特許第6873904号(P6873904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873904
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】キサンチンオキシダーゼ阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/40 20060101AFI20210510BHJP
   A61K 31/409 20060101ALI20210510BHJP
   A61K 31/555 20060101ALI20210510BHJP
   A61K 38/42 20060101ALI20210510BHJP
   A61K 35/18 20150101ALI20210510BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20210510BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210510BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20210510BHJP
   C07D 207/333 20060101ALI20210510BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   A61K31/40
   A61K31/409
   A61K31/555
   A61K38/42
   A61K35/18 A
   A61P19/06
   A61P43/00 111
   A23L33/10
   C07D207/333CSP
   C12N9/99
【請求項の数】14
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-537867(P2017-537867)
(86)(22)【出願日】2016年8月26日
(86)【国際出願番号】JP2016075084
(87)【国際公開番号】WO2017038723
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2019年8月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-169753(P2015-169753)
(32)【優先日】2015年8月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508359158
【氏名又は名称】ILS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100188651
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 広介
(72)【発明者】
【氏名】松 田 周 作
(72)【発明者】
【氏名】岡 周 作
【審査官】 榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−073768(JP,A)
【文献】 特開平04−013680(JP,A)
【文献】 WEESEPOEL,Y. et al,Preliminary UHPLC-PDA-ESI-MS screening of light-accelerated autoidation products of the tetrapyrrole,Food Chemistry,2015年 4月15日,Vol.173,p.624-628,Abstract, Fig.4のCompound 9等
【文献】 TU,B. et al,Novel Linear Tetrapyrroles: Hydrogen Bonding in Diacetylenic Bilirubins,Monatshefte fur Chemie,2004年,Vol.135,p.519-541,Summary, Scheme 1のCompound 9b等
【文献】 Journal of Organic Chemistry,2003年,Vol.68,No.23,p.8950-8963
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 35/00−35/768
A61K 38/00−38/58
A61P 1/00−43/00
A23L 33/00−33/29
C12N 9/99
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される化合物またはその経口上許容可能な塩を含んでなる、キサンチンオキシダーゼ阻害剤:
【化1】
(式中、Rは、OHまたはHである)。
【請求項2】
テトラピロール含有物分解産物またはその抽出物を配合したものである、請求項1に記載のキサンチンオキシダーゼ阻害剤であって、前記テトラピロール含有物が、赤血球、ヘモグロビン、葉緑体、ヘミン、プロトポルフィリン、ヘマトポルフィリン、ビリルビン、クロロフィル、およびクロロフィリンからなる群から選択される少なくとも一つのものである、阻害剤。
【請求項3】
1回の経口摂取量単位の形態である、請求項1または2に記載の剤。
【請求項4】
血中尿酸低下剤である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の剤。
【請求項5】
尿酸の過剰生成または排泄低下に起因する疾患または状態の治療剤である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の剤。
【請求項6】
高尿酸血症の治療剤である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の剤。
【請求項7】
組成物である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の剤。
【請求項8】
飲食品または医薬品である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の剤。
【請求項9】
テトラピロール含有物分解産物またはその抽出物を剤中に配合することを特徴とする、キサンチンオキシダーゼ阻害剤の製造方法であって、
前記テトラピロール含有物が、赤血球、ヘモグロビン、ヘミン、プロトポルフィリン、ヘマトポルフィリン、ビリルビン、およびクロロフィリンからなる群から選択される少なくとも一つのものであり、
前記テトラピロール含有物の分解が、過酸化水素を用いた酸化反応、システイン、グルタチオン、またはジチオスレイトールを用いた還元反応、およびエンド型プロテアーゼを用いた酵素反応からなる群から選択される少なくとも一つの反応により行われるか、あるいは、
前記テトラピロール含有物分解産物またはその抽出物が、式(I)で表される化合物またはその経口上許容可能な塩を含んでなる、方法:
【化2】
(式中、Rは、OHまたはHである)。
【請求項10】
前記キサンチンオキシダーゼ阻害剤が、式(I)で表される化合物またはその経口上許容可能な塩を含んでなる、請求項9に記載の方法:
【化3】
(式中、Rは、OHまたはHである)。
【請求項11】
キサンチンオキシダーゼ阻害剤の製造における、テトラピロール含有物分解産物またはその抽出物の使用であって、
前記テトラピロール含有物が、赤血球、ヘモグロビン、ヘミン、プロトポルフィリン、ヘマトポルフィリン、ビリルビン、およびクロロフィリンからなる群から選択される少なくとも一つのものであり、
前記テトラピロール含有物の分解が、過酸化水素を用いた酸化反応、システイン、グルタチオン、またはジチオスレイトールを用いた還元反応、およびエンド型プロテアーゼを用いた酵素反応からなる群から選択される少なくとも一つの反応により行われるか、あるいは、
前記テトラピロール含有物分解産物またはその抽出物が、式(I)で表される化合物またはその経口上許容可能な塩を含んでなる、使用:
【化4】
(式中、Rは、OHまたはHである)。
【請求項12】
前記キサンチンオキシダーゼ阻害剤が、式(I)で表される化合物またはその経口上許容可能な塩を含んでなる、請求項11に記載の使用:
【化5】
(式中、Rは、OHまたはHである)。
【請求項13】
前記キサンチンオキシダーゼ阻害剤が、尿酸の過剰生成または排泄低下に起因する疾患または状態の治療剤である、請求項11または12に記載の使用。
【請求項14】
式(I)で表される化合物またはその経口上許容可能な塩:
【化6】
