持された回転軸を有する回転軸装置において、前記軸受の潤滑状態を診断する方法であって、
前記回転軸の回転抵抗の大きさを代表する特徴量を、前記軸受の転走面に存在する潤滑剤の量が減少する区間である潤滑剤減少区間の中で互いに異なるタイミングで取得した情報に基づいて複数算出する特徴量算出ステップと、
各前記特徴量を算出する際に用いる前記情報を取得した前記タイミングである代表時刻が、潤滑剤の吐出周期のどのタイミングであるかを示す特徴量算出時潤滑位相をそれぞれ算出する潤滑位相算出ステップと、
前記特徴量と前記特徴量算出時潤滑位相とのいずれかの一方を縦軸、他方を横軸に持つグラフを表示する表示ステップと、
を実行することを特徴とする回転軸装置における軸受の潤滑状態診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の主軸装置等、回転軸を軸受で軸支してなる回転軸装置において、軸受の潤滑状態を診断する診断装置及び診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受は、工作機械の主軸装置等の多くの回転軸装置に使用されている。このような軸受においては、環境への配慮、コスト削減、摩擦発熱・動力損失抑制などの理由から軸受へ供給する油剤は可能な限り少なくすることが望ましい。このような極微量油潤滑法として潤滑油を圧縮空気によって搬送するオイルエア潤滑が知られており、工作機械の高速主軸軸受の潤滑に採用されている。オイルエア潤滑を採用した回転軸装置においては、潤滑不足による焼付きなどのトラブルを避けるために、潤滑剤の供給状態や潤滑状態を把握する技術が求められている。
この技術に関し、例えば特許文献1には、オイル粒子に応じて監視感度を設定可能なセンサにより、オイル粒子の流量を潤滑剤供給路で監視し所定の流量以上流れていると信号を発する潤滑剤供給装置が示されている。
特許文献2には、供給路を流れる潤滑剤の粒子量をセンサにより監視することで潤滑不良に起因する軸受損傷を回避する軸受潤滑機構が示されている。
特許文献3には、マイクロ波の定在波による空間フィルタにより通過油滴の体積と流量から流量を算出する流量計測装置が示されている。
特許文献4には、ミキシングバルブの後の管路で特定周波数の電磁波によって潤滑油の流れを検出する手法が示されている。
特許文献5には、機械動作が一定のサイクルである可動部材の潤滑状態を、物理量と測定時間を含む連続データから動作サイクル毎のサイクルデータを抽出して代表値を算出し、代表値の時系列推移に基づき潤滑不足の有無を診断する装置が示されている。
特許文献6には、工作機械主軸を慣性運転させたときの慣性回転時間や回転抵抗を予め設定されている閾値と比較して主軸の劣化状態を判断する手法が示されている。
特許文献7には、グリース潤滑の主軸について、グリース補給後の回転トルク上昇を検出して、グリース吐出がされたか否かを判断する手法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−258263号公報
【特許文献2】特開2008−304036号公報
【特許文献3】特許第4106075号公報
【特許文献4】特許第4920518号公報
【特許文献5】特許第4956261号公報
【特許文献6】特開2016−200523号公報
【特許文献7】特開2005−344784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1乃至4の発明では、いずれも潤滑剤が供給される流路において潤滑剤粒子の通過を検出することで、検出位置までの潤滑剤供給の異常を判断することが可能となるが、検出位置より先の軸受まで潤滑剤が供給されているかどうかを判断することはできないという課題がある。また、潤滑剤の供給状態を判断するために追加のセンサを必要とするため、製造コストが増加するという課題がある。さらに、軸受の組み込み予圧や加工時の主軸速度に応じて、最適な潤滑剤の供給量は異なるため、潤滑剤の流量を監視することで潤滑状態の良否を判断することは困難であるという課題がある。
