(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873903
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】強毒型クロストリジウムディフィシル株の存在を検出するための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20210510BHJP
C12Q 1/682 20180101ALI20210510BHJP
C12Q 1/689 20180101ALI20210510BHJP
C12R 1/145 20060101ALN20210510BHJP
【FI】
C12N15/09 ZZNA
C12Q1/682 Z
C12Q1/689 Z
C12R1:145
【請求項の数】33
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-533269(P2017-533269)
(86)(22)【出願日】2015年12月18日
(65)【公表番号】特表2017-538434(P2017-538434A)
(43)【公表日】2017年12月28日
(86)【国際出願番号】FI2015050911
(87)【国際公開番号】WO2016097491
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2018年12月13日
(31)【優先権主張番号】20146124
(32)【優先日】2014年12月19日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】515002355
【氏名又は名称】モビディアグ オイ
【氏名又は名称原語表記】MOBIDIAG OY
(74)【代理人】
【識別番号】100116838
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 潤三
(72)【発明者】
【氏名】キルヴェスカリ,ユハ
(72)【発明者】
【氏名】クルケラ,ヤーッコ
【審査官】
林 康子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/087135(WO,A1)
【文献】
Database Genbank[online], Accession No. AF109075.2, <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/15011953?sat=46&satkey=22035906>22-DEC-2006 uploaded, [retrieved 01 Nov 2019]
【文献】
Database Genbank[online], Accession No. BK008007.1, <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/ BK008007>22-SEP-2011 uploaded, [retrieved 01 Nov 2019]
【文献】
実験医学別冊 バイオマニュアルUPシリーズ PCR法の最新技術,株式会社 羊土社,1996年,18-19頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00〜3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的サンプル中の強毒型クロストリジウム ディフィシル(Clostridium difficile)株の027型リボタイプ、016型リボタイプ又は176型リボタイプの存在を検出するための方法であって、
生物学的サンプルから抽出したDNAをテンプレートとし、C.ディフィシル(C. difficile)hydR 遺伝子中の標的配列の増幅に特異的な第1オリゴヌクレオチドプライマーセット(ただし、該 hydR 遺伝子は配列番号1の配列を有する)と、配列番号2のC.ディフィシル配列を有する標的配列の少なくとも一部の増幅に特異的な第2オリゴヌクレオチドプライマーセットとを用いる核酸増幅反応を行い、そして
該生物学的サンプル中の強毒型クロストリジウム ディフィシル(Clostridium difficile)株の027型リボタイプ、016型リボタイプ又は176型リボタイプの存在を検出する、ただし、第1オリゴヌクレオチドプライマーセットは特異的な産物を増幅せず第2オリゴヌクレオチドプライマーセットは特異的な産物を増幅するときに該強毒型クロストリジウム ディフィシル株が検出されるものである
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
該強毒型クロストリジウム ディフィシル株がクロストリジウム ディフィシル株027型リボタイプのクロストリジウム ディフィシル株であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該生物学的サンプル中のC.ディフィシル hydR 遺伝子DNAの存在が該クロストリジウム ディフィシル株027型リボタイプが該生物学的サンプル中に存在しないことの指標であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第1オリゴヌクレオチドプライマーセットのためのC.ディフィシル特異的標的配列が配列番号1のC.ディフィシル hydR 遺伝子中のヌクレオチド領域であって、該ヌクレオチド領域の少なくとも一部が特異的に増幅されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
第1オリゴヌクレオチドプライマーセットが、配列番号3のヌクレオチド配列中の少なくとも18個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドと、配列番号4のヌクレオチド配列中の少なくとも18個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドとを含むことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
第1オリゴヌクレオチドプライマーセットが、配列番号3のヌクレオチド配列を含むかそれからなるオリゴヌクレオチドと、配列番号4のヌクレオチド配列を含むかそれからなるオリゴヌクレオチドとを含むことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
第1オリゴヌクレオチドプライマーセットにより増幅される標的配列の存在を、配列番号7のヌクレオチド配列中の少なくとも18個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるプローブを用いて検出することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
第1オリゴヌクレオチドプライマーセットにより増幅される標的配列の存在を、配列番号7のヌクレオチド配列を含むかそれからなるプローブを用いて検出することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
第2オリゴヌクレオチドプライマーセットが、配列番号5のヌクレオチド配列中の少なくとも18個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドと、配列番号6のヌクレオチド配列中の少なくとも18個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドとを含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
第2オリゴヌクレオチドプライマーセットが、配列番号5のヌクレオチド配列を含むかそれからなるオリゴヌクレオチドと、配列番号6のヌクレオチド配列を含むかそれからなるオリゴヌクレオチドとを含むことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第2オリゴヌクレオチドプライマーセットにより増幅される標的配列の存在を、配列番号8又は9のヌクレオチド配列を含むかそれからなるプローブを用いて検出することを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
該核酸増幅反応がC.ディフィシル毒素B遺伝子(tcdB)の増幅に特異的な第3オリゴヌクレオチドプライマーセットをさらに用い、配列番号10のヌクレオチド領域の少なくとも一部が該核酸増幅反応において特異的に増幅されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