(式中、Rは、である)。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本特許出願は、2015年8月28日に出願された日本国特許出願2015−169753号に基づく優先権の主張を伴うものであり、かかる先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、新規なキサンチンオキシダーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、食の欧米化やアルコール摂取量の増加と共に生活習慣病の増加が懸念されている。その中で、通常より血清尿酸値が高い状態を高尿酸血症というが、この状態が原因で引き起こされる痛風は、関節液中に尿酸が結石化して炎症を起こし、親指の付け根、足首、足の甲、膝、アキレス健などに激しい痛みを伴う疾患として知られている(非特許文献1)。
【0004】
国民生活基準調査(2004年)によると、痛風患者数は87万人を超えており、1986年と比べ3.4倍に急増している。また、高尿酸血症は、腎障害、尿路結石などの尿酸塩沈着症の原因となり、年齢・性別は問わず血清尿酸値が7.0mg/dLを超えると高尿酸血症と定義される。近年の調査によると、成人男性における高尿酸血症の頻度は21.5〜26.2%とされ30歳以降で30%に達していると推定され、問題となっている。また、女性の場合、高尿酸血症の頻度は50歳未満で1.3%、50歳以降で3.7%と男性に比べ低頻度であるが、女性の場合、血清尿酸値が7.0mg/dL以下であっても、血清尿酸値の上昇とともに生活習慣病のリスクが高まるとされ、総死亡の相対危険度の上昇を伴う可能性が指摘されている。
【0005】
高尿酸血症には病型の分類があり、「尿酸生産過剰型」、「尿酸排泄低下型」、「混合型」に大別される。薬物治療において、尿酸排泄促進薬としてはプロベネシド、ベンズブロマロンなどがあり、尿酸生成抑制薬としては代表としてアロプリノールがある。また、同じく尿酸生成抑制薬として2011年5月よりフェブキソスタットが処方可能となった。病型に合わせた薬剤選択が基本原則にあるが、尿路結石の既往ないし合併がある場合は「尿酸排泄低下型」であっても尿酸生成抑制薬を選択する必要がある。この尿酸生成抑制薬は、生体内ではプリン体の代謝産物であるキサンチンから尿酸を生成する酵素(キサンチンオキシダーゼ(xanthine oxidase:XOD)、以下、XODともいう)の活性を阻害する物質であり、尿酸の生成を抑制することによって血清尿酸値を低減・抑制する。しかしながら、これらの薬物では高い血清尿酸値の減少効果が期待できるが、重篤な腎機能および肝機能障害等の副作用も考慮しなければならない。現時点で薬物治療が必要としないレベルの無症状の高尿酸血症の患者においては、生活習慣の改善とプリン体の多い食品の摂取、アルコール類やカロリーの過剰摂取を避ける指導等で対処されている(非特許文献2)。
【0006】
高尿酸血症の状態は将来的に重篤な疾患に発展していく可能性があり、生活習慣の改善等の努力は言うまでもないが、血清尿酸値の低減作用を有する機能性物質が含まれる食品や尿酸値低減剤の摂取によって、より積極的に血清尿酸値をコントロールできる素材が求められている。これまでの特許文献、学術論文等において血清尿酸値低減作用があるとされている物質の多くは植物由来で、ポリフェノール類が殆どである。その尿酸値低減作用はポリフェノール類によるXOD阻害効果による。例外的に動物由来のアンセリン類に尿酸値低減作用があるとされているが、その作用機序はXOD阻害の場合とは異なり不明確な面もある。特に、天然物由来のXOD阻害物質で医薬品のアロプリノールの活性を超えた報告はない。
【0007】
また、テトラピロール含有物分解産物またはその抽出物と、XOD阻害活性作用との関係についても何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】New Current 22(4) 2011
【非特許文献2】高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版) 2012年追補
【0009】
本発明は、XODの活性を効果的に阻害する新たな技術的手段を提供することをその目的としている。
【0010】
本発明者らは、今般、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物またはそれら由来の特定化合物を用いて、XODを効果的に阻害しうることを見出した。
【0011】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)式(I)で表される化合物またはその経口上許容可能な塩を含んでなる、キサンチンオキシダーゼ阻害剤:
【化1】
(式中、Rは、OHまたはHである)。
(2)テトラピロール含有物分解産物またはその抽出物を含有させて得られたものである、(1)に記載のキサンチンオキシダーゼ阻害剤。
(3)1回の経口摂取量単位の形態である、(1)または(2)に記載の剤。
(4)血中尿酸低下剤である、(1)〜(3)のいずれか一つに記載の剤。
(5)尿酸の過剰生成または排泄低下に起因する疾患または状態の治療剤である、(1)〜(4)のいずれか一つに記載の剤。
(6)高尿酸血症の治療剤である、(1)〜(5)のいずれかに記載の剤。
(7)組成物である、(1)〜(6)のいずれか一つに記載の剤。
(8)飲食品または医薬品である、(1)〜(7)のいずれか一つに記載の剤。
(9)式(Ia)で表される化合物またはその経口上許容可能な塩:
【化2】
(10)テトラピロール含有物分解産物またはその抽出物を剤中に配合することを特徴とする、キサンチンオキシダーゼ阻害剤の製造方法。
(11)上記テトラピロール含有物が、赤血球、ヘモグロビン、ヘミン、プロトポルフィリン、ヘマトポルフィリン、ビリルビンおよびクロロフィリンからなる群から選択される少なくとも一つのものである、(10)に記載の方法。
(12)上記テトラピロール含有物の分解が、酸化反応、還元反応および酵素反応からなる群から選択される少なくとも一つの反応により行われる、(10)または(11)に記載の方法。
(13)上記キサンチンオキシダーゼ阻害剤が、式(I)で表される化合物またはその経口上許容可能な塩を含んでなる、(10)に記載の方法:
【化3】
(式中、Rは、OHまたはHである)。
(14)キサンチンオキシダーゼ阻害剤の製造における、テトラピロール含有物分解産物またはその抽出物の使用。
(15)前記キサンチンオキシダーゼ阻害剤が、式(I)で表される化合物またはその経口上許容可能な塩を含んでなる、(14)に記載の使用:
【化4】
(式中、Rは、OHまたはHである)。
(16)前記キサンチンオキシダーゼ阻害剤が、尿酸の過剰生成または排泄低下に起因する疾患または状態の治療剤である、(14)または(15)に記載の使用。
(17)式(I)で表される化合物またはその経口上許容可能な塩の有効量を、それを必要とする対象に摂取させることを含む、尿酸の過剰生成または排泄低下に起因する疾患または状態の治療方法:
【化5】
(式中、Rは、OHまたはHである)。
(18)キサンチンオキシダーゼ阻害のため、または尿酸の過剰生成もしくは排泄低下に起因する疾患もしくは状態の治療のための、式(I)で表される化合物またはその経口上許容可能な塩:
【化6】
(式中、Rは、OHまたはHである)。
【0012】
本発明によれば、XODを効果的に阻害することができる。また、本発明は、高尿酸血症等の対象において血中尿酸を効果的に低下させる上で有利に利用することができる。さらに、本発明は、尿酸の過剰生成または排泄低下に起因する疾患または状態を治療する上で有利に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】種々のpHに調整されたブタ赤血球酵素分解産物のXOD阻害活性を示すグラフである。
図2】赤血球酵素分解産物を逆相系樹脂のODS−Aカラムに供しアセトニトリル−TFA系でグラージェント溶出させた溶出プロファイルを示すチャートである。矢印はXOD阻害活性を有するピークを示す。
図3図2におけるXOD阻害活性を有するピーク画分を逆相系のODS−120Tに供しメタノール−TFA系でグラージェント溶出させた溶出プロファイルを示すチャートである。最も阻害活性の高かったピークをP1、次に阻害活性の高かったピークをP2とした。
図4】ヘミン−過酸化水素反応物由来P1、有機合成で得られたP1(以下、合成P1ともいう)およびアロプリノールのXOD阻害活性曲線を示す。
図5図3における逆相クロマトグラフィー後のP1を、陰イオン交換樹脂GigaCap Q−650M(東ソー製)に50mM Tris−HCl pH9の条件下で吸着させ、塩化ナトリウムのグラージェントにより溶出させたチャートである。
図6-1】ヘミン−過酸化水素反応物由来P1およびP2の吸収スペクトルを示す。
図6-2】赤血球酵素分解産物由来P1のLC/MS解析(ネガティブモード)結果、およびヘミン−過酸化水素反応物由来のP1およびP2のLC/MS解析(ネガティブモード)結果を示す。
