特許第6873888号(P6873888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873888
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】ガイドベーンおよび流体機械
(51)【国際特許分類】
   F03B 3/18 20060101AFI20210510BHJP
【FI】
   F03B3/18 A
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-216737(P2017-216737)
(22)【出願日】2017年11月9日
(65)【公開番号】特開2019-85972(P2019-85972A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2020年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】川尻 秀之
(72)【発明者】
【氏名】石川 慶拓
(72)【発明者】
【氏名】小山 創
(72)【発明者】
【氏名】矢田 行人
【審査官】 山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−172605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体機械のランナの外周側に設けられ、ガイドベーン回動軸線を中心に回動することにより前記ランナへの水の流量を調整するガイドベーンであって、
前記ガイドベーン回動軸線に垂直な断面において、前記ガイドベーンのランナ側翼面をなす輪郭線の曲率を、前記輪郭線が凸状に形成される場合に正の曲率とし、前記輪郭線が凹状に形成される場合に負の曲率としたとき、前記輪郭線の曲率が負の曲率となる負曲率部が前記ランナ側翼面に設けられ、
前記負曲率部は、前記ランナ側翼面の上端部から下端部にわたって形成され
前記負曲率部よりも入口端の側に、前記輪郭線の曲率が正の曲率またはゼロとなる入口側非負曲率部が設けられ、
前記負曲率部よりも出口端の側に、前記輪郭線の曲率が正の曲率となる出口側非負曲率部が設けられ、
前記入口端から前記出口端までの前記輪郭線に沿った長さをL0とし、前記入口端から任意の位置までの前記輪郭線に沿った長さをLとしたとき、前記負曲率部は、L/L0≦0.8を満たすLの範囲の少なくとも一部に形成され、前記出口側非負曲率部は、0.8<L/L0を満たすLの範囲に形成されている、ガイドベーン。
【請求項2】
前記負曲率部は、前記ランナ側翼面に全閉時に他の前記ガイドベーンが接する接点よりも前記出口端の側に配置されている、請求項1に記載のガイドベーン。
【請求項3】
前記ガイドベーン回動軸線に垂直な第1断面において、前記負曲率部における前記輪郭線の曲率の絶対値の最大値を第1曲率最大値とし、前記第1断面よりも下側に位置する前記第1断面に平行な第2断面において、前記負曲率部における前記輪郭線の曲率の絶対値の最大値を第2曲率最大値としたとき、前記第1曲率最大値よりも前記第2曲率最大値の方が大きい、請求項1または2に記載のガイドベーン。
【請求項4】
前記ランナと、
前記ランナの外周側に設けられた請求項1〜のいずれか一項に記載の前記ガイドベーンと、を備えた、流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、ガイドベーンおよび流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
流体機械には、フランシス水車または軸流水車等の水車またはポンプ水車などが存在する。ここでは典型的な流体機械の例であるフランシス水車を例にとって説明する。
【0003】
フランシス水車は、水車運転時において、上池から鉄管を通って渦巻き状のケーシングに水が流入し、ケーシングに流入した水は、ステーベーンおよびガイドベーンによって形成される流路を通ってランナに導かれる。このランナへ導かれた流水によってランナが回転駆動され、流水の圧力エネルギが回転エネルギへと変換される。ランナが回転駆動されると、ランナに主軸を介して連結された発電機が駆動され、発電が行われる。ランナを回転駆動した流水は、吸出し管を通って下池(または放水路)へ排出される。