第3オリゴヌクレオチドプライマーセットが、配列番号11のヌクレオチド配列中の少なくとも18個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドと、配列番号12のヌクレオチド配列中の少なくとも18個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドとを含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
第3オリゴヌクレオチドプライマーセットが、配列番号11のヌクレオチド配列を含むかそれからなるオリゴヌクレオチドと、配列番号12のヌクレオチド配列を含むかそれからなるオリゴヌクレオチドとを含むことを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
第3オリゴヌクレオチドプライマーセットにより増幅される標的配列の存在を、配列番号13のヌクレオチド配列中の少なくとも18個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるプローブを用いて検出することを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
第3オリゴヌクレオチドプライマーセットにより増幅される標的配列の存在を、配列番号13のヌクレオチド配列を含むかそれからなるプローブを用いて検出することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
該生物学的サンプルが糞便サンプル又は食品サンプルであることを特徴とする、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
強毒型クロストリジウム ディフィシル株の検出を、DNAチップ、ゲル電気泳動、放射線測定、蛍光測定又は燐光測定によって行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
該方法をリアルタイムPCRアッセイによって行うことを特徴とする、請求項1〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
生物学的サンプル中の強毒型クロストリジウム ディフィシル(Clostridium difficile)株の027型リボタイプ、016型リボタイプ又は176型リボタイプの存在を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマーセットであって、
配列番号3のヌクレオチド配列中の少なくとも18個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドと、配列番号4のヌクレオチド配列中の少なくとも18個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドとを含み、C.ディフィシル hydR 遺伝子中の標的配列を増幅し、
さらに、配列番号5のヌクレオチド配列中の少なくとも18個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドと、配列番号6のヌクレオチド配列中の少なくとも18個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドとを含み、C.ディフィシル ゲノム中の標的配列を増幅する
ことを特徴とする、オリゴヌクレオチドプライマーセット。
【請求項21】
配列番号5のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドと、配列番号6のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドとを含むことを特徴とする、請求項20に記載のオリゴヌクレオチドプライマーセット。
【請求項22】
配列番号5のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号6のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドとを含むことを特徴とする、請求項21に記載のオリゴヌクレオチドプライマーセット。
【請求項23】
配列番号8又は9のヌクレオチド配列中の少なくとも18個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるプローブをさらに含むことを特徴とする、請求項20〜22のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプライマーセット。
【請求項24】
該プローブが配列番号8又は9のヌクレオチド配列を含むかそれからなることを特徴とする、請求項23に記載のオリゴヌクレオチドプライマーセット。
【請求項25】
さらに、配列番号11のヌクレオチド配列中の少なくとも18個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドと、配列番号12のヌクレオチド配列中の少なくとも18個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドとを含み、C.ディフィシル tcdB 遺伝子中の標的配列を増幅することを特徴とする、請求項20〜24のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプライマーセット。
【請求項26】
配列番号11のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドと、配列番号12のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドとを含むことを特徴とする、請求項25に記載のオリゴヌクレオチドプライマーセット。
【請求項27】
配列番号11のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号12のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドとを含むことを特徴とする、請求項26に記載のオリゴヌクレオチドプライマーセット。
【請求項28】
配列番号13のヌクレオチド配列中の少なくとも18個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるプローブをさらに含むことを特徴とする、請求項25〜27のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプライマーセット。
【請求項29】
該プローブが配列番号13のヌクレオチド配列を含むかそれからなることを特徴とする、請求項28に記載のオリゴヌクレオチドプライマーセット。
【請求項30】
請求項20〜29のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプライマーセットの、生物学的サンプル中の強毒型クロストリジウム ディフィシル株の027型リボタイプ、016型リボタイプ又は176型リボタイプの存在を検出するための使用。
【請求項31】
該生物学的サンプルが糞便サンプル又は食品サンプルであることを特徴とする、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
生物学的サンプル中の強毒型クロストリジウム ディフィシル株の027型リボタイプ、016型リボタイプ又は176型リボタイプを検出するためのキットであって、請求項20〜29のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプライマーセットと、核酸の増幅を行うための試薬とを含むキット。
【請求項33】
該試薬がDNAポリメラーゼ、dNTP及びバッファーからなる群より選ばれることを特徴とする、請求項32に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅に基づく診断アッセイの分野に関する。さらに詳しくは、本発明は、生物学的サンプル(たとえば糞便サンプル)中の強毒型クロストリジウム ディフィシル(
Clostridium difficile)株、好ましくは毒素産生性クロストリジウム ディフィシル株027型リボタイプ、を検出するための、PCRに基づく方法を提供する。本発明は、強毒型クロストリジウム ディフィシル株の負のマーカーに特異的なオリゴヌクレオチドプライマー及びオリゴヌクレオチドプローブ並びに正のマーカーに特異的なオリゴヌクレオチドプライマー及びオリゴヌクレオチドプローブの使用に基づく。
【背景技術】
【0002】
C.ディフィシル(
C.