特許文献5の発明では、射出成形機のような一定のサイクルで所定の動作を繰り返す回転軸装置に関しては、潤滑状態が初期状態から逸脱したことを判定できるが、相対的な判定となるため、初期状態から潤滑状態が適正でない場合は、異常として検出できないおそれがあるといった課題がある。
特許文献6の発明では、予め慣性回転時間や回転抵抗の閾値を設定することで工作機械主軸の劣化状態を判断することができるが、その閾値を決定するためには機台差によるばらつきや季節変動等を考慮するために多くの実験を必要とするという課題がある。また、回転速度が異なると潤滑剤の排出されやすさや発熱の大きさなどが異なるため、慣性運転中に大きく回転速度が変化する場合、慣性運転中の回転抵抗の値を算出したとしても、一定の回転速度で運転する通常使用時の状態を必ずしも反映しないため、適切に診断できない恐れがあるといった課題がある。
オイルエア潤滑では潤滑状態が周期的に変動するため、特許文献7の発明のように回転トルクが増大することを検出することでオイルエア潤滑が機能していることを検出することは可能である。しかしながら、潤滑剤の過不足に限らず潤滑状態が周期的に変動するため、回転トルクが増大することを検出しても潤滑不足か否かを判断できないという課題がある。
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、周期的に吐出される潤滑剤が圧縮空気により搬送されることで潤滑される軸受に支持された回転軸を有する回転軸装置において、軸受の潤滑状態を診断する装置であって、
回転軸の回転抵抗の大きさを代表する特徴量を、軸受の転走面に存在する潤滑剤の量が減少する区間である潤滑剤減少区間の中で互いに異なるタイミングで取得した情報に基づいて複数算出する特徴量算出手段と、
特徴量を算出する際に用いる情報を取得したタイミングである代表時刻が潤滑剤の吐出周期のどのタイミングであるかを示す特徴量算出時潤滑位相をそれぞれ算出する潤滑位相算出手段と、
特徴量算出時潤滑位相が異なる複数の特徴量により軸受の潤滑状態の判定を行う潤滑状態判定手段と、を備えたことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、潤滑状態判定手段は、複数の特徴量から潤滑剤減少区間において回転抵抗が増加しているか否かを表わす指標を算出し、指標が基準値を超過した場合に潤滑不足と判断することを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、周期的に吐出される潤滑剤が圧縮空気により搬送されることで潤滑される軸受に支持された回転軸を有する回転軸装置において、軸受の潤滑状態を診断する装置であって、
回転軸の回転抵抗の大きさを代表する特徴量を、軸受の転走面に存在する潤滑剤の量が減少する区間である潤滑剤減少区間の中で互いに異なるタイミングで取得した情報に基づいて複数算出する特徴量算出手段と、
各特徴量を算出する際に用いる情報を取得した前記タイミングである代表時刻が、潤滑剤の吐出周期のどのタイミングであるかを示す特徴量算出時潤滑位相をそれぞれ算出する潤滑位相算出手段と、
特徴量と特徴量算出時潤滑位相とのいずれかの一方を縦軸、他方を横軸に持つグラフを表示する表示部と、を備えたことを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項1乃至の何れかの構成において、回転軸の慣性運転を実行する慣性運転手段と、回転軸の回転速度を検出する回転速度検出手段と、を備え、特徴量算出手段は、慣性運転時の回転速度の変化様態に基づいて特徴量を算出することを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項の構成において、慣性運転における慣性運転開始から終了までの回転速度範囲は、慣性運転中の回転速度範囲における特徴量の変動が基準値以下となるように決定することを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項に記載の発明は、周期的に吐出される潤滑剤が圧縮空気により搬送されることで潤滑される軸受に支持された回転軸を有する回転軸装置において、軸受の潤滑状態を診断する方法であって、