【0004】
ガイドベーンは、ランナの外周側に設けられており、ランナ回転軸線を中心とした周方向に等間隔で配置されている。各ガイドベーンには、リンク機構が連結されており、各ガイドベーンは、ガイドベーン回動軸線を中心に回動可能に構成されている。ガイドベーンは、全閉状態から、リンク機構内で許容されている最大開度まで回動可能になっている。ガイドベーンが所望の開度になるように回動することにより、所望の発電量に見合った流量の水がランナに供給される。
【0005】
ここで、図14および図15に、ステーベーン50とガイドベーン51の平面図を示す。図14に示すように、複数のステーベーン50と複数のガイドベーン51とが、それぞれ周方向に離間しており、ステーベーン50の間の流路と、ガイドベーン51の間の流路を水が流れる。ステーベーン50およびガイドベーン51は、ケーシングからランナへの水の流れを滑らかにするような翼面形状を有している。
【0006】
ガイドベーン51は、上述したようにガイドベーン回動軸線を中心に回動し、ガイドベーン51の開度が調整される。例えば、図14に示すように、ガイドベーン51の開度が小さくなったり、図15に示すように、ガイドベーン51の開度が大きくなったりする。このような場合、ガイドベーン51に流入する水の流れの角度と、ガイドベーン51の入口角度がずれてしまい、場合によっては流れの剥離が発生する恐れがある。例えば、図14に示すように、ガイドベーン51の開度が小さい場合には、ガイドベーン51の内周側(ランナの側)で剥離が発生し得る。図15に示すように、ガイドベーン51の開度が大きい場合には、ガイドベーン51の外周側(ステーベーン50の側)で剥離が発生し得る。剥離領域は、水が流れる流路としては機能しないため、ガイドベーン51の流路は実質的に狭まることになる。このため、損失が増大するという問題がある。
【0007】
このような問題に対処するために、ガイドベーンの翼面は、ガイドベーン回動軸線に垂直な断面で見たときに、通常、流水面に対して凸状(若しくは直線状)となるように形成されており、凹面形状が存在しないように設計されている。凹状に形成した場合には流路が拡大するため、ガイドベーンの翼面近傍において境界層が発達したり流れが減速したりして剥離が発生し得るからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015−10569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ガイドベーンのランナの側に設けられたランナ側翼面と、ステーベーンの側に設けられたステーベーン側翼面がそれぞれ全体的に凸状に形成される場合、ガイドベーンの間の流路が複雑な形状を有するために、局所的に流れが増速する場合がある。このような流れの増速は、摩擦損失の増大を招くという問題がある。
【0010】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、局所的な流れの増速を緩和し、摩擦損失の増大を抑制することができるガイドベーンおよび流体機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施の形態によるガイドベーンは、流体機械のランナの外周側に設けられ、ガイドベーン回動軸線を中心に回動することによりランナへの水の流量を調整するガイドベーンである。このガイドベーンは、ガイドベーン回動軸線に垂直な断面において、ガイドベーンのランナ側翼面をなす輪郭線の曲率を、輪郭線が凸状に形成される場合に正の曲率とし、輪郭線が凹状に形成される場合に負の曲率としたとき、輪郭線の曲率が負の曲率となる負曲率部がランナ側翼面に設けられている。負曲率部は、ランナ側翼面の上端部から下端部にわたって形成されている。
【0012】
また、実施の形態による流体機械は、ランナと、ランナの外周側に設けられた上述のガイドベーンと、を備えている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、局所的な流れの増速を緩和し、摩擦損失の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、第1の実施の形態におけるフランシス水車の全体構成を示す断面図である。