difficile)感染(CDI)は、毒素媒介性の腸疾患である。CDIの臨床結果は、無症候性定着(無症候性保菌)から、重度の下痢、腹痛、発熱、白血球増加などのより重度の疾患症候群までにわたる。C.ディフィシルは、入院して抗生治療を受けた後の患者に発生する感染性下痢の主因であると認識されている。したがって、CDIは現在、医療関連感染症の最も重要なものの1つであると考えられている。さらに、C.ディフィシルの非院内関連の感染源も現れており、また、C.ディフィシルは動物宿主の間で広がることができる(Deneve et al., 2009; Rupnik et al, 2009)。
【0003】
現在のC.ディフィシル検査方法には、細胞毒素産生培養法、C.ディフィシルによって産生される毒素A及び毒素Bを検出する細胞毒性アッセイ(CYT)、C.ディフィシルの tcdB 遺伝子を検出するためのPCRに基づくアッセイ、C.ディフィシル特異的グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)を検出するためのアッセイなどが含まれる(Eastwood et al., 2009)。
【0004】
先行技術において、PCRに基づく検査は、C.ディフィシルを含むサンプルの迅速なスクリーニング及び同定のための、信頼できる、高感度で特異的な診断手段であることが判明している(Eastwood et al., 2009; Hirvonen et al., 2013; Houser et al., 2010 及び WO2012087135)。工業的には、WO2010116290(Philips)に開示された方法が用いられている。この方法は、細胞毒素遺伝子である tcdB 遺伝子の存在又は不存在及び tcdC 遺伝子における欠失を分析することによって毒素産生性C.ディフィシル株を検出するためのマルチプレックスPCRアッセイに関する。
【0005】
毒素産生性クロストリジウム ディフィシル株を検出するための、PCRに基づく数多くのアッセイが既に開示されているけれども、依然としてこの分野において、強毒型であるこれらのC.ディフィシル株の検出のための高い特異性及び信頼性を提供することができるPCRアッセイが必要とされている。本発明者らは、この度、強毒型クロストリジウム ディフィシル株の負のマーカー及び正のマーカーの特異的で高感度の増幅に驚くべきほどよく適する、クロストリジウム ディフィシルゲノムのDNA配列領域の位置を突き止めた。
【0006】
下痢の診断におけるサンプルマトリックスは一般に糞便サンプル又は食品サンプルであるが、このようなサンプルマトリックスは数多くのPCR阻害剤を含有する可能性が高い。それによりPCR反応の増幅効率が低下するので、アンプリコン設計段階から、更に注意深い最適化を行い、全てのテンプレートとコピー数が均等に且つ充分効率的に増幅されることを確認することが期待される。したがって、高いPCR効率(できる限り100%に近いことが最適である)を可能にするオリゴヌクレオチド設計が必要である。用いられる検出方法も増幅効率及び/又は増幅の偏りに影響を与える可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、下痢性の強毒型クロストリジウム ディフィシル株を特異的且つ高感度に増幅及び定量するのに好適なDNA配列領域の位置を突き止めた。アンプリコンは、どんなマルチプレックスセットにおいても互いに組み合わせ可能である特異性を持つように設計した。当然、その前提条件として、開示する全てのアンプリコンはまた、同じ反応及びサイクル条件において増幅するように設計した。本発明の目的は、強毒型クロストリジウム ディフィシルのためのスクリーニング検査である抗原検査や培養に代えて、豊富な情報のまとまりを迅速に提供することによって実験室的及び臨床的利益のためのプロセス改善を提供して、患者管理の向上をもたらすことにある。さらに、もし臨床的微生物学実験室が非毒素産生性C.ディフィシルと強毒型C.ディフィシルとを容易に区別することができるのであれば、感染制御に役立ち得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの目的は、生物学的サンプル中の強毒型クロストリジウム ディフィシル株の存在を検出するための方法であって、生物学的サンプルから抽出したDNAをテンプレートとし、C.ディフィシル hydR 遺伝子中の標的配列の増幅に特異的な第1オリゴヌクレオチドプライマーセット(ただし、該 hydR 遺伝子は配列番号1の配列を有する)と、配列番号2のC.ディフィシル配列を有する標的配列の少なくとも一部の増幅に特異的な第2オリゴヌクレオチドプライマーセットとを用いる核酸増幅反応を行うことを特徴とする方法を提供することである。
【0009】
本発明の別の1つの目的は、配列番号3のヌクレオチド配列中の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドと、配列番号4のヌクレオチド配列中の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドとを含み、C.ディフィシル hydR 遺伝子中の標的配列を増幅することを特徴とするオリゴヌクレオチドプライマーセットを提供することである。
【0010】
本発明の別の1つの目的は、配列番号5のヌクレオチド配列中の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドと、配列番号6のヌクレオチド配列中の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドとを含み、C.ディフィシル ゲノム中の標的配列を増幅することを特徴とするオリゴヌクレオチドプライマーセットを提供することである。
【0011】
本発明の別の1つの目的は、配列番号11のヌクレオチド配列中の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドと、配列番号12のヌクレオチド配列中の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドとを含み、C.ディフィシル tcdB 遺伝子中の標的配列を増幅することを特徴とするオリゴヌクレオチドプライマーセットを提供することである。