図6-3】ヘミン−過酸化水素反応物由来P2のLC/MS解析結果およびP2の構造の推定を示す。
図6-4】ヘミン−過酸化水素反応物由来P1のH−NMRおよび13C−NMR結果を示す。
図7】赤血球酵素分解産物由来P1、赤血球酵素分解産物の活性炭(活性炭1)による精製物またはこれら混合物の逆相クロマトグラフィーのチャートを示す。
図8】合成P1のLC/MS解析(ネガティブモード)結果を示す。
図9】合成P1のH−NMRの結果を示す。
図10】オキソン酸カリウム投与群、オキソン酸カリウム+合成P1投与群、およびコントロール群における、マウスの血清尿酸値変化を示すグラフである。
図11】合成P1投与後6時間までの血清尿酸値についてのAUC(曲線下面積)の比較を示すグラフである。
【発明の具体的説明】
【0014】

本発明の剤は、テトラピロール含有物分解産物またはその抽出物を配合していることを一つの特徴としている。
【0015】
本発明において、テトラピロールは、4個のピロール環を含む化合物を意味し、直鎖状のものおよび環状のものを包含する。
【0016】
直鎖状のテトラピロールとしては、ビリン(ビリルビン、ビリベルジン、ウロビリノーゲン、ウロビリン、ステルコビリン、フィトクロム、フィコビリン等)が挙げられる。
【0017】
環状のテトラピロールとしては、ポルフィリン(エチオポルフィリン、メソポルフィリン、プロトポルフィリン、ジューテロポルフィリン、ヘマトポルフィリン、コプロポルフィリン、ウロポルフィリン、ピロポルフィリン、フィロポルフィリン、ロドポルフィリン、フィトポルフィリン等)、クロリン類が挙げられる。
【0018】
また、上記ポルフィリンには、鉄、銅、マグネシウム、コバルト等の金属原子が導入された分子内金属錯体も含まれる。例えば、ヘム、ヘマチン、ヘミン、クロロフィル、ビタミンB12、鉄クロロフィリン、鉄クロロフィリンナトリウム、銅クロロフィリン、銅クロロフィリンナトリウム、マグネシウムクロロフィリン等である。
【0019】
本発明のテトラピロール含有物は、テトラピロール自体であってもよく、テトラピロールを含有する組成物であってもよい。具体的には、テトラピロール含有物は、好ましくは赤血球、ヘモグロビン、葉緑体、ヘミン、プロトポルフィリン、ヘマトポルフィリン、ビリルビン、クロロフィル、クロロフィリン等であり、より好ましくは赤血球、ヘモグロビン、ヘミン、ヘマトポルフィリンまたはクロロフィリンである。
【0020】
テトラピロール含有物の由来は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、哺乳類、鳥類、は虫類、魚類、両生類等の脊椎動物等の血液を有する動物、又は葉緑体を有する植物および藻類が挙げられるが、好ましくは哺乳類であり、より好ましくはブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の家畜動物である。
【0021】
また、テトラピロール含有物は、天然物から取得してもよく、市販品を用いてもよい。また、テトラピロール含有物はそのまま分解処理してもよく、噴霧乾燥、濃縮乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理を行った後に分解処理に供してもよい。
【0022】
テトラピロール含有物の分解は、好ましくは酸化反応、還元反応および酵素反応からなる群から選択される少なくとも一つの反応により行うことが好ましい。
【0023】
上記テトラピロール含有物の酸化反応は、上記テトラピロール含有物を過酸化水素、次亜塩素酸、過マンガン酸塩等の酸化剤と反応させることにより実施することができる。より具体的には、酸化反応は、テトラピロール含有物(乾物換算)と、酸化剤とをモル比1:10〜1:500で混合し、45〜60℃で1〜16時間実施することが好ましい。
【0024】
テトラピロール含有物の還元反応は、上記テトラピロール含有物をシステイン(Cys)、グルタチオン(GST)、ジチオスレイトール(DTT)、アスコルビン酸(ビタミンC)、トコフェノール(ビタミンE)等の還元剤と反応させることにより実施することができる。より具体的には、還元反応は、テトラピロール含有物(乾物換算)と、還元剤とをモル比1:1〜1:100で混合し、45〜60℃で1〜16時間実施することが好ましい。
【0025】
また、テトラピロール含有物の酸化または還元反応では、反応促進の観点から、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)等の鉄イオンを反応系中に添加することが好ましい。
【0026】
また、テトラピロール含有物の酵素反応において使用される酵素は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)が好ましい。かかるプロテアーゼとしては、エンド型プロテアーゼまたはエキソ型プロテアーゼが挙げられ、また、かかるプロテアーゼはアルカリ性プロテアーゼであってよい。上記プロテアーゼとして、具体的には、アルカラーゼ(商標)、エスペラーゼ(商標)、ニュートラーゼ(商標)(Novozymes社製)、オリエンターゼ(商標)90N、オリエンターゼ(商標)22BF(エイチビィアイ製)、サモアーゼ(商標)PC10F、プロテアーゼP「アマノ」3SD(天野製薬製)、マルチフェクト(商標) PR6L、マルチフェクト(商標)PR7L(ダニスコジャパン社製)が挙げられるが、好ましくは、アルカラーゼ、マルチフェクトPR6Lである。より具体的には、酵素反応は、テトラピロール含有物(乾物換算)と、酵素とを重量比100:1〜100:10で混合し45〜60℃で1〜16時間実施することが好ましい。
【0027】
また、本発明のテトラピロール含有物またはその抽出物は、式(I)の化合物またはその経口上許容可能な塩を含有していることが好ましい。したがって、好ましい態様によれば、本発明の剤は、式(I)の化合物またはその経口上許容可能な塩を含んでなる。
【化7】
(式中、Rは、OHまたはHである)
【0028】
さらに別の好ましい態様によれば、本発明の化合物は、式(Ia)の化合物および/または式(Ib)の化合物からなる。
【化8】
【化9】
【0029】
本発明において、式(I)の化合物の経口上許容可能な塩としては、特に限定されないが、無機酸塩、無機塩基塩、有機酸塩、有機塩基塩等が挙げられる。
【0030】
また、式(I)の化合物またはその経口上許容可能な塩は、大気中に放置したりまたは再結晶をすることにより、水分を吸収し、吸着水が付いたり、水和物となったりする場合があり、本発明は、そのような各種の水和物、溶媒和物および結晶多形の化合物も包含する。
【0031】
また、式(I)の化合物は、プロドラッグの形態にて剤中に配合してもよく、本発明はかかる態様も包含する。好適なプロドラッグとしては、例えば、式(I)、または式(Ia)および/もしくは式(Ib)の化合物における窒素原子、カルボキシル基またはアルデヒド基が、イミン、ニトリル、ヒドロキシル、アミド、エステル、カルバモイル、酸無水物等に変換又は修飾された化合物等が挙げられる。
【0032】
また、本発明の抽出物は、例えば、水性媒体(エタノール、水、またはそれらの混合物等)によるテトラピロール含有物分解産物の抽出物が挙げられるが、好ましくはエタノール抽出物である。好適な抽出条件としては、テトラピロール含有物(乾物換算)と、水性媒体とを重量比5:1〜1:5で混合し、20〜65℃で0.5〜3時間抽出を実施することが好ましい。
【0033】
本発明の剤の製造においては、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩について、精製処理、濃縮処理または滅菌処理等を所望により実施してもよい。上記精製処理の例としては、活性炭、合成吸着樹脂、シリカゲル等の多孔質物質による吸着処理、ナノフィルター(NF膜)、限外濾過膜等による濾過処理、透析処理(電気透析等)、遠心分離処理等が挙げられる。また、濃縮処理の例としては、限外濾過処理、減圧濃縮処理、凍結乾燥処理等が挙げられる。
上記精製処理または濃縮処理は、非活性成分を分離、分解または除去し、式(I)の化合物またはその経口上許容可能な塩の含有濃度を上昇させる上で好ましい。また、上記精製処理、濃縮処理または滅菌処理等は、テトラピロール含有物分解産物の色素または臭気を大幅に低減することができる上でも好ましい。