図2図2は、図1のガイドベーンを示す平面断面図である。
図3図3は、図2のA部拡大図である。
図4図4は、図2のランナ側翼面の平面断面における輪郭線の曲率を示す図である。
図5図5は、比較例としての一般的なガイドベーンにおいて、ランナ側翼面の平面断面における輪郭線の曲率を示す図である。
図6図6は、凸状に形成されたランナ側翼面の近傍における流れを示す模式平面断面図である。
図7図7は、直線状に形成されたランナ側翼面の近傍における流れを示す模式平面断面図である。
図8図8は、凹状に形成されたランナ側翼面の近傍における流れを示す模式平面断面図である。
図9図9は、第2の実施の形態において、ガイドベーンが全閉した場合のステーベーンおよびガイドベーンを示す平面図である。
図10図10は、第3の実施の形態のガイドベーンにおいて、第1断面および第2断面におけるランナ側翼面の輪郭線の曲率をそれぞれ示す図である。
図11図11は、第3の実施の形態において、ガイドベーンから排出された水の流れを示す模式図である。
図12図12は、第4の実施の形態のガイドベーンにおいて、ランナ側翼面の平面断面における輪郭線の曲率を示す図である。
図13図13は、ランナ側翼面において負曲率部が出口端の近傍に設けられた場合の流れを示す平面図である。
図14図14は、一般的なフランシス水車において、ガイドベーンの開度が小さい場合のステーベーンおよびガイドベーンを示す平面図である。
図15図15は、一般的なフランシス水車において、ガイドベーンの開度が大きい場合のステーベーンおよびガイドベーンを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態におけるガイドベーンおよび流体機械について説明する。
【0016】
(第1の実施の形態)
図1図8を用いて、第1の実施の形態におけるガイドベーンおよび流体機械について説明する。ここでは、まず、図1を用いて、流体機械の一例としてのフランシス水車について説明する。
【0017】
図1に示すように、フランシス水車1は、水車運転時に上池から鉄管(いずれも図示せず)を通って水が流入する渦巻き状のケーシング2と、ケーシング2の内周側に設けられた複数のステーベーン3と、ステーベーン3の内周側に設けられた複数のガイドベーン4と、ガイドベーン4の内周側に設けられたランナ5と、を備えている。
【0018】
ステーベーン3は、周方向に離間して設けられている(図1図14図15参照)。ステーベーン3は、上カバー9と下カバー10との間に設けられており、互いに隣り合う一対のステーベーン3と上カバー9と下カバー10とによって、流路が画定されている。各流路をケーシング2から流出した水が流れ、流水はステーベーン3によって整流されてガイドベーン4に導かれる。
【0019】
ガイドベーン4は、周方向に離間して設けられている(図1図14図15参照)。ガイドベーン4は、上カバー9と下カバー10との間に設けられており、互いに隣り合う一対のガイドベーン4と上カバー9と下カバー10とによって、流路が画定されている。各流路をステーベーン3から流出した水が流れ、流水はガイドベーン4によってランナ5に導かれる。
【0020】
また、各ガイドベーン4は、ランナ5の外周側に設けられており、ランナ5への水の流量を調整可能になっている。各ガイドベーン4は、後述するランナ回転軸線Xに略平行に延びるガイドベーン回動軸線Yを中心に回動可能に構成されている。このような複数のガイドベーン4により、ガイドベーン装置11が構成されている。すなわち、ガイドベーン装置11は、複数のガイドベーン4と、各ガイドベーン4をガイドベーン回動軸線Yを中心に回動させるガイドベーン駆動部12と、各ガイドベーン4とガイドベーン駆動部12とを連結するリンク機構(図示せず)と、を有している。このようなガイドベーン装置11の構成により、各ガイドベーン4が連動して回動し、ガイドベーン4の流路面積(ガイドベーン開度)が調整可能になっている。従って、下流側に配置されたランナ5への水の流量を調整して、後述する発電機7の発電出力が調整可能になっている。