【0012】
本発明の別の1つの目的は、生物学的サンプル中の強毒型クロストリジウム ディフィシル株を検出するためのキットであって、上記のオリゴヌクレオチドプライマーセットと、核酸増幅反応において核酸の増幅を行うための試薬とを含むキットを提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法の目的は、強毒型C.ディフィシル及び再発性疾患に関連する027型リボタイプの定量的な同定のための主要な微生物学的スクリーニング検査として役立てることである。本発明の方法は、好ましくは、濃縮培養を用いず、生物学的サンプル(たとえば糞便サンプル)から直接抽出したDNAを用いて行われる。本発明の方法は、好ましくは、強毒型クロストリジウム ディフィシルの検出及び同定に対応する核酸マーカーや毒素産生性027型リボタイプに選択的なマーカーの検出を目的とする、PCRに基づくC.ディフィシルアッセイ(たとえば、qPCR(定量PCR)アッセイ、又は核酸に基づく定量マルチプレックス
in vitro 診断検査)である。
【0014】
本願明細書において、核酸サンプル中に存在する「標的配列」とは、「プライマー」によってプライムされ伸長されるC.ディフィシルDNAの鎖を言う。標的配列は、一本鎖でもよいし、相補的な配列との二本鎖でもよい。本発明における標的配列は、本願明細書に記載される増幅反応の前に或る程度精製されることが好ましい。
【0015】
本願明細書において、「オリゴヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ヌクレオ塩基、又は、DNA増幅方法において試薬として用いる関連化合物(たとえば、プライマー及びプローブ)が、2個又は3個以上結合してなるポリマーを意味する。オリゴヌクレオチドは、DNAでもよいし、RNAでもよいし、それらのアナログでもよいし、これらのいずれか2つ以上の混合物でもよい。「オリゴヌクレオチド」という用語は、試薬としての特定の機能を有することを意味するものではなく、本願明細書に記載される試薬を総称的に表すものである。以下、本発明の特異的オリゴヌクレオチドについてさらに詳しく説明する。本願明細書において、オリゴヌクレオチドは、実質的にどんな長さのものであってもよく、単に、DNA増幅反応における特異的な機能によって限定されるだけである。一定の配列と化学構造とを有するオリゴヌクレオチドは、当業者に知られている技術、たとえば、化学的・生化学的合成、組み換え核酸分子(細菌ベクター、ウイルスベクターなど)を用いた
in vitro 発現又は
in vivo 発現などの技術によって製造することができる。オリゴヌクレオチドは、その望ましい機能が損なわれない限り、どのような修飾を施してもよい。当業者は、本発明のオリゴヌクレオチドに施される修飾が適切ないし望ましいものであるかどうかを容易に判断することができる。修飾の例として、塩基修飾、糖修飾及び骨格修飾が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明のためのオリゴヌクレオチドの設計及び配列決定は、以下に説明する機能に応じてなされるものであるが、一般にはいくつかの変数を考慮しなければならない。これらの変数の中で最も重要なものは、長さ、G/C含有量、融解温度(Tm)、ギブス自由エネルギー(G)、特異性、自己相補性、系の中に存在する他のオリゴヌクレオチドとの相補性、ポリピリミジン伸長(T、Cの場合)又はポリプリン伸長(A、Gの場合)、3'−末端配列、などである。上記の変数及び他の変数を制御することは、オリゴヌクレオチドの設計において標準的で周知な操作であって、容易に入手できる各種のコンピュータープログラムを用いて、候補としての多数のオリゴヌクレオチドのスクリーニングを行って最適のものを選び出すことができる。
【0016】
本願明細書において、「PCR反応」、「PCR増幅をする」又は「PCR増幅」という用語は、相補鎖にハイブリダイズするプライマーを用いた、サイクル的な、ポリメラーゼに媒介される核酸の指数関数的な増幅を総称するものである。これについては、たとえば、Innis et al, PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press (1990) を参照することができる。特定の波長の光線を放出することができる蛍光指示薬を含む組成物との熱サイクル反応を行い、蛍光色素の強度を読み取り、各サイクル後の蛍光強度を表示することができる装置が開発されている。増幅産物は、標的核酸配列又はその相補体との配列同一性を有する配列を含み、その検出は、たとえば、当該標的核酸配列又はその相補体の或る領域に対して特異性を有する挿入色素(intercalating dye)又は検出プローブを用いて行うことができる。本発明におけるPCR反応は、好ましくは、リアルタイムPCRアッセイとして行う。
【0017】
本願明細書において、「プローブ」という用語は、増幅の表示となるシグナル分子を意味する。このような分子は数多くあり、どのようなものでもよい。検出プローブの例として、SYBR(登録商標)Green や、他のDNA結合色素を挙げることができる。検出プローブは、配列に基づくプローブ(5'−ヌクレアーゼプローブなど)であってもよい。多様な検出プローブが当分野において知られており、例として、TaqMan(登録商標)プローブが挙げられる(米国特許第 5,538,848 号を参照)。プローブの融解温度(Tm)は、修飾ヌクレオチドの付加によって上昇させることができる。1つのプローブにおける修飾ヌクレオチドの数は、好ましくは1、2、3、4又は5以上である。修飾ヌクレオチドは、LNAヌクレオチド(Exiqon A/S)、小溝結合剤(MGB(登録商標))、超塩基(SuperBase)、ペプチド核酸(PNA)、又は、プローブの融解温度(Tm)を上昇させる他の修飾物であってもよい。
【0018】