かかる観点から、精製処理に用いる活性炭としては、木粉由来のもので粉末状が好ましく、最頻度細孔径が1〜30nmであるものが好ましい。活性炭の最頻度細孔径は、窒素ガス吸着法により測定することができる。また、用いる活性炭の量は、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩の0.1〜20%とすることができ、好ましくは0.4〜1.25%である。活性炭を用いる精製処理の好適な条件としては、pH2〜5に調整した、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩に対し活性炭を添加した後に回収し、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩の0.3〜60倍量の水で洗浄した後、pH9〜11のアルカリ性緩衝液や0.05〜0.15Mの水酸化ナトリウム溶液で溶出することが好ましい。上記アルカリ性緩衝液または水酸化ナトリウム溶液の量は、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩の0.01〜100倍量とすることができ、好ましくは0.1〜10倍量である。また、上記合成吸着樹脂としては、スチレン−ジビニルベンゼン系が好ましく、最頻度細孔径が5〜100nmであるものが好ましい。合成吸着樹脂の最頻度細孔径は、水銀圧入法により測定することができる。また、用いる合成吸着樹脂の量は、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩の10倍量量〜1/50量とすることができ、好ましくは等量〜1/10量である。
また、非活性成分の分離もしくは除去、またはテトラピロール含有物分解産物の色素もしくは臭気低減の観点から、精製処理に用いる上記ナノフィルターとしては、分画分子量150〜800とすることができ、好ましくは150〜500である。
また、本発明の剤の製造においては、例えば、凍結乾燥法またはスプレードライ法によってテトラピロール含有物分解産物またはその抽出物を固形化処理または粉末化処理してもよい。
なお、上記各処理は、本発明の効果を妨げない限り、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩の製造におけるいずれの段階で行ってもよい。
【0034】
また、本発明の剤は、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩をそのまま用いて調製してもよく、また、経口上許容可能な添加剤をさらに配合してもよい。かかる経口上許容可能な添加剤としては、特に限定されないが、溶剤、溶解補助剤、滑沢剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、界面活性剤、調整剤、キレート剤、pH調整剤、緩衝剤、賦形剤、結合剤、防腐剤、増粘剤、着色剤、香料、芳香剤、湿潤剤、甘味料、または酸化防止剤が挙げられる。
また、本発明の剤のpHは、特に限定されないが、pH1〜14とすることができ、好ましくはpH3〜11、より好ましくはpH4〜10である。
【0035】
本発明の剤は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、固形状、粉末状、顆粒状、カプセル状、ブロック状、液状(例えば、溶液、懸濁液、乳濁液)、スラリー状、ゲル状、糊状、またはペースト状のいずれの形態であってもよい。具体的な剤型としては、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤等の固形製剤、ドリンク剤、ゼリー剤が挙げられる。
【0036】
また、本発明の剤は、1回の経口摂取量単位の形態から構成されることが好ましい。本発明の剤は、1回の経口摂取量として、テトラピロール含有物分解産物またはその抽出物を、乾燥質量換算で、好ましくは1〜5000mg、より好ましくは10〜1000mg含有していてもよい。また、本発明の剤は、1回の経口摂取量として、式(I)の化合物またはその経口上許容可能な塩を、乾燥質量換算で、好ましくは0.01〜300mg、より好ましくは0.1〜100mg含有していてもよい。
【0037】
また、本発明の剤は包装形態で提供することが好ましい。包装形態としては、特に限定されず、パックまたは容器等が挙げられる。また、包装の表面には成分表示、用量・用法表示等を付していてもよい。かかる包装形態の好適な例としてはサプリメント、ドリンク剤または医薬製剤等が挙げられる。
【0038】
また、本発明の剤は、血中尿酸を低下または尿酸値を低減させ、または血中尿酸値上昇もしくは尿酸生成を抑制する上で有利に利用することができる。したがって、一つの態様によれば、本発明の剤は、好ましくは血中尿酸の低下剤、より好ましくは血清尿酸値の低下剤として提供される。また、別の態様によれば、本発明の剤は、尿酸の過剰生成または排泄低下に起因する疾患または状態の治療剤として提供される。また、別の態様によれば、本発明の剤は高尿酸血症の治療剤として提供される。また、本発明の剤は、血中尿酸を低下させることにより、高尿酸血症に基づく痛風、尿路結石、腎機能障害(好ましくは、慢性腎臓病、慢性糸球体腎炎)、心血管系疾患(好ましくは、冠動脈疾患、虚血性心疾患)、高血圧、メタボリックシンドローム、悪性腫瘍等の各種疾患の治療、もしくは病状の低下または改善に有利に利用することができる。したがって、本発明の剤は、高尿酸血症、高尿酸血症に基づく痛風、尿路結石、腎機能障害(好ましくは、慢性腎臓病、慢性糸球体腎炎)、心血管系疾患(好ましくは、冠動脈疾患、虚血性心疾患)、高血圧、メタボリックシンドローム、悪性腫瘍等の各種疾患の治療、または病状の低下もしくは改善を表示して提供することができる。なお、本発明の「治療」は、確立された病態を治療することだけでなく、将来確立される可能性のある病態を予防することをも包含する。また、本発明の「治療」は、医療行為のみならず、後述する飲食品を対象に摂取させることにより、既に発生したかまたは将来発生する可能性のある病態または状態を改善または予防する行為も好ましくは包含する。
【0039】
また、本発明の剤は、複数の成分が配合された組成物の形態で提供することができる。したがって、本発明の一つの態様によれば、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩を含んでなる、キサンチンオキシダーゼ阻害用、血中尿酸低下用、尿酸の過剰生成もしくは排泄低下に起因する疾患もしくは状態の治療用、または高尿酸血症治療用の組成物が提供される。
【0040】
本発明の剤は、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩を含んでなる限りにおいては、飲食品または医薬品であってもよい。したがって、別の態様によれば、本発明の剤は、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩を含んでなる、キサンチンオキシダーゼ阻害用、血中尿酸低下用、尿酸の過剰生成もしくは排泄低下に起因する疾患もしくは状態の治療用、または高尿酸血症治療用の飲食品組成物または医薬組成物である。
【0041】
本発明の飲食品としては、特に限定されないが、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品等の即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、アルコール飲料等の飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、パン粉等の小麦粉製品;飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、デザート菓子等の菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類等の調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズ等の油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類等の乳製品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、シリアル等の農産加工品;ハム、ベーコン、ソーセージ、焼き豚等の畜肉加工食品:冷凍食品等が挙げられる。
【0042】
本発明の飲食品には、健康食品、機能性食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品または機能性表示食品を含む)、栄養補助食品、病者用食品、乳児用調製粉乳、妊産婦、授乳婦用粉乳、嚥下困難者用食品も包含される。また、本発明の飲食品には、キサンチンオキシダーゼ阻害、血中尿酸低下、尿酸の過剰生成もしくは排泄低下に起因する疾患もしくは状態の治療、または高尿酸血症治療のために用いられるものである旨の表示を付してもよい。
【0043】
また、本発明の医薬品もまた、キサンチンオキシダーゼ阻害、血中尿酸低下、尿酸の過剰生成もしくは排泄低下に起因する疾患もしくは状態の治療、または高尿酸血症治療のために用いられるものである旨の表示を付したものであってもよい。かかる医薬品は上述の剤に関する記載に準じて調製することができる。