【0021】
図1に示すように、ランナ5は、ガイドベーン4からの流水によって回転駆動するように構成されている。すなわち、ランナ5は、後述する主軸6に連結されたクラウン5aと、クラウン5aの外周側に設けられたバンド5bと、クラウン5aとバンド5bとの間に設けられた複数のランナ羽根5cと、を有している。このうちランナ羽根5cは、周方向に離間して設けられており、互いに隣り合う一対のランナ羽根5cとクラウン5aとバンド5bとによって、流路が画定され、各流路をガイドベーン4から流出した水が流れる。そして、ランナ5は、ランナ回転軸線Xを中心に回転可能に構成されている。このようにして、ランナ羽根5cが、流水から圧力を受けてランナ5が回転駆動され、流水の圧力エネルギが回転エネルギへと変換される。
【0022】
ランナ5には、主軸6を介して発電機7が連結されている。この発電機7は、水車運転時には発電を行うように構成されている。
【0023】
ランナ5の下流側には、吸出し管8が設けられている。この吸出し管8は、図示しない下池(または放水路)に連結されており、ランナ5を回転駆動した水が下池に放出されるようになっている。
【0024】
フランシス水車1がポンプ水車として構成されている場合、ポンプ運転時(揚水運転時)には、発電機7が電動機としてランナ5を回転駆動する。このことにより、吸出し管8内の水が吸い上げられる。ランナ5に吸い上げられた水は、ガイドベーン4およびステーベーン3を通って、ケーシング2に流入し、ケーシング2から鉄管を通って上池に放出される。
【0025】
次に、本実施の形態によるガイドベーン4について、図2図5を用いて説明する。
【0026】
図2に示すように、ガイドベーン4は、入口端21と、出口端22と、ランナ5の側(内周側)に設けられたランナ側翼面23と、ランナ5の側とは反対側(ステーベーン3の側、外周側)に設けられたステーベーン側翼面24と、を有している。ガイドベーン4は、図14および図15に示すように、ステーベーン3から流出した水の流れに沿うように設けられている。ランナ側翼面23は、図14に示すガイドベーン51の下側の面に相当するとともに、図15に示すガイドベーン51の左下側の面に相当する。ステーベーン側翼面24は、図14に示すガイドベーン51の上側の面に相当するとともに、図15に示すガイドベーン51の右上側の面に相当する。図2に示すように、ランナ側翼面23およびステーベーン側翼面24はいずれも、入口端21から出口端22にわたって延びている。
【0027】
図2図4に示すように、ガイドベーン回動軸線Yに垂直な断面においてランナ側翼面23をなす輪郭線25の曲率が負の曲率となる負曲率部30が、ランナ側翼面23に設けられている。ここでは、この輪郭線25の曲率を、流水面に対して輪郭線25が凸状に形成される場合に正の曲率とし、輪郭線25が凹状に形成される場合に負の曲率としている。輪郭線25が直線状に形成される場合には、曲率はゼロとなる。このことについて、以下に、より詳細に説明する。
【0028】
図2は、ガイドベーン回動軸線Yに垂直な断面で見たときのガイドベーン4の平面断面図である。図3は、図2の負曲率部30を拡大して示す平面断面図である。これらの平面断面においては、ランナ側翼面23をなす輪郭線25が示されている。すなわち、輪郭線25とは、平面断面におけるランナ側翼面23の形状を示す線になっている。この輪郭線25の曲率が、図4に示されており、ランナ側翼面23の輪郭線25の一部が、負の曲率を有している。この負の曲率を有している部分が、負曲率部30となっている。ここで、図4の横軸は、入口端21から出口端22に向かう方向における位置を示している。L0は、図2に示すように、入口端21から出口端22までの輪郭線25に沿った長さを示し、Lは、入口端21から任意の位置までの輪郭線25に沿った長さに相当する変数を示している。L/L0は、入口端21からの長さを無次元化した値であり、輪郭線25上の任意の位置を示す。入口端21においてL/L0は0.0となり、出口端22においてL/L0は1.0となる。図4の縦軸は、輪郭線25の曲率を示している。
【0029】