当業者は、増幅される標的配列、即ちアンプリコンは、当然、関連する株の相互間で変異が存在することを知っている。この小さな変異は、本発明の方法において当該アンプリコンを増幅するのに適当なプライマーを設計する際に考慮することができる。好ましくは、配列番号1、2及び10からなる群より選ばれる標的アンプリコンの各々において、少なくとも50、60、70、80、90又は100ヌクレオチド長の配列が本発明の方法において増幅される。
【0019】
好ましくは、プライマー及びプローブは、請求の範囲において定義される配列であって、そのヌクレオチド長は30、35、40、45、50又は55より小さい。さらに好ましくは、そのヌクレオチド長は50より小さい。本発明のプライマー及びプローブの各々は、配列番号3〜9及び11〜13からなる群より選ばれるプライマー配列又はプローブ配列の任意のものの中の少なくとも10、15、16、17、18、19又は20個の連続したヌクレオチドからなるものであってもよいし、配列番号3〜9及び11〜13からなる群より選ばれる配列を含むものであってもよい。
【0020】
本発明は、生物学的サンプル中の強毒型クロストリジウム ディフィシル株の存在を検出するための方法に関する。好ましくは、本発明の方法は、リアルタイムPCRアッセイである。本発明の方法は、DNAチップ、ゲル電気泳動、放射線測定、蛍光測定又は燐光測定によって行うことができる。当業者は、本発明のプライマー及びプローブを、PCR又は核酸増幅反応を利用する他の方法及びプラットフォームに用いてもよい。生物学的サンプルは、たとえば、糞便サンプル、環境サンプル又は食品サンプルであってよい。
【0021】
本発明の方法は、生物学的サンプルから抽出したDNAをテンプレートとし、C.ディフィシル hydR 遺伝子中の標的配列の増幅に特異的な第1オリゴヌクレオチドプライマーセット(ただし、該 hydR 遺伝子は配列番号1の配列を有する)と、配列番号2のC.ディフィシル配列を有する標的配列の少なくとも一部の増幅に特異的な第2オリゴヌクレオチドプライマーセットとを用いる核酸増幅反応を行う工程を含む。好ましくは、本発明の方法は、増幅される標的配列を検出することができる任意の方法を用いて生物学的サンプル中の強毒型クロストリジウム ディフィシル株の存在を検出する工程を含む。
【0022】
サンプル中の強毒型クロストリジウム ディフィシル株は、第1オリゴヌクレオチドプライマーセットが特異的な産物を増幅せず、即ち、hydR 遺伝子中の標的配列が強毒型クロストリジウム ディフィシル株の負のマーカーであって、第2オリゴヌクレオチドプライマーセットが特異的な産物を増幅する、即ち、C.ディフィシル ゲノム中の、第2オリゴヌクレオチドプライマーセットによって標的とされる配列が強毒型クロストリジウム ディフィシル株の正のマーカーであるときに、検出される。
【0023】
本発明の方法によって検出される最も重要な強毒型クロストリジウム ディフィシル株は、毒素産生性クロストリジウム ディフィシル株027型リボタイプである。したがって、本発明の方法は特に、このクロストリジウム ディフィシル株の検出に関する。しかし、サンプル中のC.ディフィシル hydR 遺伝子DNAの存在は、クロストリジウム ディフィシル株027型リボタイプが検査した当該サンプル中に存在しないこと、又は、毒素産生性クロストリジウム ディフィシル株027型リボタイプの存在に加えて別の種類のクロストリジウム ディフィシル株が当該サンプル中に存在することの指標である。しかし、当業者は、027型リボタイプ株には分類されない強毒型C.ディフィシル株があることを知っているので、本発明は強毒型027型リボタイプ類似のクロストリジウム ディフィシル株の検出にも関する。
【0024】
好ましくは、第1オリゴヌクレオチドプライマーセットは、C.ディフィシル hydR 遺伝子を標的とし、配列番号1の配列を有する該 hydR 遺伝子を増幅し、この増幅反応において該配列の少なくとも一部が特異的に増幅される。さらに好ましくは、第1オリゴヌクレオチドプライマーセットは、配列番号3のヌクレオチド配列中の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドと、配列番号4のヌクレオチド配列中の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドとを含み、これらのオリゴヌクレオチドプライマーは、配列番号1の配列を有する該 hydR 配列の少なくとも一部を増幅する。最も好ましくは、第1オリゴヌクレオチドプライマーセットは、配列番号3のヌクレオチド配列を含むかそれからなるオリゴヌクレオチドと、配列番号4のヌクレオチド配列を含むかそれからなるオリゴヌクレオチドとを含む。
【0025】
第1オリゴヌクレオチドプライマーセットにより増幅される標的配列の存在は、配列番号7のヌクレオチド配列中の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるプローブを用いて、好ましくは配列番号7のヌクレオチド配列を含むかそれからなるプローブを用いて、検出することができる。
【0026】
C.ディフィシル ゲノム中の、第2オリゴヌクレオチドプライマーセットの標的配列は、推定接合トランスポゾン(conjugative transposon)DNA組換えタンパク質をコードする遺伝子に対応する。好ましくは、第2オリゴヌクレオチドプライマーセットは、配列番号5のヌクレオチド配列中の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドと、配列番号6のヌクレオチド配列中の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドとを含む。さらに好ましくは、第2オリゴヌクレオチドプライマーセットは、配列番号5のヌクレオチド配列を含むかそれからなるオリゴヌクレオチドと、配列番号6のヌクレオチド配列を含むかそれからなるオリゴヌクレオチドとを含む。
【0027】