【0044】
また、本発明の別の態様によれば、キサンチンオキシダーゼ阻害方法であって、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩の有効量を、それを必要とする対象に摂取させることを含んでなる方法が提供される。また、本発明の好ましい別の態様によれば、上記方法は、血中尿酸の低下方法として提供される。また、本発明の好ましい別の態様によれば、上記方法は、尿酸の過剰生成もしくは排泄低下に起因する疾患もしくは状態の治療方法として提供される。本発明のさらに好ましい別の態様によれば、上記方法は、高尿酸血症の治療方法として提供される。また、本発明の別の好ましい態様によれば、医療行為を除くものであり、該行為は非治療的行為ともいう。本発明の上記方法は、本発明の剤の記載に準じて実施することができる。
【0045】
本発明の剤の摂取方法は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、好ましくは経口摂取とされる。
【0046】
本発明における対象は、哺乳動物、例えば、げっ歯類、イヌ、ネコ、ウシ、霊長類等であり、好ましくはヒトである。
また、対象における血清尿酸値は、特に限定されないが、尿酸値低減による高尿酸血症の改善を勘案すれば、高レベルであることが好ましい。かかる血清尿酸値は好ましくは7.0mg/dLを超える状態である。
また、本発明の別の態様によれば、対象は健常者であってもよい。
【0047】
また、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能の有効量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、純度、対象の種類、性質、性別、年齢、症状、状態等に応じて当業者によって、適宜決定される。本発明の剤は、有効量として、テトラピロール含有物分解産物またはその抽出物を、乾燥質量換算で、0.05〜100mg/体重kg/日、好ましくは0.5〜25mg/体重kg/日とすることができる。また、本発明の剤は、例えば、有効量として、式(I)の化合物またはその経口上許容可能な塩を、乾燥質量換算で、0.01〜15mg/体重kg/日、好ましくは0.1〜5mg/体重kg/日とすることができる。
【0048】
本発明における摂取計画は、本発明の効果を妨げない限り、対象の種、年齢、性別、症状、状態に応じて当業者が適宜設定することができる。また、本発明における上記1日の摂取の回数は、例えば、1日1〜6回であり、好ましくは1日3回である。
【0049】
また、本発明の別の態様によれば、キサンチンオキシダーゼ阻害剤の製造における、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩の使用が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、血中尿酸低下剤の製造における、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩の使用が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、尿酸の過剰生成または排泄低下に起因する疾患または状態の治療剤の製造における、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩の使用が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、高尿酸血症の治療剤の製造における、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩の使用が提供される。
【0050】
また、本発明の別の態様によれば、キサンチンオキシダーゼ阻害剤としての、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩の使用が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、血中尿酸低下剤としての、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩の使用が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、尿酸の過剰生成または排泄低下に起因する疾患または状態の治療剤としての、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩の使用が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、高尿酸血症の治療剤としての、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩の使用が提供される。本発明の一つの好ましい別の態様によれば、本発明の使用は、非治療的使用とされる。
【0051】
また、本発明の別の態様によれば、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩を剤中に配合することを特徴とする、キサンチンオキシダーゼ阻害剤の製造方法が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩を剤中に配合することを特徴とする、血中尿酸低下剤の製造方法が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩を剤中に配合することを特徴とする、尿酸の過剰生成または排泄低下に起因する疾患または状態の治療剤の製造方法が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩を剤中に配合することを特徴とする、高尿酸血症の治療剤の製造方法が提供される。
【0052】
また、本発明の別の態様によれば、キサンチンオキシダーゼ阻害のための、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、血中尿酸の低下のための、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、尿酸の過剰生成もしくは排泄低下に起因する疾患もしくは状態の治療、または尿酸の過剰生成もしくは排泄低下に起因する疾患もしくは状態のリスクの低減のための、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、高尿酸血症の治療または高尿酸血症のリスクの低減のための、テトラピロール含有物分解産物もしくはその抽出物または式(I)の化合物もしくはその経口上許容可能な塩が提供される。かかる態様はいずれも、本発明の剤および方法に関する記載に準じて実施することができる。
【0053】
上記使用、製造方法の態様はいずれも、本発明の剤および方法に関する記載に準じて実施することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、特に指摘されない限り、本発明で用いられる全てのパーセンテージおよび比率は質量による。また、特に指摘されない限り、本明細書に記載の単位および測定方法は日本工業規格(JIS)による。
【0055】
試験例1:テトラピロール含有物分解産物(ブタ赤血球酵素分解産物)の調製
原料として、赤血球パウダーを用いた。上記赤血球パウダーは、ブタの血液を遠心分離することで赤血球を得、該赤血球を噴霧乾燥させることで得られた。
赤血球酵素分解産物の調製はヘム鉄複合物の製造方法(特開平4−013680)を参考に以下のように行った。まず赤血球パウダーにその約7倍量の蒸留水を添加し溶解させた後、水酸化ナトリウムを適宜添加しpH9.5±0.5に調整しながら、微生物由来のエンド型プロテアーゼ(アルカラーゼ)(Novozymes社製)を赤血球パウダーの約10%量添加し、55±1℃で1時間以上酵素反応させた。さらに、上記酵素反応液を分画分子量10000以下の限外濾過膜で処理することで、高分子量の物質を除き、赤血球酵素分解産物を得た。
【0056】
上記赤血球酵素分解産物について塩酸を添加し各種pHへ調整後、in vitroでXOD阻害活性を測定した。
in vitro XOD阻害活性は、増田等の方法(仁愛女子短期大学研究紀要, 第41号 平成20年)を参考に測定した。具体的には、キサンチンオキシダーゼ(xanthine oxidase:XOD)に、基質としてキサンチンを加えることにより生成する尿酸の変化量より阻害活性を求めた。