回転軸の回転抵抗の大きさを代表する特徴量を、軸受の転走面に存在する潤滑剤の量が減少する区間である潤滑剤減少区間の中で互いに異なるタイミングで取得した情報に基づいて複数算出する特徴量算出ステップと、
特徴量を算出する際に用いる情報を取得したタイミングである代表時刻が潤滑剤の吐出周期のどのタイミングであるかを示す特徴量算出時潤滑位相をそれぞれ算出する潤滑位相算出ステップと、
特徴量算出時潤滑位相が異なる複数の特徴量により軸受の潤滑状態の判定を行う潤滑状態判定ステップと、を実行することを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項7に記載の発明は、周期的に吐出される潤滑剤が圧縮空気により搬送されることで潤滑される軸受に支持された回転軸を有する回転軸装置において、軸受の潤滑状態を診断する方法であって、
回転軸の回転抵抗の大きさを代表する特徴量を、軸受の転走面に存在する潤滑剤の量が減少する区間である潤滑剤減少区間の中で互いに異なるタイミングで取得した情報に基づいて複数算出する特徴量算出ステップと、
各特徴量を算出する際に用いる情報を取得したタイミングである代表時刻が、潤滑剤の吐出周期のどのタイミングであるかを示す特徴量算出時潤滑位相をそれぞれ算出する潤滑位相算出ステップと、
特徴量と特徴量算出時潤滑位相とのいずれかの一方を縦軸、他方を横軸に持つグラフを表示する表示ステップと、を実行することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、周期的に吐出される潤滑剤が圧縮空気により搬送されることで潤滑される軸受に支持された回転軸を有する回転軸装置において、軸受の潤滑状態を診断する装置であって、
回転軸の回転抵抗の大きさを代表する特徴量を、異なるタイミングで複数算出する特徴量算出手段と、
特徴量を算出する際の代表時刻が潤滑剤の吐出周期のどのタイミングであるかを示す特徴量算出時潤滑位相を算出する潤滑位相算出手段と、を備えたことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、特徴量算出手段は、複数の特徴量を、軸受の転走面に存在する潤滑剤の量が減少する区間である潤滑剤減少区間の中において算出することを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成において、特徴量算出時潤滑位相が異なる複数の特徴量により軸受の潤滑状態の判定を行う潤滑状態判定手段を備えたことを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3の構成において、潤滑状態判定手段は、複数の特徴量から潤滑剤減少区間において回転抵抗が増加しているか否かを表わす指標を算出し、指標が基準値を超過した場合に潤滑不足と判断することを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れかの構成において、回転軸の慣性運転を実行する慣性運転手段と、回転軸の回転速度を検出する回転速度検出手段と、を備え、特徴量算出手段は、慣性運転時の回転速度の変化様態に基づいて特徴量を算出することを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項5の構成において、慣性運転における慣性運転開始から終了までの回転速度範囲は、慣性運転中の回転速度範囲における特徴量の変動が基準値以下となるように決定することを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6の何れかの構成において、特徴量と特徴量算出時潤滑位相とのいずれかの一方を縦軸、他方を横軸に持つグラフを表示する表示部を備えたことを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項8に記載の発明は、周期的に吐出される潤滑剤が圧縮空気により搬送されることで潤滑される軸受に支持された回転軸を有する回転軸装置において、軸受の潤滑状態を診断する方法であって、
回転軸の回転抵抗の大きさを代表する特徴量を、異なるタイミングで複数算出する特徴量算出ステップと、