第2オリゴヌクレオチドプライマーセットによって増幅される標的配列を検出するための、それぞれ配列番号8及び9のヌクレオチド配列を有するプローブは、競合プローブとして、それぞれ配列番号8及び9のヌクレオチド配列の第12位に対応する位置におけるC.ディフィシル ゲノムのG/A多型を検出するために同一反応において用いることができる。第2オリゴヌクレオチドプライマーセットにより増幅される標的配列の存在は、配列番号7のヌクレオチド配列中の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるプローブを用いて検出することができ、これによりG/A多型が検出される。好ましくは、第2オリゴヌクレオチドプライマーセットにより増幅される標的配列は、配列番号8又は9のヌクレオチド配列を含むかそれからなるプローブを用いて検出される。
【0028】
本発明における核酸増幅反応は、C.ディフィシル毒素B遺伝子(tcdB)の増幅に特異的な第3オリゴヌクレオチドプライマーセットをさらに含んでいてもよい。第3オリゴヌクレオチドプライマーセットは、配列番号10のヌクレオチド領域の少なくとも一部を増幅する。
【0029】
好ましくは、第3オリゴヌクレオチドプライマーセットは、配列番号11のヌクレオチド配列中の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドと、配列番号12のヌクレオチド配列中の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるオリゴヌクレオチドとを含む。
【0030】
さらに好ましくは、第3オリゴヌクレオチドプライマーセットは、配列番号11のヌクレオチド配列を含むかそれからなるオリゴヌクレオチドと、配列番号12のヌクレオチド配列を含むかそれからなるオリゴヌクレオチドとを含む。
【0031】
第3オリゴヌクレオチドプライマーセットにより増幅される標的配列の存在は、配列番号13のヌクレオチド配列中の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含むかそれからなるプローブを用いて、好ましくは配列番号13のヌクレオチド配列を含むかそれからなるプライマーを用いて、検出される。
【0032】
本発明はまた、オリゴヌクレオチドプライマーセット、即ち、上記の第1、第2又は第3オリゴヌクレオチドプライマーセット又はそれらの組合せを構成するものとして定義されたオリゴヌクレオチドプライマーの集合にも関する。オリゴヌクレオチドプライマーセットは、当該プライマーセットとともに用いるものとして定義されたプローブを含んでいてよい。本発明はまた、これらのオリゴヌクレオチドプライマーセットの、生物学的サンプル(たとえば、糞便サンプル又は食品サンプル)中の強毒型クロストリジウム ディフィシル株の存在を検出するための使用にも関する。
【0033】
本発明はまた、生物学的サンプル中の強毒型クロストリジウム ディフィシル株を検出するためのキットを提供する。本発明のキットは、上記のオリゴヌクレオチドプライマーセットと、核酸の増幅を行うための試薬とを含んでよい。好ましくは、試薬はDNAポリメラーゼ、dNTP及びバッファーからなる群より選ばれる。
【0034】
本発明の別の1つの態様は、修飾ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドプライマー及びオリゴヌクレオチドプローブを用いた、生物学的サンプル中の強毒型クロストリジウム ディフィシル株の存在を検出するための方法である。通常、修飾ヌクレオチドの使用は、特異性を損なうことなくオリゴヌクレオチドプライマー又はオリゴヌクレオチドプローブを短くすることができる。1つのプライマー又はプローブにおける修飾ヌクレオチドの数は、好ましくは1、2、3、4又は5以上である。修飾ヌクレオチドは、LNAヌクレオチド(Exiqon A/S)、小溝結合剤(MGB(登録商標))、超塩基(SuperBase)、ペプチド核酸(PNA)、又は、当該オリゴヌクレオチドに対して同一の効果を与えるヌクレオチド修飾を有する修飾ヌクレオチドであってもよい。この方法は、上記の又は請求の範囲に記載した方法と実質的に同一の工程を含むが、少なくとも1つの修飾プライマー又は修飾プローブを用いて行う。この方法において用いるプライマー及びプローブの例は、以下のものである。
プライマーペアー1(hydR 遺伝子の検出のためのもの):配列番号3の配列を有するプライマーと配列番号4の配列を有するプライマー。対応するプローブは、配列番号7の配列を有する。
プライマーペアー2(推定接合トランスポゾン(pct)の検出のためのもの):配列番号5の配列を有するプライマーと配列番号6の配列を有するプライマー。対応するプローブは、CTG T
AG A
TT T
CG G
TA CGA(配列番号14)という配列を有する(下線を付したヌクレオチドは、LNAなどの修飾ヌクレオチドである)。
プライマーペアー3(tcdB 遺伝子の検出のためのもの):配列番号11の配列を有するプライマーと配列番号12の配列を有するプライマー。対応するプローブは、配列番号13の配列を有する。
【0035】
したがって、当業者は、上記のうち任意のプライマー又はプローブの長さを、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを用いて同様の方法で短くすることができることを理解する。
【0036】
本発明の背景を説明するために(特に、本発明の実施に関して追加的な詳細を提供するために)本願明細書で用いられた刊行物及び他の資料は、言及によって本願明細書に組み入れられたものとする。以下の実施例において本発明をさらに説明するが、実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0038】
この実施例では、本発明のアッセイを用いて、毒素産生性C.ディフィシル株と非毒素産生性C.ディフィシル株の両方を検出した。異なる37種類のリボタイプを代表する合計48個の特徴付けされたサンプルを試験した。この試験では、027型リボタイプ及びそれと遺伝的に非常に近縁のリボタイプを排除した。
【0039】