まず、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4) 240μLに上記赤血球酵素分解産物10μLを添加した。コントロール(XOD阻害物質無し)としては0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4) 10μLを添加した。次に0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)で溶解した0.24U/mL ウシバターミルク由来XOD(オリエンタル酵母工業製)を50μL添加して撹拌後、1分間静置した。そこに0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)で溶解した0.1mMキサンチン(和光純薬工業製)溶液300μLを添加し、即座に分光光度計(DU7400、Beckman社製)を用い波長295nmについて基質添加後(0分後)および1分後の吸光値を測定した。測定および使用した試液は全て室温のものを用いた。得られた吸光値から0→1分間のΔABSを求め、下記に示す式で試料の阻害活性を算出した。これらの反応は全てセル内で行った。なお、この測定系における0.7mg/mLアロプリノール(和光純薬工業製)(0.1Mリン酸緩衝液(pH 7.4)に溶解)の阻害活性は99%以上を示した。
式)A:試料ΔABS (0−1min)
B:コントロールΔABS (0−1min)
阻害活性%=100−{A/B×100}
【0057】
試験例1の赤血球酵素分解産物によるXOD阻害活性の測定結果を表1および図1に示す。その結果、赤血球酵素分解産物のXOD阻害活性はpHにより変動し、pH10における阻害活性は31.5%であったが、pH4では62.4%を示した(図1、表1)。
【0058】
試験例2:テトラピロール含有物分解産物(ウシ赤血球酵素分解産物)の調製
ブタ由来赤血球パウダーの替わりにウシ血液由来ヘモグロビンパウダー(和光純薬工業製)を用い、試験例1と同様の方法でウシ赤血球酵素分解産物を得た。
【0059】
さらに、上記ウシ赤血球酵素分解産物に塩酸を添加しpH4へ調整後、試験例1と同様の方法で、in vitroでXOD阻害活性を測定した。
その結果、54.6%のXOD阻害活性が認められた(表1)。
したがって、赤血球酵素分解産物のXOD阻害活性は生物種固有のものではないと推測された。
【0060】
試験例3:テトラピロール含有物分解産物(ヘミンとアルブミンの混合物の酵素反応物)の調製
ヘモグロビンはヘムとグロビンで構成されているが、ヘムとグロビン以外のタンパク質の混合物を酵素反応させてもXOD阻害活性を示すか確認した。
ここでは、ヘムとしてヘミンを用いた。ヘミン(Kodak社製)とウシ由来アルブミン(和光純薬工業製)を約1:10の割合で混合した後、試験例1と同様の方法でプロテアーゼを添加し反応させ、ヘミンとアルブミンの混合物の酵素反応物を得た。
【0061】
上記ヘミンとアルブミンの混合物の酵素反応物についてpH4へ調整後、試験例1と同様の方法で、in vitroでXOD阻害活性を測定した。
その結果、23.7%のXOD阻害活性が認められた(表1)。
【0062】
試験例4:テトラピロール含有物分解産物(ヘミンと各種還元剤との反応物)の調製
赤血球酵素分解産物中のXOD阻害物質は、上記検討からヘモグロビンおよびミオグロビンに存在するヘム(ヘミン)の分解産物の可能性が示唆された。
そこで、終濃度10μmol/mLのヘミン(Kodak社製)溶液に対し、終濃度100μmol/mLとなるようにシステイン(Cys)(和光純薬工業製)、グルタチオン(GSH)(和光純薬工業製)またはジチオスレイトール(DTT)(和光純薬工業製)等の還元剤を加え、0.1Mの水酸化ナトリウム(和光純薬工業製)溶液にてpH10に調整後、60℃で一晩反応させ、反応物を得た。
【0063】
上記ヘミンと各種還元剤との反応物についてpH4に調整後、試験例1と同様の方法で、in vitroでXOD阻害活性を測定した。
その結果、全ての反応物においてXOD阻害活性を検出することができた(表1)。また、これら反応物の逆相クロマトグラフィー上のXOD阻害活性を有するピークは赤血球酵素分解産物由来のXOD阻害活性を有するピークと溶出位置が重なった。したがって、上記反応物においてXOD阻害活性を示している物質は、赤血球酵素分解産物由来のXOD阻害物質と同一の物質であることが示唆された。
【0064】
試験例5:テトラピロール含有物分解産物(テトラピロール化合物とシステインとの反応物)の調製
また、鉄を含まないプロトポルフィリン(東京化成工業製)、ヘム(ヘミン)とは別のテトラピロール化合物であるヘマトポルフィリン(Sigma-Aldrich社製)、およびヘムの分解中間体であるビリルビン(東京化成工業製)にシステインを作用させ反応物を得た。具体的には、終濃度10μmol/mLのプロトポルフィリン溶液、終濃度10μmol/mLのヘマトポルフィリンまたは終濃度10μmol/mLのビリルビンに対し終濃度100μmol/mLとなるようにシステイン(Cys)を加え、0.1Mの水酸化ナトリウム溶液にてpH10に調整後、60℃で一晩反応させ、反応物を得た。
さらに、プロトポルフィリンまたはビリルビンとシステインとの反応物に終濃度10μmol/mLとなるように塩化鉄(II)(和光純薬工業製)を添加し、pH10に調整後、60℃で一晩反応させ、塩化鉄(II)添加反応物を得た。
【0065】
上記テトラピロール化合物とシステインとの反応物について塩酸を加えてpH4に調整した後、試験例1と同様の方法で、in vitroでXOD阻害活性を測定した。
その結果、全ての反応物においてXOD阻害活性を検出することができた(表1)。
また、上記塩化鉄(II)添加反応物に関しても、塩酸を加えてpH4に調整した後、試験例1と同様の方法で、in vitroでXOD阻害活性を測定した。
その結果、塩化鉄(II)添加反応物は塩化鉄(II)を添加していない反応物に比して更にXOD阻害活性を10%程度高めることができた(表1)。このことから、鉄の存在がXOD阻害物質の生成率を高めている可能性が示唆された。
【0066】
試験例6:テトラピロール含有物分解産物(ヘミンと過酸化水素との反応物)の調製
ヘミンと還元剤との反応物ではなく、ヘミンと過酸化水素との反応物(以後、ヘミン−過酸化水素反応物という)においてもXOD阻害活性が検出できるか検討した。
ヘミンと過酸化水素との反応方法は廣田の方法(岡大医短紀要,4:31〜36,1993)を参考にした。具体的には、まず、ヘミン10mg/mL溶液に、28%アンモニア(和光純薬工業製)を1/40量添加しヘミンを溶解した。その溶液を60℃で加熱しながら、その溶液にヘミン溶液の半分量の終濃度15%過酸化水素水(和光純薬工業製)(28%アンモニアを1/33量含む)を少しずつ添加後、60℃で1時間反応させた。反応後室温まで冷却し反応物を得た。
【0067】
上記ヘミン−過酸化水素反応物について、塩酸を加えてpH4に調整した後、試験例1と同様の方法で、in vitroでXOD阻害活性を測定した。
その結果、上記反応物のXOD阻害活性は87.5%を示した(表1)。
【0068】
試験例7:テトラピロール含有物分解産物(クロロフィリンと過酸化水素との反応物)の調製
植物、植物プランクトンおよび藻類等の光合成を行う生物に関与するテトラピロール化合物であるクロロフィリンと過酸化水素との反応物もXOD阻害活性を検出できるか検討した。
ヘミンに代えて鉄クロロフィリンNa(鉄葉緑素)(日本葉緑素製)を用いる以外は、上記試験例6に記載の、ヘミンと過酸化水素との反応物と同様の調製方法で調製した。
【0069】
上記クロロフィリンと過酸化水素との反応物について、塩酸を加えてpH4に調整した後、試験例1と同様の方法で、in vitroでXOD阻害活性を測定した。
その結果、上記反応物のXOD阻害活性は24.2%を示した(表1)。
【表1】
【0070】
試験例8:テトラピロール含有物分解産物(赤血球酵素分解産物またはヘミン−過酸化水素反応物)からのXOD阻害物質の単離
赤血球酵素分解産物にXOD阻害活性が確認されたことから、各種クロマトグラフィーを用いてXOD阻害物質の単離を行った。