特徴量を算出する際の代表時刻が潤滑剤の吐出周期のどのタイミングであるかを示す特徴量算出時潤滑位相を算出する潤滑位相算出ステップと、
特徴量算出時潤滑位相が異なる複数の特徴量により軸受の潤滑状態の判定を行う潤滑状態判定ステップと、を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、軸受に存在する潤滑剤の量が過剰な場合と過少な場合に増加し適量に近づくと減少する特性を持つ回転抵抗の大きさを代表する特徴量を、軸受転走面に存在する潤滑剤が減少するタイミングで複数回算出し、当該特徴量が増加しているか否かをみることで潤滑不足か否かを判定するため、閾値を設定するために実験をする必要がない。また、一般の回転軸装置に備え付けられた制御装置と速度検出器を用いれば、追加のセンサが不要であり、低コストで軸受の潤滑状態を適切に把握、診断することが可能となる。さらに、慣性運転中に回転抵抗が大きく変動しないように慣性運転開始から終了までの回転速度範囲を決定するため、回転速度の変化が大きすぎて通常使用時とは大きく異なる状態で診断してしまうことを防ぐことができる。
そして、回転抵抗の推移を表示すれば、潤滑状態の変動を視覚的に把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】潤滑状態診断装置の概略図である。
図2】潤滑状態診断方法のフローチャートである。
図3】回転抵抗の測定例を示すグラフである。
図4】診断動作時の回転速度波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、回転軸装置としての工作機械の主軸装置に設けられる潤滑状態診断装置の構成を示したものであり、この図に基づいて具体的に説明する。
主軸1は、転がり軸受である軸受2a,2aを介して主軸ハウジング2に対して回転可能に取り付けられており、加工を行うための工具3が固定されている。モータ4は主軸1を駆動する。加工時は、制御装置6は、回転速度検出手段としての速度検出器5で測定されたモータ4の回転速度を指令回転速度に保つようにモータ4へ供給する電流の制御を行っている。潤滑装置7は、設定された時間間隔(以後、潤滑剤吐出周期と呼称)で潤滑剤を定量吐出し、圧縮空気と混合して図示しない配管を通過して軸受2a,2aに潤滑剤を供給する。
【0010】
軸受2aの潤滑状態は潤滑剤吐出周期で変動することになるため、最新の潤滑剤吐出からの経過時間が同一であれば異なる時刻においても軸受2aの潤滑状態は同じとみなすことができる。また、潤滑剤吐出周期によらず一般的に潤滑状態が同じタイミングを議論するために、最新の潤滑剤吐出からの経過時間を潤滑剤吐出周期で割った無次元の値を潤滑位相として定義する。潤滑位相は0以上1未満の値をとり、潤滑位相が0となるタイミングで潤滑剤が吐出される。
【0011】
100は、軸受2aの潤滑状態診断装置で、記憶部8と演算部9と表示部10とを備えている。この潤滑状態診断装置100による診断動作時に、制御装置6はモータ4の回転速度を指令回転速度に保つ制御の他に、モータ4への電力供給を停止し慣性運転状態とする制御を行う。すなわち、制御装置6は慣性運転手段としても機能する。
記憶部8は、回転体の慣性モーメント、潤滑剤吐出周期、最新の潤滑剤吐出時刻、慣性運転開始予定時刻、予め設定する診断回転速度、予め設定する慣性運転開始速度、予め設定する慣性運転終了速度、慣性運転中の回転速度の時系列データ、各慣性運転開始時の潤滑位相における慣性運転を実施済みか否か、後述する特徴量算出時潤滑位相、後述する診断回転速度到達時刻の回転抵抗、診断実施日、回転抵抗の増加率、潤滑状態の判定結果を記憶する。
【0012】
演算部9は、潤滑剤吐出周期、最新の潤滑剤吐出時刻、各慣性運転開始時の潤滑位相における慣性運転を実施済みか否か、現在時刻より慣性運転開始予定時刻を算出する。また、慣性運転中の回転速度の時系列データ、診断回転速度と慣性運転中の回転速度の時系列データより診断回転速度到達時刻を算出する。さらに、潤滑剤吐出周期、最新の潤滑剤吐出時刻、診断回転速度到達時刻より特徴量算出時潤滑位相を算出する。加えて、回転体の慣性モーメント、慣性運転中の回転速度の時系列データ、診断回転速度より診断回転速度到達時刻の回転抵抗を算出する。そして、特徴量算出時潤滑位相、診断回転速度到達時刻の回転抵抗より回転抵抗の増加率を算出し、回転抵抗の増加率より潤滑状態の判定結果を算出する。すなわち、本発明の特徴量算出手段、潤滑位相算出手段、潤滑状態判定手段として機能する。