このアッセイは、標的パネル(表1)を増幅する1つのマルチプレックスPCR反応を含む。毒素産生性C.ディフィシル株の同定と強毒型C.ディフィシル株の識別は、以下のマーカーの組合せの検出に基づく。毒素マーカー:tcdB 遺伝子は毒素Bをコードする。027型リボタイプの負のマーカー:hydR 遺伝子は TetR ファミリーの転写制御タンパク質をコードする。027リボタイプ型の正のマーカー:pct 遺伝子は、推定接合トランスポゾンDNA組換えタンパク質をコードする。プライマーとプローブは表9に定義される。
【0040】
C.ディフィシルのアッセイは、種々の異なる毒素産生性C.ディフィシル株について正の結果を与え、また、非毒素産生性C.ディフィシル株については負の結果を与えるはずである。包括性(inclusivity)(分析的反応性(analytical reactivity))をテストして、パネルに含まれる標的間の潜在的な遺伝的変異を説明する。この実施例は、よく特徴付けされた株を用いるC.ディフィシルqPCR(定量PCR)アッセイの包括性の結果を記述する。
【0041】
【表1】
【0042】
材料と方法
1.1 標的細菌株のリスト
C.ディフィシルのアッセイは胃腸感染症を引き起こす病原体をカバーする。非毒素産生性C.ディフィシルと毒素B産生性C.ディフィシルとをカバーするこの包括性研究では、異なる37種類のリボタイプを代表する合計48個の特徴付けされたサンプルを試験した。細菌株のリストを表2に示す。この試験では、027型リボタイプ及び遺伝的にそれと非常に近縁のリボタイプを排除した。
【0043】
細菌株は商業的に利用可能なバイオバンク(ATCC、DSMZ、及び Microbiologics 社)から収集した。DNAサンプルは100ng/μl未満の濃度で試験した。
【0044】
【表2】
【0045】
1.2 試薬と機器
定量PCR(qPCR)試薬:
qPCR Mastermix(Mobidiag 社製)
C.ディフィシル定量PCR用プライマーとプローブからなるアッセイ混合物
【0046】
装置:
Stratagene MxPro 3000
【0047】
PCRセットアップ:
反応用液において:
10μl 2× Mastermix
5μl 4× Primer mix
5μlサンプル/陽性対照(pos. control)DNA mix/DNA抽出対照/H
2O
(合計量は20μl)
PCRプログラム
【0048】
結果
【0049】
【表3】
【0050】
対照の相関性
− 正の対照は陽性として検出される
− 負の対照は陰性として検出される
− 内部増幅対照(Internal Amplification Control)は全てのサンプルで検出される
【0051】
結論
39個の毒素産生性株は、全て正しく「ToxB+」と同定された。9個の非毒素産生性株は、全て正しく「Negative」(「陰性」)と同定された。誤って「027型リボタイプ」として同定された株(ToxB+、pct+、hydR−)は無かった。
対照は予想通りに同定され、結果の信頼性が裏付けられた。
【実施例2】
【0052】
この実施例では、027型リボタイプを識別する本発明の機能を試験した。027型リボタイプと遺伝的に非常に近縁のリボタイプ(016型リボタイプと176型リボタイプ)をサンプルに含めた。
【0053】
材料と方法
DNA抽出
単離されたC.ディフィシルのDNAを以下のようにして抽出した。
細菌株培養物のコロニーを1×PBSバッファーに最終濃度約1.5×10
8CFU/ml(参照:マクファーランド標準濁度0.5)で懸濁させた。100μlの細菌株懸濁液をオフボード(off-board)の細胞溶解工程に付した後、NucliSENS EasyMAG 装置(bioMerieux 社製)を製造者の Generic 2.0.1 program 用プロトコルに従って用いてDNAの自動化抽出を行った。DNAを100μlの溶出バッファーに溶出した。抽出系列には抽出対照(Extraction Control)、即ち、C.ディフィシル(非毒素産生性株)を含めた。
【0054】
リアルタイムPCRと分析
PCR反応を実施例1と同様に行った。内部増幅対照、正のPCR対照、及び負のPCR対照を試験系列に含めた。
【0055】
合計で18個の異なる027型リボタイプ株、1個の016型リボタイプ株、及び1個の176型リボタイプ株を試験した。
【0056】
【表4】
【0057】
このアッセーは、18個の異なる027型リボタイプ株の全てを正しく陽性に同定し、また、016型リボタイプ株と176型リボタイプ株を陽性に同定した。こうして、このアッセーは、027型リボタイプ株を027+(陽性)に同定したことに加えて、それと遺伝的に近縁である016型リボタイプ株と176型リボタイプ株を検出した。
【実施例3】
【0058】
この実施例では、本発明の方法を、027型リボタイプ陽性と推定されるC.ディフィシルを検出するための従来技術の方法と比較した。本発明のアッセイを Xpert C. difficile/Epi 試験(Cepheid 社)と比較した。
【0059】
Xpert C. difficile/Epi 試験(Cepheid 社)は、tcdC 遺伝子中の欠失を検出して027型リボタイプ陽性推定と判定する。
【0060】
合計で11個の異なる株(11個の異なるリボタイプを代表する)を両者の方法で試験し、結果を比較した。
【0061】
【表5】
【0062】
試験された株には027型リボタイプは含まれなかったにもかかわらず、Xpert C. difficile/Epi 試験では、5個の株が毒素産生性C.ディフィシル陽性、027型リボタイプ陽性推定と判定された。これら5つの株のうち、本発明の方法で027型リボタイプ陽性と判定されたのは2個だけであり、先行技術の方法に比べて027型リボタイプと非027型リボタイプの識別効果が向上していることが示された。なお、これら2個の株(016型リボタイプ株と176型リボタイプ株)は強毒型C.ディフィシルと近縁性が高いことが知られている(Knetsch et al., 2011)。
【0063】
本発明におけるマーカーを同定した結果、予想通り、9個の株が、ToxB+(ToxB陽性)と正しく判定され、027+(027型陽性)とは判定されなかった。まとめると、027型陰性の推定に関して、本発明のアッセイでは、9/11個の株が正しく027−(027型陰性)と同定され、一方、Xpert C. difficile/Epi 試験では、6/11個の株が正しく027−(027型陰性)と同定された。