まず、試験例1で得られた赤血球酵素分解産物をpH4に調整後、5倍量の2−プロパノールを添加しXOD阻害物質を抽出した。この2−プロパノール抽出画分を逆相系樹脂のODS−Aカラム(ワイエムシィ製)に供し、アセトニトリル−トリフルオロ酢酸(TFA)系でグラージェント溶出させた(図2)。その結果、図2で示すように、313nmで検出した矢印で示されるピークの画分に明確なXOD阻害活性を有していた。他のピークではXOD阻害活性は殆ど検出されなかった。さらに、上記阻害活性を有するピーク画分を逆相系のODS−120T(東ソー製)に供し、メタノール−TFA系でグラージェント溶出させた(図3)。その結果、313nmの検出波長で3つのピークが得られた。これらピークに関してXOD阻害活性を測定した結果、最初と二番目のピークの画分でXOD阻害活性が示された。XOD阻害活性が確認されたピーク画分を回収し、313nmの吸光値を約1に調整した溶液とした。上記溶液において、63%のXOD阻害活性を示したピークをP1ピーク、48%のXOD阻害活性を示したピークをP2ピークとした(図3)。P1ピークについて画分を分取し、ODS−120Tにて再精製し、赤血球酵素分解産物から精製したXOD阻害物質P1を得た(以下、赤血球酵素分解産物由来P1という)。また、同様の単離方法で、試験例6のヘミン−過酸化水素反応物からも上記の赤血球酵素分解産物由来P1およびP2と同等の物質を得ることができた(以下、ヘミン−過酸化水素反応物由来P1およびP2という)。ヘミン−過酸化水素反応物由来P1およびP2について分光光度計(DU7400、Beckman社製)により吸収スペクトルを測定した結果、各最大吸収波長は308nmおよび322nm付近で、スペクトルは類似していた(図6−1)。
得られたヘミン−過酸化水素反応物由来P1について、凍結乾燥後、P1濃度が0.7mg/mLとなるように蒸留水に溶解し、試験例1と同様の方法で、in vitroでXOD阻害活性を測定した。
その結果、ヘミン−過酸化水素反応物由来P1の50%阻害濃度(IC50値)は2.45μg/mLであった。(図4
上述のように、XOD阻害物質は逆相クロマトグラフィーを用いて分取することが可能ではあるが、逆相クロマトグラフィーの後にイオン交換樹脂を用いても分取精製することができた。ODS−120T逆相クロマトグラフィー後に得られたP1について陰イオン交換樹脂GigaCap Q−650M(東ソー製)に50mM Tris−HCl pH9の条件下で吸着させ、塩化ナトリウムのグラージェントによりP1を溶出させ分取することができた(図5)。
【0071】
試験例9:テトラピロール含有物分解産物(赤血球酵素分解産物、またはヘミン−過酸化水素反応物)由来のXOD阻害物質の分子量・構造解析
試験例8の各種クロマトグラフィーで得られた赤血球酵素分解産物由来P1、へミン−過酸化水素反応物由来P1およびP2についてLC/MS(SynaptG2−S型, Waters社製)による分子量および構造の予測を行った。
その結果、P1およびP2の分子量が推測でき、ヘミン−過酸化水素反応物由来P1と赤血球酵素分解産物由来P1とは、試験例8に示す逆相系ODS−120T(東ソー製)によるピークの溶出時間が一致した上に、LC/MS解析(ネガティブモード)によるP1の分子イオンm/z 224とその他のフラグメントイオンのシグナルがほぼ一致していることが確認された。これらから、赤血球酵素分解産物由来P1とヘミン−過酸化水素反応物由来P1は同一物質であることが確認された(図6−2)。
更にヘミン−過酸化水素反応物由来P1についてはH−NMR、13C−NMRおよび差NOE測定による構造解析を行った(AVANCE500型, BRUKER社製)。なお、H−NMR、13C−NMRで用いた溶媒は重メタノールであった。LC/MS(ネガティブモード)およびNMRの結果から、P1は分子量225であり(図6−2)、ピロール環にメチル基、アルデヒド基、カルボキシル基、プロピオン酸を有する構造であることが分かった。その構造からポルフィリン環構造の一部で構成されていることが確認された(図6−4)。P2については、P1と同じヘミン−過酸化水素反応物由来であり、吸収スペクトルも類似していることから、P2はP1に類似した異性体であることが予測された。
そこで、P2のLC/MSのデータから分子量および構造の推定を行った。先ず、LC/MS(ネガティブモード)の結果よりP2の分子量は209と推定された(図6−2)。また、LC/MS(ポジティブモード)の結果より、P2はイオン化の際 (a)〜(f)にフラグメント化しており、各フラグメントイオンの分子量とフラグメント化された場合の予測構造の分子量が一致した(図6−3)。これらの結果よりP2構造が推定された。P1およびP2構造を下記に示す。
【化10】
上記化学式から明らかなように、XOD阻害物質P1およびP2はプリン骨格を有していない。これに対し、高尿酸血症治療薬のアロプリノールはプリン骨格を有していることにより、プリン代謝に関与する副作用(腎毒性等)が発現する場合がある。この点からも、XOD阻害物質P1および/またはP2は血中尿酸の低下や高尿酸血症の治療において非常に有益なものとなると考えられる。
【0072】
試験例10:テトラピロール含有物分解産物(赤血球酵素分解産物)からのXOD阻害物質の製造法
試験例10−1:XOD阻害物質の活性炭による精製法
脱色や脱臭等で使われている食品製造用または医薬品製造用の活性炭を用い、赤血球酵素分解産物からXOD阻害物質を効率良く精製し、XOD阻害物質の含有量を高めた本発明の剤の原料を製造することができた。
まず、pH4に調整した、試験例1の赤血球酵素分解産物に対し、その赤血球酵素分解産物の約1.2%、0.6%または0.48%量の活性炭を添加し、XOD阻害物質を吸着させた後、活性炭を回収した。回収した活性炭を赤血球酵素分解産物と等量の水で洗浄した後、pH9若しくはpH10.5のアルカリ性緩衝液や0.07Mの水酸化ナトリウム溶液で溶出することにより、効果的にXOD阻害物質を精製しP1の濃度を高めることができた。検討に使用した活性炭は、活性炭1(白鷺P)、活性炭2(白鷺A)(以上、最頻度細孔径2.2nm付近、木質由来・水蒸気賦活炭)、活性炭3(FP−3(メーカー仮称))(最頻度細孔径1.7nm付近、ヤシ殻由来・水蒸気賦活炭)、活性炭4(FP−6(メーカー仮称))(最頻度細孔径3.3nm付近、木質由来・塩化亜鉛賦活炭)(以上、日本エンバイロケミカルズ社製)、活性炭5(ダイアホープ6ED(木質由来・塩化亜鉛賦活炭)(カルゴンカーボンジャパン社製))であった。検討の結果、この中で最もXOD阻害物質の吸着能が高かったのは活性炭4で、次いで活性炭5であり、活性炭1および活性炭2は色素の溶出が少なかった。これらの活性炭のうち、活性炭1は赤血球酵素分解産物と等量の50mMトリス−塩酸緩衝液pH9.0でXOD阻害物質を溶出させたところ、XOD阻害の比活性を62.8倍に高めることができた。活性炭4および活性炭2に関しては、赤血球酵素分解産物の1/10量の100mM炭酸ナトリウム緩衝液pH10.5にて溶出させたところ、活性炭2ではXOD阻害の比活性を67.7倍に、活性炭4では75倍に高めることができ、70mM水酸化ナトリウムを用いた活性炭4の場合は、阻害の比活性を約110倍に高めることが可能であった(表2)。なお、表2において、阻害活性収率とは、精製前の赤血球酵素分解産物のXOD阻害率を100%とした場合、精製後のXOD阻害率の比率を示す。活性炭4による精製物は、活性炭2による精製物に比べ色は濃いものの、XOD阻害の比活性は高かった。この活性炭による赤血球酵素分解産物からの精製法は使用する活性炭量が反応液量の1.25%以下と非常に少なくてすみ、溶出に溶媒も不要なため、非常に低コストで低環境負荷の製造法であると考えられた。この活性炭による精製法により得た液は乾燥させ粉末化・可溶化が可能であり、経口剤の原料として利用できる。
【0073】
【表2】
【0074】
なお、上記活性炭による精製物におけるXOD阻害活性が、赤血球酵素分解産物中のXOD阻害物質由来か検証した。検証は試験例8で得られた赤血球酵素分解産物由来P1と赤血球酵素分解産物の活性炭(活性炭1)による精製物を用いた。これら試料を単独若しくは混合物で逆相クロマトグラフィーに供し、ピークの重なりを確認した。その結果、赤血球酵素分解産物由来P1と赤血球酵素分解産物の活性炭による精製物中のピークの1つが重なり、面積値の増加が認められた(図7)。したがって、赤血球酵素分解産物の活性炭による精製物におけるXOD阻害活性はP1由来であることが確認された。
【0075】
試験例10−2:XOD阻害物質の熱エタノールによる抽出法
赤血球酵素分解産物pH4の乾燥品から、熱エタノールを用いてXOD阻害物質を効率良く抽出することにより、その濃度を高めることができた。
まず、試験例1の赤血球酵素分解産物の乾燥品に対し2〜5倍量の85〜90%のエタノールを添加後、室温または65℃に加熱し、この液を常温に戻すことによって、不必要な固形分を析出させた。遠心分離により固形分を除去し、熱エタノール抽出液とした。
熱エタノール抽出液を乾燥しエタノールを除去した後、XOD阻害活性を測定した。赤血球酵素分解産物の2倍量の90%熱エタノールで抽出した場合、塩分濃度を元の36%程度まで低下させ、XOD阻害比活性を3倍近くに高めることができた(表3)。なお、表3において、塩分残量とは、エタノール抽出前の固形分中の塩分濃度を100%とした場合、抽出後の固形分中の塩分濃度の比率を示す。また、塩分濃度は、乾燥させた熱エタノール抽出液を水に溶解した後、塩分計(LAQUAtwin B−721、堀場製作所社製)にて測定した。熱エタノール抽出により、同時に色素および臭気も低減することができた。この熱エタノール抽出液は粉末化・可溶化が可能であり、経口剤の原料として利用できる。