表示部10は、潤滑状態の判定結果と、潤滑位相を横軸に回転抵抗を縦軸にとった2次元グラフとを表示する。
【0013】
軸受2aに供給される潤滑剤の量は、潤滑剤が定量吐出される(潤滑位相が0の)タイミングから潤滑剤が圧縮空気により搬送されて軸受2aまで到達する時間だけ遅れたタイミングに最大となり、時間経過とともに減少する。このため、軸受転走面に存在する潤滑剤の量は、潤滑位相0のタイミングから次の0のタイミングまでに、減少→増加→減少と変化する。
一方で、回転抵抗の値は、軸受転走面に存在する潤滑剤の量が過剰な状態から適切な状態に近づくと減少し、軸受転走面に存在する潤滑剤の量が適切な状態から不足した状態に近づくと増加する特性を持つ。
以上より、回転抵抗を潤滑位相の関数としてみなすと、図3に示すように、潤滑剤吐出直前に回転抵抗の傾きが異符号となるタイミング(同図の位相1/4付近)から潤滑剤吐出直後に回転抵抗の傾きが異符号になるタイミング(同図の位相3/8付近)においては、軸受転走面に存在する潤滑剤の量が減少していることになるため、この区間もしくはこれより狭い区間(図3に示す「潤滑剤減少区間」)において回転抵抗の値が増加していれば潤滑不足状態であると判断することが可能となる。
【0014】
図2は、潤滑状態診断装置100において軸受2aの潤滑状態の診断を行うためのフローチャートを示したものであり、図4は、診断動作時の回転速度の変化と、慣性運転開始速度、診断回転速度、慣性運転終了速度、慣性運転開始時刻、診断回転速度到達時刻の関係を示している。このフローチャート及び図4に基づいて具体的に説明する。
まず、S1で、制御装置6を介して診断回転速度(ここでは4000min−1)で主軸1を回転させ、慣性運転開始時刻を待つ(S2)。S2の判別で慣性運転開始時刻となると(S2でY:YES)、S3で、回転速度を慣性運転開始速度(ここでは4100min−1)に制御して慣性運転を開始する。慣性運転中は、回転速度を時系列で記録し(S4)、慣性運転終了速度(ここでは3900min−1)に到達するのを待つ(S5)。
【0015】
S5の判別で慣性運転終了速度以下に到達したら(S5でY:YES)、S6で、回転速度を診断回転速度に制御する。そして、S7では、記録した回転速度の時系列データと回転体の慣性モーメントの値より、本診断装置で特徴量として用いる慣性運転中に診断回転速度となった時刻(以後、診断回転速度到達時刻と呼称する)における回転抵抗の値を、以下の式(1)に従い算出するとともに、代表時刻における潤滑位相(特徴量算出時潤滑位相)を、以下の式(2)に従い算出する(特徴量算出ステップ及び潤滑位相算出ステップ)。なお、本診断装置では代表時刻として診断回転速度到達時刻を用いる。角加速度は回転速度の微分である。
【0016】
回転抵抗=−1×慣性モーメント×角加速度 ・・式(1)
特徴量算出時潤滑位相=(診断回転速度到達時刻−診断回転速度到達時刻における最新の潤滑剤吐出時刻)÷潤滑剤吐出周期 ・・式(2)
【0017】
但し、S7において、1回の慣性運転の慣性運転開始速度から慣性運転終了速度の間の回転抵抗の最大値と最小値の差の回転抵抗の平均に対する比が基準値(例えば15%)を超えた場合には、回転速度の変化が大きすぎるため、一定回転数で運転する通常使用時の回転抵抗の推定ができていないと判断して、慣性運転開始速度と慣性運転終了速度の差を小さくして再度最初から診断を行う。
【0018】
次に、S8で、診断回転速度到達時刻における回転抵抗、特徴量算出時潤滑位相を記録し、今回の慣性運転開始時の潤滑位相における慣性運転を実施済みと記録する。
S9で、全ての慣性運転開始時の潤滑位相における慣性運転が実施済みとなったか否か、すなわち診断が可能か否かを判断し、実施済みでない潤滑位相が残っていれば(S9でN:NO)、慣性運転開始時刻を算出し、S2に戻る。実施済みであれば(S9でY:YES)、S10で、特徴量算出時潤滑位相と診断回転速度到達時刻の回転抵抗から、本診断装置で診断指標として用いる回転抵抗の増加率を、以下の式(3)に従い算出する。