なお、図3では図面を明瞭にするために、負曲率部30における輪郭線25の曲率を意図的に大きくして負曲率部30の形状を誇張して示している。負曲率部30の輪郭線25の曲率は、負曲率部30の近傍における流れに剥離が発生しない程度の値になっていることが好ましい。また、負曲率部30の近傍での流れを滑らかにするために、負曲率部30の輪郭線25の曲率の絶対値を、図3に示す輪郭線25の曲率の絶対値よりも小さくして、負曲率部30を滑らかな形状にしてもよい。
【0030】
負曲率部30は、ランナ側翼面23の上端部26(上カバー9の側の端部、図1参照)から下端部27(下カバー10の側の端部、図1参照)にわたって形成されている。負曲率部30における輪郭線25の曲率は、上下方向にわたって一定であってもよい。すなわち、上下方向の各位置におけるガイドベーン回動軸線Yに垂直な断面において、ランナ側翼面23をなす輪郭線25の曲率は、等しくてもよい。
【0031】
図3および図4に示すように、負曲率部30よりも入口端21の側に、輪郭線25の曲率がゼロ以上(正の曲率またはゼロ)となる入口側非負曲率部31が設けられている。また、負曲率部30よりも出口端22の側に、輪郭線25の曲率がゼロ以上(正の曲率またはゼロ)となる出口側非負曲率部32が設けられている。すなわち、本実施の形態では、負曲率部30から入口端21にわたって輪郭線25の曲率はゼロ以上になっているとともに、負曲率部30から出口端22にわたって輪郭線25の曲率はゼロ以上になっている。負曲率部30の輪郭線25に沿った長さL1(図3参照)は、例えば、0.03×L0〜0.2×L0である。
【0032】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について説明する。
【0033】
本実施の形態によるフランシス水車1において水車運転を行う場合、上池から鉄管を通ってケーシング2に水が流入する。ケーシング2に流入した水は、ケーシング2からステーベーン3およびガイドベーン4を通ってランナ5に流入する。このランナ5へ流入した水によって、ランナ5が回転駆動される。このことにより、ランナ5に連結された発電機7が駆動され、発電が行われる。ランナ5に流入した水は、ランナ5から吸出し管8を通って、下池(または放水路)へ放出される。
【0034】
水車運転の間、ステーベーン3から流出した水はガイドベーン4に流入する。
【0035】
ここで、一般的なガイドベーンでは、図5に示すように、ランナ側翼面をなす輪郭線の曲率は、入口端から出口端にわたってゼロよりも大きく、正の曲率になっている。この場合、ランナ側翼面が全体的に凸状に形成されるため、局所的に流れが増速する場合が考えられる。この流れの増速は、摩擦損失の増大を招くという問題がある。このことについて、図6図8を用いてより詳細に説明する。
【0036】
互いに隣り合う一対のガイドベーン4の間の流路は、複雑な形状を有するため、局所的に流れが増速する場合がある。例えば、図6に示すように、ランナ側翼面23が水の流路に向かってに凸状に形成されている場合には、ランナ側翼面23の近傍において流れが増速し得る。また、図7に示すように、ランナ側翼面23の輪郭線が直線状に形成されている場合であっても、流路形状が複雑になっていると、局所的な増速が起こり得る。
【0037】
そこで、本実施の形態によるガイドベーン4では、図8に示すように、ランナ側翼面23のうち流れが増速している部分を凹状に形成する。このことにより、増速箇所の流路断面積(流れの方向に垂直な断面積)を増大させることができ、流れの増速を緩和することができる。なお、ランナ側翼面23のうち流れが増速している部分は、例えば、数値解析を行うことによって知ることができる。そして、当該部分の輪郭線25の曲率の値は、流れの増速を緩和可能にするとともに、流れの剥離が発生しないように、数値解析によって決定することができる。
【0038】
このように本実施の形態によれば、ガイドベーン4のランナ側翼面23に、ガイドベーン回動軸線Yに垂直な断面においてランナ側翼面23の輪郭線25の曲率が負の曲率となる負曲率部30が設けられている。このことにより、ガイドベーン4の流路において局所的な流れの増速を緩和することができ、摩擦損失の増大を抑制できる。この場合、フランシス水車1の効率を向上させることができる。
【0039】