【実施例4】
【0064】
本発明の方法の作業工程は、糞便サンプルからの核酸の抽出(NucliSens easyMAG)、リアルタイムPCR増幅、及び標遺伝子領域の検出、並びに結果の分析からなる。
【0065】
この実施例では、毒素産生性C.ディフィシルの異なる複数株を糞便バックグラウンドにおけるスパイク サンプルとして試験した。合計35個の異なる株を用いた。各株をC.ディフィシルについて陰性の糞便サンプルにスパイク添加した。糞便サンプルからDNAを抽出して、表6−1と表6−2に示すように、株の濃度が7.5CFU/反応用液又は75CFU/反応用液となるように定量PCR(qPCR)反応用液を作製した。全てのサンプルを2回の反応で試験した。
【0066】
結果として、全てのケースで株が正しく陽性と同定された。
【0067】
【表6-1】
【0068】
【表6-2】
【実施例5】
【0069】
この実施例では、交差反応によりC.ディフィシルの定量PCR(qPCR)アッセイの結果に生じる潜在的な偽陽性についての研究結果を述べる。この計画アッセイのためのサンプル材料は糞便サンプルである。したがって、胃腸感染に関連する病原体(細菌、ウイルス、及び寄生生物)で、アッセイパネルでカバーされていないものは、潜在的な交差反応を引き起こし得る。また、片利共生フローラに含まれる細菌も交差反応する可能性がある。さらに、アッセイ標的パネルに含まれる病原体を交差反応研究に含める理由は、標的病原体のみが検出されるべきであり、他の標的との間の交差反応は起きるべきではないからである。
【0070】
材料と方法
試薬、装置、及びサンプル
定量PCR(qPCR)試薬:
qPCR Mastermix (MM)(Mobidiag 社製)
C.ディフィシル定量PCR用プライマーとプローブからなるアッセイ混合物(表9を参照)
【0071】
装置:
Stratagene Mxp 3000
【0072】
PCRセットアップ:
反応用液において:
10μl 2× MM
5μl 4× Primer mix
5μlサンプル/陽性対照(Pos. Control)DNA mix/H
2O
(合計量は20μl)
陽性対照(Pos. Control)=テンプレート混合物
【0073】
サンプル:
127種類の病原体から抽出したDNA(又はRNA)。株は、主に、商業的に利用可能なバイオバンク(ATCC、DSMZ、Microbiologics 社、Qnostics 社、及び Vircell 社)から収集した。一部の株は、Mobidiag 社のバイオバンクから取得したもので、これらの株は、元々は患者サンプルから精製し、HUSLAB(ヘルシンキ大学中央病院研究所(Helsinki University central hospital laboratory))で特徴付けされたものである。
DNAの定量は、16S rRNA アッセイ又は NanoDrop で行った。
【0074】
【表7-1】
【0075】
【表7-2】
【0076】
【表7-3】
【0077】
対照の相関性
− 正の対照は陽性として検出された
− 負の対照は陰性として検出された
【0078】
結果
交差反応性試験では偽陽性は示されなかった。
【0079】
【表8】
【0080】
【表9】
【0081】
文献
Deneve, C., Janoira, C., Poilaneb, I., Fantinatob, C., and Collignon, A., New trends in
Clostridium difficile virulence and pathogenesis, International Journal of Antimicrobial Agents, 2009 33:24-28.
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Clostridium difficile Toxin Detection Assays, a Real-Time PCR Assay for
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difficile tcdB, and a Glutamate Dehydrogenase Detection Assay to Cytotoxin Testing and Cytotoxigenic Culture Methods, J. Clin. Microbiol., Oct. 2009, p. 3211?3217.
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Clostridium difficile in Fecal Specimens, J. Clin. Microbiol. 2013, 51(9):2908. DOI: 10.1128/JCM.01083-13.
Houser, BA., Hattel, AL., and Jayarao, BM., Real-Time Multiplex Polymerase Chain Reaction Assay for Rapid Detection of
Clostridium difficile Toxin-Encoding Strains, Foodborne Pathogens And Disease, 2010, 7(6):719-726.
Knetsch, CW., Hensgens, MPM., Harmanus, C., van der Bijl, MW., Savelkoul, PHM., Kuijper, EJ., Corver J., and van Leeuwen, HC., Genetic markers for
Clostridium difficile lineages linked to hypervirulence, Microbiology (2011), 157, 3113?3123.
Rupnik, M., Wilcox, MH. and Gerding, DN,
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]