【0019】
回転抵抗の増加率=潤滑剤減少区間における回転抵抗の傾きの平均÷潤滑剤減少区間における回転抵抗の平均 ・・式(3)
【0020】
そして、S11で潤滑状態の判定を行う(潤滑状態判定ステップ)。ここで、回転抵抗の増加率が基準値0%より大きい場合は潤滑剤減少区間において回転抵抗が増加していると判断できるため潤滑不足と判定する。
S12で、潤滑状態の推移を示す潤滑位相を横軸に回転抵抗を縦軸にとった2次元グラフと潤滑状態の診断結果とを表示部10に表示する。
【0021】
このように、上記形態の潤滑状態診断装置100によれば、演算部9が、主軸1の回転抵抗の大きさを代表する特徴量を、異なるタイミングで複数算出すると共に、当該特徴量を算出する際の代表時刻が潤滑剤の吐出周期のどのタイミングであるかを示す特徴量算出時潤滑位相を算出し、特徴量算出時潤滑位相が異なる複数の特徴量により軸受2aの潤滑状態の判定を行う。すなわち、軸受2aに存在する潤滑剤の量が過剰な場合と過少な場合に増加し適量に近づくと減少する特性を持つ回転抵抗の値を、軸受転走面に存在する潤滑剤が減少するタイミングで複数回算出し、回転抵抗が増加しているか否かをみることで潤滑不足か否かを判定するため、閾値を設定するために実験をする必要がない。また、主軸装置に備え付けられた制御装置6と速度検出器5を用いるため、追加のセンサが不要であり、低コストで軸受2aの潤滑状態を適切に把握、診断することが可能となる。さらに、慣性運転中に回転抵抗が大きく変動しないように慣性運転開始から終了までの回転速度範囲を決定するため、回転速度の変化が大きすぎて通常使用時とは大きく異なる状態で診断してしまうことを防ぐことができる。
特にここでは、回転抵抗の推移を表示部10に表示するので、潤滑状態の変動を視覚的に把握することが可能となる。
【0022】
なお、上記形態では、回転抵抗の大きさを代表する特徴量として、軸受の潤滑状態と直接的な関係のある慣性運転時の回転抵抗の値を用いたが、診断時の慣性モーメントの変化が無視できるのであれば、慣性運転時の角加速度の絶対値などを用いてもよい。
また、特徴量算出手段として、慣性運転時の角加速度と慣性モーメントの値から回転抵抗を算出する例を示したが、回転抵抗の変動を捉えるために十分な測定精度が得られるのであれば、回転速度を一定の指令回転速度に保つためにモータに供給する電力の大きさと回転速度の値から回転抵抗を算出しても良いし、回転速度を一定の指令回転速度に保つためにモータに流す電流の大きさを特徴量としても良い。この場合、特徴量は潤滑位相に対して離散的ではなく連続的に測定することも可能となる。特徴量を算出する際の代表時刻は、モータに供給する電力や電流の大きさを測定もしくは指令した時刻とすればよい。
【0023】
さらに、回転抵抗の増加率の基準値として0%の例を示したが、測定ばらつきによる誤判定を避けるために0%よりも大きな値としてもよいし、潤滑不足を確実に避けるために0%よりも小さな値としてもよい。
一方、潤滑状態分類を行うための指標として回転抵抗の増加率を用いる例を示したが、潤滑剤減少区間における回転抵抗の増減を表現した指標であればよく、潤滑剤減少区間おいて回転抵抗が増加した位相の割合などに置き換えてもよい。
慣性運転開始時刻と診断回転速度到達時刻との差の潤滑剤吐出周期に対する比が、慣性運転を開始する潤滑位相の間隔に比べて小さければ、診断回転速度到達時刻ではなく慣性運転開始時刻を代表時刻としてもよい。
またさらに、回転抵抗の増加率より潤滑状態の判定結果を算出し、判定結果を表示する例を示したが、回転抵抗の増加率や二次元グラフの表示にとどめ、表示内容から作業者が判定するようにしてもよい。
【0024】
その他、本発明の軸受の診断装置及び方法は、工作機械の主軸装置に限らず、自動車や鉄道車両、船舶等の他の機械設備の回転軸装置においても適用可能である。
【符号の説明】
【0025】
1・・主軸、2・・主軸ハウジング、2a・・軸受、3・・工具、4・・モータ、5・・速度検出器、6・・制御装置、7・・潤滑装置、8・・記憶部、9・・演算部、100・潤滑状態診断装置。
図1
図2
図3
図4