また、本実施の形態によれば、負曲率部30が、ランナ側翼面23の上端部26から下端部27にわたって形成されている。このことにより、上下方向の各位置において、局所的な流れの増速を緩和することができ、摩擦損失の増大をより一層抑制することができる。
【0040】
また、本実施の形態によれば、負曲率部30よりも入口端21の側に、輪郭線25の曲率がゼロ以上となる入口側非負曲率部31が設けられている。このことにより、入口端21の近傍において輪郭線25の曲率が負の曲率になることを回避できる。ここで、入口端21の近傍の部分は、ガイドベーン4に流入する水が衝突し、衝突した水の流れをランナ側翼面23およびステーベーン側翼面24に回り込ませる部分になっている。この部分には、ガイドベーン4の開度に応じて様々な方向から水が衝突する。このことにより、入口端21の近傍に負曲率部30が形成されることを回避することで、入口端21の近傍に流れの剥離が発生することを防止できる。このため、フランシス水車1の効率をより一層向上させることができる。
【0041】
また、本実施の形態によれば、負曲率部30よりも出口端22の側に、輪郭線25の曲率がゼロ以上となる出口側非負曲率部32が設けられている。このことにより、出口端22の近傍において負曲率部30が形成されることを回避できる。
【0042】
ここで、ガイドベーン4の出口端22の近傍において、ガイドベーン4の厚み(流れに垂直な方向の寸法)が大きいと、当該出口端22の下流側に形成される低速領域である後流が大きくなる。この場合、後流と主流との混合により発生する損失が大きくなるため、ガイドベーン4の出口端22の近傍における厚みは、強度を確保できる範囲内で小さく設計される。このため、厚みの小さい部分において、ランナ側翼面23に負曲率部30を設けると、ステーベーン側翼面24が外周側に膨らむようになり(図13参照)、凸状の程度が大きくなる(正の曲率の絶対値が大きくなる)。この場合、ステーベーン側翼面24の近傍において境界層が発達し、後流の幅が大きくなり得る。また、流れがステーベーン側翼面24に沿わずに剥離が発生することも考えられる。
【0043】
これに対して本実施の形態によれば、出口端22の近傍において負曲率部30が形成されることを回避できる。このことにより、ガイドベーン4の出口端22の厚みが大きくなることを防止でき、後流が大きくなることを防止できる。また、厚みの小さい出口端22の近傍においてステーベーン側翼面24が外周側に増大することを防止できる。このため、出口端22の近傍に流れの剥離が発生することを防止でき、フランシス水車1の効率をより一層向上させることができる。
【0044】
(第2の実施の形態)
次に、図9を用いて、本発明の第2の実施の形態におけるガイドベーンおよび流体機械について説明する。
【0045】
図9に示す第2の実施の形態においては、負曲率部が、ランナ側翼面に全閉時に他のガイドベーンが接する接点よりも出口端の側に配置されている点が主に異なり、他の構成は、図1〜8に示す第1の実施の形態と略同一である。なお、図9において、図1図8に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0046】
図9は、ガイドベーン4の全閉時に、互いに隣り合う一対のガイドベーン4が接した状態を示している。すなわち、ガイドベーン4のランナ側翼面23に、このランナ側翼面23に隣り合う他のガイドベーン4の出口端22が接点28で接している。これにより、ガイドベーン4の流路が閉ざされ、ランナ5への水の流れを遮断している。
【0047】
本実施の形態においては、負曲率部30が、ランナ側翼面23に全閉時に他のガイドベーン4が接する接点28よりも出口端22の側に配置されている。
【0048】
より具体的には、ガイドベーン回動軸線Yに垂直な断面において、入口端21から接点28までの輪郭線25に沿った長さをLs(図2参照)としたとき、
Ls/L0<L/L0
を満たすLの範囲の少なくとも一部に、負曲率部30が形成されている。
【0049】
言い換えると、L/L0≦Ls/L0を満たすLの範囲は入口側非負曲率部31によって構成されている。この範囲には、負曲率部30は形成されていない。入口側非負曲率部31は、Ls/L0<L/L0を満たすLの範囲にも連続して形成されていてもよい。