【0076】
【表3】
【0077】
試験例10−3:XOD阻害物質のNF濾過膜を用いた精製法
XOD阻害物質P1、P2は分子量225、209の物質である。その為適切な分画分子量の濾過膜を使用することで、XOD阻害物質を効率良く精製することにより、その濃度を高めることができた。
濾過膜としては、NF膜(ナノフィルター)(室町ケミカル製)4種を用いた。用いたNF膜は、NF膜1(NFX(分画分子量150−300))、NF膜2(NFW(分画分子量300−500))、NF膜3(NFG(分画分子量600−800))、NF膜4(NF270(分画分子量200−400))である。上記NF膜を用い、試験例1のブタ赤血球酵素分解産物をpH4に調整後透過した。
その結果、何れの膜においてもXOD阻害比活性を高めることができ、特にNF膜1で固形分を1%程度まで減らすことができ、XOD阻害比活性を58.7倍高めることができた(表4)。また、何れの膜を用いた場合でも色素・臭気について大幅に低減できた。
このNF濾過膜法により得られた液は粉末化・可溶化が可能であり、経口剤の原料として利用できる。
【0078】
【表4】
【0079】
試験例10−4:XOD阻害物質の合成吸着樹脂による精製法
赤血球酵素分解産物から合成吸着樹脂を用いてXOD阻害物質を効率良く精製することにより、その濃度を高めることができた。
合成吸着樹脂としては、合成吸着樹脂1(ダイアイオンHP20(スチレン−ジビニルベンゼン系、最頻度細孔径58nm))、合成吸着樹脂2(HP20SS(スチレン−ジビニルベンゼン系、最頻度細孔径58nm))、合成吸着樹脂3(SP850(スチレン−ジビニルベンゼン系、最頻度細孔径9nm))、合成吸着樹脂4(HP2MGL(脂肪族エステル系、最頻度細孔径48nm))(三菱化学製)を用いた。まず、試験例1の赤血球酵素分解産物の1/10量の樹脂をpH4に調整した試験例1の赤血球酵素分解産物に添加し、XOD阻害物質を吸着させた。この吸着後、樹脂を樹脂体積の10倍量以上の水で洗浄した後、樹脂体積の10倍量の0.01M 塩酸を含む40%エタノール溶液でXOD阻害物質を溶出した。溶出液を濃縮乾燥させてエタノールを除去した後、再溶解し、阻害活性を測定した。その結果、XOD阻害比活性を9〜14倍に高めることができた(表5)。
また、pH9以上の緩衝液を用いてもXOD阻害物質を溶出させることができた。溶出において上記40%エタノール溶液をトリス−塩酸緩衝液pH9とする以外は上記方法と同様に合成吸着樹脂を用いて精製した場合、XOD阻害比活性を13.6倍に高めることができた(表5)。
合成吸着樹脂を用いた精製法でも塩、色素および臭気を大幅に低減することができた。
合成吸着樹脂により精製された液は粉末化・可溶化が可能であり、経口剤の原料として利用できる。
【0080】
【表5】
【0081】
試験例11:有機合成によるXOD阻害物質の製造法
XOD阻害物質は上記の赤血球酵素分解産物やヘム等の生体有機物の反応物から得るだけでなく、有機合成することができた。
下記に示す合成スキーム(A)〜(F)にてXOD阻害物質P1を合成した。
(A)まず、モノエチルコハク酸(化合物1)7.3gのテトラヒドロフラン溶液にカルボニルジイミダゾール(CDI, 9.7g)を加え1時間撹拌後、塩化マグネシウム(4.8g)、モノエチルマロン酸カリウム(8.5g)を添加し60℃で1時間反応させ、ジエチル 3−オキソヘキサンジオネート(化合物2)を得た。(B)化合物2(52.25g)と酢酸(100mL)の混合物に亜硝酸ナトリウム(17.46g)の水溶液(70mL)を添加した後、ターシャリーブチルアセトアセテート(45.37g)と酢酸(100mL)の混合物と亜鉛末(50g)および酢酸アンモニウム(50g)を添加し50〜70℃で30分反応させ、4−ターシャリーブチル 2−エチル 3−(2−(エトキシカルボニル)エチル)−5−メチル−1H−ピロール−2,4−ジカルボキシレート(化合物3)を得た。(C)化合物3(10g)をN−メチルピロリドン(70mL)に添加し、4−トルエンスルホン酸(p-TSA, 10g)を加え、160℃で3時間反応させ、エチル 3−(2−(エトキシカルボニル)エチル)−5−メチル−1H−ピロール−2−カルボキシレート(化合物4)を得た。(D)化合物4(5.06g)にヨウ化水素酸(50mL)、無水酢酸(50mL)および次亜リン酸(10mL)の溶液にパラホルムアルデヒド(1.2g)を加え25分間反応させ、エチル 3−(2−(エトキシカルボニル)エチル)−4,5−ジメチル−1H−ピロール−2−カルボキシレート(化合物5)を得た。(E)化合物5(15g)のテトラヒドロフラン(536mL)、酢酸(135mL)および水(536mL)の溶液に硝酸セリウム(IV)アンモニウム (CAN, 120g)を加え、室温で2時間反応させ、エチル 3−(2−(エトキシカルボニル)エチル)−5−ホルミル−4−メチル−1H−ピロール−2−カルボキシレート(化合物6)を得た。(F)化合物6(3g)のTHF−HO (5:1) 115mL溶液に、水酸化リチウム・一水和物(1.78g)を加え、N2存在下、70℃で4時間反応させ合成XOD阻害物質P1 3−(2−カルボキシエチル)−5−ホルミル−4−メチル−1H−ピロール−2−カルボン酸を得た。
【化11】
XOD阻害物質P1の合成スキーム
【0082】
なお、有機合成で得られたP1(以下、合成P1ともいう)の構造をLC/MS 1200A(アジレント・テクノロジー社製)およびH−NMR Mercury Plus 400 MHz(バリアン社製)により確認した。LC/MS解析(ネガティブモード)においてP1の分子イオンm/z 224のシグナルが検出され(図8)、H−NMRにおいてP1構造に矛盾しないプロトンのシグナルが得られた(図9)。なお、H−NMRで用いた溶媒は重DMSOであった。以上より、合成P1はヘミン−過酸化水素由来P1と同一の構造を持つことが確認できた。
【0083】
試験例12:有機合成により得られたXOD阻害物質の阻害活性の測定
試験例11で得られた合成P1(純度95%以上)のXOD阻害活性を測定したところ、阻害活性曲線はヘミン−過酸化水素由来P1と同様の阻害活性挙動を示した(図4)。
合成P1のIC50値は1.56μg/mLでアロプリノールのIC50値42.8μg/mLに比べ約27倍の阻害活性を示した(表6)。
【0084】
【表6】
試験例13:有機合成により得られたXOD阻害物質のin vivo評価
合成P1の高尿酸血症モデルラットにおけるin vivo評価を行った。
具体的には、ラットにオキソン酸カリウムを腹腔内投与することにより、血中尿酸値を上昇させた高尿酸血症モデルラットを用いて血中尿酸の低下効果を試験した。試験では、5週齢の雄ラットに試験開始1時間前、開始1時間後、開始3時間後の3回、オキソン酸カリウムをラットの体重に対し250mg/kgになるように腹腔内投与した(オキソン酸カリウム群)。1回目のオキソン酸カリウム投与の1時間後に試料(合成P1)をラットの体重に対し10mg/kgになるように経口投与した(オキソン酸カリウム+合成P1群)。採血は合成P1投与後、0、0.5、1、2、3、4、6、8、24時間に尾静脈から行った。血清尿酸値は尿酸Cテストワコー(和光純薬工業製)を用いて測定した。オキソン酸カリウム+合成P1群の結果を図10図11に示す。データは、平均±標準誤差の値である。
その結果、オキソン酸カリウム群は未処理のコントロール群に比べ血中への尿酸の蓄積が認められるが、オキソン酸カリウム+合成P1群は、投与後0.5時間で顕著に血清尿酸値が低下し、投与後4時間までは尿酸の蓄積が殆どなく、投与後8時間までその効果が持続していた(図10)。各測定時間の血清尿酸値について、オキソン酸カリウム+合成P1群は、投与後0.5〜8時間において、オキソン酸カリウム群に比べ有意(投与後1、4、6、8時間:<0.01、投与後0.5、2、3時間:<0.05)に血中への尿酸の蓄積を抑制していることが認められた(図10)。この試験における合成P1投与後6時間までの血清尿酸値についてAUC(曲線下面積)を比較した(図11)。オキソン酸カリウム群はコントロール群に比べ有意(<0.01)に尿酸の蓄積が確認できるが、オキソン酸カリウム+合成P1群は顕著に(<0.01)尿酸の蓄積を抑制していることが認められた(図11)。
これらの結果より、XOD阻害物質P1は経口投与によって消化管を介しても、生体内において高い効果が得られることが認められた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図6-4】
図7
図8
図9
図10
図11