【0050】
ここで、接点28は、一例として、
0.05≦L/L0≦0.15
の範囲にある。
【0051】
このように本実施の形態によれば、ガイドベーン回動軸線Yに垂直な断面において、ランナ側翼面23に全閉時に他のガイドベーン4が接する接点28よりも出口端22の側に、負曲率部30が配置されている。このことにより、入口端21から接点28までの範囲を、入口側非負曲率部31によって構成することができ、この範囲に、負曲率部30が形成されることを回避できる。ここで、入口端21から接点28までの部分は、ガイドベーン4に流入する水が衝突し、衝突した水の流れをランナ側翼面23およびステーベーン側翼面24に回り込ませる部分になっている。この部分には、ガイドベーン4の開度に応じて様々な方向から流水が衝突する。このため、入口端21から接点28までの範囲に負曲率部30が形成されることを回避することで、当該範囲に流れの剥離が発生することを防止できる。この結果、フランシス水車1の効率をより一層向上させることができる。
【0052】
(第3の実施の形態)
次に、図10および図11を用いて、本発明の第3の実施の形態におけるガイドベーンおよび流体機械について説明する。
【0053】
図10および図11に示す第3の実施の形態においては、ガイドベーン回動軸線に垂直な第1断面において、負曲率部における輪郭線の曲率の絶対値の最大値を第1曲率最大値とし、第1断面よりも下側に位置する第1断面に平行な第2断面において、負曲率部における輪郭線の曲率の絶対値の最大値を第2曲率最大値としたとき、第1曲率最大値よりも第2曲率最大値の方が大きい点が主に異なり、他の構成は、図1〜8に示す第1の実施の形態と略同一である。なお、図10および図11において、図1図8に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0054】
図10に示すように、本実施の形態においては、ガイドベーン回動軸線Yに垂直な第1断面における負曲率部30Aの輪郭線25の第1曲率最大値よりも、ガイドベーン回動軸線Yに垂直な第2断面における負曲率部30Bの輪郭線25の第2曲率最大値の方が大きくなっている。第1曲率最大値は、第1断面(例えば、図11に示す断面A−A)において、負曲率部30Aにおける輪郭線25の曲率の絶対値の最大値である。第2曲率最大値は、第2断面(例えば、図11に示す断面B−B)において、負曲率部30Bにおける輪郭線25の曲率の絶対値の最大値である。第2断面は、第1断面よりも下側(下端部27の側)に位置する第1断面に平行な断面である。なお、便宜上、第1断面における負曲率部の符号を30Aで示し、第2断面における負曲率部の符号を30Bで示している。
【0055】
図10に示す例では、第1断面における負曲率部30Aの輪郭線25に沿った長さよりも、第2断面における負曲率部30Bの輪郭線25に沿った長さの方が長くなっている。そして、輪郭線25に沿った長さ方向の各位置において、第1断面における負曲率部30Aの輪郭線25の曲率の絶対値よりも、第2断面における負曲率部30Bの輪郭線25の曲率の絶対値の方が大きくなっている。このため、第1断面における負曲率部30Aの輪郭線25よりも、第2断面における負曲率部30Bの輪郭線25の方が、凹みの程度が大きくなっている。負曲率部30の輪郭線25の曲率の絶対値は、上端部26(図11参照)から下端部27に向かって徐々に大きくするようにしてもよい。
【0056】
図11に示すように、ガイドベーン4から流出した水はランナ5に流入し、ランナ5から流出する際には、水の流れは下向きに変わる。このことにより、ガイドベーン4から流出する水は、下側(下端部27の側、バンド5bの側)に偏る傾向にある。すなわち、ガイドベーン4を通過する水の流速も、下側において増大する傾向になる。このため、流速が増大する傾向にある下側において、負曲率部30の曲率の絶対値が大きくなっている。
【0057】
このように本実施の形態によれば、第1断面における負曲率部30Aの第1曲率最大値よりも、第1断面よりも下側に位置する第2断面における負曲率部30Bの第2曲率最大値の方が大きくなっている。このことにより、負曲率部30のうち、流速が増大する傾向にある下端部27の側の部分において、負曲率部30の曲率の絶対値を大きくすることができる。このため、負曲率部30による流れの増速緩和作用を効果的に高めることができる。この結果、摩擦損失の増大をより一層抑制することができ、フランシス水車1の効率をより一層向上させることができる。
【0058】
(第4の実施の形態)
次に、図12および図13を用いて、本発明の第4の実施の形態におけるガイドベーンおよび流体機械について説明する。
【0059】
図12および図13に示す第4の実施の形態においては、負曲率部が、L/L0≦0.8を満たすLの範囲の少なくとも一部に形成されている点が主に異なり、他の構成は、図9に示す第2の実施の形態と略同一である。なお、図12および図13において、図9に示す第2の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0060】
図12に示すように、本実施の形態においては、
L/L0≦0.8
を満たすLの範囲の少なくとも一部に、負曲率部30が形成されている。
【0061】
言い換えると、0.8<L/L0を満たすLの範囲は、出口側非負曲率部32によって構成されている。この範囲には、負曲率部30は形成されていない。出口側非負曲率部32は、図12に示すように、L/L0≦0.8を満たすLの範囲にも連続して形成されていてもよい。
【0062】
一方、L/L0≦Ls/L0を満たすLの範囲は、入口側非負曲率部31によって構成されているが、この入口側非負曲率部31は、図12に示すように、Ls/L0<L/L0を満たすLの範囲にも連続して形成されていてもよい。
【0063】
ここで、ガイドベーン4の出口端22の側の部分において、ガイドベーン4の厚み(流れに垂直な方向の寸法)が大きいと、当該出口端22の下流側に形成される低速領域である後流が大きくなる。この場合、後流と主流との混合により発生する損失が大きくなるため、ガイドベーン4の出口端22の側の部分における厚みは、強度を確保できる範囲内で小さく設計される。このため、厚みの小さい部分において、ランナ側翼面23に負曲率部30を設けると、図13に示すように、ステーベーン側翼面24が外周側に膨らむようになり、凸状の程度が大きくなる(正の曲率の絶対値が大きくなる)。この場合、ステーベーン側翼面24の近傍において境界層が発達し、後流の幅が大きくなり得る。また、流れがステーベーン側翼面24に沿わずに剥離が発生することも考えられる。
【0064】
これに対して本実施の形態によれば、0.8<L/L0を満たすLの範囲が、出口側非負曲率部32によって構成されている。このことにより、この範囲に、負曲率部30が形成されることを回避できる。このため、後流が大きくなることを防止できるとともに、ステーベーン側翼面24の近傍において剥離が発生することを防止できる。この結果、フランシス水車1の効率をより一層向上させることができる。
【0065】
以上述べた実施の形態によれば、局所的な流れの増速を緩和し、摩擦損失の増大を抑制することができる。
【0066】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、当然のことながら、本発明の要旨の範囲内で、これらの実施の形態を、部分的に適宜組み合わせることも可能である。
【0067】
なお、上述した実施の形態では、流体機械の一例としてフランシス水車を例にとって説明したが、このことに限られることはなく、フランシス水車以外の流体機械にも、本発明によるガイドベーンおよび流体機械を適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1:フランシス水車、4:ガイドベーン、5:ランナ、21:入口端、22:出口端、23:ランナ側翼面、24:ステーベーン側翼面、25:輪郭線、26:上端部、27:下端部、28:接点、30:負曲率部、31:入口側非負曲率部、32:出口側非負曲率部、Y:ガイドベーン回動軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
図13
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図15